オリジナルビーダマン物語 第87話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第87話「極寒の耐久レース!世界へのラストチャンス!!」




 南極予選宿舎。
 一回戦を勝ち抜いたシュウとタケルは明日の決勝戦に向けて同じ部屋で休息を取っていた。
(ヒンメル……あいつは一体なんなんだ……?)
 コタツに入りながら、シュウは今までの事を、ヒンメルの事を考えていた。
 不吉な都市伝説。ルドルフの特訓。アラストールの憎しみ……。
 シュウのリベンジ目標以上に大きな話が多すぎる。
(ずっと、ヒンメルを目指してきたけど。俺、あいつの事何も知らないんだよなぁ……)
 さまざまな謎を抱えながらも、それでも純粋な気持ちだけでここまで来た。
 でも、本気でヒンメルと向き合う時が来れば、それも無視できなくなるかもしれない。
 もしかしたら、自分はビーダーとして踏み越えてはいけない一線を越えようとしているのではないか……。
(ええいやめやめ!あいつがなんだって、この大会で戦って勝ちたい相手だって事に代わりは無いんだ!どんな事情や過去があったって関係ねぇ!)
 シュウは首を振ってブレイグを取り出した。
「とにかく、決勝に向けてブレイグのメンテをしなきゃな」
「ああ。やっぱり消耗が激しいな。ボールドレックスに改造してなきゃ、どうなってたか……」
「俺のブレイグも結構ダメージが大きい。こんな時にあやねぇがいてくれたらなぁ」
 シュウがぼやく。
「今まで頼り過ぎてたんだ。少しは俺達だけの力で戦わないとな」
「まぁな……」
 シュウとタケルはそれから黙々と機体のメンテに集中した。
 
 そして、翌日。
 決勝が行われるのは、屋内ドームではなく、屋外ステージだった。
 そしてその会場には、一回戦を勝ち抜いた五人が集まっていた。
「うぅ、サブッ……!なんだって暖房の効いたドームでやらないんだよぉ!」
 シュウが体を震わせながらぼやく。
「知るか……!運営も何か考えがあるんだろ。それに、バトルが始まれば体も暖まる」
「ま、まぁ、そりゃそうだけど……」
 そうこうしているうちに、ビーダマスターのアナウンスが響いた。
 
『さぁ、南極の氷を溶かしてしまうほどの白熱した今大会もいよいよ今日が決勝戦だ!!
予選ヒート、一回戦とを勝ち抜いた計5人のビーダー達で一斉に戦ってもらい、上位2名が世界選手権本戦へ出場できるぞ!!』
 歓声が上がる。
「5人で一気にって、バトルロイヤルでもするのかな?」
 シュウが首をかしげた。
「いや、レース方式の可能性もある。その方が上位2人を決めやすいからな」
 タケルが言うと、シュウも納得した。
「なるほど、確かに」
『それでは決勝を戦うルールを説明しよう!ステージ、オン!!』
 ビーダマスタージンが合図をすると、五人の前に五つの競技台とその奥にドデカいカキ氷機と氷が出現した。
 競技台の上にはトルネードターゲットのようなフィンが設置されている。
『今回のバトルは【トルネードエンデュランス・カキ氷製作バージョン】だ!
競技台の上に設置されたフィンを、ショットで回転させると、それに連動してカキ氷機が作動し、氷を削っていき、カキ氷を作っていく!
制限時間2時間以内に、より多くの氷を削ったビーダーの勝利だ!!』 
 競技説明を聞いたシュウ達は、いろんな意味で驚いた。
「まさか、ビーダマンでカキ氷を作る事になるとは……!」
「さっすが南極だぜ!」
「しかし、2時間フィンを回転させ続けるとなると、かなりの長丁場だな。ペース配分が重要だ」
「パワー重視の俺やタケルじゃ、ちょっと不利かもしれねぇな」
「なに、パワー型ならパワー型でやりようはある。ようはペースを乱さなければいい」
 
『そんじゃ、今回の決勝を戦う5人を紹介するぞ!
まずは、日本代表の二名!守野タケル君と竜崎修司君だ!アジア予選では惜しくも敗れてしまった二人だが、復活を賭けてここまで勝ち残った!
そして、イタリア代表のロマーノ君!ヨーロッパ予選では、ベルセルク君相手に敗退してしまったが、ラテンのリズムで情熱的に戦うぞ!
次は、ドイツ代表!ラインハルト君!ドイツのヒーローはヒンメル君だけじゃない!彼もまた、国の誇りを賭けて熱いバトルを魅せてくれるぞ!
最後は、ロシア代表!プーチン君!なんと、彼もヨーロッパ予選からの参加者だ!この極寒の地は彼の故郷ロシアに近い!そのアドバンテージを最大限に生かしてくれるのか!?
以上の5名で最後の世界戦出場権を争ってもらうぞ!!アツいバトルを見せてくれよなぁ!!』
 選手たちが互いの顔を認識し合い、密かに闘志を燃やす。
「へへっ、やってやるぜ!」
「ああ!ここまで来たんだ。二人そろって決勝に行くぞ!」
 シュウとタケルが気合いを入れていると、上半身裸のプロレスラーのような風貌の男、プーチンがわめいてきた。
「うがぁぁ!!優勝は俺のものだぁぁぁ!!」
「うわわ!」
 シュウは吃驚した。
「この気温でその恰好……さすがはロシア人って所か」
 そういう問題なんだろうか。
 しかし、プーチンの顔は赤く上気しており、格好の割にはむしろ暑そうだ。
「こいつは強敵だぞ」
「へんっ!気合いなら俺だって負けねぇぜ!うおおおおおお!!!!」
 シュウも暑苦しく叫ぶ。
「気合入れるのはバトルが始まってからにしろ……」
 タケルはそんなシュウに呆れてしまった。
 
「ふん、落ち着きのない奴らだ」
 その様子を見ていた、武骨な男ラインハルトは侮蔑するような視線を送っていた。
「あいつら楽しそうだなぁ。でも、女の子がいないから、ちょっとヤル気出ないぜ~」
 ロマーノは相変わらずの軽いノリだ。
『さぁ、皆準備は良いかな?そろそろステージへ着いてくれ!』
 ビーダマスタージンに促され、五人はそれぞれの位置についた。
 
『そんじゃ、おっぱじめるぜ!南極予選決勝!レディ、ビー・ファイトォ!!』
 ビーダマスタージンの合図とともに一斉にビー玉が放たれた。
 カキンッ!!
 フィンの端にビー玉が辺り、フィンが回転する。
 それに連動し、氷が削られてカキ氷が作られ出した。
 
『さぁ、ついにはじまった決勝戦!しかし、今までのバトルとは打って変わって、静かなスタートだ!
互いに様子を見ているのか?それとも、この長き戦いを考慮して力を温存しているのか!?』
 
「そりゃ、2時間もこんな極寒の中撃ち続けるんだ。体力の消耗は半端じゃないからな。シュウ!まだ飛ばすなよ!!」
 タケルはシュウへ念を押した。
「わ、分かってるって!俺だって、そこまでバカじゃねぇよ」
 シュウはバツが悪そうに返事をした。
 今までの行いから、心配されても仕方がない。
 
 バシュッ!バシュッ!!
「ちぇ、こんな地味な競技は趣味じゃないぜ」
 ロマーノはつまらなそうにしながらも、他の皆と同じくペースを守っている。
「……祖国の名誉のためにも、負けられん」
 ラインハルトは、表情を崩さずに落ち着いてペースを守っている。
「うがぁぁぁぁ!!!氷よ削れろぉぉぉぉ!!」
 騒がしく気合いを入れているプーチンだが、それに反してペースはしっかりと守っていた。
 
『反応はそれぞれ違いますが、戦略にはほとんど差がない。序盤はペースを抑え、体力を温存する作戦のようです!
ここから、どう差が出てくるか、楽しみな所だ!』
 
 カンッ!カンッ!カンッ!!
 20分も経ってくると、少しずつ体力の消耗を自覚してくる。
 そして、それにともなってビーダー達の差が出てくる。
 
「はぁ、はぁ、くっ!結構キツイぜ!」
「そうだな。さすがにここまで寒い場所での耐久レースは経験が無いからな」
 シュウもタケルも、少し息が切れてきた。
 
「……」
 ラインハルトはスタートから全く変わらずに撃ち続けている。
 まるで機械のような男だ。
「ふぁ~あ、まだ20分しか経ってないのか」
「ぐわっはっはっは!まだまだ元気だぁぁ!!」
 ロマーノとプーチンも全然バテていない。
『ペースは未だほぼ横並び!しかし、心なしか日本代表の二人の表情が苦しそうだ。大丈夫か?』
 
「へっ、どうって事ないぜ!」
「あぁ!まだまだ始まったばかりだ!」
 
 そして、40分経過。
『さぁ、40分が経過しましたが、そろそろ選手たちに疲れが見えてきたか?その中でも顕著なのが、日本代表の二人だ!』
 
「くっ……!」
「きついな、これは……」
 シュウとタケルは、あからさまに息を切らしていた。
「もう少しペースを落とすか?」
「いや、ここでペースを落としたら、後半でスパートをかけづらくなる。気力で乗り切るしかない!」
「おう!」
 とはいえ、シュウとタケルは徐々に皆から遅れだしている。
 
 1時間経過。
『いよいよレースも折り返し地点に到達!現在のトップは、なんと!プーチン君が頭一つ前に出ている!!さすがは極寒に慣れたロシア出身と言った所か!?
続くのは、ロマーノ君とラインハルト君!ほぼ横並びだ!そして日本代表の二人は、やや遅れているか?!それでも、必死に食らいついている!』
 
「ぐわっはっはっは!!もうチマチマしてられるか!あと一時間飛ばすぞ!!」
 ズドドドド!!!
 プーチンがペースを上げて、フィンを回転させ始めた。
 ほかを引き離していく。
 
「一位はさすがに届かないが。この二位争いは必ず勝つ」
 ラインハルトは冷静沈着なまま、ロマーノをライバル視している。
「ちぇ、いつまでもこんなんじゃ面白みがないぜ。見てろよ……!」
 ターン!ターン!
 と、ロマーノがステップを踏み始める。
 
『なんだ?ロマーノ君がステップを踏み始めた!と、同時にペースアップ!プーチン君程ではないが、ラインハルト君を引き離して二位に浮上!このまま決まってしまうか!?』
 
「いぇーい!やっぱりバトルはこうじゃなくっちゃぁな!」
 ロマーノはステップを踏みながら、更にスピードを上げている。
「ペースを上げるにはまだ早い。最後に笑うのは俺だ」
 ラインハルトは、引き離していくロマーノを見ても全く同様していない。
「ロマーノの奴、なんであんな激しく動いてんだ?体力が持たないだろ?」
 シュウがロマーノを見ながら言う。、
「多分、ラテンのリズムでステップを踏む事で、自分にとって一番楽なリズムで撃つ事が出来るんだろう。だからスピードアップできたんだ」
「って事は、疲れるどこか、アレがあいつのベストって事か!」
「だろうな。だが、それに俺達がつられても意味がない。今はペースを守るんだ!」
「わ、分かってるけど……!」
 シュウの顔にはどこか焦りが浮かんでいた。
 そして、一時間半経過。
『さぁ、ラスト30分!まだまだ先は長いが、そろそろ終盤戦に突入するぞ!
依然トップはプーチン君!ブッちぎりだ!もはや彼の牙城を崩すのは難しいだろう、問題は二位争いだ!!』
 
「いぇーい!いっけぇ!!」
『2位はロマーノ君が続いている!トップには届かないが、かなり良いペースだ』
「……」
『3位はラインハルト君!やや遅れているものの、堅実なプレイで3位をマーク!2位へは十分射程圏内だぞ!』
 
「くそっ!頑張れブレイグ!」
「焦るな、シュウ!」
『4位はシュウ君、5位はタケル君!大丈夫か!?3位からは結構離されている!そろそろ挽回しないと2位争いには入れないぞ!?』
 
「わ、分かってるけどよぉ……!」
「くっ!ロシアだけじゃない。ヨーロッパは元々、アジアよりも北に位置して湿気が少ない。
ドイツやイタリヤも俺達より寒冷気候に慣れてるんだ!」
「それが、この差かよ……ちくしょう!」
「むろんそれだけじゃない。ビーダーとしての腕も一級品だ。くっ、なんとか打開策を見つけないと、俺達二人とも敵わないぞ……!」
 
『しかし、1時間半経過して分かるのは、単純にビー玉を撃ち続けるだけの競技なのに、それぞれの特性が顕著に表れている所だ!
3位のラインハルト君は、ドイツ人らしい質実剛健!堅実なプレイであくまで自分のペースを保っている!
2位のロマーノ君は、情熱的なイタリア人らしい、ラテンのリズムで陽気にプレイ!
1位のプーチン君は、さすがはロシア出身!極寒のこの地をものともしない勢いでトップを独走!!
だが、比較的温暖なアジアに住むシュウ君とタケル君に、この環境は辛かったのか、後れを喫している!!』
 
(なんとかしなければ、二人とも脱落だ……!)
 タケルは必死に頭を回転させて打開策を探してる。
(手が無いわけじゃない。だが……!)
「ちくしょう……!このまま終われるかよ……!」
 シュウの悲痛な叫びが響く。
(そうだ。終わるわけにはいかない。そのためにも、覚悟を決めるんだ!)
 タケルはキッと顔を上げてシュウを見た。
「シュウ、よく聞け」
「え?」
「俺達二人が勝ち残るのは、もう無理だ!」
 タケルがそう言うと、シュウは食って掛かった。
「なっ!なんだよ!諦めるってのかよ!!」
「そうじゃない!たった一つだけ手がある。俺はもう覚悟を決めた」
 タケルは一人で話を進める。
「なんだよ、何が言いたいんだ」
「シュウ、これを付けろ」
 タケルはシュウへ小さな物体を渡した。
「なんだ、これ……耳栓?」
「いいか、これから先何があっても自分のペースを守れ。とにかく最後までビー玉を撃ち続けるんだ。そうすれば必ず勝てる!」
「な、なに、言って……タケル、お前、何する気だよ……!?」
 シュウはタケルがしようとしている事になんとなく気づき、動揺した。
「良いから耳栓付けろ!ヒンメルに勝ちんだろ!?」
「っ!」
 その言葉を聴き、シュウは覚悟を決めた。
「……分かった」
 耳栓を付ける。周囲の音が消え、シュウは静寂の世界に包まれた。
(ペースを守って、最後までビー玉を撃ち続ける。それが今の俺に出来る事だ!)
 タケルに言われた通り、シュウはさっきまでと変わらぬペースで撃ち続けた。
 
「すぅ……」
 タケルはそっと深呼吸する。
「さぁ、いくぞ。ボールドレックス」
 静かにレックスに声をかけ、そして指に力を込めた。
「はあああああああああ!!!!!!」
 ズバババババババババ!!!!
 そして、耐久レースとは思えないほどのスピードでパワーショットを連射した。
『な、なんだぁ?!タケル君が急激にペースアップ!しかし、残り時間は残り25分!ラストスパートにはまだまだ早いぞ!?』
 
 ズババババババババババババ!!!!!
 タケルのショットでどんどん氷が削られていく。
『タケル君のペースは更に上がっていく!!そのスピードはプーチン君のペースをはるかに上回っているぞ!!』
「ぐわっはっは!!やるなぁ、あいつ!!だが、俺には追いつけんぞ!!!」
 差は縮まっているものの、今のタケルのペースでは終了時間までにプーチンに追いつくことは不可能だろう。
 いや、それどころか。
「なんだぁ、あいつ?こんな所でスパートかけたら、試合終了までにバテちまうぞ?」
「勝負を投げて自棄になったか?」
 ロマーノとラインハルトは、タケルの意図が掴めなかった。
「まっ、自滅してくれるんだったらありがたい!俺の敵じゃないが、ライバルは少ないに限りからな!」
「誰が何をしてこようと、俺は俺のペースを守るのみ」
 二人は、タケルの事は無視して撃ち続けた。
 しかし、それが仇となるとも知らずに。
 
 ズババババババ!!!!
『タケル君のスパートは止まらない!ついに、3位のラインハルト君を射程圏内に捉えて……抜いたぁ!!そしてロマーノ君に迫るぞ!!』
「うおおおお!!!」
「っ!」
 この時、ロマーノは得体のしれない感覚に襲われた。
『タケル君の猛追!ついに、2位のロマーノ君を僅差で捉えた!』
「くっ!」
 ロマーノは一瞬顔をゆがませた。
(お、落ち着け……あんなペースが最後まで持つはずがない。ここで抜かれたって、すぐに奴はバテるはず。気にするな……!気にするな……!)
 だが、知らず知らずのうちにロマーノのペースが上がっている。
 それは、陸上競技で前を走っている選手が感じる『ビハインドプレッシャー』と言う奴だったが、ロマーノはそれに気づかなかった。
 
「うおおおおおおお!!!!」
 ズババババババ!!!
 タケルはとにかくがむしゃらに撃ち続けている。
「……」
 ラインハルトは、お構いなしに自分のペースを守っている。
「うおおおおおお!!!!!」
 ズババババババ!!!!!!
(ちっ、騒がしい奴だ)
 タケルの発する乱暴な発射音に不快感を示しながらも、それでも平静を保っている……つもりだった。
 ズバババババババババ!!!!
(ボールドレックスにパワーアップしておいて良かった。このペースで撃ち続けていても、ビクともしない!)
 それもこれもボールドレックスの性能の賜物だろう。
(もう少しだ。もう少しで俺の策が完了する!耐えてくれ、ボールドレックス!!)
 タケルはボールドレックスに願いながら、力を振り絞って撃ち続けた。
『おおっと、タケル君の急激なペース変化も凄いが、心なしかロマーノ君とラインハルト君のペースも上がってきている気がするぞ?
まだまだ先は長い、このままで最後まで持つのか?』
「なにっ!?」
「っ!」
 ビーダマスタージンに言われ、ロマーノとラインハルトはハッとした。
 ロマーノとラインハルトは知らず知らず、タケルとほぼ同ペースでビー玉を撃っていた。
「くっ!」
「ちぃ!!」
 慌てて元のペースに戻そうとする二人だが、もう遅い。
 猛スピードでビー玉を撃ち続けた代償は既に体と機体に刻まれている。
「くそっ……身体言う事聞かない!」
「機体の負荷が……!これ以上はまともに撃てない……!」
 ロマーノとラインハルトは、身体と機体に大幅な疲労を抱えてしまい、急速にペースダウンせざるを得なかった。
 それを確認したタケルは、安心したようにフッと笑い、撃つのをやめた。
「よし……かかった……!」
 そう言って、ドサッと仰向けに倒れた。
「ま、まさかお前!」
「俺達のペースを乱すために……!」
 倒れたタケルへ、ロマーノとラインハルトは焦りながら言葉を浴びせた。
「へへっ、これが耐久バトルって奴だ……!あとは、お前次第だシュウ!」
 タケルは、シュウに全てを託して、そのまま休息した。
 
『やはりあのペースアップには無理があったのか、タケル君は撃つのをやめて倒れてしまったぁ!!
それと同時に、ロマーノ君とラインハルト君も急激にペースダウン!!そこへ追い上げるのはシュウ君だ!!』
「いくぜ、ブレイグ!タケルが作ってくれたチャンスをものにするんだ!!」
 シュウは耳栓をしていたおかげでタケルにペースを乱されることは無かった。
 堅実に氷を削っていく。
 
『差は大きいが、着実に追い上げている!残り時間は10分!このペースなら、十分に追いつけるぞ!!』
 
「くそっ!抜かれてたまるかっ!!」
「ぐっ!」
 ロマーノとラインハルトも必死でビー玉を撃つが、もうシュウを引き離すパワーは無い。
 
 ガキンッ!ガキンッ!!!
 どんどんシュウとロマーノとの差が縮まっていく。
『さぁ、残り時間は1分!ラストスパートだぁぁ!!!』
「よっしゃあ!全力で行くぜブレイグ!!!」
 ズバアアアアアアアアアン!!!!!
 シュウはホールドパーツを思いっきりシメつけて、パワーショットをどんどん放った。
「うおおおおおお!!!!」
『シュウ君、俄然ペースアップ!!ラインハルト君に並んだ!!残り、あと30秒!!』
 
「ぬ、抜かれるかっ!!」
 虫の息で抜かせまいとビー玉を撃つロマーノだが、シュウの勢いには敵わない。
「いっけぇぇぇぇ!!!!!」
 
 ズガアアアアアアアアアアン!!!!
 シュウの渾身のパワーショットがフィンを強烈に回転させた。
 
『終了~!!!選手の皆は、ビー玉を撃つのをやめてくれ!!』
 ビーダマスタージンの合図とともに、一斉に発射音が止んだ。
「はぁ、はぁ……!」
 選手一同、肩で息をしながら呼吸を整えている。
 
『それでは、記録の発表だ!一位は、78㎏の氷を削り出したプーチン君!ブッちぎりだ!!』
「ぐぉぉぉぉぉ!!!おっしゃあああああ!!!!」
 プーチンが獣のような勝利の雄叫びをあげる。
 
『そして二位は……三位とはわずか1㎏差!58㎏の氷を削り出した、シュウ君だ!!!』
「や、やった……!」
 シュウは疲れきった体で、ヨロヨロしながらも顔を綻ばせた。
『以上の二名は、南極大陸代表として世界選手権本戦リーグへの出場資格を得られるぞ!おめでとう!プーチン君!シュウ君!!』
 ワアアアアア!と歓声が沸き上がり、拍手が巻き起こる。
 
「へ、へへへ……戦えるんだな、俺……ヒンメルと……!」
 シュウは、まるで夢に浮かされているのではないかと言う気分で勝利を噛みしめる。
「や、やったな、シュウ」
 足元で声がした。
 タケルが、ゆっくりと立ち上がりながらシュウへ話しかけた。
「タケル!」
 シュウは慌ててタケルに肩を貸す。
「すまねぇ、タケル!俺のせいで……」
「何言ってんだ。元々このレースでは俺の方がお前に負けていた。チームとして、順位が低い方を切り捨てるのは当然だ」
「だ、だけど……」
 結果的にタケルを踏み台にして手にした勝利に、シュウは少しだけ戸惑いを見せた。
「俺が勝手にやった事だ。俺の目的のためにな。お前のためだけじゃない」
「え……?」
「俺は仲良しファイトクラブを世界一のチームへ導く。最初からそれが目的だ。そのためだったら、俺はなんだってする。自分を切り捨てたって構わない!
まぁ、理想としては俺が世界一になりたかった所だが、あくまで理想は理想だからな」
 タケルは潔く、フッと笑った。
「タケル……」
「だからお前も、自分の目標のためだったら躊躇うな。イザって時は、迷わず行動しろ!」
 肩を借りながらも、タケルは強い意志でシュウへ言葉を伝えた。
 それを受け止めたシュウは、大きく強く頷いた。
「分かったぜ。俺は何が何でもヒンメルに勝つ!そして、世界一のビーダーになるんだ!!」
 
 
 
 
       つづく
 
 次回予告
「ついに!ついにここまでたどり着いたぜ!!!
ビーダマンワールドチャンピオンシップ本戦リーグ!!ここからが本当の戦いだぜ!!!
 
 次回!『本戦リーグスタート!』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」
 

 

 



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