オリジナルビーダマン物語 第82話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第82話「勝利への挑戦者」



 ヨーロッパ予選の見学を終えて帰国したシュウ達。
 その翌日の放課後。
 南極予選まであと一週間を切り、学校が終わるなりクラブに集まって練習に励んでいた。
 
「いっくぜ、タケル!絶対に南極予選突破して、本戦に出場するんだ!!」
「あ、あぁ……!」
 シュウとタケルがメテオボンバーで練習試合をしている。
「うおおおおお!!!」
 カンッ!カンッ!!
 シュウの猛攻によって、パックはあっさりとゴールしてしまった。
「おっし、俺の勝ち!」
「……ふぅ」
 ガッツポーズを決めるシュウに対し、タケルはどこか集中していない。
「どうしたんだよ、タケル。なんか気合い入ってないぜ」
 バトルが終わり、シュウがタケルに話しかけた時。
 バシュッ!
 と別の台のバトルが終わった音がした。
 ヒロトと琴音の練習試合だった。
 ブレイクボンバーをやっていたようだが、ヒロトが赤ボム5個全て琴音の陣地に撃ち込むと言うワンサイドゲームになっていた。
「琴音、何を腑抜けている!上の空でやっていたら練習にならないぞ!」
 ヒロトが厳しく叱責する。
「ご、ごめん、ヒロ兄……」
 それを見たシュウが琴音達にも話し掛けた。
「なんだよ、ことねぇも気合い入ってないじゃん。タケルといい、一体どうしちまったんだよ」
 ガッシャーーーン!!!
 いきなり、奥の倉庫から何かが落ちて崩れたものすごい音が聞こえてきた。
「なんだぁ!?」
 シュウ達はビックリして倉庫へ向かった。
 
 倉庫では、在庫が散らばり、埃が舞っていた。
 そして、その場にいたリカと彩音が咽ている。
「ゴホッ、ゴホッ!もう、彩音先輩、何やってるんですかぁ……!」
 涙目で咳込みながら、リカは彩音を責めている。
「ケホッ、ケホッ、ご、ごめんね……」
 彩音も咳込みながらリカに謝る。
「ど、どうしたんだ、これ……?」
 シュウは目の前の惨状を見ながら聞いた。
「シュウ先輩~、彩音先輩が……」
「ちょっと、在庫整理中に手を滑らせちゃって……」
 彩音がバツが悪そうに説明した。
「もう、彩音先輩。ボーッとしすぎですよ。一体どうしたんですか、今日は?」
 リカが珍しく彩音にお小言を言っている。
「はぁ、あやねぇもか……」
 それを見て、シュウはため息をついた。
「え?」
 とりあえず、皆で協力して倉庫を掃除し、練習場に戻った。
「どうしたんだよ、タケルにことねぇにあやねぇまで……。なんかヨーロッパ予選観てからボーッとしてるぜ!もうすぐ南極予選だってのに、気合い入れねぇと!」
 シュウが三人に喝を入れようとするが、三人は気の抜けた表情のまま口を開いた。
「気合いを入れろって、言われても、ねぇ……」
「うん……」
「正直、あの力を目の当たりにしちゃな……」
 三人は言い訳じみた口調で話すので、要領を得ない。
「???」
 シュウが理解できずに首をかしげていると。
「むしろ、シュウはなんで平気でいられるのよ」
「え、なにが?」
 逆に琴音に聞かれてしまい、シュウは面食らった。
「お前も見ただろ、デオスミカエルの分析結果」
 タケルが言う。
「圧倒的だった……」
「世界へ上がっても、あんな化け物みたいなビーダマンが相手じゃな……」
「なんだよ!タケルらしくねぇ!元々ヒンメルは化け物みたいな奴じゃねぇか!それでも俺は勝つんだよ!タケルだって、『今勝てなくても勝てるようになればいい』って言ってたじゃねぇか!」
 気落ちしているタケル達に、シュウは怒りにも似た感情で捲し立てた。
「エンゲルミハルデンだった頃は、まだ人間味があったがな」
「デオスミカエルは……」
 どうやらヒンメルがどうこうよりもデオスミカエルが問題らしい。
「エンゲルミハルデンがデオスミカエルになったからって、どう違うってんだよ!確かにちょっと強くなった気はするけど!」
「どうって、お前……」
「お姉ちゃんの分析結果、見たでしょ?」
 その言葉に、シュウはギクッとして目をそらした。
「あ、ぁあ、み、見たぜ!すげぇ結果だったよな~!いやぁ、驚いた!でも、それがなんだってんだ!!」
 急にぎこちなくなったシュウに、タケル達は疑いの眼差しを送った。
「ば、ばっちり見たけど!そんなデータがなんだってんだ!すっげぇ、すげぇと思ったけど、どうって事ないぜ!」
 シュウはワザとらしく口調を荒げる。
「竜崎は、彩音の分析結果を理解できてない。それがお前達との違いだ」
 何時の間に近くにいたのか、ヒロトが口を挟んだ。
「ヒロトさん……」
「俺もあの結果は見たが、なまじ腕の立つビーダーだからこそ分かる。『どうしようもないと言う無力感』お前達はそれに囚われている」
 ヒロトはバカにするような目でシュウを見た。
「こいつは分析結果を見ても理解してないから能天気でいられるんだろう。全く、おめでたい奴だ」
「なっ!バカにしてんのかよ!!」
 ヒロトの言葉にシュウは声を荒げた。
「いや、逆だ。むしろ尊敬できるくらいだな」
「え、そなの?いやぁ、あっはっは」
 褒められたのでシュウは照れてみた。
「何もできなくなる奴より、何も分からないバカの方が幾分マシだ」
「って、やっぱバカにしてんじゃねぇか!!」
 怒るシュウは置いておいて、タケルはヒロトに尋ねた。
「ヒロトさんは、平気なんですか……?」
 さっきまでのヒロトの口調から、ヒロトも彩音の分析結果を見て理解しているのだろう。そして圧倒的な力への恐怖と無力感に襲われたはずなのだが……。
「俺は、勝つためにバトルをしているんじゃない。いずれ最強になるためにバトルをしているんだ。そのためだったら、相手がどんなに強かろうが、無様に負けようが、俺が最強に近づける糧となるなら構わない」
 ヒロトにとって重要なのは『自分を強くしてくれる相手なのかどうか』であって『自分が勝てる相手なのか』と言う事には最初から興味が無いのだ。
 だから、デオスミカエルの圧倒的な力を理解しても、興味が無いから普段通りにしていられる。
「お前達はなんのためにビーダマンをしているんだ?無力感から逃れたかったら、初心に戻れ。それしかない」
「ヒロトさん……」
 それだけ言うと、ヒロトはシュウの方へ向いた。
「竜崎、練習の相手になれ。こんな腑抜けどもじゃ、話にならんからな」
「おっ、いいねぇ!やろうぜ、ヒロト!」
「お前に呼び捨てにされる筋合いはない」
 言い合いながら、ヒロトとシュウは練習台へと向かった。
 
「ルールはパワープッシュだ。いいな?」
「おう!」
 パワープッシュの台でヒロトとシュウがバトルを始める。
「「ビー・ファイトォ!!」」
 ガキンッ!ガキンッ!!
 中央のバーに向かって二人が乱射する。
「うおおおおお!!!」
 シュウがパワーで一気に押し込むのだが、ヒロトはそれを連射でガードしつつ他のバーも狙う。
「げぇ!」
 自分が狙っているバー以外が押し込まれていることに気付いたシュウは慌てて狙いを変えた。
「遅いっ!」
 が、その瞬間にヒロトは別のバーを狙う。
 完全にシュウを翻弄している。
「くっそー!!」
「反応速度を極めないと。パワーも活かせないぞ!」
「負けてたまるかよぉぉ!!」
 ドーーーン!!
 思いっきりシメ撃ちをして、一本バーを押し込んだ。
「どうだぁ!」
「ほぅ。だが!!」
 ズバババババ!!
 ヒロトも連射でバーを一本押し込んだ。
「うわっ!」
「油断禁物だ」
「へ、へへ……おもしれぇ!!」
 
 シュウとヒロトがバトルしている姿を、タケル達は思案した。
 
(初心に戻る……俺は、何でビーダマンをしている……仲良しファイトクラブを世界一のクラブにするため……いや、それは今の目標だ。もっと初めは……)
 
 タケルは、仲良しファイトクラブに入ったばかりの頃を思い出していた。
 その頃からタケルの実力は高く、ゆうじやヒロトにはまだ敵わないものの、他のメンバーには快勝するくらいの力を持っていた。
 
 数年前の仲良しファイトクラブ。
 幼き日のタケルが、同級生とバトルホッケーをしていた。
「いっけぇ!」
「負けるかぁ!!」
 バシュッ!ガシッ!!
 カーーーン!!!
 ホッケーのパックが相手側の陣地に入る。
「やった!」
「くっそぉ、入ったばかりの癖にタケルつえぇ……!」
 ガッツポーズを取りながら喜ぶタケルにゆうじが話しかけてきた。
「凄いなタケル!お前才能あるぞ!」
「あ、そ、そうですか?えへへ……」
 憧れのゆうじに褒められて、タケルは赤面した。
「そうだ!ちょっと僕と練習試合しないか?」
「え、ゆうじさんと、ですか……」
 タケルは遠慮と謙遜の混じった声を出した。
「あぁ。お前の実力を直に感じたいんだ!だったら、実際にバトルするのが一番だろ!」
「で、でも……」
「いいからいいから、やろうぜ!」
 ゆうじは半ば強引にタケルをバトル台へ着かせた。
 フィールドを挟んで対峙する。
「ルールはバトルホッケーだ。準備は良いな?」
「は、はい!」
「じゃ、始めるぞ!レディ、ビー・ファイトォ!」
 バシュッ!バシュッ!!
 二人は一進一退の接戦を繰り広げた。
「よし、チャンスだ!」
 ゆうじがリロードをしている間に、タケルは一気にパックを押し込んだ。
 しかし、その途中でショットを外してしまった。
「あぁ!」
「惜しかったな!でも、これで終わりだ!いくぞ、マッハジャターユ!!!」
 マッハスパルナの前の機体『マッハジャターユ』によるパワーショットでゆうじはパックを一気にタケル側へ押し込んだ。
 
「あぁ、負けちゃった……ゆうじさんは、さすがです!」
 タケルは少し悔しげにしながらも、羨望の眼差しをゆうじに向けた。
 しかしゆうじは、少し怒ったような表情でタケルを見ていた。
「タケル。お前は強いよ、筋はいい。だけど、なんていうのかな……真面目すぎるんだ」
「え?」
「バトルスタイルもキレイに纏まり過ぎてるし。今のバトルも、僕がクラブのリーダーだからって一瞬遠慮が入っていた。それと、『勝てるわけがない』って言う諦めも感じたかな」
「……」
 図星だったのか、タケルは口を噤んだ。
 そんなタケルへ、ゆうじは笑顔を見せた。
「いろんな事気にしなくていいんだよ!バトルしている間は、皆同じ立場のビーダーだ!目上も目下も、実力だって関係ない!強くても弱くても、バトルしている間は、誰しもが勝つ可能性のある対等の立場なんだ!」
「今のバトル、俺でもゆうじさんに勝てたって事ですか?」
 タケルが恐る恐る尋ねると、ゆうじは大きく頷いた。
「当然だ!ビーダーは皆、バトルしている間は勝利への挑戦者なんだ!挑戦者に遠慮も諦めもいらない!そんなのは全部捨てて、堂々とチャレンジしろ!タケル!!」
 ……。
 ………。
(勝利への挑戦者……)
 タケルは、過去にゆうじに言われたことを思い出した。
(そうか。俺が、ビーダマンをしているのは、チャレンジなんだ!チャレンジャーに、実力も立場も関係ない……!)
 タケルは隣にいる琴音と彩音に話し掛けた。
「琴音、彩音さん。俺は……俺とシュウは、必ず仲良しファイトクラブを世界の頂点へ導く!それが俺のチャレンジなんだ!!」
「タケル?」
「タケル君……?」
 彩音と琴音が怪訝な顔でタケルを見る。
「そのためにも、クラブにいる皆の力が必要だ!琴音、俺の練習相手になってくれ!彩音さんは機体のメンテを完璧に!」
 タケルの目に精彩が戻っていた。
 芯の通った言葉を聞き、琴音と彩音の表情も精悍になる。
「うん、分かったわ」
「しょうがないわね。相手になるよ、タケル」
 
 ズババババ!
 シュウとヒロトのバトルは更に激しさを増している。
「負けるかっブレイグ!!」
「リロードが遅い!!」
 シュウがリロードしている間に、ヒロトはまた一本バーを押し込んだ。
「うわっ!」
「連射力が低いビーダマンでも、リロード速度はビーダーの力でカバーできる。得意分野だけに収まるな!」
「わ、わかってるって!」
 シュウは素早くリロードして反撃に転じる。
「うおおおおおおお!!!押し込めぇぇぇ!!」
「甘い!はぁぁぁぁぁ!!!!」
 ヒロトも連射で対抗。ビクトリーブレイグのパワーに連射力だけで互角に渡り合えている。
「くっそぉ、ヒロト強ぇなぁ……!」
「呼び捨てにされる筋合いはない!」
 そんなバトルをしている横で、タケルと琴音の声が聞こえてきた。
 
「「ビー・ファイトォ!!」」
「え?」
 横目で見ると、タケルと琴音がバトルホッケーで練習をしていた。
「タケル、ことねぇ……」
 その横では彩音がバトルのデータ分析をしている。
「あやねぇも……皆、やる気出したんだな」
 シュウがしみじみとしている間に、バーが押し込まれる音が聞こえてきた。
「うわわ!」
「よそ見をするな!」
「けっ!俺だって負けねぇぞ!!」
 ズバババババ!!!
 シュウは慌てて押し込まれたバーを押し返す。
「どうだ!」
「甘いっ!」
 ヒロトが再び押し返す。
 琴音とタケルのバトルもなかなか激しい。
「負けないわよ、タケル!」
「俺もだ!確実に強くなって、世界へ挑戦する!!」
 琴音の連射とタケルのパワーが激突し、パックを弾き飛ばしている。
「頑張って、みんな!」
 そんな皆を、彩音はデータ分析しながら応援している。
 世界へ向けて、チームが一つになった。
「いっけぇ!サンダーグルム!!」
「ヴェルディル!」
「頼むぞ、タイラントレックス!!」
「世界までブッ飛ばせぇ!ビクトリーブレイグ!!!」
 
 
 皆の練習音が、クラブ内で大きく響き渡った。
 
 
 
 
            つづく
 
 次回予告

「さぁ、いよいよ敗者復活の南極大陸予選スタートだ!絶対に勝ち抜いて、本戦に出場してやるぜ!!
まずは予選ヒートから!早速俺達の相手をするのは……ペンギン!?
 
 次回!『敗者復活!南極予選スタート!!』
 
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」
 

 

 



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