爆砕ショット!ビースピリッツ!!
第81話「復讐鬼アラストール 憎しみのバトル」
ヨーロッパ予選決勝Aブロックは波乱のバトルの末に幕を閉じた。
ベルセルクは精神疾患として医務室へ運ばれ、破壊された施設も復旧された。
そして、事態が完全に収拾した所で次の試合の準備が行われる。
「ふぃ~」
ベルセルクとの立ち合いを終えて客席に戻ったシュウは、椅子に座って一息ついた。
「大丈夫か、シュウ?」
「怪我とかしてない?」
タケルと彩音が心配そうに話し掛ける。
「あぁ……なんとかなぁ」
息切れしつつもシュウは答えた。
「無茶するわね」
琴音が呆れながら言った。
「しょうがねぇだろ。なんか俺のせいみたいだったし」
シュウは口を尖らせた。
「そうはいっても、あんた一回ビーダマン壊されてるのよ。何も自分から向かっていかなくても……」
「今のブレイグはあんな奴に壊されねぇよ。それに、何が何でも次の試合は中断してほしくなかったからな」
言いながら、シュウは会場に視線を移した。
「そろそろ始まるみたいだな」
ヒロトが言うとおり、会場の準備が整い、いよいよヒンメルの試合が始まろうとしている。
「ヒンメル……!」
シュウは固唾をのんでその様子を見守った。
『さぁ、若干のトラブルがありましたが、そろそろBブロックの試合を始めるぞ!
対戦カードはアラストール君VSヒンメル君だ!!ルールはAブロックと同じ加算式シャドウヒットバトル!
それでは、二人ともバトルフィールドへ上がってくれ!!』
ヒンメルとアラストールがバトルフィールドの両端から対峙した。
「……」
ヒンメルが無感情な顔でアラストールを眺めているのに対し、アラストールの瞳は鋭い。
「ようやくだ……ようやく、この時が来た……!」
鋭くヒンメルを睨みながら、口元をつり上げる。
「覚えているか?俺を!」
ヒンメルを指差して叫ぶアラストール。
「知らない」
ヒンメルは無感情なまま答えた。
「だろうな。だが、俺はよく覚えているぜ……お前に味わわされた苦しみの全てを!忘れたときは無い!!」
アラストールの叫びは、内容までは聞こえなかったものの、何か叫んでいる事だけは客席にいるシュウ達にも伝わった。
「あいつ、なんかヒンメルに対して叫んでるけど、知り合いなのか……?」
「さぁ……?」
シュウ達にはアラストールの事情は分からない。
そして、セコンド側から見ているルドルフは、アラストールの姿を見て何かを危惧した。
「あの少年はっ……!」
それぞれの思惑を入り乱せた中、ビーダマスターの声が響く。
『それでは、軽く言葉のジョブを交わした(?)所で始めて行こう!
両者構えて!レディ、ビー・ファイトォ!!』
ダッ!
合図とともに駆け出したのはアラストールだ。
ヒンメルはスタート地点から動こうとしない。動く必要がないとぼんやりと判断したのだろう。
「おらぁぁ!!!!」
ドギュッ!ドギュッ!!
アラストールはシュヴァリエルを使ってダブルバーストを連射する。
「……」
ガキンッ!シュンッ!
ヒンメルはいつものように弱スピンボールでそれを防ぐ。
「ちぃぃ!!」
どんなに攻撃しても不発に終わる事にイラつきながらも、アラストールは感情に任せて単調な攻撃を繰り返す。
『早くも大激突!アラストール君のシュヴァリエル、強烈なダブルバースト連射だ!!しかし、ヒンメル君は得意の防御で全てを逸らしている!!凄まじい気迫のアラストール君に対して余裕の表情だ!!』
ジンの実況を聞いて、シュウ達は反応する。
「シュヴァリエル……って!」
「あの、ヒンメルの執事が使ってたビーダマンだよな?なんで、あいつが……!」
「よく分かんねぇけど、また盗んだって事か?」
「でも、あんな強い人からよく盗めたね……普通なら、返り討ち合うと思うけど」
琴音が言うとシュウは憤ってアラストールを睨み付けた。
「どうせ卑怯な手を使ったんだろ!あの野郎……!」
「ふん。事情は知らんが、盗られる方が迂闊だろう」
ヒロトが言うと、シュウはギクッ!と肩を竦めた。
「そう言えば、誰かさんも迂闊にもビーダマン盗まれたもんね~」
琴音がジト目でシュウを見る。
「う、うるせうるせぇ!取り戻せたから良いんだよ!!」
シュウは両手をバタバタさせながら叫んだ。
「騒ぐな。周りに迷惑だ」
ヒロトが冷たく言うと、シュウは肩を落として大人しくなった。
「ちぇ……」
そんな会話をしている間にもバトルは進んでいく。
「うおおおおおおお!!!!」
アラストールは全く攻撃のペースを落とさない。
バカの一つ覚えみたいにダブルバースト連射を繰り返している。
だが、ヒンメルはその全てを最小の動きで全て逸らしている。
『凄まじい気迫のアラストール君だが、その攻撃は全く届いていない!
互いに足を止め、激しく撃ち合っているが、互いに得点は0のままだ!!』
「ちっ、くそぉ!!この機体でも通じないのか!?」
ドギュッ!ドギュッ!!
アラストールのコメカミにうっすらと汗が滲み出る。
さすがに体力的にも限界が出てきた。
しかし、ここで手を止めては集中砲火に合うだけ。
ヒンメルの体力が尽きるか、隙が生まれるまで、これを持続するしかない。
「俺は、手に入る中で最強の機体を手に入れた!そしてそれを完璧に使いこなした!だのに……!」
ギリッ!と奥歯を噛みしめる。
「……」
ヒンメルはそんなアラストールの攻撃を逸らしながら、憐れむような視線を送る。
「すました顔しやがってぇ……!」
逆にアラストールの神経を逆撫でしてしまったようだ。
『試合は一向に動かない!しかし、さすがと言えるのはやはりヒンメル君とエンゲルミハルデンだ!
激しく体力を消耗しているアラストール君に対して、ヒンメル君は少ない消費で見事に攻撃を防御している!
残り時間はあと4分だが、相手の体力が尽きるのを待ち、後半で一気に攻める作戦だとすればアラストール君に勝ち目はないぞ!!』
「ちぃ、ふざけるな!ふざけるなふざけるな!!!」
ビーダマスターの一方的な実況にも刺激され、アラストールの攻撃は更に激しさを増す。
と同時に体力の消耗も激しくなる。
「ぐおおおおおお!!!!!」
歯を食いしばり、顔を顰め、乱暴に呼吸しながらもペースを落とす事は絶対にしない。
「やめるわけにはいかねぇぇぇええええ!!!!!」
そんな鬼の形相のアラストールを観ながら、仲良しファイトクラブの面々は戦慄した。
「あいつ、あんなペースで撃ち続けたら、身体もビーダマンも持たないぞ……!」
「攻撃が通用しないのが分かりきってるのに、そこまでするものなの!?」
琴音とタケルの言葉に、シュウは静かに口を開いた。
「なんか、分かる気がする」
「え?」
「例え通じなくても、いや通じないからこそ、どんなに苦しくても攻撃をやめられないんだ」
シュウは拳を震わせながら言った。
「でも、だったらせめてもうちょっと考えて動けばいいのに」
「分かるんだよ、何やっても無駄だって事が!だからこそ、自分が出来る最高の攻撃をし続けるしかないんだ。例え可能性が0でも、それが一番良い攻撃なんだ……!」
「シュウ君……」
そしてシュウはふと、冷静な目つきになった。
「だけど……」
「?」
「あいつは、俺とは何か違う気がする……」
「え?」
「何よ、分かるって言ったり、違うって言ったり」
「分かんねぇ。けど、あいつのヒンメルを見る目は、俺よりも……深い気がする」
アラストールと似たものを感じながら、それでも決定的に違う事を悟り、シュウは身震いした。
「ぐおおおおおおおお!!!!!」
怒涛のパワーダブルバースト連射は続く。全く通じないにも関わらず、アラストールの手は止まらない。
『バトルは中盤戦に突入だが、なんとも単調な試合だ!凄まじい気迫が伝わってくるが、全く動きが無いぞ!!
しかし、アラストール君の攻撃は決して弱くは無い!いや、むしろ世界トップレベルと言っても過言ではないパワーだ!
それを軽々と防げてしまうヒンメル君も素晴らしい!まさに『無傷の大天使、ヒンメル・フリューゲル』の異名は伊達じゃない!!!』
単調なバトルをなんとか盛り上げようとするビーダマスターだが、観客は若干飽きてきている。
「『無傷の大天使』?ヒンメル・フリューゲル……?」
ビーダマスターの実況にピクッと反応するアラストール。
「ふざけやがって……いつまで自分を偽っているつもりだ……!」
アラストールは鋭い視線をヒンメルにぶつけた。
「いい加減本性を現せよ……ウラノス・フテラァァァ!!!」
「っ!」
その声にヒンメルはビクッと反応した。
反応したのはヒンメルだけではなかった。
「ウラノス……?あいつ、何言ってんだ?」
「ヒンメルって言おうとして噛んだとか?」
「いや、さすがにそれは無いだろ(汗」
タケルはコメカミに汗を浮かべながら琴音の間抜けな発言に突っ込んだ。
「あいつは、アラストールは何かを知っているのか?」
シュウは身を乗り出して対峙するアラストールとヒンメルを見た。
「あいつとヒンメル、一体何が……?」
そして、陰で見ているルドルフも。
「っ!やはり、奴は……!」
憎々しげにアラストールを睨み付けた。
「今後の行動次第では、強硬手段も辞さない……!」
そんなルドルフの手には、密かに手榴弾のようなものが握られていた。
ウラノス・フテラ。その名前を呼ばれてから、ヒンメルの表情が明らかに変わった。
焦点の定まらなかった瞳には、はっきりと精彩が浮かび、しっかりとアラストールを見据えていた。
「どうした、ウラノス!」
「……」
ドンッ!!
突如、ヒンメルがパワーショットを放った。
「っ!」
反応できず、アラストールのボムにヒットする。
「てめぇ……!」
「知らない……そんな名前!」
『のおっと!突如ヒンメル君がパワーショットを炸裂!!ここにきて、ようやく1ダメージ!!』
「知らない、だと……どの口が言う!ウラノス!!」
「知らない。知らない」
ヒンメルはぼそぼそと『知らない』と繰り返している。
『しかし驚きだ!エンゲルミハルデンにあそこまでのパワーが秘められていたとは!!』
「エンゲルミハルデン?笑わせるな。そのビーダマンもフェイクだろう。とっとと出せ、デオスミカエルを!!」
「でおす……みかえる……!」
ドクンッ!
デオスミカエル。その単語を聞いた瞬間、ヒンメルの目が見開かれ、心臓が高鳴った。
「し、しらな……知って、る……!」
「っ!」
ヒンメルの表情が変わる。
しかしそれは、かつて見せた事のある狂気の表情ではない。
ハッキリとした意志のある、精悍な表情だ。
「デオスミカエル……知ってる……!」
ヒンメルはニタリと笑いながら、その名前をハッキリと呟いた。
「っ!いけない……!」
ルドルフは何かを危惧し、飛び出そうとした。
その瞬間。
カッ!と会場に眩い光が発生した。
「ぐっ!」
その光に遮られ、ルドルフは動きを封じられる。
『うおっ、なんだ!急に光が……!』
ビーダマスターや会場の他の皆も突如発生した謎の光に目を遮る。
仲良しファイトクラブの面々も、突然の光に戸惑っている。
「な、なんだ!?」
「この光、ヒンメルが……?」
少しずつ光が薄まり、視界もハッキリしてくる。
『突如発生した光に包まれた会場だが、少しずつ視界がハッキリしてきたぞ……しかし、一体なんだったんだ、あれは?』
そして、完全に光が収まった頃、ヒンメルの手持ちを見て皆驚愕した。
「っ!」
「あれは!」
「ヒンメルの、ビーダマンが……!」
『なんとぉ!光が発生している間に入れ替えたのか?!ヒンメル君のビーダマンが変わっている!!』
ヒンメルが手に持っているのは、形や色合いこそ見ているものの、エンゲルミハルデンではなかった。
「ようやく化けの皮が剥がれたな……!やはりエンゲルミハルデンの中に隠してやがったか!」
「デオス・ミカエル」
ヒンメルは、静かにその名を呟いた。
「そうだ。それがお前の本当のビーダマンだ。そいつを使ったお前こそ、倒す価値がある!!」
ズババババババ!!!
アラストールは更に力を込めたパワーダブルバーストをヒンメルに向かって連射した。
『バ、バトル再開!再び凄まじい勢いのダブルバーストがヒンメル君に襲い掛かる!!』
カッ!!
そのショットは、ヒンメルの連射によって弾き飛ばされてしまった。
今までのように逸らしたのではなく、弾き返したのだ。
「な……!」
『のおっと!今まで、巧みなスピンボールで相手のショットを防いできたヒンメル君だが、ビーダマンが変わった途端に相手のショットを迎撃した!!
連射力、パワーともに格段に上昇している!!』
「……」
そして今度はヒンメルからアラストールへ攻撃した。
パワー連射がアラストールへ襲い掛かる。
「くっ!」
迎撃しようとするアラストールだが、そのショットは弾かれてしまう。
「バカなっ!俺が力負けしたのか!?」
ババーーーン!!!
『ヒットォ!!ヒンメル君の積極的な攻撃になすすべくアラストール君のボムにダメージが通った!!』
「くっ!」
ドンッ!!
再び火を吹くダブルバースト。
「……」
シュンッ!
今度はスピンボールでそれを回避した。
『どうやら、エンゲルミハルデンのスピンボールは健在だ!凄まじい進化だぞ、デオスミカエル!!』
「す、すげぇ、ヒンメルの奴、あんなショットも撃てるのか……!」
シュウは思わず立ち上がって戦慄した。
「デオスミカエルとか言ったな。エンゲルミハルデンの瞬時に回転を使い分ける機能にプラスして、連射力もパワーも格段に上がってるのか」
「そ、そんな……!」
実はノートパソコンでバトルを分析していた彩音が驚愕の声を漏らす。
「あやねぇ、どうしたんだ?」
彩音は仲良しファイトクラブの面々にモニターを見せた。
「今のショットを分析した結果、デオスミカエルの最大パワーはストライクブレイグに勝り、連射力は……!」
「ライトニングヴェルディルに匹敵する可能性有り、だと……!」
ヒロトが憎々しげに呟いた。
進化前の機体ではあるが、それぞれの得意機能に特化しており、その分野に関しては決して性能が低くない二機である。
それらを上回る可能性がある上に、スピンボールを使い分けられるなんて、チートにもほどがある。
彩音はなおもキーボードを叩く。
「その性能に、従来のエンゲルミハルデンのバトルデータを追加してシミュレーションしてみた総合力は……す、すごい!」
データが出た画面を見た皆が驚く。
「こ、こんな数値が!?」
「い、今までのビーダマンの性能を遥かに超えている。いいえ、現代の科学の領域で、こんな数値は到底出せない……!」
「デオスミカエル……!」
皆が驚愕の表情でそのデータを見る。
シュウも一応驚愕の表情をしている。
(そ、それって凄いのか?)
が、実は理解しきっていなかった。
そして、バトルの方は
『さぁ、バトルは一方的な展開だ!
アラストール君の攻撃は一切通じず、そして着実にヒンメル君のショットはダメージを与えている!!
残り時間はあと30秒!これはもうほぼ決まったも同然か!?』
「はぁ……はぁ……くそぉ……!」
アラストールの勢いはかなり弱まり、立っているのが精いっぱいという感じだ。
「も、もう手が動かねぇ……ちくしょう……何もできずに終わるのか、俺は……!」
「……」
そんなアラストールへ、ヒンメルは無慈悲にも連射を放った。
『アラストール君はもはや虫の息か!?そこへヒンメル君、ダメ押しとばかりに連射を放つ!!
が、そのショットはちょっと上向き過ぎか!?アラストール君のボムを通り過ぎてしまった!!』
客席。
「ミスショットか?!」
シュウが言う。
「いや、よく見ろ!」
タケルが指さす。
さっきのヒンメルのショットがボムを飛び越えて、地面に着く。
その瞬間、キュルルルル!とビー玉が唸った。
「っ!」
そしてバッ!と進行方向の逆へと地面を蹴って飛び出した。
「なにっ!」
『なんとぉ!さっきのショットはバックスピンだった!!急速バックしてアラストール君のボムへ容赦なくヒットするぞぉ!!』
ガガガガガガ!!!!
「う、うわあわあああ!!!!!!」
ボムがビー玉にぶつかった時に巻き起こる衝撃波に、アラストールはフッ飛ばされてうつ伏せに倒れた。
『そしてここで終了!!結果、0対34で、ヒンメル君の完勝だぁぁ!!!』
陰で見守っていたルドルフは、ホッと一息ついていた。
「……力の一部を覚醒させられたのは想定外だったが、私が出るまでもなかったか」
ルドルフは、手に持った手榴弾型の物体を懐に隠し、踵を返した。
「……」
そして、バトルに勝利したヒンメルは、倒れたアラストールを気付かう事なく、無慈悲に去って行った。
あまりに一方的なバトルに戦慄する仲良しファイトクラブ。
「嘘でしょ……エンゲルミハルデンの時はバックスピンは出来なかったのに、デオスミカエルは単純な性能だけじゃなく、スピン機能までバージョンアップしているの……?」
「つ、強すぎる……なんて奴だ……!」
「あんなのがいたら、誰だって勝てないじゃない……!」
ヒンメルの圧倒的な力の前に、タケル、琴音、彩音は恐怖し、戦意を喪失していた。
『やはりここでも無傷での勝利を収めたヒンメル君!世界へと羽ばたく彼を止められるビーダーは、果たして現れるのか!?』
ビーダマスタージンの言葉に、シュウが拳を握りしめて叫んだ。
「ここにいるぜ!!」
そのデカい声は、会場に響いた。
そして、ヒンメルにも届き、ヒンメルは足を止めて客席のシュウを見上げた。
「ヒンメル!世界で待ってろよ!俺は必ずお前を倒しに行く!!」
シュウはヒンメルを指差して勝利宣言するのだった。
つづく
次回予告
「南極予選までもう少し!さぁ、気合い入れて行くぜぇ!!
って、あれ?タケルにことねぇにあやねぇも、なんか元気ないな。一体どうしたんだ?
えぇ!?デオスミカエルの力にビビッたって!?何情けねぇ事言ってんだ!気合い入れろ気合い!!
次回!『勝利への挑戦者』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」