オリジナルビーダマン物語 第77話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第77話「ハリウッドのヒーロー!」




 ニューヨークの喧騒の中を仲良しファイトクラブのメンバー達は歩いていた。
「なぁ、タケル~、まだ着かねぇのか~!」
 一番後ろを歩いていたシュウが愚図り出した。
「あと30分くらいだ。試合開始時間には十分間に合う」
 タケルは時計を見ながら言う。
 仲良しファイトクラブは北アメリカ大陸予選決勝の会場へ徒歩で向かっていたようだ。
「まだそんなにかかるのかよ~!ホテルから歩いてもう1時間だぜ。タクシーとか電車使えばすぐなのに……」
「何言ってんだ。お前が調子乗ってハンバーガーの大食いなんか始めるから、ヤンキー・スタジアムに行くための金が無くなったんだろうが」
 タケルが、パンパンに膨らんだシュウの腹を見ながら非難する。
「うっ……。だってさぁ、タケルなら金いっぱい持ってると思ったし……」
 シュウはバツが悪そうに目を逸らす。
「俺だって無尽蔵に金があるわけじゃない。これからの旅費の事もあるからな。あんまり俺を当てにしすぎると、出世払いで返してもらうぞ」
「あわわ!悪かったよぉ~!」
 いつものようにギャーギャー騒ぐタケルとシュウを横目で見ながら、ヒロトはため息をついた。
「また始まったか。こいつらどこか行くたびにこんななのか?」
 呆れながらに琴音と彩音に話を振った。
「う、うん、まぁ……」
 彩音は苦い表情をして誤魔化した。
「ごめんね、ヒロ兄……」
 琴音はまるで自分の事のように謝罪した。
「ビーダマンに支障が出ないなら別に構わんが」
 自分の損得に影響が得ないと思ったヒロトはシュウとタケルのやり取りには興味を失った。
 
 その時だった。
 後ろからやけに大きな足音が聞こえてきた。
 ダダダダダッ!と大柄な男が走ってくるかのような音はどんどん近づいてくる。
 そして……。
 ドンッ!!
 とシュウとタケルが後ろから突き飛ばされた。
「「うわぁぁ!!」」
 男はそのままヒロト達の横をすり抜けて走っていく。
「いってててて……!」
「大丈夫、シュウ君、タケル君!」
「何やってんのよ」
 三人が突き飛ばされて倒れたシュウ達の所へ来る。
「くっそー、あの野郎!ぶつかったなら謝って行けよ!!」
 地に手をつきながら、遠ざかる男の背中へシュウは叫んだ。
「注意力が足りないな」
 ヒロトは蔑んだ目でシュウを見下ろしながら言った。
「ちゃんと歩かないあんた達が悪いんでしょ」
「んな事ねぇよ……」
「あんなに慌てて走って……相当急いでるのかな?」
 彩音は呑気にそんなことを呟いた。
「でも俺達道の端歩いてたのに、わざわざぶつかっていかなくても……」
 愚痴るシュウの横で、タケルが声を上げた。
「あーーー!!」
「ど、どした?」
「バ、バッグが無い……!さっきの奴にバッグ盗られた!?」
 タケルは自分の腰回りを何度も見ながら慌てている。
「なにぃ!?」
「あの中に財布も入ってんだ!!追いかけるぞ!アレが無いとスタジアムに入れない所か、日本に帰れない!!」
 男の背中はかなり小さくなったものの、まだ見える。
 タケルはすぐに立ち上がって駆けだした。
「あ、待てよタケル!!」
 シュウ達のその後を追いかける。
 タッタッタッタ!
 ビーダマンで鍛えたタケルとシュウの俊足ならば並の人間の足に追いつくなど造作もない……のだが、相手も早い。
 なんとか背中を見失わずに済んでいるものの、なかなか追いつけない。
「くそっ!泥棒の癖に足速いな、あいつ!」
「泥棒だからこそ、だろうがな!!」
 そろそろ息が切れてきた。このままでは見失ってしまう。
「くっ、くそっ!誰かっ!あの泥棒男を捕まえてくれぇぇぇ!!!」
 シュウは助けを求めて力の限り叫んだ。
 その時だった。
 
「か弱き民の叫びが響き、正義の心にガッシリ届く!!」
 頭上から、雄々しい声が聞こえてきた。
「え?」
 見上げると、眩しい日差しに照らされながら、ガタイの良い金髪の男が。
 青いタイツと赤いマント姿で街灯の上に立っていた。
「なんだぁ!?」
 あまりに場違いな人物の姿に驚いていると、そいつはバッと飛び立った。
「とう!」
 一回転してシュウの前に着地した。
「私こそ、正義のヒーロー!スーパーヒューマン!!」
 と、右手を斜め上に突き出してヒーローっぽいポーズをしてみせた。
「な、なんか、妙な奴が現れたな……」
「正義って……なんか、まさよしっぽいような、ちょっとノリが違うような……」
 シュウ達がキョトンとしていると、ヒーロー男が話しかけてきた。
「さぁ、私が来たからにはもう大丈夫だ!ユー達は一体何を困っているんだ?」
「え、あ、あぁ……この際なんでもいいや!あの前にいる男は俺達のバッグを盗んだ泥棒なんだ!捕まえてくれ」
「なるほど、私に任せたまえ!!」
 言うが早いか、スーパーヒューマンはダッと飛び上がるかのごとく勢いで走って行った。
「は、速い!あのスピードなら追いつけるかも……!」
「いや、でもいくら速くてももう間に合わない!」
 泥棒男は人ごみの中に入ろうとしていいる。あの中に入られたら、どんなにスピードがあっても逃してしまう。
「ならばその前にバッグだけでも取り戻すのみ!!」
 チャキ……!
 スーパーヒューマンは懐からビーダマンを取り出した。
「ビーダマン!?」
「あの人、ビーダーだったのか!」
 
「はぁぁぁ!!!」
 ドンッ!!
 パワーショットが放たれる。が、さすがに届かない。
「ダメだ!パワーは強いけど届かない!!」
 
「ならば、秘密兵器!スーパースカイビークル!!」
 ジャキッ……!
 スーパーヒューマンは、戦闘機のような小型メカをホールドパーツに前から込めた。
「な、なんかコアの前に変な機械をセットしたぞ!?」
 
「ファイヤーーーー!!!!」
 ドーーーーン!!!
 まるでビー玉を射出するかのように、小型戦闘機を射出した。
「なにぃ!?」
 小型戦闘機は、翼の揚力を利用して飛距離を稼いでブッ飛んでいく。
「す、すごい!ビーダマンから飛行機を発射した……」
「だが、それでも届かないぞ!」
 いくら飛行機でも、ビー玉撃って届かなかった距離はそう簡単には届かない。
「いや、これからだ!」
 ガシャンッ!
 と、飛行機のハッチが開く。
 そして、そこからビー玉が射出された。
「なにぃ!?」
「またビー玉が発射された!!」
 
「これが必殺の二段階射出機構だ!!」
 飛行機で距離を稼いだ時点で更にビー玉を射出したので、普通に撃つよりもビー玉の飛距離は半端ではない。
 
「そうか!発射した戦闘機自体に、ビー玉発射機構を積んでいるから、射程距離を極限まで伸ばす事が出来るのか……!」
 そして、戦闘機はビーダマンと紐で繋がっているのか、射出が終わった戦闘機はビーダマンの所へと巻き戻って行った。
 
 ボンッ!
 発射されたビー玉は、見事泥棒の持っていたバッグへと命中。
 泥棒はバランスを崩して倒れてしまった。
 
「やったぜ、命中だ!!」
 倒れている隙にスーパーヒューマンが駆けつけて、泥棒を拘束する。
「よかったね、バッグは無事だ」
 スーパーヒューマンがバッグをタケルに渡す。
「あ、ありがとうございます」
「礼には及ばない!これが私の使命だ!では、これで!!」
 スーパーヒューマンはバッと飛び上がって去って行った。
 
「……なんか、凄い奴がいるんだなぁ、アメリカって」
「そ、そうだな……」
 シュウとタケルが呆然としていると、白髪のおじいさんに話し掛けられた。
「お前さん達運が良かったな。我等がアメリカンヒーローに助けられるなんて」
「アメリカンヒーロー?って事は、あの人ほんとに、正義の超人か何かなんですか?」
「あー、あー、ちょっと違うのぅ。彼の名はブッシュワイリー。今ハリウッドで全米ナンバーワンの特撮映画『スーパーヒューマン』の主演俳優んじゃ」
「は、俳優かぁ……」
 あの芝居がかった仕草は、俳優ゆえのものだったわけだ。
「俳優と言っても、バカには出来んぞ。彼は類稀な運動神経を持っており、危険な撮影もスタンドマン無しで行うと言う天才アクション俳優なんじゃ!
その身体能力を駆使して、何とか言う射撃競技の世界大会の北アメリカ大陸予選でも決勝に進出しておるんじゃ」
「なんとか言う射撃大会って、もしかして……」
「ビーダマン!?」
 シュウが言うと、おじいさんはあー!あー!と頷く。
「そうじゃったそうじゃった!いやはや、近頃の若者の割には、大したもんじゃて、ほんと!ふぉっふぉっふぉ!」
 しゃべり満足したのか、おじいさんは笑いながら歩いて行った。
「タケル」
「あぁ、なんだかとんでもない奴が参加しているみたいだな」
「おう。今から楽しみだぜ!」
 シュウ達は北アメリカ予選への期待を膨らませた。
 
 そして、ヤンキー・スタジアム。
 既に客席は、観客の熱気に包まれていた。
 その中で、シュウ達仲良しファイトクラブも観戦している。
『さぁ、ここヤンキー・スタジアムでは北アメリカ予選の決勝が行われるぞ!
対戦カードは、メキシコ代表のラウル君とアメリカ代表のブッシュ君だ!
ラウル君は、既に受付を済ませて会場入りし、準備運動に入っているようだが……未だブッシュ君の姿が見えない!
試合開始時間まであと20分あるが、それまでに受付を済ませなければ、試合放棄となって不戦敗となるぞ!!』
 
 選手控えベンチでは、西部のガンマンのような服装の少年が準備運動をしたりビーダマンの調整をしたりしている。
 
 ビーダマスターのアナウンスを聞いた仲良しファイトクラブ。
「なんだぁ、ブッシュの奴まだ来てないのか?」
「ブッシュって、さっきタケル君の財布を取り戻してくれた人?」
 彩音が聞く。
「あぁ、特撮ヒーローみたいな格好しているハリウッド俳優」
 シュウが簡単に説明した。
「おかしいな。あいつ俺達よりも先に会場に向かってたのに、まだ着いてないのか……」
 ブッシュはタケル達を助けた後すぐに去って行った。そのまま会場に向かったのだとしたら、とっくに着いているはずなのだが。
「俺達を助けたあいつの事だから、また変な事件に絡んでるんじゃないのか?」
 会場に向かう途中にまた人助けをしている可能性は高い。
「ったく、しょうがねぇな!」
 シュウはそう言うなり立ち上がった。
「どうしたの、シュウ君?」
「試合開始まであと20分あるだろ?ここでジッとしてても仕方ないし、探しに行こうぜ!」
「探しにって、そんな一回会っただけのビーダーにそこまでする?」
 琴音が怪訝な顔で言った。
「俺達はあいつに助けられたんだ!理由は十分だぜ」
「恩返しか。だが、そもそもブッシュに問題が起きているのかどうかすら分からない状態だ。返せるとは限らないぞ。徒労で終わると思うが?」
 ヒロトが現実的な意見を述べた。
「なんも問題なかったらそれはそれでいいぜ。試合開始までに戻れば、観戦は出来るんだし」
「そうだな。それまでちょっと散歩するようなもんだ。何も損する事は無い」
 タケルも立ち上がった。
「ちょっ、タケルまで……!」
「恩義があるのは俺とシュウだけ。皆はここで席を取っててくれ。試合開始までには戻る」
 それだけ言うと、タケルとシュウは踵を返した。
「分かったわ。気を付けてね」
 彩音は了解した。
「勝手にしろ」
 ヒロトはもう興味を失っているようだ。
「しょうがないなぁ……」
 琴音も反対する気はないようだ。
「悪い。時間までには戻る!行くぞ、シュウ」
「ああ!二手に分かれて探そうぜ!」
「当然だ!」
 タケルとシュウは分かれて外へと駆け出した。
 
 シュウは一人スタジアムの周りを歩いて回っていた。
「お~い、ブッシュ~!!どこだーー!!ブッシュやーーい!!」
 適当に声掛けしながら、当てもなく歩いている。
「試合始まるぞ~!早く出てこーーい!!」
 しかし、何の当てもなく歩いたところでそんな都合よく見つかるわけがない。
「あ~あ、勢いで探すって言ったけど、全然見つからないなぁ……」
 シュウはチラッと近くにある時計を見た。あれからまだ3分しか経ってない。
「まだ時間あるし。裏行ってみるか」
 シュウはスタジアムの裏へ歩みを進めた。
 その時だった。
「ブッシュ・ワイリー。悪い事は言わない。我々と一緒に来てもらおう」
 陰から渋い男の声が聞こえてきた。
「ブッシュ……?」
 その聞き覚えのある名前にシュウは反応した。
 
 スタジアムの裏では、ブッシュが人相の悪い男達に囲まれていた。
「何のつもりだ?お前たちは一体何者だ!」
 ガタイの良い大人の男たちに囲まれても、ブッシュは毅然とした態度で立っている。
「なに、ただのビーダマンファンさ。ただ、ファンはファンでも、俺たちゃメキシコ代表のラウルの大ファンなんだ」
 一人の男が答えた。
「お前に勝たれちゃ、ちょいと困るのさ」
 他の男もニタニタ笑いながら言う。
「それで、私を拘束して不戦敗させようと……ファンにしては随分と行動が歪んでいる」
 ブッシュは冷静さを崩さずに言う。その表情から、奴らの言葉をそのまま信じてはいないようだ。
「何とでも言え!とにかく、お前はここで終わりだ!試合には出さねぇ!」
 チャキ……!
 男たちがビーダマンを取り出して銃口をブッシュに向けた。
「仕方がない。無駄な戦いはしたくはなかったが……」
 ブッシュもビーダマンを取り出した。その時だった。
 
「待て待て待て!!」
 シュウが叫びながら割り込んできた。
「なんだこのガキは!?」
 大人たちが一斉にシュウの方へ向く。
「お前らこそなんだ!大勢で寄ってたかって卑怯だろ!それに、ブッシュはこれから試合があるんだ!邪魔すんじゃねぇ!!」
 シュウは大人たちに臆することなく啖呵を切った。
「君は、あの時の……」
 ブッシュはシュウの事を覚えているようだ。
「ふん、全くこれだから子供は……。坊主、ブッシュとは大人の話し合いをしているんだ。子供がビジネスの邪魔をしちゃいけない」
 リーダー格の男が、多少柔らかめな口調で諭すようにシュウへ語りかけた。
「嘘付け!どう見たって襲ってるだろ!それに、ブッシュには話し合いをしている時間なんてないんだ!早く会場に行かないと失格になっちまう!!」
「坊主。大人を困らせちゃいけない。おじさん達が優しいうちに言う事を聞かないと、怖い目にあうのは坊主だぞ?」
 優しい口調だが、その奥にどす黒い気持ちを隠さずに言葉を続けた。
「うるせうるせぇ!!大人の事情よりもビーダーの事情の方が大事なんだ!!」
 シュウは駄々っ子のように吼えた。奴らが言っている事は理解できていないようだ。
 
 一方その頃、会場では……。
「あ、タケル」
 タケルが客席へ戻ってきた。
「どうだった、タケル君?」
「ダメだ。どこにも見つからない」
 タケルは力なく首を振った。
「まぁ、そんなもんだろう」
 最初から期待していなかったヒロトは冷たく言った。
「会場には現れたか?」
「ううん、まだ来てないみたい。あと3分で試合時間なのに……!」
 
『さぁ、もうそろそろ試合時間だが、ブッシュ君はまだ顔を出さない!残り時間はあと3分!このまま不戦敗が決まってしまうのか……!?』
 
「ちっ、ここまで来て不戦敗か。わざわざアメリカに来たってのに、無駄足に終わりそうだな」
 ヒロトは試合が見られないかもしれない事に対してちょっと不満げだ。
「シュウの奴は、まだ戻ってないのか?」
「うん。まだ探してるのかな」
「あいつの事だから、ギリギリまで戻ってきそうにないね」
 
 そして、その頃のシュウ達は……。
「大人の話……ビジネス……お金……」
 ブッシュは一人奴らが言った事を分析していた。
 そして。
「そうか、分かったぞ。お前達はビーダマンで賭け事をしているギャンブラーだな!」
「あぁ、そうさ!この大会には巨額な金がかかっていてな!」
 大人達はあっさりと認めた。
「なるほど、裏の世界ではビーダマンの賭けバトルがあると言う話は聞いた事があるが……まさか世界選手権をも賭けの対象にしていたとは」
「オッズでは、お前の方が勝率が高い。だからラウルに多額の金を賭けて、お前を不戦敗させれば確実に儲かるって寸法よ!」
「ここでお前に勝たれちゃ、俺達は一気に一文無し。でもお前が不戦敗になりゃ、大金持ちってわけさ!!」
 大人たちは下品に笑い出した。
「くだらない。そんな理由で悪に手を染めるとは……このスーパーヒューマンが成敗してくれる!!」
 ブッシュが銃口を大人達へ向けた。
「おいおい、正義のヒーロー様がビーダマンを人に向けて撃っても良いってのか?」
「っ!」
「でも、お前が撃てなくても、俺達は躊躇しないぜ!!」
 ズドドドド!!!
 大人たちが一斉にビー玉をブッシュへ放った。
「舐めるなっ!!」
 ブッシュはそのビー玉を全てショットで撃ち落とした。
「す、すげぇ……あれだけの量のショットを防いだ……!」
「さすがは、世界選手権出場のビーダーだ!だが、別に俺達はお前に勝つつもりは一切ない!こうして足止めしていられればいいんだ!」
 大人たちの攻撃は止まらない。
「くっ!どうする……加勢しても意味ないし、今から誰か呼びに行っても、ここから人気のあるとこに行ったんじゃ間に合わない……!」
 今ここでシュウに出来る事はないのか……。
「あ、そうだ。こいつがあった!」
 シュウは小さなシャドウボムをいくつか取り出して、大人達の方へ放った。
「な、なんだこりゃ?」
 大人たちは自分の周りにシャドウボムが付けられた事に気付いた。
「ブッシュ!そのシャドウボムを狙え!!」
「あ、あぁ!」
 訳が分からないまま、ブッシュはそのシャドウボムを撃った。
 ボーーーーン!!
 シャドウボムが爆発すると、そこから粘着性の高い液体が飛び出し、大人のビーダマンのコアを防いだ。
「うわ、なんだこりゃ!?ビー玉が撃てねぇ!!」
 戸惑う大人の男。
「今のは……!」
 突然の現象に戸惑うブッシュにシュウが説明した。
「特別性のシャドウボム!撃破すると、強制登録したビーダマンのコアに特殊な液体が飛び出して撃てなくするんだ!これだったら人を狙わなくても相手を倒せるぜ!!」
「そんなアイテムがあったとは……でも、これで戦える!」
 ブッシュは好戦的な表情になって相手と向かい合った。
「ちっ!だが、これだけの人数相手に一人で勝てると思うなっ!!」
 ズドドドド!!
 大人たちは数に物を言わせてブッシュのビーダマンへ連射を放つ。
「ブッシュ!俺も加勢するぜ!!」
 シュウがビーダマンを取り出すが。
「問題ない!ヒーローは一人で戦うものだ!!君の協力は、あのシャドウボムだけで十分ありがたい!」
「舐めるなっつってんだよ!」
 大人たちがブッシュを囲って四方八方からショットを放った。
「どうだ!これは避けられないだろ!」
「甘いっ!」
 ダッ!!
 ブッシュは地面を蹴って大きく飛び上がった。
 そして、躱された事によって大人達のショットが仲間にヒットする。これで大分数が減った。
「なにぃ、なんてジャンプ力だ……!」
「これがハリウッドで鍛えた、CGいらずのヒーロー!スーパーヒューマンの力だ!!」
 空中から地面に向かって撃つ。
「アクロバティックショット!!」
 ドンッ!!
 重力加速を利用してのパワーショットだ!
「これは、メテオールバスターと同じ……?うそだろ、ショットの反動を使わずに自分の力だけでメテオールバスターを使えるなんて……!」
 シュウは、自分と似た技を、自分以上の力で発動させられたことにショックを受けた。
 バババーーーーーン!!!
 このショットで更に数が減り、残りあと一人だ。リーダー格の男が残っている。
「くっ!だが、足止めだけなら俺一人でも出来る……!」
「いや、お前はもう終わりだ」
「なにぃ!?」
 気が付くと、男のシャドウボムのそばにスーパースカイビークルが飛んでおり、銃口を向けていた。
「スーパースカイビークル・ファイヤー!」
 ブッシュの掛け声を受けて、スーパースカイビークルからビー玉が放たれ、シャドウボムにヒットした。
「バカな!遠隔発射装置だと……!」
 なすすべなく、男のシャドウボムは撃破された。
 
「悪が栄えた試しはない。正義は必ず、勝つ!」
 ブッシュはビーダマンを掲げてヒーローのようなポーズを取った。
「やったな、すっげぇぜ!」
「すまない少年。今回は助けられた」
「なぁに、さっきは俺の方が助けられたからな。お返しだぜ。って、それどこじゃねぇ!いそがねぇと時間が……!」
 気が付くと、試合開始時間まであと1分を切っていた。
「くっ!ここで試合に遅れては奴らの思うツボ……急がねば!!」
 ブッシュは地面を蹴って俊足で会場へ向かった。
 
 そして、会場では……。
 
『さぁ、試合時間まであと10秒だ!……9……8……』
 時間切れへのカウントダウンが迫っていた。
 液晶モニターにでっかくカウントが映し出されている。
『4……3……』
 
 ズドンッ!!!
 突如、大きな音が響いたかと思うと、液晶モニターの数値が止まった。
『な、なんだぁ!?急にカウントがストップしてしまったぞ……!?』
 よく見ると、モニターの隣の壁にビー玉がめり込んでいる。このショックで時計が止まったのだろう。
 そして、そのビー玉を撃ったのは……。
「すまない、ビーダマスター。ビーダマンの調整をしていたら、誤射してしまったようだ」
 ラウルが硝煙が出ているビーダマンを構えながら言った。
 明らかに故意だ。
 
『ラ、ラウル君……!』
 ビーダマスターは戸惑いながらラウルを見た。
「これは俺に非がある。カウンターが動き出すまで、時間切れは待っていてくれないか」
 ラウルは悪びれる様子もなく、ビーダマスターへ申し出た。
『え、しかし、良いのかい……?』
 ラウルの言葉に、ビーダマスターは動揺した。このまま不戦勝した方が得なはずなのに。
「誇り高きガンマンとして、決闘せずに得た勝利に価値は無い。この俺の愛機『リボルバーガトリング』もそう言っている」
『……わかった。カウンターが動き出すまで、ブッシュ君を待とう!スタッフ、カウンターの復旧を!』
 控えていたスタッフたちがモニターの修復に取り掛かった。
 
『復旧は1分もあれば終わるだろう。さすがにそれ以上は待てない。それでいいね?』
 ビーダマスターが確認をすると、ラウルは頷いた。
「ああ。それでも来なければ、それまでの男だったという事だ」
 
 そして……。
「遅れてすみません!まだ私の出場資格は有効でしょうか!?」
 カウンターが復旧する寸前、ブッシュが会場へ姿を現した。
『あ、あぁ、ギリギリセーフだ!いや、本当はアウトなんだが、ラウル君が待ってくれたおかげでセーフだ!』
「え……」
 マスターにそう言われ、ブッシュはラウルの方を見た。
「君が……?」
「ふん。お前を待っている間にちょっとしたミスをして、ペナルティを受けただけだ。それよりも、随分と遅い到着だな。ヒーローは遅れてやってくるって奴か?」
「まぁ、そんな所かな」
 ツンデレなラウルの態度に苦笑しつつ、ブッシュは答えた。
「この俺を待たせたんだ。ロクなバトルをするようなら容赦はしない」
「フッ、心配には及ばないさ。待ってくれたお礼に、必ず私が勝つ!」
 
『さぁ、役者が揃った所でバトルを始めるぞぉ!!』
 ワーーーーーー!と歓声が上がる。
「ふぅ、やっと着いた~!」
 客席にグッタリとしたシュウがやってきた。
「あ、シュウ!やっと戻ってきたか」
「おう……ブッシュの奴は間に合ったのか?」
「あぁ、ラウルが待ってくれたおかげで、ギリギリな」
「良かったぁ……悪い奴らの思い通りにはならなかったぜ……」
 シュウはドサッと椅子に座った。
「何かあったのか?」
 そんなシュウにタケルが怪訝な表情で聞いた。
「ちょっとな……」
 
『それでは、いよいよスタートだ!ルールはお馴染みのアルティメットシャドウヒットバトル!そんじゃ、行くぜ!!レディ、ビー・ファイトォ!!』
 
 合図とともに、ラウルが怒涛の連射を放った。
「はぁぁぁぁぁ!!!」
 
『ラウル君!スタート直後に物凄い連射だ!!』
 
 客席のシュウ達。
「すっげぇ、なんだあの連射!!」
「トリガーとマガジンに秘密があるみたいね。トリガーと連動してマガジンがビー玉をコアで直接送り込んでいるから、素早いリロードによる連射を可能にしてるんだわ!」
「ガトリングの名は伊達じゃないって事か」
 
『ラウル君の連射に、いきなり万事休すか、ブッシュ君!』
「ならばっ!」
 ブッシュは飛び上がってその連射を避けた。
『ブッシュ君は物凄いジャンプ力でそれを躱した!特撮俳優としての力を見せ付けてくれたぞ!!』
 
「すげぇ身体能力!さすがアクション俳優……!」
 タケルが感嘆を漏らした。
「あいつ、ショットの反動無しでメテオールバスターと同じくらいのジャンプが出来るんだ。半端じゃねぇよ」
「ふんっ、予選とはいえ世界選手権だ。これくらいの戦いを見せてくれないとな」
 
 ブッシュとラウルの戦いはどんどん激しさを増していく。
『凄まじいバトルだ!ラウル君の怒涛の連射!ブッシュ君の機動力!!どちらも一歩も譲らない!!』
 
「さすがだ。ガンマンの末裔と言うだけあって、射撃の技術は一級品だな」
「お前も、その身体能力は俳優ならではという事か。待った甲斐がある!」
 ブッシュもラウルも、試合の中で互いの力を認め合っている。
 
 そして試合は進み、いよいよ互いのシャドウボムのHPも1ケタを切った。
 
『さぁ、バトルもいよいよ終盤戦!次のショットが決め手となるか!?』
 ラウルとブッシュが向かい合った。小細工なしのぶつかり合いだ。
「これで決める!ガトリングラッシュ!!」
 ラウルはビーダマンの機構を利用した連射を放つ。
「連射は凄まじいが、パワーはないようだ。ならば!スーパースカイビークルセット!」
 ブッシュはスカイビークルをコアにセットした。
「ファイヤー!!」
 ドンッ!!!
 スーパースカイビークルは、その重量で向かいくるビー玉を次々に弾きながら突進している。
「な、なにぃ!?」
「スーパースカイビークルにターゲットを撃破する能力は無い。しかし、向かい来るビー玉を迎撃する事は出来る!」
 スカイビークルがターゲットやシャドウボムにぶつかってもヒットした事にはならないが、物理的に相手のショットを叩き落とす事は可能なようだ。
 ビー玉と比べてスカイビークルの方が当然質量は高い。そんなビークルをビー玉と同じように射出しているのだから、パワー負けするはずがない。
「くっ!」
「さらにっ!」
 ガッ!
 スカイビークルがシャドウボムにぶつかった。その反動で銃口からビー玉が飛び出し、シャドウボムにヒットした。
 
『ヒットォ!!ブッシュ君が必殺のスカイビークルによって勝利を決めたぁ!!』
「ちっ、負けちまったか……」
「ラウル……」
「まぁ、不戦勝するよりはマシだな。良い決闘だった。本戦も勝てよ、ヒーローさん」
 ラウルは潔く負けを認めてブッシュへ手を差し出した。
「ああ。ヒーローは必ず勝つ!」
 ブッシュは爽やかに勝利宣言をし、ラウルの手を握るのだった。 
 
 
 
         つづく
 
 次回予告
 
「アメリカ予選決勝の見学を終えた俺達が次に向かったのは、アフリカ予選決勝の開催地エジプトだ!
そのエジプトに、妙なピラミッドが聳え立っていた……!えぇ、ここはビーダーの勇気を試すダンジョンだって?!
だったら挑戦して攻略するしかないぜ!!
 
 次回!『ビーダピラミッドを攻略せよ!』
 
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」
 
 
 
 
       

 



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