オリジナルビーダマン物語 第76話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第76話「キックオフ!ビーダマンサッカー!!」





 来たるべき南極大陸予選まであと5週間!
 それに向けてシュウ達仲良しファイトクラブは……!
 
「いぇーい!!」
 ブラジルのとある公園で、サンバを踊っていた。
 正確にはシュウだけだが。
 ダンサー達と一緒にラテンのリズムに乗ってシュウはノリノリで踊っている。
「って、なにやってんじゃお前は!!」
 ゴンッ!!
 ノリノリなシュウの頭に、タケルが拳骨を落とした。
「いってぇぇぇ!!」
 
 数日前。仲良しファイトクラブ。
「さぁ、南極大陸予選に向けて特訓だ!」
 ヒロトをメンバーに迎えた仲良しファイトクラブは、来たるべき南極予選に向けて士気を上げていた。
「でもさ、開催まで6週間って結構長いよなぁ。なんでこんなに期間空いてるんだ?」
「それはね。他の大陸予選が一週間ずつズレて開催されているからよ」
 彩音が説明した。
「へ、そなの?」
「えぇ。最初はアジア予選。その一週間後にアメリカ、その一週間後にアフリカ、ヨーロッパの順番でスケジュールが組まれてるみたいね」
「へぇ……あ、って事はさ。一週間ごとにその開催地に行けば、決勝戦を見られるって事じゃねぇの!?」
 シュウがハッと思いついたように言った。
「え、うん、そうなるけど……」
「おっしゃ、タケル!早速アメリカ行こうぜ!!」
 シュウは一人筋トレに励んでいるタケルの所へ駆け寄って提案した。
「って、いきなりだなお前は……」
 タケルはトレーニングを一旦中断して怪訝な顔をしてシュウを見た。
「いいじゃねぇか!練習なんでどこでだって出来るんだし。
大陸予選の上位2人が本戦に出て、4人が敗者復活戦に出てくるんだ。試合見ておいて損は無いって!」
「そりゃそうだが……一週間ごとに各大陸巡るってかなりハードなスケジュールだぞ」
 金銭面ではなくスケジュールが厳しいと言うのがタケルらしい。
 実際、世界一周旅行などタケルや彩音達の財力があればどうという事は無いのだろうが。
「ほぉ、お前にしては良い事考えるな。俺は賛成だ」
 と、シュウに賛同したのは意外にもヒロトだった。
「ヒロトさん……?」
「これを機に世界のビーダーの戦いを生で見るのも悪くない」
 ヒロトは不敵に笑った。
「さっすがヒロト!話が分かるぜ」
「お前に呼び捨てされる筋合いはない」
 ヒロトへ笑顔を向けるシュウだが、ヒロトは素っ気ない。
「あ、ヒロ兄が行くならあたしも行く……!」
 琴音がおずおずと参加表明した。
「琴音、お前もか……」
 タケルは頭を抱えた。
「多数決で決定だな、タケル!」
「多数決、なのか、これは……?」
 他のメンバーの意見は聞いていないが。
「ったく、まぁいいか。不可能な企画じゃないし、確かに後に戦うかもしれないビーダーのバトルを生で見るのはプラスにはなる」
 タケルはしぶしぶながらもシュウの意見を受け入れた。
「へへっ、やった!」
 シュウは小さくガッツポーズした
「あ、じゃあ私も……」
「お前は留守番だ」
 立候補しようとしたリカへ間髪入れずにタケルは言った。
「えぇ~!」
「当たり前だ。お前は俺達が留守の間のクラブの管理が仕事だ」
「そんなぁ。シュウ先輩のマネージメントも仕事ですよ~!」
 リカが頬を膨らませながら不満げに声を荒げる。
「アホ。今回は見学目的でビーダマンは酷使しないんだから必要ない」
「タケル先輩のいけず……」
 リカはシュンと項垂れてしまった。
 と、そんなわけでシュウ、タケル、ヒロト、琴音、彩音の5人は、南アメリカ大陸予選の決勝を見るために開催国のブラジルへ飛んだのだった。
 
「全く、決勝の見学するためだって言ってたお前が、いきなり遊んでるんじゃない」
「ちぇ、いいじゃねぇか、ちょっとくらい……」
 先ほど殴られてまだ痛む頭を抑えながらシュウは涙目になった。
「何いつまでも騒いでいるんだ。そろそろつくぞ」
 ごたごたして遅れているシュウとタケルを、琴音と彩音と並んで少し先を歩いているヒロトが非難する。
「あ、すみません……!」
「へ~い」
 ヒロトに言われて、シュウとタケルは慌てて三人の後を追った。
 そして、5人は大きなドームの前に辿り着いた。
「おお、でけぇ……!」
「これが、かの有名な『エスタジオ・ド・マラカナン』か……」
 タケルが感嘆の声で呟いた。
「世界最大のサッカー専用スタジアム。ブラジルでの南アメリカ大陸予選決勝はここで行うのね」
 いつものように彩音が解説する。
「くぅ~、こんなすげぇ所でバトルすんのかぁ!!」
 ドームを見上げながら、シュウは身震いした。
「試合は明日だから、ドームには入れないけどね~」
「今日の所は、近くに予約したホテルで一泊して、ゆっくり休みましょう」
「え~、せっかくここまで来たのに、もうホテル行くなんてもったいないぜ!そこら辺のビーダーに勝負仕掛けようぜ!!
ブラジルの奴らがどんなバトルするのか気になるし!」
「あのねぇ……いくらなんでもそこら辺にいる子達が皆ビーダーなわけないでしょ……」
 琴音は呆れながら突っ込んだ。
「いや、そうとも限らん」
 ヒロトが口を挿む。
「ヒロ兄?」
「事前に調べておいたんだが、マラカナンの周辺にはフットサル場がいくつかある。
そこで期間限定だが、ビーダマンの設備も置いているらしい。そこへ行けば一汗かけるだろう」
「マジで!?さっすがヒロト!!早速行こうぜ!!」
「お前に呼び捨てされる筋合いはない」
 ヒロトはシュウへツッコミを入れるが、シュウはそれを聞かずにさっさと駆け出した。
「ちょ、ちょっとシュウ!せめて場所聞いてから走りなさいよ!!」
「落ち着きのない奴だ……」
 他のメンバーもシュウの後を追いかけた。
 そしてフットサル場。
 シュウ達は受付を経て、場内へ入った。
 場内は、芝生の路面に両端の小さめのゴールと言ったフットサルとしての設備に加えて、ビーダマンをプレイできるフィールドも多く設置されていた。
「すっげぇ!!見た事ないフィールドがいっぱいあるぜ!!」
「さすがブラジル。サッカーを応用したビーダマンフィールドもあるのか……」
 場内では既に何人かのビーダーがビーダマンの練習をしている。
「やっぱ決勝前日だけあって、盛り上がってんなぁ!」
「皆、モチベーションを抑えられないんだろうね」
「くぅ!!俺も抑えきれないぜ!片っ端から勝負を挑むぞ!!」
 駆け出そうとするシュウだが、それをヒロトが制止した。
「待て。興奮する前に奴らのプレイを見ろ。この程度の奴らと戦っても何の糧にもならん」
「え、そ、そうか?結構上手いと思うけど」
「あぁ、結構上手い。だが、結構上手いだけだ。俺達とはレベルが違う。戦った所で時間の無駄だ」
 ヒロトの言葉が聞こえたのか、周りで練習していたビーダー達が一斉にこちらを睨んできた。
「ちょ、ヒロ兄……!」
「ここは、一旦離れましょう……!」
 居心地の悪さを感じた琴音とタケルが、その場を離れるよう促した。
 場内中央の施設から離れ、奥の方にある静かな場所を歩く仲良しファイトクラブのメンバー。
 ビーダマンの設備はあるものの、中央と比べれば人気は少ない。
「自分の力の無さも認められないとは、未熟な奴らだ」
 自分の失言のせいで場を離れなければならなくなったにも関わらず、ヒロトは悪態をついた。
「ヒロ兄はストレートに言い過ぎなんだよ……」
 そんなヒロトを琴音はやんわりと窘めた。
「まぁ、確かにあの場で言った所で俺達に得は無かったな。悪かった」
 ヒロトは表情を変えずに素直に謝った。
 少しずつだが、ヒロトの尊大な態度は改善されつつあるようだ。
 損得勘定で判断している所は相変わらずなのだが。
「はぁ~あ、ここじゃあんまビーダーいないじゃん。バトルしたかったのになぁ……」
 シュウは、周りのビーダーの数が激減してしまった事に嘆いている。
 その時だった。
 ドギュッ!ドギュッ!!
 鋭いビーダマンの発射音が聞こえてきた。
「こ、このショット……!」
「鋭いな」
「あっちの方だ!!」
 シュウとヒロトはビー玉の音が聞こえた方へ駆け出した。他の三人もその後を追う。
「いっけぇ!!」
 シュウ達が向かった先では、小柄な黒人の少年がフットサルのフィールドでサッカーボールを上に放り投げてそれをビーダマンで撃っている。
 ドギュッ!ドギュッ!!
 落ちてくるボールへ向かってビー玉を撃つ事でボールを落とさない様にしている。
 その様子を見ていたシュウ達は感心した。
「す、げぇ……!落ちてくるボールにあんなに正確にビー玉を当ててるなんて……!」
「さしずめ、ビーダマンリフティングと言った所か。ボールが地面に着く前に正確にボールの中心を狙わなければ出来ない芸当だ」
 ヒロトも、あの少年のテクニックを分析し、力を認めているようだ。
「あいつとだったら良いバトルが出来そうだな。丁度一人みたいだし……!」
 シュウはニカッと笑って少年の所へ駆け出した。
 
 ドギュッ!!
 一筋のビー玉が少年が浮かしていたボールを弾き飛ばす。
「え?」
 少年はビックリして振り向くと、そこにはビーダマンを構えたシュウが笑っていた。
「き、君は……?」
「へへへ、わりぃわりぃ!なんかお前のすげぇプレイ見てたらジッとしてられなくてさ!」
「僕の……?」
「俺の名前はシュウ!お前にビーダマンバトルを挑むぜ!!」
 シュウはブレイグを少年に突き付けて勝負を挑んだ。
「……」
 少年はしばらく考え込んでいたが、シュウの目を見て頷いた。
「分かった。その勝負受けて立つよ。僕の名前はカルロス。よろしく、シュウ!」
「おう、よろしくな、カルロス!」
「それじゃ、向こうに丁度いいステージがあるから案内するね」
 
 カルロスが案内したフィールドは、サッカー場を模したような台があった。
 両端に小さなサッカーゴールがある。
「見た事ないフィールドだな……」
「ルールはシューティングサッカー。このミニゴールの上にビーダマンを置いて、相手のゴール目掛けてビー玉を発射する。
制限時間内に多くビー玉を相手のゴールに入れた方の勝ちだ」
「へぇ、面白そう!」
 シュウはゴールの上にブレイグを置いた。
 すると、ブレイグの下にゴールキーパーのような人形が出現した。
「うわ、なんだこれ……!」
「それがゴールキーパー。上に置いたビーダマンと連動してキーパーも動くから、相手のビー玉を防御できるんだ」
「なるほどね」
 シュウとカルロスのバトルを他の4人は周りで見ている。
「さすがブラジル。ビーダマンとサッカーを見事融合させてるな」
 タケルは感心している。
「まずは様子見だ。あのビーダーの強さを見極めるか」
 ヒロトはカルロスのバトルに興味津々なようだ。
 
「さぁ、早速始めようぜ!」
「うん!」
 
「「レディ、ビー・ファイトォ!!」」
 ズドドドド!!
 合図と同時に二人が連射する。
 しかし、二人ともそこまで連射が得意ではないのか、勢いのわりに球数は少ない。
 
 バシュッ!バシュッ!!
「うわわ!!」
 シュウは撃つことに夢中になり、あっさりとゴールされてしまう。
「っ!」
 一方のカルロスは、撃つことを意識しつつもしっかりと防御している。
 得点はカルロスがどんどん加算している。
 
「シュウの奴、攻撃一辺倒で防御がダメダメだなぁ」
 タケルが呆れたように言う。
「いや、相手がこの競技に慣れているだけだ。アウェーでは、本当の力の差は分からん」
 ヒロトはつまらなそうに言った。対等な条件でないと判断し、真の実力が見られないと思ったから興味を失ったのだろう。
 
 試合がシュウが一方的に不利な展開だ。
「どうしたの?攻撃してるだけじゃ勝てないよ!」
「んな事言ったって……!」
 いつものバトルでは、防御は相手のビー玉を撃ち落とすか、もしくは避けていた。
 だから相手のビー玉にぶつかる事で防御する。と言う感覚がシュウにはないのだ。
「くそっ、こうなったら!!」
 シュウは思いっきりブレイグのホールドパーツを絞めつけた。
「いっけぇ!!」
 バシュッ!!バーーーン!!!
 凄まじいパワーショットが向かってきたカルロスのショットを全て弾き飛ばした。
「えっ!?」
 しかもそのスピードに対応しきれず、カルロスはゴールを許してしまう。
「よし!これなら防御も攻撃も同時に出来るぜ!!」
「……パワーショットの勢いで向かってきたビー玉を弾き飛ばし、そのスピードで僕のキーパーを突破するなんて……凄いビーダーだ……」
 点差ではカルロスの方が圧倒的に勝っている。
 しかし、咄嗟に思いもよらない戦術をとったシュウに、カルロスは驚いたような、それでいて嬉しそうな表情をした。
「勝負はこれからだぜ!」
「うん!」
 ドギュッ!ドギュッ!!!
 バトルは、徐々にシュウが差を詰めてきていた。
 連射は出来ないから大量得点は狙えないものの、相手の得点を許さずに着実に点を入れている。
「あと、少し……!制限時間は……?」
「あと、20秒!なんとか逃げ切れば……!」
「絶対追いついてやる!……あ」
 カチャッ!カチャッ!!
 ブレイグのトリガーが空撃ちした。
「くっそ、こんな時に玉切れかよ!」
「っ!」
 カルロスも同じようにトリガーを空撃ちしていた。
「ラッキー、相手も玉切れだ!リロード勝負だ!」
 シュウは急いでブレイグへ玉を込める。
 が、その瞬間にカルロスはビー玉を撃ってきた。
「え?もうビー玉込めたのか!?」
「僕の愛機『エースストライカー』は、玉切れでも問題ないんだ!」
 よく見ると、カルロスはゴールの上に転がったビー玉を、ビーダマンで踏んでいた。
 そして、踏まれたビー玉が勢いよく発射されている。
「なにぃ、なんだそりゃぁ?!」
「エースストライカーは、ショットを撃つ事も、シュートを撃つ事も出来る!!」
 
 その様子を見ている仲良しファイトクラブ。
「なんだ、あのビーダマンは……!」
「そっか、あのフット!つま先が上に沿っているから、ビー玉を踏む事で圧縮して射出出来るようになっているんだ!」
 彩音が解説する。
「つまり、サッカー選手がボールを蹴るみたいに、ビー玉をシュートしてるって事?」
「えぇ。あれならコアにビー玉をリロードする必要が無いから、リロードせずにダイレクトにビー玉を放つことが出来る……!」
「連射は出来ないが、ここぞという時の速射に優れているって事か」
「そ、そんなのアリかよ~!!」
 ビーーーー!試合終了のホイッスルが鳴る。
 結果は言うまでもなくカルロスの勝利だ。
「負けたぁ……」
「ふぅ、でも、あんな作戦を思いつくなんて、君も凄いよ」
 カルロスがシュウへ握手を求める。
 シュウはその手を握って笑った。
「へへへ、お前もさすがだぜ!こんなに強ぇんだ。明日の決勝に出るビーダーか?」
「うん。なんとか勝ち進めてきたけど。でも優勝できるかどうかはちょっと自信ないな」」
「大丈夫だって、お前ならいけるぜ!日本代表の俺が言うんだから間違いない!」
 その言葉を聞いてカルロスは目を丸くした。
「え、君って日本のトップビーダーなの!?」
「おう!日本一のビーダーで、いずれはヒンメルを倒して世界一になるんだ!!」
 調子に乗ってシュウは胸を張って言った。
「おいおい、正確には日本で二番目だろ、お前は」
 ジャパンビーダマンカップで優勝したタケルが割り込んできた。
「た、タケル~、余計な事言うなよ~!」
「あははは!でも二位でも凄いよ。それに、世界一になってしまえば同じなんだし」
「そうそう!そう言う事!」
 試合も終わり、一同和やかな雰囲気になる。
 しかし、その雰囲気をぶち壊すかのように、目つきの悪い少年達が数人フィールドに入ってきた。
「あっれぇ、あそこにいるのってカルロスじゃん?」
「ほんとだ。お前練習サボって何してんだよ」
 目つきの悪い少年達がカルロスへ絡んできた。
「あ、キャプテン……その……」
 急にカルロスは委縮してうつむいた。
「どうしたんだ、カルロス?知り合いか?」
 シュウが聞くと、カルロスは小さく答えた。
「う、うん。僕が所属してる、サッカークラブのメンバーなんだ……」
「って事は、お前のチームメイト……?」
 シュウがゆっくりとそのサッカークラブのメンバー達の方へ向いた。
「つっても、お前は万年ベンチで、一度も試合に出た事ないけどな!はっはっは!」
「んで、なんでお前は練習サボってこんなとこで遊んでんだ?」
 一際大きな少年がカルロスに詰め寄る。
「あ、その……明日はビーダマンの大会があるので、その練習だって、監督にも伝えたんですけど……」
 それを聞いて、少年たちは大笑いした。
「ぎゃはははは!!お前サッカーの試合に出られないからってこんなお遊び大会に出てたのかよ!ダッセェなぁ!!!
「……」
 バカにされて、カルロスは言い返せずに唇をかんだ。
「でもな、俺達だって大事なサッカーの試合が控えてんだよ。勝手は許せねぇな」
「だけど、僕は試合に出られないし……」
「お前は大事な雑用係なんだよ!そんな遊びの試合なんか棄権して、神聖なスポーツの試合に出る俺達のために働け!」
「そ、そんなぁ……!」
 随分と勝手な言い分だが、委縮してしまっているカルロスは涙目になるだけで、強く出られない。
「てめぇ……!」
「おい」
 我慢できずにシュウが食って掛かろうとした直後、ヒロトがドスの効いた声を出しながらキャプテンを睨み付けた。
「なんだぁ、お前?」
 キャプテンがヒロトを怪訝な目で見る。
「ビーダマンよりもサッカーの方が優れてるとでも言いたそうだな」
「あぁん?当たり前だ。ビーダマンは所詮子供のお遊び!サッカーはブラジルの国技だ!規模が違う!比べるまでもないね!!」
「なるほど。だったら試してみるか?ビーダマンとサッカー、どちらが強いか」
「はぁ?サッカーとビーダマンでどう勝負しようってんだよ」
「簡単だ。お前たちはサッカーをすればいい。俺達はビーダマンでサッカーをする」
 ヒロトは不敵に笑いながら、ルールを説明した。
「どういう意味だ?」
「頭の悪い奴だ。ボールを相手のゴールに入れて得点するのがサッカーだろう。俺達はビーダマンを使ってボールをゴールまで運ぶ。ただそれだけのルールだ」
「ひゃっはっは!おもしれぇ!それでサッカーとビーダマンが対等に戦えるってわけか!!良いぜ、受けてやる。コテンパンにしてやるよ!
そっちは人数が少ないようだから、ここはフットサルのルールで、5vs5やるぞ」
「ああ、その方が助かる」
 話がまとまると、サッカークラブの連中は反対側のベンチへ足を進めた。
 仲良しファイトクラブ達もベンチへ集まり、話し合う事にする。
「あ、あの、すみません、僕のために……」
 カルロスがヒロトへ頭を下げる。
「別にお前のためじゃない。こっちの方が面白そうだと思っただけだ」
 ヒロトは照れ隠しでもなんでもなく本気で言った。
「え……?」
 そんなヒロトの態度に、カルロスはどう返答していいか戸惑ってしまった。
「あ、はは。なんかごめんね、変なことになっちゃって」
 ヒロトに変わって琴音がカルロスへフォローした。
「だけどカルロス!これはチャンスだぜ!あいつらにお前の凄さを見せ付けてやろうぜ!!」
「う、うん……だけど、キャプテン達、サッカーほんとに強いし……僕なんかで勝てるかな……」
 カルロスは自信無さげに呟く。
「何言ってんだよ!お前だってビーダマンめっちゃ強いじゃねぇか!それに、お前、サッカーだってビーダマンと同じくらい好きなんだろ?」
「え……?」
「サッカーボールリフティングしてたり、ビーダマンのバトルでシューティングサッカーを選んだり。ビーダマンもサッカーも同じくらい好きじゃないと、そこまでしないぜ」
「……」
 シュウに言われて、カルロスはハッとした。
「頑張ろうぜ、カルロス!」
「うん!」
 カルロスはしっかりと頷いた。
「よし、それじゃタケル。お前はキーパーだ」
 ヒロトはいきなりタケルに告げた。
「うぇ!?」
 ビーダマンが使えるルールとはいえ、キーパーがビーダマンを使うメリットは無い。
「俺、サッカーは素人ですよ……?」
「お前の図体が一番キーパー向きだからな」
 ビーダマン使わなくても、身体の大きなタケルなら問題ないと判断したのだろう。
「……分かりました。分かりましたよ」
 キーパーの心得があるわけではないが、確かにヒロトの言う通り、他のメンバーに任せるよりはタケルが一番適任だろう。
 タケルはしぶしぶと頷いた。
 
 そして、両チーム揃い、フィールドに中央に集まった。
「こんな試合に時間かけるのも面倒だ。先に2点入れた方が勝ちで良いか?」
 キャプテンが言う。
「ああ。好きにしろ」
「じゃあキックオフだ。最初はお前達からのボールでいいぜ」
「おっしゃ、じゃあ俺から行くぜ!」
 シュウがボールを中央へ置く。
 そして、そのボール目掛けてビー玉を撃った。
「いっけぇ!」
 ボムッ!
 しかし、上手く当たらなかったのか、ボールはあらぬ方向へと転がっていく。
「うわわ!しまった!」
「はっはっは!大したもんだな、ビーダマンってのは!」
 サッカーチームの一人が、フリーになったボールを保持し、そのままドリブルする。
「くっそー!」
 自分のミスを取り戻すために、シュウはドリブルしている少年へ突っ込んでいった。
「遅い遅い!」
 ドギュッ!!
 シュウがボールへ向かって撃つのだが、サッカー少年はそれを巧みに躱し、前に出ている他のメンバーへパスを出す。
「へいパス!」
「おう!」
 受け取った少年の前にはディフェンスが誰もいない。
「はっはっは!フリーだぜ!このまま先制点いっただき!!」
 ゴールを決めようと、脚を振り上げた。その瞬間。
 ドギュッ!
 一発のビー玉がボールへヒットし、ボールはフリーになった。
「なにっ!周りに誰もいないのに……!」
 少年は辺りを見回す。すると、遠くからヒロトがボールを狙っている事に気付いた。
「あ、あんな遠くからボールをクリアしただと……!」
「これがビーダマンを使うメリットだ。いつものサッカーじゃありえないだろ?」
「そっか!脚しか使えないサッカーに対して、ビーダマンは遠くから狙えるんだ!よーし!!」
 ダッ!!
 シュウは駆け出して、フリーになったボールへパワーショットを放った。
 ボムッ!
 ショットはボールの下側にヒットし、ボールが空中へ放り出される。
「あ、あんな高い位置に……!」
「落ちてくるまで何も出来ないぞ!」
 戸惑うサッカー少年達。しかし……。
「カルロス!お前の得意技見せてやれ!!」
「あ、そうか……!」
 カルロスは空中にあるボール目掛けて連射した。
「なにっ!」
 ボールはまるでお手玉のように空中で何度もバウンドし、ゴールへ向かっていく。
「あとは、お願いします!」
 そして、カルロスは、ゴール前で待つ琴音へとパスした。
 ボールが琴音の前に落ちる。
「任せて!」
 ディフェンスは誰もいない。キーパーとの一騎打ちだ。
「けっ!でも女の子のシュートに負けるかよ!」
「ビーダマンの力、舐めないでよね!」
 ドギュッ!!
 琴音は得意のコントロールで、ボールの真心へショットをぶつけた。
 ボールが勢いよくゴールへ飛んでいく。
「な、なんだこの威力のシュートは!?」
 人間が蹴るよりも、ビーダマンのショットの方が圧倒的に強い。
 今までに経験した事の無い強いショットに、キーパーはフッ飛ばされてしまった。
「まずは一点。だな」
 ヒロトが不敵に笑った。
「ば、バカな……!」
 キャプテンが歯ぎしりをする。
「確かに琴音は俺達の中ではパワーは無い。が、それでも人間の脚力とビーダマンのショットでは力が違い過ぎるという事だ」
「なるほど……遠距離からの攻撃、そして人間離れした威力……確かに、ただサッカーやってるだけじゃ出来ない芸当だ……」
 歯ぎしりしながらも、キャプテンは口元をつり上げた。
「だが、ここからは俺達のターンだ」
 
 今度はサッカークラブのキックオフだ。
 キャプテンがボールをドリブルしながらゴールへ向かう。
「ビーダマンでの戦い方は分かったぜ!遠くからでも、すぐにボールを奪ってやる!!」
 ドンッ!!
 シュウはキャプテンの保持するボール目掛けてパワーショットを放った。
「甘い!!」
 キャプテンは素早い足捌きでボールをコントロールし、そのショットを躱す。
「なにっ!」
「だったら連射で!」
 今度は琴音が、数撃ちゃ当たる戦法で連射する。
「きくかぁ!!!」
 ズンッ!!
 今度は、ボールを足で押さえつけて、琴音の連射に耐えた。
「そんなっ!」
「ビーダマン、大した威力だ……しかし、全力で押さえつけていれば耐えられる!!」
 堪えきったのちに、再び走り出した。
「俺達の攻撃が通じない……!」
「お前達ビーダマンの武器が、遠距離戦と威力なら、こっちは白兵戦だ!
常に肌身離さずボールをキープしていれば、ボールコントロールに勝る俺からボールを奪う事は出来ない!」
 キャプテンはあっという間にゴール前に来た。
 タケルと一騎打ちだ。
「タケルー、頼む!!」
 シュウが叫ぶが、タケルはもうヤケクソ状態だ。
「ちぃ!こうなりゃヤケだ!」
「おらぁ!!!」
 タケル目掛けてキャプテンは強力なシュートを放つ。
「くそっ、身体のどこかに当たれ!」
 ガッ!!
 タケルは身体を張って、腹にシュートを受けながらもボールを弾いた。
「よしっ!」
 しかし……。
「フォワード!」
「了解!!」
 すぐに控えていた別の少年がそのボールをフォローし、シュートした。
 タケルは咄嗟に反応できず、ボールはゴールネットに吸い込まれてしまう。
「タケル~、しっかりゴール守れよ~」
「む、無茶言うなっ!!」
 タケルは腹を抑えながら涙ながらに叫んだ。
「やはり一筋縄ではいかないか」
 と言うヒロトはどこか冷静だ。
「やっぱりキャプテンは強い……僕じゃ、勝てないよ」
 カルロスは悔しげに俯いた。
「そうだな。お前じゃ勝てないだろうな」
「……」
 ヒロトに厳しく言われ、カルロスはますます意気消沈する。
「だが、これはお前だけの戦いじゃない」
「え?」
 カルロスは顔を上げる。
「お前が受けた侮辱は、ビーダー全員への侮辱だと言う事を忘れるな。お前が勝てなければ、この侮辱は拭えない事もな」
「……」
 
 そしていよいよラストラウンドだ。
 ビーダーチームのキックオフからスタート。
「あいつらにボールは渡せねぇ……こうなったら、最初からゴールを狙うぜ!」
 シュウはパワーショットをボールにぶち込んだ。
 バシュウウウウ!!!
「ろ、ロングシュート!!」
 一瞬ビビるサッカー少年達。しかし……。
「いや、追いかける必要はない」
 キャプテンはボールの軌道を読んだ。
 ボールは勢いこそあるものの、見当違いの方向へ飛んでいたのだ。
「くっそぉ、外した……!」
「やっぱりビーダマンはボールのコントロールには難があるな!」
 あっさりとボールは敵に渡ってしまった。
 キャプテンがボールをキープして、ドリブルで迫ってくる。
「まずいよ!このままじゃまたさっきの二の舞になっちゃう!!」
「くっそぉ!!」
 ドギュッ!ドギュッ!とボールを奪おうとするが、足で巧みにコントロールしているボールには当たらない。
「ははははは!!やっぱりビーダマンは子供のお遊びだったな!サッカーに勝てるわけがない……って、なにっ!」
 突如、キャプテンの目の前に人影が現れた。
 その人影は、素早くスライディングして、キャプテンのボールを奪い取った。
「て、てめぇ……!」
「ヒロ兄……!」
 それは、ヒロトだった。油断していたとはいえ、サッカー素人とは思えない見事なスライディングでキャプテンからボールを奪ったのだ。
「ひ、卑怯だぞ!ビーダマン使ってねぇだろ!!」
「俺達はビーダマンを使うとは言ったが、脚を使わないと言った覚えはない」
 ヒロトは鬼畜な笑みを浮かべた。
「なっ!」
「上がれ!カルロス!!」
「え、は、はいぃ……!」
 ヒロトに言われるまま、カルロスはゴールへ向かっていく。
「ビーダマンじゃ、正確にパスするのは難しいからな」
 ヒロトはまた足を使ってボールをカルロスの前へと飛ばした。
 ゴール前、ボールを挟んでカルロスとキーパーが対峙する。
「カルロスゥ!てめぇ俺達に逆らえると思ってんのか!この俺を相手に一度でもゴールした事があったか!?」
 キーパー少年がカルロスへガンを飛ばす。
「うっ!」
 それにビビッてなかなかシュートが討てないカルロス。
 キーパー少年の言うとおり、カルロスはこの少年を相手にゴールを決めた事が無いのだ。
「カルロス!お前ならいける!早く撃てー!」
「シュウ……!」
「お前はサッカーもビーダマンもどっちも好きなんだろ!どっちかじゃなくて、どっちも好きなんだろ!それを見せてやれぇ!!」
 その声援を受けて、カルロスの中に勇気が芽生えた。
「そうだ……僕は、サッカーもビーダマンも……どっちも好きなんだああああ!!!!」
 カルロスは渾身の力を込めてショットを放った。
 ボールは空気を切り裂きながらブッ飛び、ゴールへ吸い込まれていった。
 勝負はビーダーチームの勝ちだ。
 試合終了後、カルロスとサッカーチームのメンバーが対峙する。
「きゃ、キャプテン……あの……」
「……勝負はお前の勝ちだ」
 キャプテンはぶっきらぼうにそう言うと、踵を返した。
「あの!僕、ビーダマンもサッカーも同じくらい大好きなんです!
今は、ビーダマンの試合に出ますけど、サッカーも試合に出られるくらい強くなります!必ず強くなります!!」
 カルロスはキャプテンの背中に向かってありったけの力で叫んだ。
「……勝手にしろ。ただし、負けるんじゃないぞ」
 それだけ言うと、サッカーチームたちはゆっくりと歩き出して行った。
「はい……はいっ!!」
 その背中に向かって、カルロスは大きく返事をした。
 
      つづく
 
 次回予告

「南アメリカ大陸は見事カルロスの優勝!いやぁ、すげぇバトルだったなぁ!
さて、お次は北アメリカ大陸の予選だ!どんな奴が出てるのかな~!楽しみだぜ!!
 次回!『ハリウッドのヒーロー!』
 
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」

 

 



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