オリジナルビーダマン物語 第75話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第75話「極めるべき強さ」



 ヒロトの入院している中央総合病院前。
 琴音がその入口へ入っていく。
(今日はタケル達がアジア予選から帰ってくる日だから、少し早めに帰らないとね)
 毎日、時間ぎりぎりまでお見舞いに通っている琴音はそんな事を考えながらヒロトのいる病室へ足を運び、扉を開いた。
 開いた瞬間、昼下がりの日差しが眩しくて目を細めた。
 徐々に視界が開けてくる。
 視力が回復し、部屋の中を確認出来るようになると、琴音は驚愕した。
「ひ……!」
 ヒロトが、上半身を起こして呆けた顔をしていたのだ。
「……」
 虚ろな瞳をしたヒロトが、ゆっくりとその視線を琴音へ向けた。
「琴音……か?」
 口がわずかに動き、そこから琴音の名が発せられた。
「ヒロ兄!!」
 琴音は涙を浮かべながらヒロトへ抱き着いた。
「よかった……目が覚めたんだね……ヒロ兄……!」
「うっ……」
 少し苦しかったのか、ヒロトは呻いた。
「あ、ごめんっ」
 琴音は慌ててヒロトから離れた。
 ヒロトは呆けたまま、辺りをゆっくりと見回している。
「ここは……?」
 ぼんやりとした口調で琴音に問うた。
「病院だよ。タクマとのバトルの後、ヒロ兄は気絶して、それで……」
「そうか、あのバトルの後か……」
 ヒロトの中で、徐々に記憶が鮮明になってきた。
 表情もしっかりしてくる。
「なるほどな……確かに感じる。俺の中に、奴とのバトルの経験が。そして敗北の経験が確かにある」
 ヒロトの口元が吊り上る。
 何がおかしいのか、笑っているようだ。
「ヒロ兄……?」
 おおよそ入院している人間の表情とは思えないヒロトに、琴音はさすがに心配する。
「クックック……俺は、ようやく手に入れたようだ……。まだ体は万全ではないが、大した問題じゃないな」
 ヒロトはブツブツと何かを呟きながら、ベッドから出ようとしていた。
「ちょっ、ヒロ兄!?何やってるの?!」
 琴音は慌ててその体を押さえつけた。
「離せ。こんな所で寝ている場合じゃない」
「だ、ダメよ!まだ安静にしてなきゃっ!」
「黙れっ!もうお前に用はない!!俺はこの強さを自分の物にするために……!」
 バチンッ!
 病室に、軽い打撃音が響き、静まり返った。
 ヒロトは左頬にジンジンとした痛みと熱を感じながら琴音を見上げた。
「いい加減にして!皆が、どれだけヒロ兄の事心配してると思ってるの!?」
 振った右手を上げながら、琴音は涙ながらに訴えかけた。
「……」
 思わぬ叱責を受けて一瞬面食らったヒロトだが、すぐに平静に戻り、琴音に問いかけた。
「俺は、間違っているか?」
「え?」
 冷静に問われてしまい、琴音は答えに窮した。
「強さを求める事は、ビーダーとしての本能だ。俺はそれに従い、最も効率の良い行動をとっているに過ぎない。それは間違っているか?」
「……」
 琴音は良い返事が見つからず、黙っているとヒロトは動き出した。
 ベッドを降りて、部屋から出ようとする。
「待って!」
 琴音は寸での所で呼び止めた。
「あたしと勝負よ!」
 サンダーグルムを突きつけてそう叫ぶ。
「なに……?」
「言葉でビーダーを止める事は出来ない。なら、あたしの力を見せる!仲良しファイトクラブにいるからこそ強くなれたあたしの力を!
そして、ヒロ兄のやり方じゃ強くなれない事を証明する!!」
 強さを求めるヒロトの無茶を止めるには、もうこれしかない。
 ヒロトの行動は無意味だと、自分の力を見せ付ける事で証明するしかないのだ。
「……面白い」
 ヒロトは一瞬考えたが、琴音の挑戦を受けた。
 
 
 一方、東京国際空港。
 アジア予選を戦い抜いたシュウ達が日本に戻ってきた。
 空港では仲良しファイトクラブの後輩達がシュウ達を迎えに来ていた。
 
「お疲れ様です、先輩たち!」
「アジア大会、惜しかったですけど凄い感動しました!!」
「南極大会頑張ってください!!」
 口々にシュウ達の健闘を称えてくれる。
「ははは、サンキュ!敗者復活戦では絶対に勝って、本戦出場してやるぜ!」
「そのためにも、南極大会に照準を定めて特訓あるのみだな!」
「シュウ先輩なら絶対に優勝間違いなしですよ!」
 と、ここで彩音が出迎えてくれた人らの中に誰かいないことに気付いた。
「あれ、琴音ちゃんは?」
 後輩達は全員出向いていると言うのに、最も付き合いの長い琴音の姿が無いのだ。
「ほんとだ。ことねぇいない」
「アジアを戦ったシュウ先輩を迎えに来ないなんて、冷たいですねぇ」
「ヒロトさんのお見舞いで忙しいんだろう。とりあえずクラブに戻ろう」
 タケルがそう言うと、全員クラブへ向かう事にした。
 
 仲良しファイトクラブに戻った一同は、扉を開けた瞬間に驚愕した。
 クラブには既に二人の人影があった。
 そのうちの一人は琴音。もう一人はヒロトだったのだ。
 琴音とヒロトは、競技台を挟んで対峙していた。
 
「こ、ことねぇ!?それに……!」
「ヒロトさん!」
 入るなり、シュウとタケルが声を上げた。
 それに気づき、琴音とヒロトが練習場に入ってきたシュウ達の方を見た。
「あ、みんな……おかえり」
 琴音はハッとして、間の抜けた事を言った。
「おかえり、じゃねぇよ」
「ごめんね、ちょっとごたごたしてて迎えに行けなかった」
「そう言う事でもなく」
 琴音は迎えに来なかった事を主に謝っているが、今はそんな場合ではない。
「ふっ、丁度いい時にギャラリーが揃ったな」
 ヒロトが小さく笑った。
「ヒ、ヒロト君……!目が覚めたの!?」
「どうしてここに!?」
 彩音とタケルの問いに、ヒロトはそっけなく答えた。
「ビーダー同士がバトルをするために対峙する。ただそれだけの話だ」
「それだけって……」
 納得は出来ないが、ヒロトにこれ以上答えるつもりが無いのを感じた彩音はそれ以上は追及できなかった。
「琴音、これは一体どういう事なんだ?」
 タケルは代わりに琴音に問いただした。
「ヒロ兄を連れ戻す。そのためのバトルなの!お願い、黙って見てて」
「な、なに言ってんだ、お前。勝手な事を……!」
 タケルが琴音を止めようと前に出た。が、それをシュウが止めた。
「タケル。わけわかんねぇけど。ヒロトの言うとおりだぜ。ビーダーが戦うのに理由なんかねぇ。それを止める事だってできねぇよ」
「だ、だが……!」
 仲良しファイトクラブの大事なメンバーと、そして元エースがクラブの中でバトルをする。
 これはタダゴトではない。リーダーのタケルとしては放っておけない。
「タケル君。琴音ちゃんを信じてあげよう。あの二人が、何の意味もなくこんなバトルをするわけがない」
 場をなんとなく察した彩音がタケルに言った。
「彩音さん。……そうですね。琴音、レフリーは俺が務めてやる」
 彩音に諭されて、タケルは納得したように頷いた。
 そして、競技台の横に付いた。
「だが、戦う以上は仲良しファイトクラブの一員としてその強さをしっかり見せ付けるんだぞ!」
「そんなの、分かってるわよ!」
 琴音はヒロトに鋭い視線を送りながら答えた。
「この競技台。ルールはパワープッシュか?」
 二人が対峙している競技台は、中央にバーが五本設置してある。
 パワープッシュによく似た競技台だが、少しディティールが違うように感じる。
 見た事ない競技台に疑問を抱くタケルに対し、ヒロトが説明した。
「ルールは、『ラピッドプッシュ』。一見パワープッシュと同じだが、中央のバーはどんなに強いショットでも一撃では一定の距離しか押し込めないようになっている。
デフォルトでは5発当てれば押し込める設定だ。連射重視の俺と琴音のバトルにはピッタリのルールだ」
 勝つためには最短でも15発は撃たないといけない。
 もちろんバトルが拮抗すれば拮抗するほど撃たなければならないビー玉の数は増える。
 連射スピードがものを言うバトルだ。
 ルールも理解できたので、タケルは審判としてスタートの合図をする。
「それでは、行きますよ。レディ、ビー・ファイトォ!!」
 スタートと同時に両端から怒涛の連射が吹き荒れた。
 ガンッガンッガンッ!!と一発ずつ確実にバーを押し込んでいく。
 
「よしっ!」
 まず琴音が一本バーを押し込んだ。
「琴音、1ポイント!」
 タケルが言う。
「へっへーんやったぜ!ことねぇがリードだ!!」
 琴音が先制点を取った事に、シュウは歓喜を上げた。
 琴音の表情も緩んでいる。
 しかし……。
「誰がリードしているって?」
 ヒロトが余裕の笑みを浮かべながら言った。
「え?」
 よく見ると、琴音が押し込んだバー以外の4本が全て4発分押し込まれていた。
「ほ、他のバーが……!」
「あと一回撃たれたら押し込まれますよ!?」
「ヒロトさんは、琴音が5発撃ってる間に16発撃ったって言うのか……!
元々、琴音が一点集中の連射を得意とするのに対して、ヒロトさんは広範囲の乱射を得意とする。だが、その連射スピードは圧倒的だ……!」
 タケルが戦々恐々としながら解説する。
 そしてその強さは、実際に戦っている琴音が一番感じていた。
「ヒロ兄、前に戦った時よりもずっと強くなってる……!」
 たじろぎながらも、次の攻撃を行うためにマガジンにビー玉を補給する。
「これが、タクマとのバトルの末に手に入れた力だ。これでも俺が間違っていると言えるか?」
 ヒロトもジャラジャラとマガジンに大量のビー玉を流し込んだ。
「っ!それでも、あたしは負けない!」
 装填が完了した琴音が自分が押し込んだバーのすぐ隣のバーへ連射を放つ。
「はぁぁぁぁ!!」
 ヒロトも装填が完了し、乱射を放った。
「くっ!」
 カンッ!カンッ!カンッ!
 と、あっという間に2本のバーが押し込まれてしまう。
「あ、あっという間にヒロトの奴が逆転しちまった……!」
 もう二本のバーはなんとか琴音が防御したおかげで押し込まれずには済んだ。
 しかし、真ん中のバーはあと1発で押し込まれ、重点的に防御していたもう一本のバーはあと3発で押し込まれてしまう状態だ。
 
「そろそろ終わりか?」
 両者弾切れになり、ビー玉を装填する。
「か、勝てない……!」
 淡々とビー玉を流し込むヒロト。
 それに対して琴音は、ヒロトとの実力差を目の当たりにして戦意喪失しかけていた。
 その様子を見ているシュウ達。
「な、なんかことねぇ、いつもより連射が遅い気がする」
「琴音の奴、完全にヒロトさんに気後れしてるな」
 タケルが言う。
「え?どういう事だよ、それ……!」
「無理もないわ。ヒロト君は、琴音ちゃんにとって大きな存在だったんだから」
 彩音の口調も、どこか諦めが入っていた。
「そ、それじゃあ琴音が負けるってのかよ!」
 シュウは二人を責めるように声を荒げた。
「そういうわけじゃないけど」
「元々の実力差はあった。だが、それ以上に相性が悪すぎる。今の琴音がヒロトさんに勝とうとするのは酷かもしれない」
「な、なんだよ!そんなの、わけわかんねぇよ……!」
 二人の言い分にシュウは納得がいかないのか、拳を握りしめた。
 琴音は虚ろな表情でサンダーグルムを眺めていた。
「あたしは、所詮ヒロ兄の影を追ってただけ……そんなあたしじゃ、ヒロ兄には……!」
 手が止まり、奥歯を噛みしめてうつむいた。
「それでも、負けたくない……!負けたくないのに……手が動かないよ……!!」
 悔しそうに手を震わせる。
 そんな琴音へ一際大きな声が耳に届いた。
「ことねぇーー!絶対に負けるなぁ!!」
 シュウが、必死に琴音へ声援を送っていた。
「シュウ……」
 琴音は力ない表情のまま、シュウの方を向く。
「相手がヒロトだろうが関係ねぇだろ!先輩だろうが憧れの人だろうが、今はバトルしてるビーダー同士だ!!勝たなきゃいけねぇライバルだろ!!」
「ヒロ兄が……ライバル……」
 シュウの言葉を受けて、琴音は考えた。
 そう言えば、自分はヒロトを絶対に勝ちたい相手として見た事があっただろうか?
 
 ヒロ兄とずっと一緒にビーダマンがしたい。
 例え勝てなくても、ヒロ兄とバトルがしたい。
 負けても良いから、自分の本気をぶつけたい。
 ヒロ兄に、自分の力を認めてほしい。
 
 今までずっと、ヒロトに対していろいろな事を願っていた
 だけどその中に一つも『ヒロトに勝ちたい』と言うものがなかった。
 それどころか、半ば勝利する事を諦めた願いばかりだった。
 
 負けても良いから本気で……。
 違う。ビーダーは本来そんな事を願ってはいない。
 それはただの妥協。諦めを望む人なんてどこにもいない。
 誰だって、誰が相手だって、本当は……
 『勝ちたい』って心の底では願っているはずなんだ!
(そっか、あたし、ほんとは……)
 琴音はヒロトをキッと見据えた。
「ヒロ兄!あたし、このバトルに絶対に勝ちたい!」
 凛とした表情でそう告げた。
 全力で戦いたいのでも、認めてほしいのでもない。
 ただ単純に『勝ちたい』と、琴音は初めてビーダーとして当たり前の本当の願いをヒロトに告げた。
「なに……?」
「当たり前の事だけど、あたしはヒロ兄に勝つためにこのバトルをしているんだ!!」
 そして琴音はサンダーグルムを構えて押し込まれているバーへ連射を放った。
「この俺に勝てると思っているのか!?」
 ヒロトも対抗するように琴音が押し込んでくるバーへ連射する。
 しかし……!
「なにっ!?」
 徐々にだが、琴音がヒロトを押している。
「くっ!」
 それは、琴音の連射スピードがヒロトの連射スピードを上回っている証拠だ。
「すっげぇぜことねぇ!いつもの連射だ!!」
「一本勝負となれば、命中精度に優れているサンダーグルムの方が若干有利だが。それでもヒロトさんの連射を抑えるとは……!」
「もしかしたら、もしかするかもしれませんね!」
 精彩を取り戻した琴音のショットに仲良しファイトクラブの面々は盛り上がる。
 
「くそっ!俺が琴音如きに、押されているだと……!」
 カンッ!カンッ!ガシュッ!!
 そしてついに、琴音がバーを押し込み切った。
「やったっ!」
「これで2vs2のイーブンだ!」
 タケルがポイントを告げる。
「おっしゃぁ!まだまだ勝負は分からないぜ!」
「だけど、残りのバーはヒロト君の方が押し込んでいる。あと3発受けたらヒロト君に負ける……!」
「だったらそれ以上の連射をするだけだぜ!いっけぇ、ことねぇ!!」
 仲良しファイトクラブの声援を受けて、琴音の表情はどんどん精悍になっていく。
 その姿を見て、ヒロトは動揺した。
(バカな……。ビーダーとしての実力は俺の方が圧倒的に上。だが一時的とはいえ、さっきの琴音の連射は俺を上回っていた……。
あの竜崎とか言う奴の声援を受けたからか……?いや、たかがそれだけの事で……!)
 ヒロトは懐から特殊なビー玉をヴェルディルに込めて狙いを定めた。
「だが、これで最後だ!あとは先に3発当てれば俺の勝ち!」
「いっけぇ、サンダーグルム!!」
 ズドドドド!!!
 琴音とヒロトが同時に一本のバー目掛けて連射する。
 しかし、ヒロトのショットの方が圧倒的に速い。
「は、早い!?」
「ストライクショット、スピード弾!!」
 この競技に威力は関係ない。
 ならばスピードの出る玉で先に三発当ててしまえば良いと判断したのだろう。
 カンッカンッ!!
 ヒロトのスピード弾が電光石火の勢いで二発当たる。
 しかし、三発目が当たる寸前に琴音のショットがヒットしたおかげで、なんとか首の皮一枚繋がった。
「は、はぁ……!」
「ちっ、持ちこたえたか」
 
「っぶねぇ~!ギリギリだぜ」
 シュウは冷や汗を拭った。
「でもこのままじゃ琴音先輩が完全に不利ですよぉ!」
「ことねぇ!こうなりゃこっちもストライクショットだ!スピード弾で反撃だぜ!!」
 
 琴音はシュウの言葉に頷いた。
 しかし、その直後。
「待って琴音ちゃん!スピード弾じゃなくて分身弾を使って!」
「え?」
 思いがけないアドバイスに、琴音は彩音の方を見た。
「入れてないの!?」
「えっと……」
 琴音は自分のセットしたストライクショットを確認した。
 入っているのは、スピード弾とインパクト弾と分身弾だった。
 一応何があっても良いように自分の連射戦術と相性が良くて、尚且つ性能がバラバラな物を一個ずつ入れていたのだ。
「あ、あるけど……」
「だったら、分身弾を撃ってから連射をして!!」
「う、うん……分かった!お姉ちゃんを信じる!」
 琴音はスピード弾ではなく分身弾をグルムにセットした。
 
「いっけぇ!!」
 琴音は分身弾を先頭に連射を放った。
「この競技に分身弾など……!」
 ヒロトは、直接玉がぶつかり合わないこの競技に分身弾は意味がないと思っていた。
 だが。
 バッ!
 分身弾がバーにぶつかると、その衝撃で中から小さな鉄球が飛び出した。
 そして、後から来たビー玉に弾かれる形で、その二つの玉が再びバーに激突する。
 後から来たビー玉もそれに続いてバーにぶつかり、どんどんヒロトのほうへ押し込んでいく。
「なにっ!分裂した玉を後ろから弾く事でヒット数を稼いでいいるのか!?」
 スピード弾やインパクト弾を撃たずに、分身弾だけを撃って連射したからこそ出来る技だ。
「雷光一閃!」
「くっ!!」
 あとは、琴音の有利な一点集中の連射勝負だ。
 
「いっけぇ、ことねぇ~!!」
「頑張ってください!!」
「琴音ちゃん、負けないで!!」
 皆の声援を受けながら、琴音は徐々にヒロトを押し切り、そしてバーを押し込んだ。
 
「勝負あり!3vs2で、この勝負琴音の勝ち!!」
 タケルが判定を下した。
 
「「「やったぁぁ!!!」」」
 周りで見ていた皆が琴音の元へ駆け寄った。
「勝ったぜ、ことねぇ!あのヒロトに勝ったんだ!」
「凄かったです、琴音先輩!!」
「やったね、琴音ちゃん!」
「ありがとう、皆のおかげだよ!」
 やんややんやと盛り上がる琴音達を眺めながら、ヒロトは呆然としていた。
(なぜだ……なぜ、俺は負けた……。病み上がりとはいえ、実力では俺の方が勝っていたはず。
しかも、タクマとのバトルで、俺の力は数段にも上がっていたにも関わらず……)
 ヒロトは、満面の笑みで皆に囲まれている琴音を見ながら、冷静にバトルの分析する
(あの時の琴音は、竜崎の一喝で力を出し、彩音のアドバイスで戦況を打破し、そして仲間たちの声援を受けて闘っていた……仲間……?仲間の、力なのか……?)
 それに気づいたヒロトは、奥歯を噛みしめた。
(だが、今の俺に、そんなものは……手に入らない……)
 敗因に気付けた。打開策も分かった。
 しかし、それを実行する事は今の自分に出来ない。
 その事に絶望感を感じていた。
 その時だった。
「ヒロ兄」
 声をかけられて顔を上げると、琴音が微笑みながら右手を差し出していた。
「……何の真似だ?」
「握手だよ。戦っている時はライバルでも、バトルが終わればビーダー仲間だから」
「仲間……」
 呟きながら、琴音の手と顔を交互に見た。
 その背後では、仲良しファイトクラブのメンバー達が笑顔でヒロトを見ていた。
 それは、先ほどのバトルを称え、受け入れてる表情だった。
(俺にも、手に入れらるのか……?)
 ヒロトは、少し躊躇いつつも琴音の手を握った。
 その瞬間、メンバー達から歓声が上がった。
「ヒロ兄……」
 琴音は嬉しいような安心したような顔でヒロトを見る。
「甘いな、お前たちは」
 ヒロトはブッきらぼうに言って、そっぽを向いた。
「だが、甘さが強さになる事もあるのかもな」
 視線を外しつつも、ヒロトはそう呟いた。
「ヒロ兄……」
 そしてヒロトは手を離し、タケルの方へ向いた。
「タケル」
「は、はい?」
 まさか話し掛けられるとは思ってなかったタケルは間の抜けた返事をした。
「以前、『考えてやる』と言ったな。……仲良しファイトクラブは強いチームになったようだ」
「え……」
 不意を突かれたような事を言われ、タケルはポカンとする。
 そんなタケルに構わず、ヒロトは頭を下げた。
「頼む。俺をこのクラブに入部させてくれ!」
 あの尊大なヒロトが頭を下げてお願いしている。
 信じられない光景に、皆が息を呑んだ。
「あ、も、もちろんです!歓迎しますよ!頭を上げてください」
 驚いたのと感激したのとで反応が遅れたが、タケルは慌ててヒロトのお願いに返事をした。
 それを聞いたヒロトは顔を上げた……と同時にフッと力が抜けたかのように地面に倒れた。
「ヒロトさん!!」
 倒れたヒロトを慌てて抱えるタケル。
「ヒロ兄!」
「だ、大丈夫!?」
 皆が駆け寄る。
 脈を測ったタケルが言う。
「……気を失ってるだけだ。病み上がりでこんなバトルをしたんだから、当然だろうな。すぐに救急車を呼ぼう」
「あたし、付き添うよ」
「ああ」
 ヒロトを琴音に任せ、タケルは電話するために奥へ向かった。
「ったく人騒がせな奴だよなぁ、ヒロトって」
 状況が大事ではないと分かり安心したのか、シュウが冗談っぽく悪態をついた。
「ヒロ兄は、ビーダーとしてどこまでも純粋なんだよ。ただ、それだけしかないから、どんな無茶も平気でするし、敵も作りやすいんだと思う」
 琴音はヒロトを見ながら慈しむように言った。
「あたしは、そんなヒロ兄を支えたいと思うし。そんなヒロ兄だからこそ、一緒にいて学べることもたくさんあると思うんだ」
 そう言う琴音の表情は、決意に満ちていた。
「そうだね。ヒロト君がクラブに入ってくれれば、これほど心強い事はないもんね」
 彩音が琴音の気持ちを汲んで頷いた。
「うん」
 琴音は再び、静かに眠るヒロトの顔を愛おしむように見つめていた。
 
 
 
      つづく
 
 次回予告

「敗者復活の南極予選が開催されるのは何週間も後!それまでジッとしてられるかっ!
って事で、俺達は他の大陸の予選を見学しに行く事にした!最初に目指すのは南アメリカ予選のブラジルだ!!
次回!『キックオフ!ビーダマンサッカー!!』
 
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」
 

 



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