爆砕ショット!ビースピリッツ!!
第71話「柔軟戦士!ヨガビーダー登場!!」
シンガポール。マーライオン広場。
『アジア予選第二回戦の舞台は、シンガポールのマーライオン広場だ!
身体は魚、頭はライオンのこの銅像が見守る中で、一体どんなバトルが繰り広げられるのか!?』
一回戦を勝ち抜いた仲良しファイトクラブも広場にやってきた。
「うわぁ、キレイな公園ですね~!」
「今度は一体どんな競技なんだろうね」
「マーライオンは珍しいが、特に競技に利用できるとは思えないしな。またステージ系競技になるか、それとも他になにか特設するのか……」
「シュウ先輩はどう思います?」
リカがシュウに話を振った。
「え、あ、あぁ、そうだな!次の試合も頑張らねぇとな!」
ハッとしたシュウは頓珍漢な回答をした。
「シュウ先輩……話聞いてました?」
リカが怪訝な顔をする。
「へっ?」
気が付くと、彩音もタケルも怪訝な顔でシュウを見ていた。
「い、いや、ごめん。ちょっとボーッとしてた」
「どうしたんだ、シュウ?なんか、一回戦終わってからずっとそんな調子だが」
「い、いや……」
“貴様、智蔵の孫か”
シュウは、一回戦の後タクマに言われたことが気になっていた。
(孫かぁ……)
あまり意識していなかった。
ビーダマンやってるのは、単に好きだからだし。
ブレイグを使っているのはたまたま家にあったから。
源氏派に対立しているのは、ただビーダマンを破壊するのが嫌だから。
智蔵の孫だからとか、そんなの意識した事もなかったのに。
でも、タクマは自分をそんな目で見ている。
その事がどうしても引っかかっていた。
「……」
黙り込むシュウを見てタケルは言った。
「何があったかは知らないが、試合には集中しろよ。世界はそんなに甘くない」
「わ、分かってるよ!」
シュウは惑いながらも返事をした。
『それでは、いよいよ第二回戦を始めるぞぉ!!』
特設ステージでビーダマスターが叫んでいる。
『今回は、このマーライオン広場に特別な設備を用意している!スイッチオン!!』
ビーダマスターが合図をすると、マーライオンの像の周りに巨大なジャングルジムのような鉄格子が出現した。
「な、なんだ、ありゃ……!」
シュウがビックリする。
「ジャングルジム、か?」
タケルが小学校の校庭にあるあれを思い出しながら言った。
「でも、ちょっと大きすぎやしませんかぁ?」
そう言ったリカの記憶にあるジャングルジムは、今出現した奴の5分の1くらいの大きさしかない。
「あれで一体どんな競技をするんだろう?
『今回の競技はシャドウヒットバトル!2回ボムにビー玉が着弾すれば爆破する設定だ!!使用するボムはいつものシャドウボムではなく、空中に浮かぶフライングボムだ!』
ビーダマスターが黒くて球状で上にプロペラがついたボムを皆に見せる。
『入り組んだ鉄格子を使った立体バトル!いつものシャドウヒットバトルとは一味違う戦いになる事は間違いなしだ!!
ちなみに、このジャングルジムから落ちて、地面に体が着いたらその時点で負けとなるぞ!落ちないように注意してくれ!!』
「常に鉄の棒に捕まってないといけないのか。両手撃ちには不利だな」
そう言いながら、タケルはシフトパーツを付け替えた。
「シフトチェンジ!ワンハンドモード!」
片側に巨大なグリップを付けたモードに変更した。
「片手撃ち!?そんなシフトパーツもあるのかよ……!」
「強度的な問題でスパークグルムほどの連射は出来ないから、あまり実用的じゃないんだが。片手で運用する分には十分だ」
片手撃ちなのに連射が出来ないとなると片手撃ちの意味はないが。今回みたいにただ片手で保持したいだけならお誂えなパーツなのだろう。
『それでは、早速試合を始めるぞ!
第二回戦第一試合はタケル君VSコチャン君だ!!』
タケルと、タイ人らしき少年がジャングルジムを上り始める。
『レディ、ビー・ファイトォ!!』
「うおおおお!!!」
タケルは片手でビーダマンを保持しつつ、片手で鉄格子を次々に渡っていく。
対するコチャンは両手でビーダマンを保持したまま動かない。
「奴は両手持ちか。なら、機動力は俺の方が上だ!」
ドンッ!
タケルは移動しながらショットを放った。
「ふん!!」
シュバババ!!
コチャンは、両手がふさがったまま、脚だけを器用に使ってジャングルジムを渡って行った。
「なにっ!?」
「我が国技『ムエタイ』の技術を駆使すれば、このような鉄格子、脚だけで移動するなど造作もないわっ!」
コチャンは足だけで鉄の棒を次々と伝い、物凄いバランス感覚で移動しながら攻撃を仕掛けてきた。
「くっ!奴はムエタイの使い手だったか……!」
その様子を見ているシュウ達。
「なぁあやねぇ。ムエタイって何?」
「タイ式ボクシング。つまり、キックボクシングの事よ」
「ボクシングなのにキックするんですかぁ?」
「えぇ。脚を自在に使って素早く相手に攻撃を加える脅威の格闘技。その技術を応用して、あの移動を可能にしてるんだわ!」
「タケルの奴は、大丈夫なのかよ……!」
一方のタケルは。
「はぁぁぁ!」
バーーーン!!
『ヒットォ!コチャン君のショットが見事タケル君のボムに命中だ!!』
「くっ!落ち着け……!奴はムエタイの技術を応用していると言っていた。既にある技術を応用しているという事は、必ず規則性があると言う事だ……!」
タケルはジッとコチャンの動きを観察した。
(見極めろ……!奴の動きを!)
そして……。
「ここだっ!!」
一瞬生まれた隙を突いて、タケルはショットを放った。
「なっ!」
バーーーーン!!
『タケル君も負けじとヒット!これで両者ともに1ダメージ!イーブンだ!!』
「もう俺のムエタイの動きを見切ったのか!?」
「お前の動きは完璧だ。だが、完璧すぎて読みやすかったぜ!」
「くっ、ならばここからはガチンコだ!」
「望むところ!!」
タケルは胸の前に光のテーブル【オプチカルボード】を出現させた。
そして、ストライクショットを二つセットする。
「はぁぁぁ!!」
ドンッ!
先にショットを放ったのはコチャンだ。
まっすぐにタケルのボムへ迫ってくる。
「グランドプレッシャー!!!」
片手だけで威力は落ちるが、タケルはグランドプレッシャーを放った。
それも二発連続で。
一発目はメタル弾でのグランドプレッシャー。二発目はドライブ弾でのグランドプレッシャーだ。
当然速度の遅いメタル弾はドライブ弾に衝突される。
その瞬間、弾かれるように物凄い勢いでメタル弾がブッ飛んで行った。
「これが俺の最終奥義!ヘビィダイノクラッシャーーーー!!!!」
「バカな!?メタル弾にドライブ弾をぶつけて、加速させただとぉ!!
メタル弾の質量にスピードが加わったショットにはさすがに敵わず、コチャンのショットは弾かれ、ボムにヒットした。
『決まったぁ!勝ったのはタケル君だ!!』
「よしっ!」
タケル勝利。
それを見ていたシュウ達も喜んだ。
「やったね、タケル君!」
「さすが、仲良しファイトクラブのリーダーですね!」
「タケルの奴、ストライクショットでの秘技ってあれの事だったのか……」
シュウは、タケルの底力を垣間見て身震いした。
そして、大会は進んでいき……。
『さぁ、劉洸君の勝利が決まった所で、次の試合に行くぞ!
お次は、Bブロック第二回戦!対戦カードは、シュウ君VSマハラジャ君だ!!』
シュウとマハラジャが対峙する。
マハラジャはまるでインドの僧侶のような恰好をした少年だ。
「あなたは確か、ビーダマンの生みの親。倉田智蔵の孫だそうですね」
マハラジャは僧侶らしい丁寧な口調でシュウに話かけてきた。
「え、あ、あぁ……」
あまり触れてほしくない話題だったので、シュウの返事はぎこちなかった。
「あなたも一族の重みを背負っているという事ですね。智蔵の孫として負けるわけにはいかないでしょう」
「それは……」
「ですが、それは私も同じことです。私の家系は、先祖代々由緒正しき神に仕える僧侶。私はその修行の一環としてビーダマンをしています。
この大会は修行の成果を試す場。ここで負けるという事は、私の家系を否定する事に他ならないのです!」
それは少々暴論な気がするが、マハラジャは至って真面目だ。
「家系……」
「同じ一族の重みを背負うものとして、同情はありますが。容赦はしません」
それだけ言うと、マハラジャはスタート位置へと歩いて行った。
「……」
シュウは気の抜けた顔で自分のスタート位置へと歩いていく。
『それでは、そろそろ始めるぞ!レディ、ビーファイトォ!!』
スタートと同時にシュウはジャングルジムを上り始めた。
「とにかく、相手よりも高い位置に行った方が良いよな!」
シュウは全力でジャングルジムを上った。
しかし、マハラジャはそれを上回るスピードで移動している。
「なにっ!?」
マハラジャは身体をクネらせながら、鉄の棒と棒の間を縫うように登っていく。
「こいつっ、身体の構造どうなってやがんだぁ?!」
「これが修行の成果です!」
『マハラジャ君凄い!この動きはまさにヨガ!体の柔軟性を駆使して物凄い機動力を見せている!!』
「私だけではありません。
愛機の『アーサナヨーガ』も超柔軟性素材をボディに使用し、いかなる体制、保持の仕方にもボディが自在に変化して対応するようになっているのです」
グニュ……!
アーサナヨーガのボディがマハラジャの持ち方に対応して変形する。
「はぁぁ!!」
体をクネらせながら、物凄い体制で攻撃を仕掛けてきた。
「うわわ!!」
「どうしました?それが智蔵の孫の力ですか?おじい様が泣きますよ」
「くっ!」
「あなたの家系にかける意地と言うのはその程度なのですか?」
「うぅ……!」
俺は、智蔵の孫。しつこいほどに言われるその言葉。
ずっと、考えてきた。
だけど、もう。
いい加減。
「うるせぇぇんだよぉぉ!!!」
ブチ切れた。
「っ!」
「何がじいちゃんだ!何が家系だ!そんなの関係ねぇんだよ!!俺は、じいちゃんが誰だろうがビーダマンやってんだよ!!」
「な、なんですって……!」
「俺がビーダマンをやったのは、じいちゃんがビーダマンの生みの親だって知るずっと前からなんだ!だからじいちゃんは関係ねぇんだ!!」
考えても仕方がないので、シュウはもういっそ開き直る事にしたのだ。
「そうだ。そうだぜ!考えるだけバカらしかったんだ!相手が俺の事どう思ってようが、俺は俺なんだ!」
「……偉大なる祖父を、侮辱するのですか?私には理解できない」
「違うっ!じいちゃんはすげぇよ!でも、それとこれとは話が別だってんだ!!このバトルに勝って、それを分からせてやる!!」
「面白い。一族の重みを背負う私に自分の重みしか背負わないあなたが耐えきれるか。試してみてください」
シュンッ!
マハラジャは再び人間とは思えない動きでジャングルジムをすり抜けてシュウへ攻撃を仕掛けてくる。
「くそっ!躱すので精一杯だ!」
「ふふふ、防戦一方では、いずれ隙が生まれますよ」
「隙が……!」
その一言でシュウは思いついた。
「そうだ!」
そして、シュウはピタッと動きを止めた。
『おおっと、どうした事か?シュウ君が動きを止めた!!このままでは狙い撃ちだぞ!!』
「諦めましたか」
ドンッ!
マハラジャがシュウのフライングボムへと攻撃する。
「今だ!」
と、その直後にシュウもショットを放った。
「むっ!」
バーーーン!!
まずシュウのボムに攻撃がヒット。
その直後にマハラジャのボムにヒットした。
『互いに1ダメージ!これは上手い!シュウ君は、マハラジャ君が攻撃する時の隙を突いてカウンターだ!!』
「どんなに素早く動いてても、攻撃する時だけは一瞬動きが鈍るからな!」
「なるほど、肉を斬らせてなんとやらと言う奴ですね。しかし……」
マハラジャが再び素早く動き出す。
「あなたは所詮肉を斬らせて肉を斬っているだけに過ぎない!」
「なにっ!?」
「私の影を追っているだけでは、勝てないという事です!」
「くっ!」
マハラジャの言うとおりだ。
さっきと同じことを繰り返しても、先にボムにヒットするのはマハラジャの方。
つまり、同じ手は通用しない。
「どうすりゃ……!」
シュウは、何か打開策が無いか辺りを見回した。
そして、ジャングルジムの中央にあるマーライオン像に視線を移した。
マーライオン像は口から大量の水を噴出している。
「あ……そうだ!」
ダッ!
シュウは素早くマーライオン像の傍まで移動した。
「逃がしません!」
マハラジャもすぐにその後を追う。
シュウは、マーライオン像の真ん前まで来ると停止した。
「さぁ、来いよマハラジャ!最後の勝負だ!」
「覚悟を決めましたか。いきますよ!」
ドンッ!
マハラジャがシュウの方へ向かいながらショットを放つ。
「うおおおお!!」
シュウはサッと少しだけ後ろに移動した。
すると、シュウの動きにシンクロしているフライングボムもその位置を移動し……。
ザバアアアアアアアアアアアアア!!!!
マーライオン像が噴出している水の中に入った。
「なにっ!」
水圧によって、フライングボムはシュウの動きに関係なく下へ押し下げられてしまい、マハラジャのショットは空振った。
「いっけぇぇぇっ!!」
ドンッ!!!
その隙に、シュウはマハラジャのフライングボムを攻撃した。
バーーーーーン!!
『ヒット!!シュウ君、フィールド特性をフル活用して見事マハラジャ君を撃破したぁぁぁ!!!』
バトル終了。
シュウとマハラジャはジャングルジムから降りた。
「負けた……私の修行の成果が……」
「マハラジャ……。家系だかなんだかしらねぇけどさ。今戦ってるのは自分自身なんだぜ」
「……」
シュウの言葉を聞いて、マハラジャは何かに気付いたようだ。
ゆっくりと顔を上げて、シュウを見据える。
「どうやら、私は必要以上に背負い過ぎて、身動きが取れなくなっていたようです。純粋にバトルをしているあなたに勝てるわけがなかった」
「マハラジャ……」
「いつかまた、バトルをしましょう。今度こそ、私が勝ちます」
「おう!楽しみにしているぜ!!」
シュウとマハラジャはがっつりと握手をした。
マハラジャと別れ、仲良しファイトクラブメンバーが待つ場所へと戻る途中、シュウはタクマと会った。
「Bブロック決勝に上がるのは、やはり貴様か」
「タクマ……!」
「さすがは、智蔵の孫と言った所か」
相変わらずシュウを智蔵の孫としか見ないタクマに対し、シュウはしっかりと反論する。
「いや。俺が強いのは、俺だからだ!じいちゃんの孫だからじゃねぇ!」
「ほぅ……」
「俺は、ブレイグと出会って、ヒンメルを目指して、仲良しファイトクラブに入っていろんな奴らと戦ってきた!そんな俺だから強くなれたんだ!じいちゃんは関係ねぇ!!」
シュウが強くなるために得てきた経験に智蔵は関与していない。
だから、智蔵の孫として見るのは間違っている。シュウがずっと感じていたモヤモヤはこれだったのだ。
「なるほど。だが、例えそうであろうと。俺はお前を智蔵の孫として潰す。Bブロック決勝、覚悟しておけ」
タクマはまだ試合をしていないのだが、決勝進出は確信しているようだ。すごい自信だが、それに見合う実力はある。
「俺も同じだ!じっちゃんの孫じゃなく、俺は俺として、決勝でお前に勝つ!!」
シュウは凛とした表情でタクマを見据えた。
つづく
次回予告
「さぁ、次はいよいよアジア予選Aブロックの決勝戦だ!
対戦カードはタケルVS劉洸!劉備の子孫って事は、劉備の事を研究すれば対策はばっちりなはずだぜ!
しかし、実際の試合で劉洸は思いがけない戦い方をしてきた!
次回!『タケルVS劉洸!意外な戦術』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」