オリジナルビーダマン物語 第68話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第68話「新たなる戦場、中国」




 羽田空港。
 そこに仲良しファイトクラブのメンバーが集まっていた。
「いよいよワールドチャンピオンシップアジア予選かぁ!」
「ああ。世界の強豪たちとの戦いはこれからだな」
「へへっ、開催地は中国だろう。美味いもんいっぱい食えるぜ~」
 シュウは中華料理を思い浮かべながら舌なめずりをした。
「お前は食う事ばっかだな。中華料理は美味いが、中国は基本不衛生な場所も多いから勝手な行動取ると腹壊すぞ」
「えぇ、マジかよ……!」
「ああ。下手したら食べ物が爆発しかねん」
 偏見っぽいけど、事実だ。
「うわぁ、オレ中国で生きて帰れるかな……」
 いきなり不安になってしまう。
「あはは、ちゃんとしている所はそんな事ないから安心して」
 彩音がフォローを入れる。
「そうですよぉ!ちゃんとあたしが毒見するんで大丈夫です!」
 リカのはフォローになっていない。
「って、あんたも中国に付いていくのね」
 琴音がリカに突っ込む。
「当然です!あたしは、仲良しファイトクラブのマネージャーですから!」
「はいはい……」
「そう言うことねぇは、来ないんだな」
 中国へ行くのは、出場選手のタケルとシュウ。そしてメカニックの彩音のマネージャーのリカの四人だけらしい。
 出場資格のない琴音が付いていく理由は無いのだが、なんか寂しい。
「うん。あたしは、少しでもヒロ兄の傍にいたいから」
 日本選抜戦からずっと、琴音はヒロトが入院している病院へお見舞いに行っているのだ。
「そっか」
 寂しいが、シュウは納得した。
「日本でちゃんとシュウ達の戦いは見てるから、しっかりやりなさいよ」
「おう!当然だぜ!」
「ああ。必ず勝って、世界選手権本戦に出場して見せる」
 シュウとタケルは強く頷いた。
「あ、そろそろ飛行機が出る時間だよ。急いで!」
「マジか!そんじゃな、皆!」
「俺達がいなくても、しっかり練習するんだぞ!」
 最後に皆に別れを告げて、シュウ達は飛行機へ乗り込んだ。
 
 
 
 長い飛行機の旅を終えて、シュウ達は香港へたどり着いた。
 
 煌びやかなお店が立ち並ぶ賑やかな街並みに、シュウ達は目を輝かせた。
「おぉぉ!美味そうな店がいっぱいだぁぁ!」
 シュウはキョロキョロと忙しなく首を動かす。
「シュウ、よそ見しすぎて迷子になるなよ。中国は治安が悪い、特に日本人に対しては何してくるか分からん奴らも多いからな」
「分かってるって」
「観光したい気持ちも分かるけどね。アジア予選は三日後だから、香港の外れにあるホテルでゆっくり休息を取って大会に備えましょう」
 彩音は地図を見ながら苦笑した。
「荷物下ろしたら、早速街に繰り出しましょうよ!」
 リカもシュウと同じように中国の街並みに心を躍らせているようだ。
「とりあえずまずはホテルを目指さないとな……っと、その前に……」
 タケルがリカと彩音を見た。
「なんですかぁ?」
「なんで、チャイナドレス?」
 リカは赤色のミニチャイナドレスを着ていた。
「郷にいりては郷に従えって言うじゃないですか~。ここでの正装ですよ!」
「そうなのか?」
 シュウは納得しそうになる。
「んなわけあるか。ってか彩音さんまで……」
「あ、あはは、私もせっかくだから」
 彩音はピンクのロングチャイナ服を着ていた。
「まぁ、いい加減お前のノリも慣れたけどな」
 タケルは小さくため息をつくと、歩き出した。
 
 香港の街を歩いて、そろそろ一時間は経とうとしていた。
「あやねぇ、まだホテルつかないの?」
「う、うん……そろそろだと思うんだけど……」
 彩音は地図と周りの街並みを忙しなく見比べている。
「ちょっと見せて」
 タケルが彩音持っていた地図を見た……が。
「う~ん、中国の地図はよく分からんな」
 タケルもお手上げのようだ。
「えぇ~、もう歩けないですよ~!」
「バスとかタクシーとか無いのかよ~!」
「そうだな……歩いていける距離だと思ったが、最悪タクシー使って……」
 ドンッ!
 その時、タケルが誰かの背中にぶつかった。
「あ、すみませ……!」
 
「あぁん?なにさらすんじゃボケェ!(中国語です)」
 いつの間にか、タケル達の周りをガラの悪そうな数人の中国人が囲んでいた。
「っ!」
「こいつら日本人みたいだぜ(中国語)」
「だったら、ボコボコにして有り金全部いただいちゃおうぜ(中国語)」
 不良中国人が指をボキボキならしながらシュウ達に迫ってきた。
「タ、タケル……!」
「さすがに、この数は骨が折れそうだ」
 ガタイの良いタケルでも、あからさまに年上の、しかもこれだけの数を相手にするのはキツそうだ。
「しゅ、シュウ先輩……」
 リカがシュウに寄り添う。
「でも、やるしかないよな……リカ、離れてろ」
「シュウ君、ここで暴力沙汰になるのはマズイよ。大会に本部に知られたら……」
「正当防衛なら問題ないでしょう。このまま黙ってボコボコにされる方が問題ですよ」
 タケルは既にファイティングポーズを取っている。
 
「なにごちゃごちゃ言ってんだ!(中国語)」
「俺達相手にタダで帰れると思うなよ!(中国語)」
「やっちまおうぜ!!(中国語)」
「おらあああ!!(中国語)」
 不良中国人たちが一斉に飛びかかってきた。
 その時だった。
「アチョーーーーーー!!!!」
 どこからともかくカンフー映画を思わせる叫び声が聞こえてきたかと思ったら、陰から一人の少年が飛び出してきて不良中国人たちを一瞬でボコボコにしてしまった。
「ぐわああ、くっそー覚えてろよ!!(中国語)」
 ボコボコにされた不良中国人達は、あっさりと去って行った。
「ふぅ、全く香港のマナーも悪くなったものだ(中国語)」
 タケル達を助けてくれた少年は、パンパンと服の埃を叩き落とした。
「さ、サンキュー!助かった」
 タケルは恐る恐るその少年に話しかけた。
「タケル。中国人相手に英語使っても意味ないだろ」
「うるせぇ」
 タケルもテンパっているようだ。
「そうか、君たちは日本人か。ここは日本人観光客を狙っているゴロツキが多いから危ないよ」
 と、カンフー少年は流暢な日本語で話してくれた。
「お前、日本語出来るんだ」
「まぁね。君達は観光かい?ここは物騒だ。よかったら案内するけど……」
 カンフー少年は紳士に接してくれる。
「い、いえ。私達、ビーダマンのワールドチャンピオンシップのアジア予選に参加するんですけど」
「ホテルの場所が分からなくって……」
 彩音とリカが状況を説明した。
「そうか。実は、私もその大会に出場するビーダーなんだ」
「えぇ、お前もビーダーなのか!?」
 ビーダーと聞いて、シュウは目を輝かせた。
「あぁ。私の名前は劉洸(リュウコウ)。よろしく」
「おう。俺はシュウ、んでこっちがタケル。それから彩音とリカ」
 シュウも自己紹介をした。
「とりあえずここじゃなんだから、うちに来ないか?ホテルの場所はそこで調べてあげるよ」
「おう!」
 劉洸が歩き出したので、シュウはそれに付いて行こうとする。
「おい、シュウ。迂闊に信じるな」
 それをタケルが止め、小声でシュウに忠告する。
「何言ってんだよ。あいつは俺達を助けてくれたんだぜ。それにこのままホテルの場所が分からないままじゃ困るだろ」
「まぁ、そりゃな……」
「大丈夫ですよ、タケル先輩。あの人いい人そうだし」
 リカも劉洸を信じ切っているようだ。
「タケル君。心配なのは分かるけど、ここは信じてもいいんじゃないかな?」
 彩音にもそう言われると、タケルもそれ以上は何も言えない。
「分かりました。彼を信じましょう」
 仲良しファイトクラブご一行は劉洸に付いて行った。
 劉洸の家は、歩いて10分もしない場所にあった。
 古びた二階建ての一軒家に入り、リビングに案内される。
「お茶を用意するから、適当にくつろいでいてくれ」
「あ、おかまいなく」
 彩音はそう言ったが
「遠慮しないで」
 と、劉洸は奥へ入って行った。
「なんだか、気を使わせちゃって悪かったかな」
「いいんじゃないの?後でちゃんとお礼すれば」
「はぁぁ、やっとまともに座れたぁ……」
 体力の限界だったリカは椅子に座れたことに感激していた。
「あれ、あそこに掛けてある絵。かっこいいなぁ。武将か?」
 シュウは、壁に武将のような人物の絵画がかけられているのを発見した。
「あれは、三国志の劉備だな。でも、精巧な絵画だな。結構高いんじゃないか?」
「劉備、って?」
「中国の歴史書『三国志』に出てくる歴史上の人物よ。三国統一の戦いで活躍した有名な人物ね」
「へぇ~」
 と、なっとくした所で劉洸がお茶を持ってリビングに入ってきた。
「お待たせ」
 三人は劉洸の持ってきてくれたお茶で一息ついた。
「っぷはー、生き返るぜ~!」
「本場のプーアル茶か。なかなかいい味だな」
「うん。良い香り……」
「おいしいですぅ!」
 皆口々に絶賛した。
「気に入ってもらえてうれしいよ」
 シュウは早速壁に掛けてある絵画について話題を振った。
「ところでさ、あそこに掛けてある絵、劉備……だっけ?かっこいいな!」
「あぁ。あれは私のご先祖様なんだ」
「へぇ……って、えぇ?!」
「お前、劉備の子孫なのか?!」
「まぁね。三国統一のために活躍した武将、それが私の先祖さ。私がカンフーを極めたのも、ご先祖のように強くありたいと思ったから」
「それが、お前の強さの秘密だったのか……へへっ、こりゃ大会で戦うのが楽しみだぜ!」
 シュウはますます大会への闘志を燃やした。
「ふふふ。そうだ、せっかくだから今ここで手合わせを願えませんか?お近づきの印に」
 劉洸の申し出にシュウは乗り気で答えた。
「おう!望むとこ……!」
 言い切る前にタケルがシュウの首根っこを掴んだ。
「おわっ、何すんだよ!」
 タケルはシュウにコソコソと話しかける。
「アホッ。お前大会前に相手に手の内を晒す気か!」
「えぇ~、いいじゃんちょっとくらい」
「ビクトリーブレイグはただでさえ大会データが無いんだ。下手に戦わない方が良い」
 コソコソ話したつもりだったが、タケルの声は劉洸に筒抜けだったようで、劉洸は困ったように笑った。
「う~ん。別に深い意味は無いんだけどな」
 そして、少し考えたのち、こう言った。
「それじゃあこうしよう。君達を助けたお礼として、私と戦ってほしい」
「っ!」
(こいつ、それが目的か……!?)
 タケルは一瞬凄い顔をした。
 お礼と言われれば断るわけにはいかない。
「そ、そんな怖い顔しないでくれよ。別にお礼を貰う気は全くなかったんだけど、そうでも言わないと戦ってくれそうになかったからってだけだから。
私は純粋に、手合わせがしてみたいだけなんだ」
 そこまで言われて渋るのもなんだか子供じみている。
「タケルは心配し過ぎだって。ただの練習試合みたいなもんだろ」
 シュウはブレイグを取り出して椅子から降りた。
「俺はOKだぜ。早速やろうぜ!」
「ありがとう。あっちの部屋に競技台があるから、そこに行こう」
 
 劉洸に案内され、競技台のある殺風景な部屋に向かった。
 そこには、部屋の中央に卓球台くらいの大きさの競技台。そして、その中央に天井に着くくらいに長い一本の筒が立っていた。
「な、なげぇ……!」
「これは、筒の中にブレイクボンバーのボムが入っているぞ」
 筒の一番下を見ると、ボムが露出している事にタケルは気付いた。
「よく気付いたね。ブレイクボンバーを改造したオリジナル競技。名付けて『一本柱ブレイクボンバー』」
「一本柱?」
「通常のブレイクボンバーは5つ並んでる列の赤ボムを3つ撃ちぬいた方が勝ちだけど。このブレイクボンバーは一本しか列が無い。
つまり、常に真正面からのガチンコになるんだ。そして、赤ボムに辿り着くまでの黄色ボムは50個ある」
「50……!?」
「赤ボムに辿り着くまでが厳しいな」
「黄色ボムは得点にはならないけど、フィールドに散らばった黄色ボムはビー玉以外でどかしてはならない」
「黄色ボムが溜まれば溜まるほど、いざ赤ボムが下りてきた時に不利になるのね……」
「競技のルールは分かったかな?」
 劉洸が確認してくる。
「おう!いつでもいいぜ!」
 シュウが台についたのを確認すると、劉洸も反対側についた。
「それじゃ、行くよ!」
「「レディ、ビー・ファイトォ!!」」
「うおおおおお!!」
 初っ端からシュウはパワーショットを放った。
「っ!」
 劉洸のショットと同時にボムに着弾。しかし、当然シュウが押し勝ってボムを撃ちぬく。
「どうだ!ブレイグのパワーは!」
「へぇ、さすがに強いね、新型は……」
「むっ?」
 タケルは、劉洸の言葉に違和感を覚えた。
「でも、いくらパワーがあっても、この競技じゃ一発で撃ちこめるボムは一個だけだよ!」
 今度は劉洸の番だ。
 素早く的確な連射で確実にボムを撃ちぬいていく。
「うわ、うわわ!」
「これが私の愛機、射手兵(シェショウビン)の力さ!」
 劉洸は、片手撃ちで正確な連射をしている。
 
「射手兵(シェショウビン)……センターグリップの片手撃ち機みたいだけど。連射もコントロールも特筆する部分がないわね」
 彩音がノートパソコンを取り出し、劉洸の戦いを分析する。
「だな。シュウが押されてるのは、単純に今のあいつがパワー特化過ぎて連射がまるで出来ないってだけだし。中国代表、この程度なのか……?」
 バトルは、劉洸有利で進んでいる。
 黄色ボムが次々とシュウのフィールドへ押し込まれていく。
「うわ、うわわ!」
 そのせいでシュウは集中してボムを狙えない。
「どうしたの、シュウ!日本代表はこの程度かい?」
「んなわきゃねぇだろ!すぐに追いついてやらぁ!!」
 ドンッ!!
 シュウはパワーショットでなんとか黄色ボムを押し込んだ。
「へぇ……ならっ!」
 ズバババババ!!!!!
 劉洸は超速連射で次々と黄色ボムを撃ちぬいていく。
「うっ!」
(連射速度が急激に上がった?それでも、並より速い程度だが……)
 タケルは急激な性能変化に少し驚いたが、それでもその性能は大したことは無いと思い直す。
「くっそぉ!」
 カコンッ!
 そして、ついに赤ボムが下りてきた。
「今だ!」
 劉洸がそれ目掛けて精密な連射を放つ。
「俺もっ!」
 しかし、シュウ側には黄色ボムが散らばっており、まともには狙えない。
「ぐっ!」
「これで、終りだ!」
「まだまだ!!!」
 ガクガクガクガク!!
 ブレイグのヘッドの刃が振動する。
「黄色ボムなんか、空気の膜で全部吹き飛ばしてやる……!」
 シュウが必殺技の構えに入ろうとする
「あ、バカ、シュウ!」
 それに気づいたタケルが止めようとするが、もう遅い。
「フェイタル……!」
「シュウせんぱーい!がんばってくださーい!!」
「え?」
「彩音先輩もリカも、応援してマース!」
 と、リカはポーズを取りながら、無理矢理彩音のチャイナドレスの裾を捲って、脚を露わにした。
「きゃあぁぁ!!」
 ビックリした彩音はその場にしゃがみ込む。
「な、何やってんだ……(汗)」
 いきなり騒がしくされて、シュウは呆れてしまった。
「って、しまっ!」
「ちっ」
 そのせいで必殺技を撃つタイミングを逃した。
 バキィ!!
 劉洸のショットが見事赤ボムを撃破した。
「勝負あり、だね」
「ぐああああ負けたああああ!!」
 シュウは頭を抱えて悔しがった。
「あはは、まぁ練習試合みたいなものだから、そんなに気にしないで」
「うぅ、でも負けたのは悔しいぜ……ワールドチャンピオンシップでは、こうはいかないぜ!」
「ああ!期待しているよ!」
 シュウと劉洸はガッチリと握手をした。
 そして……。
「あ、見えてきた!」
 シュウ達は劉洸に説明された通りの道のりを進み、ようやくホテルへとたどり着いた。
「劉洸の言ってた通り、案外近かったんだな」
「一本道間違えるだけで、全然分からなくなるものね……」
「このまま迷子にならなくてよかったですぅ!」
 一同、とりあえず安心した。
「でもさぁ、さっきのバトル。リカが余計な事して気を紛らわせなきゃ勝てたんだぜ!」
「うぅ、ごめんなさい。あ、その代わり!ホテルについたらいっぱいサービスしますから!」
 リカが妖艶に笑いながらシュウに迫ってきた。
「ヴェっ!い、いいよ!そういうのは!」
 シュウは後ずさりしながらリカに離れていく。
「遠慮しないでください!」 
 リカは満面の笑みを浮かべ、シュウを追いかけた。
「勘弁してくれぇ!!」
 シュウとリカはタケルと彩音を置いてホテルへ駆けて行った。
「全く、あいつらは……。でも、今回はリカの機転で助かったな」
「う、うん。さすがに新型機での必殺技を試合前に見せるのはマズイからね……」
「あいつも案外したたかな所があるんだなぁ」
 タケルは少しリカを見直したのだった。
 
       つづく
 
 次回予告

「さぁ、ついに始まるぜアジア予選!戦いの舞台は……万里の長城!?こんな場所で、一体どんなバトルをするってんだ?!
 次回!『乱戦!万里の長城』
 
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」

 

 



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