爆砕ショット!ビースピリッツ!!
第66話「ビクトリーブレイグ」
彩音の工房。
シュウとタケルに見守られる中、彩音は作業をしていた。
「……」
真剣な表情で、小型のビーダマン製造機と向き合う。
息もつかせぬ緊張感で機械を操作していく。
そして……。
ビー!ビー!と言う電子音とともに製造機の蓋が開き、白煙とともに一機のビーダマンのシルエットが見えた。
「っ!」
「出来たか……!」
彩音は、手袋を着けた手で慎重に機械からビーダマンを取り出した。
真剣に、念入りに不備が無いかをチェックする。
「うん」
彩音は頷くと、シュウへ振り返った。
「完成よ、シュウ君」
シュウへ完成したビーダマンを見せた。
「……!」
シュウは震える手で彩音からビーダマンを受け取った。
「こいつが、俺の新しいビーダマン……ビクトリーブレイグ!!」
見た目はバスターブレイグとよく似ているが、所々にマッハスパルナのような意匠が施されている。
「すげぇ、まるで龍と不死鳥が一つに融合しているみたいだ……!」
「彩音さんのビーダマン製作、4年ぶりに見たけど、さすが腕は衰えないな……!」
タケルもその神々しい姿に息を呑んだ。
「製作って言っても、元々あるスパルナとブレイグのデータを融合させただけだからね。それでも、このブレイグは今までのブレイグよりも数段性能は上よ」
「あぁ、それは手に取ってみてよく分かるぜ。こいつからはすげぇ力を感じる……!」
シュウの声は震えていた。それはブレイグの力を感じた故の武者震いだろうか。
「タケル!早速練習場に行って、テストだ!付き合ってくれ!!」
「ああ。丁度いい競技ツールも届いたしな」
「え?」
練習場。
そこに、見た事のない競技台が設置されてあった。
「こ、これは……!」
長方形状のフィールドの真ん中に仕切りがあり、その仕切りに5本の長いバーが垂直に付いている。
「新型競技、パワープッシュだ。中央のバーは、ビー玉で相手側に押し込む事が出来る。5本うち、先に3本のバーを相手側に押し込んだ方の勝ちだ」
「力比べが出来るって事か」
「パワー型ビーダマンのテストには、ピッタリだろう?」
タケルがにやっと笑った。
「ああ!勝負だ、タケル!テストだからって、手加減はいらねぇぜ!」
「してたらテストにならないだろ!」
タケルとシュウは台を挟んで対峙した。
「あっ、シュウ先輩のビーダマン、治ったんですね!?」
シュウ達に気付いたリカが言う。
「えぇ、なんとか」
「良かったぁ。さっすが彩音先輩ですぅ!」
「うん、ビーダマンは治ったんだけど……」
彩音はまだ何か不安そうだ。
「え?」
「ううん。とにかくテストバトルを見てみましょう」
対峙したタケルとシュウがバトル開始の合図を叫ぶ。
「「レディ、ビー・ファイトォ!!」」
バトルスタート!
「いっけぇ!ビクトリーブレイグ!!!」
バゴンッ!!!!
凄まじい発射音と共に、ビクトリーブレイグからパワーショットが放たれた。
まっすぐに中央のバーへ向かっていく。
「速い……!」
タケルは反応しきれず、そのままブレイグのショットが中央のバーに激突。
そして、一気にタケル側へ押し込んでしまった。
「なに……?!」
「い、一撃で……!」
そのパワーに、タケルだけでなくシュウも驚愕した。
「バカな……パワープッシュのバーは決して軽くは無い。パワー型でも、何発か当てて押し込む事を想定として設計されている。それを、一撃で押し込んだだと……!」
「す、すげぇ……これが、スパルナとブレイグを融合したパワー……!」
「だがっ、タイラントレックスのパワーを舐めるな!!」
ドンッ!!
タケルは、向かって右端のバーを狙う。
「いっけぇ!」
シュウも同じバーを狙った。
ドーーーーン!!!
二つのビー玉が同時にバーにヒットする。
ギュルルルル!!!
シュウのショットは、レックスのショットを受けたにも関わらず、バーを半分タケル側へ押しやった。
「くっ!タイラントレックスのショットを受けてもなお、押し込めるのか……!」
「でも、完全には押し込み切れなかった!もう一発……くっ!」
シュウは連発しようとしたトリガーを、押しきれなかった。
「はぁぁぁぁ!!」
その隙を付いて、タケルが連射をしてバーを押し返し、シュウ側へ押し込んだ。
これで同点だ。
「くそっ!」
「力だけじゃ勝てないぞ」
「分かってる!次は、あれだ!」
シュウは、押し込まれた隣のバーを狙って撃った。
しかし……。
ガンッ!
「は、外した!」
「狙いが甘い!!」
タケルは、今度は向かって左端のバーを狙って連射をした。
ガッ!ガッ!!
徐々にバーが押し込まれていく。
「くそっ!俺が狙ってるのとは違うバーを……!」
「状況に合わせてどのバーを狙うのかも戦術の内だ!」
「ちっ!」
シュウは防御しようと、タケルが狙っているバーを目掛けて撃った。
チシュッ!
しかし、シュウのショットはかすってしまい、バーに力は伝わらなかった。
それでも、タケルが押し込んだ分をそれなりに押し返せていた。
「かすってもその威力。ならばっ!」
タケルはレックスのコアを思いっきりシメつけて、すぐ隣のバーを狙って連射した。
「一気にいけ!!」
ズバババババ!!!
どんどバーが押し込まれていく。
「あぁ!」
めまぐるしく押し込まれていくバーが変わっていくのに、シュウはついていけていない。
「これで!」
バシュンッ!
完全にバーが押し込まれた。これでタケルが2点だ。
「くっそぉ、当たってくれぇ!!」
ドンッ!!!
シュウは向かって右端のバー目掛けてパワーショットを放った。
バーーーン!
運よくヒットし、一撃でタケル側へバーを押し込んだ。
これで同点だ。
「あとは、もう一本!!」
シュウから向かって、真ん中から左隣のバーだけだ。
「ぐっ!」
しかし、シュウはまた撃つのを怯んでしまった。
「うおおおおお!!!!」
その隙にタケルはバーを連射で押し込んだ。
タケルの勝利だ。
「くっそー、負けたぁ……!」
シュウは頭を抱えて悔しがった。
「ふぅ、新型ブレイグのパワーは凄まじいが、まだまだだな」
「くぅ……!」
「だが、今のバトルはちょっと極端すぎるな。慣れてないとかそういうレベルじゃないぞ」
「え?」
「パワーだけならダントツだ。だが、当たるかどうかはほぼ運任せ。そして連射もまともに出来ない。
いや、連射どころか撃てるかどうかすらも運任せ。使いこなしでどうにかなる問題なのか?」
「なんだよ、まだ使ったばっかじゃねぇか。大げさだな、練習すりゃどうにでもなるぜ」
「俺にはそうは思えないが……」
タケルがそう言うと、彩音が口を挟んできた。
「やっぱり、思った通りだった……」
「あやねぇ?」
「思った通りってどういう事です?」
彩音が話し始める。
「結局私に出来たのは、強いビーダマンを作る事だけだった……」
「強いビーダマンを作る事って、良い事なんじゃ?」
彩音は首を振る。
「ビクトリーブレイグは完璧なビーダマンよ。ブレイグのパワーとスパルナのパワー。その二つを完全に一つの物にしている。
でも、ただ強いだけのビーダマンになってしまった……」
「強いだけ?」
「えぇ。ビーダーとのシンクロが出来ていない。ビーダマンだけが独り立ちしてる状態なの」
「俺が、ブレイグに付いていけてないって事か!?」
「シュウ君のせいじゃない。私にそこまでの技術がなかっただけ。ビーダマンの事だけしか作れず、ビーダーの事を考えた物が作れなかった。
今のブレイグは、間違いなくブレイグだけど、シュウ君のブレイグじゃないのかもしれない」
彩音は悔しげに呟いた。
しかし、シュウはそれを否定した。
「いや、オレもっと頑張ってみるよ」
「え?」
「このビクトリーブレイグは間違いなく俺のブレイグだ。撃った瞬間にその息吹を感じた。ブレイグなら絶対に俺は相棒になれる!それまで、何度だって特訓してやる!!」
「だけど、シュウ君……!」
彩音はシュウの腕を取った。
「っ!」
痛みではないが、何か違和感を覚えて顔を顰めた。
「やっぱり……シュウ君の身体に負担がかかってる。ただ強いだけのビーダマンって言うのはこう言う事なの。
扱いきれないだけじゃない、シュウ君の身体にもしもの事がある危険性だってあるの!」
「……」
そう言われて少しうつむいたシュウだが、すぐに顔を上げた。
「あやねぇ!すぐに俺にマッサージしてくれ!」
「え?」
予想外の言葉を受けて、彩音は面食らった。
「どんなに痛くても良い!完璧に俺の身体を治してくれ!それからまたすぐ特訓だ!!」
「……」
「体に負担がかかってるってんなら、治せばいい!それでも治しきれないなら休めばいい!身体壊さないように、治しながら特訓するんだ!
そうすればいつか絶対に使いこなせる!!」
「シュウ君……」
「彩音さん、こいつはこうなったら梃子でも動かない。とことん付き合おう」
「え、えぇ……分かったわ」
彩音も覚悟を決め、シュウの特訓に付き合う事にした。
少し時間は遡って、ここはギリシャのとある闘技場。
そこではギリシャ代表の選抜戦の決勝が行われていた。
「やれぇ!シュヴァリエル!!!!」
ドンッ!!
アラストールが、ダブルバースト連射で、対戦相手を追い詰めていく。
「うっ、くそぉ!なんなんだあのビーダマンは!」
「お前と俺じゃ、バトルに賭けるものが違うんだよぉ!!!!」
バーーーーーン!!!
アラストールのショットが対戦相手のボムを撃破した。
『決まったぁ!!ギリシャ代表は、アラストール選手に決定だ!!』
アラストールはシュヴァリエルを掲げた。
「勝ち上がったぞ……さぁ、お前も必ず来い!ウラノス!!」
一方のドイツでは……。
ヒンメルが選抜戦の決勝を戦っていた。
「くっそぉ!俺の攻撃が全然通用しない」
対戦相手の攻撃を、ヒンメルはことごとく無効化していく。
「これで終わりだよ」
「え!?」
ヒンメルは宙へ向かって連射を放った。
放たれたビー玉はぶつかり合って弾け飛び、対戦相手の周りに着地。
そして、一気に収束していく。
「リング・エンゲル」
「あ、あぁぁ!!!」
バーーーーーン!!!!
『あ、圧倒的!!前年度チャンピオンのヒンメル選手!当然の如く、ドイツ代表決定だ!!』
「うぅ、ちくしょう!ここまで勝ち抜いたのに!!」
「……」
悔しがる対戦相手に特にリアクションを示さず、ヒンメルは踵を返して歩いて行った。
「これで、戦える……」
ヒンメルは無表情のまま呟いた。
そして、再び場面は日本の仲良しファイトクラブに戻る。
「うおおおお!!いっけぇ、ビクトリーブレイグ!!」
「はぁぁぁぁ!!」
パワープッシュでタケルとシュウが激しく撃ち合っている。
カンッ!
しかし、シュウは肝心な所でショットを外してしまった。
「くっ!」
「貰った!!」
バシュッ!!
タケルがバーを押し込んだ。
「くぅ……!」
またタケルの勝利だ。
「どうした!何度もやっているが、全然変わってないぞ!使いこなすんじゃないのか?!」
「わ、分かってるよ!……ぐっ」
シュウは顔を顰めて腕を抑えた。
「彩音さん!」
「えぇ!」
彩音は素早くシュウを介抱した。
さっきから練習しては介抱。回復しては練習再開の繰り返しだった。
「はぁ……はぁ……くそぉ……」
「シュウ君、無理しないで。身体が壊れたら、元も子もないんだから」
「壊さないために、あやねぇに頼ってんだ。だから、俺はその分がんばらねぇと!」
シュウは立ち上がった。
「もう大丈夫だ。さぁ、続きをやろうぜ。タケル!」
「待ちくたびれたぞ、シュウ!」
タケルとシュウが対峙する。
彩音はシュウの覚悟を止める事は出来ない。ただ見守り、従うしか……。
「「レディ、ビー・ファイトォ!!」」
「うおおおおおお!!!」
「はああああああ!!!」
ドンッ!ドンッ!!
ビクトリーブレイグのショットがバーにあたる確率は、50%と言った所だ。それはさっきから全く変わっていない。
これだけ特訓しているのに、シュウの使いこなしは全く進歩していない。
「これで、終わりだ!!」
「くっ!」
タケルが3本目のバーを押し込んだ。
「あ……」
それを確認したのち、シュウは膝をついた。
「はぁ……はぁ……」
「シュウ!」
「シュウ君!」
「シュウ先輩!!」
タケルと彩音とリカの三人がシュウへ駆け寄った。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あぁ、こんなの大した事ないぜ……」
シュウは強がって、震える身体に鞭をうって立ち上がった。
「ダメだ。今日はもう帰れ」
タケルは非情の態度でそう言った。
「なっ!なんでだよ、まだ俺はやれるっ!」
「いや、もう限界だ。いくら彩音さんでも回復しきれない」
「ぐぐ……!あやねぇ、俺のバトルは?ちょっとは、ビクトリーブレイグを使いこなせるようにはなった?」
「……」
彩音はゆっくり首を横に振った。
全く進歩していない。
あれだけやったのに。
「……やめられるかよ。ちょっとでも進歩してなきゃ、ここまでやったのが無駄になっちまう」
「ああ。無駄だったな、この特訓は」
タケルはハッキリと告げた。
「っ!」
「だが、これからも無駄で終わるとは限らない。今ここで無茶したら本当に全てが無駄になるだろ」
「それは……」
「これからを無駄にしないためにも、今日はもう帰れ」
「……」
シュウはしばらく黙っていたが、ボソッと呟いた。
「分かった」
そして、トボトボと帰り支度をした。
「付き合わせて悪かったな、タケル、あやねぇ。明日からも頼むぜ」
それだけ言って、シュウは家に帰っていった。
家に戻って、晩飯を食い、風呂に入ったシュウは、部屋に戻ってベッドに横になった。
「……」
“今のブレイグは、間違いなくブレイグだけど、シュウ君のブレイグじゃないのかもしれない”
“無駄だったな、この特訓は”
今日言われたことが頭によぎる。
「くそぉ……せっかくブレイグが進化したのに、俺がついていけないなんて、情けねぇ……!」
シュウは自分の不甲斐なさを呪った。
拳を握りしめ、唇をかみしめる。
それでも、この悔しさは消えなかった。
……。
………。
いつの間にか、頭の中が真っ暗になった。
何も考えられない。眠りについたのだ。
徐々に視界が明けてくる。眠りから、夢の世界へ舞い込んだのだ。
「こ、ここは……!」
目を開けると、そこには一面競技場が広がっていた。
自分の記憶にある競技場。ジャパンビーダマンカップで使われた場所だった。
「なんで、ここに……?」
シュウが疑問に思っていると、後ろから声をかけられた。
「それは、ここが君の夢の中だからさ」
「え?」
振り返ると、そこに自分と同い年くらいの少年が立っていた。
その少年は、どことなく自分と似ている、気がする……。
「初めまして、竜崎修司君。いや、シュウ君って言った方がいいのかな?」
少年が気さくに笑った。
「お前、は?」
「僕の名は、佐倉ゆうじ。名前だけは聞いた事があるんじゃないかな?」
「佐倉、ゆうじ……!」
それは、4年前に死んだと言われる、仲良しファイトクラブのリーダーの名前だった。
つづく
次回予告
「夢の中で俺の前に現れたのは、あのゆうじだった!
マッハスパルナを扱うゆうじは、俺にバトルを申し込んできた!
次回!『夢幻のバトル!ブレイグVSスパルナ!!』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」