爆砕ショット!ビースピリッツ!!
第60話「憧れへの挑戦!」
『決まったぁ!トップで予選を通過したのは大原タクマ君だぁ!!』
チーム風林火山を始めとする多くのビーダマンを破壊し、タクマは勝利した。
「……」
予選を通過したタクマは、バトルフィールドから離れ、本戦が行われる会場への道のりを歩いていた。
そんなタクマの前に一人の男が立ちふさがった。
「よぉ、久しぶりだな」
それはヒロトだった。
ヒロトは、まるで懐かしの旧友にでも会ったかのようにフランクに話しかけてきた。
「高橋ヒロト」
タクマは、さして興味が無いように呟いた。
が、タクマの周りにいる源氏派下っ端達の反応は鋭かった。
「貴様っ!」
「よくもノコノコと現れたな!」
トゥループワイアームを構えるメンバー達だが、それをタクマは止めた。
「お前たちは先に行け」
「しかし……!」
「こいつなど、いつでも始末できる。照準はワールドチャンピオンシップにのみ向けろと言ったはずだ」
タクマにそう言われると、メンバー達はしぶしぶ承諾した。
「わ、分かりました……」
メンバー達はぞろぞろとタクマを置いて先に行く。
「大将様は愛されているな」
ヒロトは皮肉交じりにタクマに言った。
「何が言いたい?」
「護衛を引き連れての快適なバトル。仲良しこよしとは、弱肉強食がモットーの源氏派が聞いて呆れる」
ヒロトは、予選でのタクマの戦術の事を言っているようだ。
確かに、源氏派の方針は負けた者は全てを失うと言うもの。仲間との馴れ合いには程遠いはずなのだが。
「違うな。弱肉強食とは、組織の中で喰らい合う事ではない」
タクマは静かに反論した。
「奴らは弱者として、強者に従い。我は強者として弱者を犠牲に糧を得る。これも立派な弱肉強食だ」
実際、弱肉強食を地で生きている野生の猛獣もヒエラルキーのある集団活動をしている。
「けっ、そうかよ。そりゃご立派な方針だ。貴様らの組織、大体は共感出来たが、それだけは理解不能だ」
ヒロトは、組織にいながら一匹狼の存在だ。
組織に所属しても馴れ合ったり助け合ったりするつもりはない。
「もはやその必要はないだろう。組織を抜けた貴様がどう思おうが、関係のない事だ」
「確かにな」
ヒロトは笑った。
今のヒロトは源氏派ではない。だから源氏派の方針を理解する必要はない。
「随分と余裕だが、分かっているのか?貴様はいずれ、裏切り者としての制裁を受けてもらう」
「あぁ、分かっているさ。だからこそ、俺は笑っているんだ」
「覚悟は出来ている、という事か?」
「いや、楽しみにしているだけさ」
ヒロトの言葉の意味を、タクマは理解できなかった。
が、そもそもする気もなかった。
それ以上話す事もなくなり、ヒロトは最後に鼻で笑った後に踵を返して去って行った。
タクマは特に興味を持たず、本来の道のりを歩き出そうとした。
その時だった。
「待ちなさい、大原タクマ!」
後ろから、走る足音とともに呼びかける声が聞こえてきた。
「なんだ?」
タクマは怪訝な顔で振り返った。そこには佐津正義がいた。
正義はオフィシャル警備の証明書を見せると話を続けた。
「オフィシャル警備の佐津正義だ!予選での君の戦いは見ていた。他人のビーダマンを破壊する行為、あれはビー魂に反する!」
「だから?」
「前にもジャパンビーダマンカップで、君の仲間がバトル終了後に相手のビーダマンを奪ったり破壊したりした行為を働いた事の調べはついている!
あの時は、バトル終了後での行為だからオフィシャルは関与できなかったが、今回のようにバトル中に相手のビーダマンを傷つける事は見逃せない!」
「ふっ」
正義の発言に、タクマは鼻で笑った。
「ビー魂に反する、か。だが、ルールとして明記されているわけではない。
ルールには『人に向けて撃ってはいけない』とあるが、『相手のビーダマンを破壊してはいけない』とは一言も書いていないぞ」
ビーダマンバトルは激しくビー玉を撃ち合うものだから、相手のビーダマンを破壊してしまったとしても、それを故意か事故かを判別する事は至難だ。
だからこそ、ルールとして明記する事が出来ないのだ。
「ルールに反してない事が全て正しいわけじゃない!本戦でも相手のビーダマンを故意に傷つけるなら、君とその仲間を大会から永久追放する事も辞さないぞ!」
正義は毅然とした態度でそう警告した。
だが、タクマはそれにビビる事はなく、高笑いした。
「くっ、はっはっは!まぁ、それが今の常識ならば従ってやろう。だが、いずれはその常識もマナーも覆る事になる。正義ほど移ろいやすく不確定なものは無いからな」
タクマは皮肉めいた口調でそれだけ言うと歩き出した。
「ま、待て!まだ話は終わってない!!」
正義が呼び止めるのだが、タクマは聴く耳持たずに去って行った。
そして……。
『終了!今、13人目の予選通過者が決まった!この瞬間、まだ100ポイントに達していないビーダーは自動的に予選落ちだ!』
日比谷公園でモニターを見ているシュウ達。
「あっちゃあ、あいつら全員予選落ちか」
仲良しファイトクラブの新入メンバー達は全員予選通過できなかった。
「でも、皆よく頑張ってたよ」
得点表を見ると、なかなかに高得点でしかもリタイヤしていないって事は最後までシャドウボムを守りきったという事だ。
それだけでも立派だろう。
と、ぞろぞろと試合を終えた新入メンバー達が申し訳なさそうな顔でシュウ達の所にやってきた。
「すみません、先輩たち……」
「予選通過できませんでした」
メンバー達は頭を下げて謝った。
「ううん、初めて出た大会でここまで戦えたら上出来だよ」
「結果は最良ではないが、日々の特訓の成果は出ていたみたいだな。これを糧にしていけばいい」
彩音とタケルがフォローを入れると、メンバー達は救われたように顔を上げて返事をした。
「「「はい!」」」
『それでは、早速トーナメントを組んで試合を始めよう!
事前情報の通り、ジャパンビーダマンカップ同率3位の琴音君とヒロト君はAブロックに、2位のシュウ君はBブロックに組み込まれているが、
その他の選手はルーレットでランダムに決めていくぞ!もちろん、シード選手三人の試合順はランダムに決めていくので、誰が誰といつ戦うかは分からない!!
それでは、ルーレットスタート!』
モニターにトーナメント表が表示され、そこに名前が刻まれていく。
『これが、今回の組み合わせだ!!』
Aブロックは、琴音、ヒロト、タクマ、誠、達也、カブ太、クワ吉、ゴクブチ
Bブロックは、高松、康成、ジャン、シュウ、メアシ、輝彦、ヘラ丸、マリア
この順番で名前が表記された。
『各ブロックのトーナメントで優勝した二名が、日本代表となる!本戦はこのあと5分後に開始するぞ!
予選の疲れも残ってるだろうが、気張って行けよ!!』
「げぇ、ジャンの奴勝ち上がってんのかよ……!しかも一回戦で俺と当たるし……!」
シュウはちょっとゲンナリした。
「あたしの、一回戦の相手……」
シュウの横で、琴音が唖然としていた。
「あっ」
シュウらもそれに気付いた。
(ヒロ兄……)
琴音は無意識に拳を握りしめて震えていた。
「琴音、あまり気を張るな。ヒロトさんはもう源氏派を辞めている。純粋にビーダーとして……」
タケルが琴音を励まそうとすると、琴音は言い切る前にタケルの方へ向いた。
「ううん、あたし楽しみなんだよ。ヒロ兄と戦えることが」
「え?」
琴音の顔は晴れやかだった。さっきの震えは武者震いだったのか
「ヒロ兄は、あたしの憧れだった。憧れて、ずっと一緒にいたくて、そして、いつか本気で戦いたかった」
「そうか」
琴音のしっかりとした様子に、タケルは安心したように頷いた。
「ことねぇだったら絶対いけるぜ!ヒロトなんかブッとばしてやれ!!」
「しっかりね、琴音ちゃん」
皆の声援を受けて、琴音は頷いた。
「うん!」
そして、バトルフィールドが設置されている方へと歩いて行った。
『さぁ、一回戦第一試合を始めるぞ!対戦カードは佐倉琴音君VS高橋ヒロト君だ!
なんと、二人はジャパンビーダマンカップ同率3位のシード選手同士!これは、早くも日本3位決定戦となるのか!?』
バトルフィールドとなる広場にヒロトと琴音が入場した。
「ヒロ兄……!」
琴音はまっすぐにヒロトを見た。が、ヒロトは琴音を見ていない。
(俺が奴とぶつかるのは、2回戦。この試合、とっとと終わらせるか)
『ルールは、アルティメットシャドウヒットバトル!バトルフィールドは広大とは言え、障害物も何もないシンプルなフィールド!それ故にビーダーの実力がモロに現れるぞ!
それでは、早速始めよう!レディ、ビー・ファイトォ!!』
ダッ!
合図とともに二人は射程に入るまで走り出した。
「ヒロ兄!あたしじゃ、まだ勝てないかもしれないけど、全力でぶつかるよ!」
ズドドドド!!
サンダーグルムが先手必勝とばかりに一点集中の連射を放った。
しかし、ヒロトは、あっさりそのショットを躱す。
『早くも攻撃をしかける琴音君だが、ヒロト君は見事なフットワークでこれを躱す!!そして反撃に転じるか!?』
「はぁぁぁ!!」
ヒロトがヴェルディルで乱射を放った。
「うっ!」
琴音はそれを躱そうとするのだが、四方から来るそのショットを全て躱しきる事は出来ず、何発か喰らってしまう。
そして、攻撃を喰らって動きが一瞬鈍るボムを狙ってヒロトは集中砲火を浴びせた。
「っ!」
『ヒロト君上手い!威力は低いが、集中砲火を浴びせて着実にダメージを与えている!!
シャドウボムは攻撃を喰らうと一瞬動きが鈍る!立て続けに攻撃を喰らってはもうかわす事は出来ないぞ!!』
琴音は必死に連射してヒロトの攻撃を防ごうとするのだが、全てを防ぎきる事は難しい。
だが、なんとか一瞬の隙を付いて、ヒロトのハメ攻撃から脱出した。
「はぁ、はぁ……!」
『琴音君、なんとか脱出!しかし、琴音君のHPは既に53!対するヒロト君はまだ無傷!これは厳しい戦いになってきたぞ!!』
「抜け出したか」
「ヒロ兄……あたしだって、簡単には負けない!」
必死にヒロトに食らいつこうとする琴音だが、肝心のヒロトは、チラチラと観客の方を見ている。
琴音を見ていない。
「いっけぇ!!」
よそ見している隙に連射を放つ琴音だが、ヒロトはそれを余裕で防ぎきる。
「負けない!あたしの味方でいてくれた仲良しファイトクラブのためにも!勝って世界に行くんだ!!」
「世界か……」
ヒロトがくだらなそうに呟いた。
「どうでもいいな。そんなものは」
「え?」
「2回戦で奴と戦えればあとはもうどうでもいい」
ドンッ!!
ヒロトがパワーショットを放ち、琴音のシャドウボムを攻撃した。
「くっ!!」
『再びヒット!琴音君のHPはこれで47!このまま一方的に終わってしまうのか!?』
「ぐぐ……!」
琴音は唇をかみしめた。
悔しかった。ヒロトに勝てない事ではなく、ヒロトが対戦相手である自分を見ていないことが。
(もうすぐだ……もうすぐ奴に……!)
ヒロトの頭の中には琴音は完全に消え去っている。
それが琴音には我慢ならなかった。
「ヒロ兄!!」
琴音はヒロトへ叫んだ。
「ん?」
さすがにヒロトはそれに反応した。
「確かに、あたしじゃ力不足かもしれない!ヒロ兄には、足元にも及ばない……でも!今戦ってるのはあたしなの!あたしを見てよ、ヒロ兄!!」
琴音は手を胸に当ててヒロトへ訴えた。
しかし、ヒロトはその訴えを鼻で笑った。
「俺に見てほしいなら、力を示せ。言葉でビーダーを動かせると思うな」
「っ!」
ヒロトの言うとおりだ。
実力も無しに自分を見てもらおうなんてそんな虫の良い話はない。
「……」
琴音の心が折れかけた。その時だった。
「がんばれーことねぇーー!!」
「琴音ちゃん、しっかり!!」
「お前の力はこんなもんじゃないだろ!いけっ、琴音!!」
観客の方から声援が聞こえてきた。
それを聞いて、琴音はハッとする。
「皆……そうだ……あたしは、一人じゃない!」
琴音はキッ!と前を見据え、ヒロトのシャドウボムへパワーショットを放った。
バーーーン!それは見事ヒットする。
「むっ!」
『ここでようやく、琴音君の攻撃が通った!ヒロト君、残りHPは93だ!』
「確かに、あたしは弱い……!強くなれたのも、全部ヒロ兄と源氏派の力……!でも、そんなあたしを支えてくれたのは仲良しファイトクラブなの!!」
シュンッ!!
琴音は素早くスピード弾を装填し、ヒロトのシャドウボムへ放った。
「速い!?」
さすがに対応しきれず、シャドウボムにヒットする。
『ヒット!スピード弾の速度にはさすがのヒロト君も対応しきれなかった!が、威力は低いぞ!!』
「雷光一閃!!」
琴音は今度は必殺の一点集中連射を放った。
「その程度……!」
しかし、ヒロトは反応できても、スピード弾による攻撃を受けたばかりのシャドウボムは反応できなかった。
「なっ!」
ズババババ!!!!
琴音の連射が次々とヒロトのシャドウボムにヒットしていく。
『琴音君、スピード弾を使った見事な奇襲でヒロト君のシャドウボムへ連続ヒット!!追いつくかぁ!?』
「舐めるなぁ!!!」
ヒロトは攻撃を防ぐのは辞めて、直接琴音のシャドウボムを狙って連射した。
『のおっと!ヒロト君も琴音君のシャドウボムへ連射連射連射!!
両者の連射が、次々とヒットしていき、シャドウボムのHPを減らして行く!!』
両者のHPが減る速度はほぼ同じだ。
しかし、最初のリードがある分、当然ヒロトの方が圧倒的に有利だ。
そして……。
バーーーーン!!
琴音のシャドウボムが爆破した。
『決まったぁ!ダメージレースとなった終盤だが、序盤のリードを守りきったヒロト君が琴音君のシャドウボムを撃破!!勝ったのは、高橋ヒロト君だ!!』
バトルが終わり、すっきりした表情で琴音はグルムをしまった。
「ありがとう、サンダーグルム……」
そんな琴音を見て、ヒロトは踵を返し、一言言った。
「さっきの攻撃、悪くなかった。俺も一瞬本気を出した」
ぶっきらぼうにそう言って、ヒロトは去って行った。
「ヒロ兄……」
琴音は、歩いていくヒロトの背中を眺め続けていた。
つづく
次回予告
「日本選抜戦!俺の最初の相手はジャンだ!そういや、俺ジャンにはまだ勝ってないんだよなぁ
そんなジャンは、新型オランギルで新たな戦法を引っ提げて立ちはだかってきた!!
次回!『じゃんじゃんじゃじゃーん!』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」