オリジナルビーダマン物語 第58話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第58話「ストライクショットを使いこなせ!」






 波乱の夏合宿も終わり、シュウ達はいつもの日常に戻った。
 気が付くと夏休みもあっという間に過ぎ、新学期まであと残り3日になった。
 そして、世界選手権日本選抜戦の開催も刻一刻と近づいていた。
 
「やっべぇ、寝坊したぁ~!!!」
 シュウは、仲良しファイトクラブへの道のりを焦りながら走っていた。
 時間は午前11時。いつもならとっくにクラブで練習している時間だ。
「くぅぅ、最近父ちゃんにどやされて、夜遅くまで宿題やらされてるからなぁ……!」
 シュウは毎年いつも夏休みの終わりに慌てて宿題を済ませるタイプだ。
 それに見かねた父が、スパルタでシュウに宿題をさせているらしい。
「いっそげいっそげぇ~!!」
 そして、途中の中央公園に差し掛かったところで。
 子供たちが楽しげにビーダマンバトルしているのが視界に入った。
「おっ、あいつら元気にやってんなぁ」
 シュウは足を止めて、なんとなくその公園の子供達の様子を眺めた。
「いっけぇ、俺のクライシスデスバスター!!」
「負けるな!ハンターブラックレッドブライド!!」
 物々しい名前を叫んでいるが、どっちもシアナイトだ。
 競技の内容は、ブレイクボンバーのようだ。
 バキィ!!
 赤ボムがクライシスデスバスターの陣地に弾かれた。これで勝負ありだ。
「あぁ、まけたぁ……!」
「へっへっへ、俺の勝ちだな!んじゃ、約束通り」
「うん」
 負けた子は、クライシスデスバスターを勝った子に差し出した。
「おっしゃぁ!これで5体目!」
「ちぇ、こうじ君は強いなぁ」
「まぁな~!」
「はぁあ、またビーダマン買わなくちゃ」
 子供達は、勝った方が負けた方のビーダマンを手に入れられる。と言うルールでバトルをしていたらしい。
 それを見ていたシュウは、思わず割り込んだ。
「ちょ、ちょっと待てぇ!!」
 いきなり上級生に割り込まれて、子供達は吃驚する。
「え、な、なんですか……?」
「お前、負けた子のビーダマンを盗ったのか!?」
「ひ、人聞きわるいな。貰ったんだよ!賞品として」
「賞品って、それはあの子の大事な愛機だろ!返してやれよ!」
 シュウは強引にクライシスデスバスターを奪い、元の持ち主へ差し出す。
「え、でもぉ……」
 肝心のその子は受け取りを躊躇っている。
「ほら、これはお前のだろ」
「だ、ダメだよ。僕、負けちゃったんだし……」
「えぇ?!」
 戸惑うシュウのすきを突いて、さっき勝った子がシュウの手からクライシスデスバスターを奪う。
「ほら、だからこれは俺のなんだよ!」
「お、お前ら……こんなバトルして、源氏派のビーダーか?」
「源氏派?なんの事?」
「俺達、ビーダマン始めたばっかりだけど、そういうルールなんだろ?」
「初めてビーダマンバトルを見たとき、そうだったし」
「あぁ、勝つか負けるかワクワクするバトルだったよな!」
 初めてみたバトルと言うのは、恐らく源氏派のバトルなのだろう。
 それを子供達は賞賛している。
「ふ、ふざけるな!!!」
 シュウは我慢できなくなって一喝した。
 子供たちはビクつく。
「ビーダマンは大事な相棒だろ!それを簡単に奪うなんて、そんなのビーダーじゃねぇ!!!」
 シュウは説教をしたつもりだった。
「「う、うわああああ!!」」
 しかし、怖気づいた子供たちは一目散に逃げて行った。
「あ、お、おい!!」
 呼び止めようとするが、もう遅い。
「……」
 源氏派が悪いって事を説こうと思ったのに。
 これでは、完全にシュウが悪者だ。
「おはよ~」
 シュウは仲良しファイトクラブの練習場の扉を開いた。
「随分遅いな、寝坊か?」
「まぁな……って、今日は人少ないな」
 練習場の中にはタケルと琴音しかいなかった。
「夏休みももうすぐ終わりだからね。宿題に追われている子や家族旅行に行ってる子やらで皆休みなのよ」
「ふ~ん、そっか」 
 琴音の説明に、シュウは気のない返事を返した。
「なんだ、元気ないな?」
 タケルはシュウの様子に気付いた。
「……さっきさ」
 シュウは、さっきの出来事をタケル達に話した。
 ビーダマンを始めたばかりの子供達が、源氏派の影響でビーダマンの奪い合いをしていた事を。
「最近、源氏派の事件全然聞かなくなったし。ことねぇが戻ってきてくれたことで満足してたから、源氏派の事すっかり忘れてたぜ……」
 琴音とヒロトの一件のせいで、源氏派への意識が完全になくなっていた事に、今ようやく気付いた。
「そういや、俺もすっかり忘れてたが、源氏派の事件全然聞かないな。ジャパンビーダマンカップで公になったから、オフィシャル警備のパトロールが強化されたのか?」
「それもあるけど。単純に、暴れる必要が無くなったってだけよ」
 琴音がタケルの口を挿んだ。。
「あたし達は結果的に智蔵派ではあるけど、元々源氏派や智蔵派の存在を知らないままにビーダーになって、無自覚のうちに智蔵派になったに過ぎないの。
潜在的に、源氏派と同じ考え方を持っているビーダーがいてもおかしくはない。
源氏派が今まで暴れてたのは、智蔵派のビーダマンを駆逐するためじゃなくて、仲間を増やし、選別するためのデモンストレーションだったのよ」
「宣伝って事?」
「えぇ。難波クウやヒロ兄も、それで源氏派に入ったようなものだしね」
 そういえば、クウやヒロトは元々源氏派の人間ではなかった。
 あの時期に源氏派が暴れまわった事によって、その存在を知り、源氏派の思想に賛同して仲間になったのだろう。
「そこら辺は、琴音の方が詳しいか」
 一度は源氏派に入った事のある琴音の話だ。信憑性は高い。
「源氏派の最終目標は、自分たちの思想をビーダマン界の常識にする事だからね。あの時期に暴れまわっていたのは、そのための準備段階に過ぎないの」
「って事は、何か次の企みがあるって事か!?」
「あたしも、詳しくは聞かされなかったけど。コンフターティスドライグが完成したら、草バトルで自分たちの存在を誇示する事はしなくなるはずよ。
次の段階へ組織の力を全て注ぐはずだから」
「次の段階って、まさか世界選手権、とか……!」
 世界一になれば、その影響力はかなりのものだ。常識を覆す事も不可能ではないかもしれない
「確証はないけど、その可能性はかなり高いわね」
「あいつも、出るのか……!」
 シュウとタケルはかつて、まだ未完成だったコンフターティスドライグと戦った事がある。
 あの時は引き分けだったが、実質完敗だったようなものだ。
 シュウは身震いした。
「だが、ビーダーとして大会に参加してくるなら、ビーダーとして倒すだけだ。源氏派も何も関係ない。ジャパンビーダマンカップの時と同じだ。
それに、もしバトルとは関係ないところで何か企んでいるとしたら、もうオフィシャル警備の管轄だ。俺達が必要以上に絡む事は無いだろ」
「まぁな」
「今までと同じように、大会を勝ち抜けばいいんだ」
「だな。大会の外で何か悪い事をしてくるとしても、正義たちがいる!俺達はビーダーとして世界一を目指すだけだぜ!」
 シュウは気持ちを新たに、気合いを込めた。
 余計な事を考えても仕方ない!ただ純粋にヒンメルを倒すだけだ!
 
 その時、休憩室から彩音が顔を出してきた。
「あ、いたいた。ちょっとこっちに来て!」
 彩音がシュウ達三人を手招きした。
 三人が彩音のそばに来ると、彩音は小さめのアタッシュケースを取り出した。
 その中に、色とりどりの玉が入っていた。
「なんだ、これ……ビー玉?」
 シュウはそう言いながら、その中の一つを手に取った。
「あれ、でもなんかビー玉と違うような……」
「うん。それは、ただのビー玉じゃないの。その名も必殺球……ストライクショット!」
「ストライクショット?」
「そう。前に、小樽で試合をした時に、特殊なビー玉を開発中だって言ってたじゃない?それがついに完成して、試作品がウチに届いたの」
「へぇ~!」
「さっきまで分析してたんだけど、想像以上に凄い能力を持っている事が分かったの。早速テストショットしてもらおうと思ったんだけど」
「ストライクショットか……」
「面白そうね」
 タケルと琴音もストライクショットを一つ手に取ってみた。
「本当は皆いる時にするべきなんだけど……」
「それはまた後日でいいだろう。とりあえず俺達だけでもテストをしよう」
 三人はストライクショットを手に、テストショット用のフィールドに立った。
「それじゃ、まずは俺が撃つ!」
 シュウは銀色のストライクショットを手に持っている。
「じゃあ、シュウ君はメタル弾ね」
「おっしゃ!!」
 ドンッ!
「うっ、重い……!」
 シュワアアアア……!
 フルパワーで撃ったはずなのに、メタル弾の発射速度は遅い。
「なんだよ、全然遅いぞ?!」
 しかし、メタル弾が壁にぶつかると。ドンッ!と重い音が響く。
「遅いのに、凄い威力だ」
「メタル弾は通常のビー玉よりも重量があるの。だから速度は遅いけど、威力は高い。パワーシューター向きね」
「俺にピッタリって事か。でも、こう速度が遅いんじゃ、相手に当てるのは難しそうだな」
「動きは無いが重いターゲット向きって事か」
 しかし、これからの主流はアルティメットSHB。相手が動かない状況と言うのは少ない。
「次はあたしが撃つね」
 今度は琴音がフィールドに立った。
「っ!」
 ドンッ!!
 壁目掛けてショットを放つ。
 その玉は一瞬で壁に到達し、カキンッ!と軽い音をたてて弾かれた。
「は、速い……!」
「けど、今度は反対に威力が無いな」
「琴音ちゃんが撃ったのはスピード弾。軽くできているから、威力が少ない代わりにスピードは抜群よ」
「威力が無いのはネックだが、『当てれば勝ち』って言うルールだったらかなり有効だな。このスピードは回避も迎撃も難しいぞ」
 アルティメットSHBには向かないが、普通のSHBなら無敵かもしれない。
「次は俺だな」
 今度はタケルの番だ。
 ドンッ!キュルルルル!!!
 タケルの撃ったショットは物凄いドライブ回転で駆け抜けていき、壁を垂直に駆け上がった。
「な、なんて回転力だ……!」
「タケル君が撃ったのはドライブ弾。玉にラバーが縦に巻かれていて、それが3本爪の下爪との摩擦を強める事で回転力を増しているの。
地面とのグリップ力も上がってるから、ステージ競技ならスピードと直進性はかなりのものよ。
ただ、効果のあるコアが限られているのと、セットするたびにラバーを下爪に合わせないといけないから、速射には不向きね」
 ドライブショットが強化されるという事は、遠距離のターゲットを高速で狙い撃つのにはかなり強い。
「なるほどな、大体わかった。ストライクショットってのは一長一短ある癖の強いビー玉って事か」
「でもこれ、大会ではどう使うんだ?持ってきた分全部使っていいの?」
 シュウが質問する。
「1試合に持ち込めるストライクショットは3つまで。同じものを使っても良いし、別の種類のものを自由に組み合わせてもいいんだって」
「一回撃った玉はどうするんだ?」
「拾ってまた撃ってもいいし、相手が撃ったものを拾うのもありみたい。でも、ステージ競技ならともかくオープン競技でそれをするのは難しそうね」
 となると、実質ストライクショットは3つ使い捨てと考えた方が良い。
「3つってなると、組み合わせが難しいな」
「違う種類のものを3つ選んで、いろんな状況に対応するか」
「同じものを3つ選んで、連射できるようにするのもありだぜ」
 三人はう~んと思案した。
「とりあえず、撃ちまくってストライクショットになれるしかないな。大会までに使いこなせるようになればいい」
「「おおーー!」」
 三人はフィールドに立って、各々ストライクショットに慣れるための練習を始めた。
 
「行くぞ、ブレイグ!メタルショット!!」
 シュウは、クレイシューティングのように転がっていく皿型のターゲット目掛けてメタル弾を放つ。
「くっそぉ!速さがいつもと違うからタイミングが合わねぇ!!」
 ドンッ!ドンッ!ヒュンッ!!
 何度も何度も挑戦するのだが、なかなか当たらない。
「ぐぅぅ、もうちょっとタイミングを早く……!」
 ガシュンッ!
 メタル弾がクレイを掠める。
 なんとかタイミングを掴めるようになってきた。
「思いっきりパワーショットを撃てば、メタル弾でもそれなりに速度は出るな……あとはこれに慣れれば……!」
 ガクガクガク!!
 ブレイグのヘッドの刃が振動する。
「次はこいつを試してやるぜ!フェイタルストーム!!」
 バシュウウウウウウ!!!
 空気を纏ったメタル弾がものすごい重量感で進んでいく。
 速度自体はそれほどでもないのだが、威圧感が半端ではない。
 ドゴオオオオオオオ!!!!
 クレイからは外れていたが、重量感と風圧によって吹き飛んでしまった。
「す、すげぇ……!当たってないのに、ブッ飛ばせた……!」
 これなら、タイミングがズレて的に当たらないと言う弱点も回避できるのではないだろうか。
 
 一方の琴音は、スピード弾を連射して複数のターゲットを狙っていた。
「くっ!」
 シュンッ!シュンッ!!
 しかし、1、2発は当たるが、3発全部当てるのが難しい。
「スピードが速すぎて、コントロールが付けづらい……!」
 シュンッ!ガシュッ!!
 しかし、琴音も徐々に慣れてきたのか、まともに当たるようになってきた。
「玉の軌道を良く見て……目をこの速度に慣らすの……!」
 シュンッ!シュンッ!ガキッ!!
 ついに、全てのショットをターゲットにぶつける事が出来た。
「やった!」
 徐々に目がスピード弾に慣れていったのだ。
 そしてタケルは……。
「はぁぁぁぁ!!」
 ドンッ!!
 ドライブ弾の使いこなし自体は悪くない。
 しかし。
「くっ!撃つだけならいいが、リロードに時間がかかるのがネックだな」
 ドライブ弾はリロードしてからラバーの位置を調整する必要がある。
 その手間をいかに素早くやるかで使いこなせるかどうかが決まるだろう。
 タケルはドライブ弾を撃つのを一旦やめて、リロードしては出し、出してはリロードを繰り返した。
「よし、大分掴めて来たな」
 ドライブ弾のリロードには慣れてきた。
「あとは、ストライクショットをどう組み合わせるか、だが……いや、待てよ。この組み合わせなら」
 タケルは違う種類のストライクショットを二つレックスに入れた。
「はぁぁぁ!!!」
 ドンッ!!!
 そして、パワーショットを放つ。
 シュンッ、バーーーーン!!!
 とてつもない威力のショットが放たれた。
 その音にびっくりした他の三人がタケルの方へ駆け寄ってきた。
「ど、どうした!?」
「今の音何?!」
「タケル君、大丈夫?」
 口々にタケルへ声をかけるが、タケルは答えない。
「な……!」
 タケル自身もビックリして、呆然としているのだ。
「タケル……?」
 シュウがタケルの肩に手を置いた。
「は、はは……ストライクショットか、こいつぁ面白い……」
 タケルは呆然としながら呟いた。
「え、タケル、まさかすげぇショット撃ったのか!?どうやったんだよ!!」
「さぁな」
 タケルは自分自身のショットに戦々恐々としながらもすっとぼけた。
「え~なんだよケチ~!!」
 
 ストライクショットも使いこなし、日本選抜戦への準備は整いつつあった。
 
 
      つづく
 
 次回予告

「さぁ、いよいよ開催だ!ビーダマンワールドチャンピオンシップの日本選抜戦!
俺はシードだけど、予選から凄い戦いだぜ!くぅぅ、シードなんかじゃなくて、俺も参加したかったぜ!!
 次回!『日本選抜戦開催!』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」
 

 

 

 



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