爆砕ショット!ビースピリッツ!!
第57話「恐怖!呪われたビー魂」
タケルの別荘に備えてある大浴場。
昼間猛特訓した仲良しファイトクラブのメンバー達がそこで汗を流していた。
「ひやっほー!」
ザッパーーン!
シュウが勢いよくでっかい湯船に飛び込んだ。
「あ、バカシュウ!」
タケルがそれを止めようとするが、もう遅い。
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!」
入った瞬間、シュウは悲鳴を上げた。
「ほれ見た事か。昼間あれだけ外にいたんだから日焼けが痛むに決まってんだろ」
「うぅ、ぐぐぐ、ヒリヒリする……」
涙目になるシュウ。
「シュウ先輩、慌て過ぎっすよw」
後輩達にも笑われてしまった。
「日焼けした時は、まずは冷水で肌を冷やしてからじゃないとな」
タケルにそう言われ、後輩たちはそれに習った。
「ほれ、お前も」
言って、タケルは涼にも冷水をかけようとするが、涼はそれを拒否した。
「いや、僕は大丈夫です」
そう言われ、よく見ると涼の身体は全く日焼けしていない事に気付いた。
「そういやお前、あれだけ外にいたのに肌白いな」
「あ、はい。僕日焼けしにくい体質なんです」
「ほぉ……」
なんとなく怪訝な表情になるものの、本人がそういうのなら間違いないだろうとタケルは特に突っ込まなかった。
一方の小浴場。
女子は三人しかいないため、小浴場と言っても広々と浸かっていた。
「ふぅ、良いお湯ね……」
湯船に浸かり、彩音は一息ついた。
「ひっ、くぅぅぅ……!」
琴音は日焼けが痛むのか、顔を顰めている。
「だ、大丈夫?」
「うっ、くぅ、なんとか……」
涙目になりながら、沁みる身体を耐えている。
「うぅ、タケルってば容赦ってものを知らないんだから」
「ははは、タケル君も世界選手権を前に気合いが入ってるんだよ」
「タケルには限度ってものを知ってほしいわ……」
琴音は湯船でぐったりとした。
「じーーー」
その中で、彩音は視線を感じていた。
「じーーーーー」
特に、胸辺りに……。
「じーーーーーーーー」
リカだ。
目の前で思いっきり彩音の胸を見ている。
「な、なにしてるの……?」
彩音はなんとなく自分の胸を隠しながらリカに問いかけた。
「別に、なんでもないです」
リカは何故かむくれてそっぽを向いた。
「?」
リカは密かに自分の胸と彩音の胸を比べていた。
(戦力の差は圧倒的……!でも、私は負けませんよ!)
全員風呂から上がり、次は部屋割りをする事になった。
「さて、後は寝るだけなわけだが。部屋割りをどうするかなぁ」
リビングには全員集まっていた。
「そういうのって最初に決めとくもんじゃないの?」
「いや、ちょっと準備でバタバタしてたからな。うっかりしてた。
つっても、そんな悩む事でもないけどな」
「はーい!私、シュウ先輩と一緒がいいです!!」
やはりと言うか、リカは真っ先に手を挙げてそう希望した。
「却下だ」
タケルは即答した。
「ええ~!!!」
ブー垂れるリカを無視してタケルは続けた。
「えっと、確か集まったのが、男子20人で、女子が3人。んで、10人部屋が3つあるから……」
かなり大きなコテージのようだ。
「男子が10人で二つに分かれて、女子はそのままでいいな」
結論は出た。
ようは男子の振り分けをどうすればいいかだ。
「ひぃ……ふぅ……みぃ……」
タケルの即却下が納得出来なかったリカは悪あがきにと人数を数えていた。
「あっれぇ?男子21人いますよぉ!これじゃあ男子が一人溢れます」
「え?」
リカに言われ、タケルは慌てて人数を数えた。
「……ほ、ほんとだ。マズったな、数え間違えてたか」
「ほら、それじゃあシュウ先輩があふれて可哀相なんで、私達と一緒に!」
「なんで俺があぶれる事前提なんだよ!」
さすがにシュウも突っ込んだ。
「あ~、別に一人多くても問題ない。男子は基本雑魚寝だ!とっとと振り分けるぞ!!」
と、タケルは少々雑に人数を振り分けた。
「よし、これでオッケー!明日も早いからな、各自就寝だ!」
タケルの合図とともに皆ぞろぞろと寝室へ向かった。
シュウが割り当てられた部屋は、当然ながら11人押し込まれた方の10人部屋だった。
「やっぱり俺はここか……」
「先輩だから当然だろ」
タケルもいる。
「なんか、弟出来たばかりの兄貴みたいな言われようだな……」
「良いからとっとと寝ろ。明日も早いぞ」
「へーい」
所狭しと並べられた布団。
シュウは一番出口に近い方の布団に入った。
消灯して、各自眠りに入る。
しかし、狭い。暑い。タケルのイビキうるさい。で、なかなか眠れない。
「あつぅ、タケルうるせぇ……」
何故かタケルは嫌がらせのようにシュウの方を向いてイビキをかいている。
「だぁぁ、もう眠れるか!」
シュウは起き上がって部屋を出る事にした。
「なんか飲もう」
リビングに行こうと扉を開けた。
すると、目の前に涼がいた。
「っ!」
「おあっ、ビックリしたぁ!」
「シュ、シュウ君、脅かさないでくださいよ……!」
対してビックリした様子もなく涼は言った。
「いや、それはこっちのセリフだぜ。お前の部屋は隣だろ?」
さきほどの割り当てで、涼はシュウと別部屋に当てられたはずだが。
「あ、いやぁ」
そこを突かれて、涼の目が不自然に泳いだ。
「その、トイレに起きたんだけど部屋間違えちゃったみたいです。すみません」
涼はそう言って本来の自分の部屋に戻って行った。
「なんなんだ……?」
首を傾げるシュウだが、特に気にせずにリビングへ向かった。
「んぐ、んぐ、んぐ!」
冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注いで一気に飲み干した。
「プハー!!」
麦茶を冷蔵庫にしまう。
「っはぁ、戻りたくねぇなぁ」
今あの部屋に戻ったらまたタケルのイビキ攻撃に苛まれてしまう。
ほかの皆は良くあれで眠れるものだ。
「いっそ、ソファで寝ちまおうかな」
シュウはソファの上で寝転がった。
「おっ、あんな部屋でギューギュー詰めで寝るよりこっちの方がよっぽどいいじゃん!
暑いから布団なんていらねぇし!」
シュウはそのまま目を瞑って眠りについた。
布団も何もかけずに、フカフカのソファで寝ると言うのは結構心地よかった。
誰もいない静かな空間で、耳につくのは夏の虫の鳴き声のみ。
ひんやりとした空気が体を包み。これならぐっすり眠れそうだ。
しかし、それもほんの30分程度までだった。
急に体が何か暖かく、柔らかい物に包まれた感覚に陥った。
暖かい、と言っても真夏のこの時期には辛い。
しかも包まれているので息苦しい。
「うぅ、なんだよぉ……」
せっかく気持ちよく眠れていたのに。と、シュウはうすらぼんやりと目を開けると……。
「いぃ!?」
目の前に彩音の顔があった。しかもシュウを抱き枕にしている。
「な、なんで!?」
暑かった原因はこれだった。
シュウは急いで彩音を除けようとして、躊躇った。
また、琴音の言葉を思い出したのだ。
「……」
別に気にする必要なんかないんだろうけど。
でも、やっぱりあの言葉は無下にしてはいけないような、そんな気がして、シュウの行動を制限してしまう。
でも、乱暴に除けるのはともかくとして、彩音は起こさなければならないだろう。
「うぅん……兄……ゃん……」
起こそうと彩音を揺さぶろうとしたとき、彩音の口が開いた。
寝言だろうか。
「お兄ちゃん……大好き……」
ゆうじの夢でも見ているのだろか。彩音の表情は幸せそうだ。
「……あやねぇ」
その顔を見てしまうと、それ以上動けなくなる。
「もう、どこにも……いかないで……」
つぅ……と、彩音の目から一筋の滴が零れた。
涙だ。
それは、悲しみからの涙なのか、嬉しさからの涙なのか。
「……」
月夜に照らされて輝くそれに、シュウは見惚れてしまった。
「う、ん……」
と、ようやく彩音の目がうっすらと開かれた。
「おはよ」
「ひぇっ!?」
シュウの姿を確認すると、彩音は目を見開いて飛び起きた。
「あ、あれ、シュウ君なんで!?」
「いや、どっちかと言うとそれは俺のセリフなんだけど」
「あ、うん、えっと、そうだよね……」
深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
「そ、そうだ……私、トイレに起きて、それでシュウ君がソファで寝てたから風邪引くと思って毛布を持ってきて……」
「それで、一緒に寝ちゃったと?」
「あ、あはは……」
彩音は笑ってごまかした。
そして、彩音は自分が涙を流していたことに気付いた。
「あれ、私、涙……」
表情が変わる。自分が見ていた夢を思い出したのだろう。
寂しげに目を伏せた。
「俺、やっぱ部屋戻る……」
これ以上ここにいるともっとめんどくさい事になりそうだ。
「あ、うん、そうだね。私も、戻るよ」
彩音も立ち上がった。
別れる前、彩音は静かな声で言った。
「ごめんね、シュウ君」
その言葉に、どんな意味が込められていたのか。
シュウは深く考えないようにした。
そして、翌日。
朝食を終えたメンバー達は早速砂浜に集まった。
「さぁ、今日もすがすがしい朝が来た!早速訓練を始めるぞぉ!!」
「「お~~」」
元気なのはタケルくらいなもので、他のメンバー達は目の下にクマを作っていた。
完全な寝不足だ。
「なんだなんだダラしないな!そんなんじゃ世界を戦い抜けないぞ!!」
タケルは皆を先導し、特訓がスタートした。
内容は、昨日と同様のハードなものだった。
ランニング、筋トレ、実戦トレーニング。
みっちりとこなし、ようやく夕方になった。
「よし、今日はここまでだな!」
「やっと終わったぁ……!」
「明日は帰りだから。実質、合宿はこれで終了だ!みんな、よく頑張ったな!」
タケルが労いの言葉をかけた。
「無事合宿終了を祝って、今日の晩飯はバーベキューするぞ!」
バーベキュー。その言葉を聞いて歓声が上がった。
「「やったぁ!!」」
夜の浜辺に、肉の香りと火の光が灯っている。
「うんめー!!」
シュウは何本もの串を持ってガッツついている。
「あ~、きつかったけど。楽しかったな」
「だな~」
ほかの皆も談笑しながらバーベキューを楽しんでいる。
暫くして、肉もほとんど食べ終わった頃に、涼が一つ提案をした。
「ねぇ、皆。この後肝試ししませんか?」
「肝試し?」
「うん。合宿の総仕上げとして」
「肝試しが総仕上げってどういう事だ?」
「ビーダーとして、必要な強いメンタルを試すんです。お化けに怖がってるようじゃ、強いメンタルを持ったビーダーとは言えないですからね」
「うっ……」
琴音はギクリとした。
「ん~、一理あるような、無いような。まぁいいか。せっかくの夏の夜だしな、肝試しくらいしてもいいかもな」
タケルは賛成した。
「それじゃあ、まずは定番の怪談からですね」
涼はニヤリと笑って語り始めた。
いつの間に用意していたのか、数本の蝋燭の灯りを皆で囲って、涼は語っている。
「これは、僕の友達の友達から聞いた話なんですけど。
実はこの島、今は無人島になっているんですが。昔は小さい村があったそうなんです。
過疎化が進んで、島民は年寄りばかり。若者は皆島を出て行ったそうです。
その中にたった一人だけ小学低学年くらいの男の子、A君がいたそうです。
A君は、いつも一人で遊んでいました。
周りのおじいちゃんやおばあちゃんはA君を大切にしてくれましたが、年が違う彼らと遊んでも面白くなかったそうです。
そんなある日、A君の前に同い年くらいの男の子、B君が現れました。
都会から遊びに来た子で、すぐに二人は仲良くなりました。
B君は、A君の知らない都会の遊びをたくさん知っていました。
その中で、一番面白かったのは。ビーダマンでした。
A君とB君は毎日毎日、ビーダマンで遊びました。
しかし、何日かして、B君が都会に帰る日がやってきました。
二人は、また一緒にビーダマンをする約束をして、別れました。
しかし、それから何年たっても何年たっても、B君は島には来ませんでした。
来る日も来る日も、B君を待ち続け、またB君と遊びことを夢見て一人でビーダマンで遊び続けていました。
ある時、A君は気付いたそうです。
『B君が来てくれないなら、こっちから行けばいい』と。
A君は、大人たちには内緒でこっそりと小さな舟を漕ぎ、海を渡ろうとしました。
しかし、あの頃より大きくなったとは言え、まだまだ子供のA君に海を渡る体力はなく。
運悪く嵐に見舞われてしまい、舟は陥没。
A君は、死んでしまったそうです……。
でも、A君の魂は未だにB君とのビーダマンバトルを求めてさまよっている。
この島に来る元気の良いビーダーを見つけては、その体に乗り移って、都会にいるB君に会いに行こうとしているそうです……」
涼は、静かに語り終えると、ふぅ……と蝋燭一本を消した。
「なんか、怖いっていうより、可哀相な話だったな」
シュウは、拍子抜けという感じだ。
「ふふ、しょうがないですよ。事実は、あくまで事実。いつもドラマのような面白い展開があるわけではない」
「起承転結が薄いからこそ、リアリティがあるって事か」
タケルはハッキリと言った。
「でも、効果はあったみたいですね」
涼はクスッと笑う。
涼が向いた方を見ると、琴音と彩音がガクガク震えていた。
「ことねぇはともかく、あやねぇもこんなのが怖いの?」
「う、うるさいわね!別に怖がってないわよ!」
「……」
強がる琴音に対して、彩音は言葉が出せないようだ。
「あ~ん、シュウ先輩怖いですぅ~!!」
ここぞとばかりに抱き着こうとするリカをシュウは寸でで躱した。
「で、肝試しってからには、ルートがあるんだろ?」
「うん。ここからあの林を抜けた所に祠があるんだ。そこを引き返してまたここに戻ってくる。
僕が先に祠まで行くから、何人か一組になって来てください」
「お、おう……」
涼が林の方へ歩いていくのをタケルが止めた。
「待て。お前、随分とこの島の事に詳しいな?」
涼が振り向いて笑顔で答える。
「僕、小さい頃に何回かここに遊びに来たことがあるんですよ」
「……」
それだけ言って、涼は先へ進んだ。タケルは腑に落ちないような怪訝な表情をした。
「それじゃあ、グループを決めるぞ!」
タケルがバーベキューの串で作ったクジを用意した。
「この串に進む順番の番号が書いてある、同じ番号が書いてある人同士がグループだ!
全員で23人いるから、4人グループが5つ、3人グループが1つ、計6つのグループが出来る!」
皆がクジを引く。
「俺は……6番目のグループか」
シュウはラストのグループだ。
「ひぇ、あたし、一番……!」
トップバッターを引いた琴音は涙目になった。
「やったぁ!私、シュウ先輩と同じグループですぅ!!いざと言う時は守ってくださいね、先輩!」
「わ、私もっ!」
リカに負けじと彩音も自己主張する。
「あー、はいはい……」
「おっ、俺もシュウと同じだ」
タケルもシュウと同じグループのようだ。
「タケルも同じか!」
「俺とシュウが一緒なら、どんな悪霊が相手でも目じゃないな」
「だなっ!ヒンメルカップ予選でのお化け屋敷も、二人でお化けをブッ飛ばしたしな!」
それとこれとはまた話が別な気がするが。
とりあえず、肝試しスタートだ。
「うぅぅ、なんであたしが最初なのよぉ……」
「こ、琴音先輩!俺達を盾にしないでくださいよぉ~!」
「俺達だって怖いんすよ!!」
琴音は、同じグループの少年たちを前にして、押しながら進んでいった。
そして、しばらくして……。
「きゃああああああああああああああああああ!!!!!!」
林の奥から断末魔が聞こえてきた。
「あはは、ことねぇの奴派手に叫んで、楽しそうだな」
シュウはおかしそうに笑った。
「うぅ、大丈夫かな、琴音ちゃん……。やっぱりビーダーの幽霊に襲われたんじゃ……!」
「彩音さん、さすがにさっきの涼の話は真実じゃないから」
「で、でも……!」
「おおかた、琴音は物音にビビッって気絶でもしたんじゃないですかね」
「そうだと良いけど……って、気絶したんじゃ良くないような」
「一緒にいった奴らだって、結構やる奴らだし、多分大丈夫だよ」
と、そんな感じの会話している間に全員林の中へ消え、いよいよシュウ達のグループの番になった。
「さて、そろそろ俺達だな」
「早く行こうぜ!」
タケルは冷静に、シュウはウキウキと林の中へと進んでいった。
暗い林の中を、月の灯りだけを頼りに進んでいく。
「いや~ん、シュウ先輩、怖いですぅ~!」
「ガクガクガクガク」
リカはわざとらしく怖がりながら、彩音はガチで震えながらシュウにくっつきながら歩いている。
「歩きづらい……」
「大変だな、お前」
少し離れた横で歩いているタケルは、シュウを憐れんだ。
ガサッ!!
突如、草むらが動いた。
「っ!」
「ひぃぃぃぃ!!!!」
シュウが素早く反応しようとするが、彩音がギュッと抱きしめる力を強めたために動けなかった。
「くぅ、タケルぅ~!」
「任せろ!」
代わりにタケルがその草むらへ銃口を向けた。
しばらく無言が続く。
そして、カサッと中から白い猫が現れた。
「なーー」
猫は、目を光らせながら呑気に鳴いた。
「ね、猫ちゃんかぁ……」
その存在に気付き、彩音は脱力した。
「抱き着いたまま力抜くのやめてくれ」
この体制は結構きつい。
「ま、そんなもんだろ。さっきの琴音の悲鳴もこいつが原因か」
タケルはレックスを仕舞った。
そして、更に進んでいく。
「そういえば、先に行った奴ら、全然戻ってきてないよな」
ラストのグループが出るまで、誰も戻ってきていない。
第一グループくらい戻ってきてもおかしくないのだが……。
「祠までってそんなに遠いの?」
「俺もそこまで行ったことは無いが、でもすれ違ってもおかしくないと思うんだがなぁ……」
「道に迷ってないといいんだけどね」
と、話しながら進んでいくと、目の前に祠が見えてきた。
「見えた!」
「なんだ、案外近いじゃん」
近づいて行って、シュウ達はなぜ皆が戻ってこなかったのか、その理由に気付いた。
「み、みんなっ!?」
祠の周りで、仲良しファイトクラブの皆が倒れていた。
「だ、大丈夫か!?」
慌ててそのうちの一人を起こす。
「気絶してるみたいだな……」
タケルは脈拍をチェックしていた。
「一体、だれがこんな事を……」
「ふふふ、待ってましたよ。シュウ君、タケルさん」
祠の裏から、涼の声が響いた。
しかし、その声は、背筋が凍るような冷たさを持っていた。
「涼っ!?」
シュウ達の前に現れた涼。
その顔は青白く、生気がなかった。
「まさか、お前が皆をやったのか!?」
シュウの質問に答えず、涼は口を開いた。
「ずっと、この時を待っていた……」
「え……?」
「僕は、ビーダマンがやりたかった。だけど、出来なかった……!
なのに、僕の目の前であんなに楽しそうにビーダマンをやるなんて、許せない……!」
涼の表情が憎しみに変わる。
「まさか、お前が話した、あのA君ってのは……」
「きゅ~……」
彩音は、あまりの恐怖に気絶した。
それを無視して、涼はタケルの言葉を肯定した。
「うん、そうだよ。僕は、身体が欲しい!ビーダーの身体が!」
「なんだよ、お前!昨日だって、バトル出来てたじゃねぇか!充分だろ!?」
シュウが言う。
「僕の力は、この祠の近くじゃないと実体化出来ないんだ……!島を出る事が出来ない!!」
「なるほどな、だから肝試しとか言って、自分が一番力の出せるこの祠に俺達をおびき寄せたってわけか」
「くそぅ、この卑怯者!よくも皆を……!」
シュウとタケルがビーダマンを取り出した。
「シュ、シュウ先輩……」
「リカ、お前は危ないから離れてろ」
リカはシュウの言う事を素直に聞いた。
「僕が欲しいのは、より強い身体……僕が勝ったら、君たちのどっちかの体に乗り移らせてもらうよ!!」
「上等だぜ!!」
「いくよ、ポルターファントム!!」
涼の取り出したビーダマンは、幽霊のような青白いビーダマンだ。
「ルールは手っ取り早くDHBだ!先に相手のビーダマンにヒットした方が勝ちにするぞ!」
タケルが素早くルールを提案した。
こういうのは言ったもの勝ちだ。
「うおおおお!!!」
タケルとシュウが涼へ向かって連射する。
「ふふふふ」
ドドドドド!!!
涼がそれを食い止めようとするが、さすがにシュウとタケルのショットを防ぎきれるわけがない。
「2vs1は卑怯だけど、今はそうもいってられねぇ!」
「命がかかってるからな!絶対に負けられない!!」
「僕は、早く人間に戻りたいんだ」
ボゥ……。
涼の周りにいくつもの鬼火が浮かび上がった。
そして、その鬼火からショットが放たれた。
「なにぃ!?」
「そんなのありかよ……!」
「これで、互角だね」
互角どころではない。
涼の周りに出現した鬼火は10体を超えている。
その鬼火一つ一つから、涼と同じパワー、連射力のショットがとめどなく放たれるのだ。
いくらシュウとタケルといえども対応しきれない。
「く、くそぉ!!」
「シュウ!相手の手数は多いが、狙いは一つだ!余計な玉には構わずに避けて、狙いを集中させろ!」
「お、おう!!」
タケルのアドバイスのおかげで、なんとか互角に戦えてはいるものの、このままではジリ貧だ。
「くっそぉ、このままじゃ、負けちまう……!」
その時だった。
シュウのポケットが眩く光り出した。
「シュウ、そのポケットの光はなんだ?」
タケルに言われて気付いた。
「これは……!」
シュウはポケットから光る物体を取り出した。
それは、リカから貰った真珠のような玉だった。
「あっ……!」
それを見て、涼の表情が変わる。
驚愕と、そして懐かしみの表情。
同時に、鬼火も静かに消えて行った。
「あぁ……!」
ふいに、涼、タケル、シュウの脳裏にある映像が浮かんだ。
夕日の沈む海辺で、約束を交わす二人の少年。
一人は、涼だろうか。
もう一人の少年が、涼へキレイな玉を渡している。
「あぁぁ……!」
涼の目から涙がこぼれ出した。
完全に動きが止まった。
「っ!」
フラッシュバックから我に返ったシュウは涼の様子に気付く。
「もしかして、こいつを使えば……!」
シュウは真珠の玉をブレイグに込めた。
「今なら、撃てる!!」
ドンッ!!
シュウは真珠のような玉をありったけの力で放った。
バーーーーン!!
それは、ポルターファントムを貫き、涼の体を光で包んだ。
「あぁぁぁ!!!!」
断末魔の叫び。
しかし、涼の表情はどこか穏やかだった。
「メア……シ……君……」
最後にそう呟き、涼は跡形もなく消え去った。
「消えた……」
「勝ったのか?シュウ、お前それ一体……」
「わかんねぇ。ただ、あの玉を持った瞬間、あいつの記憶が流れ込んだような気がして……」
「多分、それがB君との想い出の品なのかもしれないな。キレイな頃の思い出をぶつけたから、魂が浄化したんだ」
無理矢理な解釈だが、そう納得するしかないだろう。
「あぁ、そうだな」
と、しんみりしてるところに
「シュウせんぱ~い、こわかったですぅ!!」
騒がしい声とともにリカがシュウへ抱き着いた。
「おわぁ!!」
「シュウ先輩すっごくかっこよかったです~!」
「あ、はは。まぁでも、今回はリカのおかげだな。サンキュ」
「え、何がですか?」
お礼を言われた意味が分からずにキョトンとするリカだが、シュウはそれ以上の説明はしなかった。
「とりあえずこの後どうしようか、タケル……」
気絶している皆の介抱と状況説明。やる事はたくさんだ。
「そうだな……」
だというのに、タケルは何か思案していた。
「タケル?」
「いや、なんでもない」
怪訝な顔をするシュウに、タケルはそう言った。
タケルが気にしていたのは、最後の涼の発言だった。
(あいつ、メアシって、言ってたか……?)
「みんな~、起きろ~!!」
全員を担ぐのはさすがに無理なので、シュウはなんとか皆を起こそうと奮闘していた。
つづく
次回予告
「日本選抜戦まであともう少し!追い込みかけるぜぇ!!
と、そんな時、タケルがあるアイテムを持ってきた!
こいつが、次の大会からの主流になるのか!?
次回!『ストライクショットを使いこなせ!』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」