オリジナルビーダマン物語 第53話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第53話「お騒がせマネージャー、リカ登場!」



 仲良しファイトクラブ。
 練習場では、新入部員達であふれかえっていた。
「いけぇ!」
「負けるなぁ!!」
 練習用のフィールドが足りないくらい、一生懸命練習に励んでいる。
「おら!狙いが逸れてるぞ!ちゃんと自分のビー玉の軌道を見るんだ」
「はい、守野先輩!」
「そこのお前は、シメ撃ちはもっと力を込めろ!じゃないと威力が上がらないぞ!」
「わ、分かりました!!」
「ビーダマンバトルは機体性能だけじゃない、ビーダーの腕も大きく影響してくるスポーツだ!必要なテクニックは確実にものにするんだぞ!!」
「「「「はい!!」」」」
 タケルは厳しく新入部員の指導をしてる。
 部員たちは素直に真面目にタケルに従っていた。
「あ~あ、タケルの奴すっかりやる気だしちゃって」
 隅の机では、琴音と彩音が盛況している様子を見ていた。
「新入部員数36人……まるで昔に戻ったみたいで嬉しいんだよ」
 彩音も昔を思い出しているのか、目を細めた。
「私も、なんだか懐かしい気分になってきた」
「そうだね。昔は、こんな風だったんだよね」
 琴音は昔の仲良しファイトクラブにはそんなに馴染みは無いのだが、彩音やタケルの気持ちはなんとなく分かった。
 
「いっけぇ!ブレイグ!!!」
 ズドドドド!!
 タケルがちゃんと指導している横で、シュウは子供たちに自分のプレイを見せ付けていた。
「おぉ、さすがですシュウ先輩!!」
「こんなパワーショット、シュウ先輩じゃないと撃てないですよ!」
 子供たちにおだてられて、シュウは高笑いした。
「いやぁ、なっはっは!まっ、これが実力って言うの?そんな大したもんじゃないんだけどね~!」
 シュウは完全に調子に乗っている。
「シュウの奴は、変に調子づいちゃってるみたいね」
「あ、はは……」
 シュウの様子に、彩音と琴音は乾いた笑いを浮かべた。
「シュウ先輩!僕、シュウ先輩の必殺ショットが見てみたいです!」
「あ、それ俺も見たい!」
「あれかっこいいもんね!」
「見せて見せて~!!」
 子供たちに言い寄られ、シュウはもう完全にデレデレ状態だ。
「え、あぁ、もうしょうがないなぁ。一回だけだぜぇ」
 シュウはフィールドにボーリングのようにピンを並べはじめた。
「98、99、100っと。んじゃ、必殺ショットでこの100本のピンを全部ブッ飛ばしてやるよ」
「えぇ、そんな事出来るんですか!?」
「軽い軽い。ちょっと待ってな」
 シュウは、ピンとは外れた方向目掛けてブレイグを構えた。
「はぁぁあぁぁぁぁ!!!!」
 ドンッ!!
 パワーショットを放つ。それはピンには当たらずに壁にぶつかった。
「なんだ、外れちゃったじゃん」
 一人の子供が期待外れだというように言った。
「バカ違うよ。シュウ先輩の凄いショットはここからなの!」
 フェイタルストームの事を知っている他の子が、その子を諌めた。
 
「いっくぜぇ!」
 ガクガクガクガク!!!
 ブレイグの光の刃が激しく振動し、シュウの周りに風が纏わりついた。
「フェイタルストーーーム!!!」
 ドンッ!!!
 空気の膜を纏ったショットがターゲットへとブッ飛んでいく。
 
 バーーーーーーン!!!
 100本のピンが一気に吹き飛んでしまった。
「「「す、すっげぇぇぇ!!!!」」」
 見ていた子供達から歓声が沸いた。
「ま、ざっとこんなもんだぜ!」
 ブレイグの銃口を吹く真似をしてシュウは得意げになる。
 が。
「しゅ~う……」
 となりから、恨みの籠った声が聞こえてきた。
「うっ!」
 恐る恐るその方向を見ると、体中にターゲットピンがぶつかったタケルがシュウを睨み付けていた。
「た、タケル……!」
 シュウの吹き飛ばしたターゲットが全てタケルにぶつかっていたようだ。
「くぉらぁぁぁ!!!真面目に仕事しろぉぉぉ!!!」
「うわぁぁぁ、ごめん!!!」
 タケルは拳を振り上げてシュウへ向かって駆け出し、シュウは慌てて逃げ出した。
 狭い練習場内を、二人はグルグルと追いかけっこした。
「はいはい、それじゃあ良い時間だし。休憩にしようか。冷たい飲み物とお菓子あるよ」
 二人の争いを中断させるように彩音が飲み物とクッキーの乗ったお盆を持ってやってきた。
 すると、その場にいた皆が彩音の方へ群がって行った。
 
 休憩室で、皆クッキーを食べながら談笑している。
「あ、このクッキー美味しいです!どこで買ったんですか?」
 一人の子供がひし形のクッキーをほおばりながら彩音に尋ねた。
「ふふ、ありがとう。それはね、ウチで焼いてきたんだよ」
「へぇ、彩音先輩お菓子作れるんですか!?」
「「すげぇぇ」」
 と、子供たちが感嘆する。
「じゃあ毎日彩音先輩のお菓子食べられるのかぁ」
「俺、このクラブ入ってよかったぁ」
 皆口々に彩音を絶賛する。
「ちょっとちょっと、あたしだって手伝ったんだからね!」
 面白くなさそうに琴音が自己主張した。
「え、ことねぇって料理出来たっけ?」
 シュウが意外そうな顔で聞いた。
「も、もちろん。お姉ちゃんに必要な道具渡したり、材料渡したり、いっぱい手伝ったんだから!」
「オペの助手かよ……」
 タケルが突っ込むとみんなドッと笑った。
「まぁまぁ。琴音ちゃんがいなかったらこれだけの量作るのは大変だったし、手伝ってくれて助かったよ」
 彩音がちゃんとフォローを入れておいた。
「それにしても、守野先輩とシュウ先輩と琴音先輩は、ビーダーとして超一流って感じですけど。
彩音先輩はそんな三人を支える名マネージャーって感じですよね!」
 一人の少年がそんな風に言うと、タケルは同意した。
「確かにな。彩音さんがいなかったらウチのクラブは成り立たないし。ビーダーじゃなくても彩音さんは欠かせない存在だ」
「そうだよなぁ。あやねぇがいなかったら、俺もここまで強くなれなかった。勝てなかった試合だっていっぱいあった」
「もし、お姉ちゃんがいなかったらって思うと、ちょっと怖いよね……」
「考えたくないな……」
「おう……」
 思わぬ賞賛に彩音は照れまくってワタワタする。
「ちょ、ちょっと!そんなに褒めても何も出ないわよ!」
 そんな彩音の様子に、室内は再び笑いに包まれるのだった。
 
 そして、翌日。
 いつものように大勢のビーダー達が訓練していた。
 とはいえ、もう大分上達したので、最初の頃とは違いシュウとタケルも付きっ切りではなく各々が自由にトレーニングしている。
 シュウとタケルも現役選手なので、いつまでも新人の練習に付き合っている場合ではないのだ。
「いっけぇ、ブレイグ!!!」
 ドーーーン!!!
 ブレイグのショットは相変わらず凄まじい。
「タイラントレックス!!」
 ドンッ!ドンッ!!
 タケルもタイラントレックスを完全にものにしている。
「うわぁ、やっぱり凄いなぁ。守野先輩にシュウ先輩」
「日本のトップビーダーだもんね……」
「俺達も、負けないくらいにトレーニングしよう!」
「うん!」
 子供達は、シュウ達のプレイを見て、更にやる気を増しているようだ。
 
(ゆうじさん、あなたに託されたクラブ。俺がきっと世界一にしてみせます)
 自分の特訓をしながらも、盛り上がる他の部員達を見ながらタケルは小さな喜びを胸に噛みしめるのだった。
 
 その時だった。
 練習場の扉が控えめに開かた。
「すみませ~ん」
 遠慮がちに挨拶してきたのは、小学4年生くらいの小さな女の子だ。
 背丈の低さもだが、ツインテールの髪型が、幼さを一層際立たせている。
「あ、はい」
 彩音が近くまでやってきて対応した。
「こんにちは。どうしたの?」
 彩音は背を屈めて女の子の目線に合わせるとやさしく声をかけた。
「あ、あの!ここって、仲良しファイトクラブで大丈夫ですか?」
 女の子は緊張気味に話し始めた。
「うん、そうだけど……君、入部希望者?」
 ビーダー、にはとても見えないのだが、人は見かけによらない。
「い、いえ、私、ビーダーじゃないんですけど……!」
 女の子は首を振って、そしてためらいがちに言った。
「あの私……」
 緊張しているのか、なかなか本題に入ってくれない。
「あやねぇ、どうかした?」
 その様子に気付いたシュウは気になってやってきた。
 シュウの姿を見るなり、女の子の目の色が変わった。
「うわぁ、竜崎さんだ!本物の、竜崎さんだぁ!!」
「え、え、なに?」
 いきなり目をキラキラさせながら上目づかいに見つめて来る女の子にシュウは戸惑った。
「あ、私早乙女リカって言います!テレビで竜崎さんのバトル見みました!すっごくかっこよかったです!!」
 興奮気味に早口で話すリカに、シュウは少したじろいだ。
「あ、あぁ。サンキュ……」
「それで私、竜崎さんの役に立ちたいんです!ビーダーじゃないんですけど、マネージャーとしてクラブに入会してもいいですか?!」
 リカは乗り出す勢いでシュウに言った。
「んー、いいんじゃないのかな?」
 シュウは彩音に目くばせした。
「そうねぇ。メンバー増えたから雑用してくれる人が増えるのは助かるし……」
 ちょっと思案したのち、彩音はタケルを呼んだ。
「タケル君、実は……」
 かくかくしかじかと説明する。
「あぁ、全然OKだ。入部届を渡すから、奥の部屋で必要事項に記入してくれ」
 タケルはリカに用紙を渡した。
「うわぁ!ありがとうございますぅ!私、一生懸命頑張りますね!!」
 用紙を貰ったリカはうきうきとタケルと一緒に奥の部屋に向かった。
 用紙も書き終え、リカは正式な部員となった。
 マネージャー志望という事なので、彩音に付いて簡単な仕事を教えてもらう事になった。
「ここが、休憩室。仮眠用の布団や流しもあるから、練習に疲れたメンバーはここで休めるの」
「なるほど~!」
 彩音に説明に、リカは素直に頷いている。
「ここが倉庫。予備パーツや練習用品とかの備品が置いてあるところだから、何か必要になったらここにくれば大丈夫よ」
「はい!」
「入口横にあるメモ用紙に、何がいくつあるかが書いてあるから、もしここから何かを持ち出したらチェックを入れてね」
「分かりました!」
 返事は良い。
「うん、説明はこれくらいかな?あと他に何か聞きたい事はある?」
「う~ん、大丈夫です!早速、何かお仕事をください!」
 やる気満々だ。
「そうねぇ……じゃあせっかくだから、倉庫の掃除をお願い。掃除用具はそこのロッカーにあるから」
「わっかりました!任せてください!!」
 リカは元気よく返事した。
 
 そして、数十分後。
「うおおおおお!!!」
 ベキィ!!
 練習していたシュウだが、ブレイグのアームスタッドが折れた。
「あ、やべぇ……!」
 シュウは自分で持ってきたケースを開けるが、そこにスタッドはなかった。
 メタルスタッドなら康成に貰ったものがあるのだが、今は普通のスタッドが欲しかった。
「あちゃあ、切らしてた……あやねぇー、倉庫にスタッド残ってるー?」
 シュウは彩音の所に来た。
「うん、あるよ。持ってくるね」
「俺も行くよ」
 シュウと彩音は倉庫に向かった。
「うわ、すご……!」
 倉庫は、普段は薄暗いのにこのときは宝石のようにピカピカ光っていた。
「えへへ~、どうですかぁ!私が掃除したんですよぉ!」
 と、リカが掃除用具片手に得意げに胸を張っていた。
「へぇ、すげぇな」
「うん、私でもここまでキレイにするのは無理かも……」
 リカの意外なスペックに二人は驚いた。
「そんなぁ、照れますよぉ」
 リカは、両手を頬に添えて照れまくった。
「って、感心してる場合じゃない。スタッドスタッドっと……」
 シュウは倉庫を回ってスタッドが入っている箱を探した。
「あれ、あやねぇ、スタッドってどこにあるの?」
「え?確か、そこにあったはずなんだけど……」
 彩音はシュウの近くの棚を見るのだが、それらしき箱が無い。
「あれぇ……?」
 首を傾げる彩音。
「どうかしたんですかぁ?」
「うん。リカちゃん、ここにあった箱知らない?」
「えっ?え……っとぉ……」
 問われて、リカはキョロキョロと辺りを見回すと、徐々に焦りの表情が浮かんだ。
「そのぉ、棚の掃除する時邪魔だと思って、どかして、その……」
 何やら言いづらそうにしている。
「わ、忘れました……」
「えぇ~!」
 シュウは露骨に不満げな声を上げた。
「ま、まぁまぁ。探せばきっと見つかるから」
 結局、20分くらいかけてようやくスタッドの入った箱を見つけ出せた。
 
「整頓は出来ても整理が出来ないタイプだったか」
 練習場で、報告を受けたタケルは呆れたように呟いた。
「ごめんなさい!」
 リカは頭を下げた。
「初めての仕事だったんだ。誰だって失敗はある。そんなに気にするな」
 タケルは大らかにそう言ってリカの頭をポンポンと軽く叩いた。
「はい……」
 だが、リカはまだショボくれている。
「大丈夫だから。さ、そろそろ休憩にしよっか」
 彩音もフォローを入れるように休憩を促した。
 
 休憩所にて。昨日と同じように彩音の用意したクッキーと飲み物がふるまわれている。
「やっぱり彩音先輩のクッキーは美味しいです!」
「このために頑張ってるなぁ、俺達!」
 相変わらず彩音のクッキーは大好評だ。
「んまんま」
 シュウも何も言わずにほおばっている。
「あ、あのっ!私も、クッキーもってきたので皆さんで食べてください!!」
 と、リカも包みを取り出して皆にふるまった。
「へぇ、美味そう!」
 と、皆がそれを手に取って口に運ぶ。
 ガリッ……!
「「「しょっぱぁぁ!!」」」
 全員の声は一致した。
「どうですか?塩飴ってあるんじゃないですか、あれに習って皆さんの塩分補給にと思って塩を多く入れてみました!」
 しかし、皆の顔は微妙だ。
「う、う~ん、気持ちは分かるんだけど……ちょっとこれは塩入れ過ぎかも……」
 さすがの彩音もキツイくらいの味らしい。
「え、えっ、美味しくないですか……!?」
「……味見、してみた?」
 と、琴音はクッキーを一枚リカに差し出した。
 リカはそれを一口食べてみる。
「うっ……」
 顔を顰めた。自分で食べても美味しくなかったようだ。
「ご、ごめんなさい……」
 リカはまた頭を下げた。
「私、全然ダメですね……。掃除も料理も満足に出来なくて、全然役に立てない」
 リカは完全に落ち込んでしまった。
「そんな、気にしなくていいよ!」
「ああ。これから覚えていけばいい」
 タケルと彩音がフォローするのだが、リカの落ち込みは治らない。
 
「はむっ、もぐもぐ」
 気まずくなってシーンとしたその中で、シュウのクッキーをかみ砕く音が響いた。
 シュウは、一人リカのクッキーを食べていた。
「しゅ、シュウ、それ美味いのか?」
 タケルが恐る恐る尋ねた。
「え?いや、美味いって言うか。俺汗っかきだから塩分補給出来るんならありがたいし。そりゃあやねぇの方が美味いけど、これだって食えないほどじゃないぜ」
 シュウは味云々よりも機能性を重視してリカのクッキーを選んだようだ。
「シュウ先輩……」
 その姿を見て、リカは感激した。
「あむっ!もぐもぐ……」
 そんな感じで、シュウは一人黙々とリカのクッキーを食べていた。
 そして、リカは意を決したように口を開いた。
「やっぱり私、仲良しファイトクラブのマネージャーは辞めます!」
 その発言に、タケル達はざわめいた。
「ま、まぁ俺達は無理強いはしないが、ほんとに気にしなくていいんだぞ?」
 やんわりと引き留めようとするタケルに、リカは首を振った。
「いえ!私、シュウ先輩専属のマネージャーになります!!」
「は……?」
 その言葉に周囲が凍りついた。
「クラブ全体のマネージャーは向いてないけど、シュウ先輩のマネージャーならきっとお役に立てるはずなんです!」
「え、り、リカちゃん!?」
「彩音先輩だって、少しは楽になりますよね!シュウ先輩は私が見るので、彩音先輩は他のメンバーをお願いします!」
「お、お前なぁ……」
「随分と、強引な思考ね……」
 タケルと琴音は呆れかえって突っ込む気も起きないらしい。
「そんなわけなんで、これからよろしくお願いしますね!シュウ先輩!!」
 リカはまだクッキーをほおばっているシュウの顔を覗き込んだ。
「うっ、ゴホッゴホッ!!!」
 急に近づかれてビックリしたシュウはクッキーを詰まらせて咽るのだった。
 
      つづく

 次回予告

「俺の専属マネージャーになるとか言ってきたリカ!別に悪い気はしないんだけど、なんかやりづらいなぁ。
あれ、あやねぇ、どうしたんだ?
 
 次回!『彩音の嫉妬 兄の面影』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」

 

 



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