オリジナルビーダマン物語 大長編 後編

Pocket

前編

爆砕ショット!ビースピリッツ!!

大長編「The end of requiem」後編


その頃。
茨城の筑波学園研究都市。
そこに存在する無機質な建物の中に、Dr.コハクは居た。

研究所の奥にある、広大な研究室。
その真ん中にある巨大な機械に、クロウが磔にされていた。その姿は、さながら十字架に磔にされたキリストのようだった。
その下には、Dr.コハクがまるで見下ろしているかのように、見上げていた。
「良い姿ですねぇ、烏有。かつて、闇社会で恐れらていた無敵のビーダーとは思えない」
コハクは皮肉めいた事を口にするのだが、クロウは反応しない。
「……」
「しかし、こうして二人でいると。共に旅をしていた事を思い出しますね。あの頃は楽しかった。偽りの関係ではありましたが、それだけは本当ですよ」
この二人は一緒に旅をしていた事があるようだ。
「くだらん。俺はお前を利用していただけだ」
吐き捨てるようにクロウは言った。
「確かにそうでしたね。ですが、今利用されているのはどちらでしょうね?」
「……」
クロウは視線を逸らした。
「何が目的だ?」
「研究の成就です。我が研究所は、最強のビーダーになりうる究極の生命体を作るための研究を進めていた。その作品の一つがあなたです」
「改良型、ヒューマノイド……か」
クロウは、憎々しげにその単語を呟いた。
「そう。あなたは第一世代。これから造ろうとしているのは、更に完成度を高めた第二世代。そのためには、あなたのデータが不可欠なのです」
「なるほど、結局……」
クロウはあきらめきったような表情で何かを口にしようとし、やめた……。
しばらくすると、奥にある人間大のカプセルからサイレンが聞こえてきた。
「ようやく完成したようですね。人類の英知を結集した究極の生命体!第二世代改良型ヒューマノイドの誕生です!」

プシュー!
と、白い煙を上げながら、カプセルが開かれ、中から短い金髪の少年が現れた。
「さぁ、産声を上げるのです!ホクトッ!!」
「ああああぁぁぁぁぁぁ」
ホクトと呼ばれた少年から、まるで地響きのような声が室内に響き渡った。
そして、クロウを捉えていた鎖が放たれる。
ドサッ!
乱暴に地面に落とされた。
「ぐっ……」
「さぁ、烏有。最後の役目です。ホクトのテストに付き合ってください」
「な、んだと……!」
クロウの目の前に、コープスレクイエムが放られた。
「さぁ、ホクト!受け取りなさい、最強のビーダマン『オラトリオジャイロ』です!」
コハクがオラトリオジャイロと呼ばれたビーダマンを投げると、ホクトはそれを無表情でキャッチした。
「貴様……!」
クロウは、なかなかコープスレクイエムを手に取らず、コハクをにらみつけていた。
「戦わないのですか?……戦わなければ、そのままホクトに殺されるだけですよ?まぁ、戦ったところでホクトには勝てないでしょうが」
ドンッ!
ホクトからショットが放たれた。
「ちっ!」
クロウは咄嗟にそのショットをかわして、レクイエムを手にとって反撃の構えを取った。
「ゴミが……!」
クロウはホクトを見て吐き捨てた。
「さて、どちらがゴミになるでしょうか?」

その頃。
シュウ達は筑波学園都市にたどり着いていた。
「さぁ、どこだぁぁぁ!」
「駅についた瞬間叫ぶなよ、シュウ!」
「早く行かねぇと、クロウが!」
「って、なにされるかも分からないんでしょ?」
「分からねぇよ!クロウが何者なのか、なんであんな奴らに狙われてるのか!でも、このままじゃ二度とあいつと戦えなくなるって事だけは確かだ!そんな気がする!」
「悠長にしてられないからな。とにかく彩音さんから貰った地図で場所を確認するぞ」
三人は、地図を頼りに走り出した。
そして、クロウとホクトの戦いは激しいぶつかり合いになっていた。
「はあああああ!!」
ガキンッ!
コープスレクイエムとオラトリオジャイロのパワーショットのぶつかり合い。
パワーは互角なのか、互いに相殺しあう。
しかし、その直後にオラトリオジャイロの連射攻撃が襲い掛かる。
「なっ!」
咄嗟の連射に反応が遅れ、全てヒットしてしまった。
「ふふふ、パワーは互角のようですが。オラトリオジャイロは巨大ローラーホールドによりパワーと連射力の両方を備えています。総合力は圧倒的に上」
コハクが、可笑しそうに解説をする。
「くそっ!」
クロウは必死に反撃を試みるのだが、あっさりと止められ、倍返しを食らう。
「ぐああああああああ!!」
攻撃すればするほど、反撃を受けてダメージが蓄積してしまう。
「足掻いても無駄ですよ。ホクトはあなたのデータの全てを注入し、そして更なる改良を施したもの。勝てる要素はどこにもありません」
コハクの言うとおり、クロウは徐々に徐々にボロボロになっていく。
パワーに関してだけは互角のため瞬殺される事はないのだが、ホクトにダメージは一切通らず、クロウだけジリ貧状態だ。
「く……そ……」
次第にクロウの体力も無くなり、ショットのキレも無くなる。
「まだだ……!」
バシュッ!
最後の力を振り絞ったショットだが、あっさりとオラトリオジャイロのショットに弾かれてしまい、そのままクロウにオラトリオジャイロの攻撃がヒットする。
「ぐおぉぉ……!」
かなりの致命傷だったようで、クロウは膝をついた。
「さぁ、そろそろ遊びは終わりです。ホクト、アレを使いなさい」
コハクの命令を受けて、ホクトは無言で頷いた。
そして、クロウに向けてショットを放った。
「爆震連撃」
ホクトは必殺技を電子音のように呟いた。
そのショットはローラーホールドによる無回転ショットを三発撃ち、無回転ゆえに空気抵抗による振動を三発のビー玉が倍増させて威力を上げるというものだ。
今のクロウにそれを防ぐ術はない。
「うわあああああああああああ!!」
なす術も無く爆震連撃を受けてしまい、クロウは大きく飛ばされて気絶してしまった。
「脆いですねぇ……」
傷つき、倒れたクロウをコハクは蔑むように見下ろした。
「真紀子さん」
コハクが言うと、扉が開いて河原でコハクと一緒に居た白衣の女性が現れた。
「はい」
「このゴミを処理してきてください」
「かしこまりました、ドクター」
真紀子と呼ばれた女性は恭しく礼をした。
その時だった。

ビー!ビー!
室内に、けたたましくサイレンが鳴り響く。
「っ!」
びっくりして顔を上げる真紀子。
コハクは冷静に。
「何事ですか?」
と、コンピュータのモニターを開く。
モニターには、門を乗り越えてきたシュウ達の姿が映されていた。
「侵入者ですか……全く、しつこいですねぇ」
「なっ……!」
そのモニターを見て、真紀子は言葉を失った。
(修司、どうして……?)
「どうしました?」
様子が変わった真紀子へ声をかけるコハクだが、真紀子は首を振った。
「いえ……」
「侵入者はガードシステムが始末するでしょう。心配する事はありません。それよりも、計画を進めましょう」
そして、シュウ達は……。
研究所の門を乗り越えて、警報を鳴らしていたところだった。
「うわわ、なんかこれまずいんじゃないか?!」
「多分警備システムに引っかかったな」
「もうっ、シュウが考え無しに門を乗り越えるからいけないんでしょ!」
「ええい!素直に入れてくれるわけないんだ!このまま突っ込め!!」
シュウ達は建物の入り口目掛けて走った。
そのとき、シュウと同じくらいの高さの自走式メカが何台もシュウ達の前に立ちはだかってきた。
「な、なんだぁ?!」
「ここの警備システムみたいだな」
『侵入者発見。排除します』
無機質な機械音が発せられたかと思ったら、メカからビー玉が発射された。
「うおっ、こいつ!自走式のビーダマンかっ!」
「このままじゃ、やられちゃうよ……!」
「ビーダマンにはビーダマンだっ!俺たちもやるぜ!!」
シュウはブレイグを取り出して一発自走メカに撃った。
メカは、たったの一撃で動きを止めてしまった。
「なんだぁ?こいつ、たった一撃で止まったぞ」
「ビーダマンで倒せると分かったら、こっちのもんだ!」
タケルと琴音もビーダマンを取り出してメカを次々と倒していく。
しかし……。
いくら倒してもメカはどんどん現れて行く手を阻む。
「くそっ、これじゃキリが無いな」
「防御力は薄いって言っても、こんなに数があるんじゃ……」
苦戦するシュウとタケルを見て、琴音は言った。
「シュウ、タケル。あたしが隙を作るから、先に行って……!」
「え、なんだよことねぇ」
「一撃で倒せるけど、数の多い敵を相手にするには、パワー型のシュウやタケルには不利だわ。でも、連射型のあたしとグルムなら……!」
「なるほどな……だが、本当に大丈夫か?」
「ええ」
琴音はしっかりと頷いた。
「分かった。任せるぞ、琴音」
「頼むぜ、ことねぇ!」
シュウとタケルも、琴音を信じてうなずいた。
「はあああああ!」
琴音はグルムの連射で、メカを次々と破壊し、突破口を開いた。
「今よ!」
「「おう!」」
シュウとタケルはその道をひた走る。

シュウとタケルの後を無数のメカが追いかけようとするのだが……。
「おおっと!ここからはあたし一人が相手よ!先へはいかせない!」
琴音が立ちはだかり、連射で次々とメカを破壊する。
シュウとタケルは琴音を信じきり、振り向かずに走っていった。
「はぁぁぁあぁぁぁ!!」
琴音はシュウとタケルの心配をしている余裕はなく、どんどんメカを破壊していく。
しかし、メカは絶えることなく出現する。
「さすがに、ちょっとキツイかも……」
徐々に琴音が押されていく。
そして、メカの一撃を琴音は落とし損ねてしまった。
一撃のビー玉が琴音に向かってくる。
「しまっ!」

ガキンッ!
しかし、そのショットは琴音には当たらなかった。
「え……」
「レリックヴェルディル!」
ズドドドドド!!
怒涛の連射が琴音の目の前にいたメカ達を一掃した。
その、ショットを放ったのは……。
「ヒ、ヒロ兄?!」
あの、高橋ヒロトだった。
ヒロトは、ショットで巻き上がった砂煙の中をゆっくりと歩み、琴音の隣に来た。
「ヒロ兄……どうして……?」
いきなり登場したヒロトの存在が信じられなくて、琴音は目を丸くした。
「手が止まっているぞ」
「……!」
ヒロトに指摘されて、琴音は撃つ事に集中した。
メカを倒しながら、ヒロトは口を開く。
「俺がお前の力を評価し、欲しているのは本当だ」
「……あたしは、」
仲良しファイトクラブを裏切ってまで、ヒロトにはついていけない。
「だが、それよりも今はこの研究所のデータが欲しい」
「え?」
「この研究所がビーダマンに関連するヤバイ研究をしている事を聞いて、前々から目をつけていた。
だが、一人で潜入するにはガードが固くてな……今が絶好のチャンスというわけだ」
「ヒロ兄……」
話している間にも、メカは次々と現れる。
「しゃべりすぎたな。集中するぞ」
「……えぇ」
琴音とヒロトの奇妙な共闘が始まった。
琴音とヒロトがガードメカを食い止めている間に、シュウとタケルは建物の中に入る事に成功した。
薄暗く、長い廊下を二人で走る。
「広いなぁ、これじゃあどこにクロウがいるのか分からないぜ」
「警戒態勢は崩れてないだろうからな、油断するなよ」
その時。
二人の目の前に、先ほどのメカの超巨大版がドシンッ!と落ちてきた。
「どわわっ!」
完全に道を塞がれてしまった。
「ひゃ~、でっかいのきたなぁ……」
「とにかく、倒すしかないな」
ドンッ!
レックスの一撃で、デカブツの機能は停止した。
「なんだ。見掛け倒しじゃないか」
「だが、これじゃ進めないな……」
機能を停止させたものの、物理的に通せんぼされてしまっている。
「くっそぉ!ブッ壊すしかないのか……!」

ドンッ!
ブレイグのパワーショットをぶつけるが、装甲を凹ませるのがせいぜいで、とても破壊は出来ない。
「ちぃ……!」
「仕方ない。アレを使うか」
「アレって?」
「ちょっと下がってろ、シュウ」
タケルに言われて、シュウは少し離れた。
「いくぞっ、レックス!グリップモード」
タケルはレックスをモードチェンジさせ、光のテーブルを目の前に出し、メカ目掛けてダッシュした。
「うおおおおおお!!」
そして、メカの目の前でレックスを光のテーブルに叩きつけながらショットを放った。
「グランドプレッシャー!!」
バーーーーーン!!
目の前で大爆発が起こり、巨大メカが粉々に砕けてしまった。
「はぁ、はぁ……ダッシュからのゼロ距離グランドプレッシャー。これにはひとたまりもないだろ……!」
「すっげぇぜタケル!」
「だが……俺はもう限界だ」
「え?……あぁ!」
見ると、タケルの手にあるレックスはボロボロだった。
「さすがに、反動には耐え切れなかったか」
「タケル……」
「いけ、シュウ。俺はここまでだ」
「……おう、ことねぇとタケルの頑張りは無駄にしねぇぜ!」
シュウは強くうなずき、走り出した。
タケルはその場に座り込んで持ってきた工具を取り出す。出来る限りレックスを応急処置するためだ。
タケルと別れたシュウは、クロウの居る場所を探すために走っていた。
「広いなぁ……クロウ!どこにいるんだぁーーー!」
叫びながら走っていたシュウの目の前に、二人の人影が見えてきた。
「侵入者は見つけ次第排除するぞ」
「はい!」
そいつらは、クロウを追いかけていた黒服の男たちだった。
「やべっ!」
黒服たちはまだシュウに気付いていない。
シュウは慌てて辺りを見回し、手ごろな路地に入る。
そして、身を隠すためにそこにあった扉を開いて中に入った。
「ふぅ……」
扉を開いて、ホッと一息ついた。
そして、改めて部屋の中を見て、シュウは驚愕した。
「な、なんだよ、ここ……!」
部屋の中は、研究所のような様相をしていた。
壁際に敷き詰められた数々の機器。
それだけならば問題はない。
が、問題なのは、それと同じ数ほどに存在する巨大なホルマリン漬けのようなカプセル。その中に入っている、人型の肉塊だ。
「……これ、人間……?」
シュウは目を疑いながらも、カプセルへと近づいた。
薄緑色の液体の中に浸かっているのは、人形とは思えないリアルな肉感を持つ物体だ。
そして、どの肉体も意識が無いにも関わらず苦悶の表情を浮かべており、身体の一部が何かしら改造されている。

部位が欠損しているもの、逆に多い物。異形の生物に加工されているもの……。
種類は様々だが、誰一人として健全なものはなかった。

「い、一体、この部屋は……」
それはまるで、人体実験のような……。

その時だった。
扉がそっと開き、女性の声が部屋の中に響いた。
「誰かいるの?!」
「っ!」
しまった!と思った時にはもう遅い。シュウが身を隠す暇もなく、女性はコツコツと足音を響かせながら近づいてきた。
そして、その女性がシュウは人影の姿がはっきりと分かる距離まで来ると立ち止まった。
互いに誰なのか認識できる距離で対峙する事になり、そして互いに驚愕した。
「な……!」
人影の正体は、コハクの助手の真紀子だった。
真紀子は驚きと悲しみの入り混じった表情でシュウを見ている。
「修司……」
「母さん、なんで……!」
それは、馴染みの深い人物であった。
「修司、どうしてあなたがここに……?」
「母さんこそ、なんで?医者として世界を飛び回ってるんじゃ……!」
「今は、この研究所に勤めているのよ」
コハクの助手である真紀子は、シュウの母親だった。
「そんな事より、今すぐここを出なさい。ここはあなたが来る場所じゃないのよ」
真紀子は、毅然と言い放った。
「嫌だ!ここには俺の戦いたい相手がいるんだ!そいつを助けるまで帰らない!!」
シュウは真紀子の言葉に反発し、身構えた。
「戦いって……」
「あいつとのビーダマンバトルの決着がまだついてないんだ!」
シュウの言葉を聞いて、真紀子は怪訝な顔をした。
「そんな、遊びのために……?」
「遊びじゃねぇ!真剣勝負だ!!」
シュウの言葉には確かな覚悟があった。しかし、真紀子には覚悟がある事を理解する事は出来ても、その理由を理解する事が出来ない。
「ダメよ。今この研究所は、人類を救うための偉大な研究が行われているの。その邪魔をすれば例え子供でも容赦は出来ない。分かるでしょう?いい子だから、帰りなさい」
完全に母親の口調になって諭そうとする真紀子だが、今この状況下においてシュウにとっては何の説得力もなかった。
「何が人類を救うためだ!クロウをあんな目に合わせやがって!この部屋だって、なんか滅茶苦茶じゃねぇか!母さんたちこそ、人間をなんだと思ってんだ!!」
人類を救うといいながら、人間であるクロウにあんな仕打ちをするなんて、矛盾しているにもほどがある。
「それは仕方が無いの!彼には、彼らには……人権が無い……人間ではないのだから……!」
『彼ら』と言い換えたのは、このカプセルに閉じ込められている肉体に対しても発せられているからだろう。
「え……!」
クロウが、人間ではない……?シュウはこの言葉が一瞬理解できなかった。
「だから、何をしても法には触れない。だから、実験に利用するしかないの……!」
悲痛な母の叫びを、混乱になったシュウの脳では汲みとれきれなかった。
「ちょ、ちょっと待ってよ!クロウが人間じゃないって、あっ!」
そういえば、コハクもクロウは『研究の賜物』と言っていた。それと何か関係があるのだろうか?
「一体、この研究所って、何をする所なの……?」
シュウは恐る恐る、事の発端に関わるであろう事を聞いた。
「この研究所は、Dr.コハクは。究極の生命体を生み出し、それを元に人類の進化を計画しているの。
黒鋼烏有は、その実験の第一号。人工授精によって生まれた改良型ヒューマノイドよ。
彼は、今までの人間には無い身体能力、免疫力を手に入れた。でも、まだ足りない。それを超える生命体を生み出さなければ、計画は実現しない。
そのためにも、彼には犠牲になってもらわないと……」
「????」
シュウには理解できないようだ。
「よ、よく分からないけど、どうして母さんがそんな研究所に……?」
シュウが問うと、真紀子はキュッと唇を噛んだ。
「もう二度と、あなたを失いたくないの……!」
潤んだ瞳をギュッと閉じて、涙を堪える様に言った。
「俺、を……?」
失いたくない?別にシュウはここにいるわけだから、失ったわけでは無い。
意味が分からずに視線を泳がすシュウに大して、真紀子はゆっくりと首を振った。
「ごめんね。正確には、修司じゃない。でも、私はあの時からずっと、怖くて仕方がなくなった……!」
「あの時……?」
シュウが問うと、真紀子は一息ついてから、ゆっくりと語りだした。
「あれは、四、五年前だったかしらね。私が勤めていた病院に、一人の少年が運ばれてきた。
彼は、酷い腫瘍を患っていた……手術の成功率自体は高かった。でも、例え成功しても後遺症で元のように生活するのは難しいようなものだったの。
結局、彼は手術を拒否して、命を失ってしまった……。どうしてだか分かる?ビーダマンの試合に出られなくなるからって理由で、命を犠牲にしたのよ。今のあなたみたいね」
「そ、それって……」
ビーダマンの試合に出るために手術を拒否して命を落とした少年。それには聞き覚えがあった。
「医者として、いくつもの患者の死に立ち会ってきたわ。でも、彼の時は違った……。
彼は、修司に良く似てたの。私は無意識に息子と同じように感情移入していたわ……」
「その人の名前って……?」
「ゆうじ君……」
間違いない。
「そんな、バカな」
「ゆうじ君の死を確認した時は、修司を失ってしまったように心が痛かった。同時に、これから修司を失うかもしれない事が怖くなった。
人間が弱い限り、いつか死んでしまう。修司はいつか死んでしまう。それが怖かった……。
その怖さを紛らわせるために、私は、世界中に飛んで病に苦しむ子供達を救おうと思った。
でも、結局、私の力なんてちっぽけで、全てを救うなんて、出来なかった……。そんなときに、Dr.コハクと出会ったの」
ゆうじの死は、あやねぇだけじゃなく、母さんの心にも大きな傷を残していたのか……。
「Dr.コハクは、病も死も超越した究極の人類を生み出す研究をしていた。それこそが、私の救いだと思ったわ。それが成功すれば、修司を失うことはなくなる」
「……」
シュウは絶句した。自分が知らない間に、母親がこんなに苦しんでいたなんて……。
「だから、分かって。修司も死ぬのは怖いでしょう?お母さんや大切な人が死ぬのは嫌でしょう?お願い、ここは引いて……!」
懇願する母親の瞳に、思わず頷いてしまいそうになり、グッと堪えた。
ここで、引いてはいけない。
母親の苦しみはよく伝わった。出来るのなら、その苦しみから救いたい。
Dr.コハクがやろうとしてる事は、もしかしたら正しいのかもしれない。救いなのかもしれない。
でも、心の奥底にある本能が、それを拒絶している。

『俺には俺の戦いがある。賛同は出来ない』
少し前にクロウが言っていた言葉を思い出す。そうだ。俺にだって、俺の戦いがあるんだ。
「俺は……!」
シュウは、搾り出すように声を出した。
「俺は、死んだって構わない!」
「っ!」
真紀子は息を呑んで目を見開いた。
「究極の進化なんて、いらない!」
それでもシュウは、まるで母を拒絶するかのような言葉を突きつけた。
「ど、どうして?!いや!修司が死ぬのなんて、いや!」
真紀子は、まるで子供がダダをこねるように悲鳴を上げた。
「ごめんっ!だけど、俺はただ、今この瞬間にビーダマンバトルがしたいだけなんだ!!生きるとか死ぬとかじゃなく、ビーダマンがしたいんだ!!」
「……」
シュウの言葉を聞いて、真紀子の悲鳴はやんだ。
「そりゃ、死にたくないし、誰にも死んで欲しくないけど……それよりも、俺は今クロウとバトルがしたい!!それに……」
「修司……」
「どんなに凄い研究でも、俺を失わないためだとしても!母さんが、俺の知らない所で誰かを苦しめる事をするなんて、嫌だ!!」
「……!」
シュウの叫びが真紀子の耳を突き抜けると、真紀子は力が抜けたかのように地に膝をついた。
「ごめん……!俺はクロウを探す!」
シュウはうつむきながらへたり込んだ真紀子の横を歩いて行こうとする。
チャリン……!
通ろうとしたとき、地面で金属音が鳴った。
「ん?」
見ると、真紀子の白衣のポケットから銀色のカギが落ちていた。
「これは……」
シュウはそれを拾い上げた。
「黒鋼烏有は、この部屋を出て右に曲がった先の階段を下りたところにある独房にいるわ」
ボソリと真紀子は呟いた。
このカギは、その独房のカギと言うことだろう。
「ありがとう」
シュウはそう言って駆け出した。
地下独房。
鉄格子の中で、クロウは輝きを失った瞳で座り込んでいた。
元々、クロウには何もなかった。その中で『強さ』と言うアイデンティティを支えに生きてきた。
だが、あのホクトとのバトルに敗れ、その『強さ』さえも否定されてしまった。
もう、クロウには何も残っていない。
全てを失った男は、ただ朽ちていくしかないのだ。

カッ!
感情を失いかけたクロウの聴覚に、一際大きな足音が感じられた。
そして、頭の上から聞いた事のある声が降ってきた。
「クロウ!」
「……」
クロウはゆっくりと顔を上げた。そこにはシュウが息を切らしながら立っていた。
「ひでぇ……!今助けるからな!」
シュウはカギを開けて牢屋の中に入った。
「大丈夫か、クロウ?!」
「……あぁ」
クロウは、感情の無い顔で小さく呟いた。
「よかった……。さぁ、逃げようぜ!んで、外に出たらバトルだ!」
シュウはクロウの手を取った。
が、クロウはその手を払う。
「クロウ……?」
「俺にはもう、その価値は無い」
「なんだよ……」
「俺はもう、死んだも同然だ」
「何言ってんだ!クロウはまだ戦えるだろ!俺と戦うんだよ!!」
シュウの呼びかけにもクロウは満足に答えようとしない。
「なんでだよ!ビーダマンだって、まだ壊れてねぇ!怪我だって、すぐ治る!あとは、ここから逃げれば全部元通りじゃねぇか!!」
必死に呼びかけるシュウに対し、クロウはキッと睨み付けた。
「違う!」
「っ!」
叫ばれた。
初めて、クロウの感情的なところを見たかもしれない。
「俺は、人間じゃない。強さだけを求められて生まれた改良型ヒューマノイドだ!
それ故に、強さだけが俺の存在価値だった!その価値を守るために俺は旅を続けて、強くなり続けてきた!だが、俺は、奴に敗れた……」
負けた、クロウが……?
「奴って……?」
「俺のデータを元に造られた究極の生命体。第二世代の改良型ヒューマノイドだ」
「改良型ヒューマノイド……」
真紀子が言っていた。クロウは究極の生命体の研究で生まれた物だと。そのクロウを元に、新たな生命体が生まれたというのか。
「もう俺は強くない……存在価値を失った……!」
クロウが強さに拘っていた理由は、そこだった。存在価値を失わないために、生きるために強くなり続けようとしていたのだ。
永久のレクイエムを奏でながら、バトルを続けるしかなかったのだ。
「そっか……」
それに納得したシュウは、一旦クロウから離れた。
「いっけぇ!」
そして、咄嗟にブレイグを構えてショットを放った。
「っ!」
それに反射するように、クロウはレクイエムを構えて、ショットを撃ち落とした。
「どういうつもりだ?」
「へへ、存在価値はなくなっても、体はバトルしたいみたいだな」
クロウの反応を見て、シュウは笑った。
「貴様……!」
侮辱されたと思い、クロウの瞳に怒りが宿った。
「なんだ、クロウってそういう顔も出来るんじゃん」
「な、なに……?」
予想外のシュウの反応を見て、クロウは困惑した。
「存在価値とかどうでもいいじゃん。勝っても負けても、バトルがしたいんだったらすればいいんだ。簡単だろ」
単純な言い分だが、正論だ。しかし、簡単には納得できない。
「だが……」
「それにさ、クロウが負けたのって、クロウを元にして生まれた奴なんだろ。だったら自分に負けたって事じゃん。逆に考えればもう一人のクロウは勝ってんだよ」
「何が言いたい?」
「だからっ!自分のデータに負けたって事は、自分のデータは自分に勝ってるって事だから、完全に負けたってわけじゃないだろって事!
あぁ、言ってて俺もわけ分からなくなってきた……!」
シュウは頭が混乱してしまい、髪を掻き毟った。
「……」
「え~っと、だからぁ~!」
なおも答えを出そうと考えるシュウを見て、クロウは……。
「プッ、あっはっはっはっは!!」
吹き出して、笑い始めた。
「はっはっはっはっは!!」
「な、なんだよ!バカにしてんのか?!」
シュウが膨れると、クロウは笑いを止めて息を整えた。
「いや……お前は大した奴だ」
「え?」
「……俺の存在価値は、まだ消えていない。そう思えば、そうなのかもしれないな」
クロウは、かみ締めるように言った。
「おう!その通りだぜ!!」
徐々に、クロウの顔に生気が戻ってきた。
「だが、負けてないとはいえ、勝ったわけではない。このままでは終われないのは確かだ」
クロウの瞳に確かな決意が生まれた。
「シュウ、悪いがお前とのバトルはまだ先延ばしになりそうだ」
それを聞いて、シュウは少し嬉しそうに笑った。
「へへへ」
「何が可笑しい?」
「初めて名前呼んでもらったなって思ってさ」
そういわれ、クロウはフッと軽く笑った。
「俺はこれから決着をつけに行く。ついてきても構わんが、邪魔だけはするなよ」
「当然。むしろ、誰にも邪魔させないようにするぜ!」
「頼もしい限りだ」
ガッ!
クロウとシュウは立ち上がり、拳をぶつけ合った。
研究室。
乱暴に扉が開いた。
「おやおや……誰かと思えば、くたばりぞこないと不法侵入のゴキブリですか。まさかここまで来るとは予想外でしたよ」
入ってきたシュウとクロウに対し、どこか楽しげにコハクは言った。
「決着をつけに来た。俺自身のな」
クロウは、コハクの隣で無言で立っているホクトをにらみながら言った。
「ふぅ、全く手間ばかりかけさせる。あなたは私の研究に大きく貢献しましたが、間違いなく失敗作ですね。いいでしょう、今度こそスクラップにしてあげましょう!」
コハクが合図をするとホクトがオラトリオジャイロを構えた。
「もうテストの必要はありません。さっさと片付けてください」
ホクトは頷いた。
そして、クロウへショットを放つ。
「はぁぁぁ!」
クロウはそのショットを止めた。
それが、戦いの合図だった。
「はぁぁぁぁ!!」
クロウのパワーショットをホクトが止める。しかし、オラトリオジャイロは同じパワーで連射をしてくる。
「連射は出来ないがな……!」
ギュルルルル!!
ドライブショットが地面を蹴って、オラトリオジャイロの連射を弾いた。
その隙にクロウは何発かショットを放つ。
これで、オラトリオジャイロのパワー連射と互角だ。
ホクトは、意外と苦戦している。
「な、何をしているホクト!時間をかけすぎですよ!」
それを見て焦ったコハクはサクシナイトガンナーを構えた。
「このバトルに意味は無い。とっとと片付けてしまいましょう」
横からクロウの隙を突いてビー玉を発射する。
ガキンッ!
しかし、そのショットはシュウによって止められた。
「させるかよ!お前にとって意味は無くても、ビーダーにとっては大事なバトルなんだ!」
「私の相手はあなたと言うことですか。いいでしょう、しかし……」
コハクは、懐から何かのカプセルを取り出し、飲み込んだ。
すると、コハクの肉体が超人的なものに変化する。
「私は、ホクトのデータを元に身体を進化させる事に成功しました。いわば、私自身が第三世代改良型ヒューマノイドと言う事です。ただの人間のあなたに勝てますかね?」
「それがどうした!男だったら攻撃あるのみ!!ズギャーンと撃つだけだぜ!」

ホクトVSクロウのバトルも激しさを増している。
クロウと同パワーで連射できるホクト。
連射力は低いが、一回のショットで二段攻撃が出来るドライブショットが撃てるクロウ。
二人の実力は互角だ。
「……!」
ホクトの表情が歪む。
「先ほど圧倒した相手と互角なのが信じられないようだな」
「……」
「あの時は、ダメージが蓄積した状態でのバトルだった。だが、今は独房で十分休息した。体力が全快なら元々俺とお前の実力は互角のはずだ!」

バーーーーン!!
二人のショットが爆風を巻き起こす。
「いっけぇブレイグ!!」
「サクシナイトガンナー!ワンハンドミッション!!」
両手撃ちだったコハクが、腕パーツをトリガーパーツに付ける事によって、片手撃ちをしはじめた。
「なに、変形した?!」
「これが私の奥の手ですよ。片手撃ちする事でビー玉の装填スピードが大幅に上昇する!」
ズドドドド!!
怒涛の連射が襲い掛かる。
「ベアリングホールドの連射力の味はどうですか?」
「なんだそんなもの!」
バシュッ!
シュウはパワーショットを撃った。
そして……。
ビュウウウウウ!
ブレイグの光の刃が振動し、周囲に風が吹いた。
「今だ!フェイタルストーーーム!!」
バシュウウウウウウウウ!!
空気の膜をまとったシュウのショットがコハクの連射を全て吹き飛ばしてしまった。
「ば、ばかな……!」
「クロウのバトルは、誰にも邪魔させねぇよ!!」
シュウはあくまでコハクの妨害を阻止しているだけなので、バトルとして勝利する事は出来ない。
このまま足止めをしてクロウがホクトに勝利すれば万事OKだ。
そして、クロウとホクトの戦いは……。
「はぁぁぁぁ!!」
バーーーーン!!
互角のショットが互いを相殺しあい、なかなか決め手にならない。
スタミナを消費しあうだけだ。
それに業を煮やしたのか、ホクトの表情が変わった。
「爆震連撃!」
必殺の爆震連撃を放った。
震動する三発のパワーショットがクロウに襲い掛かる。
「焦ったな!」
クロウはそのショットを避けようとはせず、カーブショットを二発撃って、あとは防御に専念した。
バーーーーーン!!
必殺ショットがクロウを襲う。
「ぐぅぅぅ!」
しかし、全身全霊でこれに耐えた。
「っ!」
そして、ホクトに二発のカーブショットがヒットする。
「耐えたぞ……!貴様の必殺ショットは一度受けている。今の体力なら、防御に集中すればギリギリ耐え切れる事は計算済みだ。
勝負を焦って先に技を出したのが仇になったな」
「……!」
「そして、とっておきとはこう使うものだ!」
バシュッ!
クロウは天井に向かってドライブショットを放った。
そして、重力にしたがって目の前に落ちてくるドライブショットに向かって、更にドライブショットを放つ。

ガキンッ!
二つのショットは密着し、互いの回転が互いの回転速度を増幅し合い、そのまま回転力を増しながら突進していく。
それは、さながら核融合によるエネルギーのようだ。
「アトミックドライバァァァ!!!!」
クロウ渾身の必殺ショットが炸裂。
衝撃波を纏いながらホクトへとブッ飛んで行った。
「むっ!」
ホクトは防御のために再び爆震連撃を繰り出した。のだが、威力は先ほどと数段落ちている。当然だ、必殺技はむやみに連発出来るものではない。
「うおおおおおおおお!!!!!」
バキィ!!
アトミックドライバーが爆震連撃を木の葉のように吹き飛ばした。
もう、ホクトに打つ手はない。
バゴオオオオオオ!!!
ホクトはなすすべなくそのショットを受けてしまい、オラトリオジャイロは粉々に砕けてしまった。
「はぁ、はぁ……!」
クロウの勝利を、少し遅れてシュウとコハクも認識した。
「勝ったのか、やったぜクロウ!」
「そ、そんなバカな……私の研究成果が、あんな失敗作に……」
シュウはクロウのとこに駆け寄って、ハイタッチした。
「やったな、クロウ!」
「ふん、当然だ」
そして、シュウはコハクの方を向いて煽った。
「どうだ!これが俺達の力だぜ!こんなへっぽこ研究なんか目じゃねぇんだよ!!」
「うぐぐ……バカな……そんな……」
その様子を見て、悔しがるコハクだが、すぐに平静を取り戻した。
「ふふふ、あっはっはっは!おめでとうございます。いやはや、本当におめでたい連中だ」
「どういう意味だ?!」
「確かにバトルではホクトは敗れました。が、それはこのバトルで負けたに過ぎません。私の研究がなくなったわけではない」
「っ!」
そうだ。このバトルにコハクの研究は全く影響しない。
「研究自体は既に完成している。あとはもう好きにしてください。私はこの研究で全ての人類を進化させ、その頂点に立つ……」
ボーーーーン!!
そのとき、研究室のコンピューターが謎の爆発を起こした。
「な、何事ですか?!」
驚くまもなく、次々と研究所内が爆破されていく。
「ぐっ、データが、データが消えていく!早く止めなさい!」
「無駄ですよ、Dr.コハク」
と、現れたのは真紀子だった。
「真紀子さん……」
真紀子は右手にディスクを持っている。
「それは……」
「新種のコンピューターウィルスです。あと数分でこの研究所は爆破します」
「ぐっ、あなたは優秀な部下として買っていたのですが……」
コハクは憎々しげに言った。
「申し訳ありません。私は医者である前に、一人の母親でした」
真紀子は頭を下げた。
「母さん……」
いきなりの真紀子の登場に、シュウは呆気に取られた。
「ごめんね、シュウ。母さん、自分のことしか考えてなくて……あなたの気持ちを、願いを見てなかった。母親失格ね」
「……」
「さぁ、急いで!ここにいたら危険よ!」
「う、うん!行こう、クロウ!」
シュウはクロウの手をとった。
「母さんもっ」
シュウは真紀子に手を差し伸べたのだが、真紀子は首を振った。
「私は、あなたとは行けないわ」
「え……」
まさか、責任を取って……。
「心配しないで。死ぬ気なんて無いから。ただ、母親失格のままで修司の手は取れない……いつか、自分を許せるときが来たら、その時は……」
「おこづかいいっぱい欲しい!それから、オムライスが食べたい」
シュウは母親へ、自分の欲望を伝えた。
「ふふ、そうね。約束する」
真紀子はふっと柔らかく微笑んで、そのまま別の通路へ走っていった。その先にも出口はあるのだろうが、その道順をシュウは知らない。
だから、自分が入った道から出るしかない。煙に紛れて真紀子の姿は見えない。
もう、会えない。
「行くぞ、シュウ」
クロウの手がシュウの手を引っ張る。
「……おう!」
それに導かれるように、シュウは走り出した。
「あ、ははは……私の、私の研究データが……私の全てが……!」
コハクは、ショックで我を忘れてしまったようで、機械にしがみついて動かない。
ホクトも、完全に機能を停止している。
そして、瓦礫に埋もれてしまった。
崩れていく研究所の廊下を、クロウとシュウは出口目掛けて走っていた。
天井の欠片が雨のように降ってくる。
「くそっ、走り難い……!」
「急げ、シュウ!出口はもう少しだ!」
シュウより内部に詳しいクロウが先導しているようだ。
「んな事言われても……!」

ガラ……!
その時、天井の一部が抜けて、大きな欠片がシュウの頭上へと降ってきた。
「なっ!」
「くそっ!」
かわそうにももう遅い。
ビーダマンで撃ち砕こうにも間に合いそうに無い。
「グランドプレッシャー!!」
その時、よく知った声とともに一発のパワーショットが前方から向かってきて、頭上の欠片を砕いた。
「た、助かった……!」
「大丈夫か、シュウ!」
「タケル!」
そのショットを放ったのは、タケルだった。
「一体どうなってるんだ!?研究所が急に崩れだしたぞ……!」
事情の知らないタケルだが、クロウは叫ぶように言った。
「説明は後だ!とにかく今は外に出るんだ!!」
「あ、あぁ……!」
クロウに言われた通り、タケルは頷き、一緒に走り出した。
そして、三人は無事に研究所を脱出した。
ゴドオオオオオオ!
鈍い音を立てながら、研究所の建物が崩れていく。
三人はへたり込んで、その様子を眺めていた。
「はぁ、はぁ、助かった……」
「間に合ったぁ……」
「……」
そんな三人のところで、よく知った女の子の声が近づいてきた。
「シュウ~!タケル~!」
琴音だった。
「え、何これ!?急にガードメカが動きを止めたから来て見たら、なんで建物がこんなに崩壊してるの……?」
事情を知らない琴音は困惑していた。
「うん、ちょっといろいろあって。詳しい話は帰ってからするよ」
話すと長くなりそうなので暈した。
「それより琴音、一人で大丈夫だったか?」
今度はタケルが琴音を心配した。
「うん。ヒロ兄が……」
と、後ろを振り返ったが、そこにはもうヒロトはいなかった。
研究所の崩壊を察し、この戦いは無駄だと悟り、撤収したのだろう。
「ヒロトさん?」
「ううん、なんでもない」
琴音はかぶりを振ってごまかした。

崩壊した建物を、クロウは呆然と眺めていた。
「終わったな……」
クロウは、どこかホッとした表情で呟いた。
「何言ってんだよ、クロウ。これからだぜ」
それを聞いたシュウが言う。
「?」
「ビーダマン直したら、バトルだぜ!」
シュウは、ブレイグをクロウに突き付けた。
「ふっ、懲りない奴だ」
クロウは柔らかく笑った後、ブレイグにレクイエムを軽くぶつけた。

二つのビーダマンがぶつかった音が、夕日に小さく響いた。
改良型ヒューマノイド第一号、黒鋼烏有の奏でるレクイエムは終わった。
これからはビーダーとしての、クロウがライバル達と奏でるビーバトルというシンフォニーが始まるのだ。

           完
 

 



オリジナルビーダマン物語 大長編 後編」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: オリジナルビーダマン物語 大長編 前編 | ユージンの競技玩具ライフ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

JPEG,PNG,GIF形式の画像を投稿できます(投稿時はコメント入力必須)