オリジナルビーダマン物語 大長編 前編

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!

大長編「The end of requiem」前編

 晴れ晴れとした青空の下、爆球町のとある河原では、大勢の子供たちがビーダマンバトルに励んでいた。

「いっけー!クライアントビレッジングポーク!!」
「負けるかっ!連射攻撃だ!スナイピングラッシングシンキング!!」

空き缶をターゲットとして、子供達は和気あいあいとビーダマンを撃っていた。
その時だった。
どこからともなく一筋のショットが飛んできて、子供達の狙っていたターゲットを弾き飛ばした。
「だ、誰だ!?」
みんな一斉にショットの飛んできた方角を見た。
その方角……土手の上には、黒いオーラを放つ目つきの鋭い少年が立っていた。
「戦え。そして俺の糧となれ」
少年はガンメタのビーダマンを突き出してそう言った。
………。
……。
仲良しファイトクラブ練習場。
全国大会を終えたシュウ達は、次なる戦いに向けてクラブで練習に励んでいた。
「いっけぇ!バスターブレイグ!!」
練習用のターゲットに向かってバスターブレイグのショットが放たれ、ターゲットは大きく飛ばされた。
「へっへーん、絶好調!!」
ガッツポーズを取るシュウだが、その額からは大粒の汗が流れ、息も微かに乱れている。
疲れを隠して、元気に振舞っているようだ。
「おいおい、あんまり無理するなよ。少しは休憩しろ」
「もう4時間も撃ちっぱなしじゃない」
奥のベンチからタケルと琴音が声をかけた。
シュウは額の汗を拭いながら振り返った。
「うん、でもジッとしてられねぇぜ!全国大会では結局準優勝だったし、次の大会で絶対に勝つためにも特訓しないと!」
それだけ言うと、シュウは再びターゲットに向き直った。
そんなシュウを見ると、琴音とタケルはそれ以上声をかけることは出来なかった。
「全く、シュウらしいと言えばらしいけど」
「無茶して体壊さなきゃいいんだがな」

その時、奥の休憩ルームから、彩音がにこやかに笑いながら現れた。
「皆ー、ホットケーキ焼いたんだけど食べるー?」
「あ、お姉ちゃん!食べる食べる~!」
彩音の問いかけに真っ先に飛びついたのは琴音の方だ。
「ありがとう、彩音さん」
タケルも立ち上がった。
「あれ、シュウ君は?」
彩音は、自分の目の前にタケルと琴音しかいない事に疑問を抱いた。
「あぁ、あいつは今練習中」
「ええっ、朝からずっとじゃない?!休憩しないの?」
「言ってるんですけどね……」
バツが悪そうにするタケルをよそに、彩音は未だターゲットに向かっているシュウへ呼びかけた。
「シュウく~ん、休憩しない~?」
「聞かないと思いますよ」
タケルの言うとおり、シュウは彩音の言葉なんか聞こえてないかのように練習に集中している。
「濃いカピルス入れたんだけどな」
「カピルス飲むーー!」
何を言っても聞かなかったシュウが、いつの間にか傍に現れて、タケルと琴音は度肝を抜かした。
「おまっ、そっちには反応するのか?!」
「単純なのかそうじゃないのか、よく分からないわね……」
呆れるタケルと琴音をよそに、シュウは彩音と一緒に休憩室へ歩いていく。
「いやぁ、カピルスとホットケーキってよく合うんだよなぁ~!」
「ハチミツもたっぷりかけておいたからね」
「やったぁ!」
と、その時だった。

ガチャンッ!と練習場の扉が乱暴に開かれて、ボロボロになった二人の少年が入ってきた。
「シュ、シュウいるか……!」
「えっ?」
びっくりしてその方向を見ると、そこには田村と吉川が息を切らして立っていた。
「た、田村に吉川……どうしたんだよ?」
シュウ達は慌てて二人の所へ駆け寄った。
二人は、少し息を整えてから緊迫した様子で話し出した。
「た、大変なんだ。近所の河原でビーダマンをしてたら、他の人のビーダマンを破壊しまくるビーダーが現れて……!」
「俺達のビーダマンが、皆ボロボロにされちまったんだ……!」
そう言いながら差し出した二人のビーダマンは、ところどころが破損して、修理しなければまともに撃てないような状態だった。
「な、なんだって……!」
「ビーダマンを破壊したって、まさかまた源氏派か?!」
人のビーダマンを破壊するような奴は、源氏派以外にありえないだろう。
しかし、二人の口から出たのは、タケルの想像とは違う答えだった。
「いや、それが……それともまた違うような感じだった」
「違う?」
「うん、なんていうか……」
「俺達だって、源氏派のビーダーと戦ったことがあるから分かるけど。あれは、なんて言うか、壊すのが目的とかそういう感じじゃなかった」
「それよりも、もっと先の方に目的があるみたいな、そんな……」
二人も、正確なところはよく分かっていないのだろう。このまま話していても埒が明かない。
「ええい!とにかく、誰だろうとどんな目的だろうと、ビーダマン壊してる事に間違いはないだろ?!だったら許せないぜ!タケル、俺達も行こう!」
「ああ、そうだな」
「私も行くわ!」
仲良しファイトクラブの三人は戦闘準備万端なようだ。
「と、いうわけで彩音さん。悪いけど、留守番頼む」
「うん。気をつけてね、みんな」
「「「おう!」」」
三人は、河原へと向かった。
そこには、壊れたビーダマンの残骸を抱えて倒れこむビーダー達が溢れていた。
「うぅ……」
「僕の、ビーダマンがぁ……」
倒れたビーダー達はみな一様に苦しんでいる。
「な、なんだよ、これ……」
「これだけの数のビーダーを痛めつけたのか……一体誰が?」
「あ、あそこ見て!」
琴音が指差した先では、二人のビーダーが対峙していた。

「よ、よくも俺の仲間をやってくれたな!俺が仇を討ってやる!」
「貴様で最後か」
二人がビーダマンを構えた。
と、思った瞬間に決着がついた。
一人の少年のビーダマンが砕け、それを持っていた少年が倒れた。
「つ、強すぎる……」
「雑魚が。これだけの数がいて、なんの糧にもならないとはな」
勝った少年は、黒い髪に黒ずくめの服を着た、目つきの鋭い奴だった。
その黒い少年がつまらなそうに踵を返して歩いていく。
「待てよ!」
シュウが駆け寄ってその背中を呼び止める。
「ん?まだいたか」
黒い少年は侮蔑するような瞳で振り返った。
「っ、ヒンメ……!」
シュウは、一瞬その少年の瞳に他の誰かの瞳を重ねて、咄嗟に何かを呟きかけた。
が、すぐに我に返って啖呵を切った。
「お前っ!なんて事してるんだ!」
「なんて事?」
黒い少年は、何故シュウが怒っているのかが理解できないようで、怪訝な表情をした。
「みんなのビーダマンを壊して、どういうつもりなんだよ!お前も、源氏派のビーダーなのか!?」
「源氏派?俺はただ、ビーダーとして強さを求めているだけだ」
「強さを……?それと、みんなのビーダマン破壊するのとどんな関係があるんだよ!」
「破壊など、そんな瑣末な事はどうでもいい。俺は強いビーダーと戦い、勝利することで更なる強さを得る。そのために戦いを挑んだ。それだけだ」
感情の無い口調で淡々と語る少年に、シュウの頭に血が上ってきた。
「それだけ、だとぉ……!」
「まぁ、時間の無駄だったがな」
そう吐き捨てた言葉は、シュウの怒りを爆発させるのには十分だった。
「て、てめぇぇ!」
「落ち着け、シュウ!こいつは危険だ、慎重にいった方が良い」
「あんたはすぐ頭に血が上るんだから……!」
いつの間にか追いついたタケルと琴音がシュウを制止するのだが、こうなってはもう手遅れだ。
「絶対に許さねぇ!ビーダマンで勝負だ!!」
シュウはタケルや琴音の制止を振り切って、黒い少年にバスターブレイグを突き付けた。
「良いだろう。少しは糧になれよ」
少年もビーダマンを取り出した。
「ルールはデスマッチだ。いいな?」
「おう!」
「待て待て待て!」
デスマッチのルールでバトルが始まろうとした時にタケルが待ったをかけた。
「なんだよタケル!邪魔するな!」
「だから頭冷やせっての!」
ゴンッ、とシュウの頭に拳骨を落とした。
「いっつっ!」
「とりあえず、これを使え。そこのお前もこれをセットしろ」
そう言って、タケルはアルティメットシャドウボムをシュウと黒い少年にセットした。
「これは……?」
「ルールはシャドウヒットバトル。今設置したシャドウボムを互いに狙って、先に相手のライフを0にした方が勝ちだ。いいな?」
これなら、互いのビーダマンが傷つくことは無い。
「なるほど。俺はバトルが出来るのならルールは何でも構わん」
破壊する云々は本当にどうでもよかったらしく、黒い少年はあっさりと承諾した。
(やけにあっさりしてるな……やっぱり破壊は目的じゃなかったのか?)
少年の態度を見て、タケルはそんな風に思った。
「よし、じゃあ早速始めるぜ!」
「ああ」
シュウと黒い少年がビーダマンを構えた。
「ビー・ファイトォ!!」
「いっけぇ!バスターブレイグ!!」
「やれ、コープスレクイエム」
バシュッ!!
始まった瞬間、二つのショットがぶつかり、衝撃波が起こった。

「くっ!」
「うっ!」
シュウの撃った玉は、下に弾かれ、黒い少年の玉は上へ弾かれたが、どうやら二人のショットは互角のようだ。
「けん制のつもりだったが、なかなかやるな」
黒い少年の目つきが変わる。
「全力ショットだったのに、あっさり止められちまった……!」
互いに、相手の実力を認め、警戒するように意識を集中した。
「だが、所詮その程度だ」
「なにっ?!」
シュウウウウウ……!
上空から、シュウが止めた相手のビー玉が落ちてきた。
地面に落ちる。

ギュルルルルル!!
地に落ちた瞬間、玉がうねった。玉には縦回転がかけられていたのだ。
「っ、ドライブ回転……!」
その玉は地面を蹴って、シュウのシャドウボムへと飛んでいく。

バーーーーン!!
シャドウボムにヒット。

「くっ!」
「あ、あのビーダマン、よく見たらトライアングルホールドの下爪がラバーになってる。それがあのショットの秘密か」
「俺と同じ三本爪……しかもドライブショットが撃てるのかよ……!」
身構えるシュウに対して、少年は攻撃の手を緩めない。
「のんびり分析してる暇があるのか?」
ドギュッ!ドギュッ!!
二発のショットが襲ってくる。

「うっ、くそっ」
シュウは後ずさりしてそのショットをよける。
が、地面に落下したショットは再び地面を蹴って向かってくる。
「うわぁぁ!!」
そのショットを撃ち落とした。が、もう1発のショットを撃ち落とし損ねてしまう。
バーーーーーン!!
「くそっ!また喰らったっ!」
「シュウ!後ろに逃げても、奴のドライブショットは追ってくる!横によけて、チャンスを伺うんだ!」
「お、おう!」
タケルのアドバイス通り、横に逃げながら反撃した。
「負けてたまるかっ!」
シュウのショットは逃げながら撃ったものなので、狙いが定まっておらず、当たらない。
「くそっ!でも、動き続ければあいつのショットだって当たらないんだ!このまま撃ってればいつかは……」
「甘いな」
そう言って、少年は、コープスレクイエムのフットパーツを逆に取り付けた。
そして、前に迫り出したフットパーツを地面と垂直にして、コアを地面に向けて構えた。
「なに、変形した……!」
「はぁぁぁ!」
ドギュッ!
少年のショットが地面にぶつかった。と同時に地面を蹴ってビー玉がカーブしながらシュウのシャドウボムに迫ってきた。
「なっ、カーブした……?!」

なすすべも無くヒットする。
「あのビーダマンの下爪は可動式なのか……!変形すれば、ドライブショットだけじゃなく、変化球も撃てる構造なんだ!」
タケルが分析した。
「そ、そんなのアリかよ!?」

ドンッ、ドンッ!
再び変化球がシュウを襲う。
「くそっ、後ろに逃げても横に逃げてもダメなら……」
シュウは銃口を地面に向けた。
「むっ!?」
「うおおおおおおおお」

ドゴオオオオオオオオン!!

ブレイグのパワーショットが地面に向かって放たれ、その衝撃波でシュウは大ジャンプした。

「跳んだ……!」
「これ以上、喰らってたまるかよ!!」
そして、空中で少年のシャドウボムを狙う。
「メテオールバスター!!」

バギュウウウウウウウウウ!!
空中からの必殺ショット。
さすがにこれは対応しきれなかったのか、少年のボムにヒットしてしまった。
「くっ」
「へへっ、どうだ!」
着地して、ドヤ顔するシュウ。
「ほぅ、少しは糧になりそうだな」
少年は口元を緩ませた。
そして、レクイエムを通常のモードに戻した。
「ならば、ここからは小細工無しだ」
「おう、望むところだ!!」

二人はありったけのパワーでホールドパーツを締め付ける。
「「はああああああああああああ」」
そして、最後の大勝負に出る……その時だった。

「見つけましたよ、黒鋼烏有(くろがねうゆう)!!」
黒い少年の背後から、怒声が聞こえた。
「っ!」
少年が一瞬、反射的に振り返る。
そこには、黒い高級車から降りた、白衣に大きなメガネ、そして琥珀色の髪をした少年が立っていた。
その少年は、烏有と呼んだ少年と目が合うと、子供らしからぬ卑下た笑みを浮かべた。
その後ろには、助手らしき白衣の女性も立ってる。琥珀色の髪をした少年よりもかなり長身で、歳は三十路くらいだろうか。
黒く長い髪をストレートに伸ばし、細めのメガネをかけている、いわゆる知的美人と言う奴だ。
「Dr.コハク……!」
黒い少年……烏有は、憎々しげに白衣の少年に対して呟いた。

「いっけぇぇぇ!!」
しかし、バトルはまだ続いている。
シュウもこの状況に気付いてはいたが、構えたビーダマンを引っ込めることは出来ず、そのまま反射的にパワーショットをブッ放した。
「ちっ!」
少し反応が遅れて、烏有もパワーショットを放つ。

シュンッ!
互いの中間地点で二つのビー玉がすれ違い、ほぼ同時にシャドウボムにヒットした。

バーーーーン!
同時に、二つのシャドウボムが爆発した。
「ひ、引き分けか……?」
タケルはそう呟いたが、シュウは微妙に悔しげな表情をした。
そして、遠くからゆっくりと、拍手の音が近づいてくるのが聞こえてきた。
「お見事です。いいバトルでしたよ、烏有。さすがですねぇ」
Dr.コハクと呼ばれた少年が、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきていたのだ。
「貴様……!」
烏有は、振り返るとDr.コハクを憎々しく睨み付けた。
「もう嗅ぎ付けてきたか」
「当然です。どこへ逃げようと無駄ですよ。あなたは私の大切な子供なのですから」
「よく言う。スペシメンの間違いだろ」
Dr.コハクは表面上は友好的に話しかけているが、烏有は険しい表情を崩さない。
そして、二人の間に凄まじく険悪な空気が流れている事は、部外者であるシュウ達にも伝わってきた。
「な、なんかヤバそうな感じだぞ」
タケルが言う。
「そうね……あたし達、お邪魔みたいだし。一旦撤収した方がいいんじゃない?」
琴音も関わりたくないようだ。
「やいやいやい!いきなり現れて、なんなんだよお前は!」
しかしシュウはそんな二人とは違い、Dr.コハクへ啖呵を切った。
すると、Dr.コハクはハッと気付いたように、シュウに向き直って一礼した。
「これは申し遅れました。私はDr.コハクと申します。この度は、烏有がご迷惑をかけたようで、保護者である私の監督不行き届きです。烏有に代わり、お詫び申し上げます」
恭しく謝られてしまい、シュウは面食らってしまった。
「え、あ……保護者……?」
怪訝な顔をするシュウだが、Dr.コハクはもう用は済んだかのように無視して烏有へ向き直った。
「さぁ、私とともに来るのです」
と、手を差し出した。
が、その手を一筋の弾道が掠めた。
「むっ」
Dr.コハクは咄嗟に手を引っ込めた。
烏有はビーダマンを構えてDr.コハクをにらみつけていた。
「なるほど、手荒な真似はしたくなかったのですが」
「俺は歓迎だ。それすらも糧に出来る」
「あなたらしい。では、遠慮はしませんよ」
Dr.コハクは懐からビーダマンを取り出した。
琥珀色をしたビーダマンだ。
「新型か……?」
「えぇ、伝説の宝玉『人魚の涙』を原料としたビーダマン。名付けて、サクシナイトガンナーです」
「面白い……!」

しばらく、ジッとにらみ合う二人。
ザッ!とコハクが地面を蹴った。
それを察した烏有が素早く身を翻して距離をとりつつ、コハクのサクシナイトガンナー目掛けてパワーショットを放った。
「はぁぁぁぁ!」
コハクは、一旦足を止めて怒涛の連射でそのパワーショットを止めようとする。
「な、なんて連射力だ……!」
「あのスムーズなトリガーのストローク……ホールドパ―ツかトリガーにローラーでも仕込んでるのか?!」
タケル達は、そのバトルに感嘆した。
ガキンッ!
コハクがパワーショットを撃ち落す。
だが、その時にはもう烏有との距離はかなり空いてしまった。
「ちぃ!」
ダッ!とコハクは烏有に向かって走り出す。
そして、ケータイを取り出して走りながらどこかへ連絡した。
「SSSS隊!奴は北東へ向いました!至急逃走経路を計算し、先回りしてください!!」
あっという間に、烏有とコハクはその場からいなくなってしまった。

しばらくポカーンとしていたシュウ達だが、ハッと我に返った。
「お、俺達も追いかけようぜ!」
シュウが駆け出そうとするのだが、それをタケルが襟首を掴んで止めた。
「ぐぇっ!何すんだよ……!!」
「深追いするな。やぶ蛇になるのは目に見えてる」
「このまま引き下がれるかよ!まだ決着はついてないんだぜ!」
「追いかけて行った所で、そのブレイグじゃどうしようも無いだろ」
「え……?」
言われて、ブレイグを見た。
ブレイグは、破損こそしてないものの、かなり消耗しているようだった。
「ブレイグ……!」
「長時間の練習に、あの激しいバトルだ。そろそろメンテしないとガタが来るぞ」
「くっ、ごめんブレイグ。俺、気付かなかった……!」
「とにかく、一度クラブに戻ろう。彩音さんへ報告と機体の修理だ」
シュウ達はクラブに戻った。
彩音に事のあらましを説明し、そして休憩室でブレイグのメンテをしてもらう。
「……そんな事が」
彩音はブレイグの修理をしながら、深く呟いた。
「はむっ、もぐもぐ!そうなんだよ、一体もう……もぐもぐ……訳が分からねぇよ……!」
シュウは、口いっぱいにホットケーキを頬張りながら喋る。
「シュウ、食べるか話すかどっちかにしろ」
タケルに言われ、シュウはカピルスを飲んで、口の中のものを胃へと流し込んだ。
「……んぐんぐんぐ……!プハー!」
カピルスを飲んで口元を拭ったシュウは、再び大きく口を開いた。
「とにかく!俺は、あいつともう一度戦わなきゃ気がすまねぇ!」
ダンッ!と机を叩く。
「どうしてそんなに拘るのよ?引き分けたのは、スッキリしないにしても。結局あの人はビーダマンを破壊する事が目的だったわけじゃなかったみたいだし」
琴音の疑問にシュウは答えた。
「引き分けじゃねぇ。さっきのバトルは、俺の負けだ……」
「え?」
「最後のショットの瞬間。あいつ、いきなり現れた奴らに気を取られて一瞬撃つのが遅れてたんだ。
それなのに、俺と同時にシャドウボムを破壊した。つまり、スピードもパワーもあいつの方が上だったって事だ。もし、邪魔が入らずに同時に撃ってたら……!」
「シュウ……」
シュウは悔しそうに拳を握り締めた。
「それに、あいつの目……」
似ていた。よく知っている、アイツに……。
「えっ?」
「いや、なんでもない」
シュウはかぶりを振った。
「彩音さん。あいつらは、シュウと戦った黒いビーダーを『くろがねうゆう』、割り込んで来た方を『どくたーこはく』と呼んでいた。調べられないかな?」
タケルが彩音に尋ねた。
「ちょっと待って」
彩音は、ブレイグを小さなボックス状の機械の中にセットした。最終調整用の設備なのだろう。
その後に、ノートパソコンを取り出した。
「う~ん……『くろがねうゆう』はちょっと出てこないな……漢字も分からないし」
「そっか。さすがにそこまでは聞いてた俺達にも分からないからな」
「でも、ちょっと待って。Dr.コハクってどこかで聞いたような……」
彩音は、思い当たる節があったのか、世話しなくキーボードを叩いた。
そして……。
「出てきた。これよ」
言って、モニターを皆に見せる。
「Dr.コハク。若干11歳にして医師免許を持つ天才カリスマ医師よ。遺伝子工学の権威でもあって、筑波学園都市に研究所を持ってるみたいね」
「医者?それがなんでビーダマンを……」
「さすがにそこまでは分からないけど……」
「あれ、筑波学園都市?」
と、シュウが首をかしげた
「どうした?」
「どこかで聞いた事があるような……」
「あんたとは一番縁のなさそうな場所に思えるけど」
琴音が茶々を入れる。
「うるさい!」
シュウは、しばらく唸って、ようやく口を開いた。
「そうだ、思い出した!母さんが前に勤めてた病院がある場所だ!」
「お前の母親って医者なのか?」
「おう。ちょっと前にそこを辞めて、今は世界中を飛び回ってるって父ちゃんから聞いた事がある」
「へぇ、お医者さん……。カエルの子はカエルっていうけど、例外もあるのね」
「どういう意味だよ」
とはいえ、今はそんな情報はどうでもいいだろう。
少し経って、ボックスからブレイグが取り出される。
「はい、シュウ君。ブレイグのメンテナンス完了よ」
彩音からブレイグを受け取った。
「サンキュー、あやねぇ!これで戦えるぜ!」
「やっぱ行く気なんだな」
「ったり前だろ!誰が止めたって俺は行くぜ!」
「分かった。もう止めねぇよ。ブレイグも全快みたいだからな」
「だけど、くろがねうゆうの居場所が分からないでしょ」
「あ……」
そうだ。バトルする事ばかり考えていて、肝心なことを忘れていた。
「そう言えば。シャドウヒットバトルをしてたんだよね?その時使ったシャドウボムの残骸って持ってきてる?」
「ああ、あるぜ」
シュウとタケルは、二つの残骸を取り出した。
「シャドウボムは、ビーダマンの情報を登録するものだから、その時のデータを分析すればそこから数分後くらいの大体の居場所なら突き止められるかも」
「ほんとか?」
「うん、やってみる」
カチャカチャカチャと彩音はキーボードを叩いた。
そして……。
「やった、出たよ」
モニターには地図が映し出されていた。
その中で青く塗られた範囲がある。
「この範囲のどこかに彼はいるみたいね」
「随分、曖昧だなぁ」
「さすがにシャドウボムに記録された情報だけで正確に居場所を把握するのは難しいよ」
「それもそうか。よし、行くぜ」

そして、仲良しファイトクラブは、青く塗られた範囲へ向かった。
「ここからは手分けして探そう。あれから時間も経ってるし広範囲を探すつもりでいないとな」

「「了解!!」」
タケルの指示に従い、三人は一旦別れた。

「くろがねうゆうって言ったよな。おーい、くろがねうゆうーー!うゆうやーーい!!」
シュウは、人通りの少ない住宅地を歩いていた。
「うゆうーーー!なんか言い難いなぁ、うゆうって……」
ぼやきながら歩いていると……。

ガキンッ!
どこからか、ビー玉がぶつかり合う音が聞こえてきた。
「この音は……!あっちか!」
音を頼りにシュウは駆け出した。

団地の間によくある小さな広場で、烏有は黒服の男達に囲まれていた。
「雑魚どもが……」
烏有は、蔑むような視線で黒服たちを見回す。
「ガキだからって手加減はしないぜ」
「俺達も生活掛かってんだ」
「いくぜ、やろうども!」
黒服たちが一斉に烏有に向かってビーダマンを撃った。

シュンッ!
その無数のショットを烏有は一瞬で砕いた。
「ちぃ!さすがはあのお方の作品第一号だ」
「一筋縄じゃいかねぇか!」
「だがなぁ!」
ピューイ!!
黒服の一人が口笛を吹いた。
すると、大人数の黒服たちがゾロゾロと現れた。
「へっへっへ!これだけの人数が居ればどうにかなるだろう」
「これでお前も終わりだな!」
しかし、烏有の余裕の表情は崩れない。
「弱いものほど群れたがる。何人いようが変わらない」
「てめぇ、後悔すんなよ!」
「やっちまいな!」
ズドドドドド!
黒服達の怒涛のラッシュが襲い掛かる。
が、烏有はサッとこれをかわし、反撃する。

ドゴオオオオン!!
瞬時に七人くらいの黒服が吹っ飛んだ。
「「「ぐああああああああああ」」」
「ぐっ、くそぉぉ!」
烏有は巧みなビーダマンテクと圧倒的なパワーで次々と黒服の男達を撃破していく。
「な、なんて奴だ。これだけの人数を相手に、全く怯まないとは……」
「何人いようが関係ない。僅かな糧にもならない雑魚だ」
「だがな。お前は一つ見落としてるもんがあるぜぇ」
「なにっ……」

ドンッ!
遠くで、発射音が聞こえた。
「っ!」
慌てて振り向くと、近くのアパートの屋上でビーダマンを構えている男が居た。
「スナイパーかっ!」
咄嗟によけようとするが、間に合いそうに無い。
そのときだった。
どこからかショットが飛んできて、スナイパーのショットを弾き落とした。
「なに……!」
その、ショットを撃ち落したのは……。
「そんな大勢で卑怯じゃないか!」
シュウだった。
「お前は……」
「うゆう、こっちだ!」
シュウは烏有に手招きをして走り出した。
「はぁぁぁ!」
ドオオオオオオン!
烏有は地面に向かって撃ち、砂煙を巻き上げて、黒服たちの目くらましをした隙にシュウを追って駆け出した。
「はぁはぁ……ここまで来れば大丈夫だろ」
入り組んだ路地に入って、シュウと烏有は座り込んで一息ついた。
「なぜ俺を助けた?」
シュウとは対照的に、全く息を乱していない烏有は、疑念をシュウにぶつけた。
「なんで、って……」
「俺は、お前らの仲間を苦しめた敵のはずだ。あのまま放っておいた方が都合がいいんじゃないのか?」
烏有の疑問に、シュウは少し考えてから答えた。
「冗談じゃねぇ。お前とのバトルはまだ決着がついてないからな。他の奴らにやられてたまるか」
「たかが、それだけのためにか?」
「大事な事だろ。それに……お前、なんか似てるんだよ。俺の知ってる奴に。だから、ほっとけねぇ」
「似ている?」
「アイツも、ビーダマンやってんのに、あんなすげぇバトルできるのに、いつも何も感じてないような目して……俺、そんな風にビーダマンやって欲しくねぇんだ」
シュウの真剣な表情を見て、烏有は少し視線を逸らした。
「俺も、お前と似たような奴と会った事がある。『勝とうとする事を楽しむ』あいつは、そんな事を言っていた」
「え?」
「だが、俺には俺の戦いがある。賛同は出来ない」
そう言って、烏有はうつむいた。
「しかし、借りが出来たな」
呟いた烏有の言葉は小さすぎてシュウの耳に正確には届かなかった。
「?」
シュウは疑問を顔に出したが、烏有はそれ以上何も言いそうにないので、シュウは話題を変えた。
「……なぁ、なんでうゆうは……うゆうって言い辛いな。なんか他に呼び名とかないの?」
「呼び名?」
「あだ名とかさ。俺、修司ってんだけど、皆からはシュウって呼ばれてる。そんな感じの呼び名」
「……そんなものはない。そもそも名前に興味など無い。奴以外に呼ばれる事も無いからな」
そう言った烏有の口調は少し寂しげだった。
「そっか。じゃあ今から決めてやる。えっと……くろがね、うゆう。だから……う~ん……」
シュウはしばらく唸ったのち、ひらめいたかのように顔をあげた。
「そうだ、クロウ!クロウなんてどうだ?」
「クロウ?」
「『くろ』がね『う』ゆうだから、合わせて『クロウ』!ぴったりじゃん!!」
シュウは、名案とばかりに、クロウ、クロウと何度も呟いている。
「好きにしろ」
「おう。んで、クロウはなんでこの街に来たんだ?あいつらから逃げるためか?」
だとしたら、河原でバトルをするのは合点がいかない。逃げているのなら、目立つ行為は避けるべきなのだが。
「それもあるが……俺は、今よりも強くなるために旅をしている。ここに来たのはたまたまだ」
「強くなるため……へぇ、すっげぇなぁ!でも、学校とか親とか大丈夫なのか?」
「学校には行ってない。親も、もういない……」
なんだか、複雑な家庭のようだ。
「あ、なんか、ごめん……」
反射的に、シュウは謝った。
「何故謝る?」
「いや、変な事聞いちまったかなって」
「瑣末な事だ。気にするな」
「そうかな……?」
学校に行ってなくて、親もいない。そんな状態で一人で武者修行してるなんて、この日本では考えられない事だが。
「あ、そういや、コハクって奴がクロウのこと自分の子供だとか言ってたけど、あれって……」
シュウが喋り終えるよりも先に、ザッと足音が聞こえてきた。
「それは、烏有が私の研究の賜物だからですよ」
路地に、コハクの声が近づいてきた。
「Dr.コハク!」
「ようやく見つけましたよ。随分と梃子摺らせてくれますね」
ニタリと笑うコハクに対し、シュウとクロウは身構えた。
「何故、あなたが烏有を庇うのですか?彼の所有権は私にある。大人しくしないと、痛い目を見ますよ」
「うるせぇ!しょゆうけんがなんだ!クロウはクロウだけのもんだ!誰のモンでもねぇ!!」
「なるほど。それならそれで好都合だ」
コハクは少し息を吐いた。
「どういう意味だ?」
「一対一なら烏有の捕獲はほぼ不可能でしょう。しかし、今は一対二だ」
「逆じゃねぇのか?こっちは二人掛かりなんだぜ!」
「こういう事ですよっ!」
コハクは、上空へ銃口を向けた。

バシュッ!
サクシナイトガンナーから一筋のショットが放たれた。
バチンッ!
そのショットは電線にヒットし、切れた電線がシュウの頭上に落ちてくる。
「っ!」
電線の切り口から青い電流を発しながら迫ってくる。ぶつかったら感電死は免れないだろう。
バンッ!
シュウが電撃を覚悟した瞬間、横から強い衝撃を受けて壁に強く背中をぶつけた。

バチバチバチバチ!!
そして、すぐ隣で何かが感電するような激しい音が聞こえてきた。
「ぐっ!」
痛む背中に耐えながら目を見張ると、そこにはシュウを突き飛ばして、代わりに電撃を受けている烏有の姿があった。
「ク、クロウ!?」
「うっ……!」
クロウは、電撃を受けきり、倒れてしまった。
「これで、借りは……返し、た……ぞ」
良き絶え絶えでそれだけ口にし、クロウは意識を失った。
「な、なんで……!」
「くっ、あーっはっはっは!やはり、親しくなったものに対して非情になりきれない所は相変わらずだったようですねぇ!」
コハクが、耳障りな高笑いをする。
「な、んだと……!」
「気付かないんですか?あなたは、私にとって都合の良い囮。烏有にとっては足手まといだったんですよ」
「そ、な……」
「余計な事をしましたね。あの時助けなければ、烏有はどんな状況でも自分の力だけで切り抜ける事が出来たでしょうに」
「おれ、の、せい……?」
背中を強くぶつけたせいで、息が詰まって上手く喋れない。
しかし、自分のせいで烏有が酷い目にあった事への悔しさが口から漏れる。
「く……そぉ……」
必死に手を伸ばすのだが、体が言う事を聞かない。
「ご協力、感謝しますよ。では、失礼」
コハクは恭しく頭を下げながらそう言うと、黒焦げになったクロウの体を抱えて立ち去った。
  コハクが立ち去ってから数分後、遠くから良く知った声が駆け寄ってくるのが聞こえてきた。
「シュウ~!!」
タケルと琴音が駆け寄ってきたのだ。
「ちょ、どうしたのシュウ?!大丈夫?」
「奴らにやられたのか!?」
タケルと琴音がシュウを介抱する。
「俺は、どうって事ない……けど、クロウ……うゆうが……」
「どうって事あるだろ。とにかくクラブに戻って手当てするぞ。話はそれからだ」
タケルはシュウを抱えて琴音と一緒にクラブに向かって走っていった。

休憩室にて。シュウは布団に寝かされている。
「少しは落ち着いた、シュウ君?」
彩音が心配そうにシュウの顔を覗き込んだ。
「うん。もう痛みも引いた。それより、早くあいつを助けないと……」
ガバッと起き上がるシュウだが、痛みがよみがえって顔をしかめた。
「ぐぅぅぅ……」
「無理しちゃダメだよ」
「だけど……あいつ、俺のせいで連れ去られちまった……こんなとこで、休んでられるか……!」
「だが、その体で助けに行ったところで何が出来る?」
「出来るさ!ブレイグは全快なんだ!俺だってこんな痛み、あいつが受けた電流に比べれば……!!」
痛みを気合いで押し込めてシュウは叫んだ。
「って言うか、電線の電流を受けたら、普通黒こげで死ぬんじゃ……。そんな事を平気でやっちゃうなんて、相当やばい奴らよ」
琴音の言うことは最もだ。しかし、シュウの気持ちは治まらない。
「関係あるかっ!誰がなんと言おうが、俺の体がどうなろうが、俺はあいつともう一度戦う!そのためにも、あいつを助けに行く!!」
「シュウ……」
「あやねぇ!あいつの研究所の場所を教えてくれ!直接乗り込んでやる!」
彩音はしばらく迷っていたが、シュウの決意に満ちた瞳を見て、頷いた。
「分かった。でも、命の危険を感じたら、すぐに逃げるんだよ」
命の危険とは、なんとも物騒だが。人に平気で電流浴びせるような奴のアジトへ向かうのだから、そのくらいの覚悟は必要だろう。
「うん、分かってる」
シュウは真剣な表情でしっかりと頷いた

 

後編へ続く

 

 



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