爆砕ショット!ビースピリッツ!!
第47話「琴音の責任」
準決勝が終わり、仲良しファイトクラブのメンバーは一旦自宅に帰るために新幹線に乗っていた。
「はぁぁ……終わったなぁ……」
「あぁ、激しい試合だった」
タケルとシュウはぐったりと背もたれにもたれ掛っている。
「ったく、だらしないわねぇ。あんたたちはまだ決勝戦が残ってんだから、終わってないわよ」
「いいじゃねぇか。あんだけ頑張ったんだからさ、帰りの電車くらいだらしなくさせてくれよ」
「ふふっ、そうね。私もなんだかやっと肩の荷が下りたみたいな気がするし、少しくらいだらけてもいいかもね」
彩音が苦笑しながら言うと、琴音が改めて彩音に向いて言った。
「お姉ちゃん、ほんとにごめんね……」
「もう良いって言ったでしょ。いつまでも気にされる方が困っちゃうよ」
「う、うん……」
琴音はぎこちなく頷いた。
「そうだぞ、琴音。罪を憎んで人憎まず、雨降って地固まるって奴だ」
「タケル……良い事言ってるのは分かるんだけど、その態度じゃ全然しまらないわよ」
タケルは相も変わらずだらけていた。
「積み木は肉で人肉はマズい?飴食って、血固まる?」
シュウは相も変わらずバカだった。
「違うわよ、バカ」
「ふふふ」
少しずつ、いつもの調子に戻っていくメンバーを見て、彩音は笑みが零れた。
「ふぁ~あ、でもほんと気が抜けたら眠くなってきたぜ」
大きく伸びをするシュウ。
ゴッ!
伸びをした時、右手の甲が窓の縁に軽くぶつかった。
「てっ!」
「バカだな、お前。気を付けろよ」
軽く言うタケルだが、シュウは。
「ぐ、うぅぅぅ」
手の甲を押え、異常に痛がっていた。
「ちょ、お前大丈夫か?」
その様子にさすがに心配になるタケル達だが。
「へっ、あぁいやぁ!骨の変なとこにぶつかってさ、痺れちまっただけだよ!なははは!」
シュウは心配されたのを察するとすぐに顔を上げて笑い出した。
「なんだよ、ったく」
「ははは、わりぃわりぃ。もう大丈夫だ」
しかし、シュウの手の甲はまだズキズキと痛んでいた。
電車の旅も終わり、それぞれのメンバーは家路についた。
「ただいまー!」
大きくて真っ暗な家の扉を、彩音と琴音は開けた。
玄関のスイッチを付けて、居間へ向かう。
「う~ん、なんか久しぶりの我が家って感じ!」
「懐かしい?」
「うん!やっぱり、あたしはこの場所の方がいいな……」
琴音はソファに座り、神妙な顔つきになって言った。
「そんなの、当たり前でしょ。ここが琴音ちゃんの家なんだから」
「お姉ちゃん……」
フワッと彩音は後ろから琴音を抱きしめた。
「もう、一人で勝手にいなくなっちゃダメだよ。琴音ちゃんには、皆がいるんだから」
「……うん、ありがとうお姉ちゃん」
彩音は優しい。そして、他のメンバーも。
自分がどれだけ非道な事をしたかは自分が一番よく分かっている。
にもかかわらず、皆はそれを許し、いつも通りに戻る事のみを求めている。
とても心地のいい空間。これが自分の居場所だと感じる。
(だけど……)
心地よさに身を委ねたくなるのを、琴音は躊躇った。
(本当に、これでいいの?あたしが今までやってきた事が全部許されるの?)
そんな事は無いだろう。
琴音が犯した罪は、他にもあるはずだ。
きちんと、けじめを付けなければ、ビーダーとして元通りになる事は出来ない。
「お姉ちゃん……」
抱きしめられながら、琴音は静かに言った。
「ん、なに?」
「ちょっと調べてほしい事があるの」
「え……?」
その声音が異様に真剣だったから、彩音は抱きしめていた手を放した。
身体が自由になった琴音は振り返った。
その瞳は真剣さと、少しの悲しさが映っていた。
その翌朝の仲良しファイトクラブ練習場。
シュウとタケルが、明日に向けての準備をするためにやってきた。
「おっはよー!」
「おはよう」
挨拶をしながら扉を開けるタケルとシュウ。
中には既に彩音がいた。
「あ、シュウ君、タケル君、おはよう」
「彩音さん、おはようございます。あれ、琴音の奴は?」
彩音は一人で、他に誰もいない。
「一緒に来たんじゃないの?」
「ううん。琴音ちゃんはちょっと用事で出かけてるの」
「用事?なんだよ、せっかく仲良しファイトクラブに戻ってきたってのに、どっかいっちゃったのかよ」
せっかく戻ってきてくれたのに、琴音がいなくて寂しいシュウはブーたれた。
「用事って、一体どんな?」
「うん、ちょっとケジメを付けたいんだって」
タケルの質問に対して、彩音はそれだけ答えた。
そんな琴音は……静岡に来ていた。
新幹線で浜松駅に付き、そこから在来で掛川駅へ向かう。
掛川駅から徒歩20分の先に、目的の場所はあった。
「……ここね」
琴音は、国道から外れた路地の中にある古びた建物の前に立っていた。
その建物の看板には『キズナファイターズ』と言う文字が書かれてあった。
周りが静かなので、耳を澄ますとその建物の中からビー玉のぶつかり合う音とビーダー達の歓声が聞こえてくる。
「……」
琴音は意を決してその建物の扉を開いた。
入った瞬間、心地よい冷気が吹き抜け、汗を冷やしてくれた。
入口横にある受付に座る女性が琴音の存在に気づき、視線を送ってきた。
「あ、あの……」
琴音は少し戸惑いつつ受付嬢へ話しかけた。
「どうされました?」
「その、こちらのクラブに松田輝彦君はおられますか?」
「お知り合いの方ですか?」
「え、えぇ……」
ぎこちなく答える琴音に怪訝な顔をしつつ受付嬢は答えた。
「少々お待ちください」
そう言って、受付嬢は奥へと進んだ。
待っている間、琴音の後ろから声が飛んで来た。
「あ、お前は!!」
「っ!」
振り返ると、そこには輝彦や康成、その他のビーダー達が立っていた。
「俺のビーダマンを壊した奴、一体何しに来たんだ!!」
「それは、あの……!」
当然だが、敵意剥き出しに叫んでくる輝彦に、琴音は圧倒されてしまって返答に窮した。
「まさか、壊し損ねた康成君のビーダマンを今度こそ壊しに来たのか?!」
「ち、ちがっ、あの……!」
言葉が出てこない。
「なんとか言えよこのやろう!!」
激高してくる輝彦に対して、琴音はますます委縮してしまう。
「やめないか、輝彦」
と、そんな輝彦を止めたのは、クラブの中では比較的年長者らしい康成だった。琴音よりは年下そうだが、しっかりしている少年である。
「確か、琴音……だったか。何の用で来たかは知らないが、悪いけど帰ってくれないか。これ以上仲間のビーダマンを壊されるわけにはいかない」
「そうじゃ、ないの!!」
琴音は勇気を振り絞って叫んだ。
そして、その場で土下座をした。
「な、なんの真似だ……?」
「ごめんなさい!謝って済む問題じゃないのは分かってるけど、それでも、謝らせてください!本当に、ごめんなさい!!」
真摯な態度で謝られてしまい、康成達は毒気を失ったのか、先ほどまでの険悪な態度は消えていた。
「わ、分かった、もういいから顔を上げてくれ……!」
「……」
康成に言われ、琴音はゆっくりと立ち上がった。
「う、うるさい!謝ったからなんなんだ!俺のビーダマンは、もう戻ってこないんだぞ!ずっと大事にしてたビーダマンなのに……!」
康成は収まったようだが、ビーダマンを壊されたままの輝彦の怒りはまだ収まらないようだ。
「これを!!」
そんな輝彦に、琴音はビーダマンを差し出した。
それは、琴音が壊したはずのビーダマンだった。
「あなたのビーダマンを壊した後、少しだけ欠片を拾ったの。その欠片を元に修復して、複製したビーダマン。間違いなく、あなたの使っていたビーダマンよ」
「俺の、ビーダマン……」
「これで償いになるなんて思ってないけど、でも、受け取ってほしい……!」
「……」
輝彦は、バッ!と奪うようにそのビーダマンを手に取った。
「そうだよ、こんなんじゃ、済まない……」
「……」
そうよね。と琴音は俯いた。
「俺と勝負しろ、琴音!」
「え?」
思わぬ言葉を受けて、琴音は顔を上げた。
「絶対にお前にリベンジしてやる!壊れたビーダマンの仇を取るために、俺はずっとトレーニングを積んでたんだ!!」
「……」
「どうした、怖いのか?」
輝彦に言われた言葉の意味を、少しずつ理解してきた琴音は、まるで壊れた機械のように何度もうなずいた。
「う、うん……うん!」
「よし、じゃあこい!こっちのフィールドでバトルだ!」
そう言って、輝彦は琴音を先導するように歩いて行った。
琴音は、黙ってその後について行った。
広く、殺風景で、フィールドがいくつも並んでいる場所へ連れてこられた。
「ここが俺達の練習場だ。ここでお前をブッ倒してやる!」
輝彦はその中にある一つのフィールドへ琴音を先導した。
フィールドを挟んで二人が対峙する。
「ルールはブレイクボンバーで良いよな?」
「う、うん……」
フィールド中央に、ブレイクボンバーが準備された。
「よし、頑張ろうぜ。俺のビーダマン」
そして輝彦は、壊れたビーダマンの欠片を取り出して、琴音に渡されたビーダマンのバネとスタッドを付け替えた。
「これで、お前は本当の俺のビーダマンだ。おかえり」
そう言うと、琴音に向き直った。
「それじゃ、始めるぞ!」
「「レディ、ビー・ファイトォ!!」」
その合図とともに二人がビー玉をガンガン撃つ。
バキィ!!
二人同時に端の二つの赤ボムを撃ちぬいた。
「くっ、相変わらず強い……!」
「この前戦った時よりも連射速度が上がってる!?」
琴音は輝彦の上達っぷりに驚いた。
「当たり前だ!お前を倒すために、ずっと鍛えて来たんだ!!」
ズドドドドドド!!!
真ん中の赤ボムを巡って両方からビー玉が飛び交う。
「負けるかぁぁ!!」
「いけぇ!!」
いつの間にか、二人の間に険悪さは消えて、純粋にビーダマンバトルを楽しむ笑顔だけが浮かんでいた。
二人とも、本当に楽しそうにビーダマンを撃ち合っている。
ッパーーーン!!
そして、決着がついた。
赤ボムを撃ちぬいたのは……。
「くっそー、負けたぁぁぁ!また負けたぁぁぁ!」
琴音だった。輝彦は悔しそうに頭を抱えている。
「あ、あの……」
謝りに来たのに勝ってしまい、少し申し訳なくなる琴音だが……。
「よーし、もう一回勝負だ!今度こそ負けねぇぞ!!」
「え?」
輝彦は全くめげずに琴音に勝負を挑んだ。
「でも、ちょっと待て!次はセッティング変えるから!」
そう言って、輝彦はカチャカチャとビーダマンを弄りはじめた。
その表情は楽しさと嬉しさに満ちている。
さっきまで、自分の事を憎んでいた人間とは思えない。
「……」
輝彦の態度が理解できない琴音が呆然としていると、康成が話しかけてきた。
「結局さ、ビーダーはビーダマンバトルがしたいだけなんだよな」
「え?」
「お前に対する憎しみは、消える事は無い。でも、それ以上にもっと強い奴ともっと面白いバトルがしたい。俺達は、ただそれだけなんだ。
お前が強くて、面白いバトルが出来るビーダーなら。憎むよりもまずバトルがしたいって思う」
「……」
「次は俺とも戦ってくれないか?輝彦のバトルを見てたら、俺もリベンジがしたくなった」
康成にそう言われて、琴音はようやく理解が出来た。
仲良しファイトクラブのメンバー達が自分を受け入れてくれた本当の理由を。
彼らは、憎むとか許すとか、そんな小さな次元で自分を見ていたわけではない。
ビーダーとして、最初から自分を求めてくれていたんだ。
そう理解した琴音は、胸の奥から込み上げてくるものを感じた。
それは、涙となり、琴音の瞳から溢れ出してきた。
「うっ、くっ、うぅぅ……!」
止める事が出来ず、顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「おい、泣いてる暇なんかないぞ!俺もう準備出来たんだからな!」
と、輝彦がバトルの催促をする。
「うん……うん……!」
琴音は必死に嗚咽を抑えて立ち上がり、涙を拭った。
「さぁ、次は負けないぞ!」
「こっちだって!」
琴音の表情にも明るさが戻って行った。
「「レディ、ビー・ファイトォ!!」」
つづく
次回予告
「日本一のビーダーを決める大会、ジャパンビーダマンカップ。
俺とタケルは、その決勝戦を戦う事になった。
決勝を控えた前日、俺達はそれぞれの想いを馳せた。
次回!『決戦前夜 それぞれの想い』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」