爆砕ショット!ビースピリッツ!!
第40話「悲しき破壊魔」
『さぁ、ジャパンビーダマンカップ決勝トーナメント第一試合も盛り上がってまいりました!
現在、シュウ君は2ポイントでリーチをかけている!しかし、辨助君は見事な2丁流で1ポイント巻き返した!
まだまだ勝負の行方は分からないぞぉ!!』
シュウと辨助が並んで散歩道を歩いている。
「まだか、ターゲットは……早く出ろよ……!」
シュウは明らかにイライラした様子で歩いている。
「よぉ、お前なんでそんな真剣な顔してんだよ」
「なに?!」
「こんなお遊び大会。適当にやりゃいいじゃねぇか」
辨助は、また小ばかにしたような笑みを浮かべていた。
「て、てめぇ……!」
シュウが辨助に掴みかかろうとした時……!
ビーッ!
「おっと、またターゲットが出現したみたいだぜ!」
「くっ!」
シュウは気持ちを切り替えてターゲットが無いか辺りを見回した。
しかし、どこにも見つからない。
「どこだ……どこに……!」
そしてようやく、前方50m先にターゲットが出現しているのを見つけた。
「「あそこか!!」」
辨助も同時に発見したようだ。
『のおっと!次のターゲットは二人からかなり離れた距離に出現した!!射程圏内まで競争か!?』
しかし、シュウはその場から動かなかった。
「このくらいの距離、ブレイグのパワーショットなら余裕だぜ!!」
チラッと隣を見ると、辨助もその場から動いていない。
『二人ともその場から動かない!あの距離のターゲットを狙えるというのか!?』
「お前に狙えるのかよ!?」
見た感じ、辨助はパワーシューターではないはずなのだが……。
「舐めるなよ。ストリームランサー、トランスフォーム!」
ストリームランサーの左アームのグリップが外され、ヘッドの額に付き、ロングサイトになる。
「ロックアックス、エンゲージ!!」
ロックアックスがストリームランサーの後ろに連結する。
「フュージョン、アバランチハルバード!!」
ストリームランサーとロックアックスが前後合体して一体のビーダマンになった。
「合体した……!」
『なんとぉ!!辨助君の二体のビーダマンが合体!アバランチハルバードに変形した!前後に長いその形状は、まるで佐々木小次郎の愛用していた物干し竿のようだ!!
一体どんな性能なんだぁ!?』
「ツインダイビングラプターみたいだ……!」
「こいつの性能は半端じゃないぜ」
「それでも、俺のパワーの方が上だ!」
シュウがブレイグのコアを締め付ける。
「はぁぁぁ!!」
「やれ、アバランチハルバード!!」
ドンッ!!
その隙に、辨助はストリームランサーとロックアックスにビー玉を込めて発射する。
ロックアックスに込められたビー玉は足元から下に落ち、ストリームランサーからは物凄いパワーショットが放たれた。
「なにっ!」
『これは凄い!!アバランチハルバードからは、先ほどとは比べ物にならないパワーショットが放たれた!!』
「くそっ!」
遅れてシュウもショットを放つのだが、追いつけない。
バーーーン!!
『ゲット!!パワー対決は辨助君が制した!これで2VS2のイーブンだ!勝負の行方は次のターゲットで決まるぞ!!』
「そんな……俺が……俺が、パワーで負けた……」
ポイントで追いつかれただけじゃなく、得意のパワーショットで負けた事にプライドを酷く傷つけられてしまった。
「どうした?絶対に負けられないって意気込んでた割には、大したことないなぁ」
「く、くそぉぉぉ!!!」
ダンッ!とシュウは膝をついて地面を殴った。
「おい、良いから立てよ。とっとと終わらせるぞ」
そんなシュウの様子を気にする事無く、辨助は先を促した。
「……」
シュウはゆっくりと立ち上がり、歩き出そうとした。
その時だった。
「シュウ君!!」
散歩道の脇。丁度バトルフィールドとの境界線ギリギリの所に彩音が立っており、両手を拡声器のようにして精一杯叫んでいた。
「あ、あやねぇ?!」
「挑発に乗っちゃダメ!それが相手の手なの!!」
「え?!」
彩音の言葉に、シュウはあっけにとられた。
「思い出したの。宮本武蔵と佐々木小次郎の決闘の内容を。
宮本武蔵は、わざと遅刻する事で相手を苛立たせて、平静を失わせる事で勝利したの!!」
彩音の説明を受けて、シュウはハッとした。
「わざと遅刻して苛立たせる……」
そういえば、辨助が遅刻した事でシュウは冷静さを失っていた。
それどころか、辨助はシュウを挑発して苛立たせていた。
「そうか……そういう事か……!」
「目の前の事に囚われ過ぎないで!シュウ君は、シュウ君のままでバトルをするの!!」
バシュッ!!
そこまで言った所で、彩音の目の前で砂煙が舞った。
「きゃっ……!」
「おっと、部外者はそろそろ黙ってもらおうか」
辨助がアバランチハルバードで彩音の足元を撃ったのだった。
「てめぇ、どこまでもクズだな!」
「何とでも言え。たかがビーダー如きにどう思われようが関係ない」
「たかが……!」
またも辨助は挑発するような事を言ってきた。
しかし……。
「じゃあ、次のターゲットが出た時は、そのたかがビーダーの力を見せてやるぜ」
シュウの顔にいつもの精彩が戻っていた。
「ちっ、もう通じないか。あの女、余計な事を……」
「サンキュー、あやねぇ。俺、つまらない事で自分を見失っていた。こっから先は、バトルに勝つ事だけに集中するぜ!」
そして、シュウと辨助は歩き出した。
散歩道は森林へと入って行った。
乱雑に生えている木々や足元の根っこによって、二人の足取りは遅い。
「まだかよ……」
「……」
まだサイレンは鳴らない。
辨助はいい加減待ちくたびれた風だが、シュウは集中力を途切れさせていない。
いつターゲットが出現しても良いように語感を研ぎ澄ませていた。
そして……。
ビーッ!と、ようやくサイレンが鳴った。
ターゲットは辨助側の方向10m先の木の根っこの上に出現した。
「チャンス!」
「行くぞブレイグ!!」
二人はほぼ同時に構えた。
距離のハンデはあるが、ブレイグの方が弾速は速い。
「いける!」
「させるかっ!」
ドンッ!
二人が同時にショットを放つ。
シュンッ!!
そのうちの一発がシュウの顔面を掠めるように通過する。
「っ!目くらまし……!」
「二丁流ってのはなぁ!こういう使い方も出来るんだよ!!」
どうやら、ストリームランサーで目くらましをしつつ、ロックアックスでターゲットを狙ったようだ。
しかし……ガキンッ!
ロックアックスのショットはシュウのショットによって止められてしまった。
「そう来ると思ったぜ!!」
シュウは最初からターゲットではなくロックアックスのショットを止めるように撃っていたのだ。
「なっ、俺の目くらましが通じなかっただと……!だが、だったらとっとと撃つまで!」
辨助が再び素早くロックアックスを構えた。
「まだだ!!」
ガクガクガク!!!
ブレイグのヘッドの刃が激しく振動した。
さっきのショットによって、エアリアルバイザーが発動したのだろう。
シュウの周りに風が巻き起こる。
「な、なんだぁこの風は!?」
「うおおおおお!!!フェイタルストォォォーーーム!!」
バシュウウウウウウ!!!
空気の膜を纏ったショット、フェイタルストームが発動。
まっすぐターゲットへ向かっていく。
「くそっ!!」
辨助は慌てて2丁流連射でそのショットを止めようとするが、全て触れる前に弾かれてしまう。
「な、なんだこのショットは!!!」
バキィ!!!
『ゲットォ!!シュウ君の必殺ショットが、最後のターゲットを見事撃破!!
よってこのバトルはシュウ君の勝利だ!!!』
「ふぅ、なんとか勝てた……」
「ちぇ、負けちまったか」
辨助はポリポリと後頭部を掻いた。
「策士策に溺れる。俺もまだまだだな」
そう言って、辨助は踵を返して去って行こうとする。
「あ、辨助!」
そんな辨助に、何か言おうとシュウは呼び止めようとするが、辨助は足を止めない。
「何も言うんじゃねぇ」
「え?」
「勝者は勝者らしくとっとと次のステージへ進みやがれ」
それだけ言うと、辨助は今度こそシュウの前から去って行った。
バトルも終わったので、シュウは彩音とともに観客席で、残りの試合を観戦する事にした。
「ふぅ、危なかったけどなんとか勝てたぜ……」
「やったね、シュウ君」
「あやねぇのおかげだぜ。あのアドバイスがなかったら負けてた」
「私は何もしてないよ。でも、決勝トーナメントまで勝ち上がってきただけあって、いろんなタイプのビーダーがいるのは注意しないとね」
「そうだな……。あ、そうだ!せっかく勝ったんだし、タケルに報告しよう!」
「あ、そうだね」
彩音はケータイを取り出して、タケルへと発信した。
「あ、タケル君。今大丈夫?……うん、ちょっとシュウ君に代わるね」
そう言って、シュウにケータイを渡した。
「おう、タケル!俺、一回戦勝ったぜ!!」
ケータイを耳に当てて早速タケルに報告をする。
『おぉ、やったな、シュウ!でも勝ったからって油断するなよ。まだまだ試合は続くんだ』
「分かってるって。で、タケルの方はどうなんだ?」
『俺の試合はまだだ。今やってる試合が終わったら俺の番になる』
「そっか。タケルも絶対勝てよ!」
『当たり前だ。……それよりもシュウ、一つお前に伝えとく事がある』
急に、タケルの声が神妙なものになった。
「え?」
『俺のいるBブロックに……』
途端に、プツッと音声が途切れた。
「あれっ?タケル?おーい、もしもーし!!」
「どうしたの?」
「なんか、急に聞こえなくなった……」
シュウは彩音にケータイを返した。
彩音はケータイの画面を見て、音声が途切れた原因に気付いた。
「あ、圏外になってる」
「えぇ?!だってさっきまで普通に話できたのに」
「元々電波不安定だったのよ。本土から離れた島だから、しょうがないけど」
「そうなのか……。タケルの奴、何が言いたかったんだろう?」
考えても分かるものではない。
どちらにせよ、クラブに戻ったら聞ける話だ。今気にしても仕方ないだろう。
と言うわけで、シュウは試合の観戦に集中する事にした。
『ゲットォ!一回戦第二試合は、アミュレットシーサーを駆り、凄まじいガッツを見せてくれた流縄アツト君だ!!』
その試合を観戦していたシュウ達。
「あのアツトって奴、すげぇタフな奴だな……」
「うん、凄い接戦だったのに、あの子は全然息切れしてなかった。テクニックもビーダマンの性能も並だけど、あのスタミナだけは脅威ね……」
「あいつが俺の次の対戦相手ってわけか。へへへっ、今からワクワクしてくるぜ!」
次の試合で、シュウはアツトとどんなバトルを繰り広げるのか。
シュウは今から楽しみで仕方がないようだ。
そんな感じで試合は進み……。
『さぁ、お次の対戦カードは、ジャン・ジャン君VS池田達郎君だ!!』
「じゃんじゃんじゃーーーん!!オレっちの出番じゃーーーん!!!」
ジャンがエアギターをかき鳴らしながら登場した。
その姿を見て、シュウはげんなりした。
「げぇ、あいつ決勝トーナメントに進出してんのかよ……」
「そういえば、関東予選の個人部門の優勝者、調べてなかったね」
「まさかあいつが優勝してたとは……」
関東予選の個人部門は、シュウは準決勝に勝利したもののその直後にビーダマンを破壊されて棄権したのだった。
つまり、そのおかげでジャンは個人部門で優勝出来たのだろう。
『そんじゃ、試合を始めるぞ!レディ、ビー・ファイトォ!!』
試合が開始する。
そして、早速ターゲットが出現する。
「あっ!あんな所に空飛ぶビー玉が!!」
と言いつつ、ジャンはビー玉を一つ宙に放った。
「ほんとだ……!」
達郎は、ジャンの言う方向を見て感心するように呟いた。
「今じゃん!!!」
その隙にジャンはターゲットを撃破した。
『ゲットォ!!ジャン君がまず先制だぁ!!』
そんな調子で、ジャンは達郎に勝利した。
『決まったぁ!勝者はジャン君だぁぁ!!』
「やったじゃん!」
「や、やられた……!」
勝利の雄叫びを上げるジャンに、膝をつく達郎は対照的だった。
しかし、あまりにもあんまりな試合内容に、シュウと彩音は呆れてしまった。
「あいつ、相変わらずだなぁ……」
「引っかかる方も引っかかる方ね……」
この試合は、決勝トーナメント第一回戦の中で最も低レベルな戦いだろう……。
そして、次の試合だ。
『さぁ、お次の対戦カードは、東京都の佐倉琴音君!対するは、静岡県出身、キズナファイターズ所属の松田輝彦君だ!!』
ついに、琴音が姿を現した。
「ことねぇ……!」
「琴音ちゃん……」
試合を観戦するシュウ達の視線も力が籠る。
『琴音君は、仲良しファイトクラブで見事な連射を見せてくれたビーダーだ!輝彦君は今大会最年少の8歳ながら、なかなかの才能があるぞ!
これは、良いバトルが期待できそうだ!そんじゃいくぜ!レディ、ビー・ファイトォ!!』
バトルスタート。
二人が同時に歩き出す。
しかし、試合は圧倒的だった。
「サンダーグルム!!」
バキィ!!
『ゲェットォ!!再び琴音君がターゲットを撃破!!輝彦君に一ポイントも取らせないまま、リーチをかけたぁ!!』
「うぅ、強すぎる……!」
輝彦はあまりの実力差に委縮してしまっている。
そんな試合内容を見たシュウ達は愕然とした。
「あ、圧倒だ……!」
「あれが、源氏派で作った琴音ちゃんの新しい愛機、サンダーグルム……」
サンダーグルムは、センターグリップとサイドグリップの2パターンの片手持ちが出来るトリガーを装備している。
これによって、どこからターゲットが出現しても即座に対応できるのだろう。
ビーッ!
そして、最後のターゲットが出現する。
その位置は二人からかなりの遠距離だった。
「コントロールなら僕だって負けないぞ!」
「サンダーグルム、シールドスタビライザー!」
サンダーグルムには、スパークグルムの時には片側だけにしかついていなかったシールドが両側に付いている。
その両側のシールドは180度回転させる事で、スタビライザーになるのだ。
「いけっ!」
安定性の増したサンダーグルムによるコントロールで、最後のターゲットも難なく琴音が撃破した。
『決まったぁ!!圧倒的!!琴音君が、相手に1ポイントも取らせないままパーフェクトな勝利を決めたぁぁ!!』
「そ、そんなぁ……」
輝彦はガックシを項垂れてしまった。
「……」
そんな輝彦に、琴音は銃口を向けた。
「え?」
「ごめんなさい。これで終わりじゃないの」
その銃口の先には、輝彦の持っているビーダマンがある。
「っ!」
バシュッ!!
サンダーグルムのショットが輝彦のビーダマンにヒットし、輝彦はビーダマンを落としてしまった。
『ど、どうしたんだ?もうバトルは終わったというのに、琴音君がショットを放った!!輝彦君のビーダマンを狙ったというのか?!』
「あっ!」
地面に転がる輝彦のビーダマン。
「ごめんなさい……!」
琴音は再び輝彦のビーダマンへ照準を定め、ショットを放った。
バキィ!!!
サンダーグルムのショットを受けて、輝彦のビーダマンは無残にも砕け散ってしまった。
「あぁ、そんな……なんで……!」
輝彦は涙を浮かべながら粉々になったビーダマンの欠片を拾っていく。
「……」
琴音は、悲しみと後悔の表情を浮かべながら、踵を返して去って行った。
『な、なんと……琴音君が、輝彦君のビーダマンを壊してしまった……!一体、どうして……?』
ビーダマスターユウも今までと違う琴音の行動に、困惑している。
会場がざわめきだした。
その困惑の中、シュウと彩音は顔を顰めた。
「ことねぇ……!ほんとに源氏派になっちまったのかよ……!」
「組織にいる以上は、その方針に従わなければならない。でも、琴音ちゃんが相手のビーダマンを壊すなんて……」
「くそっ!!」
シュウはその場から駆け出した。
向かった先は、バトルフィールドから出たばかりの琴音の所だった。
「ことねぇ!!」
シュウの呼びかけに、琴音は振り返らずに立ち止まった。
「なんだよ、なんであんな事するんだよ!ことねぇは相手のビーダマン壊して楽しいのか!?」
「……のしいわけ……じゃない」
琴音はボソッと呟いたのち、振り返った。
「私は、源氏派のビーダーだから。勝った相手からすべてを奪うの」
琴音は感情を押し殺した表情をしていた。
「そうまでして、そんな事までしてあいつと一緒に居たいのかよ!!ヒロトがそんなに大事かよ!!」
「あんたには分からないよ、あたしの気持ちなんか」
「分からねぇかどうか、そんなの分からないだろ!!ことねぇだって、俺達の気持ち分かってんのかよ!!」
「分かってるよ。分かってて、あたしはこの道を選んだんだから」
「ぐぐ……!」
今の琴音に何を言っても無駄だ。
何が正しいのか、何が悪いのか、何が悲しいのか……その全てを認識した上で琴音は自分の行動を選択している。
誰が何を言った所で、その意志が揺らぐ事はないだろう。
「シュウ、ブレイグを破壊されたくなかったら、あたしとぶつかる前に負ける事ね」
それだけ言うと、琴音は踵を返してシュウとは逆の方向へ歩いていく。
「冗談じゃねぇ!俺は絶対にことねぇをブッ倒す!!俺のビー魂をブチかましてやるぜ!!!」
遠ざかっていく背中に向かって、シュウは叫んだ。
琴音は何も答えず、そのまま去って行った。
つづく
次回予告
「俺が巌流島で戦っている時、タケルは大阪城で戦っていた!
なんと、タケルの一回戦の相手は源氏派ビーダーのクウだった……!
そして更に、Bブロックでは意外な人物が出場していた!
次回!『ブレイクボール!浪花の食い倒れビーダー!!』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」