オリジナルビーダマン物語 第35話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第35話「甘美なる誘い 裏切りのプレリュード」



 彩音の工房。彩音が机で作業をしていて、その後ろにはシュウ、タケル、琴音の三人が待機していた。
「ふぅ」
 彩音が息をついて顔を上げる。
 そして、グルムを手に取って琴音へと向く。
「はい、琴音ちゃん。グルムの修理完了したよ」
「ありがとう、お姉ちゃん」
 琴音は彩音からグルムを受けとった。
「やったな、ことねぇ!これでリベンジ出来るぜ!」
「リベンジって、わけじゃないけど。でも、今度こそヒロ兄の目を覚まさせたい」
「その意気だぜ!」
「でも、気を付けろよ。ヒロトさんは強い。また前と同じ目に合うかもしれない」
「う、うん……」
 タケルの忠告に、琴音は頷く。
「何弱気になってんだよ!大丈夫だって!ことねぇのビー魂をぶつければ、絶対に上手く行く!!」
「シュウ……。そうだね、頑張るよ」
「そんじゃ、あやねぇ!俺達のビーダマンの修復も頼むぜ」
 シュウとタケルもビーダマンを彩音に差し出す。
「結構消耗激しかったからな。最近、ロクにメンテする時間もなかったし」
 破壊されているわけではないのだが、過酷なバトルが続いていたので二つとも結構消耗が激しかった。
「うん、任せて」
「さて、ビーダマン無いし。今日はお休みか?」
「何言ってんだ。ビーダマンでの練習が出来ないなら基礎体力作りだ!腹筋背筋腕立て100回10セット!それが終わったら町内10周行くぞ!」
「えぇぇ~!ビーダマンが休んでるんだから俺達も休もうぜ!」
「ゴチャゴチャ言うな!やるぞ!!」
「へ~い」
 シュウはタケルに言われるまましぶしぶ工房を出て行って練習場へ向かった。
 
 そしてグルムを手に持った琴音もいそいそと工房を出ていき、とある公園へやってきた。
「……」
 そこは、いつも行っているような公園と比べていささか小さく、人通りも少なかった。
 しかし、琴音は慈しむような表情で目を閉じ、その公園全体空気を感じとっている。
 琴音の脳裏には、昔の記憶がよみがえっていた。
 毎日、ヒロトとここでビーダマンをしていた記憶が
 と、思いに耽っていたところで、声をかけられた。
「懐かしいな」
「っ!」
 ハッとして振り向くと、そこにはヒロトがたっていた。
「ヒロ兄……」
「昔は、よくここでお前とビーダマンしてたっけな」
「うん」
「この狭い公園を駆け巡って、毎日日が暮れるまでビーダマンを撃っていた。楽しかったな、あの頃は」
「ヒロ兄……」
 ヒロトも、覚えていた。
 昔、一緒にビーダマンをしていたことを。そしてそれを楽しかったと言ってくれた。
 ヒロトには、昔の気持ちがまだ残っている。だったら、また昔みたいな優しいヒロ兄に戻ってくれるかもしれない。
 そう思った琴音は、ヒロトに話しかけた。
「ヒロ兄……お願いがあるの」
 ヒロトは返事をしなかった。それでも琴音は続ける。
「ビーダマンを壊すのはやめてほしい。今すぐ源氏派をやめて」
「ふん、何を言い出すのかと思えば」
「ヒロ兄だって、ビーダマンが壊れるのは嫌なはずだよ!だって、昔のヒロ兄はあんなにやさしかったじゃない!」
 いつの間にか琴音の語気は強くなっていた。目じりにはうっすらと涙がたまっている。
 しかし、それを見てもヒロトの心は動かない。
「お願い、昔の優しかったヒロ兄に戻ってよ……!」
「何か、勘違いしているようだが……」
 琴音の懇願を聞き、ヒロトは口を開く。
「俺は、昔から何も変わっちゃいないさ」
「え?」
 それは予想だにしない言葉だった。
「ど、どういう事?」
「『昔のように優しかった』か。確かにな、仲良しファイトクラブにいたころの俺は、お前の言うとおり優しかったのかもしれない。だがな……」
「……」
「それは、仲良しファイトクラブの方針に合わせていただけだ」
「え?」
 それを言ったヒロトは相変わらず無表情のままだった。
「仲良しファイトクラブの方針は『皆と仲良く強くなる事』だったな。あそこに在籍している以上、その方針は守らなければいけないだろう」
「そんな、あれは、ヒロ兄の本心じゃ、なかったの……?」
「ああ。俺は昔も今も、ただ強くなりたいだけだ。
当時一番大きなビーダマンクラブは仲良しファイトクラブだったからな。そのクラブにいれば確実に強くなれる。
そしてそのクラブにいるためには方針は守らなければならない。
お前が俺の事を『優しかった』と思っているのは、全てそのためだ」
「そ、んな……」
 琴音は、頭をハンマーで叩きつけられたかのような衝撃を受けた。
 ずっと憧れだったヒロ兄が、ずっと恋焦がれていたヒロ兄が、全て偽りの幻想だったなんて……。
「俺が今ビーダマンを破壊しているのも、源氏派に在籍し続けるためだけだ。あそこの技術力はかなりのものだ。強くなるために利用する価値は高い」
「……」
 琴音は言葉を失っていた。ヒロトもこれ以上説明する事がなくなったので、無言になる。
 しばらく、無言の時間が流れた。
 そして、ヒロトがふいに口を開いた。
「それよりも、だ」
「え?」
「琴音、俺と一緒に来ないか?」
 またも、予想外のセリフを受け、琴音は身構えた。
「どういう、意味?」
「俺と一緒に源氏派に入らないかって事だ。そうすれば今よりももっと強くなれる」
「あたしに、仲良しファイトクラブを裏切れって言うの!?」
「そういう次元の低い話をしているんじゃない」
 ヒロトは、鼻で笑いながら続けた。
「じゃあ聞くが、お前が俺に負けた時、その『仲間』とやらがお前に何をしてくれた?」
「何を、って……?」
「俺に勝てるように、強くしてくれたのか?」
「それは……!」
 琴音が咄嗟にグルムを構える。
 が、その直後にヒロトのトゥループワイアームが火を噴き、グルムを撃ち落とした。
「っ!」
 ヒロトは『それ見たことか』と言う顔をする。
「ただ機体を修理して、愚にもつかない慰めの言葉をかけてくれただけじゃないのか?」
「……」
 図星だった。仲良しファイトクラブのメンバーは具体的に琴音に何かをしてくれたわけじゃない。
 事実、琴音はまたヒロトに負けてしまった。
「はっはっは!相変わらずの馴れ合いか。それで、お前は俺に勝てるようになれたのか?」
「……」
 答えられなかった。
「だが、あいつらには出来なくても。俺と源氏派ならできる。間違いなくお前を今よりも強くしてやる事が出来る……」
「それ、でも……」
 琴音はヒロトの誘いを受ける気はなかった。
 クラブを裏切る事なんて出来ない。
「あたし、は……」
 でも、誘いを断るための言葉を発する事も出来なかった。
 だって、全てヒロトの言うとおりだったから……。
 琴音の中に、わずかに迷いが生まれていたのだ。
「それにな」
 と、ヒロトは琴音の耳元まで顔を近づけ、ソッと囁いた。
「俺は、もう一度お前と一緒にビーダマンがしたいんだよ」
「っ!?」
 その言葉は、トドメだった。
 琴音はハッと目を見開き、体中の力が抜けるのを感じた。
「……」
「来てくれるな?」
 琴音は何も答えずにうつむいた。
 しかし、その手はヒロトの腕を掴んでいた。
 それが答えだった。
「それで、一つ頼みがあるんだが」
 
 数十分後。
 彩音の工房では、彩音がブレイグとレックスの修理作業に没頭していた。
「……ふぅ、あとは微調整すれば完了かな」
 作業は終盤に差し掛かっていたようだ。
 彩音はホッと息をつく。
 その時だった。
 作業場の隣の部屋。ビーダマンを保管している部屋で物音がしたのに気付いた。
「誰か来たのかな?」
 気になってそこに向かった。
 そして、そこによく見知った顔がいるのを見つけた。
 
 琴音だった。
 琴音は、ビーダマンを保管いている棚に向かって何か作業をしていた。
「え、琴音、ちゃん……?」
 彩音がそうつぶやくと琴音がハッとして振り返る。
「お姉、ちゃん……」
 何かに恐怖しているような、そんな表情だった。
「何してるの?」
 と、問いかける前に琴音は彩音をすり抜けて扉までかけて行った。
 咄嗟の事で彩音は反応できなかったのだが、そのすれ違いざまに小さく。
「ごめんなさい」
 と呟かれたのは聞こえた。
 脱兎のように工房から出て行った琴音の背中を眺めながら、彩音はただ呆然するしかなかった。
「琴音ちゃん……」
 何もかもが分からなかった。
 どうして急に工房に来たのか。
 あそこで何をしていたのか。
 なぜ逃げるように出て行ったのか。
 何が『ごめんなさい』なのか。
 何一つ答えを出すための材料がない。
 ただ、何か嫌な予感がするのだけは確かだった。

      つづく

 次回予告

「大変だ!琴音が家出をしたらしい!!
急いで探す俺達は、ついに琴音の居場所を突き止めた。なんと、そこは驚くべき場所だった!!
 次回!『潜入!源氏タワー』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」

 

 




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