オリジナルビーダマン物語 第34話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第34話「愛しきあの人 哀しみの再会」



「いっけぇぇ!!バスターブレイグ!!!」
 仲良しファイトクラブ練習場で、ブレイグの発射音が響き渡る。
「シフトレックス!!」
 タケルも練習場で練習していた。彩音は隅でパソコンを弄っている。
 その中で、琴音だけがいない。
 今日は琴音がパトロールをする日のようだ。
「ふぅ……少し休憩するか」
 額の汗をぬぐい、タケルは一旦撃つのをやめた。
 そして、ふと備え付けの時計を見る。
「あ、もう6時半か……琴音の奴、遅いな」」
 タケルがそうつぶやく、同じく練習を中断したシュウが口を開いた。
「そういえば。いつもだったら6時にはこっちに戻ってるのに」
「何かあったのかな?」
 彩音が心配そうに言う。
「もしかして、出会った源氏派ビーダーが手ごわくて、戦闘が長引いてるとか!?」
「う~ん……可能性はゼロじゃないな。あいつらは危険な集団だ。何をされてもおかしくない」
「俺、ちょっと見てくる!!」
 シュウは、練習場を飛び出していった。
 
 その、数十分ほど前。
 琴音は、普通にパトロールをしていた。
「うん、今日は平和ね。って、まぁそんな毎日毎日ビーダマンが壊されたりしたら困るんだけど」
 琴音は軽口を叩きながら探索を続ける。
 そして、中央公園に差し掛かった時。
「うえ~ん!」
「僕のビーダマンが……!」
 泣きながら公園を出てくる数人の子供たちの姿を見かけた。
「って、言ってるそばから、やっぱり今日も源氏派は活動してるのね」
 琴音は気を惹き締め直し、泣いている子供たちの所へ駆け寄った。
「ちょっと、君達?」
 琴音が近づくと、子供達は泣きながら琴音を見上げた。
「大丈夫?」
「うぅ、僕のビーダマンが、怖いお兄ちゃんに壊されちゃったの……!」
 琴音は泣きやまぬ子供の頭をポンポンとやさしく叩いた。
「そっか、怖かったね。でももう大丈夫だよ。お姉ちゃんが仇をとってきてあげる」
 そう言って、公園の中に足を踏み入れた。
「ひ、酷い……!」
 琴音は思わず口に手を当てた。
 公園内は、無数のビーダマンの残骸で散らかっていた。
 よほど、酷い光景だったのだろう、既に公園内には誰もいない。
 いや、一人だけいた。
 無数の残骸の中に、ただ一つ無傷のビーダマンを手に持った男が……。
「あ、あれ……?」
 そして、その姿に琴音は見覚えがあった。
「ま、まさかあの人……」
 琴音はフラフラとその男へ近づいていく。
「ん?」
 男がゆっくりと琴音の方へ向く。
「っ!」
 その、顔を見て、琴音は息をのんだ。
「ヒロ……兄ぃ……!」
「琴音か?」
 その男が琴音の名を呼んだ。つまり、この男は琴音が言った『ヒロ兄』と言う人物らしい。
「ヒロ兄!!」
 琴音は目に涙をためながら笑顔になった。
「久しぶりだな、琴音」
 ヒロ兄は、そんな琴音の頭に手を置きながら微笑んだ。
「今まで、どこに行ってたの……私、ずっと待ってたんだよ……!そのために、そのためだけにビーダマンをやってきて、ヒロ兄ともう一度ビーダマンがしたくて……!」
 泣きじゃくりながら、琴音は言葉を並べる。
 気持ちが高ぶっていてうまく言いたいことがまとまらない。
「すまない。クラブを辞めたあと、俺はより強くなるために修行をしていたんだ。それが忙しくてなかなか顔を出せなかった」
「そうだったんだ……。でも、よかった。また会えて、本当によかった……!」
 琴音は再会の喜びをしっかりと噛みしめた。
 と、今はそれどころではない事を思い出す。
「そうだ!ヒロ兄、大丈夫!?ここに、変なビーダーはいなかった?」
「変なビーダー?」
「うん。源氏派って言って、他のビーダーのビーダマンを壊したり、奪ったりしている集団なの。ヒロ兄も気を付けて!」
「あぁ、そうか。それなら心配いらないよ」
 忠告する琴音に対し、ヒロ兄は頼もしくうなずいた。
「あ、そっか。そうだよね」
 ヒロ兄は強い。だから、琴音が手を出すまでもなくそんなビーダーは追い払ったのだろう。
 琴音はそう思っていた。
 しかし……。
「多分、琴音が言ったその変なビーダーってのは」
「え?」
 ヒロ兄は、琴音の想像とは全く違う事を口にした。
「俺の事だから」
「……」
 一瞬、頭の中が真っ白になった。
「なに、言ってるの?ヒロ兄……」
 信じられない、と言う表情で聞き返す琴音。
 否定してほしかった。
 前言撤回してほしかった。
 しかし、ヒロ兄は淡々と続ける。
「なにって、言った通りさ。見て気づかないか?これだけビーダマンの残骸があるのに、俺のビーダマンだけ無傷だ」
 ヒロ兄は、無傷の黒いビーダマンを琴音に見せた。
 そして、その黒いビーダマンに琴音は見覚えがあった。
「それって……」
「あぁ、トゥループワイアーム。源氏派ビーダーに支給される量産型ビーダマンだ」
「じゃ、じゃあ……!」
「俺は、源氏派ビーダーだ。そして、この公園にいたビーダーのビーダマンを全て壊したのも、俺だ」
「そ、な……冗談、だよね……?ヒロ兄が、ビーダマンを壊すなんて、そんな事……」
「別に、壊したくて壊したわけじゃないが。ただ、それが組織のご希望だからな。俺はあの組織の力で強くなるために、それに従うだけだ」
「……」
 よろよろと琴音は後ずさった。
 信じられない。
 信じたくない。
 やさしかったヒロ兄の口から、そんな言葉が出るなんて……。
「ん、どうした?」
「……」
 だけど、相手が源氏派ビーダーなら、戦うしかない。
 琴音は、無言でビーダマンを構えた。
「なんだ、俺とやろうってのか?」
「例え、ヒロ兄でも、ビーダマンを壊すような人は見逃せない」
 琴音は、震えながら銃口をヒロ兄に向けた。
「あっはっはっは!!」
 ヒロ兄はそんな琴音を見ながら大笑いした。
「お前、本気か?誰がビーダマンを教えてやったと思ってる」
「ヒロ兄が強いのは分かってる。でも、それでも……!」
「あぁ、ビーダマンを壊すのは許せないってんだろ。全く相変わらず甘ちゃんだなぁ。だからあのクラブにはいたくなかったんだ」
 そう言って、ヒロ兄もビーダマンを構えた。
 琴音は、ビーダマンを持っている手の逆の手でシャドウボムを取り出してトゥループワイアームを登録する。
 足元に来たボムを見たヒロ兄は、すぐに理解する。
「なるほど、これがお前にとってのターゲットってわけか」
「ビーダマンは、狙えないから」
「はっはっは、いいぜ。そのバトル乗ってやる。俺にとってのターゲットはお前のグルムだ」
「……」
 琴音は頷いた。
 そして、静かにバトルが始まる。
 二人は同時に距離を取り、照準を合わせる。
「いっけぇぇ!!」
 ズドドドド!!!!
 と、グルムで連射をする。
「ふんっ!」
 が、ヒロ兄は簡単にその連射を食い止めた。ヒロ兄が使っているトゥループワイアームにはワンサイドグリップが装備されている。
「と、止められた……!あんな量産型ビーダマンに……!」
「確かにビーダマンの性能では劣るがな、所詮お前のグルムは俺が使っていたヴェルディルを元に開発した劣化版。性能は手に取るように分かるぜ」
「っ!」
 それでも、負けじと連射するのだが、ことごとく防がれてしまう。
「無駄なんだよ!!」
 ドギュンッ!!
 ヒロ兄のパワーショットが琴音を襲う。
「きゃっ!!」
 グルムにヒット。
 琴音がひるんだすきに、ヒロ兄は連射をぶちかます。
 バキィ!!
 連射をモロに受けて、琴音は吹っ飛んでしまった。
「きゃあああああ!!!」
 ドサッ!と尻餅をつく。
「うぅ……!」
 よろよろと立ち上がり、戦闘態勢を取る。
「まだやる気か。少しはやるようになったな」
「ま、負けられない……ヒロ兄だからこそ、負けられない!あたしが勝って、ヒロ兄の目を覚まさせる!!」
 ドギュッ!!
 混信の力で連射する。
「目ならとっくに覚めてるさ」
 バキィ!!
 あっさりと食い止める。
「いや、これが本当の俺だ。お前はそれを知らなかっただけだ。勝手な理想を押し付けるな!」
 ドギュッ!!ドギュッ!!!
 高威力の連射が襲い掛かる。
「くっ!」
 なんとか回避する。
「やるな」
「はぁ……はぁ……!」
 余裕の表情のヒロ兄に対し、琴音はかなり息切れしている。
「さて、そろそろ終わりにするか」
「っ!」
 ヒロ兄は、片手撃ちから両手撃ちに切り替えて、ホールドパーツをシメつけた。
「はああああああ!!!」
 ドギュウウウウウ!!!
 ヒロ兄のパワーショットが琴音に迫る。
「あ、う……!」
 その迫力に、琴音は対応できなかった。
 バキィィ!!
 モロにグルムにヒットしてしまい、琴音の手からフッ飛んでしまう。
 地面に落ちたグルムは、ひどく破損してしまった。
「あの頃よりは強くはなったが、その程度か」
 ヒロ兄は冷たくそう言うとトゥループワイアームをしまって、公園の出口へと歩き出した。
 そして、琴音とすれ違いざまに耳元でささやいた。
「あのクラブじゃ、お前の才能は潰れるぞ」
「っ!」
 それだけ言うと、ヒロ兄は去って行った。
「……」
 琴音は膝をついて、グルムを両手で掬い上げた。
 そのままの体制で、呆然とする。
「あ、ことねぇ~!!」
 そこに、シュウが大声で呼びかけながら駆けてきた。
「こんな所にいたのか。遅かったから心配したんだぜ」
 事情の知らないシュウが、いつもの調子で琴音に話しかける。
 が、琴音は反応しない。
「ことねぇ?」
 さすがに様子がおかしいと感じたシュウは、しゃがみこんで琴音の顔を覗き込んだ。
「う、くっ……!」
「??」
 琴音から、嗚咽が漏れる。
「う、う、うぅ……うぁぁぁぁ……!」
 琴音の目から涙が零れ落ち、そのまま泣きじゃくり出した。
「う、え、えぇ!?ど、どうしたんだよぉぉ!?」
 いきなり目の前で泣かれてしまい、シュウは戸惑うしかなかった。
 
 それから、なんとか琴音をなだめたシュウは、一緒に仲良しファイトクラブの練習場に帰ってきた。
「ただいま」
 二人は、静かに扉を開けて中に入る。
「あ、シュウ君、琴音ちゃんは見つかったの?」
「う、うん」
 シュウの隣には琴音がうつむきがちに立っている。
「遅かったな、琴音」
「心配したんだよ」
 口々に言うタケルと彩音だが、琴音の反応は鈍い。
「何か、あったのか?」
 タケルが、シュウに尋ねる。
「ん、ちょっと……って、俺もまだ何も聞いてないんだけどさ」
 結局、シュウと会ってから琴音は何もしゃべっていない。
「にぃに、あったの……」
 と、琴音が虚ろな目でボソッとつぶやいた。
「え、なに?」
 彩音が聞き返す。
「ヒロ兄、に、会った……」
 その言葉を聞いて、彩音とタケルが驚いた。
「え、ヒロト君に?!」
「ヒロトさんが、帰ってきたのか!?」
 掴みかかる勢いで迫るタケルと彩音に、琴音は少したじろいだ。
「あ、ごめん……」
 あまり口を開きたくなさげな琴音に、彩音は謝った。
「なぁなぁ、そのヒロトって誰だよ?」
 シュウは馴染みの無い名前について聞いた。
「ほら、前に言っただろ?『ライトニングヴェルディル』の使い手だよ」
「あぁ!」
 そう言えば聞いた事があるかもしれない。
「しかし、だったらなんでクラブに顔を出さないんだ?ヒロトさんは、何か言ってたか?」
「……」
 琴音は口を開く代わりに、傷ついたグルムを見せた。
「これは……!」
「酷い……!」
「源氏派ビーダーにやられたのか!?」
 琴音は、うつむいて、そして重々しく口を開いた。
「ヒロ兄に……」
「ヒロト君が!?」
「ヒロトさんが、なんでこんな事するんだよ!?」
 タケルも彩音も、琴音の発言に驚愕した。
 そんなつもりはないのだが、つい荒い口調で琴音を問い詰めてしまう。
「ヒロ兄は……源氏派ビーダーだった……公園で、子供たちのビーダマンを壊してたの……」
 琴音は嗚咽を堪えながら言葉を続ける。
「ヒロ兄は、前のヒロ兄じゃなかった……あたしは……!」
 結局、嗚咽に耐え切れなくなり、言葉が途切れる。
「わ、悪かった、なんか問い詰めたみたいで。とにかく、奥の休憩室で落ち着こう」
「琴音ちゃん、グルムを貸して。後でちゃんと修理するから」
「ん……」
 小さくうなずいて琴音はグルムを彩音に渡す。
 そして一同は休憩室へ向かった。
 休憩室。
 適当に飲み物を用意して、四人が座っている。
「落ち着いたか?」
 一口お茶を飲み、タケルが琴音に声をかけた。
「うん……」
 まだ元気はないものの、とりあえずはいつもの琴音の声音に戻った。
「あのさ、ヒロトってさ、どんな奴だったんだ?ビーダマン壊すような酷い奴なのか?」
「そんな事ないっ!」
 突如琴音が叫ぶ。シュウは地雷を踏んでしまったようだ。
「あ、ごめん、俺そんなつもりじゃなくて……!」
 シュウは慌てて謝ると、琴音も思わず怒鳴ってしまった事にハッとなった。
「あたしも、怒鳴ってごめん。ヒロ兄は、あたしにビーダマンを教えてくれた。お兄ちゃんみたいな人なの」
 
 そう言って、琴音は昔の話を語り出した。
 5年ほど前。
 仲良しファイトクラブは、ゆうじがリーダーとして盛り上がっていた。
 ワイワイと皆が仲良くビーダマンの練習をしている。
「……」
 その中で、まだ幼い琴音は隅で座り、さみしそうにしていた。
 ビーダーとしての才能がある兄のゆうじ。
 メカニックとしての才能がある姉の彩音。
 ビーダーでも、メカニックでもない琴音は家にいても、クラブに来ても、一人ぼっちだった。
 むろん、ゆうじも彩音も琴音の事は嫌いではない、むしろ大事な兄弟だ。
 だが、ビーダマンとのかかわりの少ない琴音に構う事が出来る時間は少なくなっていた。
 琴音は、そのことを寂しく思っていた。
 大好きな兄や姉が、ビーダマンに奪われてしまう。
 そんな気さえしていた。
 それでも、兄や姉は大好きだから、今日も寂しくてもクラブに遊びに来ていた。
「君、いつも来てるよね?ビーダマンはやらないの?」
 そんな琴音に、一人の男の子が話かけてきた。
 年は彩音と同じくらいだろうか、優しそうな顔をする人だった。
「あたし、ビーダマン持ってないから……」
「そっか。じゃあ貸してあげるよ!皆でやろう!!」
 男の子は、笑顔で言う。しかし……。
「で、でも……」
 部外者である自分が、あんな、大勢で仲良く楽しそうにしている人たちの中に割って入るのは気が引けた。
 少し人見知りであるがゆえに、和気あいあいとした中に入っていくのには勇気がいるのだ。
「う~ん、じゃぁ、外でやろうか?」
「え?」
「こんなところに閉じこもってるより、外でやった方が絶対楽しいよ」
「だけど、お兄さんの練習は良いの?」
「ちょっとくらい良いさ。それに、『皆で仲良く強くなる』のがこのクラブのポリシーなんだろ。だったら君とも仲良くなりたいからね」
 そう言って、男の子は不器用にウィンクしてみせた。
「……う、うん!」
 その提案に、琴音は頷いた。
「よし、決まりだ!俺、ヒロト!君は?」
「琴音」
「じゃあ、琴音!早速行こう!」
 言って、琴音の手を取って、二人は外へ飛び出した。
 ……。
 ………。
 回想シーン終了。
「ヒロ兄とのビーダマンは楽しかったな。クラブがちょっと苦手だった私のために、毎日外に連れ出してくれて、ビーダマンを教えてくれた」
「……そっか、それでことねぇはクラブで練習するよりも外で練習する方が好きなのか」
 シュウは、第5話で琴音に対して抱いた疑問に納得した。
「しっかし、琴音にそんな事があったなんてなぁ」
 タケルが言う。
「って、タケル、知らなかったのか!?」
 昔からのチームメイトなのに。
「いや、いくら付き合い長くても何もかも知ってるわけじゃないぞ」
「まぁ、そりゃそうだけど」
「私も、それは初めて知ったな……。そっか、それで琴音ちゃん、あの時私に『ヴェルディルみたいなビーダマンが欲しい』って強請ってきたのね」
 スパークグルムは、ライトニングヴェルディルを扱うヒロトに憧れて製作してもらったビーダマンなのだ。
 だから機能が似ていたのだ。
「でもさ、そんな人がなんでクラブ辞めたんだ?」
「……あれは、俺達にも責任はあったな」
 今度はタケルが語り出した。
 
 それは、四年前、ゆうじが世界大会決勝で死去した後だった。
 クラブは、悲しみに包まれていた。
 誇り高きリーダーだったゆうじの死はクラブにとって多大な影響をもたらしたのだ。
 前のような活気はなくなり、誰もビーダマンの練習をしようとはしない。
 ただ、悲しみを口にするだけの日々が続いた。
 しかし、その中で一人ヒロトだけは違っていた。
 ヒロトだけは前のように明るいままで、ビーダマンの練習をつづけていた。
 ほかのメンバーにもビーダマンをさせようと、元気づけようとしていた。
 だが、その行動は裏目に出る。
 ロクに悲しみもせずに、のうのうとビーダマンを続けているヒロトを、メンバーは疎んだ。
「こんな時に、よくそんなヘラヘラしてられるな?」
「お前はゆうじさんが死んだのに、悲しくないのか?」
 そんな風に罵倒される事も少なくなかった。
 その様子は、以前のような『仲良し』とはほど遠いものだった。
 メンバーの誰かがヒロトに食ってかかろうとするのを、タケルと彩音が必死に宥めるという事もあった。
 それでも、メンバーのヒロトへの不信感は募って行った。
 そして、酷い時は、ヒロトのライトニングヴェルディルを陰でこっそり破損させたりするような奴も出てきたのだ。
 そして、そんなある日……。
「ヒロト君、ライトニングヴェルディルの修理終わったよ」
 彩音が修理したばかりのヴェルディルを持ってクラブにやってきた。
 しかし、そこにヒロトの姿はない。
「あれ、ヒロト君は……?」
「あ、彩音さん!」
 タケルが、一枚の封筒を持って彩音の元に駆け寄る。
「タケル君。ヒロト君って今日お休みなのかな?」
「そ、それが……!」
 タケルは慌てた様子で彩音に封筒を見せた。
「え?!」
 そこには、『高橋ヒロト』の名で『退部届』と書かれてあった。
 ……。
 ………。
「ヒロトさんは決して間違った事は言ってなかった。けど、メンバーたちにとってはタイミングがわるかったんだよな。それだけゆうじさんの存在が偉大だった」
 もう少し長い間、皆で哀しみを同調し合って、充電したかったんだろう。
 それなのに、同調せずに前向きな正論だけを述べる奴が現れたら、それは爪弾きにされても仕方がない。
「それからは、酷いもんだったな……。
俺と彩音さんで必死にクラブを盛り立てようとはしたんだが、ゆうじさんもヒロトさんもいなくなったもんだから、クラブの力は激減。
メンバーもほとんど辞めちまって、クラブはどんどん廃れていった」
 タケルは自嘲気味にいった。
「それでも、あたしは信じてた。ビーダマンを続けていれば、いつかきっとヒロ兄は戻ってくるって」
「そうだな。それは俺も同じだ。続けていれば、いつかきっと昔みたいなクラブになる」
「なのに、こんな事になるなんて……!」
 ずっと待ち続けて、やっと再会できたのに。
 なのに、愛しのあの人は、まるで別人になってしまった。
 これじゃ、何のために今まで待ち続けてきたのか……!
「でもさ」
 ここで、シュウが口を開いた。
「ことねぇは、立ち向かったんだよな?源氏派ビーダーであるヒロトに」
「……うん」
 その結果が、破損したグルムだ。
「それは、ヒロトの意志を継いだって事だ。だったら、ことねぇの中に、まだ昔のヒロトはいる」
「……」
 その言葉は、以前シュウが彩音に言われた事と似ていた。
「だから、またビー魂をぶつけ合えば、きっと元のヒロトに戻ってくれるさ!」
「シュウ……」
「そうね。ヒロト君だって、ビーダーだもの。きっとまた私たちの所に戻ってきてくれるよ」
「お姉ちゃん……」
「くよくよしたってしょうがないもんな。とにかく今はグルムの修理が先だ!俺も、ヒロトさんに負けないように気合い入れないとな!」
「タケル……!」
「へへっ、面白れぇぜ!どんな事情でも、あのライトニングヴェルディルを使ってたやつと戦えるんだ!俺だって、その戦いには参加するぜ!」
 シュウがそう言うと、それまでの悲しげな雰囲気はフッ飛び、闘志が湧き上がってきた。
「あんたってほんと……ううん、なんでもない」
 琴音が何か言おうとして、やめた。
「な、なんだ?」
「何でもないって言ったでしょ。さぁ、お姉ちゃん!グルムの修理、お願いね!」
 すっかりいつもの調子に戻った琴音は、立ち上がって彩音を促す。
「うん、任せて」
 彩音も立ち上がって二人は部屋から出て行こうとする。
「え、ちょ、待てよ~!言いかけてやめられると気になるだろぉぉぉ!!」
 シュウは慌てて二人の後を追いかけた。

        つづく

 次回予告

「グルムの修理も完了!琴音はヒロトへのリベンジに燃えた。
そして、バトル!なんとヒロトは、琴音にとんでもない事を言ってきた……!
 次回!『甘美なる誘い 裏切りのプレリュード』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」

 

 



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