オリジナルビーダマン物語 第36話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第36話「潜入!源氏タワー」



 とある日の放課後の仲良しファイトクラブ。
「いっけぇ!バスターブレイグ!!」
 シュウとタケルが、いつものように練習していた。
「ひゃっほう!やっぱあやねぇにメンテしてもらったばかりのブレイグは最高だぜ!!」
「ああ。さすが彩音さんだ。良い腕してる」
 タケルもシュウも、彩音に修理してもらったビーダマンに満足しているようだ。
「あ~、それにしてもあやねぇもことねぇも遅いなぁ。いつもだったらとっくに来てる時間なのに」
「そうだな。まぁ、元々あの二人はサボり常習犯だったわけだが」
「今は源氏派の事もあるし、ちゃんとクラブにこねぇと行動出来ないのに」
 シュウがぼやいていると、練習場の扉が勢いよく開いた。
「シュウ君!タケル君!いる!?」
 入ってきたのは、彩音だった。切羽詰まったように息を切らしている。
「ど、どうしたんだよあやねぇ!?」
「何か、あったか?」
 シュウとタケルが駆け寄る。
「こと、ことね、琴音、ちゃんがっ……!」
 相当慌てているようで、なかなか言葉が出てこない。
「落ち着いて!深呼吸してから、ゆっくり話してくれ」
 タケルがそう促すと、彩音は軽く深呼吸してからゆっくり語りだした。
「琴音ちゃんが、家出したの……」
「「え、えぇええええ?!」」
 シュウとタケルは驚愕した。
「い、家出ってどういう事だよ!?」
「何か、置手紙とかはあるのか?!」
「うん……」
 彩音は懐から小さなメモ用紙を取り出した。
「今日、学校から帰ったら部屋にこんなものが」
 そこにはたった一言『ごめんなさい。さようなら 琴音』とだけ書かれていた。
「それ、本当に琴音が書いたのか?」
「私の部屋に手紙を置ける人間なんて限られてるし、筆跡は間違いなく琴音ちゃんのだから、琴音ちゃんが書いたもので間違いないと思う」
「警察には?」
 タケルが聞いた。
「あとで失踪届出そうとは思うんだけど……手がかりが何もないし、まともに取り扱ってくれるかどうか……」
 確かに、この段階で警察が動いてくれるとは思えない。
 そもそも、警察は事件が起きて初めて動くものだ。事が起こってからでは遅いと言うのに、事が起こってからでしか動かない。
 本当に使えない存在なのである。当てには出来ない。
「お父さんやお母さんに相談しようにも、今二人とも仕事で海外に3ヶ月間の出張に行ってるし……」
「おいそれと連絡出来る距離じゃないな……。それに、置手紙を残してるって事は、琴音の身に危険があっていなくなったわけじゃない」
 あくまで琴音の意志でいなくなったという事だから、そこだけはとりあえず安心できるだろう。
「ことねぇ、もしかして高橋ヒロトの事で何かあったのかな……」
 シュウは先日の事を思い出しながら呟いた。
「彩音さん、昨日までで琴音に何か変わった様子は?」
「それが……」
 彩音は昨日の工房で琴音と遭遇した事を話した。
「勝手に工房に入って、一体何をしてたんだ?」
「後で棚を見てみたら、保管してたビーダマンが一体なくなっていたの」
「何がなくなってたんだ?」
 
 彩音は、少しためらいがちに口を開いた。
「ライトニング、ヴェルディル……」
 その機体の名前を聞き、二人はハッとした。
「そ、それって昔高橋ヒロトが使ってたビーダマンだよな」
「これは、ヒロトさんの件で何かあったとみて間違いないな」
 ライトニングヴェルディルが琴音の手によって盗まれた。
 そして、琴音は高橋ヒロトと接触している。
 もう間違いないだろう。
「まさか、ことねぇはヒロトの奴に脅されて……!」
「脅されて、だとまだ良いんだが」
 タケルが意味深に呟いた。
「え?」
 シュウにはその意味が分からなかった。
「……とにかく真意はどうあれ、ヒロトさんと一緒にいる可能性は高いな」
「よし、じゃあヒロトの居場所へ行こうぜ!なんか心当り無いのか!?」
 ヒロトと一緒にいる可能性が高い。
 ならば話は簡単だ。ヒロトの行きそうな場所に行けばいい。
「心当りって言ってもな……」
「私たちも、ヒロト君とはしばらく会ってないし」
「それに、今のヒロトさんは源氏派のビーダーだ。行く場所と言ったら、源氏派の本拠地だろうな。だが、それがどこにあるのかはサッパリだ」
 タケルも彩音も唸るばかりでそれ以上の意見が出てこない。
「なんだよ、頼りないなぁ……」
 シュウはため息をついた。
(行方不明か。あれ、これって前にも同じような事があったような……)
 シュウは、ヨーロッパ旅行でブレイグをなくした事を思い出した。
「あやねぇ!グルムには、アレ付いてないの!?」
「アレって?」
「アレだよアレ!前に、ブレイグ失くした特に使った奴!!」
 そこまで言われて、彩音もハッと思い出した。
「そっか!GPSね!」
「そうか!もし、琴音がグルムを持っているならそれで居場所も分かるって事だ!」
「ちょっと待ってて」
 彩音は奥に行って、パソコンを持って戻ってきた。
「今、検索するね」
 彩音のパソコンをタケルとシュウが覗き込む。
 しばらく彩音がキーボードを操作していると、モニターに地図が表示された。
「出た!ここは……赤羽橋駅ね」
「赤羽橋……そこに、敵の本拠地があるのか!?」
「分からない。けど、発信機はここで止まってる。特に動きは無いみたい」
 発信機の場所を示す青い点は、赤羽橋駅で動きを止めていた。
「とにかく、そこに行くしかないって事だろ!」
「そうだな。赤羽橋か、ここから一時間近くかかるな」
「そんなにかかんのかよ!?」
 シュウ達の最寄駅は、新宿から小田急で30分近くかかる駅なので、何度か乗り換えしなければならない。
「急ぐぞ。手遅れになる前に見つけ出すんだ!」
「ええ」
 
 そして、一時間後。
「着いた!」
 シュウ達は赤羽橋駅の改札を抜けた。
「彩音さん、GPSは?」
「それが……」
 ノートパソコンを見る彩音の表情は浮かない。
「ちょくちょくチェックはしてたんだけど、グルムの位置が全く動いていないの。それも、この駅構内から」
「駅構内?って事は、琴音はこの駅のどこかに居るって事か?」
「発信機が正確なら、そうなるんだけど……」
 でも、一時間以上もずっと駅内に滞在しているなんて、少し不自然だ。
 それがヒロトと一緒ならば猶更。
「もしかして、この駅構内のどこかに敵の本拠地があるのか!?」
 シュウは考えたのだが、どうも的を射てないように感じる。
「いくらなんでも公共の交通機関内に拠点を構えたりはしないだろ」
「そっかなぁ……」
「彩音さん、発信機をもっと細かく調べられないか?駅構内のどこにいるのか」
「ちょっと待って」
 彩音は地図を拡大した。モニターに駅構内の構造が細かく映し出される。
 そして、青い点の位置もハッキリしだした。
「これは……」
「分かったか?」
「発信機はあそこを示してる」
 彩音は前方に設置してある自動販売機を指さした。
「自動販売機じゃん。あそこにことねぇが入ってるの?」
「んなわけあるか。……いや、待てよ」
 タケルはある事を危惧して、駆け出した。
 そして、自動販売機を隈なくチェックする。
「こっちじゃないか。だったら」
 タケルの視線は自動販売機横のゴミ箱に向けられた。
「どうしたんだよ。タケル?」
 タケルの様子を見たシュウと彩音も駆け寄ってきた。
 タケルはその二人を気にせずゴミ箱の蓋を開けた。
「な、何やってんだ?」
 さすがにこれは不審者だ。
 しかし、タケルの表情はいたって真剣だった。
「……やっぱりな」
 タケルは、ゴミ箱に手を突っ込み、そこから小さな機器を取り出した。
「あ、それって……!」
「彩音さん、グルムに搭載した発信機ってコレだよな?」
「う、うん……」
 彩音は力なくうなずいた。
「くそっ、先手を取られたか!」
 タケルは悔しげに壁を殴った。
「俺達が発信機で居場所を突き止める前に、グルムの発信機に気付いて外しやがった……!」
「じゃ、じゃあまたふりだしって事かよ……!でも、もう手がかりが無いじゃねぇか!!」
「……」
 あきらめムードの二人だが、彩音は少し思案してから口を開いた。
「でも、琴音ちゃんがこの付近にいるのは間違いないかもしれない」
「なんでだよ?また別の駅に行ったかもしれないだろ」
「ううん、わざわざ赤羽橋の改札を抜けて乗り換える事なんてそうそうしないし。改札を抜けたんなら、目的地はこの駅の付近って事になるわ」
 確かに、赤羽橋は乗り換えをするような駅ではない。
 ここで改札を抜けた以上、別の駅に行くとは考えられない。
「だが、俺達を欺くためのフェイクだって可能性もあるぞ」
 タケルの言葉に、彩音はゆっくり頷いた。
「もし、発信機を捨てたのがヒロト君だとしたら、そうかもしれない」
「じゃああやねぇは、発信機を捨てたのは、ことねぇだって思うのか?」
「えぇ。もし、ヒロト君が発信機の事に気付いたら、捨てるよりも破壊すると思うの。フェイントするよりも、その方が手っ取り早いし」
「確かに」
「それに、グルムに発信機が付けられてるなんて、簡単に気づかれる事じゃない。きっと琴音ちゃんだって忘れてたんだと思う。
でも、この駅の改札を抜けたところで気付いてしまった。もし、このままグルムを敵の本拠地へ持って行って、発信機が付いている事がバレたらタダじゃすまない。
だから、ヒロト君に気付かれないように発信機を外して、このゴミ箱の中に捨てたんだんじゃないかな」
 彩音の言う事も一理ある。
 もし、琴音が仲良しファイトクラブを本気で裏切る気なら、源氏派の本拠地を仲良しファイトクラブに知らせるような真似は出来ないだろう。
「もちろん、タケル君の言うように私達を欺くためにワザとここに発信機を捨てた可能性もあるけど……」
「いや、もう他に手がかりはないんだ。彩音さんの考えで調査をしよう」
「おう!俺もあやねぇの意見に賛成だ!」
 タケルとシュウは頷いた。
「分かったわ。じゃあ、二人ともこれを」
 彩音は懐から写真を二枚取り出して渡した。
 その写真には琴音の全身像が映っていた。
「用意良いなぁ」
「聞き込みをするなら、琴音ちゃんの姿が分かった方が良いと思って」
「おっしゃ!それじゃあ三人で分かれて探そうぜ!」
 
 三人は駅から出て、三方向に分かれて調査を開始した。
 
 調査開始から数分後、早くもタケルに成果が出たようだ。
「本当ですか?!」
 タケルは芝公園でベンチで飼い犬と一緒に日向ぼっこをしている老人に話しかけていた
「そうじゃなぁ、その女の子は同い年くらいの男の子と一緒に東京都タワー跡の方に歩いて行ったぞ」
「東京都タワー跡……」
 タケルは、そびえ立つタワーの方を見た。
 元東京都タワー。その昔、日本の電波を送るための塔として建設されたものだ。
 しかし数年前、墨田区に『東京都スカイタワー』と言う新たな電波塔が建設されたため、今は廃墟となり、土地も売り物件となっていると聞いた事があるのだが……。
「あ、ありがとうございました!」
 とにかく、今は行ってみるしかない。
 タケルはおじいさんに一礼してシュウ達と合流する事にした。
 
 シュウ達と合流し、タケル達はタワー目指して歩いていた。
「本当にことねぇが東京都タワー跡に?」
「俺が聞いた話では」
「こっちは特に情報は手に入らなかったし、今はそれを信じるしかなさそうね」
 三人は廃墟と化したタワーの前に立った。
 タワーは使われなくなったとは言え、まだ年月がたっていないので老朽はしていない。
 それどころか、定期的にメンテナンスされているようで、普通にタワーとして機能していてもおかしくない外見をしていた。
「電波塔としての機能はなくなっても、取り壊されはしないんだな」
「タワーはそのまま保存して、不動産として売り出してるって話は聞いた事があるけど……」
 タワー敷地は、Aバリケードやパネルフェンスで囲われており、当然の如く『関係者以外立ち入り禁止』と書かれていた。
「とにかく入ろうぜ。えっと……」
 シュウは、並んでいるパネルフェンスから、扉付きの物を発見した。
「こいつだな」
 そして、そのカギの部分に向けてブレイグでビー玉を撃った。
 バシュッ!!
 ノブが破壊され、キィィィと扉が開く。
「よし!」
「むちゃくちゃするなよ……」
「中に入って、何もなかったらすぐ出ればいいだろ」
「そうだな。彩音さんは外で待っていてくれ。何かあったらケータイで連絡するから」
「うん。気を付けてね」
「ああ」
「おう!絶対にことねぇを連れて帰ってくるぜ!!」
 彩音に対してサムズアップし、シュウとタケルはゲートを潜ってタワーの中に入っていった。
 タワーの中は電燈は全くなく、外から入る光のみが辺りを照らしていた。
「暗いし、ガランとしてるなぁ……」
「人の気配がない。やはりただの廃墟か?」
「ちぇ、せっかく手がかりがつかめたと思ったのによ!」
 ガッ!
 シュウは少し乱暴に一歩を踏み出した。
 その時だった。
 ビー!ビー!とけたたましいサイレンが鳴り響いた。
「な、なんだぁ?!」
「セキュリティシステムか!?ただの廃墟にしては厳重すぎるぞ!」
 
 そして、奥からガタガタと大きな重い物が大量に向かってくるような音が聞こえてきた。
「な、なにか、くる……!」
 だんだん近づいてきて、その姿がハッキリする。
 それは、ドラゴンのような形をした自走式のメカだった。
「ガードロボットか!?」
 そのメカは、機体中央部の穴からビー玉を発射してきた。
「うわああ!!」
 シュウとタケルは間一髪でそれを避けた。
「くっ!ビー玉を発射するガードロボだと……!間違いなくビーダマンに関わる組織のセキュリティじゃないか!」
「間違いないぜ、タケル!ここは、源氏派のアジトだ!」
 『シンニュウシャハイジョスルハイジョスル』
 そんな電子音を響かせながら、ガードロボはなおも攻撃を続けた。
 
 
 時間は少し遡り、琴音がヒロトにタワーに連れられたばかりの頃。
 琴音とヒロトはエレベーターを使い、上へ上がっていた。
 そして、地上が模型のように見えるくらいの高さまで上がったところでエレベーターを降りた。
 
 降りた先は、研究機器やトレーニング機材のある無機質な場所で
 そこではたくさんのビーダーや研究員達がトレーニングや開発に勤しんでいた。
「ここは……」
「源氏派ビーダーの筋力トレーニング兼ビーダマンの開発室だ。
トレーニングルームと開発室を一緒にする事で、ビーダーの身体能力成長と同時進行でビーダマンの開発を行う事が出来る」
 二つの異なる目的を一緒の部屋に収めたのは、スペース的な問題ではなく、ちゃんとした意味があるようだ。
「皆、ちょっと良いか?」
 ヒロトが声をかけると、皆がこちらに集まってきた。
「なんや、どうしたんやヒロト?」
「その女の子誰だ?」
 みんなが口々に疑問を投げかけてくる。
「紹介する。俺達の新たな仲間、佐倉琴音だ」
「……」
 琴音は無言で軽く会釈をした。
「彼女には主に俺の補佐をしてもらおうと思っている。まぁ、よろしくしてやってくれ」
 ヒロトが軽く紹介を済ませようとした時、一人の少年が叫んだ。
「ちょっと待てよ!そいつって、俺達と対立してる仲良しファイトクラブって奴のメンバーじゃなかったか!?」
 その少年を皮切りに。
「あ、そういえば、見た事あるぞ!」
「俺の仲間もあいつらにやられた……!」
「そんな奴がなんで源氏派に来てんだよ!?」
 と、ざわめきだした。
「その程度で狼狽えるな!」
 ヒロトが一喝すると、水を割ったように喧騒が収まった。
「俺達はあくまで弱肉強食の中に生きる戦士のはずだ。強いものだけが生き、弱いものは食われる。
それは、俺達源氏派同士の中にいても同じ事だろう?」
 ヒロトがそう言うと、ほとんどの人間が黙りこくった。
 が、それでも納得できない人間が一人噛み付いた。
「だけど!今の我らは源氏派を世界の常識とする事が最優先のはず!
その目標を達成するまで、そんな危険分子を認めるわけにはいかない!!」
 その主張を聞いて、ヒロトは納得するように頷いた。
「それは確かに一理ある。だが、誠意を見せれば問題ないだろう?」
「……?」
「琴音。例の物を出せ」
「ん」
 ヒロトに言われて、琴音は小さく頷いて懐から二体のビーダマンを盗り出した。
「この子から、組織に献上したいものがあるそうだ」
「そ、そのビーダマン……!大した代物やないか!」
 ビーダマンの研究者としての側面もあるクウが真っ先に食いついた。
「こいつは、昔俺が世界大会で使っていたビーダマンだ。そしてもう一つはその兄弟機として開発されたもの。
仲良しファイトクラブに所属していた琴音だからこそ手に入ったものだ」
「それほどのものを……!」
 二つとも仲良しファイトクラブのものだ。
 これだけの戦力を組織に献上する。それだけでもう十分な誠意だろう。
「クウ、前に開発を依頼した機体があるな?」
「あぁ、あれか。せやけど、機体データが足りんであと一歩の所で完成出来んのや」
「この二つのビーダマンは、データとして不足か?」
 ヒロトに言われて、クウはハッとした。
「せやな……!ヒロトが前に使ってた機体とその兄弟機となれば、あの機体とコンセプトは同じなはずや……!サンプルとしてはこれ以上ないで!!」
「期待出来そうだな」
「もちろんや!すぐに開発に取り掛かる!待っとき、元々9割方出来てたんや、2時間もすれば完成するで!」
 それだけ言うと、クウは研究機器へ向かっていった。
 
「話はそれだけだ。悪かったな、時間を取らせた」
 ヒロトがそう言うと、他の皆はとりあえず琴音に申し分程度の挨拶をして各々のやる事に戻って行った。
「ヒロ兄ぃ……」
 琴音は少し不安そうにヒロトを見上げた。
 そんな琴音を見て、ヒロトはにこりと微笑む。
「心配するな。ここの連中は、馴れ合いこそしないがビーダーとして強くなるには十分な素材がそろっている。それに、他の奴らと馴れ合わずとも、俺がずっと傍にいる」
「うん……」
 琴音は安心したように呟いた。しかし、その瞳は思考停止したかのように色がなかった。
(ヒロ兄がいてくれるなら、あたしは大丈夫。ヒロ兄さえ、いてくれれば……)
 
 そして、しばらくした時だった。
 ビー!ビー!と、急にサイレンが鳴りひびいた。
「何事だっ!?」
「侵入者です!部外者がタワー内に侵入してきたようです!!至急ドラゴンビットを作動させ、侵入者の排除に向かわせます!」
 部屋の端にある大きなモニターに入り口の様子が映された。
 そこには、タケルとシュウの姿があった。
「タケル……シュウ……どうして……!」
「ほぅ、やはり来たか。どうやって嗅ぎつけたかは分からんが、遅かれ早かれこうなる事は予想できた。クウ、進行状況はどうだ?」
 ヒロトが開発中のクウに話しかけた。
「完成や。あとはテストショットのみ。ここからはビーダーの仕事や」
 クウは完成したばかりのビーダマンをヒロトと、そして琴音に渡した。
「ふっ、上出来だ」
「え、あたしにも……?」
 ヒロトだけでなく、自分もビーダマンを託されたことに面食らった。
「俺が開発を依頼したビーダマンは一体ではない。強くしてやると言っただろう」
「ヒロ兄……」
「さぁ行くぞ。奴らがここにたどり着くまでにこいつを自分の物にするんだ。大丈夫だ、琴音なら出来る」
 ヒロトにまっすぐ見つめながら言われると、本当にそんな気がしてくる。
「うん!」
 琴音は大きく頷いて一緒にテストルームへ入って行った。
 
 そして、一方のシュウとタケル達。
「うおおおお!!!ブレイグ!!!」
 バシュッ!バシュッ!!
 ブレイグとレックスのショットがどんどんドラゴンビットを破壊していく。
「数は多いが、大したことは無いな!このまま突っ切るぞ、シュウ!」
「おう!!」
 シュウとタケルはドラゴンビットの大群を突っ切って、階段を上っていく。
 ガンガンガンと階段を駆け上がっていく。
「さすがに階段じゃ、ドラゴンビットもついてこれないみたいだな!」
 
 しばらく登っていると、殺風景でだだっ広い空間にたどり着いた。
「はぁ……はぁ……」
「ずっと階段駆け上がるのって、疲れるな……」
「おう……まだ上があるみたいだ。少し休んでからまた昇るぞ」
「そうだな……」
 
 ザッ!
 へたり込んだシュウ達に足音が近づいてくるのが聞こえた。
「っ!」
 咄嗟に身構えるシュウ達。
 そして目の前に一人の小太りな少年が現れた。
「久しぶりでんなぁ、シュウはん。まさかこんなところで再会するとは思わなかったでぇ」
「お前、難波クウ……!」
 前に戦った事のある源氏派ビーダー、難波クウだった。
 難波クウはおやつのカ○ルをボリボリ食っている。
「シュウ、知ってるのか?」
「あぁ、あんなナリしてるけど、かなり強敵だ」
「なるほど、そう簡単には行かせてくれないみたいだな」
 シュウとタケルはビーダマンを構えた。
「まぁ丁度ええで。実戦テストしたかった所やしなぁ……」
 そう言って、クウは懐から三体のビーダマンを取り出した。
「そ、そのビーダマンは……!」
「ビーダマンを三体同時に使うのか!?」
 
「ワイのビーダマンは食欲も半端やないでぇ!」

     つづく

 次回予告

「俺達の前に立ちふさがる数々の源氏派ビーダー達!
くそっ、絶対に琴音を連れ戻すんだ!そこをどけぇ!!
苦戦しながらもなんとか突き進む俺達だが、ついに源氏派ビーダー最強の男が現れた!
 次回!『暗黒の龍王 コンフターティスドライグ』
熱き魂で、ビーファイトォ!!」

 

 




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