爆砕ショット!ビースピリッツ!!
第27話「ヒンメルの禁断」
ギリシャでブレイグを盗まれたシュウだが、なんとか取り戻すことが出来た。
そして、仲良しファイトクラブはドイツに赴いた。
一同、ドイツのさまざまな観光を堪能し一日を終える。
そして、次の日にドイツ最大の森、黒い森に向かった。
「っひゃ~、ここが黒い森かぁ」
生い茂る木々の中でシュウは感嘆した。
「あんまり黒くないよな」
どっちかと言うと緑だ。
「まぁ、比喩みたいなもんだからな」
「緑の森じゃ、普通すぎるでしょ」
「まぁな~」
琴音の言う事はごもっともだ。
「黒い森。ドイツ語でシュバルツヴァルト。総面積は約5180平方キロで、密集するモミの木からなってる巨大な森ね。
黒い森って由来もモミの木が密集して暗くなるからみたい」
「確かに、普通の森と比べれば暗くて、黒いかなぁ」
彩音の説明にシュウは納得した。
「はぁ、それにしても、ここでドイツ観光も最後かぁ」
「何よシュウ、不満そうね?」
「ん~、別に楽しかったけどさ。でもさ、ドイツって言ったらヒンメルの出身地じゃん」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
「なのにさ、昨日からベルリンとかブレーメンとかいろいろ行ってるのに、全然ヒンメルと遭遇しないのっておかしいよな!」
「いやいや……」
「普通、こういうの、出会うだろ?」
フィクションだったら、それがお約束だろうが……。
「ドイツどんだけ広いと思ってんだよ。そんな都合よく遭遇するわけないだろ」
「そうかもしんないけどさ。……ん?」
と、突如シュウの目つきが変わった。
「どした?トイレか?」
「ビーダマンの音だ!」
シュウは目を輝かせて走って行った。
「ちょ、待てよシュウ!」
慌ててタケルはそのあとを追った。
「あ~あ、また始まった」
「ふふっ、しょうがないね」
彩音と琴音も、呆れながらそのあとを追った。
シュウの向かった先には、別荘らしき建物があった。
そして、その中には、まるでジムのような訓練施設があり、その中で……ルドルフとヒンメルがビーダマンの特訓をしていた。
「はぁ、はぁ……」
「手が休んでおりますぞ、ヒンメル様!さぁ、次のターゲットです!!」
「ぐっ!」
いや、それは特訓と言うよりもしごきに近い。
ルドルフが鬼神のような顔つきで、ヒンメルに無理難題な特訓を強いている。
「はああああ!!!」
ドギュッ!ドギュッ!!
が、ヒンメルは天才的なテクニックでルドルフの用意した訓練をこなしていっている。
「お見事です、ヒンメル様。では、電気ショックは弱めにいたしましょう」
と、ルドルフが手元にあるスイッチを押す。
すると、ヒンメルの体に電流が流れ込んだ!
「があああああああああああ!!!!!」
激しい電撃に、ヒンメルが苦痛の悲鳴を上げる。
「ぐぅぅ……!」
電撃が終わり、ヒンメルがぐったりする。
「さぁ、次の練習です。立ち上がってください」
「……」
ヒンメルは無言のまま立ち上がり、ビーダマンを構えた。
「いきますよ」
バババ!!
ルドルフが、無数の自走型ターゲットを放つ。
「はあああああ!!!」
ヒンメルがそれをどんどん撃ち落としていく。
ドギュッ!ドギュッ!!
が、その自走型ターゲットから小さい球が発射され、ヒンメルの体を痛めつける。
「ぐぅぅ!!」
「ほらほら、早く仕留めなければ、やられてしまいますよ?」
「ぐっ!あああああ!!!」
ドギュッ!ドギュッ!!!
ヒンメルは、敵の攻撃を一身に受けつつもターゲットを撃破していく。
しかし……。
「あ、ぐ……!」
さすがに耐え切れず、ヒンメルはミハルデンを落としてしまった。
「失敗ですねぇ。では、電撃の威力は二倍にいたします」
「う、うぅ……」
ルドルフがスイッチを押す。
ババババババババ!!!!
ヒンメルの体に、強烈な電撃が走った。
「がああああああああああああああ!!!!!!!!」
苦痛に叫ぶヒンメルだが、ルドルフは表情一つ変えない。
そして……。
「う、ぐ……」
ドサッ!
ついに、ヒンメルは気を失って倒れてしまった。
「気絶、ですか。では、本日の訓練は終了ですね」
冷徹にそう言って、ヒンメルを抱えようと屈んだ。
と、その時。
「待て待て待てぇ!!」
シュウがドガッ!と扉をケッ飛ばして中に入ってきた。
「お、おいシュウまずいって!」
慌ててタケル達も続いた。
「あなた方は、確か日本での大会で……」
ルドルフは仲良しファイトクラブの事を覚えていたようだ。
しかし、シュウにとってはそんな事はどうでもよかった。
「おいお前、なんて事してるんだ!?」
「なんて事、と言いますと?」
「今ヒンメルにやってた事だ!!」
「あぁ。なんと言う事はない。ただのビーダマンの特訓ですが、何か?」
ルドルフはいけしゃあしゃあとそう答えた。
「んなっ!こんなのが特訓なわけがあるか!!」
「確かに、これはしごきにしても厳しすぎる。まるで拷問だ」
その点はタケルもシュウと同意見なようだ。
「あなたがたがどう思おうと、これがヒンメル様にとって最適な特訓なのです」
「そんなわけねぇ!ビーダマンってのは、楽しいものなんだ!楽しんで強くなるんだ!こんな、苦しいだけの特訓で強くなれるわけがねぇ!」
シュウのセリフに対し、ルドルフは顔色を変えた。そしてボソッとつぶやく。
「……楽しむことで強くなる、そんな事は承知の上ですよ」
そのつぶやきは、あまりに小さくてシュウの耳にはよく聞こえなかった。
「え?」
「とにかく、あなたがたには関係ない。そもそも、これは強くなるための訓練ではないですから」
「なっ、どういう意味だよ?」
「言ったはずです。あなたがたには関係ない。お引き取り願います」
ルドルフは毅然とした態度で出口を指さした。
「ふざけんな!こんなの見て納得できるかよ!ヒンメルは、もう俺とバトルしたビーダー仲間なんだ!だから、放っておけねぇ!!」
「……面倒くさい方だ。では、どうすれば納得していただけるのですか?私としても事を荒立てたくはないのですが、場合によってはそれなりの処置をとらせていただきますよ?」
ルドルフの目は本気だった。
それを見て琴音は怯んだ。
「ね、ねぇシュウ、ちょっとやばくない?」
「ここは、一旦引いて……」
「引けるか!確か、ルドルフって言ったっけ?俺と勝負しろ!!」
「勝負?」
ルドルフが意外そうな顔をした。
「ああ、ビーダマンでな!!俺が勝ったら、もう二度とこんな酷い特訓をするな!俺が負けたら、おとなしく帰ってやる」
一方的な条件だが、ルドルフはフッと笑った。
「本気ですか?私は、本業は執事ですが。元々はビーダーとしての腕を買われ、ヒンメル様のコーチとして雇われたのです。甘く見ない方が良いですよ?」
「なんだろうが関係ねぇ!ビーダーが納得する方法って言ったら、バトルしかないんだ!!」
それを聞いて、ルドルフの顔が少しだけ楽しげなものになった。
「良いでしょう。では、フィールドを用意しましょう」
言って、ルドルフはフィールドを準備した。
長方形のテーブルを挟んでシュウとルドルフが対峙する。
それぞれの陣地には、ターゲットピンが30本立てられている。
「ルールは簡単です。先に相手のターゲットピンを全て倒した方が勝ち」
「なるほど、分かりやすくていいや!」
「では、行きますよ」
「「ビー・ファイトォ!!」」
バトル開始だ。
「いっけぇ!バスターブレイグ!!」
ドギュッ!!
バスターブレイグのパワーショットが炸裂!
バーーーン!!
パワーショットで一気に5本もピンを弾き飛ばした。
「おっしゃ、見たか!!」
「なるほど、少しはやるようですね。ですがっ!」
ルドルフがビーダマンを構える。
それは、黒い天使のようなビーダマンだった。
「シュヴァリエル!!」
ドンッ!!
シュヴァリエルと呼ばれたビーダマンからパワーショットが放たれる。
「止めてやるぜ!!」
シュウがそのショットを防御しようと、ショットを放つ。
ガッ!!
シュウのパワーショットであっさりそのショットは防げた。
のだが。
シュンッ!!
弾かれたビー玉のすぐ後ろからビー玉が現れて突進してきた。
「なにっ!ビー玉の後ろにビー玉がっ!?」
シュウ達は驚愕した。
「なに、いつの間に連射してたの!?」
「ううん、あれはダブルバースト……!」
彩音が即判断する。
「ダブルバースト?」
「一回の発射で同時に二発のビー玉を撃つショット。連射としてもパワーとしても使える特殊な機能よ!」
バーーーン!!
ルドルフのショットがヒット。一気に2本のターゲットが弾かれる。
「で、でもパワーはこっちが上だ!!」
「ならば、これはどうですかな?」
ドドンッ!!
今度は、機体をズラしながら撃った。
二つのビー玉が軌道をズラしながら迫ってくる。
バーーーーン!!
軌道がずれたことで攻撃範囲の広くなったショットがヒットし、一気にターゲットが5本も吹き飛んだ。
「なにっ!?そんな事も出来るのかよ!」
相手の思わぬ機能にシュウは怯んだ。
「シュウ!驚いてる場合じゃない!撃ちまくれ!」
「お、おう!!」
タケルの言葉にシュウは我に返ってショットを放つ。
ドンっ!
シュウのパワーショット。相手のターゲットが5本吹っ飛ぶ。
「へんっ!ダブルバーストだかなんだか知らないが、パワーは互角なんだ!一気に気合いで攻めてやる!!」
ドンッ!!
再びパワーショットでターゲットをブッ飛ばす。
「どうだぁ!!」
しかし、ルドルフは余裕の表情だ。
「ふふ、パワーは互角……ですが、これはどうですか?」
そう言って、ルドルフはビーダマンを構え、ショットを放つ。
ドンッ!
「またダブルバーストか」
「それだけではありませんよ!!」
ドンッ!ドンッ!
ルドルフは、何発も何発もダブルバーストを放った。
「なにっ!?」
「ダブルバーストの連射だとぉ!!」
バーーーン!!
シュウのターゲットが何本もフッ飛ばされてしまう。
「くっ!」
「なによ、あの連射……!」
「そうか!あのビーダマン、機能はダブルバーストだけじゃない……!」
「え?」
「シュヴァリエルのコアはホールドパーツでビー玉を発射してない。トリガーのスプリングの反発で発射してるんだわ!
ホールドパーツの発射抵抗が無いから、素早い連射が可能になってるの!」
「マ、マジかよ……!」
「そこまで気づくとは、なかなかの分析力です。ですが、それも無駄な事」
ドドドドド!とルドルフの猛ラッシュが襲いかかる。
「うおおおおお!!!!」
ドンっ!!
シュウも負けじとパワーショットを放つ。
だが、このままでは負けてしまう。
ビュウウウウウウウ!!
その時、ブレイグの光の刃が小刻みに動き始めた。
「よし、来た!」
ブレイグが周りに風を纏いだしたのだ。
「いっけぇ!フェイタルストーム!!」
バゴオオオオオオオオオ!!
風を纏ったシュウの必殺ショットが炸裂。
バーーーーーーン!!
一気にターゲットをフッ飛ばす。
「ほぅ……!」
ルドルフが、一瞬嬉しそうな顔をした。
「そうだ、シュウにはこの技があった!奴のダブルバースト連射にも負けないはずだ!!」
「もういっちょ行くぜブレイグ!!」
「そうはいきませんよ!」
「「はあああああああああ!!!!!」」
ルドルフとシュウ。二人の全力ショットがせめぎ合った。
そして……。
カコーーーン!!
シュウの陣地のターゲット最後の一本が弾かれた。
「くっ!」
が、ルドルフの陣地にあるターゲットは残り1本残っている。
シュウは、僅差で負けてしまったのだ。
「私の勝ちですね」
「負けた……」
シュウは呆然とした。
「では、約束です。お引き取り願いましょう」
「だ、だけど……!」
なおも食い下がろうとするシュウの肩を、タケルが叩いた。
「シュウ、約束は約束だ。ここは引くぞ」
「で、でも、タケル……!」
「今は分が悪い。しつこくすると厄介なことになるぞ」
タケルはそう言ってルドルフに視線を移した。
ルドルフの目は鋭かった。
それを見たシュウはしぶしぶ頷いた。
「分かった……」
「では、失礼します。突然の訪問、お許しください」
タケルは丁寧に頭を下げた。
そして、一同踵を返す。
扉に向かう途中、シュウは一度振り返った。
「ビーダマンは、楽しむものなんだからな。絶対、絶対……!」
何か言いたげなところをグッと堪え、シュウは出て行った。
「……」
それを見送った後、ルドルフはどこか満足気な表情で手に持ったシュヴァリエルを見た。
「久しぶりに、良いバトルだった……」
無意識にそうつぶやいた。
「確かに、これではヒンメル様がああなってしまうのも、無理はないか……」
そして、表情が厳しくなる。
「二度と、あの少年とヒンメル様を戦わせるわけにはいかないな」
その表情には確かな決意が籠っていた。
その時だった。
シュンッ!!
どこからともなくビー玉が飛んできて、ルドルフのシュヴァリエルにヒットする。
「むっ!」
不意打ちに対応できず、ルドルフはシュヴァリエルをはじかれてしまった。
「シュヴァリエル!!」
弾き飛ばされたシュヴァリエルは、入り口に立っている少年の手の中に飛んで行った。
少年は、それを手に取ると、さも楽しそうに笑った。
「クックック、何か得られるんじゃないかとあいつらの後をつけてきたが、正解だったぜ。まさかこんなところでこんなお宝に出会えるなんてなぁ!」
その少年は……アラストールだった。
どうやら、あの一件の後ずっとシュウ達の後をつけてきたらしい。
「き、貴様は……!?」
「俺の名はアラストール。悪いがこのビーダマンはいただいていく。俺の目的のためにな」
「なんだと……!」
「ん?」
と、そこでアラストールは、気絶しているヒンメルを見て、目の色を変えた。
「こ、こいつ、まさか……ウラノス……!」
そして、表情を崩して大笑いしだした。
「くくく、あーっはっはっは!!まさかこんなところで出会えるとはなぁ!!」
「?」
「なるほど、散々ギリシャ中を探し回っても見つからないわけだ!まさかドイツにいたとは……!あの頃とは容姿がかなり変わっているが、間近で見ればまだ面影がある!」
そう言って、アラストールはシュヴァリエルの銃口をヒンメルに向けた。
「さぁ、復讐の時間だ」
その瞬間、ルドルフは手元のスイッチを押した。
すると、ビー!ビー!と別荘内に警報が鳴り響き、大勢のSPらしき男たちが現れ、アラストールを取り囲んだ。
「そこまでです」
「ちっ、ここは一旦引くか。このビーダマンでの試し撃ちもしたいしな」
言って、アラストールは踵を返して去ろうとする。
「ま、待て!」
慌ててSPたちアラストールを捕えようとするのだが、アラストールは身軽に翻してそれをかわす。
「あばよ、ウラノス・フテラ!次に会う時がお前の最期だ!!」
そう言って、SPたちを掻い潜って逃亡してしまった。
「逃がしたか……!」
ルドルフは悔しげにつぶやく。
“あばよ、ウラノス・フテラ!”
さっきの少年の言葉が思い出される。
「アラストール……まさか、奴は……!」
つづく
次回予告
「ヒンメルに出会えたは良いけど、なんか腑に落ちないっていうか、すっきりしないな
そんな気分のまま、俺達は最後の目的地、ノルウェーへやってきた!そこで、なんと驚くべきビーダーに遭遇してしまった!!どうして奴がこんなところに!?
次回!『ベルセルクの正体!』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」