爆砕ショット!ビースピリッツ!!
第16話「あやねぇを救え!ビーダーデカ登場」
ある日の仲良しファイトクラブ内。
シュウが一人で練習しているおり、それに彩音が付き合っている。
黙々とブレイグを撃ち、その結果を彩音がパソコンで分析しているのだ。
「ふぅ!い、ててて……」
何発か撃ち終わった後、シュウがブレイグを離し、手首を振る。
「そろそろ、休憩にしようか。疲れたでしょ?」
シュウの様子を見て彩音が提案する。
「ん、そうだな。ちょっと手が痺れてきた……」
練習台から離れ、彩音が座っているテーブル席に歩み寄る。
「う~、別にそんなに力使ってるわけじゃないのに、なんか手が痺れるんだよなぁ」
「ブレイグは発射の反動が強いからね。何度も撃ってたら骨に響くんだよ」
「なるほどなぁ」
シュウもテーブル席に座る。
「じゃあ、飲み物でも取ってくるね」
彩音が立ち上がる。
「俺、カピルス~!」
「はいはい」
彩音は軽く返事をして休憩室に向かった。
と、すれ違うようにタケルが現れた。
「う~ん、まだ揃ってると思ってたんだが、こりゃマズイな……」
何やらブツクサ言っている。
「あ、タケル。どこ行ってたんだ?」
「あぁ、ちょっと倉庫にな。予備パーツの在庫を確認してたんだが、どうもここ数日で数が激減しててな……」
「うっ……」
そういえば、必殺技の特訓でブレイグがよく消耗するようになったから、予備パーツバンバン使っていたんだった。
シュウが気まずそうに肩を竦めていると、彩音が戻ってきた。
「シュウ君、ごめんね~。カピルス切らしちゃってて……」
彩音が申し訳なさそうにやってくる。
「えぇ~」
「カピルスどころか、他の飲み物も殆ど残ってないの」
「そんなぁ~」
それを聞いて、タケルが深刻そうな顔をする。
「休憩室のドリンクも切らしてんのか。こりゃ買い足さないとダメだな」
「喉渇いた~……」
タケルは思案したのちに、シュウと彩音に命令した。
「よし、シュウ、彩音さん。お使い行ってきてくれ」
「へっ、なんで!?」
当然シュウは反発する。
「あったり前だろ!予備パーツといい、ドリンクといい、急に在庫が無くなった原因はお前にあるんだから!」
「うっ……」
「それに、在庫補充の経験もさせといた方がいいしな」
と、言うわけで、シュウと彩音はタケルに命じられるまま買い物に行く事になってしまった。
彩音に案内されて、ビーダマン専門のホームセンター。『ビーショップ』にやってきた。
店内は、ホームセンターのように広々としており、冷房が効いていた。
ホームセンターと違うのは、棚にあるものが全てビーダマンに関連するものか工業、工作に必要な用品ものばかりと言うところだ。
「へぇ、ここがビーショップかぁ」
「うん、ビーダマン本体やパーツ、競技用品だけじゃなくて、改造に必要な材料とか工具とかも一通り揃うんだよ」
「へぇぇ~」
タケルに言われたものを一通り購入して、シュウと彩音は外に出た。
店内からいきなり外に出ると日差しが眩しいものだ。
「うっ」
シュウは思わず手で日差しを遮った。その時だった。
バッ!!
見知らぬ男が後ろから突然シュウにぶつかってきて、シュウの持っていた買い物袋を奪ってしまった。
「うわぁ!!」
思わず倒れてしまうシュウ。前を見ると、ニット帽を被った人相の悪い男が走って逃げていくのが見える。
「大丈夫、シュウ君!?」
「あぁ、くっそ!引ったくりか!!待ちやがれ!!」
シュウはすぐに立ち上がって駆け出す。
ビーショップから出た道は人通りが少ない。なので走りやすい。
男はなかなかに足が速く、追いつけない。
「くっそー、アイツ無茶苦茶足速いなぁ!!」
男も、なかなか諦めないシュウに焦っていた。
「あ、あのガキ!しつけぇなぁ!!」
タッタッタ!!
「あの引ったくり野郎!こうなったら、ブレイグで……!」
シュウがブレイグを取り出す。すると、裏路地から声が聞こえた。
「ここは僕に任せて!!」
バッ!と一人の少年がシュウの前に現れる。
「な、なんだお前!?」
「いくぞ、サイレンヴォリス!!」
と、少年が出したのはまるで警官のようなパトカーのようなデザインのビーダマンだった。
「いっけぇぇ!!!」
ドンッ!!
サイレンヴォリスからパワーショットが放たれた。
「っ!速い!それに正確だ……!」
サイレンヴォリスのショットが引ったくりが手に持っていた袋の取っ手にヒットする。
「うわああ!!」
引ったくりはバランスを崩してコケてしまった。
「さぁ、御用だ!」
少年が、引ったくりにのしかかって、腕を捻り上げる。
「い、いででで!!」
「君、交番に行ってお巡りさんを呼んできて!」
「あ、あぁ!!」
引ったくり男は無事お巡りさんに引渡し、無事荷物も戻ってきた。
シュウと彩音と少年は、交番から帰路についていた。
「シュウ君、大丈夫だった?」
「あぁ、俺は大丈夫だ!荷物も戻ってきたし。全部お前のおかげだぜ」
と、隣を歩く少年に視線を移す。。
「本当に、ありがとうね」
彩音も少年にお礼を言った。
「いや、大した事はしてないさ。当然の事だよ」
少年は、謙遜する。
「そういや、名前聞いてなかったな。俺、シュウ!んで、こっちがあやねぇ!」
「よろしくね」
「僕は、佐津正義(さつまさよし)です。見ての通り、ビーダーをやってます」
正義は、サイレンヴォリスを取り出して、笑ってみせた。
「へへ、俺もビーダーなんだ!せっかくだからさ、ちょっと公園によってバトルしていかないか!?」
「え、あぁ、そうだね!僕も暇だったし、良いよ!」
「やったぁ!じゃあちょっと荷物をクラブに置いてくるから、先行ってて!」
「うん!」
そういって、正義は公園の方に向かい、シュウと彩音はクラブの方に向かった。
そんな三人の様子を、影から見ている人達がいた。
「シュウに、まさよし……か」
「あいつら……よくもウチのメンバーを……」
「シメちまおうぜ、兄貴」
「いや、待て。あいつらなかなかの腕前らしい。狙うなら……」
謎の人物達の視線が、シュウと一緒に歩く彩音に向く。
「なるほど、クックック……!」
「二手に分かれて、奴らの居場所を追跡だ」
「了解!」
そんな風に見られているとはつゆ知らず、シュウは荷物をクラブに置いて早速公園に赴いた。
公園には既に正義がいた。
「おっしゃあ!早速バトルしようぜ!!」
「うん。待ってる間にフィールドの準備はしておいたよ」
正義の言うとおり、ステージバトル用の台が既に設置されており、その中央に三角パックが置かれている。
「ルールは、バトルホッケーで良いかい?」
「オッケー!!」
早速二人は位置についた。
「「レディ、ビー・ファイトォ!!」」
合図と同時に二人とも激しくビーダマンを撃ちまくる。
カンッ!カンッ!カンッ!!
二つの方向から激しくショットを浴びて、三角パックが右往左往に揺れ動く。
「くっ、こいつつえぇ!!」
「なかなかやるな……!」
二人とも、互いの強さに驚いているようだ。
「でもっ!」
正義が、見事なコントロールと連射で三角パックを自在に操り、シュウを翻弄する。
「う、うわ!なんだ!?急に当たらなくなった!!」
焦るシュウだが、バトルのペースは正義が掴んでいる。
「よし、いける!サイレンヴォリス!!」
勝利を確信する正義。しかし、まだ勝負はついていない。
「いくぞ、ブレイグ!!」
バッ!
シュウが地面に向かってショットを放ち、飛び上がる。
「なに!?」
「いっけー!メテオールバスター!!!」
バーーーーン!!
メテオールバスターの一撃が炸裂!パックはあっと言う間に正義の陣地まで飛ばされてしまった。
「ま、負けた……なんてパワーショットだ」
「へへへ!いやぁ、でもお前も強かったぜ!負けるかと思った!!」
バトルが終了し、二人は互いの健闘を称えあった。
「そんだけ強いんだ、大会とかにも出るんだろ?公式戦で戦うのが楽しみだぜ!」
シュウの楽しげな言葉を正義はやんわり否定した。
「いや、僕は大会とかには出ないんだ」
「え、そなの?そんなに強いのに、勿体無い」
シュウにとって大会はビーダーとしての腕を競い、自分の力を試す最高の場だ。ビーダーとして、それに出ないと言うのは考えられないのだ。
すると、正義はゆっくりと語りだす。
「僕は、ビーダーとして頂点を目指すよりも、皆がビーダマンで安全に楽しく遊べるように平和を守りたいって思ってるんだ」
「平和を、守る……?」
正義の語った夢が、同じビーダーとしてイマイチピンと来なかったシュウは首をかしげた。
「うん。ビーダマン界の秩序を守り、そして公式イベントの警備保安を務める……オフィシャルの警察部署を志望しているんだ」
「へぇ~!なんかカッコいいな!ビーダーにもいろんな形があるって事か」
「あはは。今度の日曜日に試験があってね。それに合格すれば、晴れてオフィシャルの警察部署に所属出来るんだ」
「なるほど!頑張れよ正義!引ったくり犯を捕まえて俺の平和を守ってくれたお前なら、絶対になれるぜ!」
「ありがとう、シュウ君!」
二人は、ガシッと友情の握手をした。
そして、翌日。
シュウとタケルはいつものようにクラブで練習をしていた。
しかし、そこに彩音と琴音の姿が無い。
琴音はともかく、彩音はしばらくシュウの練習に付き合っていたので、クラブに来ないのはおかしい。
「今日は、彩音さんと一緒に練習しないのか?」
彩音がいない事を疑問に思ったタケルがシュウに質問する。
「そのつもりだったんだけど……なんで今日来てないんだろ?」
「シュウにも分からないか。まぁ、後でちょっと連絡してみるか」
琴音も彩音も元々あまりクラブに顔を出さないので、タケルは軽く考えていた。
ガチャンッ!!
いきなり、クラブの扉が乱暴に開かれた。
「タケル、シュウ!大変よ!!」
入ってきたのは琴音だった。
「どうしたんだよ、ことねぇ?」
琴音は息を切らして、ただならぬ様子だった。
「お、おおお、おね、お姉ちゃんが!!!」
混乱しているらしく、上手く呂律が回っていない。
「落ち着け!一体、彩音さんに何があったんだ?」
「こ、これを見て!」
琴音が慌て気味に、一枚の紙切れを二人に見せる。
「これは……!」
それは、脅迫状のような手紙だった。
荒っぽい字で脅迫文が書かれている。
『シュウとまさよし、お前らのダチのあやねぇとか言う女を預かった。
助けたければ二人だけで町外れの廃工場までビーダマンを持って来い。大人には言うなよ byバッドビーダーズ』
裏にはご丁寧に、ロープで縛られている彩音の写真が貼り付けられていた。
「あやねぇ!」
「バッドビーダーズって、ここらで有名な不良ビーダー集団よね?シュウ、知り合いなの?」
「知らねぇよ、そんな奴ら!……でも、まさよしも書いてあるって事は、まさか昨日の引ったくり野郎の仲間か!」
シュウとまさよしとあやねぇの三人に恨みを持つと言えば、それしか考えられない。
「くそっ!」
シュウは手紙を握り締めて駆け出そうとする。
「待てシュウ!どうするつもりだ!?」
「決まってんだろ!あやねぇを助けに行くんだ!!」
タケルがシュウの肩を掴む。
「バカヤロウ!どう考えてもこれは罠だ!!わざわざやられに行くようなもんだぞ!!」
「だからって、ほっとくわけにいかないだろ!」
「落ち着け!何か手があるはずだ」
「どんな手があるんだよ!?手紙には俺とまさよしの二人だけで来いって書いてあるんだ!誰かに頼ったりしたらあやねぇに何されるか分からない!行くしかないんだよ!!」
シュウがタケルを振り切って外へと駆け出していった。
「シュウ……」
「まさよしって、誰なんだろう?」
「さぁな。だが悔しいが、ここはシュウを信じるしかなさそうだ。もし、何かあったらすぐに警察に連絡するぞ」
「うん……」
町外れの廃工場の前。
「はぁ、はぁ……」
シュウは息を切らしながらその前に立った。
「ここか」
そんなシュウに遠くから呼びかける声が。
「シュウく~ん!」
正義が同じように走ってきたのだ。
「正義!」
「やっぱり、シュウ君にも脅迫状が?」
「ああ!多分、昨日の引ったくり野郎の仲間だぜ」
「だろうね。ここは、バッドビーダーズのアジトって噂も流れてるし。ちょっと厄介な連中に目をつけられちゃったね」
「とにかく、入ろうぜ!早くあやねぇを助けるんだ!」
二人はうなずいて、廃工場の中に入った。
廃工場は薄暗く、足元に資材やら工具やらがアトランダムに散らばっていて歩きづらかった。
周りには錆びたクレーンとかプレス機とかが設置されている。
「ボロボロだなぁ……」
「昔は、鉄骨を作る工場だったみたいだけど、会社が倒産してしばらく放置されてた工場なんだ」
「アジトにするにはもってこいの場所って事か」
奥まで進むと、いきなりライトが点灯した。
「うっ!」
見ると、いかにも不良っぽい少年達がニタニタ笑いながらシュウ達を待ち構えていた。
「クックック、逃げずによく来たな」
ボスっぽい少年が嫌らしい笑みを浮かべる。
「お前らかぁ!!あやねぇを誘拐したのは!!」
「約束どおり二人だけできたし、応援も頼んでいない!彼女は無事なんだろうね!!」
「あぁ、可愛いお嬢さんなら、ここにいるぜ」
ドンッ!と、奥にいた少年がロープで縛られた彩音の背中を蹴飛ばし、前に出す。
「きゃっ!」
つんのめったところを、更に髪を持って引っ張る。
「うぅぅ……」
「あぁ、やめろぉぉ!!やめろやめろ!!!」
彩音の苦しそうな顔を見て、シュウは激昂する。
「シュウ君……!」
「おら、囚われの姫様と王子様のご対面だぜぇ、ひゃっはっは!!」
「あ、あやねぇ……!」
「シュウ、君……!ごめんね、私のせいで……」
目に涙を浮かべながらも、自分が捕まった事を非に感じている彩音を見て、シュウは拳を握り締めた。
「くっそー!お前ら、なんて悪い奴なんだ!絶対許さねぇ!!」
シュウの怒声に対し、不良たちは逆ギレする。
「うるせぇ!許せないのはこっちの方だ!よくも俺達のメンバーをサツに突き出しやがったな!この野郎!!」
「おかげでこっちは前科持ちだ、コンチクショウ!!」
不良の癖に前科がつくのは嫌だったらしい。
「落ち着いて、シュウ君。彼らを刺激してはダメだ!……さぁ、約束どおり二人で来たぞ!早く彼女を解放するんだ!!」
シュウを宥めて、正義が交渉する。
「けっ、タダで返すってわけにはいかねぇなぁ!ここはビーダー同士、バトルするってのはどうだ?」
「バトル?」
「そう、ルールはこっちで決める」
そういって、不良たちは、ビーダマンバトル用の台を持ってくる。
その台は長方形で、端と端の真ん中に色違いのエリアがあった。
「ルールは、バトルシュート。先に相手のゴールエリアにビー玉を二発入れた方が勝ちだ」
「それに勝てば、彼女を帰してくれるんだな?」
「勝とうが負けようが、帰してやるよ。だが、お前らが負けた場合は……このプレス機にお前らのビーダマンを入れてもらうけどな!」
不良たちが古びたプレス機のスイッチを押す。
鈍い音を立てながらプレス機が作動した。どうやら、まだ使えるようだ。
「「なにっ!?」」
「へっへっへ、それからステージもちょっと改良させてもらうぜ」
そう言って、不良たちは台の上に乱雑に、資材やら工具やらを放り込んだ。
「どうだ!バッドビーダーズの特設フィールドだ!!これでもっとバトルが面白くなるぜ!!」
ステージの上は、乱雑に放り込まれた資材でメチャクチャになっていた。この上でまともにビー玉が撃てるのか……。
「一見乱雑に見える配置だけど。彼らはずっとこういう環境でバトルしていたんだ。資材が散らばる中でのバトルは彼らの方が圧倒的に有利なはず……!」
「くっそー、どこまで卑怯なんだ!!」
ダッ!とシュウが駆け出す。
「バトルするまでもねぇ!力尽くであやねぇを……!」
「ダメだ!!」
正義が殴りかかりそうになるシュウを羽交い絞めにする。
「な、なんで止めるんだよ!!お前だってあいつら許せないだろ!?
このままじゃあやねぇに何されるか分からねぇし、もしかしたら俺達のビーダマンだって危険なんだぞ!!それでも警察志望かよ!!」
「警察志望だからだよ!」
正義の真剣な表情に、シュウの動きが止まる。
「警察の目的は悪を倒す事じゃない。大切な人の安全を守る事だ。そして、真に憎むべきなのは悪人ではなく、犯罪そのものなんだ」
「……」
「今ここで君が飛び込めば、きっと彼らを倒して、彼女を助ける事が出来るだろう。でも、失敗しない保証は何処にもないし、絶対に無傷では助けられない!」
「あ……」
正義の言うとおり、シュウが無闇に飛び込めば、逆上した彼らがあやねぇを傷つけてしまうかもしれない。
例え最終的にアイツらをブチのめして、あやねぇを助け出せたとしても、それでは本当の解決とはいえない。
「無事に解決するためには、彼らの提示した条件をクリアするしかないんだ」
「……分かったよ」
正義の言葉を聞いて、シュウは奴らのバトルを受ける事を承諾した。
そして、バッドビーダーズの二人VS正義&シュウコンビがバトル位置についた。
「へっへっへ、そんじゃ始めるぜ!ビー・ファイトォ!!」
「いくぞ、ブレイグ!」
「サイレンヴォリス!!」
シュンッ!カキンッ!!
シュウと正義が同時にパワーショットを放つが、資材に阻まれて相手のエリアに届かない。
「くっ!」
「これじゃ、マトモに撃てねぇよ!!」
しかし、それは相手も同じ条件なはず。これでまともにバトルが出来るのか?
「ひゃっはっは!まともにビー玉飛ばす事もできねぇのかよ!!」
「トーシローが!」
ドンッ!ドンッ!!
バッドビーダーズの二人がショットする。その玉は資材や工具を反射しながら、上手くシュウ達のエリアに向かってくる。
「「なにぃ!?」」
「シュウ君、防御だ!」
「おう!」
ゴールエリアに入りそうになったビー玉を急いで弾く。手元付近なら、資材は無いので弾き返す事は可能だ。
「おらおら!ドンドン行くぜ!!」
今度は連射してきた!
しかもその連射の殆どが上手く反射して向かってくる。
「くそっ!なんであいつら……!」
「やっぱり、彼らはこういう乱雑なフィールドに慣れてるんだ!瞬時にどう反射させれば相手のエリアまで届くかを判断する事に長けている!」
「そういう事だぜぇ!おらぁ!!」
ドンッ!!
今度はパワーショットが飛んできた。
「しまったっ!」
正義が相手のショットを防御しそこなってしまった。
「はい、ゴール。あと一点で俺達の勝ちだぜ!」
「もう諦めて、大事なビーダマンにお別れしておいた方が良いんじゃないのぉ?」
「「「ひゃーっはっはっはっは!!」」
「あ、あいつら……好き勝手言いやがって!」
「でも、これで少しだけ活路が見えた」
「え?」
「行くぞ、サイレンヴォリス!!」
ドンッ!
サイレンヴォリスがショットを放つ。
「何度撃ったって無駄無駄!お前らが俺達のエリアまで飛ばすことは……なにぃ!?」
カンッ!カンッ!!
サイレンヴォリスのショットは資材や工具を上手くすり抜けて相手エリアへと飛んでいく。
「く、くそっ!」
バッドビーダーズは慌ててそのショットを防御する。
「ば、バカな!あいつ、このフィールドを見切ったって言うのか!?」
このフィールドはバッドビーダーズだからこそ見切れるフィールドだ。それを、正義が見切る事が出来るのだろうか
「僕一人の力じゃ、何日かけてもとても見切ることは出来ない。でも、君達のショットを見ていればその軌道を掴む事が出来る!」
そう、正義は相手のショットを利用して、フィールドの見切りを可能にしたのだ。
「な、なるほど……!」
シュウも納得する。
「けっ、だが、見切れたのはお前一人みたいだなぁ!こっちは二人!数の上ではまだこっちが有利だ!!」
まだ奴らが有利だという事に変わりは無い。
「く、くそ……!」
「そうでもないさ」
「え?」
「シュウ君、僕が撃った後に僕のショットの真後ろにパワーショットをぶち込むんだ!」
「え、なんで?」
「いいから!」
「わ、分かった!」
「もう一度頼むぞ、サイレンヴォリス!!」
ドンッ!!
サイレンヴォリスのショット。
「いっけー!!!」
バギュンッ!!
そのショットの背後からブレイグのショットが飛んでくる。
ガキンッ!!
ブレイグのショットがサイレンヴォリスのショットを後ろから弾き飛ばす。
「ひゃーーーっはっはっは!何やってんだあいつら、仲間のショットを弾き飛ばしやがった!」
「いっけー!!」
しかし、シュウの放ったパワーショットが正義のショットのように上手く反射しながら相手の陣地に飛んで行く。
「なにっ!?」
「僕のショットの真後ろを弾き飛ばすように撃てば、シュウ君も僕と同じ軌道でショットを放つ事が出来る!」
「ちぃ、防御だ!防御!!」
カンッ!カンッ!!
しかし、シュウのパワーは半端ではない。
防御の為に放たれたバッドビーダーズのビー玉を全て弾き飛ばし、ゴールエリアにビー玉がブチ込まれてしまった。
「なっ!」
「よし、これでイーブンだ!!」
「この戦術ならいけるぜ!先手必勝だ、もう一度やろう!!」
「もちろん!!」
対照的に焦りだすバッドビーダーズ。
「やべぇぜ、このままじゃやられっちまう……!」
「ちっ、こうなったら……!」
再びショットの構えを取るシュウ達。
「いっくぜぇ!」
「待ちな!!」
そこを、バッドビーダーズの声が止める。
「え?」
見ると、バッドビーダーズの一人が、彩音にウナギを押し付けていた。
「ほれほれ!ぬるぬるだぜぇ……!」
「うぅ……!」
うねうね動くウナギに対して彩音が必死に顔を背けようとしている。
「な、何やってんだ!?」
「けっけっけ、これ以上動くと、この子の服の中にウナギを入れるぜぇ……!」
「ひぃっ!
奴らの行動によって、シュウ達は動けなくなってしまった。
「くっ、卑怯な……!」
「今更だぜ!」
「食べ物を粗末にするなんて…!」
シュウの怒りどころは少しずれている。
「シュウ君!私の事はいいから!バトルに集中して!!」
「おらっ!お前は喋るんじゃねぇ!!」
彩音は更に顔にウナギを押し付けられてしまう。
「やめろぉ!……分かった、下手に動かない!だから……」
「ふざけるなよ……」
正義が奴らを宥めようとしている所で、シュウがボソッと呟いた。その声音は怒りで震えている。
「シュウ君……?」
「うおおおおおおおおおお!!!!!」
そして、渾身のパワーショットを資材に向かって放つ。
ドゴオオオオオオオン!!!
物凄い埃が立つ。
「な、なんだ、脅かしやがって……そんなパワーショット撃ったってなぁ!このフィールドは……!」
ビュウウウウウウウウウ!!!
すると、シュウの周りに風が取り巻き始めた。
ブレイグのヘッドも激しく動いている。
バッドビーダーズは動揺し始める。
「なに!?ビルの中なのに、風が……?!」
「今日ってそんなに風強い日だったっけ?」
彩音はその風が、あの時の風だと見抜いていた。
「あの風……今なら、あのショットが撃てる……!」
そしてシュウは、静かに闘志を燃やしながら、相手のゴールエリアを見据えてビーダマンを構えた。
「……行くぞ、ブレイグ」
「な、なんだよ!直接狙おうってのかよ!でもなぁ!資材に阻まれて、真っ直ぐは行かないぜ!!」
「関係ない」
「なにぃ!?」
そして、シュウは渾身の気合いを込めて叫んだ。
「フェイタル・ストォーーーム!!!」
ドバーーーーーン!!!!!
フェイタルストームと名付けられたその必殺ショットは風を纏いながら、資材や工具を弾き飛ばしながら真っ直ぐぶっ飛んでいく。
「んなっ、バカな!!」
ブオオオオオオオオオオ!!!!!
「ぼ、防御だ防御!!」
それを防ごうとするバッドビーダーズだが、シュウの普通のパワーショットすら防げなかった奴が、3,7倍の威力を誇るフェイタルストームを防げるわけが無い。
バーーーーーン!!!
シュウのショットは見事相手エリアにぶち込まれた。
シュウの放ったショットのあまりの凄さに、一同呆然とする。
「か、勝った……勝ったぜ!!」
ワンテンポ遅れて、勝利を確認したシュウが飛び上がる。
「うん!凄いショットだよ!僕らの勝ちだ!!」
「ま、まさか、俺達が負けるなんて……」
愕然とするバッドビーダーズだが、すぐに顔を上げて
「お前ら、引き上げるぞ」
「え、リーダー?」
「約束は、約束だ。……ちっ、今夜の夕飯はウナギの蒲焼だな」
その言葉は、ウナギを彩音の服の中に入れない事を意味していた。
リーダーがトボトボと歩いていくと、他のメンバーもそれについていった。
「あやねぇ!大丈夫か!?」
シュウが急いで彩音の下に駆けて行き、ロープを解く。
「うん、大丈夫よ。ありがとう、シュウ君!」
「よかったぁ……!」
ホッと一安心したところで正義もやってくる。
「やったね、シュウ君」
「あぁ!正義のおかげだぜ!!」
「……いや、僕もまだまだだよ」
正義が小さく笑いながら言う。
「へっ?」
「正義(せいぎ)を守るためには、秩序を守る心だけじゃなく、それを超えた勇気を出す事も必要なんだ。確かに、君のやり方は警察には向かない。
でも時にはその方が誰かを守る事が出来るんだ」
「正義(まさよし)……」
「僕もまた、勉強のし直しだな!」
そう言って笑う正義の顔は、晴れやかだった。
「あ、そういえばシュウ君!さっきのショット!」
と、彩音が何かを思い出したかのように言う。
「へっ?」
「ビー玉が風を纏っていた……出来たんだよ!あのショットが!!」
「そっか……あれが、そうなんだよな……!やった!やったぞ!出来たぞ!!」
「??」
シュウが何故喜んでいるのか、正義にはちょっと分からなかった。
「それで、どうして出来たのか、分かる?」
「え……」
特に意識してなかったので分からない。
「い、いやぁ、あの時は無我夢中でさ、全然意識してなかった」
後頭部を掻きながら、照れ隠しに笑うシュウ。
「や、やっぱり」
「なははは」
その様子を見て、正義はなんとなく察したらしく、ちょっとからかいの声音で言った。
「なるほどね。愛する者を救うために、その力が覚醒したって事か」
「んなっ!」
「えっ!?」
正義のセリフに、二人の顔が赤くなった。
「ちょ、な、何言ってるのよ、正義君……!」
「そ、そうだぜ!俺は別に、ただ、えっと、ただ、えっと、とにかく、そんなんじゃねぇから!そういうこっぱずかしい事とか関係ねぇから!!」
慌てる二人を見て、正義はさも可笑しそうに腹抱えて笑い出した。
「あはははは!!冗談だよ冗談!」
「こ、この野郎!!」
シュウが正義に掴みかかる……のを寸でかわして、正義は逃げ出した。
「ははは!ゴメンゴメン!」
言って駆け出す。
「ま、待ちやがれ~!!」
シュウはその後を追いかける。
「こんなとこで走ったら転ぶよ~!!」
彩音の注意なんか聞こえてないのか、二人の追いかけっこはしばらく続いた。
つづく
次回予告
「いよいよ、ビーダマン全国大会の関東予選が始まるらしい!開催は一週間後。おっしゃぁ、今度も優勝してやるぜ!!
なんでもその大会は、個人部門と団体部門に分かれていて、二日間かけてやるらしい。
あ、そうだ!実戦でフェイタルストームを出せるようになるためにも、俺は両方参加するぜ!
次回!『関東予選!シュウの決断』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」