オリジナルビーダマン物語 第15話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!



第15話「秘められし能力」




 ヒンメルカップで優勝した仲良しファイトクラブは、念願だったヒンメルとの再戦にこぎつける事が出来た。
 しかし、そのバトルはヒンメルの暴走で中断と言う、納得の行かない形で幕を閉じてしまった。
 だが、収穫がなかったわけではない。
 シュウは、あの『無傷の大天使』と謳われたヒンメルに一矢を報いることが出来たのだ。
 ヒンメルカップ翌日の爆球小学校。
「なぁなぁ竜崎、テレビ中継で見たぜ!凄かったな、昨日のヒンメルカップ!」
「まさか優勝するとは思わなかったよ」
 登校するなり、田村と吉川に話しかけられた。
「あ、テレビ中継してたんだ?知らなかった……」
 まさか放映されるとは思っていなかったので、二人がヒンメルカップの内容を話題にしたのには驚いた。
「そりゃするさ。あれだけ大きな大会なんだから」
「でも、竜崎があの仲良しファイトクラブで頑張ってるってのは本当だったんだなぁ。大会で戦ってるところを見て初めて実感が沸いたよ」
「まぁな。伊達に打倒ヒンメルを目標にしてるわけじゃないんだぜ」
「確かに、本当にヒンメルと戦っちまうんだもんな」
「ああ、ヒンメルと……」
 しかし、肝心のヒンメルとの戦いは、すっきりしない形で終わっていた。
「最後は、なんかよく分からないアクシデントでいきなり番組が中断したんだけど、結局何があったんだ?」
 吉川が質問する。
「アクシデント……」
 どうやら、ヒンメルのあの暴走は放映されなかったらしい。まぁ、当然だ。とても放映できる内容ではなかったし、ヒンメルのイメージダウンにも繋がる。
 一般には『アクシデント』と言う形で伝わっているらしい。
「バトルの決着どうなったんだよ?」
「……」
 なんとなく言いづらい。
 シュウが口ごもっていると、クラス中の人間がシュウに詰め寄ってきた。
「おお、竜崎~!ちょっと昨日の事聞かせろよ~!」
「我らがヒーロー竜崎様のご登校だ!!」
「お前あんなにビーダマン強かったんだなぁ!知らなかったぜ!!」
 押し倒さんくらいの勢いで何人もの児童がシュウに押し寄せてくる。
「う、うわわ!なんだよお前ら~!!」
 倒されないように必死でその重量に耐えるシュウだが、奴らの勢いは留まる事を知らない。
「なぁなぁ~、どうやったらあんなに強くなれるんだよ?」
「俺達にもビーダマン教えてくれよ!」
「今度一緒にバトルしようぜ!!」
「俺のビーダマン見てくれよ!すごく大きいだろぉ!?」
 クラスの皆がシュウを尊敬しているようだ。羨望の眼差しがシュウを取り囲む。
(な、なんか凄い事になったなぁ……あ、そうだ)
 と、シュウはある事を思いついた。
「じゃあさ、せっかくだから皆『仲良しファイトクラブ』に入らないか?好評部員募集中だぜ!!」
 そう言った瞬間に、散々押し寄せてきた皆がサッと離れた。
「い、いやぁ、その別に俺達そこまで真剣にやろうってわけじゃないっていうか……」
「僕、塾通ってるから」
「うん、趣味程度で出来ればいいかなぁってさ」
 さっきまでシュウをヒーロー扱いしていたくせに、勧誘の話をすると離れていく。なんとも現金な奴らである。
「……」
 仲良しファイトクラブってそんなに評判悪いのかよ……と、シュウは疑念を抱かずにいられなかった。
 そして、放課後。
 シュウは、下校するなり仲良しファイトクラブに足を運んだ。
 クラブには、タケル達メンバーが全員集合していた。
「はぁ……ヒンメルカップ、なんかスッキリしなかったなぁ」
 全員集合したとはいえ、なんとなく練習する気にはなれず、駄弁っている。
「まさかあんな事になるとは思わなかったからな」
「シュウ君の攻撃を受けた途端に、どうしてあんな風になったんだろう?」
 みんなの脳裏に、あの狂ったように笑いながら乱射するヒンメルの姿が蘇る。
「まぁ、あの『無傷の大天使様』が初めてダメージ受けたんだ。ショックで狂うのも無理はないよなぁ」
 タケルがなんともなしに呟く。
 まぁ、妥当な推測だろう。天才型と言うのは、往々にして初めてのミスに弱いものだ。
「そうかな?」
 しかし、シュウはその考えを否定する。
「ん?」
「俺は、ヒンメルがショックを受けたというよりも……なんか、楽しんでるように見えたんだ」
「「「はぁ!?」」」
 シュウの発言に一同声を上げる。
「いや、シュウ。いくらなんでもその解釈はないだろ」
「どう見ても楽しんでる反応じゃなかったわよね……」
 タケルと琴音が猛否定する。
「お、俺だってハッキリとは分からないけどさ!でもあいつ……笑ってたんだよ。今まであんな顔しなかったのに」
「笑ってた、ねぇ……」
 イマイチ信用できない。
「まぁ、ヒンメルの事も気になるが。それよりもシュウ、問題はお前の方だ」
「え、俺?」
 話題がヒンメルから自分に方向転換したのが予想外でキョトンとした。
「シュウが最後に放った、ヒンメルに通ったあの一撃だ」
「っ!」
 あの時、全ての攻撃が通じなかったのに、起死回生で放ったあの一撃だけがヒンメルのショットを全て弾き飛ばしてダメージを与えた。
 ヒンメルの暴走も謎だが、それ以上にあのショットの方が不思議だ。
「一体どんなショット撃ったんだ、お前は?」
「あの時は、俺も必死だったからよく分からねぇよ……ただ、なんとなくいけそうな気がしてさ、そんで撃ってみたらほんとにいけたんだ」
「何よそれ……」
 シュウの発言は要領を得ない。
「別に意識して撃ったわけじゃないんだからしょうがないだろ!俺だって、まさか当たるとは思わなかったんだ!」
「ったく、ヒンメルの事はよく見てるくせに、肝心な事は無意識とはなぁ」
「う~……」
 んな事言われても仕方が無い。
「あのときのショットか……ちょっと待って」
 彩音が小型ノートパソコンを取り出してキーボードを弄る。
「確か録画してたはずだけど……あぁ、あった!みんな、これを見て!」
 三人がノートパソコンの前に集まる。
 モニターには、シュウが起死回生のショットを放つシーンを映していた。
 
「あ、これこれ!こん時、撃ったショットがヒンメルのショットを全部弾き飛ばしたんだ」
 シュウがモニターを指して叫ぶ。
「ちょっと、スローにしてみるね」
 彩音がシーンを巻き戻して、スロー再生してみた。
 シュウがショットを撃つ動きがよく分かるようになる。
「う~ん、結局いつものショットと何が違うんだろう……?」
 しかし、このショットが一体どんなものなのかまでは分からない。
「今度はブレイグをアップにしてみるね」
 言って、シュウの手元がアップで映し出される。
「これは……!」
 彩音が何かに気付いたようだ。
「どしたの、お姉ちゃん?」
「シュウ君の髪と、ブレイグのヘッドを良く見て!」
 言われて、皆がモニターを凝視する。
 再びショットのシーンがスロー再生される。
 その時、シュウの髪が大きくなびき、ブレイグのヘッドについている光の刃が小刻みに振動しているのが見えた。
「ん~、でもちょっとよく分からないよ」
 琴音が言う。タケルとシュウも同じくという表情をした。
「じゃあ、普段のシュウ君のショットと比較してみるね」
 今度は、画面を二分割して、別の場面を映して比較してみた。
 あからさまに、あの時のショットを撃つ前にシュウとブレイグの周りに風が巻き起こっているようだった。
「これは……シュウの周りに風が取り巻いてるのか?」
「うん。そして、あのショットを撃った時、発射されたビー玉が周りに取り巻いていた風を纏っていってる」
「風を纏ってる!?」
「どういう事なの?」
 彩音の発言は長年ビーダマンをやってもなかなか聞かない言葉だったので、その場にいた誰もが理解できなかった。
「まさか、エアリアル・バイザー……?」
 彩音がボソッと呟いたその単語もビーダマンをやってても決して聞かないようなものだった。
「えありあるばいざー?」
 理解出来ないという表情の三人に、彩音は更に噛み砕いて説明する。
「ブレイグのヘッドについている光の刃は強力なショットを撃つ事で可動して、その振動摩擦で周囲に風を巻き起こすような設計になっているの」
「そ、そんな事可能なのかよ!?」
「理論上は可能よ。でも、緻密な計算と完璧な設計図と寸分のズレも出さない技術力が無ければ絶対に出来ない……現実的には不可能なはずの機能なのに……」
 そう、不可能なのである。
 しかし彩音は一瞬、ヒンメルカップの観客席で見たドライグを思い出した。
(そういえば、あの子が持っていたのも……)
 いや、現実的に不可能である機能がそんなに巷に溢れているわけがない。と彩音は脳裏に浮かんだ記憶を否定した。
「ブ、ブレイグ……」
 シュウは信じられないと言う表情で手元にあるブレイグを見る。
「ブレイグがどうして無回転なのか分かったわ。ドライブ回転してしまったら、纏った風を振り払ってしまう。
でも、無回転なら、纏った風で空気の膜を作って、擬似的なエアロバリアを発生できる」
「エアロバリア……!」
「そう、そのエアロバリアが空気の抵抗を減らして、ショットのスピードを上げるの。
更に圧縮空気によって単純な質量も上がってるから、この時の威力は単純計算で通常の3,7倍に達しているわ!」
「3,7……」
 数値を言われてもなんだかピンと来ないが、とにかく物凄いショットらしい事は分かった。
「で、でもよ!ヒンメルはどんなに威力があるショットも逸らすことが出来るんだぜ?それだけじゃ、ヒンメルに攻撃が通じた理由の説明にはならないんじゃないか?」
「それだったら簡単よ。エアロバリアがヒンメル君のショットを風圧だけで弾き飛ばしたから、直接ビー玉に触れなければ回転の影響を受けることは無いからね」
 彩音の説明は、シュウには少ししか理解できなかった。
 しかし、その中でもハッキリと分かった事がある。
「つ、つまりさ。そのショットは無茶苦茶強い上に、ヒンメルの回転ショットも無効化出来るすげぇショットだって事なのか?」
「簡単に言えば、そうね」
「……」
 シュウは、感嘆のため息をついて、しばらく無言になる。
「よ、よっしゃあ!見えてきたぜ!!」
 そして、いきなり大声をあげた。
「ちょ、何よいきなり大声出して!」
「へへっ!これが大声出さずにいられるかよ!ヒンメル打倒のための新しい活路が見えたんだ!
しかも、それがブレイグに秘められた真の力だったなんて!!くぅぅ、燃えてきたぜ!!」
 シュウは、体中に気合いを溜めて武者震いする。
「で、でも、このショットが出たのはあくまで偶然で、意図的に出すには……」
「特訓するしかねぇって事だろ!?あやねぇ、また俺に付き合ってくれ!!あのショットを完璧に使いこなせるようになりたいんだ!!」
 ガシッ!とシュウは彩音の手を掴む。
「頼むあやねぇ!」
「……うん、任せて。どこまで力になれるか分からないけど、精一杯のサポートはするよ」
「よっしゃぁ!じゃあ、早速あん時みたいになるか、撃ってみるぜ!!」
 シュウは立ち上がり、リングの上にあがった。
「いくぜ、ブレイグ!!」
 ドギュンッ!!
 試しに撃ってみる。かなりの手ごたえがあった。
「どうだ、あやねぇ?」
 彩音は小さく首を振る。
「威力はあるけど、あの時みたいな風は起こらないわ」
「そっかぁ、くっそぉ!でも諦めねぇぞ!!」
 ドギュッ!ドギュッ!!
 我武者羅に撃ちまくるが、強いショットが出るだけで風なんか起こらない。
「闇雲に撃ってもダメよ!あの時の感覚を思い出して!!」
「思い出すったって……!くっそおおおお!!!」
 バギューーーン!!!
 そう簡単に過去を再現できるものではない。
「……なぁんか、あたし達蚊帳の外って感じね」
 特訓を開始したシュウとそのサポートをする彩音を眺めながら琴音がつまらなそうに呟く。
「まっ、仕方ねぇだろ。俺達は俺達で練習しようぜ」
 タケルは肩を竦めて琴音に練習を促そうとする。
「あたしはパス。ちょっと外に気分転換してくるわ」
 琴音はすまし顔でそう言って、早々とクラブを出て行った
「ったく、大会終わった途端またサボり魔になりやがった……」
 タケルは琴音の後姿を見ながら、ため息をついた。
 それから、毎日。シュウと彩音の必殺技を身につけるための特訓は続いた。
「いっけぇ!!」
 ドギュンッ!!
 シュウがブレイグのヘッドを振動させるためにパワーショットを放つ。しかし、効果は無い。
「う~ん、次は発射した瞬間に足を踏ん張ってみて!発射時の振動を全部ヘッドに集中させるようにするの」
 彩音もモニターとシュウを交互に見ながら、その時に感じた事をアドバイスする。
「うん、分かった!」
 シュウもそれに応えて、何度もチャレンジする。のだが、なかなか成果は出ない。
 ドギュンッ!!
 クラブ内はブレイグの発射音が虚しく響いていた。
「いけぇ!!」
 ドギュンッ!!
 シュウがブレイグを撃つ。
「う~ん……」
 カタカタカタカタ!
 彩音がそれを見ながらパソコンで分析する。
 そんな事を何日も、ずっと続けていた。
 そして、数日後。
「はぁ、はぁ……!」
 今日も、シュウと彩音の代わり映えの無い特訓が続いていた。
「くっそぉ!せっかくヒンメルに勝つための技が使えるかもしれないのに!なんで、なんで出来ないんだよぉぉ!!!」
 連日の特訓と、それに見合う成果の無さから、シュウはかなり苛立っている。
「シュウ君、落ち着いて。大丈夫!少しずつだけど、ヒントは見えてきたような気がするから」
「ほんと?」
「うん。だから頑張りましょう!」
「……そうだな。よーし、打倒ヒンメル!今日も頑張るぜ!!!」
 彩音に励まされて、シュウは気合いを入れなおす。
「いけぇ!!」
 ドギュッ!!
「おらぁ!!!」
 ドギュッ!!ドギュッ!!!
「はぁ、はぁ……負けてたまるか!ヒンメル!絶対にお前に……!」
 シュウは息を切らしながら、血走った目で虚空を眺める。そこには誰も居なかったが、シュウの目にはヒンメルの顔が見えているのだろう。
「勝ってみせるぜえええ!!!!」
 ドギュウウウウウウウ!!!!
 今まで以上のパワーショットを放つ。
 ふわ……!
 その瞬間、少しだけシュウの髪がなびいた。
「っ!風が吹いた……!」
 彩音のパソコンがそれを観測する。
「シュウ君!僅かだけど、風が吹いたわ!!」
 顔を上げて興奮気味に、シュウに叫びかける。
「う……」
 しかし、シュウは額を押えてしゃがみ込んでしまった。
「シュウ君!?」
 彩音は慌ててリングの上に上がって、シュウのもとに駆け寄る。
「だ、大丈夫……?」
 心配そうに声をかける彩音に、シュウは弱弱しく顔を上げて小さく笑った。
「だ、だいじょぶだいじょぶ。ちょっと眩暈しただけだから。しゃがんでたら回復したから、まだ続けられるぜ!」
「で、でも……!」
「休んでなんかいられねぇんだ。一日でも早くヒンメルを倒せる力を手に入れるために、俺はこの体がぶっ壊れてでも……!」
 と、体に鞭打って立ち上がろうとした瞬間にタケルに呼びかけられた。
「シュウッ!」
「タケル……?」
「お前、しばらく練習休め」
 タケルが呆れ顔をしてそんな事を言った。
「んなっ!冗談じゃないぜ!!休んでなんかいられるかっ!!」
「はぁ……お前ここ数日ビーダマン撃ちっぱなしで、無茶しすぎなんだよ。そんなんじゃ、ヒンメル倒すどころじゃないぞ」
「だ、だけど……!」
 シュウが言い返そうとしたところに彩音が優しく話しかけた。
「そうだよ、シュウ君。今のショットは私がちゃんと分析しておくから、シュウ君は……」
「彩音さんもだ」
「えぇ!?」
 思わぬ所で話を振られて、彩音も驚いた。
「わ、私は別に無理なんか……」
「クマ、出来てるんだけどな?」
「っ!」
 彩音はハッとして手鏡を取り出して自分の顔を確認する。
「ほ、ほんとだ……」
 彩音の目元に、うっすらと影が出来ていた。
「激しい運動しなくても、夜もロクに寝ないでパソコンに向かってれば、体も疲労するさ」
 タケルは再び大きくため息をついた。
 そして、懐から二枚の紙切れを取り出すと二人に近づいた。
「明日は丁度休みだ。これやるから二人でそこに行って来い。リーダー命令だ」
 と言って、紙切れをシュウと彩音に渡す。どうやらそれは、何かのチケットだったようだ。
 シュウはそのチケットを見て不満気な声を出す。
「って、これ上野動物公園のチケットじゃん!なんでそんな事いかなきゃなんねぇんだよ!ビーダマンと関係ないだろ!?」
「リーダー命令だからだ」
「り、理由になってねぇ!!それに、子供だけでそんなとこまで遠出して良い訳ないだろ!?」
 ちなみに、シュウ達の住んでいる爆球町の最寄駅は、新宿駅から私鉄で急行約30分くらいの所にある東京都の多摩地区だ。
「こないだの大会で水道橋駅まで俺達だけで行っただろが……。それに、彩音さんは大人料金の中学生だ。何の問題も無い」
「つまり、あやねぇは俺の保護者って事かよ!?」
 シュウの不満の矛先がコロコロ変わるものだから、タケルは頭が痛くなって額を押えた。
「あぁもう、変なとこに食いつくなよ!話がややこしくなる!!」
「だってさぁ……!」
 一方の彩音は、チケットを見て、何故か光悦な表情を浮かべていた。
「彩音さんは、異存はないよな?」
「えっ!」
 タケルに話を振られて、何故か彩音は必要以上にビクッと反応した。
「あやねぇからもなんとか言ってくれよ!俺は必殺技を一刻も早く身につけるためにもこんな所に行ってる場合じゃ……!」
 と、シュウは彩音に助け舟を求めるのだが、彩音はそれをスルーしてしまう。
「う、うん!そうね、リーダー命令だもん。仕方ないよね!シュウ君、大丈夫!私がちゃんと連れていってあげるから、一緒に行こうね!」
「え……?」
 彩音の思わぬ言動にシュウは耳を疑った。
「よし、決まりだな。準備もあるだろうから、二人とも今日のところはもう帰っていいぞ」
「は~いっ」
 何故か彩音の返事は弾んでいた。
「……ちぇ、分かったよ」
 シュウも渋々と承諾した。
 そして翌日。
 シュウと彩音は、JR上野駅から歩いて数分の所にある上野動物公園へと赴いたのであった。
 受付にチケットを見せて、入園する。
 中は、親子連れやカップル連れ等でごった返しており、人の熱気と動物達の獣臭で結構カオスな空間になっていた。
「はぁ、なんでこんな所に……タケルの奴何考えてんだろ」
 人々が楽しげな雰囲気を醸し出している中、シュウだけは未だにブツクサとぼやいていた。
「まぁまぁ、もう来ちゃったものはしょうがないんだから。観念して素直に楽しもうよ、シュウ君」
 不満そうなシュウを宥める彩音だが、シュウとは対照的に彩音はなんだか本気で浮き足立っているようだ。
「あ、ほらほら!キリンさんいるよ、キリンさん!」
 彩音が柵の前まで駆けて行き、キリンを指差しながらシュウを呼ぶ。
「観念、ねぇ……」
 シュウは、けだるそうに渋々と彩音の後に続いて歩いていった。
「すごいね~!長いね~!首ね~!食べてるね~!葉っぱね~!」
 柵の中のキリンはモフモフと木の上にある葉っぱを長い首を駆使して美味しそうに咀嚼していた。
「あやねぇ、多分話す単語の順番メチャクチャ(汗)」
 はしゃいでいる彩音に対し、シュウは珍しく突っ込み役を務めていた。
「あ、あっちにはクマさんがいる!!」
 今度は目を輝かせながらクマのいる柵まで走っていく。
「あ、ちょっと!」
 シュウも慌ててその後を追う。
「うわぁ、クマさんだぁ…!クマー!!」
 クマは、オリの中でぐで~っとだらけている。
「凄いよシュウ君!クマさんが、何もしてない!!」
「どこが凄いんだよ……」
 何もしてない動物なんか見て何が楽しいんだと。
「だって、クマさんが、リラックスしてるんだよ!リラックスクマだよ!かわいいいいいいい!!!」
「あー、際ですか……」
 そのクマは親子だったようで、リラックスしてるクマの隣に子供のクマが眠っていた。しかもアルビノのようで、体毛が白い。
「あ、隣にいるアルビノの白い小熊も一緒にリラックスしてる!子供リラックスクマ!略してこりら……」
「略さんでいい!!」
 さすがにその略称は危ない。
 その頃、仲良しファイトクラブ。
「はあああああ!!!」
 タケルが、シューティングゾーンでターゲットを撃破していく。
「ちょっとタケル~!!」
 そこへ、琴音がクラブの扉を乱暴に開けて入ってきた。
「おう、どうした琴音?」
 琴音の存在を確認したタケルは、練習を中断した。
 琴音は、ズカズカとタケルが練習している台の横に立つと、台をバンッと叩いた。
「お姉ちゃんから聞いたわよ!」
「何を?」
「上野動物公園!シュウとお姉ちゃんにチケットあげたって!あたしも行きたかった!!」
 タケルがシュウと彩音にだけチケットを渡した事に嫉妬しているようだ。
「あのな……これも練習の一環なんだよ」
「どこがよ?遊びに行かせただけじゃない」
「息抜きだよ息抜き。あの二人、最近根詰め過ぎてたからな」
「確かに……」
 最近の二人の様子は琴音も知っていたのでうなずく。
「特にシュウは、ヒンメルの事になると周りが見えなくなるし、彩音さんもそれに付き合っちまうからな。
まぁ、ヒンメルとのバトルがメチャクチャになった直後に、ヒンメル対策の真の活路が見えたんだから無理も無いが」
「それで、動物公園なの?」
「休めっつってもあいつらは素直に聞かないだろ。でも、動物をエサにすれば彩音さんは簡単に釣れるからな。彩音さんが承諾すればシュウも付き合うしかなくなる」
「お、お姉ちゃんって、大の動物好きだもんね……」
 年上の彩音すら手玉にとってしまうタケルもなかなか恐ろしい奴である。
 そして、シュウと彩音は……。
 食堂で昼食をとっていた。
 窓際の四人席に二人で向かい合って座り、彩音はヤキソバを、シュウはカレーを食べている。
「あ~、可愛かった~!」
 あれから、ゾウ、カピバラ、ヤギ、トラ、ライオン……などなどを巡り、シュウは延々と彩音のはしゃぎっぷりにつき合わされたのだった。
「ははは……あやねぇって、動物好きなんだな」
 シュウは乾いた笑いを浮かべながらカレーを一口食べた。
「うん!あのモフモフが……あ、ゴメンね。なんか私ばかりはしゃいじゃって、疲れちゃった?」
「いや、別に。俺も、まぁ楽しかったから。ただ、こんな事してて良いのかなぁって」
 シュウ的に、一刻も早く必殺技を身に付けたいわけで、こんな風に動物園で遊んでいる場合ではないのだ。
「シュウ君……」
 食事を終えて外に出た。
 すると、何やら動物園特設ステージが騒がしい。催し物でもやっているのだろうか。
「なんかやってるのかな?」
「見に行ってみようか!」
 言うや否やあやねぇが駆け出す。
「あ、あぁ!」
 シュウもその後に続く。
 ステージの上ではマイクを持って煌びやかな衣装を着たお兄さんとおそろいの衣装を着たサルが芸を披露していた。
『さぁ~よってらっしゃい見てらっしゃい!おサルのモン吉君の猿回しだよ~!!』
 シュウと彩音がステージの観客席にやってくる。
「へぇ、サルが芸やるみたいだ」
『さぁ、モン吉君!皆にご挨拶を!』
 お兄さんが促すとモン吉君が頭を下げる。
「ウッキッキ!」
『はい、よく出来ました!じゃあモン吉君!このワッカを跳んでみようか!!ほい!!』
 お兄さんが音楽に合わせてワッカを投げる。すると、モン吉君がリズム良くそのワッカをくぐり抜けていく。
『はい、お見事~!!皆様、暖かい拍手をお願いしま~す!』
 拍手が沸きあがる。
「可愛いね~、シュウ君!」
「なかなかやるなぁ、アイツ」
『それじゃ、今回のメインイベント!モン吉君のビーダマンバトル!!』
 モン吉君がビーダマンを取り出した。
「なにっ、サルがビーダマン!?」
『じゃあ行くよ、モン吉君!ビーファイトォ!!』
「うっき!!」
 モン吉君がビーダマンを撃ち、ターゲットを撃破する。
「す、すげぇ……サルがほんとにビーダマンやってる……!」
『お見事!モン吉君のショットがターゲットを撃破!!凄いねモン吉君!それじゃあ、今度はこの観客の皆様から一人だけ、モン吉君とバトルしてくれる人はいないかな?』
 お兄さんが言うと、モン吉君が「かかってこい!」とでも言いたそうな顔でふんぞり返った。
「はいはい!俺がやる!!」
 シュウが早速挙手をして、ステージにあがった。
『おおっと!早くも挑戦者が現れた!モン吉君、彼とのバトル大丈夫かい?』
「ウッキッキ!」
『バトル成立だぁ!それじゃあ、ルールを説明しよう。ルールは簡単早撃ちバトル。
合図と同時にビーダマンを撃って、先にターゲットを倒した方の勝ち。三本勝負の二本先取で決めるぞ!』
「オッケー!」
「ウキッ!!」
 シュウとモン吉がお兄さんが用意してくれたターゲットに向かってビーダマンを構える。
『いくぞ、ビー・ファイトォ!!』
「ウキッ!」
 カンッ!!
 合図とともにモン吉のショットがターゲットを弾く。
「なにっ!」
『おおっと、最初はモン吉君の勝ちだ!』
 サルに人間が負けてしまい、会場が騒然とする。
「さすがおサルさん……反射神経は人間以上ね。しかもかなり訓練されてるみたい」
 彩音は冷静に分析する。
「うっきっき~!」
 モン吉が、挑発するように小躍りする。
「く、くっそー!ムカつく……!次は負けねぇ!!!」
『そんじゃ、第二バトルだ!ビー・ファイトォ!!』
「ウキッ!」
 初速はモン吉の方が上だ。
「うおおおおお!!」
 しかし、最高速はシュウの方が上。パワーショットでモン吉のショットを追い抜いてターゲットを撃破した。
『あ~、モン吉君、負けてしまいました~!ボク、強いね~!!』
「へっへ~ん!どうだぁ!!これが人間様の実力だぜぇ!はっはっは!!」
「う、ウキーーーーー!キッキッキ!!」
「悔しいか悔しいか!はっはっは!!」
 サルに対して本気で威張り散らすシュウ。人間の恥だ。
「ウッキャッキャ~!!」
「……」
 本気で悔しがっていながらも、楽しげに飛び跳ねているモン吉を見ながら、シュウは少し想いに馳せた。
(そういや、こんな気持ちでビーダマン撃つのって、久しぶりだな)
『勝負はイーブンだ!さぁ、次で決まるぞ!』
「モン吉」
「ウキ?」
「泣いても笑っても、これが最後だ。勝っても負けても、トコトン楽しもうぜ!!」
「ウッキー!」
『ビー・ファイトォ!!』
「ウッキーーーー!!」
「いっけーーーー!!!」
 一人と一匹のショットがターゲットへとブッ飛んでいく……!
 ……。
 ………。
 夕暮れの中、シュウと彩音が帰路についていた。
「はぁ~、楽しかったね、シュウ君!」
「ん、あぁ……楽しかった」
 シュウは、手に持った写真を眺める。そこには、シュウとモン吉が一緒に写っていた。
「……モン吉に教えられちまったな」
「え?」
「勝ったら嬉しくて、負けたら悔しくて、でもその全部が楽しくて、ただ撃つだけで心が躍って……それがビーダマンなんだ」
「シュウ君……」
「ヒンメルに勝つ事も、そのために強くなる事も大切だけど。でも、焦る事無いんだよな!
まだまだ時間はあるし、楽しい事だっていっぱいあるんだ!そうだよな、あやねぇ!」
 彩音はしっかりとうなずいた。
「うん、もちろんだよ!」
「よーっし!」
 シュウは夕日に向かって駆け出した。
「明日からもブッ飛ばそうぜ、ブレイグ~!!」

        つづく

 次回予告

「あやねぇとの買い物途中に、警察のようなビーダマンを扱う少年と仲良くなった!
その少年の名前は正義(まさよし)。なんとオフィシャルの保安部を志望しているビーダーだったんだ!
そんな時、あやねぇが不良集団に捕まってしまう!大変だ!俺達で力を合わせて、あやねぇを救い出すんだ!!
 次回!『あやねぇを救え!ビーダーデカ登場』
熱き魂で、ビーファイトォ!!」

 

 



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