オリジナルビーダマン物語 第14話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!



第14話「激突!ヒンメルVS仲良しファイトクラブ!!」




 ヒンメルカップ決勝戦、仲良しファイトクラブVSチームマイスイートシスターズの激突は、仲良しファイトクラブが制した。
『決まったああああ!!!シュウ君の怒涛の一撃!!勝ったのは仲良しファイトクラブだああああああ!!!!!』
「やったぜブレイグ!!」
 シュウがガッツポーズする。
「そんな、あたし達が負けるなんて……」
「赤鈴……」
「これで、これでヒンメルと戦えるぞおおおお!!!!」
 シュウは歓喜のあまり飛び上がった。
「シュウ!やったな」
「もう、ひやひやしたわよ」
 タケルと琴音が歓喜のシュウの所へやってくる。
「へっへーん!俺が負けるわけねぇだろ!何のためにここまで勝ち抜いてきたと思ってんだ!!」
 そんな仲良しファイトクラブを、縁は惚けながら眺めていた。
「………負けて、しまいましたか」
 少し気落ちして、手に持ったジェムオリファルコンに視線を落とす。。
「良いバトルだったぜ!」
 そこに、シュウが声をかけてきた。
「え?」
 顔をあげると、シュウが握手を求めるように手を差し出していた。
「……お見事です」
 縁がその手を掴む。
「目の前のバトルを楽しむ心。そして、その先にある目標を楽しみにする心。それが今回の勝敗の差だったようですね」
「え、あ~、うん。そうなのかな?」
 縁の言葉の意味がイマイチ理解できてないシュウ。
「フッ。私も楽しかったですよ。また機会があればバトルしましょう」
「おう!」
 縁とシュウとの間に友情が生まれたようだ。
 そんな二人の背景では、赤鈴と藍人がまたも騒いでいる。
「うわああああん、ゴメンよ赤鈴~!!!」
 涙と鼻水を流しながら、藍人は赤鈴に抱きついてくる。
「うわっ、ちょっと汚い!分かったから!あたしは大丈夫だから!」
 赤鈴は、そんな藍人を両手で引き離そうとする。
「ふふふ、全くしょうがないチームメイトだ」
 縁はフッと笑うと、シュウの手を離す。
「さぁ、行きますよ二人とも。反省会をして、この敗北を次の試合に活かすんです」
 赤鈴と藍人を宥めながら、退場を促す。
「えぇ~」
「赤鈴~!次は絶対勝とうねぇぇぇ~~!!」
 その様子を仲良しファイトクラブのメンバーは苦笑いしながら眺めていた。
「あはは……」
「強かったけど、騒がしい奴らだったわね……」
 一方、ヒンメルは観客席頭上にある事務室の窓から会場を眺めていた。
「……」
 どの試合を見ても、終始無表情だったヒンメル。しかし、シュウのショットを見た瞬間、ほんの少しだけ口元が緩んだ。ように見えた。
「……やっぱり、そうか」
 そのヒンメルの様子を、付き人であるルドルフが後ろで神妙な顔で見ていた。
「ヒンメル様……」
 その呟きは、ヒンメルの耳には届かなかった。
「さぁ、行こうか。ミハルデン」
 試合が終了し、表彰式が始まる。
『さぁ、表彰式を始めるぞおおおお!!!』
 二段しかない表彰台の上に、仲良しファイトクラブ、一段下にチームマイスイートシスターズが立っている。
『栄えあるヒンメルカップを制したのは、仲良しファイトクラブだ!!』
 わああああああ!!!と歓声が沸きあがる。
「いやぁ、どうもどうも!ありがとう~!!」
 シュウが両手を上げて観客達の声援に応える。
『ここで、メインスポンサーのヒンメル君のコメントだ!』
 ジンの言葉に、シュウが反応する。
「ヒンメルッ!」
 そして、ヒンメルがやってきてマイクを渡される。
「仲良しファイトクラブの皆さん、優勝おめでとうございます。この度は……」
「うおおおおおお!!!」
 ヒンメルが喋りきる前に、シュウがヒンメルの前に駆け寄って、マイクを奪い取る。
「ちょ、シュウ!」
「あのバカ……」
 タケルと琴音は、呆れて額に手を当てた。
「そんな挨拶なんてどうでもいい!さぁ、ここまできたぜ、俺!早速勝負だ!!!」
『ちょ、ちょっと困るよシュウ君!この後でちゃんとヒンメル君とのバトルはさせてあげるから、ね?』
 ジンが慌ててシュウをなだめようとするが、シュウは聞かない。
 一方のヒンメルは、少しだけ口元を緩めて。
「うん、楽しみにしているよ」
 それだけ言うと、踵を返して去っていった。
「あ、ちょっとどこ行くんだよ!逃げんな!!」
『ああもう!!』
 その後を追いかけていこうとするシュウをジンが止める。
『ヒンメル君とのバトルは、表彰式が終わってから20分後にやるの!だからちょっと待って!!』
「え、そなの……?」
『おほんっ!シュウ君も言っていたけど、優勝者の仲良しファイトクラブには、現世界チャンピオンのヒンメル・フリューゲル君とバトルをする権利が与えられるぞ!!
ルールは、3VS1のハンディキャップマッチ!3人がかりでヒンメル君とバトルしてもらう!』
「なんだよ、タイマンじゃないのかよ」
「まぁ、あくまでチームでの優勝特典だからな」
『と、言うわけだ!試合は20分後に行うから、それまでしっかり機体の調整をしていてくれ!!』
 というわけで、インターバルとして仲良しファイトクラブは控え室に戻った。
「やったね、シュウ君。おめでとう皆」
 控え室に戻ると、彩音が祝福の言葉をくれた。
「へへっ、サンキュあやねぇ!でも、本当のバトルはこれからだぜ!!」
「うん、そうだね。やっと念願のヒンメル君とのバトルだもんね。頑張って!」
「おう!……けど、ハンディキャップマッチってのが気になるなぁ」
「まぁ、相手は世界チャンピオン様なんだ。このくらいが丁度いいって思われてるんだろ」
「舐められたもんだぜ。でも、ハンディキャップだろうがなんだろうが、アイツを倒すのはこの俺だ!頼むぜ、ブレイ……!」
 ブレイグを掲げようとしたシュウだが、手を滑らせてブレイグを落としてしまった。
「あっ!」
 シュウは慌ててブレイグを拾おうとする。
「わりっ、ブレイグ……!」
 しかし、掴んだ瞬間、また手を滑らせてしまった。
「あれ?」
「どしたシュウ?……って、お前震えてのか?」
 よく見ると、シュウの手が小刻みに震えていた。そのせいでブレイグを落としてしまったのだ。
「え、いや」
「まぁ、緊張するのも無理は無いか」
「へぇ、無神経のあんたでも緊張するのね~」
「じょ、冗談じゃねぇ!緊張なんか、するわけねぇだろ!むしろワクワクしてるぜ!」
 シュウは虚勢を張って、ブレイグを拾い上げた。
「さぁ、ヒンメルとのバトル楽しみだぜ~!はっはっはっは!!」
 高笑いするシュウだが、なんか痛々しい。
「シュウ君」
 それを察した彩音がそっとシュウの頭を撫でた。
「無理しないで、シュウ君。大丈夫だから」
「な、無理なんか……」
 少し照れくさくなって顔を背ける。
「そうだ。ずっと連戦で疲れたでしょ?マッサージしてあげようか!」
「マッサージ?」
 いきなりそんな事を言われてちょっと面食らった。
「おっ、彩音さん得意のあれか」
「シュウ、やってもらいなさいよ。お姉ちゃんのよく効くんだから」
 タケルと琴音は彩音のマッサージがどういうものか知っているらしい。
「ん~、じゃあやってもらう」
 せっかくなのでやってもらう事にした。
「はい。じゃあそこのソファでうつぶせになって」
「おう!」
 言われたとおり、シュウはソファの上でうつ伏せになった。
 その上に彩音が跨り、ふくらはぎに手を添える。
「じゃあ、行くよ」
 彩音が絶妙な力加減でシュウのふくらはぎを押していく。
「おぉ~、すげぇ……!」
 足に溜まった疲労が抜けていくようだ。
「どう、気持ちいい?」
「うん、すげぇなこれ……!」
 光悦な表情で目を閉じるシュウ。
「うぅ~、疲れが取れる~。これで次のバトルもバッチリだぜ……」
「んしょ…んしょ……!」
 トローンとしてきた。このまま眠ってもいいかもしれない。
「うん、じゃあもうちょっと強くしようか」
「え?」
 グッ!
 彩音は手に体重を乗せて圧力を上げる。
「おぉ……!」
「ここのツボをね、こうして、こうやって、こう押えると良いんだよ」
 グググ……!
「おぉ~、きくぅ~!」
 しかし……。
「それから、こうやって」
 グギッ!
「ぐぉ?」
「こうするの!」
 バゴォ!
「うぐっ!?」
 段々、気持ちよさが痛みへと変わっていく。
「それから、こうして!あらぬ方向に曲げて……!」
 ギググググ!
「あ、ぐっ!ちょ、待って!いでっ!いでででで!!!」
「ちょっと痛いけど、我慢、して!これが良いんだから!」
 痛みのあまりにジタバタするシュウを押さえつけ、彩音はマッサージを続ける。
「「ぷっ、くくくく」」
 タケルと琴音は含み笑いしていた。
 どうやら、この事を知っていたらしい。
「いでええええでででええええええ!!!」
「我慢しろよ、シュウ。これが結構効くんだからな」
「そうそう。今は痛いけど、終わった後スッキリするよ~」
 笑いを堪えながらタケルと琴音が言う。
 しかし、シュウには聞こえていないようだ。
「いってええええええええええええええええ!!!!」
 シュウの悲鳴が辺り一帯に響き渡った。
 そして、インターバル終了。
 仲良しファイトクラブとヒンメルがフィールドに姿を現す。
『さぁ、そろそろ時間だ!ヒンメルカップ、特別ステージ!優勝チームVSヒンメル選手の特典バトル!!
出場選手の皆は既にスタンバっている!準備は万端のようだ!!』
「ひゅ~、あん時は痛かったけど、なんか体が軽いぜ!」
 シュウが、トントンと足踏みをする。
「だろ?彩音さんマッサージも一流なんだぜ」
「なんだよ。タケルとことねぇもやってもらえばよかったのに」
 そういうとタケルと琴音はギョッとする。
「い、いやぁ」
「あ、あたしは、もう勘弁!」
 いくら後で調子がよくなるとはいえ、あの痛みを受けるのはゴメンなようだった。
『それじゃ、今回のルールを説明だ!ルールは、SHB!シャドウボムは二発受けると爆発するように設定されている!
先に全滅した方の負けだ!フィールドは、特に障害物の無いノーマルフィールド!!ビーダーとしての腕がダイレクトに影響してくるぞ!』
「タケル、今回の作戦どうする?」
 琴音が聞く。
「今回ばかりはそんなもんはない。どんな作戦をしたってヒンメル相手には付け焼刃だ。とにかく、全力で持てる力をぶつけるしかない!」
「最初っからそのつもりだぜ!!」
『そろそろ、おっぱじめるぞ!レディ、ビー・ファイトォ!!』
 スタートの合図とともにシュウが駆け出す。
「シュ、シュウ!」
「俺は元々チーム戦をするつもりはねぇ!先手必勝でヒンメルを倒してやる!!」
 ヒンメルに向かって、シュウは全力疾走した。
「大丈夫なの、タケル?」
「まぁ、あいつの好きにやらせようぜ。ずっと待ち望んでた舞台なんだから」
 タケルと琴音も駆け出す。
「だが、俺達だってビーダーだ!シュウに華を全部譲るほどお人よしじゃないぜ!」
 タケルもヒンメルと戦う気は満々なようだった。
 そして、シュウがヒンメルを射程圏内に捉えた。
「おっしゃぁ!行くぜヒンメル!!」
 ドギュッ!!
 ヒンメルに向かってパワーショットを放つ。
『おおっと!先手必勝か!!シュウ君がヒンメル君へアタック!!物凄いパワーショットだぞ!ヒンメル君は撃ち落せるのか!?』
「…ふふ」
 ヒンメルは、右回転のショットを放ってシュウのショットにぶつける。
 あっさり弾かれてしまうヒンメルのショットだが、左回転をかけられてしまったシュウのショットは自分からカーブして軌道を逸らしてしまった。
「くっ!あの技か!」
 ドンッ!ドンッ!!
 何度も何度もパワーショットを撃つが、全て剃らされてしまう。
『当たらなーーーい!!シュウ君が必死で攻撃を仕掛けるが、全て逸れてしまう!どうした事だ?緊張して狙いがつけられないのか?!』
「無駄だよ。君の攻撃は当たらない」
「けっ、そのくらい!もうタネは分かってんだ!!」
 シュウが手間取っている間にタケルと琴音が追いついてきた。
「シュウ、お前ばっかに良い格好はさせないぜ!」
「タケル……!」
「悪いけど、あたし達も参戦するからね!」
 タケルと琴音もヒンメルに向かって撃つ。
 が、全部剃らされてしまう。
「へんっ、上等だぜ!でも、ヒンメルを倒すのはこの俺だ!!」
 ズドドドドド!!!!
 仲良しファイトクラブ三人が、怒涛のパワー連射をぶっ放す。
「これだけのショットだ!さすがのヒンメルでも対処しきれないだろう!!」
『これは物凄い物量作戦だ!無数のビー玉がヒンメル君に襲い掛かる!万事休すかぁ?!』
「ミハルデン」
 ドンッ!
 ヒンメルが、たった一発だけ撃った。しかも全く威力の無いショットを。
「一発だけでどうするんだ?!」
 ヒンメルが撃った一発の玉。それが最初にシュウの撃った玉にヒットする。
 すると、反射して、別の玉に、更に反射して別の玉に、そして更に……といった具合に全ての玉にヒットしてしまった。
 そして、ヒンメルのショットが当たった玉が全て回転をかけられてしまい、ヒンメルのシャドウボムから逸れる。
「な……!」
『な、なんとー!!これは凄い!あれだけの量のパワーショットを、たった一発のショットで全て逸らしてしまった!!これが、世界チャンピオンの実力なのか!?』
「嘘、だろ……!」
「あいつに、限界は無いのか!?」
「これで、まずは一発」
「え?」
 クンッ!!
 ヒンメルによって強引にカーブをかけられ、剃らされたはずの一発の玉。
 それが、急カーブしてブーメランのようにこちらに戻ってきたのだ。
「な、なんだとぉ!!」
 バーーーン!!
『ヒ、ヒット!な、何がどうなったんだ!?
タケル君の放ったショットが、まるでブーメランのように戻ってきて、タケル君のシャドウボムにヒットしてしまった……僕は、夢でも見ているのだろうか!?』
「今のは、一体なんだ?!」
「な、なに!?なんで!?何が起こったの!?」
「ま、魔法使いか何かか、あいつは!?」
『すごいぞぉ!3VS1のハンディキャップマッチで、全く臆さないどころか、先手を取ったのはヒンメル君だ!!
仲良しファイトクラブは、このままなすすべ無くやられてしまうのだろうか!?』
「相手のショットに回転をかけて逸らす。までは知っていたが、そこから発展させてカウンターまでしやがるとは、なんて奴だ……!」
「ミハルデン!」
 ドンッ!!
 ヒンメルが、ミハルデンのホールドパッドを締め付けて撃つ。
 ドライブ回転の掛かったパワーショットが琴音のシャドウボムを狙う。
「グルム!!」
 それを防御しようと、琴音は連射した。
 しかし……!
『ミハルデン強い!琴音君の連射はことごとく弾かれてしまう!!』
「パワードライブショット!?」
「あいつ、パワーショットも撃てるのかよ!!」
 パワーが低いとはいえ、グルム程度のパワーなら簡単に上回れるようだ。
 バーーーーン!!!
『ヒット!!琴音君1ダメージ!!』
「……!」
 圧倒的なヒンメルの実力に、仲良しファイトクラブは戦慄した。
「3人がかりで、全く歯が立たない……いや、何人が束になったって、あいつには……!」
「ふぅ…」
 ヒンメルは顔色一つ変えていない。まるで息をするようにビーダマンを撃ち、背伸びをするように相手を追い詰めていく。
「ヒンメル……!」
 シュウには、それが面白くなかった。
「くっそおおおお!!!」
 と、何か悔しかったのか、シュウが叫んだ。
「落ち着けシュウ。実力の差は圧倒的だ。だが、絶対に活路はある!」
「そうじゃねぇ!そういう事じゃねぇ……!」
「じゃあ、どうしたのよ?」
「あいつ、全然楽しそうにしてねえ!!ビーダマンやってんのに楽しんでねぇなんて、やっぱ許せねぇ!!」
 シュウが悔しかったのは負けている事ではなく、ヒンメルがバトルに対して何の感情も抱いていないところだったらしい。
「そ、そこ、怒るところ?」
「あったり前だろ!」
「そりゃ、これだけ圧倒的なんだ。楽しめってのが無理だろ」
「だったら、俺が楽しませてやるぜ!!」
 ドギュンッ!!!
 シュウのパワーショット。
「……」
 カンッ!
 あっさり剃らされる。
「す、涼しい顔しやがって……!だったら今度はお前のショットを弾いてやるぜ!こい!!」
「ミハルデン」
 ドンッ!
 今度はヒンメルの攻撃。
「ブレイグ!」
 バシュッ!
 ブレイグのパワーショットがミハルデンのパワードライブショットを弾き落とす。
「どうだぁ!お前のショットを弾き落としてやったぜ!パワーなら俺の方が上だろう!!」
「……」
 しかし、ヒンメルは全く顔色一つ変えない。
「ああああもうううう!!すました顔しやがってぇぇぇ!!少しは悔しがるとかしろよおおお!!!」
 ダンダンと地団太を踏む。
「なんか、別のところで悔しがってない?」
「俺は!ヒンメルに勝ちたいし、このまま負けたくないってのもあるけど、それよりもあいつにもバトルを楽しんで欲しいんだよ!
せっかくバトルしてんのに、相手が何も思ってくれないなんて、寂しすぎるんだよ!!」
「シュウ……」
 と話し込んでいる間に、ヒンメルが仲良しファイトクラブの頭上に向かって連射を放った。
「っ!あれは……!!」
「リング・エンゲル」
 パーーン!!
 ヒンメルの連射が空中で弾け、仲良しファイトクラブの周りにビー玉が落ちる。
 落ちた瞬間、回転のかけられていたビー玉が仲良しファイトクラブのシャドウボムへと地面を蹴って飛んでいく。
 バーーーーン!!!
『出たーーーーーー!!!ヒンメル君必殺のリングエンゲル!!四方八方から襲い来る無数の連射は、まさに伸縮する天使の輪を彷彿とさせるぞぉぉ!!!』
「タケル!ことねぇ!!」
『このショットには、たまらずタケル君と琴音君のシャドウボムがヒット!しかし、さすがに三人同時には攻略できなかったか、真ん中に居たシュウ君は運よく無傷だ!!』
「だめっ、対応出来なかった!」
「くっ!俺達じゃ勝てないのか……だが、シュウ!お前なら、いけるはずだ!諦めるなよ!!」
 バトルには負けてしまったが、タケルと琴音はシュウに想いを託した。
「おう!絶対に勝ってやる!!」
 タケルと琴音の想いを受け取って、ヒンメルと対峙。
「へへっ、面白くなってきたぜ。これであの時と条件は同じだな」
「そう。そうだね」
 面白くて笑うシュウに対して、ヒンメルはやはり無表情だ。
「忘れたのか?俺と始めてバトルした時の事」
「ううん、覚えているよ」
「俺、ずっとこの時を待っていたんだぜ!お前にリベンジできるこの瞬間をな!」
「そう。それは、よかったね」
 嫌味でもなんでもなく、ヒンメルは淡々と無感情で喋る。
「俺は、楽しいんだぜ!この瞬間が!お前は、どうなんだ?」
「知らない」
 シュウの問いに、『つまらない』でも『分からない』でも無く、『知らない』と応えた。それは一体どんな意味なのだろうか?
『さぁ、一対一となったシュウ君とヒンメル君!このバトル、一体どうなってしまうのか?!』
「うおおおおお!!!」
 ドンッ!ドンッ!!
 シュウのショット。しかし、やはり剃らされる。
「くっそぉ、やっぱ普通の攻撃は通用しないか!次はお前の番だぜ!」
「ミハルデン!」
 バシュッ!
 ミハルデンのショット。しかし、シュウがあっさりコレを撃ち落す。
「どうだぁ!」
「……」
『バトルはこう着状態か!?互いのショットが全く相手に通用しない!!決定打に繋がらない!!このまま消耗戦になってしまうのか!?』
「俺のショットはお前には通じないみたいだけど。お前のショットだって、ブレイグのパワーに通じないぜ!!」
「みたいだね」
「もっかいアレをやって来いよ……!じゃなきゃ、決着なんて着かないぜ!!」
「うん、そうするよ」
 淡々と、ヒンメルはシュウの言葉に従って、再びシュウの頭上に連射を放つ。
『おおっと!再びヒンメル君がリング・エンゲルの構えを取った!シュウ君、万事休すか!?』
(来た……俺がアイツに一矢を報いえるとしたら、この瞬間だけだ!絶対にミスれない……集中するんだ!)
 そう、ヒンメルにとっての決定打がリング・エンゲルしかないとしたら、シュウにとっても活路はこの瞬間しかなかったのだ。
「リング・エンゲル」
 ヒンメルのショットがシュウの周りに落ちて、そのビー玉が一斉にシュウに襲い掛かる!
「今だあああああ!!!!」
 バーーーーン!!!
 ビー玉が襲い来る瞬間、シュウが地面に向かってパワーショットをぶち込んだ。
 その反動で大きく飛び上がる。リングエンゲルの玉は、シュウが元いた地点に集束されるが、そこに標的はいない。
『おおおっと!シュウ君が跳んだああああ!!!そして、まさかまさかのリングエンゲルをかわしたのか!?』
「へっへーん!どうだぁ!お前の必殺ショットは見切ってたんだぜ!!」
「へぇ」
 ヒンメルは少しだけ意外そうな顔をした。
「このまま決めてやるぜ!メテオール……」
「でも無駄だよ」
 と、ヒンメルは呟いた。
「へっ?」
 カッ、カンッ!!
 その時、シュウの下からビー玉同士がぶつかって反射するような音が聞こえた。
「ん?」
 見ると、集束したビー玉が、その反発によって、勢い良く上へ飛び上がってきていた。
「な、なにぃ!?」
「バカな!リング・エンゲルは上へかわされる事を想定とした二段構えの技だったのか!?」
 タケルが目を見開いて叫んだ。

 
 バーーーーン!!!
 空中でシュウのシャドウボムにヒットする。
 そのせいでシュウはバランスを崩して、ショットもロクに撃てないまま着地してしまった。
「ぐぐ……!」
『シュウ君が1ダメージ!これは惜しい!破ったかに見えたリング・エンゲルだが、ヒンメル君の方が一枚上手だったようだ!』
「そんなっ、そんなぁ……せっかく猛特訓した対策が、通用しないなんて……!」
 完全に詰んでしまった。精神的ダメージは大きい。
「シュウ!怯むな!!次がくるぞ!」
 タケルが呼びかけるとシュウは我に返った。
「はっ!」
 見ると、ミハルデンのショットが襲い掛かっていた。
 シュウは咄嗟にこれを撃ち落す。
「ぐっ、それでも、それでも……負けてたまるかあああああああ!!!!!」
 力も技も通用しない。だったらあとはもう気力を爆発させるしかない。
 シュウは、ありったけの気合いを込めてショットを放った。
 ガキンッ!
 あっさりと逸らされてしまう。
 しかし……。
 ヒュウウウウ……。
 シュウの髪がなびいた。
「これは……なんだ?」
 シュウは自分の周りに、風が渦巻いているのを感じた。
 ヒンメルを見据える。ヒンメルは相変わらず無表情で立っている。
 悔しい。すっげぇ悔しい。だけど、勝てない。どうしようもない。
 しかし、周りの風を感じるたびに、気持ちが落ち着いてくる。
(なんでだろう、すげぇ穏かだ……なんか、よく分かんねぇけど。今ならなんかいけそうな気がする!)
 そう考えたシュウは、この風を十分に体に浴びさせた状態でパワーショットを放った。
 そのショットは、風を纏いながら飛んでいく。
「……」
 ヒンメルが、そのショットを逸らそうとスピンボールを撃つ。
 しかし……。
 ブワアアアア!!
 ヒンメルのショットはあっさりと弾かれてしまい、シュウのショットは全く影響を受けなかった。
「えっ?」
 ヒンメルは目を疑ってもう一度撃つ。しかし、結果は同じだった。
「……っ!」
 初めて見せたヒンメルの動揺。何度も、何度もそのショットに対して撃つのだが、全く効果が無い。
 そして、なすすべ無くヒンメルのシャドウボムにヒットした。
 バーーーーン!!
「あ、うそ……」
「なんで」
「当たった?」
 その瞬間、会場が静まり返った。
 今まで散々相手のショットを剃らしてきたヒンメルが、ダメージを受けたのだ。
『ヒ、ヒット……ヒンメル君1ダメージ……!な、なんと言う事だ!!今まで「無傷の大天使」と謳われてきたヒンメル君が、ここで史上初のダメージを受けてしまった!!
これは大番狂わせだぞおおお!!』
 ジンの実況で会場が一斉に盛り上がる。
「やった、初めて当たった!」
「……」
 喜ぶシュウと対照的に、ヒンメルは無言のまま俯いてしまった。
 悔しかったのだろうか?
 いや……。
「い、いかん!これは……!」
 ヒンメルの口の端が大きく吊り上がったのを、ベンチに居たルドルフが気付いた。そして、慌てて何か準備をし始めた。
「ふ、ふふふ……あーーっはっはっはっは!!!」
 突如、ヒンメルが顔を上げて大声で笑い出した。
「な、なんだぁ!?」
『これは、どうした事か?ヒンメル君が突如豹変してしまったぞ!?』
「ヒ、ヒンメル?」
「あっはっははっはっはっはっは!!!!」
 笑いながら、ミハルデンを構え、そして乱雑にパワーショットを撃ちまくった。
「う、うわあああ!!」
 そのショットは、狙いもバトルも関係ない。ただただ、メチャクチャに撃っているだけのものだ。
「ははははははははははははははははははは!!!!!」
 ヒンメルのショットが、会場をどんどん破壊していく。物凄いパワーだ。
「な、あいつ!こんな力を秘めてやがったのか……でも、俺は負けねぇぜ……!」
 ヒンメルの思わぬパワーに驚いたシュウだが、気合いを入れなおす。
「待てシュウ、それどころじゃない!何か様子が変だぞ!」
 タケルの言うとおり、これはバトルがどうとかパワーがどうとかって状況じゃない。明らかにヒンメルは暴走している。
『どうなっているんだ!ヒンメル君が会場を破壊しまくっている!!これも作戦のウチなのか?!にしては、えらくラフな戦いだ!!』
「どうなってるのよ!?どうして、いきなり暴走してるの!?」
「多分、今まで無傷だったのに、初めてダメージを受けたから、ショックでプライドが傷つけられんだろう。天才にはよくある事だ。
でも、これはちょっとオーバーだぜ……!」
 タケルの言う事は最もかもしれない。
 今まで負けを知らなかった人間が、初めて傷を負ってしまったら、そのショックは計り知れない。だが……
(いや、違う……)
 ヒンメルの表情を見たシュウは、心の中でタケルの考えを否定した。
(あれは……もしかして、ヒンメルは……)
「あーーーっはっはっはっはっは!!!」
 ドギュッ!ドギュッ!バゴオォッォ!!
「ヒンメル様ーーーー!!!」
 と、そこにルドルフが物凄い勢いでヒンメルに向かって突っ込んできた。
 ガッ!
「おやめください!ヒンメル様!!」
 ヒンメルに覆いかぶさり、そして、何かの薬品を染み込ませたであろう布をヒンメルの口元に覆う。
 すると、ヒンメルはそのまま気を失ってしまった。
「あ、てめぇ!ヒンメルに何しやがった!!」
 いきなり現れたルドルフに、シュウが食って掛かる。
「私は、ヒンメル様のセコンド兼付き人のルドルフです。以後お見知りおきを」
 興奮するシュウに対して、淡々と自己紹介してきた。
「って、そんな事はどうでもいい!バトル中に邪魔してくんじゃねぇ!!」
「バトルは中断です。どうか、お引取りください」
「ふ、ふざけんな!まだ決着は……!」
「お引き取りください」
 ギンッ!
 言葉は丁寧だったが、ルドルフの眼光は鋭かった。
「うっ」
 シュウは思わずたじろいでしまう。
「シュウ、ここは言われたとおりにした方が良さそうだ」
「そうね。どの道、もうバトルは続けられそうにないし」
「……くそぉ」
 腑に落ちないが、シュウ達はスゴスゴと退散した。
『さ、さぁ、大変な事になってしまった。ヒンメルVS仲良しファイトクラブのバトルは、謎のアクシデントによる中断と言う形で幕を閉じてしまった。
会場の皆、本当に申し訳ない!事態の収拾があるので、もうしばらくそのままで待っていてくれ!』
 ジンのアナウンスだけが会場に虚しく響いていた。

     つづく

 次回予告

「あああ納得いかねぇぇ!!念願だったヒンメルとの再戦は、スッキリしない形で幕を閉じてしまった。
あの時どうしてヒンメルが暴走してしまったのか、ヒンメルは何を考えていたのか、謎は深まるばかり。
え?ヒンメルの事よりも、俺の事の方が謎だったって?
 次回!『秘められし能力』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」

 

 



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