オリジナルビーダマン物語 第12話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第12話「俺の妹がこんなに可愛いと決まっている!」




 ヒンメルカップ本戦トーナメント第一回戦。
 仲良しファイトクラブは、激闘の末チーム風林火山に勝利した。
 江戸城フィールド。
「やったぜ、俺達の勝ちだーー!!」
「やったな、シュウ!」
「おう、タケルの指示のおかげだぜ!」
「ほんと、よく逆転できたわよね……」
 仲良しファイトクラブが歓喜するのと正反対に、風林火山の面々は沈んでいる。
「申し訳ありません、将軍様。我々の力が及ばないばかりに……」
「申し訳ございませぬ、でござる」
 仲良しファイトクラブに敗北した事で、シノブと藩屏が申し訳なさそうに玄摩に謝罪する。
「ふっ、某もまだまだ修行が足りぬようだな」
「将軍様……?」
「なに、気に病む事はない。某の講じた布陣の上を行く軍師がいただけの事だ」
 言って、玄摩はタケルに近づいて話しかけた。
「某の完敗である」
「ん?」
「某の技を見抜く分析力、我らの布陣に対応する状況判断力、己を犠牲にしてでもチームを勝利へと導く決断力……見事であった」
「え、あ、あぁ……!あんたの剣術も凄かったぜ。どっちが勝ってもおかしくなかった」
 玄摩とタケルが握手をする。
「なんだよなんだよ!最後に勝負を決めたのはこの俺だぜ~!」
 蚊帳の外なシュウは、なんとなく面白くなさそうにする。
「そうであったな。これは貴殿達全員の勝利だ。我が風林火山に勝ったのだ。武士道を貫かねば容赦はせぬぞ」
 玄摩がシュウ達に向き直る。
「う~、武士道とかはよくわかんねぇけどよ。とにかく、優勝してやるぜ!!」
 シュウは拳を突き出して、堂々と優勝宣言した。
『さぁ、これで一回戦はどちらも終了だ!
決勝を戦うのは、仲良しファイトクラブとチームマイスイートシスターズに決定だ!!
会場の準備があるので、試合開始は1時間後。両チームとも、それまで控え室でゆっくり休んでくれ!!』
 ジンのアナウンスに従い、仲良しファイトクラブはフィールドから出ると、控え室へと向かった。
「たった一回のバトルでも、結構消耗するなぁ」
 歩きながら、シュウは手に持ったブレイグを眺める。
 試合前にしっかり彩音のメンテを受けたにも関わらず、試合後には機体はかなりボロボロになっていた。
「公式戦だからな、一回一回での消費はかなりのものだ」
「またあやねぇに頼らなきゃなぁ」
「ほんと、お姉ちゃんがいなかったら、まともに戦う事すら……って、噂をすれば」
 控え室に途中の廊下で、彩音がこちらに歩いてくるのが見えた。ジンのアナウンスを受けた彩音は控え室から出て皆を迎えに来たのだろう。
「お疲れ様、みんな」
 彩音が笑顔で皆を労う。
「あやねぇ!へへ~ん、楽勝だったぜ!」
 ニカッと笑ってカッコつけるシュウだが、タケルと琴音はジト目になる。
「どこがだよ。ギリギリの戦いだったじゃねぇか」
「ほんと。あれだけ罠に引っかかっておきながら、よくカッコつけられるわね……」
「う、うっせ!」
 タケルと琴音の手痛い突っ込みに、シュウは口を尖らせた。
「まぁまぁ。でも、いいバトルだったよ。練習の成果が出てきたんじゃない?」
「へへへ、まぁな~!あ、でもあやねぇの整備のおかげでもあるぜ」
「だな。彩音さんがいなきゃ、予選の時点で俺達の機体はボロボロだったわけだし」
「ほんとほんと、お姉ちゃん様々よね~」
 なんかいきなりヨイショされて彩音はちょっとうろたえる。
「ちょ、ちょっといきなりどうしたの?褒めたって何も出ないよ」
「そんなんじゃねぇって。今回もメンテ頼むぜ」
「うん、任せて。じゃあ早速控え室に行こうか」
 控え室へ促す彩音だが、シュウはちょっと歩みを遅めた。
「あぁ~、それより喉渇いたなぁ。確かこの先に自販機があったよな。なんか買ってこうぜ~!」
「賛成~!あたしも喉カラカラ」
 シュウと同調するように琴音も声を枯らしてみた。
「水分補給ならスポーツドリンクが控え室にあるぞ」
 と言うタケルだが、シュウは不満気になる。
「ええ~、そんなんよりジュースがいい!俺、正午の紅茶!!」
 言って、シュウは駆け出した。
「あ、シュウッ!……まったく、しょうがない奴だなぁ」
 他の三人も、シュウに続いて自販機に向かった。
 自販機の前。
「んぐんぐんぐ……プハーッ!生き返るぜ!!」
 シュウ達は、缶ジュースを美味しそうに飲んでいた。
「一バトルした後は、『正午の紅茶ミルクティー』に限るよな!」
「一仕事した後のビール飲む親父みたいな事いってんじゃねぇ」
 タッタッタ!!
 その時、遠くから激しい足音が二つ聞こえてきたが、シュウ達は気付かない。
 その足音の主は二人の男女だった。
「待ちなさい~!我が妹の赤鈴~!!バトルが終わった後はちゃんとケガが無いかチェックをしなきゃだめだよ~!!」
「そんなの必要ないっていつも言ってるでしょバカ兄貴!!」
 どうやら、兄が妹を追いかけているようだ。
 そんな二人が自販機の前にいるシュウ達に迫っていた。
「んぐんぐんぐ……」
 妹はがどんどん迫ってくる。後ろにいる兄に集中しながら走っているので、前方にシュウがいる事に気付いていない。
「ん?」
 先にシュウが、兄妹の足音に気付いた。
「うわあああ!!」
「あっ、危ない!!」
 ドーーーン!!
 ジュースを飲んでるシュウに、赤鈴がぶつかってしまった。
 二人とも尻餅をついてしまい、シュウはジュースを落としてしまう。
「いったたたた……」
「いてて……」
「だ、大丈夫!?」
 真っ先に彩音がシュウに声をかける。
「おいおい、気をつけろよ」
「ボーっとしてるから」
 タケルと琴音も心配そうに駆け寄る。
「も、もうダメだ……!」
 シュウは弱弱しく呟く。
「えぇ!?ちょっとどこか変な所でも打ったの?」
 彩音が心底心配そうにシュウを支えようとする。
 が。
「うぅ、俺のジュースがぁ……」
 ジュースは無情にも零れてしまい、床にぶちまけられていた。
「ジュースの心配してんじゃねぇよ……」
 シュウはぶつかられた事よりもジュースが零れた事がショックだったっぽい。
「あなたも、大丈夫?」
 彩音が倒れている赤鈴の方にも向き直る。
「あ、はい……すみません、あたし前を」
 赤鈴が素直に非を認めて謝ろうとした瞬間。
「き、き、き、きみいいいいいい!!!!」
 兄が奇声を上げて倒れているシュウに迫ってきた。
「ど、どどどどどういうつもりだねきみいいい!!!」
「え、え、なになになに!??!」
 鬼気迫る兄にシュウはうろたえる。
「ぼ、ぼ、僕のかわゆいかわゆい赤鈴に尻餅をつかせるなんて!もし、かわゆくてふっくらした赤鈴のお尻が、ぺったんこになったらどうしてくれるんだね!!!!」
「え、いや、ぶつかられたのは俺の方で……!」
「そ、そうよアホ兄貴!悪いのはあたしの……」
「うるさーーーい!!立つんだったら、ちゃんと赤鈴を避けられるように立っていなさい!!」
「えぇ~……」
 無茶苦茶な言い分だ!
「ああもう、バカ兄貴!!」
 赤鈴は立ち上がり、兄のドタマを叩いた。
「あいた!…でもちょっと気持ちいい。な、何をするんだい赤鈴~!」
「大体、全部兄貴のせいでしょうが!!毎回毎回キモイ声出しながら追いかけてこないでよ!!」
「そんな、僕は赤鈴の事が心配で~!」
「それが余計なお世話だっての!!」
 シュウ達を置いて、兄妹はケンカを始めてしまった。
「なんなんだよ……」
 仲良しファイトクラブはその様子をポカーンと見ているしかなかった。
「どうもすみません、ウチの二人が」
 と、ポカーンとしていたら、礼儀正しそうな青年が話しかけてきた。
「あ、はぁ。あの二人の知り合いですか?」
「はい、私たちは一回戦を勝ち進んだチームマイスイートシスターズのメンバーです」
「っ!俺たちの次の対戦チームか!」
「あぁ、ではあなた方が仲良しファイトクラブ?」
「おう!俺、シュウ!んで、タケルにことねぇにメカニックのあやねぇ!」
 シュウが紹介すると他のメンバーも頭を下げる。
「シスターズって言うから、てっきり姉妹のチームかと思ったけど、違うのね」
 姉妹チームどころか、女の子は一人しかいない。
「あぁ、あれはあそこにいる小鳥遊藍人(たかなしあいと)が妹の赤鈴(かりん)を溺愛しすぎるがゆえについたチーム名なのですよ」
「藍人に赤鈴……」
「ですが、いつもケンカばかりなので、人様に迷惑ばかり。すみません、ジュースは弁償します」
 言って、青年は自販機から黒い缶ジュースを購入してシュウに渡す。
「は、はぁ、どうも……」
「私の名前は、鷹田縁(えにし)。決勝では、いいバトルをしましょう」
「おう、こちらこそ!」
「では、失礼します」
 縁は丁寧に頭を下げると、ケンカをしている兄妹をなだめに行く。
「はいはい、いきますよ。藍人、赤鈴!」
 やや強引にブーブー言う二人を連れて帰った。
「……なんだったんだ」
 その後姿を見ながら、シュウは缶に口をつけた。
「にっが~!!!なんでよりによってブラックコーヒーなんだよぉ(涙)」
 仲良しファイトクラブ、控え室。
「しっかし、次はなんかすげぇ奴らが相手だよなぁ」
「見た感じチームワークは悪そうだし、次は楽勝じゃない?」
「そうだな。だが、油断は禁物だ。相手も一次予選、二次予選、一回戦と勝ち抜いてきたチームだ。実力がないとここまで来れない」
 彩音はカチャカチャとシュウ達のビーダマンを弄っている。
「……うん、メンテナンス完了。これで次の試合も100%の力で戦えるよ!」
「おっ、サンキューあやねぇ!」
 シュウ達はビーダマンを受け取る。
「ま、とにかく相手がどんな奴だろうと100%の力でぶつかるだけだぜ!」
「作戦はどうするの?」
「相手の出方が分からない以上は、何があってもいいように様子見の三角フォーメーションだな」
 三角フォーメーションは全方位からの防御に優れる形態だ。
 相手が未知数な以上は有効だろう。
「えぇ~、またあのまどろっこしい事するの~?」
「我慢しろ。相手の出方が分かり次第、すぐに攻撃に転じるさ」
「う~、しかたねぇな」
 一方のマイスイートシスターズ、控え室。
 縁が中心となって作戦会議を開いているようだ。
「仲良しファイトクラブ……チームワークに関してはそこそこなようですが、それぞれの長所が特化しており、役割分担がハッキリとしているのが特徴ですね。
しかもリーダーの守野タケルはかなりの使い手です。手元の情報によれば、4年前に世界大会に出場したほどとか」
「次は気を引き締めて掛からないと厳しそうね……」
「大丈夫だよ赤鈴!この僕がついてるからっ!」
「……まぁ、兄貴の実力は認めるけど。って、近い近い!」
 藍人は必要以上に赤鈴に迫っていたので、赤鈴は藍人を両手で引き剥がす。
「とにかく、相手が役割特化したチームな以上、こっちはチームワークを重視して……」
「もう~、ちょっとくらいいいじゃないか赤鈴~!」
「ああ、うっとおしい!!」
 と、またケンカを始めた二人を見て、縁はため息をついた。
「まったく……これでよく勝ち進めたものです」
 そして、試合会場。
 仲良しファイトクラブとチームマイスイートシスターズが入場す
『さぁ、いよいよ試合開始時間になったぞ!両チームとも、準備は万端なようだ!そんじゃ、本戦決勝戦のルールを説明するぜ!!
ルールは、一回戦と同じ一発で爆発するシャドウボムを撃ち合い、先に全滅したチームの負けとなるSHB!
ただし、今回は3回勝負の2本先取で勝敗を決める!そして、1バトルごとに20分のインターバルを設けるから、作戦の駆け引きが重要になってくるぜ!
そして、今回のフィールドは、これだああああ!!!』
 またも地響きが鳴り、地面からいくつものビルが乱雑に出現する。
『名付けて「大都会フィールド」!都心のビル街を模したフィールドは、ビルによって道が入り組んでおり、一筋縄では進めない!
まさに一度迷い込んだら二度と出られない、コンクリートジャングルだ!!』
「また凄いもの用意したなぁ……」
「ややこしそうなフィールドだぜ……」
「迷子にならないでよ、シュウ」
「ならねぇよ!」
 さすがに迷子にはならないだろうが、それでもかなり複雑な道だ。
「結構フィールド広いからな。予期しない所で相手とばったり会うって可能性もある。相手の姿が見えないうちは、十分に注意しろよ!」
「分かってるって!」
『そんじゃ、そろそろおっぱじめるぜ!レディ、ビー・ファイトォ!!』
 バトルスタートだ!
 仲良しファイトクラブがスタート。
「行くぞ、シュウ、琴音!」
「「おう!!」」
 チームマイスイートシスターズもスタート。
「行くよ、気をつけるんだよ赤鈴!」
「分かってるわよ!」
「やれやれ。バトル中は、ケンカしないでくださいよ」
『両チームが一斉にスタート!ステージの端から中央へと向かっていくぞ!遭遇と同時に激しいバトルが期待できそうだ!!』
 仲良しファイトクラブは一回戦と同様に、三角フォーメーションで周囲を警戒しながら進んでいく。
「ほんとに入り組んでるよなぁ。こりゃ、遭遇しないで一日が終わるって可能性もあるんじゃないか?」
「まさか。だが、こっちもなるべく積極的に相手を見つけるようにしないとな。先に見つけて攻撃を仕掛けた方が断然有利だ」
「そうね。でも相手の動きの予測が難しいのが」
 相手がどう動いてくるかなんて分かったものではない。先に見つけようにも、条件は五分五分なのだ。
「足音だ」
「え?」
「耳を澄ませ。これだけビル壁が多いんだ。音が反響して通常よりも大きく聞こえる。もちろん、それは相手にも同じ事だろうが」
「なるほど、音でなんとなく位置を把握するのか!……まだ、俺たち以外の足音は聞こえないから、相手は遠いって事だな」
「とにかく、もう少し進んでみよう」
 仲良しファイトクラブは耳を澄ましながら、自身はなるべく足音を立てないように慎重に進んで行く。
「ん、なんか音が聞こえる」
 と、シュウが何かに気付いたようだ。
「足音か?」
「いや、なんかの反射音みたいな……」
 シュウの言うとおり、小さくカンッカンッ!と言う硬いものがぶつかるような音が聞こえてきた。
「ビー玉が壁にぶつかる音か!」
「相手チームがビー玉を発射して壁にぶつけたって事か?なんでそんな事を……」
「何かステージ内で仕掛けが発動したのか、もしくは俺達を見つけたと勘違いして間違えて撃ったか……なんにしてもこれはチャンスだ!
すぐに音がしたほうに向かって、先手を取るぞ!」
「おっけー!」
 仲良しファイトクラブたちは、すぐにその音がする方へと駆けていった。
「ここら辺、だよな?」
 ビー玉の音が聞こえていたであろう場所に辿り着いたシュウ達だが、そこには何も誰もいなかった。
 ただ、何個かビー玉が転がっているだけだ。
「誰もいないぜ?」
「だが、ビー玉が転がっている。間違いなくここで奴らがビーダマンを撃ったはずなんだが……」
 ドギュンッ!カンッ!!
 その時、ビー玉の発射音と壁にぶつかった音が聞こえてきたかと思ったら、一発のショットがビルとビルの間の路地からタケルに襲い掛かってきた。
「危ない!」
 咄嗟に琴音がそれを撃ち落す。
「わ、悪い!油断してた!!」
「い、今のショットどこから来たんだ!?」
「あそこの裏路地よ!壁に反射して、こっちに飛んできたの!」
「行くぞ!あそこに奴らがいる!」
 シュウ達がそこへ向かう。
 が、誰も居ない。
「あれ?どうなってんだ……」
 カンッ!!
 再び、今度は反対側の路地から、ビー玉が飛んできた。
「くそっ!!」
 今度は反応が遅れなかったので迎撃できた。
「なんだよ!誰も見えないのに、ショットが飛んでくるなんて!」
「イングリッシュボールか!奴ら、壁の反射を利用して隠れながら攻撃してくるんだ!」
 そう言って、タケルも壁を利用して、向こう側にいるであろう相手を攻撃しようとする。
 カカッ!
 しかし、路地は狭く、どう反射させても向こう側には届かない。
 だが、相手からのショットは尚もこちらに届く。
「くそっ!どうなってんだ!あの反射角でどうやってこっちに攻撃してくるんだ!?」
「フフフ、かかりましたね!」
 バッ!
 と、今度は別の路地から縁が現れる。
「お前は、鷹田縁!」
「我々の陽動作戦にまんまと引っかかるとは、意外と単純なんですね!」
「っ!なるほど、最初に聞こえたビー玉音は、俺達をおびき寄せるためのものか……!」
「えぇ、こういうフィールドは相手を見つけるのが非常に困難です。だったら見つける事に集中するよりも特定の場所におびき寄せた方が早い」
「くそっ!皆!横列フォーメーションだ!集中攻撃でこいつだけでも仕留めるぞ!」
 仲良しファイトクラブが横一列に並び、縁に集中砲火を浴びせる構えを取る。
「甘いですよ」
 ドギュドギュ!
 その隙に、右と左両側の路地からビー玉が飛んでくる。
「うっ!」
 咄嗟に、シュウと琴音がそれを撃ち落した。
「さぁ、どうします?見えない敵と至近距離にいる敵。この二つを同時攻略するのは厳しいでしょう?」
「くっ、一旦引くぞ!」
 ダッ!と、仲良しファイトクラブは退却の体勢をとった。
「させません!」
 バーーーン!!
 逃げる途中、琴音のシャドウボムが撃破された。
「うっ!」
「琴音!」
『おおっと!早くも琴音君のシャドウボムが撃破!小鳥遊兄妹の見事なコンビネーションだ!!』
「くそっ!」
「シュウ、立ち止まるな!とにかく走って、なるべく広い場所に出るんだ!」
 タッタッタッタ!!!
 琴音を失ったものの、タケルとシュウは比較的広い場所に出た。
「はぁ……はぁ……」
「くそ、なんなんだよあいつら……なんで影から攻撃出来るんだ?」
「多分、スピンボールだな。ビー玉に横回転をかけて、壁にぶつかった時の反射角を調節してるんだ」
 タケルがそう呟いた直後、藍人の声が聞こえてきた。
「ぬふふふ!そのとおーーり!!」
 見ると、正面からスイートシスターズの三人がやってきた。
「僕のサファイドルと赤鈴のルビークは、ホールドパーツの片側にラバーを装着してビー玉に横回転をかけられるようにしてあるのさ!
僕が右で、赤鈴が左!僕らの愛のスピンコンビネーションで初見の敵は一撃さ!ね、赤鈴~」
 藍人が得意気に説明したのち、赤鈴に迫るのだが、ぶん殴られる。
「アホ兄貴!何ベラベラと説明してんのよ!」
「うぅ、ごめんよ赤鈴~」
 ルビークは、孔雀を模したヘッドに、右アームに片手撃ち用サイドグリップを搭載したルビー色のビーダマン。
 サファイドルは、コンドルを模したヘッドに、左アームに片手撃ち用サイドグリップを搭載したサファイア色のビーダマンだ。
 奇襲が得意と言いながらも真正面から堂々と現れたのは、こちらの戦力が減った事で、もう隠れながらの奇襲は必要ないと判断したのだろう。
「まずは奇襲でこちらの戦力を削減し、あとは物量作戦でごり押しってわけか」
「そういう事です。私のエメラホークは二人と違って、ノーマルのコアで性能バランスは良好です。真正面からの力押しでも負けはしませんよ」
 エメラホークは、鷹を模したヘッドに、ルビークの左アーム、サファイドルの右アームとよく似た形のアームを付けたエメラルド色のビーダマンだ。
 ルビーク、サファイドルと違って両手撃ち用らしく、コアもノーマルの二本爪で、特殊なスピン機と違って普通にパワーと連射のバランスが良さそうだ。
「舐めるなよ、シフトチェンジ!グリップモード!!」
 タケルがシフトチェンジでレックスの腕を付け替える。
「俺だって、ブレイグのパワーを見せてやる!!」
 シュウのブレイグのホールドをシメつけてパワーショットの構えを取る。
 シスターズの三人もビーダマンを構えて、真正面からのぶつかり合いの様相だ。
「「「いけーー!!」」
 五人が同時にビー玉を撃つ。ガチンコだ!
『おおっと!仲良しファイトクラブとチームマイスイートシスターズ、いきなりのガチンコ勝負!!人数的に勝っているシスターズだが、この勝負一体どうなる!?』
「へーんっ!やっぱパワーはこっちの方が上だぜ!」
 3VS2と言う不利な状況ながら、シュウとタケルのパワーはシスターズの三人に負けていない。
「なるほど、思ったよりもやりますね」
「うぅ、3VS2ならいけると思ったけど、このままだとちょっとキツイね……」
「こうなったら赤鈴!アレをやるしかないよ!!」
 藍人が何故か嬉しそうに何かを提案をする。
「うっ、アレを……?」
 赤鈴は何故か心底いやそうにする。
「まぁ、仕方ないか」
「やったっ!」
 バッ!と、小鳥遊兄妹がガチンコ戦線から抜ける。
「なんだ?あいつら急にフォーメーションから外れたぞ?」
「いくよ、赤鈴!」
「へーい」
 バッ!
 ルビークの右アーム、サファイドル左アームが外れて、二機が左右連結をする。
「が、合体した!?」
「なんだあの形態は!」
 そして、一機になったビーダマンを赤鈴が左、藍人が右を担当し、二人で持っている。
 まぁ、互いにくっ付きながら。
「これが、僕と赤鈴の愛の最強モードさ!」
「愛とか言わない!もう、行くわよ!!」
「「ツイン・ダイビング・ラプター!!」」
 ドンッ!!
 左右連結ビーダマンから、同時にビー玉が発射される。
 発射されたビー玉が逆回転によって吸い付けられ、密着したままブッ飛んできた。
「くっ、負けるなブレイグ!!」
 ドンッ!
 シュウは負けじと迎撃しようとするのだが、弾かれてしまった!!
 バーーーン!!!
『ヒット!!シュウ君のシャドウボムがここで爆発!!なんと言うショットだ!左右連結ビーダマン!!』
「な、俺のブレイグが力負けした……!?」
「逆回転同士で密着したビー玉による二倍の質量……。
そして、左右で繋がれたビーダマンが同時にビー玉を撃つ事で、互いのホールドパーツの広がりを互いに干渉し合って、強力なシメ撃ち効果を発揮するのか……!」
 そう、左右で密着したホルパーを同時に発射すると、発射の際のホルパーの広がりが互いのホルパーをシメ付け合う形になるのだ。
「そのとーり!!僕と赤鈴の愛があってこその技さ!」
 と、藍人は調子に乗ってさらに赤鈴にくっ付こうとする。
「って、いつまでくっ付いてんのよ!このエロ兄貴!!」
 ドゴォ!!
 赤鈴の鉄拳が藍人の鳩尾に食い込む。
「うぐふぉ!!」
「今だ!!」
 その隙をついて、レックスが藍人のシャドウボムを撃破。
『上手い!タケル君が一瞬の隙をついて、藍人君のシャドウボムを撃破だ!』
「確かにお前たち兄妹のコンビネーションプレイ、合体技は脅威だ。だが、どっちか一人を倒してしまえば、それも出来なくなる!
単体でのガチンコならこっちの方が圧倒的に上だ!」
「ふっ、それはどうでしょうね?」
 縁が余裕の笑みを見せる。
「なに!?」
「強力なコンビネーションや合体技を戦略の主軸とする以上、誰か一人でも欠ける事が最大の弱点となるのは明らかです。何の対策もしてないわけがないでしょう」
「……!」
「うぐぐ……赤鈴よ……僕の屍を乗り越えて……ガクッ!」
 藍人が赤鈴にサファイドルのパーツを献上すると、倒れた。
「全く、普通に渡しなさいよね」
 と、言いつつ赤鈴はルビークにサファイドルのパーツを取り付ける。
「っ!サファイドルのパーツをつけて、また合体した!?」
「そう、これがルビークやサファイドルのパワーを合わせた機体、『ジェムオリファルコン』よ!!」
 ドンッ!!
 そういって、ジェムオリファルコンで強力なシメ撃ちを放つ。
「くっ!ツイン・ダイビング・ラプターほどじゃないが、ルビークの時よりもパワーがかなり上がっている!!」
「ジェムオリファルコンはルビークとサファイドルのパーツを合わせる事で完成する『リニアトリガー』によって強力なショットが撃てるのよ!」
「ぬふふ、リニアトリガーは磁力を帯びたトリガーとレールでリニアモーターカーと同じ原理で素早くトリガーを動かせるパーツなのさ!」
「そう、メンバーが欠けて、コンビネーションプレイや合体技が使えなくなっても。
もう片方がパーツを献上して生き残ったメンバーのビーダマンを強化する事で、その欠点をある程度補うことが出来るんですよ」
「なんだと……!でも、なんで最初からそのジェムオリファルコンを二機作らなかったんだ?」
 最もな疑問だ。パーツをあわせるだけで性能が上がるタイプの合体なら。最初から合体機を複数用意すればいいだけの話だ。
「ジェムオリファルコンの状態だと、パワーが強すぎてスピンコンビネーションは上手くできないし、ツイン・ダイビング・ラプターも出来ませんからね」
 この答えは確かに納得の行くものだった。
 単機でのパワーが多少強くなっても、コンビネーションプレイや合体技が出来なくなってはチームとしての戦力は総合的に下がってしまうだろう。
「なるほど。この合体形態はパワーアップのためでなく、あくまでメンバーが減った時のパワーダウンを軽減するための救済措置ってわけか」
「縁、おしゃべりはそこまでよ!一気に決めるわよ!」
「そうですね!これなら、物量でも負けはしません!!」
 ズドドドド!!
 エメラホークとジェムオリファルコンのパワーショットと連射がレックスに襲い掛かる。
「くそっ!」
 タケルも必死に対抗するのだが、さすがに敵わない。
 そして……!
 バーーーーン!!!
『決まったー!健闘むなしくタケル君もここで脱落!!よって、第1バトルの勝者はチームマイスイートシスターズだ!!!』
「やったね赤鈴~!!」
 歓喜のあまり藍人が赤鈴に抱きつこうとする。
「調子に乗るな、クソ兄貴!」
 ゲシッ!と赤鈴は藍人を足蹴にする。
「やれやれ、勝ってもこの調子ですか……」
 縁は額を押えてため息をついた。
 一方の負けてしまった仲良しファイトクラブ。
「くっそぉ、俺達が負けるなんて……」
「見くびっていたな。あの兄妹、仲は悪いがバトル中でのコンビネーションは抜群だ。しかもあの縁って奴、温厚な顔してかなりの策略家だぞ……!」
「でも、まだ一回目のバトルが終わっただけだ!残り二本、絶対に勝ってやるぜ!!」
 負けてもめげずに、シュウは闘志を燃やす。
「やいやい!!」
 シュウはケンカをしている兄妹に向かって啖呵を切る。
「見てろよ!次は絶対に負けねぇからなぁ!!」
「ふっ、望むところです」
「返り討ちにしてやるわよ!」
「僕と赤鈴の愛の力に勝てるかな?」
「おもしれぇ!やってやろうぜ、ブレイグ!!」

     つづく

 次回予告

「くっそー!決勝戦第一バトルは、相手に勝ちを譲っちまった!でも、勝負はあと二回あるんだ!相手の戦術は全部分かったんだし、あとは全力でぶつかってやる!!
と、俺達が闘志を燃やしている時、あやねぇがシスターズの赤鈴と会って話をしていたみたいなんだ。一体、何の話をしたんだ?
 次回!『お兄ちゃんの事なんかぜんぜんきらい!』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」

 

 



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