オリジナルビーダマン物語 第10話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第10話「分断!シュウとタケル ゴールにたどり着くのは?!」




 無事お化け屋敷を抜けたシュウ。
 しかし、タケルと別れ、一人で二人のビーダーと戦う事になってしまった。
 シュウは持ちこたえる事が出来るのだろうか!?
「くっそぉ!防御するので手一杯だ!!」
 インビジハリアーの連射にインビジライヤの音無しショットの二段攻撃に、さすがのブレイグもパワーが足りない。
 と言うか、手数で攻められたらパワーショットだけじゃどうしようもないのだ。
 出来るだけ一気にパワーショットで何発か撃ち落すようにしているが、撃ち漏らしは避ける事に集中しかない。
 これでは、反撃に転じる隙が無いのだ。
「くっくっく、そろそろ動きが鈍ってきたでござるな、ニンニン」
「フフフ、さすがに二人がかりでは耐え切れないだろう」
「ぐぐ……!」
「安心しろ、お前を葬った後はお仲間も仲良く同じように葬ってやるからな!」
「くっそー、舐めやがって!!」
 徐々にシュウは押されていく。このままやられるのは時間の問題だ。
(どうする!?一か八か、メテオールバスターで反撃するか?!いや、でもこの状態じゃ地面に向かって撃つ隙がねぇ!ちょっとでも防御の手を緩めたら、負けちまう……!)
 シュウの目から、精彩が消えていく。
「精神的に参ってきたようでござるな、ニンニン」
「当然だ。この状態で気落ちしない方がおかしい」
 奴らの言うとおり、シュウの頭の中に諦めが浮かんでいた。
 しかし、その瞬間脳裏にヒンメルの顔が映った。
(ヒンメル……!)
 ヒンメルはシュウの頭の中で小ばかにするように無表情を気取っていた。
(そうだ……こんなとこで諦めたら、一生アイツに辿り着けない!!)
 シュウの目に精彩が戻る。
「誰が、防御なんかするかよ……男だったら攻撃あるのみだ!!」
 ギンッ!とシノブと藩屏を睨みつけ、ブレイグのホルパーを思いっきりシメつける。
「うおおおおおおおお!!!!」
 バーーーーン!!
 シュウは、迎撃のショットをやや斜め下に放った。
 そのショットは向かってきたインビジハリアーの玉を弾きつつも、地面に激突。
 と、同時にその反動で、シュウは斜め後ろに飛ぶ。
「なにっ!?」
「一瞬で距離を取った!?」
「真下に撃とうとするから隙が生まれるんだ!斜め下に撃てば、迎撃しつつジャンプできる!」
 当然、その分ジャンプ力は落ちているが、この際問題ではない。
「いっけぇ!メテオールバスター!!」
 低空で、しかも距離を取っているので威力は落ちているが、それでもシュウの渾身のショットが勢い良く相手にブッ飛んでいく。
「なんでござるか、あのショットは!」
「かわすぞ藩屏!」
「御意!」
 バッ!と二人はジャンプして散った。どんなに強力なショットでもたった一発だけなら簡単に避けられる。
「くっそ、決まらなかったか!!」
 これで、勝負は振り出しだ。
 いや、体制を立て直せた分、シュウにもチャンスが増えた!
 一方のドーム内。
 彩音は観客席で、モニターとジンの実況だけを頼りにシュウ達のバトルを見守っていた。
「皆、大丈夫かな……」
 モニターにはランダムでいろんな状況が映し出されるので、自分の見たい情報がなかなか映されない。
 そんな彩音の横に、黒いビーダマンを持った長身の少年が立ってきた。そいつは第3話でシュウとぶつかった少年である。
 なんとなく、彩音はその少年を横目で見上げる。少年は、蔑むような視線をモニターに向けていた。
「くだらない……」
 少年は、吐き捨てた。
「忌々しいほどに、くだらない」
 くだらない、とは見下すための言葉だ。
 つまりは、つまらない。とか、バカバカしい。とか、そんな感情で発する言葉のはずだ。
 しかし、これほどまでに憎悪の篭った『くだらない』を彩音は今まで聞いた事が無かった。
 なんとなく気になって少年を見続けていた彩音だが、モニターにシュウの姿が映るとすぐにそっちに意識を向けた。
「奴は、あの時の……!」
 すると、その少年も同じようにシュウがモニターに映った瞬間に反応した。
『各所で大激突を繰り広げるビーダー達!のおっと!仲良しファイトクラブのシュウ君、たった一人で二人のビーダーを相手にしている!!大丈夫かぁ!?』
 モニターに映るのは、劣勢を強いられているシュウだ。しかし、ブレイグの力でなんとか持ちこたえている。
(あの性能……やはりただのビーダマンではないのか)
 その時、少年は、隣に座っている少女がモニターに映っているシュウに対して呟いているのが聞こえた。
「シュウ君……!」
 彩音は膝の上に置いた手を強く握り締めている。それは、明らかにシュウを心配している仕草だ。
「おい、貴様……!」
 少年は、彩音に声をかけた。
「えっ?わ、私ですか……?」
 不意に声をかけられて、彩音はハッとする。
「あぁ。貴様、あいつの仲間か?」
 少年は、ぶっきらぼうにたずねる。
「え、えぇ、まぁ……」
「ならば教えろ!奴の持っているビーダマンは誰が作った!?」
 見ず知らずの人間からのいきなりの問い。素直に応える必要は無い。
 だが、鬼気迫る少年の勢い。そして、その疑問は彩音自身も前々から抱いていたものだったから、無視できなかった。
「それは、分からないの……ただ、なんとなく、何か覚えがあるような気はするんだけど……」
 要領の得ない答えだった。
「ちっ、そうか……」
 少年は、無礼にも舌打ちする。
(白か黒かは分からぬままか。まぁ、多少性能は高いようだが、あのビーダマンだと仮定するとしたら、あまりにも弱すぎる。
祖父様から聞いていた力の半分にも及ばない。ほぼ白と考えるべきだな)
 少年はブレイグに対する興味を失い、なんともなしに黒いビーダマンを取り出して眺めた。
 彩音にも、その少年が持っているビーダマンが視界に映った。 
「黒龍モチーフ……?」
 シュウと同じ龍モチーフのビーダマンという事で彩音は特に他意はなく反射的に呟いていた。
「あれ、そのヘッド……」
 無意識の呟きだった。無意識に頭に浮かんだ言葉を、無意識に口に出していた。
 それは、ブレイグを見た時にも感じた事だった……。
「貴様っ、ドライグを知っているのか!?つまり、祖父様と関わりがあるのか!?」
 またも、少年が鬼気迫る勢いで詰め寄ってきた。
「い、いえ……ただ、見た事無いビーダマンだなぁって、その……」
 彩音自身、なんであんな事を呟いたのかも分からない。
 ただ、オリジナルのビーダマンだったから反応しただけなのだろうと自分の中で納得するしかなかったし、少年にもそう納得してもらうしかない。
「……すまない。こいつは、死んだ祖父様が……いや、死なされた祖父様が作り上げた最強のビーダマンだ。まだ未完成だが」
「お祖父さんの、形見なんですね」
「こいつが完成すれば、な」
 少年がブレイグの事について質問したり、彩音が祖父と知り合いか問うたのはそのためなのかもしれない。
 ドライグを完成させるために、少しでも死んだ祖父に関わる情報を集めようとしているのだ。彩音はそう納得した。
「おしゃべりが過ぎたな。祖父様とも、あのビーダマンとも関係ないのなら、貴様とは今後一切関わる事は無いだろう。忘れるがいい」
 それだけ言うと少年は踵を返して歩いていった。
 その後ろを、付き人と思われる黒服の男が二人付いてきていた。
「タクマ様、どうされました?」
「何か有益な情報は……?」
「お前たち、撤収だ。もうここに用は無い」
「えっ、しかし、まだ予選も終わっていませんよ?」
「……こっちの世界のチャンピオンが主催している大会だ。少しは益になると思ったが、やはりこの世界のビーダマンは間違っている。これ以上ここにいても無意味だ」
 少年は吐き捨てるように言うと、黒服を連れて会場を出て行った。
「……タクマ?シュウ君の知り合いかな?」
 彩音は、その一部始終を、なんともなしに眺めていた。
 忘れろとは言われたが、あまりにもインパクトの強い出会いだった。
 そして、場面転化。
 シュウは、なんとか忍者ビーダー達とのバトルを振り出しに戻す事に成功していた。
「あの妙なショットには驚かされたでござるが、お主の劣勢は変わらないでござるよ、ニンニン」
「だが少し長引かせすぎた。そろそろ決めるぞ!」
 再びハリアーとジライヤの攻撃がシュウに襲い掛かる。
「負けねぇぞ、絶対!!」
 シュウも迎撃態勢を取る。
 その時だった。
 バーン!ババーン!!
 シノブと藩屏のシャドウボムが爆発。
「な、なに!?」
「どういう事でござるか!!」
「な、なんだ!?他のチームの奴らか!?」
 この状況で、忍者二人のボムがやられたとしたら、第三者の介入があった可能性が高い。
 シュウは身構えて、忍者達のボムを破壊したビー玉が飛んできた方向を見据える。
 しかし、そこにいたのは……。
「タ、タケル……!」
「待たせたな、シュウ!」
 タケルが、不敵に笑い片手を上げる。
「でも、どうして、逆走したんじゃ……?」 
「あぁ、あれは囮だ。
どうせ敵さんは分断せずに出口に向かったシュウを集中狙いするだろうからな、ある程度走ったところですぐに後を追って、隙を突かせてもらったってわけさ」
「くそっ、騙したと言うのか……!」
 シノブがタケルを睨みつける。
「『これはサバイバルバトル。油断する方が悪い』違うか?」
 さきほど言った言葉をそのまま返されて、シノブは悔しそうに口を歪めた。
「くっ……よもや我々が奇襲によって敗れるとは」
「悔しいで、ござる」
 タケルは、堂々と二人の横を通ってシュウの元に歩み寄る。
「タケル~、ったくビックリさせんなよ。焦ったぜ……」
 タケルが傍に来ると、シュウはホッと肩の力を抜いた。
「わりぃ。説明してる余裕無かった。まぁでもお前だったらあのくらい持ちこたえられるって思ったからな。だろ?」
「ま、まぁな!あのくらい軽いぜ!むしろタケル来なかったとしても俺が一人でやっつけてたね!!」
 シュウのあからさまな強がりに、タケルは笑った。
「はっはっは、そう言うと思った!さて、とっとと行こうぜ。ちょっと時間食いすぎた」
「おう!」
 タケルとシュウは矢印の方向へ駆け出した。
 そして、次に差し掛かったのは……。
「アドベンチャークルーズだな」
 アドベンチャークルーズとは、熱帯の河を模したフィールドをボートで下っていくと言うアトラクションだ。
「タケル~!ボートあるぜ、乗っていこう!」
 シュウは、入り口に備え付けてある木製ボートに早速乗り込んだ。
「あ、シュウ!ったく、少しは慎重に動けよ……」
「とっとと行こうって言ったのはタケルだろ」
「ったくしゃあねぇな」
 タケルも木製ボートに乗った。
 ボートは自動操縦の電動式のようだ。二人が乗り込んでしばらくしたら動き出した。
「今度は一体どんな仕掛けなんだ?」
「さぁな。ただ、見た感じ周回するように見えないから、乗ってたら普通に順路どおりに行くんじゃないか?」
 タケルの言うとおり、普段はボートが周回するようなコースになっているのだが、改造されているのか周回コースにはなっておらず、一本道になっている。
「う~、このままだとつまらないなぁ。なんかピラニアとかワニとか襲ってこないかなぁ~」
「物騒な事言うなよ……」
 と、突っ込むタケルの後ろで、大きな水しぶきが……。
 ザバァ……!
 そこに現れたんのは、大口を開ける緑色の顎……。
「た、たたた、タケル……!後ろ後ろ!」
「ん?」
 振り返るタケル。そこには、今にも獲物に齧り付かんとするワニの姿があった。
「う、うわああああ!!」
 さすがのタケルもこれには驚く。
「タケル伏せろ!」
 シュウに言われるままにタケルは伏せ、シュウはワニの喉にビー玉をぶち込んだ。
 バーーーン!!
 ワニはショットの衝撃で吹っ飛んだ。
「さっきのお化け屋敷と一緒だ!襲ってくる動物を迎撃していけばいいんだ!」
「よ、よし!」
 タケルも体勢を立て直す。
 次に襲ってきたのは、ピラニアの大群だ。
 まるでトビウオのようにジャンプしてくる。
「うおおおお!!!!」
 ドギュッ!ドギュッ!!
 二人は、見事な連携プレイでそれを次々撃破していく。
「へへっ、楽勝だぜ!」
「シュウ、あまり調子に乗るな!ここからは流れが速くなってる!暴れすぎるとボートから落ちるぞ!」
「へーきへーき!」
 タケルの言うとおり、河の流れが激しくなり、ボートが左右に揺さぶられる。見ると、所々に渦巻きが発生しているほどだ。
 しかし、シュウはタケルの忠告を無視して激しいプレイをやめる気はない。
「うおおおお!!!
 ボートはかなり揺さぶられていると言うのに、シュウは何かに掴まる事もせずに敵を撃破する事にばかり集中している。
 その時だった。
 ガッ!!
 ボートが岩に乗り上げ、大きく跳ね上がる。
「うっ!」
 注意していたタケルは咄嗟にボートの縁に掴まって何を逃れたが、ずっとビーダマンしか持っていなかったシュウはそのまま外に投げ出される。
「う、うわああああ!!!」
 バッシャーン!!
 シュウは激流の中に落ちてしまった。
「シュウ!」
 タケルはすぐに手を伸ばすが、届かない。
「くっ!」
 シュウもボートに戻ろうと、必死で泳ぐのだが、川の流れは思いの他強く、全く近づけない。
「ダメだっ、タケル先に行け!俺もすぐに合流するから!」
 シュウは、泳ぐのを諦めて激流に身を任せる事にした。
「くそっ、シュウ~~!!!」
 タケルは、流れ去っていくシュウに叫びを上げることしか出来なかった。
 ……。
 ………。
 ピチョン……!
「う、うぅ~ん」
 シュウは、頬に落ちる水滴の冷たさで目が覚めた。
「ここは……」
 目をあけると薄暗い岩の天井が見えた。
 半袖の腕にひんやりとした岩の感触がある。
 どうやら、流れ着いた洞窟の中で仰向けになっているようだ。
「うぅ~ん……」
 しばらく硬い地面の上で横になっていたため、体の節々が痛い。
「なんとか、流れ着いたみたいだけど、どこだここは……」
 周りを見渡すが、矢印らしきものが見つからない。どうやら順路から完全に外れてしまったっぽい。
「嘘だろぉ……。せめて順路に戻るための矢印とか用意して無いのかよ!」
 恐らく運営も想定としてないルートなのだろう。
「あ、ってかシャドウボム大丈夫か!?めっちゃくちゃ水に浸かったけど!」
 シュウは慌てて傍にあるシャドウボムを手に取った。
 耳を澄ますと、微かにモーター音が聞こえる。ちゃんと作動しているようだ。
「ふぅ、ちゃんと防水加工してあるんだ。よかった」
 これで失格になる事は無いだろう、多分。
「とにかく、なんとか地上に戻らなきゃなぁ」
 でたらめに歩いてどうにかなるものではないが、ジッとしていても何もならないだろう。
 シュウは、とりあえず歩き出した。
「暗くて歩きづらいだけで、特に仕掛けとかは無いんだなぁ。順路じゃないからかな?」
 洞窟内はシュウの足音とシャドウボムのモーター音だけが静かに鳴り響いていた。
「う~ん、何を目印に歩けばいいんだぁ!?」
 暗いとは言え、多少視界は確保できる。隣には、河が流れているのだが、別に人里を探しているわけではないので目印にはならないだろう。
 パキンッ!
「誰かいるのか?」
 その時、後ろから別の足音が聞こえたかと思ったら、声をかけられた。
「へっ?」
 振り向いたところにいたのは、シャドウボムを従えた少年だった。
「お前は……!」
 まさか、自分以外にもこんなところに迷い込んだビーダーがいるとは。シュウは素早く身構える。
「いや、待ってくれ!僕に戦う意志は無い!」
 戦闘態勢に入ったシュウに対して少年は両手を上げた。
「え、なんだよ。お前ビーダーじゃないのか?」
「もちろん、大会に参加してるビーダーさ。だけど、ここは一旦休戦協定を結ばないか?」
「きゅうせんきょ……なんだって?」
 難しい言葉は分からない。
「だから、一旦手を結ぼうって言ってるんだ。君も、何か事故で順路から外れてここに迷い込んだんだろ?」
「ま、まぁな……アドベンチャークルーズの激流に流されて。タケルとも離れ離れに……」
「僕もさ。マウンテントレインの崖登りで足を滑らせてね……メンバーと別れてしまった」
 マウンテントレインとは、山道をゆっくり走って景色を楽しむ鉄道型アトラクションだ。
 この大会用に山登り系のステージに改造されていたのだろう。
「多分ここは運営も想定していないエリアだろう。だから、脱出するための措置はきっと用意されていない。自力でなんとか出口を見つけるしかないんだ」
「そ、そんなぁ……!」
 まさかとは思っていたが、少年の言葉を聞いてシュウは絶望した。
「だからこそ、脱出するためにも仲間は一人でも多い方がいい。ここで対立しあうよりも協力していった方が得策だと思わないか?」
「た、確かに」
 脱出のためのお助け装置が運営側で用意されていないのなら、例え敵だとしても仲間になってくれた方が心強い。
「だけど、脱出出来たら敵同士だかんな!」
「当然さ。無事辿り着けたら、その時に決着をつけよう!」
「よっしゃ!じゃあよろしくな!」
 シュウと少年は、握手した。
「俺は、仲良しファイトクラブの修司。シュウって呼んでくれ」
「僕は前田誠。チームバスターズのリーダーだ」
「ちーむばすたーず……?」
 そういえば、どこかで聞いた事がある。
「あっ、そういえば一次予選で一位だったチームだ!」
 そう、400点と言う圧倒的トップで予選を突破したチームだ。
「すっげぇよなぁ。あんな得点が出るとは思わなかった!」
「あはは、そんな大した事じゃないさ」
「大した事だぜ。俺達も自信あったんだけどなぁ。なぁなぁ、どんなビーダマン使ったんだ?あれだけの高得点だったんだ、ビーダマンもすげぇ改造してあるんだろ!?」
「そう、思うかい?」
「?」
 誠は、ビーダマンを取り出して、シュウに見せた。
「え、これが……?」
 それを見て、シュウは目を丸くした。
「そう、これが僕の大切な愛機。ゼンダグラップラーさ」
「……って、市販品じゃん!嘘だろぉ!?」
「嘘じゃないさ」
 そういって、誠は、近くに突き出ている無数の岩に向かって連射した。
 カンッ!カンッ!カンッ!!
 次々と岩が折れていく。
「す、すげぇ……!」
「僕のチームには優秀なメカニックはいない。だから他のチームみたいに凄い改造をしたビーダマンは用意できない。
だけど、例え性能の劣る市販品でも、毎日丁寧に手入れして一生懸命練習すれば高性能のビーダマンにも勝てるビーダマンになれる。僕は、そう思っている」
「……」
 シュウは、なんとなくブレイグを見つめた。
 確かにブレイグは凄いビーダマン、らしい。でも、結局バトルで結果を出すのはビーダー次第なのだ。
「でも、俺だって!」
 シュウも誠が倒している無数の岩に向かってショットを放つ。
 バーーン!!
 一発の衝撃で複数の岩がぶっ飛んだ。これは誠には出来なかった事だ。
「俺は、ブレイグが相棒だから。だから、誰にも負けたくない!」
 互いに見つめあい、二人はフッと笑った。
「脱出した時が、楽しみだな」
「ああ!」
 未来のバトルにワクワクしながらも、二人は先に進む事にした。
「でも、何を目指して進めばいいんだ?」
「ちょっと待って」
 誠は、人差し指を唾で濡らし、ピンッと立てる。
「……こっちだ」
 そう言って、歩き出した。
「ああ、待てよ!」
 シュウは、慌ててその後を追った。
「なぁ、なんでそっちだと思ったんだ?」
「風だよ。ここが洞窟なら、風が吹いた方向には必ず外と繋がっている事になる」
「なるほど……」
 誠はなかなか冷静で頭の切れる頼りになる奴っぽい。さすがはチームリーダーをしているだけの事はある。
 しばらく進むと、光沢する地面が現れた。左側に河があり、右側には壁があり、壁にはいくつか穴が空いている。
 川の流れは速い。落ちたら流されてしまうだろう。
「……」
 誠はその道の手前で止まった。
「どうしたんだ?早く行こうぜ」
「いや、待って。少し、様子を見た方がいい」
 先に進みそうなシュウを誠が止める。
 すると、ゴゴゴゴと何やら地響きが……。
「なんだ!?」
 プッシャアアアアアア!!!
 壁の穴から、水がポンプのように噴出してきた。
「げぇぇ!?」
「やっぱり、あの穴は時間が経つと水が吹き出るんだ」
「よ、よく分かったな……!」
「地面が濡れて光ってたからね。こういう洞窟だと溜まった水が壁の穴から噴出する事がよくあるから」
「でも、どうするんだ?結構距離あるし、このままじゃ渡れないぞ」
「よしっ!」
 少年は、肩にかけていたバッグを降ろして、中から透明の糸と接着剤、そして軍手を二組取り出した。
 透明の糸をビー玉に接着剤でくっ付ける。
「それは?」
「ピアノ線さ。これをビーダマンで飛ばして、向こうの岩にめり込ませれば、それを蔦って渡れるかもしれない」
「な、なんでそんなもの持ってるんだ……」
「普段はビーダマンが壊れた時のための補強用なんだけど、まさかこんな所で役に立つとは思わなかった」
 そう言って、誠は線をくっ付けたビー玉をゼンダグラップラーにセットしようとして留まった。
「……ダメだ、僕のビーダマンじゃ」
「なんで?」
「ドライブ回転用のコアを装備してる。ピアノ線くっ付けた状態でドライブ回転したら、まともに飛ばせない」
「回転か……」
 “どうして、下爪がラバーじゃないんだろう?”
 ふいに、彩音の言葉が脳裏をよぎった。
「そうだ!俺のビーダマンなら、無回転だから大丈夫だ!」
「え、君のビーダマンパワー特化みたいなのにドライブしないんだ?」
「理由は俺にも分からないんだけどさ。でもとにかくブレイグなら大丈夫だ!」
「分かった。ここは任せるよ」
 シュウは、ブレイグにピアノ線ビー玉をセット。
 そして、向こう側にある、突き出ている岩に向けて発射した。
 バゴッ!!
 発射した玉は見事、岩にめり込んで、ピアノ線が一直線に張られた。
「よっしゃ!」
「よし!」
 誠は早速、手元にあるピアノ線の端を近くの岩に括りつけた。
「これで、渡れるはずだ!」
 二人は手が切れないように軍手をして、ピアノ線を伝いながら進む。
「くぅ、結構足滑るな……!」
「しかも、川向かって斜面になってるから、水が吹き出なくても普通に進んでたら落ちてたところだよ」
 二人は慎重に進んでいく。ようやく、濡れてない地面に辿り着けそうだ。
「もう少しだ……!」
 その時!
 ゴゴゴゴと再び地響きが聞こえたかと思うと、壁から物凄い勢いで水が噴出してきた。
「ぐっ!!」
 シュウは、足を踏ん張って必死で耐える。
「うわああああ!!!」
 しかし、誠が足を滑らせてしまい、そのまま川へ……!
「誠!!」
 ガシッ!!
 咄嗟にシュウが誠の手を掴む。
「シュウ、君……!」
「大丈夫か!?」
「うん……ありがとう」
「協力し合うって言っただろ。お前ばっかりにいい格好させられねぇよ」
 シュウは力を込めて誠を引き上げた。
 そして、濡れた路面をなんとか渡りきることができた。
「ふぅ、ひやひやしたぜ」
「うん……あっ、あれは、光だ!」
 誠が指差した方には、光が微かに見えてきた。
「やった、これで出られるぞ!!」
 二人は、光に向かって駆け出す。
 光は徐々に大きくなっていく。間違いなく出口だ。
 眩い光に包まれたかと思うと、二人の体に外気が吹き付ける。明らかに手入れされていない茂みらしき所ではあるが、とにかく出られたものは出られた。
「やった、出られた!!!」
「ああ。しかもアレ!」
 目の前には東京都ドームと『東口』と書かれたデカイ文字。そしてターゲットと思われる像があった。
 順路からはかなり外れていたが、運よくドームの前に繋がっていたようだ。
 像はまだ誰にも破壊されていない。つまり、ここで東口の像を破壊すれば二次予選突破だ。
「あれを破壊すれば良いんだな!」
「よし、シュウ君。ここからはライバル同士だ!どっちが先にターゲットを撃破するか!」
「ああ!勝負だぜ!!」
 二人は、ターゲット目掛けてショットを放つ。
 真っ直ぐに、二つのショットがターゲットに向かって行く。
 しかし、突如謎の人影が現れたかと思うと、二つのビー玉を弾いてしまった。
「な、なにぃ!?」
「誰だ!!」
 二人の前に立ちはだかったその男は、まるで侍のような格好をしていた。
「て、てめぇ!横から勝手に割り込んできて何するんだ!」
「……」
 シュウは割り込まれた事に怒っているが、誠は別の事を考えていた。
(今の、僕らのショットを、彼は手振って弾いたように見えたけど……?)
 いや、それはありえない。ルールで禁止されているのもあるが、ビーダマンから発射された玉はかなり強力だ。
 それを、手で弾くのは物理的に無理がある。ビーダマンで発射された玉はビーダマンから発射された玉でなければ、そうそう弾き返せるものではない。
「横から割り込んできたのは、貴殿たちの方であろう。某は武士道に則り、正々堂々と順路を通ってきたのだからな」
「ぐっ……!だ、だったら今から正々堂々バトルしてやる!」
 ブレイグを掲げるシュウに対して、侍男はニヤリと笑う。
「某の名は村居玄摩(むらいげんま)。宣言しよう、我が愛機『凱旋刃(がいせんじん)』は、一発も撃たずに貴殿達を討ち倒すと」
 玄摩は、『凱旋刃』と言うビーダマンを突き出して勝利宣言する。
(どういう意味だ?)
 誠は、その勝利宣言を不審に思うのだが、頭に血が上ったシュウはバトルすることしか考えられない。
「な、舐めやがって……!誠、あんな奴さっさとぶっ倒して、勝負の続きしようぜ!」
「え、あ、あぁ……!」
 シュウの勢いに乗せられ、誠もビーダマンを構える。
「愚かな」
「「いっけぇ!!!」」
 二人は、玄摩に向かってショットを放つ。
「ぬぅん!!」
 玄摩はそのショットに向かって、ビーダマンを刀のように薙いだ。
「「な、なにぃ?!」」
 バーーーーン!!!!
 シャドウボムの爆発音が響く。
『おおっと!ゴール前の大激戦!!ここで、チームバスターズの誠君が惜しくも敗退だああああ!!!』
「くっ……!」
「な、なんだよ、何が起きたんだ……?」
 玄摩は一発も玉を撃ってなかった。
 そして、シュウと誠は確かに玄摩に向かってショットを放った。
 なのに、今シャドウボムが爆発したのは誠だった。
「一匹仕損じたか」
 いや、シュウのシャドウボムも、あと数センチ位置がズレていたら誠と同じようにやられていた。 
「ぐぐっ!何やったか知らねぇが、今度こそ決めてやる!!」
 ドギューーーーン!!!
 その時、シュウの背後からビー玉の発射音が聞こえてきた。
「うっ!?」
 咄嗟に反応して、それを避ける。
「けっけっけっ!誰かもうゴールしてると思ったけど、ラッキーだぜ!!まさかゴール前でバトルしてるとはなぁ!」
 シュウの後ろで、ビーダマンを構えた目つきの悪い少年がニヤニヤ笑っていた。
「お、お前!よくもバトルの邪魔を!!」
「ケツを向けてるお前が悪いのさ!さて、これでお前ら二人ともゴールターゲットに背を向けたな!この状態なら、俺が一番ターゲットを早く狙える!!」
 少年の目的は、シュウや玄摩を倒す事ではなかった。
 ゴールターゲットに最も近い二人の注意を、ゴールターゲットよりも遠い位置にいる自分に向けさせることで、ターゲットに背を向けさせることだったのだ。
 今同時にターゲットを狙えば、一番遠い位置にいるとはいえ、真正面を向いているこの少年が最も早く反応できる。
「しまった!」
「おらあああ!!!」
 少年は、ターゲットに向かってショットする。
 ドギュンッ!!
「くっ!」
 シュウも慌てて振り返ってショットする。が、その前に少年のショットがシュウの横を掠めてターゲットに飛んでいく。とてもじゃないが追いつけない。
「ふん、くだらない。武士の風上にも置けん」
 ザッ!
 玄摩は、素早くそのビー玉の前に出た。
「迎撃する気か?!いくらなんでも間に合わないぜ!!!」
「忠告してやろう。漁夫の利で掴めるほど、ビーバトルの勝利は甘く無いと!」
 さっきと同じように、玄摩はそのビー玉に向かって、ビーダマンを薙ぐ。
 バーーーン!!
「んなっ!」
 そして、慌てて撃ったせいかシュウのショットはターゲットから外れていた。
『下田達也君!ゴール前で惜しくも敗退だ!!』
 そして、玄摩は踵を返し、ターゲットに向かってビーダマンを薙いだ。
 ターゲットは、まるで日本刀で斬られたかのように真っ二つになった。
「ビーダマン武士道を極めるのは、某だ!」

     つづく

 次回予告

「ぐわあああ、負けたああああ!!!ゴールまであとちょっとだったのに、わけのわからない侍野郎に先を越されてしまった!!!
うぅ、俺の打倒ヒンメルへの道が……って、あれ、タケル先にゴールしてたんだ?よかったぁ。
しかし、本戦の最初の相手は俺が負けた侍野郎のチームだった!
 次回!『ビーダー幕府!チーム風林火山推参!!』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」

 

 




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