洗濯バサミ!フリックス・アレイ第3話

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第3話「不思議シュートポイント!アッと驚く大跳躍!!」
 
 
「ヤバイ遅刻だーーー!!!」
 日がやや傾いてきた時間帯。
 頭にウサギのこころを乗せたタクミは急いで商店街を駆け抜けていきます。
「ぶひ!ぶひひひ!!」
 頭の上で、こころがタクミの後頭部をガシガシと噛みつきました。
 どうやら走る事で起こる振動が気に入らないようです。
「いた、いたた!しょうがないだろぉ、サミンが完成した時に安心して寝ちゃったんだからぁ!ってか、何かってに頭の上に乗ってんだよ!!」
 どうやら徹夜で作業したのちに眠ってしまったせいでトオルとの約束に遅れそうになっているようです。
 そして、こころが頭の上に乗っているのも構わずに慌てて飛び出したみたいです。
「今更家に戻ってる時間もないし、バトル中はおとなしくしてろよ、こころ!」
「ぶひぶひ!!」
 こころは分かってるのか分かってないのか、鼻を鳴らして返事をしました。

 3丁目の空き地の中央で、トオルが一人立っていました。
 自信満々な顔つきで空き地の入り口を見据えています。
 しばらくすると、タクミが息を切らしながら走ってやってきました。
「はぁ、はぁ……間に合ったぁ……!」
 トオルの前までくると、タクミは膝に手をついて息を整えます。
「なんだ、時間ぎりぎりになっても来ないから、ビビッて逃げたのかと思ったぜ」
「そ、そんなわけないだろぉ……やっとこいつが完成したんだからな!」
「こいつ?」
「そうさ。これが僕の新しい愛機!僕の強さとパパの洗濯バサミの凄さを証明してくれるフリックスさ!」
 そう言って、バクタンセ・サミンを見せつけました。
「ぷっあっはっはっは!」
 それを見たトオルは笑い始めます。
「な、なにがおかしい!」
「いや、だってお前!洗濯バサミをフリックスに取り付けるなんて聞いた事ないぞ!いくら洗濯バサミとフリックスの両方を証明するって言ってもなぁ!」
「ふん、笑ってられるのも今のうちさ!ちゃんと考えて作ったんだからな!」
「まぁいいや。それじゃ、そろそろ行くか」
 トオルはパチンと指を鳴らしました。
 すると、けたたましい音とともに、頭上に無数のヘリが現れたのです。
 そのヘリには、身を乗り出すようにカメラを構えている人や、マイクを使ってなにやらしゃべっている人が見えます。
「な、な、ななな、なんだぁ!?」
「あぁ、全部ローカルだけど。テレビ局や新聞記者、雑誌編集者に……呼べるだけのマスコミを呼んどいたんだ。『江戸時代から代々続く老舗の存亡と大企業琴井コンツェルンの新事業立ち上げを賭けた大決戦フリックスバトルが行われる』って言ってね。地元のマスコミたちはネタ不足だったみたいだから簡単に食いついてくれたぜ」
「そ、そんなオーバーな……」
「何がオーバーなもんか。言っとくけど、これはお前との約束を果たすためだからな」
「約束って……あぁ……」
 タクミは、『タクミが勝ったらセンバ屋の宣伝をしてくれる』とトオルが言っていたことを思い出しました。
「これで勝てればいい宣伝になるだろ?まっ、負ければ逆効果だけどな!どうした、怖気づいちゃったかな?」
「誰が!」
 タクミとトオルがいがみ合っていると、いつの間にか地上に降り立ったカメラマンとリポーターらしき女の人が近づいてきます。
「さて、今私は世紀の決戦の場へ降り立っています。戦うのは、琴井コンツェルンの御曹司琴井トオル君と老舗センバ屋の跡取り息子仙葉タクミ君です!それでは早速二人に話しかけてみましょう」
 
 女の人がマイクをトオルへ向けました。
「チーバテレビのものです。トオル君、今回の決戦についての意気込みをお願いします」
 トオルは突然向けられたマイクに臆することなく自信満々に答えます。
「ふふん、こんな勝負やる前から決着がついてるようなものですけど。みなさんにはなるべく楽しんでもらえるよう、手加減して戦ってあげますよ」
「な、なんだとぉ……」
「あんな洗濯バサミくっつけたふざけたフリックスなんか僕の敵じゃないって事さ」
「はい、ありがとうございました。それでは、仙葉タクミ君。自信満々なトオル君へ一言お願いします!」
 リポーターが今度はタクミにマイクを向けました。
「このぉ……!見てろぉ!センバ屋の洗濯バサミは世界一、いやそれどころか千葉一なんだ!!今日それを証明してやるさ!!」
「千葉一とは、ずいぶんとでっかく出たなぁ!」
「あぁ!洗濯バサミだけにな!!」
「誰が上手い事言えといったよ」
 タクミとトオルの高度なダジャレは、マスコミたちには通じなかったようで、みな首をかしげていました。
「あ、あはは……それでは二人とも頑張ってください。失礼します~」
 意味の通じないダジャレに呆れたリポーターとカメラマンはささっとその場を離れました。
 
「ぶひ!ぶひ!」
 頭の上にいるこころがせわしなく鼻を鳴らします。さっさとバトルを始めろと急かしているようです。
「あぁ、分かったよこころ。トオル、とにかくはじめよう!」
「ああ、そうだな」
 トオルが頭上のヘリに合図をすると、ヘリからワイヤーで吊るされたフィールドがゆっくりと降りてきました。
  
 ズドン……小さく振動しながら、二人の間にフィールドが降ろされました。
 フィールドは長方形で障害物のない典型的なものです。
 長い方の2辺には高さ5mmほどのフェンスが備え付けてあり、全力でシュートしても自滅の心配が少なそうです。
「いちいち金持ち趣味だなぁ」
「そうひがむなよ」
「ひがんでないっての」
 トオルとタクミはスタート位置にフリックスをセットします。
 
「(これがデビューだ。頼むぞ、サミン)」
「(あんなチンケなフリックスなんか、一撃でブッ飛ばしてやる)」
 
「「3・2・1・・・アクティブシュート!!」」
 
「軽くブッ飛ばしてやれ、シールドセイバー!」
 シールドセイバーは対角にいるサミンへ向かって真っすぐ飛んでいきます。
 それに対して、タクミはサミンを上から押さえつけるようにしてシュートしていました。
「な、なんだそのシュートポイントは!?」
 洗濯バサミのバネの反動で、サミンはその場で飛び上がります。
「よし、成功だサミン!」
 その下を、シールドセイバーはすり抜けてしまい自滅してしまいました。
 これで1ダメージシールドセイバーのHPは残り2です。
 
「そ、そんな……今のシュートは……!」
 思いもよらないシュート方法に、空き地内は騒然とします。
 
「す、すごいシュートです!サミンのシュートポイントはなんと洗濯バサミ!そのバネを利用して、タクミ君は大ジャンプしてトオル君の攻撃を見事躱しました!!」
 リポーターの女の人がまるで実況者のように興奮しながら話しています。
 
「そう!これが由緒正しきセンバ屋の洗濯バサミの力です!お求めは商店街のセンバ屋へ!年中無休で営業しています!!」
 タクミはサミンをカメラの方へ向けながらちゃっかりと宣伝しています。
「……ちぇ、油断しちゃったけど。こうじゃないと面白くないよな」
「負け惜しみか、トオル!」
「いいや。今のではっきりわかったさ。タクミ!お前は絶対僕には勝てない!!」
「なんだとぉ……!!」
 
 いがみ合っている二人の様子はしっかりとカメラに収められています。
 そしてその様子は生中継でローカルの茶の間に映し出されています。
 当然、センバ屋でも……。
 
「あなた!あなた!大変ですよ!!」
 店番をしているタクミの父『サクタ』へ、母『サクミ』が血相を変えて顔を出しました。
「なんだママ、騒々しい」
「タクミがテレビに出てるんですよ!!しかも、ウチの宣伝までして!!」
「なに!?それはほんとか!!」
 それを聞き、父は血相を変えて茶の間へ向かいました。
 
 テレビではちょうどタクミが
『センバ屋の洗濯バサミの力です!』 
 とサミンを掲げているところだった。
 
「タクミの奴、ウチの洗濯バサミをあんな遊びに使いおって……!」
「でも凄いじゃない!タクミがテレビでセンバ屋の宣伝をしてくれてるのよ!」
「それはそうだが……この背景は3丁目の空き地だな。こうしちゃおれん!!」
 そういって、父はテレビを消して立ち上がります。
「あなた?」
「店番なんかやってる場合じゃない!ママもきなさい」
「え、ええ!」
 母もうなずいて立ち上がりました。
  
 そして3丁目の空き地では、仕切り直しのアクティブシュートが行われるところです。
 
「「アクティブシュート!!」」
 両サイドから放たれた二機のフリックス。
 サミンはその場でジャンプをしますが、シールドセイバーは弱めにシュートされているので、中央よりもちょっと進んだ地点で止まりました。
「よしっ、僕の先手だ!」
「うっ!」
「二度も同じ手に引っかかるわけないだろ!よけられるってのが分かってれば、加減して撃つだけさ!」
 タクミは慌ててバリケードで防御しますが、シールドセイバーはフェンスを利用しての全力シュート。サミンはたまらずフリップアウトされてしまいました。
 
「どうだ!これがシールドセイバーのパワーさ」
「くっそぉ……やっぱり性能はそっちの方が上か」
 これでサミンの残りHPは1です。
「ちょっとは頑張ってくれよ。このまま決着がついたんじゃ、せっかくマスコミ呼んだのに盛り上がらないじゃないか」
「わ、分かってるよ!」
 二人は仕切り直しのために、スタート位置へつけます。
 
(これでHPは残り1……次先手取られてマインヒットされたら負けちゃう……)
 タクミは自分のマインを端にセットしますが、トオルは当然中央付近にマインをセットしています。
 これではすぐにマインヒットされてしまいます。
「でも、勝たなきゃ……!」
 グッ、とタクミの指に力が入ります。
 その時でした。
 
「こらっタクミ!!」
 空き地の入り口の方で父の声が聞こえてきました。
「げっ、このパターンは……!」
 恐る恐る入口の方を観ると、しかめっ面をした父と困ったように笑っている母が立っていました。
「パ、パパ……!」
 父はズンズンとタクミに向かって歩いてきました。
「全くお前は!またオハジキ遊びなんぞしおって!しかも勝手にテレビでウチの宣伝をするとは何事か!」
「ご、ごめんよ……僕もテレビまで来るとは思ってなかったから……」
「言い訳は良い!!……本当ならすぐにでも連れて帰る所だが……」
「パパ……このバトルだけは……!」
「分かっとる!店の看板を背負って戦っている以上は、敵前逃亡は許されん。必ず、勝ちなさい」
「パパ……」
 父はそれだけ言うとタクミから離れました。
 
「あ、あの、タクミ君のご両親……センバ屋のご主人でいらっしゃいますか?
 女リポーターが恐る恐る父へマイクへ向けました。
「え、あ、はぁ、まぁ、その……」
 慣れてないのか、しどろもどろになる父に代わって、母が口を出します。
「えぇ!創業300年。江戸時代から続く老舗の洗濯バサミ専門店、センバ屋の主人仙葉サクタと妻のサクミです。うちの商品は主人が誠心誠意心を込めた手作りの品です。皆様も、洗濯バサミでお困りでしたら、ぜひともセンバ屋までお越しください」
 テレビに向かってにこやかに宣伝しました。タクミの宣伝根性は母親譲りのようです。
 
「ダメよパパ。せっかくのチャンスなんだからアピールしなくちゃ」
「す、すまんな。どうもああいうのは苦手で……」
 職人気質な父に、商売根性のある母……一応この夫婦は互いに補い合っているようだ。

 それはともかくとして、タクミとトオルのバトルは続きます。
 両者ともにスタート位置に機体をセットして対峙。
「タクミ!ギャラリーが増えたみたいだけど、残念だったな!次は終わりだぜ!」
「負けるもんか……!」
 いよいよ運命のアクティブシュート……の前に、タクミの脚に衝撃が走ります。
「?」
 観ると、こころがぶひぶひと鼻を鳴らしながらタクミの脚に飛び蹴りをかましていました。
「な、なにするんだよこころ痛いだろ!」
「ぶひ!ぶひ!!」
 こころは必死で何かを訴えようとしているようです。
「こころ……」
 それから何かを察したタクミは、サミンのフロントを見ます。
「……ジャンプの力もバネの力も同じ……なら、その方向を変えれば……そう思ってつけてみたけど」
 
「おい、何ぶつぶつ言ってんだよ。早く始めるぞ」
「あ、あぁ!」
 
「「アクティブシュート!!」」
 
「いけっ!サミン!」
「これで決めろ!シールドセイバー!!」
 
 バキィィィ!!!!
 中央で激しくぶつかる二つの機体。パワーではシールドセイバーが優勢でしたが、サミンはその軽さ故に浮き上がり、乗り越える形でシールドセイバーよりも奥へ進みました。
 
「やった!先手を取ったぞ!」
「ちぇ、運のいい奴。まぁいいや。シールドセイバーの盾がお前なんかに飛ばせるわけないしな。バリケードするまでもないや」
 シールドセイバーは攻撃性能だけじゃなく防御性能もなかなかのものです。
 タクミは神妙な顔つきで機体の向きをシールドセイバーへ向けます。
(成功率は10回に1回……でも、賭けるしかない!)
 タクミは、フロントについた洗濯バサミの先端に、紐が結わいつけてある小さなかけらを挟みました。
「おい、何やってんだよ。さっさとシュートしろよ」
 トオルが急かしますが、タクミはそれを無視して構えました。
「ちぇ、何やっても悪あがきだってのに」
 
「タクミ……!」
 父と母も固唾を飲んで見守っています。
 
「頼むぞ……サミン!!!」
 意を決して、タクミはサミンをシュート!!!
  
 サイドシュートなので、サミンは一回転した後に、フロントの洗濯バサミがシールドセイバーにヒット。
 その瞬間、バチンッ!!と言う破裂音とともにシールドセイバーが大きくスッ飛ばされてしまいました。
「やったぁ!サミンスマッシュ成功だ!!」
 
「な、なにぃぃ!!」
 バリケードを構えていないトオルは、そのままシールドセイバーが場外している姿を見ているしかできませんでした。
 これでシールドセイバーは2ダメージ受けてHP0。
 バクタンセ・サミンの勝利です。
 
「これで僕の勝ちだあああ!!!」
 タクミはサミンを手に取って勝利の大ジャンプをします。
 そこへ、こころも一緒に飛び上がって、タクミの胸に飛び込みました。
「こころぉ!お前のおかげだよ、ありがとう!!」
 そんなタクミへ父と母も駆け寄ってきます。
「「タクミー!!」」
「パパ、ママ!!」
 
「やったな、タクミ!」
「凄かったわよ!」
「ありがとう!パパ、ママ!僕やったよ!!」
 タクミは家族に囲まれて喜びを噛みしめるのでした。
 
 
 つづく

 
次回!『ハッピー大繁盛!伝説の男の超人目星』
 
 


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