弾突バトル!フリックス・アレイ トリニティ 第38話「宿命の果たし状」

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第38話「宿命の果たし状」

 

  パパン!パーーン!!

「「「準決勝進出おめでとう〜!!」」」
 小気味良いクラッカーの音と共に児童達の祝いの声が上がる。
 トリニティカップ準々決勝大会の後日、無事に勝ち上がった小竜隊のために担任の黄山タダヨシ先生が少し広めのレンタルルームを借りて放課後に祝勝パーティを開いてくれたのだ。
 煌びやかに飾り付けられた内装に、中央に並べられた長机には豪華な料理が用意されている。

「ありがとうみんな!」
「おおきにな!」
 クラスメイトに囲まれ祝いの言葉を投げかけられるゲンジ達は照れ臭そうに礼を言った。

「でもまだ優勝したわけじゃないのに少しオーバーじゃないですか?」
「何を言うとる!ベスト4だって大したもんじゃ!それに、優勝祝いのパーティはこんなもんじゃないぞ?」
「あ、はは、プレッシャーだなぁ」
 意味深に笑う黄山先生にナガトは苦笑した。
「それに小竜隊四人が揃って勝ち上がるのもこれで最後だしねぇ〜」
「あ、バカチュウタ!」
 チュウタの何気ない発言に、ヨウは慌てて諌めた。
 そして、その言葉の意味を察せないほど小竜隊は鈍くない。
 先ほどまでの和やかな雰囲気が水を打ったように鎮まり、そして小竜隊三人とナガトは向き合った。
「いよいよなんだな、ナガト」
 神妙な表情でゲンジが言うとナガトは深く頷いた。
「あぁ、この時をずっと楽しみにしてた。手加減無しの全力で行くぞ」
「ああ!」
「うん!」
「当然や!どっちが勝っても恨みっ子無しやで!」
「ようやく、あの時の決着をつけられるな」
「あの時の……あぁ」
 ナガトに言われ、ゲンジは思い出した。
 赤壁杯前に行ったアクチュアルバトルの練習試合。あれがお互いに初めてお互いの実力を認識し、そして本気でぶつかり合ったバトルだった。
 あの時は時間切れで決着がつかず、そしてそれからずっとチームとして戦っていた。
 そんな二人の表情を見て、ツバサはハッと思い付いて言葉を発した。
「せや!ゲンジ、次の試合はウチとユウスケのHPをあんたに託すで!」
「え?何言ってんだよいきなり」
「ツバサちゃん、ナガト君の目の前で作戦言っちゃうのは……」
「こんなん作戦でもなんでもあらへん!うちはただ、二人のバトルを応援したいだけや!ユウスケかてそうやろ?」
「ま、まぁ、僕は構わないけど……」
「ツバサ……」
「馬場との事、ほんま感謝しとるんやで。このくらいさせてぇな!どうせならチームの事考えずにナガトとガチでやりたいやろ?」
「……そう、だな」
 ツバサの善意に対し、ゲンジは目を逸らして歯切れ悪く曖昧な返事をした。
 そこに何かを察したナガトはゲンジの肩に手を置く。
「ゲンジ、ちょっと外で話さないか?」
「え?」
「悪いみんな、少し席を外す」
「おっ、ライバル同士の熱い語らいって奴やな!存分にやってきぃ!」
 クラスメイト達も微笑ましげに頷いてくれたのでナガトはゲンジを連れてレンタルルームの外に出た。
 部屋を出てひんやりとした廊下を歩き、施設のロビーにあるベンチに腰掛ける。
「ふぅ、ようやく落ち着いたなぁ」
「ははは、黄山先生はいつも大袈裟だからなぁ」
「まぁ有難いんだけどさ。まだ二試合残ってるのに、ちょっとプレッシャーだよな」
「そうだな」
 まだ二試合ある。しかし、それは勝ち上がったどちらかだ。その事を意識して、ゲンジはナガトから目を逸らす。
「なぁ、ゲンジ。ゲンジはトリニティカップに出場した目的って何かあるか?」
「え?そりゃ、優勝するために決まってるだろ」
「それは目標だろ?俺が言ってるのはもっと根本的な、フリッカーとしての目的だ」
「フリッカーとしての、目的……」
 思いもよらなかった問いかけに、ゲンジは少し考え込んだ。
 答えに窮していると、ナガトが語り始める。
「俺はさ、初めてのGFCで遠近リョウマに敗れてから、ずっとリョウマを倒す事を目的にフリックスをしてきた」
「……そうだったな。凄いよな、ほんとに夢を叶えちまうんだから」
「ははは。……でもさ、実際に夢を叶えてみて、俺はどう感じたと思う?」
「は?そんなの分かるわけないだろ。めちゃくちゃ嬉しい、とかじゃないのか?」
「……いいや。『全然物足りない』だ」
「え?」
 キョトンとするゲンジに対し、ナガトは笑いながら答えた。
「おかしいだろ?長年の夢を叶えておきながら物足りないなんて、贅沢な奴だって自分でも思う。けどさ、結局俺にとってリョウマに勝つ事も目標の一つでしかなかったんだなって気付いた」
 ナガトはセンチュリーオーガを取り出し、慈しむように見つめながら言った。
「俺はこいつと共にフリッカーの道を極め続けるためにバトルしてるんだ」
「ナガト……」
「ゲンジ、お前はどうなんだ?トリニティカップに優勝する事か?俺と戦う事か?それとも、南雲ソウに勝つ事か……?」
「俺は……!」
 ナガトにまっすぐ見つめられ、ゲンジは言葉には出来ないが何か心の中でピースが合わさるような感覚が生まれた。

 ……。
 …。
 そして、トリニティカップ準決勝大会当日。

『さぁ、いよいよトリニティカップも大詰め!準決勝大会の開幕だ!!』

 小竜隊は控え室で試合前の最後の作戦会議をしていた。
「ゲンジ!ナガトとしっかりケリつけるんやで!」
 既にHPを託す気でいるツバサへ、ゲンジは遠慮がちに口を開いた。
「……あのさ、作戦なんだけど」
「なんや、今更?」
 ゲンジはゆっくりとユウスケへ視線を移す。
「ユウスケ、俺のHPをお前に託す」
「え、僕に!?」
「何言うとんのや!ゲンジ、ナガトとケリ着けたかったんとちゃうんか!?」
 思いもよらなかったゲンジの言葉に、ツバサもユウスケも面食らった。
「もちろんそうだ。けど、それは……小竜隊としてだ!」
 しかし、ゲンジの覚悟の決まった表情を見て、ツバサもユウスケも何かを察して納得したようだった。

 そして、試合時間となり小竜隊とナガトがステージに上がって対峙する。

『さぁ、準決勝第一試合は小竜隊VS関ナガト君だ!赤壁杯で優勝したチームメイトの戦い!!熱いバトルになる事は間違い無いだろう!!
小竜隊は、ゲンジ君のHPを1減らし、ユウスケ君のHPが3になっている!この采配がどう影響するのか!?』

「それがお前の答えなんだな、ゲンジ」
 小竜隊のHP采配を見て、ナガトが言う。
「あぁ!これが、俺がフリックスをやる目的だ!!」
「なら、俺も俺の目的のために全力で迎え撃つ!!」

 お互い闘志を確認しあい、機体とマインをセットする。

『それではいくぞ!3.2.1.アクティブシュート!!』

「いけっ!センチュリーオーガ!!」
 センチュリーオーガが新型機故の凄まじい迫力で迫ってくる!
「ユウスケ、頼む!」
「うん!!」
 小竜隊はユウスケを先頭にワイバーンとドラグナーが後ろに続く縦列フォーメーションでオーガに立ち向かう。
 ガッ!!!
 アリエスとオーガが正面衝突する。
 オーガのパワーはアリエスを圧倒し、弾き飛ばす。が、その後ろに続いたワイバーンが幅広のフロントを駆使してアリエスを受け止め、ドラグナーもクローディフェンスで踏ん張った。
「よし、耐え切った!!」
「オーガとの正面衝突を三体がかりで……!」
「こうでもしないと、センチュリーオーガには太刀打ちできないからな!」
 先手はナガトが取ったが、小竜隊は防御を固めた縦列フォーメーションを維持しておりフリップアウトは難しそうだ。

「なら、一気に攻めて数を減らすか」
 ナガトはオーガサイドの刀を広げてマインヒットを狙う構えを取った。これなら複数機にダメージを与えやすい。
 一気に三体同時にダメージを与えれば、HPが1のドラグナーは撃沈してしまう。
「悪いが俺は手加減しないぞ!いけっ!!」
 早々とゲンジが撃沈してしまう展開は面白くないだろうが、だからと言って手心を加えては意味がない。これがゲンジの考えた最善の手だと信じるならば、自分も最善の手で攻めるのが礼儀だ。
 オーガの容赦ない軌道は丁度三体に触れながらその先にあるマインにも触れる絶妙なシュートになっている。
「アリエス!」
 しかし、その直前にユウスケがステップでアリエスの位置をずらした。それによってオーガが触れたのは前面にいるアリエスのみとなり、アリエスだけがダメージを受けた形となった。
「っ!」
「よし、頼むぞツバサ!」
「了解や!」
 小竜隊のターン。
 ツバサはアリエスの影からワイバーンをシュートしてマインを狙う。
 弾かれたマインはオーガへヒット。
「いけ、ドラグナー!」
「アリエス!」
 ユウスケとゲンジは再び先ほどのフォーメーションになるようにワイバーンの近くへ機体をシュートした。
「……ユウスケのHPを増やしたのは、壁として矢面に立たせるためか」
「メインアタッカーだけが主役じゃないんだぜ!」
「だが、ダメージレースの優位は変わらない!」

バシュッ!

 ナガトは再びアリエスへマインヒットを決める。残りHP1だ。
「今だユウスケ!」
「うん!」
 しかし、それこそがゲンジの狙いだった。
 今度はツバサではなくユウスケが先にシュートをする。
「なに!?」
 ガッ!
 アリエスのアタックがオーガへヒットするが、その攻撃力は低い。しかし……。
 変形して広がったオーガの刀の先端がフリップホールへ僅かに被ってしまった。

『おおっと!これは上手い誘導だ!マインヒットを決めるために面積を広げたオーガへ、アリエスが反撃の穴フリップアウト!!これでダメージレースは逆転だ!!』

 ゲンジはドラグナーをアリエス近くまで移動させた。
「やったぜ、ユウスケ!」
「成功して良かった……!」
「よう耐えたなユウスケ!シャイニングキュアで回復させたるで」
 ツバサがシャイニングキュアでアリエスのHPを2に回復させる。
「ありがとう、ツバサちゃん」

「……」
 オーガをスタート位置へ戻しながら、ナガトは呼吸を整えた。
(完全にやられたな……いや、俺が日和っていただけか。お前と強さを極めると言いながら、まだお前の力をものにする覚悟がなかったのかもしれない)
 ギンッ!
 ナガトは今までからは想像もつかないほどの鋭い眼光で小竜隊を睨みつけた。
「ここからは、今までの俺と思うな……!」
「ナ、ナガト……!」
 鬼神の如きオーラを纏い、ナガトは構える。
「真・鬼牙二連斬!!」
 シュンッ!!!
 そのシュートはまさに神速!寸分の狂いもなくアリエスへアタックする。
 バゴォォォォ!!!
 オーガの必殺技に耐えられるわけもなくアリエスは呆気なく吹っ飛ばされる。
「受け止めろ!ドラゴンクローディフェンス!!」
 飛ばされるアリエスをドラグナーが受け止めようとするが……。
「無駄だ!!」
 ガッ!!
 ドラグナーを乗り越えてアリエスは場外してしまった。
「しまっ!」
「っ!防ぎきれない!?」
 ユウスケもバリケードを構えたのだが、それすらも破壊されていた。

『シールダーアリエスフリップアウト!!フォーメーションで立ち回っていた小竜隊だが、ここで一機失ってしまった!これは痛いぞ!!』

「かぁぁ、やっぱりセンチュリーオーガは半端やないで!」
「いや、そのくらい分かってた事だ。ツバサ、ここからは散開しよう。固まってたら二人いっぺんにやられる!」
「了解や!ヒット&アウェイやな!」
 バシュッ!バシュッ!
 ドラグナーはスピンしてマインをワイバーンの方へ弾きながらオーガと距離をとり、ワイバーンはそのマインをオーガへぶつけつつ、バラけるように離れた。ナガト残り2。
「……」
 ナガトはゆっくりとオーガの向きを変えてワイバーンへ狙いを定める。
「く、来るか……!」
 ツバサはナガトの圧力にビビりながらもバリケードを構えた。
「真・鬼牙二連斬!!」
 ドゴォォォ!!!
 オーガの必殺技がワイバーンに襲いかかり、フッとばされる。さらにその衝撃で近くのマインも全て場外した。
「くっ、なんちゅープレッシャーや!!」
 必死にバリケードで支えるツバサだが、耐えきれそうに無い。
「諦めるな、ツバサ!!」
 そこへ、ゲンジがツバサの隣に来て一緒にバリケードを構えてワイバーンを支えた。
 ガガカガ!パリィィン!!!
 二人分のバリケードによる防御でどうにかワイバーンを支え切ったが、バリケードは全て割れてしまった。
「くぅぅ、二人がかりのバリケードを壊すなんて……でも、ワイバーンは守れたぞ!」
「アホ!ワイバーン守れてもゲンジまでバリケード破られたらあかんやろ!次のターンからどうすんねん!?」
「どっちしたってあと1ターンでもナガトに与えたら俺達に勝ち目はないんだ!ここで決めるしかない」
「せやけどマインもないし、フリップアウト決めようにも距離は離れとるし、ナガトはがっつりバリケードを使えるんやで。そう簡単に行くかいな……」
「いや、絶対に決める……そのためにワイバーンを守ったんだ!」
「どういうこっちゃ?」
 首を傾げるツバサを他所にゲンジはドラグナーを構えてナガトを見据えた。
「さすがだぜ、ナガト!やっぱりお前は凄い!!」
「まだまだこんなもんじゃないさ。ゲンジ、お前を倒してもっと上に行く!」
「そうだよな。ナガトはこんなもんじゃない。俺なんかじゃ、どう頑張ったって勝てっこないぜ」
「なんだよ、諦めるのか?」
 挑発的なナガトの口調にゲンジは素直に頷いた。
「あぁ。悔しいけど、ナガトに勝つのは諦めるしかない」
 意外な返答にナガトは怪訝な顔をするが、ゲンジの言葉はまだ続いていた。
「でも、俺の目的は絶対に果たす!!」
 その強い言葉に並々ならぬ想いが篭っていることを感じ、ナガトは気を引き締めてゲンジの攻撃を警戒した。
「フリップスペル!【自爆】!!」
「なに!?」

 【自爆】……自分のHPを0にしてシュートし、自滅しても攻撃が通る。シュート後は撃沈扱いになる。

「このために、HPを減らしたんだ!」
「そうか、HPが1なら心理的にフリップアウトの標的にはされづらい。そしてマインヒットはユウスケを盾にする事で……!」
「それでバリケードを失ってでもうちを守ったんか……」
「だがスペルを使ったところで火力が上がるわけじゃない!自滅無効のシュートだろうが耐えてしまえば同じだ!!」
(確かにそうだ。俺とドラグナーのパワーじゃ今のオーガをフリップアウトさせるのは難しい。でも、これなら……!)
 ゲンジは少し前のめりになり、腕を引きながら構えた。
「その構えは!」
「いっけぇぇぇ!ブースターインパクトォォォォ!!!」
 ゲンジが何度も真似ようとして失敗した伝説の技。しかし、自滅が無効になる今なら失敗も怖くない。

『おおっとこれは!!伝説の必殺技ブースターインパクトだぁぁ!!!自滅を恐れぬその一撃がセンチュリーオーガへ襲いかかる!!!』

「堪えろ!オーガ!!!」
 ガッ、ガガガガガガ!!!!
 ドラグナーに押し込まれていくオーガをナガトはバリケードを二枚重ねて支える。
 しかし、そのプレッシャーにバリケードは今にも割れそうだ。
「う、おおおおおお!!!!」
 パキンッ!!
 ついにバリケードが一枚割れてしまうが、どうにか勢いはなくなり、ナガトは耐え切った。
「くっ!」
「よし、耐えた……!」

『しかししかし!ゲンジくん起死回生の一撃も耐え切られてしまった!これでドラグナーは撃沈扱いとなり、小竜隊は絶体絶命……』

「まだだぁぁ!!」
 ゲンジが叫ぶ。
「ツバサ!ドラグナーごとぶっ飛ばせ!」
「っ!そうか!!」
 ゲンジの指示を理解し、ツバサはワイバーンをシュートした。
「レヴァントインパクト!!!」

 バキィィィ!!!
 ワイバーンの一撃がドラグナーとオーガを二体ともに場外へ叩き出した。
 ドラグナーは自滅は無効化なのでオーガのみがフリップアウト扱いとなり撃沈した。

『フリップアウト!!!これは凄い!!!ゲンジ君の見事な指揮で神童・関ナガト君を撃破!!小竜隊の勝利だあああああ!!!!』

「……」
 無言でオーガを拾うナガトに、ゲンジが話しかける。
「ナガト……やっぱ強いな、お前。チームとしては勝ったけど、俺の完敗だ」
「分かってるさ。だが、それがお前のフリックスなんだろう?」
「ああ!」
 ゲンジは迷いのない瞳で強く頷いた。
「なら、お前の勝ちだ。決勝戦、頑張れよ!」
 ナガトがエールを送るように拳を突き出すと、ゲンジも拳を合わせた。

 ……。
 …。

『さぁ、準決勝最後の試合は南雲ソウ君VS江東館だ!!』

 ステージ上で江東館と南雲ソウが対峙する。

「……潰す」
 ソウはこれまでよりもさらに凶悪なオーラを纏いながら禍々しい表情でケンタ達を睨め付けた。
「っ!」
「これが、あの朱雀のフリッカーかよ……!」
「今の南雲ソウは普通じゃない。気をつけろよ、ケンタ、ホウセン!」
「うん……!」
「へっ、どうって事ねぇよ!」

 観客席の小竜隊。
「ソウの奴、ますますヤバくなってる」
「ってか変わり過ぎやろ、目も据わっとるし……」
「だ、大丈夫かな」
 ソウの雰囲気の変化に恐々とする小竜隊。そんな彼らの後ろから声がかけられ、一人の少年が隣に座った。
「大丈夫、ではないだろうね」
「コウ」
「今のソウは、試合外でも常にデザイアシステムを可動させている。非常に危険な状態だ」
「え!?」
 コウに言われてよく見てみると、ソウの持っているデザイアフェニックスは微妙に可動パーツが動いていた。
 試合外とはいえ、AIが常に機体に負荷のかからないベストな形態を維持するように動かしているのだろう。
「ちょっと待てよ!デザイアシステムって確かフリッカーの生命力をバッテリー代わりにしてるんだったよな……それをずっと使ってたら……!」
「あかん!はよ止めな……!」
「無駄さ。あれはソウが自ら望んだ事だ。僕らに止める権利はない」
「権利なんかなくたって止めなきゃまずいだろ!!」
 ダッ!
 ゲンジは反射的に立ち上がって駆け出す。ツバサとユウスケもその後に続いた。
 コウはその場から動けず、ただステージを見つめ続けた。

 しかしゲンジ達が辿り着く前に無情にも試合は始まってしまう。
『それではそろそろおっぱじめるぞ!3.2.1.アクティブシュート!!』
 バシュッ!!

「まずは俺が囮になる!いけっ!コメットケラトプス!!!」
 ケラトプスが真正面からデザイアフェニックスへ立ち向かう。
「無駄だ!!!」
 バキィィィ!!
 デザイアフェニックスのパワーは凄まじく、パワーに優れているはずのケラトプスがあっさりと力負けして場外へ吹き飛ばされた。
「っ!」
「兄ちゃん!!」

『なんとなんと!力自慢のコメットケラトプスが正面衝突で負けてしまい早くも撃沈!なんというパワーだ、デザイアフェニックス!!』

 しかし、ケラトプスが足止めしてくれたおかげで江東館が先手を取れた。
「サクヤの犠牲は無駄にしねぇぜ!ケンタ!!」
「うん!」
 バッ!
 バイフーとシェルロードはデザイアフェニックスを挟み撃ちにする位置でシュートした。

「タイガークローディフェンス!!」
「ブロッケンボンバー!!!」

 バーーーーン!!!
 シェルロードのバネ攻撃がバイフーのグリップによって圧縮され、凄まじい圧力がデザイアフェニックスへ襲い掛かる。

『おおっと!ホウセンくんとケンタくんの連携攻撃はまるでソウくんの必殺技クレイビングルイネーションを彷彿とさせるぞ!!』

「これならいける!」
「どうだ!デザイアの弱点はあの時のバトルで経験してんだよ!!」
「ふん、くだらない。所詮貴様達の力は未完成品だ!」

 ガッ、バーーーン!!
 圧力に負けて飛ばされるデザイアフェニックスだが……。
「はあああああ!!!」
 カッ!
 デザイアシステムが可動し、ウィングを動かすことで重心を整えて空中で姿勢制御して場内に止まった。
 しかし、着地点にマインがあったのでマインヒットしてしまう。

『おおっと!素晴らしい攻撃だったもののフリップアウトならず!しかしマインヒットでダメージは与えたぞ!!』

「ちぃ!なんて奴だ……!」
「でも、少しずつでもダメージを与えれば」

「無駄な足掻きだ。真の力を味わえ!クレイビングルイネーション!!!」

 今度はソウの必殺技が炸裂し、バイフーとシェルロードを二体同時にフリップアウトさせようとする。

「ケンタ!!」
 ガッ!
 ホウセンは咄嗟にシェルロードをステップで動かしてバイフーを弾き飛ばす。
 そして、クレイビングルイネーションの一撃を一機で受けた。

『シェルロード、フリップアウトで撃沈!!バイフーはシェルロードに救われた!ここから挽回なるか!?』

「ホウセン君!!」
「あとは任せたぜ……!」
 これで残るはケンタのみ。
「兄ちゃん、ホウセン君……僕は、絶対に負けない!!」
 兄と友を倒された怒りを正しく力に変え、ケンタはシュートを構えた。
「いっけええ!!バイティングクローーー!!!」

 ガッ!ズゴォォォォ!!!
 タイガークローを地面に食い込ませながらのブースターインパクト。爪が摩擦で爆炎を上げながら分離したデザイアフェニックス本体へ激突する。
 バゴォォーーーン!!!
 必殺技使った直後でシステムに隙ができ、更に分離して軽くなったフェニックスはなす術なく場外してしまう。

『フリップアウト!!ケンタ君の渾身の一撃が炸裂した!!これでお互いにHPは3!並んだぞ!!』

「腐ってもデザイアの一部という事か。だが、そこまでだ!!」
 機体をスタート位置に戻し、再び必殺技を発動。
「クレイビングルイネーション!!」
「タイガークローディフェンス!!」
 ドゴォォォォォ!!!!
 デザイアフェニックスの必殺技をバイフーは防御技で耐え抜き不動を貫く。
 しかし、その衝撃波は使い手であるケンタへと襲いかかった。
「うわあああ!!!」
 ガッ!
 吹っ飛ばされるケンタをホウセンが抱きとめる。
「ケンタ!」
「ありがとう、ホウセンくん」
 ケンタはヨロヨロと機体へ近づき、シュートする。
「くっ!」
 しかし、その指には全く力が入らず機体は僅かしか動かなかった。

「そんなものか……クレイビングルイネーション!!!」
 ドゴォォォォォ!!!
「うわあああ!!!」
 先程と同じような展開でバイフーは動かず、ケンタが吹っ飛ばされる。
「ケンタ!!」
 今度はサクヤがケンタを受け止めた。
「うぅ……」
 先程と違い、ケンタはすぐには持ち直せそうに無い。
「ぐぅっ!」
 そしてソウも苦しげに蹲る。

 ダッ!
 そこへ、ようやく小竜隊が駆け付けた。
「もうやめろ!ソウ、ケンタ!!」
「これ以上は危険だよ!!」
「フリックスバトルどころや無いで!!」
 それに気づくサクヤ。
「小竜隊……」
 そこへ江東館の他メンバー達も駆け付けてきた。
「小竜隊の言う通りだ!」
「もう十分でしょ!」
「ケンタ、自分の身体も大事にして!」
「三十六計逃げるに如かずだ!」

「みんな……」

『さぁ、大変な事になってきたぞ!まだHPはお互い残ってはいるが、フリッカーの体力が尽きかけている!場合によってはドクターストップもあり得るが……!』

「うるせぇぇぇぇ!!!外野は黙ってろ!!!!」
 その時、いつの間にか駆け付けていたタイシが怒号を上げ、会場は水を打ったように静まり返った。
「こんなんじゃ終われねぇ!そうだよな!!」
 そして、タイシはステージの三人を睨み付ける。
「タイシ……」
「へっ、当たり前だぜ。てめぇもそうだろ……?」
ホウセンがソウへ問い掛ける。
「……」
 それに応えるようにソウは立ち上がり、そしてケンタも微かに口を開いた。
「ケンタ、お前は戦えるのか?」
 サクヤが優しげに問うと、ケンタは涙を浮かべながら頷いた。
「兄ちゃん、僕……負けたくないよ……!」
「……分かった」
 サクヤはフラつくケンタを支えながらフィールドへ立たせた。
 そして、弱々しいシュートをし、フッと力が抜けて意識を失う。
「ケンタ!」
 倒れ切る前にサクヤがケンタを抱き支えた。
「……上等」
 ソウも力を振り絞ってシュートをするが、もう必殺技どころではなくチョン押しすらも限界のようで……そのまま倒れた。

「ソウ!」

 ダッ!
 後頭部を打つ前にアツシが素早くステージに上がってソウを受け止める。

『な、なんと!!準決勝を戦っている二人が意識を失ってしまった!!救護班、早く二人を医務室へ!!』

 スタッフが慌ただしく現れ素早くソウとケンタを担架で運び出す。

 ……。
 しばらく経って会場も落ち着いたところで、バトルフリッカーコウがアナウンスをした。

『慌ただしくなってすまない!二人の容体は無事に回復に向かっているから安心してくれ!しかし、試合続行は不可能と判断する。結果は判定といきたい所だが、ソウ君もケンタ君も残りHP3のイーブン。そこで、準決勝第二試合は南雲ソウ君と江東館両者を勝者として扱う!
決勝戦は小竜隊、南雲ソウ君、江東館の三つ巴で戦うぞ!!』

「決勝戦が、三つ巴……!?」
「前代未聞やな」

『決勝戦は1週間後。三組とも万全な状態で挑んでくれ!』

 こうして、準決勝大会は終了した。
 ……。
 …。

 後日、遊尽コーポレーション。
 諸星コウはカイザーフェニックスを机に置き、資料のチェックをしていた。しかし、実際は心ここに在らずと言った感じで作業は一切進んでいない。
「ぼ、坊ちゃん……」
 そんなコウの様子を心配した潁川が声をかけようとするが、その前にキンジロウがそれを優しく制し『俺に任せろ』といった表情で首を振った。
 そして、コウヘ明るい口調で話しかける。

「よぉ、コウ。トリニティカップもいよいよ決勝戦だな。まさかお前が手をかけた四聖獣使いがみんな勝ち上がるとはな。お前のフリッカーを見る目は大したもんだ」
「……あぁ、まぁね」
「なんだ、ノリが悪いな。自分の開発した機体が決勝で戦うんだぞ、これほどワクワクする事はないだろうに」
「……一機は違うけどね」
 カイザーフェニックスへ目配せしながら呟く。
「なるほど。ソウの事が気になって、それどころじゃないか」
 キンジロウの言葉に、コウの眉がピクリと動く。
「まさか。確かに今の彼の行動は目に余るが、ルール違反しているわけでも直接的な損害があるわけでもない。彼自身は確かに危険な状態だが、それも自分で決めた事なら自己責任さ。僕が介入できる問題じゃない。それに、ソウがデザイアを所持してくれるならバンキッシュパンデミックのリスクは薄……」
「そうじゃないだろ」
 早口で言い訳のように捲し立てるコウを、キンジロウは遮った。
「友達が心配なら素直にそう言え」
「え?」
「コウ、フリックス界の未来は、目の前のフリッカーなくしてはあり得ないぞ」
「……」

 ……。
 …。
 更に数日後。決勝戦前日の夕飯時。
 外は豪雨に見舞われ、窓はガタガタと風に叩かれている。
「すげぇ雨……」
 リビングでテレビを見ていたゲンジが呟くと、キッチンにいるセイザンが答えた。
「なんか天気予報だと数十年に一度レベルの豪雨らしいぞ」
「マジか〜決勝戦大丈夫かな」
「ま、当日には止むだろ。んな事より飯だぞ」
 セイザンに促されて食卓に着く。

「今日の晩飯はステーキに豚カツだ!敵にカツってな!!これ食って力付けろよ!」
「ベタだなぁ……まぁ変な創作料理よりマシだけど」
 ゲンジはステーキを一口食べて、ボソッと呟く。
「テキ、か……」
「どうした?」
「いや、俺にとってソウは敵なのかなって」
「そりゃ戦う相手なんだから敵だろ」
「そうだけど、そうじゃなくてさ」
「……ゲンジ、その肉食って何か違和感はないか?」
「え?何って、ただのビフテキだろ。なんかちょっとアッサリしてるけど」
「ふっふっふ……実はな」
 セイザンはステーキを裏返して見せる。
「こいつは、チキンステーキの表面にビフテキの味付けをした創作料理だったのだ!!!」
「な、なんて回りくどい事を……!」
「それだけじゃないぜ。チキンステーキに使ってる肉は鶏モモ肉だ。略して『トモ』!」
「は?」
「テキでもあり、トモにもなる。そう言うもんだろ?」
「……」
 敵でもあり友でもある……その言葉はゲンジの胸にスッと染み渡った。

 そして、付けっ放しにしているテレビからアナウンサーの声が聞こえてくる。

『緊急速報です。千葉県の幕張メッセにて落雷が発生、一部施設が停電に見舞われました。復旧の見込みは立たず、後日のイベントに影響が出る模様……』

 ……。
 …。
 ソウとアツシが拠点としている薄暗いアジト。
 埃の被ったテレビではゲンジが見ていたのと同じニュースが映し出されていた。

「落雷だと……!」
 ニュースを見ていたソウが呟く。
「……今、大会本部からメールが来た。決勝大会は1週間後に延期するそうだ」
「ふざけるな!」
 ソウが立ち上がる。
「俺は、明日に全てを懸けて調整してきた……!明日を過ぎれば、俺は、俺は……!!」
 グッと胸を抑えて座り込む。
「……」
 そんなソウをアツシは憐れむような複雑な表情で見つめる。

 カッ!!
 その時、あたりが閃光に包まれ、数秒後轟音が響いた。

「なら、果たし状でも出してみたらどうだい、ソウ?」
 落雷と共にコウが現れ、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「コウ……!」
「何も大会だけが頂点の舞台とは限らないさ」
 そう言って、コウは不敵に笑った。

 

    つづく

 

 

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