第34話「友と育む強さの形」
トリニティカップ。会場ではハジメVSノースアマゾンの試合が行われていた。
『さぁ、大盛り上がりのトリニティカップ!大本命のこの男、正本ハジメにノースアマゾンが挑む!!』
フィールドでは合計5体のフリックスが戦っており、そのうちの4体がノースアマゾンのフリックスだ。
どうやら、リーダーの城島アキラがサンダークラップとヴァーミリオンを二刀流しているようだ。更にそれを合体させて不動の型で防御力アップ。そしてその周りをアントソルジャーとホッパソルジャーが護衛している。
「エンダーコーカサスの不動の型!我が布陣は完璧である!敗れるか、チャンピオン!!」
「ふっ、キングアーマー主翼展開!!」
ガルディオンのキングアーマーのウイングが展開する。その広さは30cmを超えていた。
そして、その広がった翼でマインヒットを決め、ソルジャー2体を撃沈。
「なっ、布陣が!?」
「どうだ!」
「まだまだである!エンダーコーカサス、不敗の型!」
アキラはヴァーミリオンとサンダークラップの位置を上下入れ替えた。
「入れ替えた……?」
「ヴァーミリオンを下にする事で機動力アップである!!」
シュンッ!!
アップした機動力を駆使して攻めようとするが……。
「甘い!イントゥ・ザ・キングエンパイア!!」
ガッ!
エンダーコーカサスがぶつかった瞬間、キングアーマーの上部が振り下ろされて掴んでしまった。
「受け止められた!?」
「からの〜、ガルドライトブレイク!!」
拘束を外しゼロ距離からのアッパー面攻撃で運び出してエンダーコーカサスを撃沈。
『さすがはチャンピオン!圧倒的実力で勝者は正本ハジメだ!!!』
……。
続いての試合は……。
『さぁ、続いての試合はトライビーストVSジョン・レフター君だ!赤壁杯初代チャンピオンのトライビーストに対し、ゲーム版フリックス[フリップトラベラーズ]のRTA世界記録保持者はどんな戦いを見せてくれるのか!?』
「それでは、アクティブシュート開始から計測を始めていきたいと思います。今回のルートはマインヒット一決めからのフリップアウトで最短を走ります」
ジョンは走者らしくRTA用語バリバリで話す。
「バーチャルの理屈がリアルでどれだけ通用するか、見ものですね」
トライビーストのリーダー、若生ジュンはそんな彼の独特な話し方に不快感を示す事なく興味深げだ。
『ではいくぞ!3.2.1.アクティブシュート!!』
……。
…。
そして、試合終了。ジョンVSジュンのバトルはやはりというかジュンの勝利だった。
「見事なバトルの組み立て方でしたが、テクニックがついてきていませんね」
「う〜ん、今回完走出来なかった感想ですが、やはりプレイスキルにガバが多かったかなと。残念ですが、これでザ・エンドですね」
さすがはあらゆる分野から選手を招待したトリニティカップ。個性豊かな試合展開が見られた。
「幻影をお見せしますわ!サイキックフォックス!!」
「ガッハッハ!ぶった斬れ!スラッシュアリゲーツ!!」
「誇り高きユーロフリッカー騎士団の力見せてやるぞ!」
「「了解!!」」
「いくぞ、イッケイ!」
「あぁ、任せろ!リュウジ!!」
……。
…。
そして時間も過ぎていき、1日目のスケジュールは全て終わった。
時間は17時半過ぎ。それぞれ、真っ直ぐ帰宅するもの、フリースペースで遊ぶもの、少し早い夕飯を取るものとバラバラだ。
ゲンジ達はフードコートで適当に休憩していた。
「やっぱり凄いな、トリニティカップは」
「せやな!見てるだけでワクワクするで!」
「うん、いい勉強になるよ」
「それにしてもハジメは凄いな。キングアーマーにあんな使い方があったなんて」
「さすがだよね。ナガト君が苦戦したエンダーコーカサスに圧勝するなんて……」
「うちはホワイトホースVSキングミラージュの試合が面白かったなぁ」
「リュウジとイッケイのコンビネーションも凄かったな。ちょっと妬けるけど」
口々に観戦した試合の感想を言い合う。
その時だった。
「おいソウ!お前どういうつもりだよ!!」
突如、フードコートの裏側の廊下から洪レンの叫び声が聞こえてきた。
「なんだ?」
「喧嘩か?」
「とにかく行ってみよう」
声のした薄暗い廊下までたどり着くと、そこではソウとレッドウィングスの面々が対峙していた。
「勝手にチームを解散して音信不通になったかと思ったら、今度は訳の分からねぇ機体使ってあんなバトルしやがって!」
「お前には関係ない」
「なんだと……!」
「落ち着け、レン」
今にも食ってかかりそうなレンをジンが止めている。
「なんだお前ら、どうしたんだよ!」
「こんなところで喧嘩はまずいよ!」
「せやせや、出場停止になってまうで!」
駆け付けた小竜隊もどうにか宥めようとする。
「小竜隊……」
第三者の介入により頭が冷えたのか、レンの力も緩まる。
「なぁ、ソウ。チームを抜けるのも、一人でトリニティカップに出てどんな戦い方をするもお前の自由だ。だが、それでも俺たちは赤壁杯を共に戦った仲間じゃないか。せめて、何か考えがあるなら話してくれ」
比較的冷静なサイゾウがソウへ語りかけるが、ソウは鼻で笑った。
「仲間、か。所詮レッドウィングスは赤壁杯に出場するために寄せ集めたチームだ。お前達もそれは承知の上で参加していたはずだ。それを未練がましく、まだその名を使って組んでいるとはな」
「なに……!」
「い、いくらなんでもその言い方は酷いで!」
「ふん……」
ソウがそっぽを向くと、その方向からアツシが現れた。
「ソウ、そろそろ時間だ」
「……」
アツシの促しにソウは頷き、歩き出す。
「まだ話は終わってねぇぞ!大体アツシ!なんでてめぇが大会にも出ずにソウのセコンドなんかやってんだ!!」
「……今俺から話せることは無い。少しでもフリッカーとしてのプライドがあるなら、バトルで語ればいい」
そこまで言われてしまっては何も言い返せないのか、去っていくアツシとソウを一同見送るしかなかった。
「ソウ!」
言葉は何も浮かばなかったが、それでも声をかけずにはいられないとゲンジはソウへ呼びかけた。
「……」
「っ!」
そしてソウと目が合い、ゲンジは言葉を失う。
何も言う事が無いと分かったソウは今度こそこの場を立ち去ってしまった。
「ソウ、あの目……」
「なんや、どうしたん?」
「……何も見てなかった」
「は?」
ソウの瞳には何の対象物も映っていなかった、ような気がした。しかし、にも関わらず強く溢れ出す感情だけは読み取れてしまった。
(なのに、なんであんなに、嬉しそうなんだ……?)
……。
…。
こうして、トリニティカップ初日は波乱のまま終わった。
そして、1週間が経過しトリニティ2日目となる。
『さぁ、トリニティカップもいよいよ第二ステージだ!!激闘の一回戦を勝ち抜いた精鋭達で二回戦が争われるぞ!!
最初の試合は、江東館VS 鴫原タイシ&泰シュウヘイペアだ!!』
ステージの上で江東館とタイシ達が対峙する。
「待っていたぜ、サクヤ!この時をなぁ!!」
「あぁ、俺もだ!タイシ!!」
「へへ、シュウヘイ!俺達のコンビネーションはバッチリだ!江東館をぶっ倒してやろうぜ!!」
「もちろんっす!兄貴!!」
タイシの雰囲気が以前と変わっていた。
今までならサクヤとタイマンで決着を付ける事に拘っていたが、今のタイシはチームメイトのシュウヘイと共にサクヤだけでなく江東館そのものを相手に見据えている。
「タイシ……!俺達のチームワークだって抜群だぜ!いくぞ、ケンタ、ホウセン!」
「うん!」
「おう、任せろ!」
両者共に気合十分なまま試合が始まる。
『3.2.1.アクティブシュート!!』
「ブチかませぇ!ブロッケンシェルロードォォ!!」
「あの時と同じと思うな!!」
バキィィィ!!!
腕っ節に自信のある同士の激突!それを制したのは……タイシだった。
「なに!?」
「今っす!!」
更に、スチールロブスターがケラトプスとバイフーの間をすり抜けて遠くへ進んだ。
『これは上手い!最も火力の高いシェルロードをキャンサーが押さえ込み!ロブスターが隙をついて先手を取った!!』
「俺のキャンサーはユミの改良で更に強固になった!」
「しかもダイエットサプリで規定重量を超えてるっす!」
「喰らえ!アームドクラッシャー!!」
「続くっす!スチールロブスター!!」
バキィ!!
まずはタイシ達が先制攻撃を決めた。
「けっ、そのくらい分かってんだよ!」
「うん、だって……」
「俺達も、タイシ達と一緒に江東館でトレーニングして強くなったんだからな!!」
バキィ!!
サクヤ達の反撃が決まる。
そう、敵チームでありながらタイシ達アトランティスメンバーは江東館の中で共に練習していたのだった。
「兄貴ー!頑張ってくだせぇ!!」
「江東館も兄貴に負けるな!!」
「ケンタ!しっかりやれよー!」
「ホウセンくん、タイシくん!頑張って〜!!」
応援する側も江東館メンバーとタイシの子分達がそれぞれのチームを平等に応援していた。
そんなバトルの様子を医務室のような場所でソウとアツシがモニター越しに観戦していた。
「変わったチームだな。本来は倒すべき敵チームと同じ場で練習し強くなっているとは……」
「ふん……」
江東館とアトランティスの在り方を素直に感心するアツシだが、ソウは興味なさげに鼻で笑った。
……。
そして、試合の方は。
『決まったあああ!!サクヤ君の一撃で開いた突破口を利用し、ケンタ君とホウセン君の連携でキャンサーとロブスターを同時に撃沈!熱きライバル対決は江東館に軍配が上がったああああ!!!』
「サクヤ……今回は俺の、いや……サクヤ、ケンタ、ホウセン、今回は俺達の負けだ」
個人に対しての敗北宣言を言い直し、タイシは敵チームも自分の仲間も、全てひっくるめた敗北宣言をした。
「タイシ。俺は、お前と仲間でありライバルとして戦えた事を誇りに思う」
そんなタイシへサクヤは手を差し出す。
「ああ、俺もだ!」
二人はガシッと熱い握手を交わした。
……。
…。
そして、次の試合が始まる。
『さぁ、続いては前回の赤壁杯でも大活躍だったこの二チームの激突!小竜隊VSホワイトホースだ!!
なんと、ホワイトホースには小竜隊の元メンバーである雲野リュウジ君が移籍している!果たして、これがバトルにどう影響するのか!?』
「勝負だ!リュウジ!!」
「小竜隊とはもっと後で当たりたかったんだけどな。仕方ない、ここで勝ってナガトと熱い優勝争いするか」
「そうはいくかいな!」
「ああ!勝つのは俺たちた!」
「いや、そうはいかない」
「リュウジを加えた真のホワイトホースの力を見せてやるんじゃい!」
両チームとも気合を込めて機体をセットした。
いよいよ試合スタートだ。
『3.2.1アクティブシュート!!』
バシュウウウウウ!!
「先手はうちがいただきや!!」
「そうはさせん!!」
ガッ!
直進するワイバーンをバリオペガサスが受け止める。
「ツバサ!」
「余所見禁物じゃい!パーフェクトスタリオン!!」
ゴッ!
ツナヨシの機体は他メンバーのスタリオンパーツを全て合わせた全部載せだった。
それがドラグナーを受け止める。
「なに!?何だその機体!」
「これがスタリオンの奥の手じゃい!」
『さぁ、大混戦のアクティブシュート!先手を取るのはどちらだ!?』
「いけっ!ソニックユニコーン!!」
「頑張れ!シールダーアリエス!!」
こうなって来ると機動型のユニコーンが先手を取ると思われたが、アリエスがいつに無い機動力を発揮してユニコーンに真正面からぶつかって弾き飛ばした。
「なに!?」
「やった!いいぞ、アリエス!!」
「……なるほど、いつもよりも摩擦の低いシャーシを使ったか。ユウスケ自身もシュート力がかなり上がっている」
小竜隊のターン。
「ピットインだ、アリエス!」
アリエスはフリップスペル『ピットイン』の効果でウェイトとシャーシを交換し、いつもの防御セッティングになる。
「よし、いくぜツバサ!」
「ガッテンや!」
ゲンジとツバサは息の合ったシュートでパーフェクトスタリオンを同時攻撃!
「そのくらい!アンカーで耐えてみせるんじゃい!!」
「突破してやる!!!」
バキィィィ!!!
ゲンジとツバサの息のあった攻撃でパーフェクトスタリオンを弾き飛ばし場外させる。
「がぁぁ……!」
「やったぁ!」
『さぁ、早くもホワイトホースは一機撃沈!残り二機でどう戦う!?』
「ツナヨシ、良くやった!リュウジ、こっちもお返しだ」
「あぁ!」
「バリオペガサス!!」
「ソニックユニコーン!!」
バリオペガサスとソニックユニコーンは縦一列になり、ユニコーンが機動力を駆使してペガサスを押し出すフォーメーションで突進。
バキィ!!
ドラグナーとワイバーンを同時に飛ばす。
「ぐっ!!」
「守れ!アリエス!!」
しかし、飛ばされた2機をアリエスが受け止めた。
「ユウスケ……!」
「甘いぞユウスケ!」
しかし、時間差でまだ勢いが衰えていないユニコーンが突っ込み、アリエスへトドメを刺す形で場外させてしまった。
「あぁ!」
これでユウスケ撃沈。
「ごめん、耐えきれなかった」
「何言ってんだ。ユウスケのおかげで俺達耐えられたんだ!」
「次で決めるで!!」
再び連携シュートでリュウジ達を狙うゲンジとツバサだが……。
「「散開!!」」
リュウジとイッケイは息の合ったステップでこれを回避する。
「「なに!?」」
勢い余った2機とも自滅。
スタート位置に戻して復帰する。
「なんて息の合った動きなんだ……!」
「俺とリュウジが元々チームメイトだったって事を忘れたか?」
「悪いが、小竜隊よりも付き合いは長いんでね」
「ちぇ、見せつけよってからに……」
「ははは!さぁ、次で決めるぞ!」
ゲンジとツバサの残りHPは1。
そして、リュウジとイッケイが連携すればマインヒットは確実だろう。
「リュウジ!」
イッケイがマインを弾いてユニコーンの前に送る。
「ああ!」
リュウジはユニコーンをシュートしマインを弾き飛ばし、一気に二体を狙う。
「くっ!」
絶体絶命だが……!
「ゲンジ、あとは任せたで!」
「え!?」
ツバサがユニコーンをステップで動かし、ドラグナーを退かしてマインを一機で受けた。
「なに!?」
これでワイバーンは撃沈。ドラグナー一体になる。
「ツバサ、お前……!」
「ゲンジならここからでも勝てるやろ!ガツンとかましたれ!」
仲間を疑わぬその瞳に、ゲンジは力強く頷いた。
「ああ!もちろんだ!!」
ゲンジはユニコーンとペガサスを見据える。
一応この二機は一直線上に並んでいる。狙う事は可能だが、問題は火力とスピードだ。
並の速さではまた避けられてしまう。
「今まで、色んなフリッカーのおかげでドラグナーは強くなれたけど。初めてはツバサのコレだったな」
ゲンジはグリップパーツをシュートポイントに取り付ける。
「いくぜ!」
メタルドラゴンのフロントを展開させ、思いっきりシュートした。
「ドラゴングリップインパクト!!」
バシュウウウウウ!!!
「っ、速い!」
「やっぱあの技か……!」
弾力を活かしたスピードシュートには反応しきれず、ペガサスもユニコーンもフリップアウトしてしまった。
これで小竜隊の勝利だ!
「おっしゃあ!あのリュウジに、ホワイトホースに勝った!」
「大金星やでこれは!」
「やったねゲンジ君!」
喜びに湧き立つ小竜隊へ、リュウジが近づいてきた。
「いやぁ、参った。俺の負けだ、おめでとう」
「へへ、サンキュー!」
「……本当に強くなった」
リュウジは感慨深げに言う。
「ユウスケは得意の戦術を活かすシュート力を身につけたし、ツバサはチームワークが板についてきたな」
「あ、ありがとう、ございます」
「な、なんや照れるやん」
「そして、ゲンジ」
「え?」
「お前は、フリッカーの弱さに寄り添える優しさと、それを脅かすものへ立ち向かえる強さを持ってる。だから皆が力を託してくれる。それは大きな才能だ」
「……」
リュウジはゲンジの肩に両手を置いた。
「小竜隊は任せたぞ」
「リュウジ……」
「じゃあな、頑張れよ」
それだけ言うと、リュウジは手を離し踵を返してホワイトホースの面々と歩いていった。
「いやぁ、まいったな。まさかここで負けちまうとは」
ワザとらしく悔しがるリュウジに、イッケイは苦笑する。
「言うほど悔しがってはないだろ」
「そんな事ないさ、全力で戦ったんだ。ただまぁ、俺が立ち上げて育てたチームがあそこまで強くなってさ……倒せたらもちろん最高だったが、乗り越えられるのも悪くないなってな」
「勝っても負けてもお前にとって美味しかったって事か。相変わらず食えないな」
「言うなよ。だが、次はこうはいかない。小竜隊はもう、俺の手から離れて成熟した。ホワイトホースが倒すべきライバルとしてな」
……。
…。
医務室。モニターで観戦していたアツシとソウ。
小竜隊VSホワイトホースの試合を見終わり、アツシは呟いた。
「ライバル、か。時には味方として能力以上の成果を発揮し、時には敵として立ちはだかり互いの力を高め合う……不思議なものだ」
アツシ呟きに対して、ソウは一蹴するように吐き捨てた。
「くだらない。力とは、己の強さのみで勝ち得るものだ。そして最強の称号を獲得するのはただ一人……」
「……そうか」
ソウはゆっくりと立ち上がり、扉へ向かいながらアツシの方を見ずに言う。
「次の試合で俺がそれを証明する」
つづく