弾突バトル!フリックス・アレイ トリニティ 第21話「それぞれの死闘!満身創痍の友情」

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第21話「それぞれの死闘!満身創痍の友情」

 

 

 アトランティスVSインビンシブルソウルの試合。
 チーム毎にHP10をメンバーに自由に振り分けて5VS5で戦うルールで、タイシは自分にHPを集中させて一人でホウセンへ立ち向かった。
 しかし、シェルロードのパワーは凄まじく、アイアンキャンサーは吹っ飛ばされてしまった。

「ぐああああああ!!!!」
 バリケードによってどうにかフリップアウトは防いだものの、バリケードは破壊されタイシ自身も大きく吹っ飛ばされて倒れてしまう。
「兄貴!」
 シュウヘイ達が駆け寄るも、タイシは手で制する。
「来るな!……俺一人で立てる」
 仲間の手など借りる気はないという強い意思表示をしてゆっくり立ち上がり、ホウセンを睨め付けた。
「そう簡単に壊れるなよ、お楽しみはこれからなんだからな」
「お前もな」
 凶悪な笑みを浮かべるホウセンへタイシは怯まずに言い返してシュートの構えを取った。
「アイアンキャンサー・アローモード!」
 フロントのハサミをまるで弓矢のような形態に変形させた。
 打撃特化のモードだ。しっかりと狙いを定めてシュートを放つのだが……。

「ぐっ!?」
 力を込めた瞬間に激痛が走り、そのシュートは届かなかった。
「兄貴!!」

 江東館の観戦席。
「タイシ!!」
「ど、どうしたんだろう、タイシ君……!」
「シェルロードの攻撃をバリケードで防いだ時に腕をやられたのか……!」
「そ、そんなっ!」

 インビンシブルソウルのターン。
「おいおい、早ぇだろ。まぁいいか、じっくりぶっ壊してやるよ」

 ドンッ!!
 ほぼ無防備なキャンサーへシェルロードの無慈悲な一撃が襲いかかる!
 バキィ!!!
 なすすべなく場外へ飛ばされたシェルロードはタイシの腹部に激突。
「う、ぐっ……!」
 顔を歪め、疼くまる。
「どうした?ギブアップか?」
「だ、誰が……!」
 歯を食いしばって機体をセットする。
「あ、兄貴!もうやめましょうよ……!」
「うるせぇ!お前は黙ってろ!!」
 心配するシュウヘイを振り切ってシュートするが、全く力が入ってない。

「今回は楽勝だな」
「ホウセン、こんな奴ちゃっちゃとやっちゃいなよ〜」
「時間の無駄だ」
 インビンシブルソウルのメンバーがホウセンを急かす。
「そう急くなよ。どうせ勝てるんだからせめて楽しんだって良いじゃねぇか」
 グッ!バチンッ!!
 先程と同様の強力な攻撃で再びキャンサーをタイシの腹部へぶつける。
「ぐぉっ……!!!」
 タイシもキャンサーも、もうボロボロだ。
「へっへっへ、いつもよりHPが多いおかげでたっぷり楽しめるぜ」
「う、く……」
 度重なる攻撃に、ついにタイシは俯いて沈黙する。
「おっ?さすがにもう終わりか?」

 江東館の観戦席。
「な、何よこの試合……!」
「や、やりすぎだぜあのホウセンって奴!!」
「血も涙もないのか、あのフリッカーは!」
「これ以上は危険です!」
「兄ちゃん!あいつらを止めようよ!このままじゃタイシさんが……!」
 江東館メンバーは立ち上がりステージへ向かおうとするが、それをサクヤが止めた。
「ダメだ!!」
「え、どうして!?」
「あいつらは何もルール違反をしていない。試合に問題が発生したとしても、それを止める権利があるのは運営だけだ」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!?」
「何かあってからでは手遅れですよ!」
「兄ちゃんは、タイシさんの事が大事じゃないの!?」
「大事だからだ!!」
 サクヤは、脚の上に乗せた拳を堅く握り締めながら叫んだ。
「俺にとって、タイシは、タイシとの約束は、この赤壁杯は、何よりも大事だ……!だからこそ、俺達の独断で試合の邪魔をする行為は、ただの妨害にしかならない!そして何より、約束を守るために戦っているタイシへの侮辱になる!俺は、それだけは出来ない……!」
「兄ちゃん……」
 グッと堪えながら思いの丈を話すサクヤの姿に、江東館メンバー達はゆっくりと席に座り、試合の行方を見守る事にした。

「ぐ、お、おおおおおお!!!!」
 突如タイシは雄叫びをあげて自分で自分の頬をぶん殴った。
 口の端から流れる血を強引に拭ってホウセンを見据える。
「……大した事、ないな」
「気つけか。おもしれぇじゃねぇか」
「はぁぁぁぁ!!!」
 ドンッ!!
 自らを殴る事でメンタルを奮い立たせたタイシは渾身のシュートを放つ。
 その勢いは若干戻ったものの、それでもシェルロードには通じない。
「く、くそ……!」
 ボロボロな身体を精神力で無理矢理動かしたのに不発と言うのは、心へのダメージが大きい。タイシの身体から一気に力が抜けてくる。
「良い攻撃だったぜ。んじゃ、そろそろ終わらせるか」
(終わる、のか……!)

 バーーーーン!!バキィィィ!!!
 誰もがもう決着がついたと思った。
 が、シェルロードはアイアンキャンサーをフェンスへと叩き付けていた。試合はまだ終わらない。

「おおっと、手が滑ったぜ」
 わざとらしく言うホウセン。
「ぐ……!」
「運が良いなぁ?それとも、終われなくて残念か?」
「誰が……!」
 反撃しようと試みるタイシだが、もう力が入らない。
 ドゴォ!バキィィィ!!
 反撃が来ないのを良い事に、ホウセンはキャンサーをサンドバッグにする。

 小竜隊の観戦席。
「ひっでぇ……あいつわざと!」
「こんなんバトルやないで!!」
「いや、これも立派なバトルだ」
「え?」
「どこがや!バトルに勝つためにあんな酷い事する必要ないやん!」
「チームリーダーを徹底的に痛ぶって見せしめる事で、他のメンバーの士気を下げて確実に勝利する。そう言う作戦でバトルしてるに過ぎない」
「あいつらがそういう意図でやってるとは思えないけどな」
「真の意図なんて関係ないさ。戦略として認められる余地がある、それだけで十分バトルとして成立してしまう。それがフリックスの厳しさだ」

 ドゴォォォ!バキィィィ!!
 ホウセンの執拗な攻撃はまだまだ続く。
「ははははは!なかなか頑丈じゃねぇか!お前も、お前のフリックスもなぁ!痛ぶりがいがあるぜ!!」

 江東館の観戦席。
「シャシャッ!シャレになってねぇよあいつ!」
「サ、サクヤ……!」
「タイシのあの目は、まだ死んでいない……何か打開するはずだ」
「そんな事言ったって」
「だが、万一もありうる。何かあった時のために下で待機だ」
 サクヤの言葉に、全員待ってましたとばかりに頷いて席を立った。
「一般席にいる二軍の皆にも手伝いに来てもらおう」
「私が連絡しますよ」
「……」
 その中でケンタは険しい顔で試合を見続けている。
「ケンタ?」
「あ、う、うん!」
 サクヤに声をかけられて、ケンタも皆と同様立ち上がった。
(どうして、あんな顔が出来るの……?)

 そして試合の方は、ホウセンがもう何度目かのシュートを放っていた。
 バキィィィ!!!
 頑丈なはずのキャンサーのボディは既にひしゃげ、所々がひび割れて欠けている。
 しかし、ここにきてタイシの口元に笑みが溢れた。
「ようやく、見えたぞ……!」
「なに?」
「アイアンキャンサー!クアッドモード!!」
 タイシはキャンサーのハサミを横に広げた。広がった面積は僅かだが、これでマインヒット力が上がる。
「うおおおお!!!」
 力を振り絞ってのシュート。キャンサーの片側のハサミがシェルロードに触れてスピンしながら奥へ突っ込み、マインを弾き飛ばした。

『おおっと!一方的かと思われた展開でしたが、ここにきてタイシ君がマインヒット!一矢を報いました!!』

「やるな、攻撃を受け続けながら軌道上にマインが来る立ち位置になるまで耐えていたのか」
 リョウマが感心する。

「て、てめっ、舐めた事してくれんじゃねぇかよ。次でぶっ壊してやる……!」
 頬をひくつかせながら、ホウセンはシュートを構えた。今度こそ破壊される……!
 その時だった。
「あ、兄貴!!」
 シュンッ、シュンッ!!
 4機のスチールロブスターがキャンサーを守るように現れた。
「お前ら、来るなって言っただろ!!」
「これ以上、兄貴はやらせないっす!!!例え兄貴の命令でも、兄貴に嫌われても!俺達は兄貴を守りたいんっす!!!」

「良いぜ、じゃあお前らごとぶっ壊してやる!!はあああああ!!!!」
 ドンッ!!
 ホウセンの渾身のシュート。衝撃波を放ちながらスチールロブスターの大群に突っ込み、バネギミックを起爆させる。

 バゴォォーーーン!!!
 凄まじい爆発音と共にスチールロブスターが砕けていく。
「うわあああああ!!!!」
 それに合わせてシュウヘイ達は吹っ飛び倒れ込む。
「へっ。あっけねぇ奴らだ……なに!?」
 しかし、その破片の中でアイアンキャンサーとタイシだけは無事だった。
「バカな!?」
「密集したスチールロブスターがわざと破壊される事で衝撃を分散したか。面白い」
 神宮タツヤが興味深げに笑う。

「お、お前ら……!しっかりしろ!」
 タイシは倒れ込んだシュウヘイへ駆け寄った。
「よかった、兄貴を守れたっす……」
 息絶え絶えで呟き、気絶した。
「シュウヘイ……」
 それを見届けたタイシはホウセンへ向き直る。
「部下の使い方が上手いじゃねぇか。どんな雑魚でも肉壁にはなるからな」
「貴様……!」
 ホウセンの挑発にタイシは静かに激しく怒りを燃やす。
 身体は当に限界のはず、メンタルだって使い果たした。それでも、魂がタイシを突き動かす。
「喰らえ……!アームドクラッシャー!!!」
「そんなものが効くかよ!!」

 バキィ!!
 さきほど通じなかった技。しかもさっきより威力が低い。
 が、そのシュートは不気味なほどの精度を発揮し、的確にシェルロードの重心を捉えて弾き飛ばす。
 場外するほどの勢いではなかったが、ギミックを発動したシェルロードの伸び切ったフロントがフリップホールへ被さった。

「な、なに!?」

『なんとなんと!アトランティス、タイシ君の起死回生!!この土壇場でシェルロードを沈めました!!』

「ちっ」
「遊びすぎだ、ホウセン」
 ホウセンは沈められたが、代わりにタカトラがキャンサーを狙う。
「タイタントータス!ナックルシュート!!」
 拳を使った力強いシュートで亀の甲羅型フリックスを飛ばし、キャンサーへ攻撃。
 バキャアアアアア!!
 ハサミはもぎ取られ、ボディも前後に真っ二つにされながら、キャンサーはフリップアウトしてしまった。

「ぐあああああ!!!」
 タイシも衝撃で吹き飛ばされて気絶する。

「タイシ!皆!!」
 試合が終了したタイミングで江東館所属のメンバー達がステージへ駆け寄って倒れたアトランティスのメンバーを手際よく介抱していく。
 大きなチームだけあり、こう言った不測の事態への対応は慣れたものなのだろう。
 破壊された機体の回収、そして倒れたアトランティスのフリッカーを抱えての搬送。
 運営もすぐに対応した事もあって滞りなく進む。

「サクヤ!俺達も手伝うぜ!」
「何でも言ってや!」
 小竜隊も降りてきて手伝いを買って出るが。
「いや、ありがたいが君達はこの後試合がある。そっちに集中してくれ」
 さすがに試合を控えてる選手の手を煩わせるのは躊躇われたのか、丁重に断られた。

 そんな中でインビンシブルソウルは全く意に介さずと言った様子で観戦席へ戻ろうとしていた。
「ちぇ、タカトラにいいとこ持ってかれるとはなぁ」
「あんたが油断してるからでしょ」
「自業自得だな」
「ふん、まぁいいさ。十分楽しめたしな!はっはっはっ!」
 そんなホウセンへ、ケンタが声を掛けてきた。
「……どうして」
「あん?」
「どうして、笑ってるの?」
「は?勝った人間が悔し泣きすると思ってんのかよ」
「っ!僕は、僕は……!!」
 ホウセンの返答に、ケンタは怒りの炎を燃やしながら睨みつけた。

「ケンタ!悪い、こっち手伝ってくれ!」
 サクヤに呼ばれて、ケンタは何も言わずに踵を返した。
「けっ」
 その姿を鼻で笑い、ホウセンは他のメンバーと共にステージから降りていった。

 ……。
 ………。

 そして、事態の収束が終わり大会は進行していく。

『さぁ、トラブルも起きましたが、選手や会場の皆様のおかげで迅速に対応出来ました。改めてお礼申し上げます。では、気を取り直して次の試合へ行きましょう!』

 Aブロックの第二回戦が進行していく。

『決まりました!またも圧倒的は強さを見せつけてレッドウィングスが勝利!!』

 そして、Bブロックの試合が始まる。
 ステージには既に小竜隊とホワイトホースが待機している。

『続いては小竜隊VSホワイトホース!なんとこの小竜隊のリーダー雲野リュウジ君は、且てホワイトホースでエースフリッカーとして歴代の赤壁杯でも大活躍していました!まさに同門対決!果たしてどちらが勝つのでしょうか!?』

「イッケイ、ついにこの時が来たな」
「ああ……この戦いでお前の全てを受け止める!」
「良い試合をしようぜ」
「もちろんだ!」

 爽やかなやりとりの後、ルール説明に入る。

『今回のルールは【HP共有交代制バトル】!それぞれチームとしてHP6ポイントで1VS1でバトルします。そして、ターンの最初に控えの選手と自由に交代する事が出来ます!状況に応じてどの選手に交代するかの戦略が勝負の鍵となるでしょう!』

 そして、両チーム控えエリアへ向かい作戦タイム。

「交代制バトルとなると、先発を誰にするかが重要になるな。相手が誰を出すかを読んで、最も相性の良いフリッカーを考えないと」
「何言うとんのや、リュウジ」
「え?」
「考えるまでもないよな」
「あぁ。リュウジが出てくれ」
「いや、しかし……!」
 勝利よりも自分を優先して良いものか、渋るリュウジだが……。
「きっとホワイトホースも同じ事考えてるよ」
「せっかく夢が叶うチャンスなんだ。わがまま通して、存分に楽しんできても良いと思うぜ」
「ああ!それでどんな結果になっても俺達はリュウジと一緒に小竜隊で戦えた事を後悔しない!」
「それで仲間の夢が叶うなら、本望やで!!」
「だから思いっきり戦ってきてよ、リュウジさん!」
 小竜隊メンバーの優しさに触れ、リュウジは頷いた。
「……分かった。ありがとう」

 そして、先発の選手が前に出る。

「やはり出てきたか、リュウジ」
「……考える事は同じか」
 交代制バトルとは言え、交代が義務なわけではない。HPが共有ならば、交代しない事は特にハンデにはならず、HPが多いだけの通常バトルとして戦える。
 リュウジとイッケイ、二人の戦いの場としてはこれ以上ない。

「いけー!リュウジー!!」
「がんばれ!イッケイー!!」

 両チーム完全に二人を応援する側になっており、出る気がないのが窺える。

『小竜隊からは雲野リュウジ君、ホワイトホースからは公孫寺イッケイ君が一番手を務めるようです!ホワイトホースのトップツーの対決!面白いバトルが期待されます!!』

「いくぞ、イッケイ!」
「ああ、来いリュウジ!!」
 二人がフィールドに機体をセットしてシュートを構える。

『3.2.1.アクティブシュート!』

「駆けろ!ソニックユニコーン!!」
「飛べ!バリオペガサス!!」
 バチーーーーン!!
 ユニコーンの超速シュートでフィールドよりも相手側のエリアでバリオペガサスと激突。
 しかし、バリオペガサスはパワーでユニコーンを押し返してしまった。
 お互い、スタート位置からそこそこ進んだ場所で停止する。

『さぁ、ファーストアクティブの結果はどうでしょう!』

 パッと見、2機の進んだ距離は殆ど変わらないように見える。

『これは、同距離です!!何と言う事でしょう!全くタイプが違うながら、アクティブシュートは完全に互角!!さすがは元チームメイト、息はピッタリです!』
 しかしこんな事で息ピッタリでも意味はない。

『それでは仕切り直し!3.2.1.アクティブシュート!!』

 バシュッ!!!
 再び先ほどと同じように激突し、同じように弾かれる。

『またも同じ展開でしょうか!?再び同距離……』
「いや、まだだ!!」
 イッケイが叫ぶ。
 その直後、ビュウウウ……と風が吹いた。すると、低摩擦のユニコーンが僅かに動き距離が変動した。

『おおっと!屋外フィールド故の展開発生!!風を味方に付けてバリオペガサスが先攻です!』

「やるな、風を読んでたか」
「まさか、偶然さ。だが、ランダムな外的要因の多い屋外フィールドなら、影響を受けづらいバリオペガサスが有利だ」
 もちろん、そんな影響は微々たるものだ。これまでの試合だって条件は同じだったが、考慮する必要は皆無だった。しかし、実力が伯仲でお互いの手の内が知れている相手同士だからこそ、その微々たるものが大きくなる。

「押し飛ばせ!バリオペガサス!!」
 イッケイはペガサスのウイングをリアサイドに取り付けてシュート、ウイングでマインを触れた後にユニコーンを遠くへ弾き飛ばした。反撃マインは不可能な立ち位置ではないが、それでもかなり遠い。
「それで反撃を防いだつもりか?」
 ユニコーンの武器は機動力、たかが距離が離れた程度は何もハンデにならない。
 難なくマインヒットを決めるが、マインに触れた状態で停止してしまった。
「くっ、パワーが足りなかったか!」
「反撃を防いだつもりなわけがないだろう。お前の武器は誰よりもよく知っている!ウィンガーインパクト!!」

 バキィ!!
 ペガサスはマインごとユニコーンを弾き飛ばした。マインは場外したが、ユニコーンはバリケードで守られる。

「先は長いんだ、序盤はじっくり行こうじゃないか」
「同感だな。だが、引き離されはしない!!」
 バシュッ!!
 マインは軌道上に存在しない。が、リュウジはペガサスに掠めるようにシュートし、その反動でユニコーンは片輪を上げてカーブしながらマインと接触。

「マイン再セット」
 先ほど落ちたマインはリュウジのものだったらしく、シュート後のマインセット。
 置いた場所は自機の目の前だった。普通は敵機の後ろに置くものだが。
「定石と違うな」
「定石通りで勝てる相手じゃないからな」
「なるほど」
 バキィ!!
 ペガサスのシュート。先ほどと同じようにマインを弾き飛ばしながらユニコーンへヒット。しかし威力が低い。
「マインを盾に使ったか」
「そう言う事だ」
 バシュ!
 まだ近くにマインがあったおかげで簡単にマインヒット反撃。
 更に機動力を活かして遠くへ行き、反撃を受けづらい立ち位置についた。
「……仕方ない」
 マインヒットもフリップアウトも狙える距離ではないので、せめて反撃を受けづらい位置へ移動した。そして、先程弾き飛ばした自分のマインをユニコーンの後ろへセットする。
 お互い残りHPは4。しかし、状況はややイッケイが優勢と言えるだろう。
 何故なら、このターンリュウジはイッケイを攻撃する術がない。しかし動かなければ次のターンでマインヒットを喰らう。だが、動いたところでイッケイはまたマイン再セットしてじわじわとリュウジを揺さぶる事が出来る。
 更に、バリオペガサスは変形してのマインヒットも近距離からの高火力性能もどちらも併せ持つ。攻撃の通じる範囲が広いのだ。
「……」
 さすがに難題過ぎるのか、リュウジの動きが止まった。

『おおっと、リュウジ君長考でしょうか?さすがにこの立ち位置から挽回するのは難しいか?』

「……イッケイ、お前さっき実況に『風を味方につけた』って言われてたよな」
「え、あぁ。なんだよ藪から棒に」
「あれは的外れだ。正確には、風が俺に敵対してるだけだ」
 そう、先程の風はイッケイを助けたのではなく、リュウジの邪魔をしただけ。その方向性はどうあれ、影響しているのはリュウジだけだ。
「だが、敵対してくるなら、俺はそれを利用する!!」
 リュウジはユニコーンをペガサスとは反対のマインへ向けてシュートした。
 マインを運んだまま、フィールド端のフェンスへ激突する。勢いでつんのめり、反動で機体が浮き上がる。その瞬間。
 ビュオオオオオ!!!と風が吹いた。
 地面にいる時よりも浮いている方が風の影響を受ける。ユニコーンはそのまま風に煽られてペガサスへダイブした。

『うおおお!これは凄い軽業です!!信じられないアクロバティックな動きでユニコーンがマインヒットを決めました!!これでダメージレース逆転!』

「風向きはそうそう変わらないからな。あとはタイミングを見極めるだけだ」
「はははは!!さすがだリュウジ!いつも俺には考えもつかない方法で状況を打開する!こうして敵対すると改めて感じるな、こんな凄い奴と組んでたんだなって」
「俺も同じさ。なのにわざわざチームから離れて敵対するなんて、贅沢な事してるなって思う」
「……あの時も、お前の力を信じていれば優勝出来てたのかもな」
 第一回赤壁杯の事を言っているのだろう。その声音には後悔が滲んでいた。
「忘れたさ、そんな事。それより今のバトルを楽しもうぜ!」
「ああ!!」

 それから、二人は拮抗した試合展開を見せた。
 ダメージレースではリュウジが優っているものの、それでもお互い一歩も引かずに攻防戦が続いている。

「いけっ!ユニコーン!!」
「躱せ!ペガサス!!」
 ユニコーンの突撃をイッケイはペガサスの頭部の羽根を利用してステップで躱す。
「押せ!ペガサス!!」
「耐えろ!ユニコーン!!」
 ペガサスの攻撃をユニコーンはバリケードで耐える。
 攻撃も機動も回避も防御も、あらゆる面で高次元な互角の立ち合いだ。

『さぁ、凄まじい戦いです!マインヒットを決められた思ったら決め返す!回避しされたと思ったら状況を立て直す!このような激しいマイン合戦は今大会始まって以来です!?』

 その様子をホワイトホースのメンバー達は感動しながら見ていた。
「す、すげぇバトルだ」
「あんなイッケイ、初めて見たんじゃい」
「普段は僕らのサポートばかりだったから、気付かなかったけど」
「あれがイッケイ君の本当のバトルなのかも」

 そして、バトルは終盤に差し掛かる。
 残りHPはイッケイが1でリュウジが2でイッケイのターンだ。

『バトルは終盤戦に突入!しかし、ここまで二人とも交代は無し!このままタイマンで決着をつけるつもりでしょうか!?』

「楽しいな、イッケイ」
「あぁ、リュウジとのバトルがこんなに面白いなんて知らなかった」
「正直、お前と敵対出来て良かったぜ。同じチームだったら、こんな風に戦えないもんな」
「……けど、それでも俺は、今のお前とまた組めたらどんなバトルが出来るのかってのも考えちゃうんだよな」
 未練がましい自分を自嘲するように笑う。
「俺も同じさ。今こうして戦ってみて、またお前と組みたいって思っちまった」
「リュウジ……」
「だが、今は敵同士だ」
「そうだな。一先ず、この関係を堪能させてもらうとするさ!」

 バシュッ!!
 イッケイの渾身のシュート!マインヒット決める。
 これでお互い残りHPは1だ。ユニコーンが反撃を決めれば勝てる。
 しかし、ペガサスのシュートは巧みで、自機敵機マインが全て四隅に散らばるようにシュートしていた。
 これではユニコーンは反撃ができない。

『おおっとこれは上手い!リュウジ君はダメージレースでは優っているものの、決め切るのは不可能か!?』

「やるな……ここは一旦状況を立て直すか」
「……」
 さすがに攻撃を諦めるリュウジだが、イッケイの構えを見てその考えをやめた。
(あれは、ステップの構え……そうか、俺がシュートした瞬間にステップで反撃可能な位置に移動するつもりか。ペガサスの攻撃範囲ならある程度どこへ移動しても攻撃は通じやすい。ここで決め切らないとやられる……!)

 しかし、どう足掻いても攻撃が通じる立ち位置では無い。
 イッケイは不利な状態を続けながらもこの盤面を作る事を意識していたのだ。
 トライビーストの若生ジュンとのバトル経験が活きているのだろう。

(……ダメだ。活路が見えない。ゲンジのドラグナーやツバサのワイバーンならフリップアウトを狙える、ナガトのオーガなら反射でマインヒット、ユウスケのアリエスなら逃げに回っても長期戦で耐えながらチャンスを掴めるかもしれないが、ユニコーンは……!)
 リュウジはチラリと小竜隊を目配せする。

「がんばれリュウジーー!!」
「あと一歩だよ!!」
「小竜隊の力を見せつけてやるんや!」
「リュウジならいけるさ!!」

 口々に応援してくれるメンバーを見て、リュウジは一息ついた。

(そうだな。これは小竜隊が見せてくれた俺の夢だ)

 “どんな結果になっても俺達はリュウジと一緒に小竜隊で戦えた事を後悔しない!”

バトル前に言われた言葉を思い出す。

(どんな結果になってもいいなんて、冗談じゃない。俺の夢を叶える以上は、チームの夢を繋ぐ!)
 リュウジはユニコーン内部のウェイトを外してフィールド上に置いていった。

「……なんのつもりだ?そんな事をしたら次のターンでフリップアウトするぞ」
「どの道ここで決めきらないと反撃するつもりなんだろう?なら、後の事を考える必要はない」
「お見通しか」

 そして、リュウジはシュートする。その方向はユニコーンとは別の隅にあるマインだった。

「自滅する気か!?」
「ユニコーーーーン!!」
 カキンッ!!
 ユニコーンはマインにぶつかった瞬間に反射してペガサスへ向かっていく。
「マインに弾かれた!?そうか、それでウェイトを外して軽くしたのか!!」
「そのまま行け!!!」
 迫ってくるユニコーンだが……。
「甘い!!」
 イッケイはステップで回避する。しかし。
「そこだ!!」
 ペガサスが回避した先には、ユニコーンのウェイトが設置してあった。

「しまった!!」
 カンッ!
 なす術なく当たってしまう。これによって間接的にマインヒットが成立してしまった。

『決まりました!!!まさかまさかのトラップ作戦でペガサスのステップを封じてマインヒット!!』

「よしっ!」
「やったぜリュウジ!!!」
 ガッツポーズを決めるリュウジへ、小竜隊メンバーが駆け寄って揉みくちゃになった。

 その様子を呆けながら眺めているイッケイへホワイトホースメンバーが歩み寄る。
「イッケイ君……」
「惜しかったんじゃい」
 残念そうなメンバーを見て、イッケイは頭を下げた。
「すまない皆!俺のわがままを通したばかりに……勝つために交代も視野に入れてちゃんと作戦を組んでいれば」
「何言ってんのさ!」
「え?」
「僕、すっごく感動した!!」
「負けたのは残念だけど、こんなバトルが見られたなら満足だぜ!」
「だな!イッケイとリュウジの一騎打ちじゃなきゃこんなバトルは出来ないんじゃい!」
「だが……」
「イッケイ君は、リーダーだからって気を使い過ぎだよ。イッケイ君がみんなの為を思ってるのと同じように、私達だってイッケイ君の為になりたいって思ってるんだよ」
 ユズルに諭され、イッケイはハッとした。
「そうか……なら、さっきのは言い間違いだな。『すまない』じゃなくて『ワガママ聞いてくれてありがとう、最高に楽しかった』!」
「へへへ、良いってことよ!」
「あのバトルを参考にして、僕らはもっと強くなれる気がするし!」
「十分意味のある試合だったんじゃい!」
 負けたにも関わらず、ホワイトホースは大きなものを得られて晴々としていた。

 そして、イッケイは小竜隊の方へ歩み寄る。
「リュウジ、良いバトルだった。ありがとう」
「あぁ、お前と戦えて本当に良かったぜ」
「……また、一緒にバトルしようぜ。敵としてでも、味方としてでも、どっちでも良いからさ」
「もちろんだ!」

 リュウジとイッケイは固く握手を交わした。

 

    つづく!

 

 

CM

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