弾突バトル!フリックス・アレイ トリニティ 第17話「手放したくない絆」

Pocket

第17話「手放したくない絆」

 

 赤壁杯予選大会第二ステージ。
 サバイバルバトルの最中、リュウジはツバサとナガトから不信感を買ってしまう。
 このままではチームのためにならないと判断し、リュウジは一度チームを離脱する事を決意した。

「じゃあな。なるべくポイント稼いでチームに貢献してくるぜ。お前らも負けるなよ」
 そう言って軽く手を上げて歩いて行こうとする。
「リュウジ……!でも、やっぱり無茶だって!下手したら1VS5で戦う事にもなるのに、ポイント稼ぐどころじゃないだろ!?」
 ゲンジは遠ざかる背中へ必死へ訴えかけるが、リュウジの足は止まらない。
「なぁ、ツバサ、ナガト。落ち着いて話そうぜ?ちゃんと話せば……」
「……」
「……」
 ツバサとナガトは無言で視線を逸らす。
「変だよ……」
 ユウスケがつぶやく。
「ユウスケ?」
「どうしてそうなるの!?おかしいよそんなの!!」
 ユウスケの悲痛な叫びにリュウジの足がついに止まった。
「何もおかしくないさ。俺は信頼を失った。なら、離れた方が良い」
 リュウジは感情を殺し、振り返りもせずに事務的に返答する。まるで自分に言い聞かせるかのように。
「だけど、これはチーム戦なのに!」
「いつもベッタリ一緒にいる事だけがチームワークじゃない。離れた方が効率が良い時だってある」
「効率とか、そう言う問題じゃないよ!だって、今のリュウジさんはチームワークのためじゃなくて、追い出されてるようなものじゃないか!それで上手くいったとしても、そんなのチームじゃないよ!!」
「だが、今俺が一緒に行動してもマイナスにしかならないだろ」
「僕はそれでも良いよ!!例えマイナスだとしても、ダントツを誓いあった仲間だもん!勝っても負けても、チームでなきゃ意味がないじゃないか!!」
「そうは言っても、俺はお前達を利用するかもしれないんだぞ?」
「リュウジさんにどんな企みがあったって、少しくらい秘密があったって良いよ!それでも僕は、小竜隊でバトルするのが好きなんだ!!」
 ユウスケの必死な訴えに便乗するようにゲンジも口を開いて援護した。
「そ、そうだぜ!大体、言えない事の一つや二つ誰にだってあるし、前のチームの友達と仲良くするなんて当たり前じゃないか!そんなのでいちいち突っかかる方がおかしいんだ!リュウジも、ちょっと突っかかられた程度で離れるなんて大袈裟なんだよ!」
「ユウスケ、ゲンジ……」
 ユウスケとゲンジの訴えを聞き、リュウジはゆっくりと小竜隊の下へ歩み寄った。
「……そうだな、効率とか最適解とか言い訳して、俺は逃げていただけなのかもしれない」
「リュウジ……」
 殊勝な態度のリュウジに、ツバサとナガトもゆっくりと振り返った。
「正直に言う。小竜隊を……俺が自分でチームを作ろうと思った動機は、ホワイトホースにある。ある意味、利用するためと言っても間違いじゃない」
 小竜隊メンバーは、リュウジの言葉を否定も肯定もせず、ただ静かに聞いた。
「俺がいた頃のホワイトホースは、そこそこの強豪ではあったが、だからこそそこで満足して向上心を失っていた。俺はそれがずっと不満だった。だから、親の都合で転校したのを機にチームを脱退してライバルとして鼓舞しようと思ったんだ。
何より俺自身、あいつと仲間としてじゃなくライバルとして本気で戦いたかったと言うのもある」
「そのためのチームが、俺達小竜隊……」
「そうだ。あいつらにとって発破になって、そして強くなったあいつらを小竜隊として戦って倒す。それが俺の真の目的だ」
「だから、リュウジは……」
「あぁ、ホワイトホースとは決勝トーナメントで戦いたい。だから予選落ちしてほしくなかった。ツバサの言う通り、俺がホワイトホースを倒したくなかったと言うのは事実だ」
「やっぱりそうなんか……」
「でも、それでも小竜隊が勝つ事が1番の目的ってのも本当なんだよね」
「もちろんだ。そして、事故の事を黙っていたのは……責められるのが怖かったんだ……」
「責められる?」
「ナガトは有名なフリッカーだからな。その事故に関わってしまった事で、才能を潰したと責められるんじゃないかと……だから、言えなかった。それだけなんだ」
「……別にちゃんと対応してくれたから、いいのに」
「それでも、な」
 それを聞いて、ゲンジはフッと笑った。
「なんだ、聞いてみるとやっぱり大した事なかったんじゃん」
「うん。友達が大事だったり、怒られるのが怖かったり、僕らだってそう言うのあるもんね」
「せやな……うちもすまんかった!」
 ツバサはリュウジに向かって勢いよく頭を下げた。
「ほんまの話、リュウジがホワイトホースと仲良くしてるのを見てるのは面白くなかったんや。結局うちらよりも昔の仲間の方が大事なんじゃないかって思うたら、モヤモヤして……けど、うちかて転校する前の友達は大事やし、今の仲間も同じくらい大事なんやもんな」
「俺も、すまなかった。疑心暗鬼に囚われて、筋の通らない理由で言いがかりを付けてしまって……本来なら俺は礼を言わなきゃいけないのにな。あの時、適切な応急手当してくれてありがとう、俺が今もフリックスできるのはそのおかげなんだ」
「ツバサ、ナガト……」

「へへっ!よーし、無事仲直り出来たところで、あれやろうぜ!」
 ゲンジがグッと拳を突き出すと他のメンバーもなんの事か察して拳を合わせた。
 そして、声を合わせて叫ぶ。

「小竜隊の絆は何があっても不滅だ!」

「「「ダントツの誓いに懸けて!!!」」」

 こうして、小竜隊の絆は確かなものとなったのだった。
 と、その直後。

 バゴォォーーーン!!!
 と凄まじい衝撃を受けてしまい、一気に五人とも撃沈してしまう。

 [小竜隊45ポイント]

「なにぃ!?」
 呑気に誓いなんてやってたもんだから隙を突かれてフリックス出してない状態で攻撃を受けてしまい一撃で沈んでしまったようだ。

「だーっはっはっは!!何のんびりやっとるんや!」
 アホみたいな高笑い。やはり小竜隊を狙ったのはキングミラージュだった。
「ウホウホ!やっぱり運は野生を司るオラ達に味方するウホ〜!!」
「ヒョッ!一気に15ポイント獲得!もうかりまっせ〜!」
「ふふ。では、失礼いたします」

 好き勝手喋ったのちにキングミラージュは去っていった。

「空気読めん奴らやでほんま……」
「いや、こんな戦場で隙を見せすぎた俺達が悪い」
「でも、もう禍根は消えたんだ!こっから挽回しようぜ!」

「「「おーーーー!!!」」」

 小竜隊完全復活!
 一定時間戦えなくなったものの、復帰してからは絶好調のチームワークでどんどんポイントを稼いでいった。

「いっけぇ!ドラグナー!!」
 たまたま遭遇した名前も知らないチームとの戦闘。
 ドラグナーが敵機を弾いて転倒させて、オーガが追撃する。
「鬼牙二連斬!!」
 フッ飛ばされた敵機は更に他の敵機とぶつかって止まり。
「いっくで!ワイバーン!」
 ワイバーンが追撃して一気に撃沈。

「こ、このぉ!」
 生き残った別の敵が攻撃してくれば。
「守れ!アリエス!!」
 ユウスケが咄嗟に間に入って受け止めて。
「ユニコーン!!」
 ユニコーンが即座にそれを仕留める。
 完璧なチームワークだった。

「な、なんだのこのチーム!?」
「俺達とは、次元が違う……!」
 圧倒された敵チームは情けなくて逃げ帰っていく。

「おっしゃぁ!絶好調や!」
「これでかなりポイントが入ったね!」

 [小竜隊76ポイント]

「あと8人倒せば100ポイントだな」
「この調子で行くでぇ!矢でも鉄砲でも持って来いって感じや!!」
 ツバサが調子に乗って笑っていると。

「よぉ、調子良さそうだな、小竜隊」
 今、1番会いたくない声が聞こえて来た。
「っ!」
「インビンシブルソウル……!」
 ホウセン達が強者の余裕を感じさせる笑みを浮かべながら歩いて来た。
「かーっ、間の悪い奴らやで!せっかく良い調子やったのに!」
「どうする?ここで奴らとやり合ってもメリットは薄い、撤退するか?」
「こいつらはレースでもトップを走ってた奴らだ。簡単に逃げ切れるとは思えない。出来るだけ抗戦して、隙を作るしかない」
「となると、俺とナガトのアッパーでスタン狙いだな」
 掬い上げ性能を持つ機体はドラグナーとオーガしかいない。
 ゲンジとナガトは身構えた。
「安心しな、ここでてめぇらをぶっ潰してやりたかったとこだが」
 ホウセンが意味深にニヤリと笑うと、その横にいたリョウマが小竜隊の遥か後方目掛けて機体をシュートした。
「レジリエンスオーディン!」
 シュンッ!
 神速とも言えるスピードでゲンジとナガトの間をすり抜けてカッ飛んでいく。
「は、速い!」
「全く反応出来なかった……!」

 バーーーーン!!

「うわああああ!!!」

 そして、後方で聞こえる爆発音と悲鳴。

 [インビンシブルソウル 102ポイント]

『おおっと!インビンシブルソウルが100ポイントに到達!予選突破1番乗りです!!』

 どうやらインビンシブルソウルは100ポイント間近だったから、目の前で警戒している小竜隊よりも後ろで油断している雑魚を倒した方が手っ取り早いと判断したようだった。

「残念だが、お楽しみは後だ。トーナメントでぶっ潰してやるよ」
 ホウセンがドスを効かせた声でそう言うとインビンシブルソウルは踵を返す。

「遠近リョウマ!」
 その背中に向かってナガトが声を掛ける。
「俺は、あなたがどんなフリッカーであろうと、リベンジを目指して憧れ続けます!そして、いつか必ず倒す!!」
「……それでいい」
 顔は見えなかったが、そう呟いたリョウマの声は少し嬉しそうだった。

「遠近リョウマ?どこかで聞いた事あるような……?って、ええええ!!
あの遠近リョウマか!?2年前のGFC決勝目前で突如姿を消した幻のチャンピオンやん!!!」
 インビンシブルソウルが見えなくなったところでツバサがようやく気付いて素っ頓狂な声を上げた。
「あ、そう言えば!諸星コウ君にデータを見せてもらった時に、何か覚えがあると思ってたら……!」
「遠近リョウマって、確か昔GFC決勝大会でナガトを倒した奴だったよな?なんでそんな奴があんなチームに!?」
「昔試合を観戦した時は、ラフプレーをするようなフリッカーには見えなかったけど……」
 ゲンジ達三人の反応はまるでちょっと前までのナガトの鏡写しだった。

「関係ないさ。相手が本当はどんな奴でも、どこに所属していても、戦いたいと思ったら戦って、勝ちたいなら勝つ。それだけさ」
 ナガトの目にもう迷いはなかった。

 ……。
 ………。
 そして、時間は経過していき。

『さぁ、第二ステージも折り返しといった所でしょうか!?インビンシブルソウルに続いて予選突破するのは果たして!?』

「そんなんうちらに決まっとるわ!」
 ツバサを先頭に小竜隊達が元気に草原を駆ける。
「俺達のチームワークは無敵だ!」
「誰が相手でも負けないぜ!」
 まさに絶好調。
 あれから小竜隊は撃沈どころか全くダメージを受けていないのだ。

「……まぁ、あれから全然戦ってないからな」
 ナガトが痛いツッコミをいれる。
 そう、小竜隊はあれから全く敵と遭遇出来ていなかったのだ。そりゃ無傷なのは当たり前である。

「なんでどこにも敵がいないんやーーー!!!」

 草原にツバサの叫び声が虚しく響いた。

「うーん、狩り尽くしたかな……。真っ向勝負で勝てないと悟ったチームはどんどん森の中や隠れやすい場所に逃げて隠密戦に徹底してるのかもしれない」
「サバゲーかい」
「ある意味似たようなものだけど」
「つまり、俺たちが戦いやすいこの草原だとそもそもフリッカーが少ない上に、いたとしても強敵だから時間がかかる。ポイントを稼ぐには、戦いづらいけど森の中に行かないといけないって事か」
「いきなり厳しくなったね……」
「復帰アリのサバイバルはどうしても時間が経てば経つほど皆が学習してこう着状態になりやすいからな」
 しかしこうして話していても仕方ない。
 ポイントを稼ぐためにも獲物が多いであろう森を目指す事にした。

 が、その道中ツバサは目敏く他にフリッカーが何人かいるのを発見した。

「おっ、なんやまだおるやん!しかもフリックス出してないっぽいな、チャンスや!!」
 バシュッ!
 ワイバーンをシュートして無防備なフリッカーを狙う、が機体はフリッカーをすり抜けてしまった。
「あら?」
「うわ、ビックリした!何するんだよ、俺らは今撃沈して復帰待ちなんだよ!」
 ツバサに攻撃された少年が憤慨する。よく見ると撃沈された証に身体が透けていた。
「あ、うっかりしとったわ。堪忍な」
「ちょ、ちょっと待てツバサ、なんか変だぞ。ここら辺、撃沈したフリッカーが他にもたくさん……!」

 そう、この少年だけじゃなく、この辺一体に半透明になったフリッカー達が何人もいた。
「何があったんだ?」
「随分激しい戦いしたみたいやな……」
 ゲンジ達が不思議がっていると、復帰待ち中のフリッカーの一人が話しかけてきた。
「お前らも気をつけた方がいいぜ。あいつの強さは異常だ」
「あいつ?」
「たった一人のフリッカーにこれだけの人数がやられたんだ」
「たった一人に?」

 そして、ゲンジ達はこの戦いの中心部に立っているフリッカーの存在に気づく。
 その、フリッカーは……!

「南雲、ソウ……!」
 ゲンジの呟きが聞こえたのか、ソウはゆっくりと視線を向けた。
「青龍のフリッカー……確か東堂ゲンジだったな」
「まさか、お前一人で、ここら辺のフリッカーを……?甲賀アツシや、他のメンバーはどうしたんだ!?」
「今この場に必要か?」
「なに!?」
「ルールに集団行動の制限はない。なら、分散した方が効率が良い」
「っ!」
 チームでのサバイバルで敢えて単独行動を取る。
 さっきリュウジが自棄を起こしてやろうとして、でも無茶だからと取りやめて。
 その結果、結束を強めたチームワークで勝ち進んできた小竜隊とは真逆。
 小竜隊では不可能だと判断した手段で、ソウは勝ち抜いていたのだ。

(ソウ、やっぱりこいつ、すげぇ……!)
 ゲンジのドラグナーを握る手が強くなり、武者震いが起こる。
「丁度いい、100ポイントまであと少しだ。最後の標的はお前達だ」
 ソウは、カイザーフェニックスを小竜隊へ向けた。やはり1人で5人相手にする気満々のようだ。
「お、おもろいやんけ!全国2位の実力者に、うちらのチームワークで打ち勝ってみせるで!!」
「待ってくれ、ツバサ」
 ワイバーンを構えるツバサをゲンジが制する。
「皆悪い、ここは俺一人で戦わせてくれ」
「なんやて?」
「ゲンジ君、それは無茶だよ……!」
「条件はあいつも同じなんだ!無茶なんかじゃない……!俺は、今の俺があの時と違うって事を見せつけたいんだ!!」
 ここで敢えて1VS1で戦うメリットは薄い。だが、自分達とは真逆の方法で圧倒的格の違いを見せつけて来たソウに対して、ゲンジの中で抑えられない対抗心が燃え盛っていた。
「……分かった。勝てよ、ゲンジ」
 ライバルとの戦いを避けたくないと言う気持ちはよく分かるのか、ナガトはゲンジの頼みを受け入れ、リュウジも頷いて許可の意を表した。
「ありがとう!」
 皆からの許可を得て、ゲンジは一人ソウの前に立った。
「……何の真似だ?」
「ソウ、お前が一人で戦うなら、俺だって一人でお前を倒す!」
「バカな奴だ。勝手にするがいい」
 チャキ……!
 ソウとゲンジが機体を構えた。

「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
 お互い同時に機体をスケールアップさせるためのシュートをして空中で激突。
 パワーは互角なのか、二機とも同じくらい弾かれて着地した。
「む」
「俺はもうあの時とは違うぜ!!」
「だろうな。だが、甘い!!」
 シュンッ!バキィィ!!
 カイザーフェニックスの先攻攻撃、ドラグナーが思った以上に弾かれる。
「なに!?」
 ゲンジはマインヒット重視のカイザーフェニックスの思わぬ攻撃力に驚愕する。

「フェニックスの翼が、空気抵抗を減らす事でスピードを稼いで、しかも最も力が伝わりやすい重心に調整したのか……!」
 リュウジが解説する。

「負けるかぁぁぁ!!」
 ドンッ!!
 ドラグナーも力強いシュートでカイザーフェニックスへ反撃しようとするが……。

「フェザーダンス!」
 ドラグナーの突進をフェニックスは広げた羽根で受けてそのまま回転して、受け流した。
「なに!?」
「ふん。やれっ、フェニックス!」
 再びソウのフェイズ。
 今度は羽根を閉じた状態でシュートし、飛び上がる。そして、急降下するようにドラグナーへ迫ってきた。
「スウォープダイブ!!」
 空中からの加速がついた一撃!
「耐えろ!!」
 まともに食らってはひとたまりもないとゲンジはバリケードを構えるが……。

 パキイイイイン!!!

「うわああああ!!!」
 バリケードを破壊されながらぶっ飛ばされてしまった。
「やはりその程度か。話にならないな」
 撃沈はしなかったもののHPは半分近く削れてしまいかなりピンチだ。
「くっ、さすがだぜ、ソウ……!全然勝てる気がしない……!」
「ゲンジ君……!」
「やはり力の差は大きいか」
 仲間達も周りを警戒しながらも心配そうにゲンジを見守っている。
「けど、負ける気もしない!!」
 一瞬挫けそうに目を伏せたゲンジだが、すぐに顔を上げて闘志を燃やした。
 そして、カイザーフェニックスの斜め後ろにあるエリアを見据える。そこは何故か光を反射していた。
「悪くない目だ。だが、俺はその機体のポテンシャルは知り尽くしている。どれだけ貴様が強くなろうと、半端な力では通用しない」
「分かってる!けど、お前に負けた時の俺は一人だった、でも今は小竜隊の皆が俺を強くしてくれた!」
 ドラグナーのシュートポイントにグリップパーツを取り付ける。
「その力をドラグナーと一緒に、お前へぶつけたいんだ!!」
「……いいだろう」
 シュートを構える手にグッと力が入る。ソウもゲンジのシュートを受けるために万全の体制をとった。

「いっけぇ!ドラゴングリップインパクトォォ!!!」
 グリップの弾力を利用したシュートで超加速して突っ込む。
「速い……!?」
 ステップをしようとしたソウも予想外の速さに間に合わずに攻撃がヒットしてしまう。
「無駄だ!フェザーダンス!!」
 ヒットした所で、フェニックスにはこの技がある。
 羽根を広げて攻撃を受け流せば、いかに速いシュートでも……。
「よし、そのままいけぇ!!」
 しかしそれはゲンジの狙い通りだった。
 受け流すために羽根を広げて回転しながら後退したカイザーフェニックスは、羽根の先端をフリップホールの上に被せてしまう。
「なに!?」
「やった、成功した!!」
 これでカイザーフェニックスはフリップアウト。初めてゲンジはソウにダメージを与える事が出来た。
「……。カイザーフェニックス唯一の欠点を突くとは……!」

「す、すげぇバトルだ……!」
「あの南雲ソウをフリップアウトさせちまうなんて」
 いつの間にかソウに負けたフリッカー達がギャラリーとしてゲンジVSソウの戦いを観戦していた。
 撃沈してから復活するまでは無敵状態とは言え、そんな事は気にせず自分達の試合も忘れるほどに二人の戦いは白熱していたのだ。

「どうだ!これがドラグナーのポテンシャルを超えた仲間の力だ!!」
「なるほど……確かにあの頃とは違うな」
 フリップアウトから復帰して、再びアクティブフェイズになったソウは、ゆっくりとフェニックスを変形させていく。
 まるで、わざとドラグナーの次のアクティブフェイズを待っているかのように。
「次で決着をつける」
「っ!」
 カイザーフェニックスは羽根を畳んで嘴を強調する攻撃的な形態になった。
「ドラグナー……!」
 ゲンジも負け時とドラゴンヘッドを出す。
 そして、二人は同時に真正面から激突するようにシュートする。

「やれぇ!カイザーフェニックス!!」
「いっけぇ!ライジングドラグナー!!」

 バーーーーン!!!
 刺突力を高めた激突は凄まじい衝撃となり、弾け飛ぶ。
 何度もバウンドしながら着地しカイザーフェニックスの方が大きなダメージを受けながらも撃沈には至らず。
 ドラグナーはダメージが小さかったとは言え、次攻撃を受けたらあっさり撃沈されてしまうHPとなった。

「くっ、決めきれなかった……!」
「パワーは互角!?」
「いや、僅かだがゲンジの方が上だった。しかし、この勝負はゲンジの負けだ」
 リュウジのいう通り、いくら攻撃力で優っていたとしも決めきれなければ意味がない。
 そして、この状態ではより早く次の攻撃に移った方の勝ちになる。つまり、ドラグナーよりも軽いフェニックスの方が圧倒的に有利。いや、勝ち確定と言ってもいい。

「終わりだ」
 ソウがゆっくりとドラグナーへ狙いを定める。
「そんな……そんなっ……!」
 なすすべなく絶望するゲンジだったが、ソウはすぐにシュートの構えを解いて機体を回収した。
「え?」
 そして踵を返して歩き出した。
「な、なんのつもりだ!なんでトドメを刺さない!!」
「……俺のチームは既に第二ステージを突破した。これ以上やる意味がない」
 レッドウィングスはバラバラで行動してるので、ソウの知らないうちに100ポイント達成したようだ。
「く、くそっ、こんな終わり方なんて……!」
 もやもやした終わり方に悔しがるゲンジにソウは言った。
「本当に決着をつけたいなら、勝ち上がれ。それしかない」
 それだけ言うと、ソウはログアウトしてその場から離脱した。

「お疲れ、ゲンジ君」
「良いバトルだったぞ」
「皆、ありがとう。でもごめん、俺のせいで時間取らせた上に、結局勝てなくて……急いでポイント稼ぎに行こう!早くしないと他のチームに先を越される!!」

 遅れを取り戻さないといけない!と皆を急かすゲンジだが、そこへツバサが不敵な笑みを浮かべてきた。

「にっしっしっしっ!」
「な、なんだよツバサ、気持ち悪いな。そんな事より急ぐぞ!」
「その心配は無用や!」
「は?」
「よう見てみぃ」

 ツバサが言うと、目の前に小さいモニターが表示された。

 [小竜隊 100ポイント獲得!第二ステージ突発!!]

「へ?」
「いつの間に!?」
「ツバサちゃん、何やったの……」
「いやぁ、南雲ソウにやられたフリッカー達がギャラリーみたいに仰山集まっとったやろ?そいつら、時間経過して復帰したのにも気付かずにボーッと観戦しとったから、コッソリ攻撃したんや。多分まだ気づいとらんで、あいつら」

 ツバサが観戦していたフリッカー達を顎で指す。

「凄かったな、あのバトル……」
「あぁ、良いもん見られたぜ」

 感動した惚けながら口々に感想を言い合っている。再び撃沈させられた事にも気づいておらず、もはや自分達が選手である事も忘れていそうだ。

「せ、せこ……」
「ええやん。うちらだってさっき似たようなやり方でやられたんやし」
「ま、まぁ、ルールはルールだもんな……」

 こうして、小竜隊は無事に第二ステージを突破して予選大会を通過。

『終了!!これで予選突破チーム16組が決定しました!
赤壁杯予選大会はこれにて終了です!来週開催の決勝大会はどのような戦いになるのでしょうか!?それでは、またお会いしましょう!!司会進行は私、真島が務めさせていただきました」

 真島アナウンサーの実況で大会は締めくくられた。

 ……。
 ………。

 都心の雑居ビル。この建物の中には様々な企業のオフィスが入っているらしく、入り口には各階にどこの企業が入っているかのプレートが掲示されていた。
 その中で地下1〜地下10階までが『有限会社潁川エンタープライズ』と言うプレートで独占されていた。
 地下5階の事務室で、この赤壁杯の様子をパソコンで見ていた50代くらいの小太りの男がいた。

「ぐっふっふ……赤壁杯決勝トーナメント、面白い事になりそうだわい」

 その男の机の上には何枚かプリントが散乱しており、そこには『デザイアプロジェクト』の文字が記載されていた。

 

   つづく

 

CM

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

JPEG,PNG,GIF形式の画像を投稿できます(投稿時はコメント入力必須)