第2話「ライバル登場!カイザーフェニックス」
千葉県市川市成都小学校へと続く河川敷の歩道。
ゲンジが青い顔でニヤニヤしながら登校していた。
「ふ、ふふへへへ……ついに出来たぞ、俺の……あい、きっ、ふぐぉっ!!!」
ライジングドラグナー完成の興奮冷めやらぬといった感じで笑っていたかと思ったら、突如血の気が引き、お腹を押さえながら足早に順路を外れて河川敷広場へと走っていった。
……。
………。
成都小学校5年2組の教室。妙にスッキリした顔でゲンジが扉を開けた。
「よっ、おはよう!!」
「あ、ゲンジくんおはよう。……妙に機嫌良いけど何かあったの?」
廊下側の席にいるユウスケがゲンジの挨拶に真っ先に反応した。
「ふっふっふっ、まぁね!今日の昼休み楽しみにしてな!」
「……?あっ、もしかしてドライブドラグナーをパワーアップさせたとか?」
「ふごっ!……す、鋭いな」
せっかく勿体ぶったのにあっさりと看破されてしまい、ゲンジは少しよろけた。
「そ、そのくらいはね……」
昨日の今日でこの態度だ。察するなと言う方が無理だろう。
「で、でもな!ただパワーアップさせたんじゃ無いんだぜ!なんてったって……うっ!」
「う?」
グギュウウウウグルルルルル!!!!
突如、ゲンジの顔が強張り、何やら内臓を圧迫するかのような大きな音が響いた。
「す、すまん……ちょっと、トイレ……!」
「だ、大丈夫……?」
「だい、じょぶ……わりぃけど、カバン席に置いといて」
「う、うん」
ユウスケにカバンを託し、ゲンジは小股で教室を出ていく。
そんなゲンジへクラスメイトの男子がからかいの言葉をかける。
「おうなんだゲンジ!来て早々うんこかよ!!」
「う、ううう、うんこじゃねぇーし!!」
小学校のトイレでうんこをする事がバレるのは社会的な死を意味する。
ゲンジはなんとか誤魔化す事に成功し(たと本人は信じている)トイレへ直行した。
(徹夜するとお腹が緩くなるなんて、知らなかった……!)
徹夜は体に悪いので良い子のみんなは真似しないようにね。
ゲンジがトイレで地獄と天国を交互に味わっている中、朝のHRが始まった。
「「先生おはようございます!」」
児童達が間延びした声で挨拶し、着席する。
「はいおはよう。今日も全員揃っとるな……っと、東堂がおらんな?カバンはあるようじゃが……」
「先生!ゲンジのやつ、うんこで忙しいみたいでーす!」
カバンはあるのに姿が見えないゲンジへ疑問を抱く黄山先生に、先ほどからかいの言葉をかけた男子がふざけたように報告する。
周りからクスクスと笑い声や「マジかよ」「勇気あるなあいつ」と言った称賛。女子からは「やだも〜」と言った恥じらう声が聞こえる。
それだけ学級うんこは大事件なのだ。
「はい静かに!全く、しょうがない奴じゃ。今日はせっかく転校生が来てくれたのにのぅ」
「え、転校生!?」
転校生という言葉にクラスはざわめく。うんこの話題はもう上書きされてしまった。
「先生、転校生って女子ですか?男子ですか?」
「女子じゃよ」
1人の女子の質問に答える黄山先生。それを聞いて男子からは「なんだ女かよ」とつまらなそうな声。女子からは「うわぁ、どんな子だろう?」と好奇に満ちた声が聞こえる。
「入ってきなさい」
先生が促すと、扉が開き活発そうな女子が堂々とした感じで入ってきた。
転校生と言うのは多少遠慮がちになるものだが、この少女なかなかに肝が座っているようだ。
「張本ツバサや!まっ、皆よろしゅう頼むわ!!」
教壇の隣に立つなりツバサは臆する事なく自己紹介した。
そしてその独特な喋り方にクラスが騒めく。
「おっ、大阪弁?」
「そうじゃ。張本さんは父親の仕事の都合で大阪から千葉へ転勤したんじゃ。慣れない事も多いじゃろう、皆で助けてやってくれ」
「「はい!」」
「それと席じゃが……あそこの席が空いとるな」
黄山先生が窓側の席を指差すと、その先に二つほど空いた席がある。
もう一つはあからさまに私物が置かれてるので誰かの席だと言う事は分かるのだが、それを確認したツバサはニヤッと笑った。
「はーい!」
そして、ツバサは意気揚々とゲンジの席に座る。
「あれ?」「そこ、違くね……?」とヒソヒソと囁くクラスメイト達。
「って、ここが誰かの席な事くらい分かるわ!誰か突っ込まんかい!!」
痺れを切らしたツバサは自分でボケバラししてしまった。
「おぉ、さすが関西人!」
「シレッとボケるなんてさすがだぜ……!」
「感心されるより笑って欲しかったわ……自分のボケを自分でバラすなんて恥ずかしい!!」
「なんだそれー!」「おもしれーなこいつ!!」
額を抑えて呻くツバサの反応が面白かったのか笑いが湧き上がる。
「ここ笑うとこちゃうで!?」
「まぁまぁ、これが文化の違いと言うもんじゃ。張本さんも皆も、これからお互いの違いを理解して仲良くなっていくんじゃぞ」
黄山先生は苦笑した。と同時に、クラスメイトの反応からツバサのキャラが浮かずにこれから受け入れられるだろうと安心した。
それだけ言って、先生は教室を出て行った。
「……これは」
しかし、ツバサは呻いて視線を落とした時に、ゲンジのカバンの中に見えるある物体を見つけていた。
……。
………。
朝はゲンジの腹下し、ツバサの転入といろいろ騒がしかったが授業が始まってからは筒がなく進行し、無事に昼休みを迎えた。
「さぁユウスケ!昨日のリベンジだ!バトルしようぜ!!」
「うん、いいよ」
ゲンジは昼休みになるや否や早々にユウスケの席へ向かい、バトルを申し込んだ。今朝のやり取りもあり、ユウスケは快く承諾した。
「……あれ、なんか騒がしいな」
ゲンジは、さっきまで自分のいた窓側の方で人だかりが出来てる事に気付いた。
普段は一緒に遊んでいるヨウ、アオイ、チュウタの三人もあの中にいる。
「あぁ、だってそれは」
「まぁいいか!早くやろうぜ!」
ユウスケが説明しようとするが、ゲンジにとってはさほど気にするほどでも無かったのかすぐにバトルの準備をする。
マインをセットして、機体をスタート位置に置き準備完了だ。
「見せてやろうぜ、ライジングドラグナー!」
「そ、その機体は……!」
新型のフリックスに驚愕するユウスケだが、とりあえずシュートを構える。
そして、そんな2人を遠くから眺める視線があるのだが、気にせずにゲンジも構えた。
「よし、いくぜ!」
「うん!」
「「3.2.1.アクティブシュート!!」
バシュッ!!
二つのフリックスがフィールド中央付近で接触する。
その瞬間!
バーーーン!!!
ドラグナーのフロントがシールダーアリエスのスポンジにめり込んだかと思ったら、凄い勢いでシールダーアリエスが場外へと吹き飛んだ。
「え……?」
「なん……だ……?」
「……シールダーアリエスが、こんなにあっさり」
「と、とにかく仕切り直しアクティブだ」
その後、同じような展開が続きゲンジがあっさり勝利した。
「ライジングドラグナーがシールダーアリエスと接触した時に、スポンジの柔軟性を弾力に変えて弾き飛ばした……なんて剛性の高さなんだ」
「ど、どうだ!これが改造してパワーアップしたドラグナーだぜ!!」
ゲンジ自身も驚きを隠せないのだが、それでも勝利した事に変わりはないので強がって見せる。
「ゲ、ゲンジ、くん……それ、パワーアップとか改造ってレベルじゃないよ……まるで、専門家がちゃんとした設備で開発したようなクオリティだし……一体どうやって手に入れたの?」
「え、あ、あぁ……実はさ」
ゲンジは昨日あった事を洗いざらい話した。
「見知らぬ人から貰ったパーツと設計図って……!それ、大丈夫なの!?」
「そんなの分かんねぇよ。けど、怖気付くのはやってからにするって決めたんだ」
「ゲンジくん……」
「それに、今のバトルでハッキリ思った!俺はこいつと一緒に強くなれるってな!」
ゲンジはライジングドラグナーを手に取り、愛おしそうに眺めるのだった。
……。
………。
そして昼休み、午後の授業、帰りのHRが終わり。放課後となった。
児童達は生き生きとした表情で帰り支度をしている。
それはゲンジも例外では無い。
「よーし、ライジングドラグナーを目一杯暴れさせてやるぞ!」
そんなゲンジを鋭い目付きで睨め付ける1人の少女、張本ツバサ。
そんなツバサへクラスメイトの女子が話し掛ける。
「ねぇねぇ、張本さん。このあと暇?皆でタピオカミントゴーヤアイス食べに行くんだけど、良かったら一緒にどう?」
「おっ、今話題のスイーツやな!せやけど、すんまへん。実はこの後用事があるんや」
「そっか、じゃあしょうがないね」
「ほんま、堪忍な!次は絶対やから!」
女子に手を合わせたあと、ツバサはゲンジの前までツカツカとやってきた。
「自分!確か、ゲンジとか呼ばれとったな」
「は?」
「ちょっとウチと付き合いぃ」
「へ?」
ツバサの発言にクラスにどよめきが起こる。
「えーー!転校初日からいきなり告白ーー!?」「さすが関西人、大胆〜!!」「でも相手が東堂くんって、趣味悪くない?」
そんなどよめきの中、ゲンジはキョトンとした顔で答えた。
「……誰?」
「ズコッ!ツバサや!転校生の張本ツバサ!!HRで自己紹介したやろ!!」
「……あー、俺、HR出なかったから……今日転校生が来たのか……」
「まぁええわ!ともかく、行くで!!」
ツバサはゲンジの腕を取り、強引に引きずっていった。
「うわ、ちょっ!」
「ゲ、ゲンジくん……!」
心配になったユウスケも慌てて後をついて行った。
ツバサに引っ張られていった場所は、偶然にも昨日コウからパーツを貰った河川敷付近の小さな広場だった。
「いい加減を手を離せよ。どこまで行くんだ?」
「人気も少ないし、ここら辺でええやろ。教室やと変に騒がれて敵わんからな」
四阿があるだけで殺風景な広場は普段から人が少ない。それを察したツバサはゲンジの腕を離して向き直った。
「こんな所まで引っ張ってきてどういうつもりだよ?まさか、本当に愛の告白でもしようってんじゃないだろうな」
「んなベタな事するかいな!」
「おーーい……!」
その時、遠くから息絶え絶えな弱々しい声が近付いてきた。
ユウスケだった。ユウスケはゲンジ達のそばに来るなり膝に手を置いて肩で息をする。
「はぁ、はぁ……やっと追い付いた」
「ユウスケ、お前ついてきたのか?」
「うん、ちょっと気になったから」
「あんた確か昼休みにゲンジとバトルしとった奴やな」
「あ、うん……乾ユウスケって言うんだ、よろしく」
「そかそか、よろしゅうな。まぁこのくらいのギャラリーなら別にええやろ」
「で、結局何の用なんだよ?」
「そんなん決まっとるやろ」
ゲンジが改めて問うと、ツバサは不敵に笑ってカバンから機体を取り出した。
「東堂ゲンジ!ウチと勝負せぇ!!」
「おまっ!フリッカーだったのか!?」
「やっぱり……」
「昼休みのバトル、見させてもらったで!ライジングドラグナー、ええフリックスやないか!せやけど、ウチのウィングワイバーンは負けへんで!!」
ツバサの見せてきたウィングワイバーンは、その名の如くサイドの翼が特徴的な機体だ。
「その機体はハンドメイド……!?」
「どやっ!カッコええやろ!!」
「面白い!勝負だ!!」
バトル成立!
2人は四阿のテーブルをフィールドにしてマインと機体をセットした。
「おっしゃ、いくでぇ!」
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
「いけぇ!ライジングドラグナー!!」
「躱すんや!ウィングワイバーン!!」
猛突進するドラグナーに対し、ワイバーンは軌道をズラしてシュートした。
「逃すか!弾き飛ばせ!!」
ドラグナーがワイバーンのサイドウイングに接触した瞬間、ワイバーンはフワリとスピンして受け流した。
「なに!?」
「その機体の攻撃力は大したもんや!けど、当たらなければどうと言うことはないで!!」
「くっ!」
「そうか!ワイバーンは重心をズラしてぶつかる事でドラグナーの攻撃を受け流したんだ!」
ワイバーンはフィールド中央付近で着地、それに対してドラグナーは勢い余って場外しそうだ。
「ドラグナー!」
ガッ!
四阿のテーブルは古く木が腐っているため、所々に段差が出来ており、それに引っかかってどうにか自滅は免れた。
「ふぅ。危ねぇ」
「かっー!運のいいやっちゃな!」
「運でもなんでも、これで先攻は俺だ!!」
ゲンジはドラグナーを構えてウィングワイバーンへ狙いを定める。
若干距離はあるものの、それでも狙えないほどではない。
「お前の攻撃力を見せてやれ!ドラグナー!!」
ドンッ!!
ドラグナーの攻撃は見事にワイバーンの重心を捉え、勢いよくすっ飛ばしていく。
「甘いでっ!!」
ガッ!
かなり良い当たりだったはずだが、あっさりとバリケードで止められてしまった。
「なに!?受け止めた……!」
「ウィングワイバーンは見た目よりもかなり軽いのか!だからバリケードで受け止めやすいんだ!」
「今度はこっちの番やでぇ!」
バンッ!
手堅くマインヒットを決める。
「くそっ!」
ゲンジも反撃でマインヒットを決めるが、即座にツバサが反撃する。
これでゲンジのHPは1。ツバサは2なので、このままダメージレースを続けていたら勝ち目がない。
「軽量にする事で防御力をバリケードで補って、しかも機動力の高さとウィングでマインヒットを決める……ウィングワイバーン、思ったよりも精密に作られてる」
「ちょっとあんた!さっきっからベラベラベラベラと……!」
バトルの分析をしていたユウスケへツバサがいきなり食ってかかってきた。
「え、ええ!?うわ、ごめん!!」
思わずのけぞって謝るユウスケだが、ツバサは嬉しそうにその手を握った。
「よぉ分かっとるやないか!!!」
「へ?」
「ユウスケとか言うたな。なかなかな洞察力やで!一所懸命作った愛機が褒められんのは良い気分や!おおきにな!!」
「う、うん、どうも……」
女子慣れしてないユウスケはちょっと赤くなった。
「さて、気を取り直して。どうするんや?このままやとウチの勝ちやで!」
「くっ!」
ゲンジは状況を確認する。
ウィングワイバーンをフリップアウトするのは難しい。しかしただマインヒットするだけでは反撃で負ける。
となると反撃を受けないようなシュートでマインヒットして立て直すしかないが、そこまで精密なシュートには自信がない。
「どうすれば……!」
フィールドを見ても、マインを見ても、ウィングワイバーンを見ても、打開策が見つからない。
悩んでいると、ドラグナーのフロントが光を反射している事に気付いた。
「まさか……!」
ドラグナーを裏返してみる。そこに、金色に光る龍の頭が隠れていた。
ゲンジは恐る恐るそれを変形させる。
「ドラゴンヘッド展開!!」
「変形した!?」
「それがどないした!」
「いっけぇ!!」
バシュウウウウ!!!
龍の頭を突き出したライジングドラグナーがウィングワイバーンのサイドに激突!
そのままツバサの構えるバリケードへ向かって突き進んでいく。
「耐えるんや!!」
ガッ!!
バリケードでワイバーンを受け止める。
しかし、真の力を発揮したドラグナーの攻撃はこんなもんじゃ終わらない。
「貫けぇ!メタルヘッドブレイク!!!」
即興で技名を叫ぶと、それに答えたのかライジングドラグナーは更にヘッドを押し込み、バリケードを突き抜けながらワイバーンを場外させた。
「よっしゃぁ!!!」
「んなアホな……」
「ドラゴンヘッドを展開させた事で、突破力が上がったんだ。でも、バリケードを突き破るなんて」
「へへっ!やっぱり俺が、ダン、トツぃ……ちばん……」
喜びに酔いしれたゲンジが決めポーズして何か言おうとしたが最後が尻すぼみになる。
「え、どうしたの?」
「いや、その、動画で観た段田バンの決め台詞なんだけど、実際やると恥ずかしいな……」
(やらなきゃいいのに)
「かーっ!マインでどれだけリードしてもフリップアウトされたら敵わんわー!くぅーー!!!フリップアウト強すぎやわ……!!」
「ま、まぁでもフリップアウトはその分難しいし、リスクあるし……」
「んな事分かっとるわい!くぅ〜、でも納得いかへん!!セッティングを煮詰め直すからもういっぺん勝負や!!」
「ああ、いいぜ!」
負けに納得のいかないツバサは再び勝負を申し込む。
そこへ、いつの間に近くにいたのか1人の少年が声をかけてきた。
「その勝負、譲ってもらおうか」
三人が声のした方へ向く、そこにはゲンジたちよりも少し年上そうな少年……南雲ソウが立っていた。
「お、お前は……?」
「まさか、南雲ソウ!?前回のフリックスカップナンバー2の!」
「あぁ!そういえば見た事ある!確か決勝戦で負けてた……」
「ゲンジくん、その言い方はちょっと失礼なような」
勝手に騒ぐゲンジたちにソウは動じずに答える。
「知っているなら話が早い。青龍のフリックスを手にしたのは貴様だな?」
「あ、あぁ……!」
「なるほど……なぜコウが貴様を選んだか、試させてもらうぞ」
「え、まさか昨日のあの人の仲間か!?でも、なんでいきなり……!」
「ええやないかゲンジ!こないな大物とバトル出来る機会なんて滅多とあらへん!ウチも観たいわ!!」
いきなり見ず知らずの年上に喧嘩ふっかけられて戸惑うゲンジへツバサは嬉々として勝負を受けるように言う。
「まぁ、断る理由もないか。それにお前と戦えばライジングドラグナーの事も、昨日の事も、もっと分かるかもしれない!」
「よし、始めるぞ」
ソウは淡々とバトルの準備を始めた。ゲンジもそれに続く。
フィールド上にマインと機体がセットされた。
「なんや、南雲ソウの機体……」
「見た事ないね、新型かな?」
「虹色の翼が、まるで鳳凰みたいや」
セットされたソウの機体を見て、ユウスケとツバサは疑問を抱いた。
しかし、バトルは関係なくスタートする。
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
「いけっ!ライジングドラグナー!!」
「飛べっ!カイザーフェニックス!!」
ゲンジはいつものようにドラグナーを強くストレートシュートし、迎撃しようとする。
対してソウはカイザーフェニックスをスピンさせて突っ込んできた。
「スピンシュート!?」
「それがどうした!!突っ込め!!!」
「フン」
ドラグナーとフェニックスが激突した瞬間……!
フワ……とフェニックスが浮かび上がり、ドラグナーの攻撃を躱した。
「なに、飛んだ!?」
「そうか!スピンする事で翼から空力が発生して、ドラグナーの風圧を受ける事で飛び上がったんだ!!」
ガッ!
ドラグナーは先ほどと同じようにテーブルの段差を利用して止まる。
「とにかく、これで先手を……なに!?」
よく見ると、カイザーフェニックスはドラグナーよりも更に奥のフィールド角へフワリと着地していた。
「そんな!飛び上がるフリックスの飛距離を完璧に計算してシュートしたなんて……!」
「さすが、南雲ソウやでぇ……!」
「ぐ、偶然だろ!」
「偶然だろうと、先攻は俺だ」
「でも、そんな位置からの攻撃なんか喰らうか!!」
ドラグナーとフェニックスの位置は、角から角という最も遠い位置関係にある。さらにマインの位置も悪い。
「どうかな」
シュッ!キュルルルル!ガッ!!
カイザーフェニックスはスピンでマインを飛ばし、それをドラグナーへぶつけた。
「な、なに!?」
「凄い!スピンシュートでマインを飛ばす方向を完璧にコントロールにしてる……!」
「くっ!マインヒットがなんだ!俺にはこれがある!!」
ゲンジは頼みの綱であるドラゴンヘッドを展開した。
「いっけぇ……っ!!!」
ピキイィン!!と前腕の筋が張り詰めたような感覚と強烈な痛みが襲い、ゲンジはロクなシュートも出来ないまま腕を押さえて顔を顰めた。
ライジングドラグナーは、目の前のマインを弾いて場外させるのが精一杯でカイザーフェニックスに届きもしなかった
「う、ぐぅぅ……!」
「な、なにやっとんのや?!」
「どうしたの、ゲンジくん!」
「フッ、やはりな」
ゲンジの様子に慌てるユウスケやツバサとは対照的にソウは当然と言った態度を示した。
「どういう、意味だ……!」
「貴様はただ強いフリックスを与えられただけだ。強くなったわけでも、ましてや愛機を手に入れたわけでもない」
「なんだと!」
「今のシュートがその証拠だ」
「そうか!ライジングドラグナーは、重量や剛性が上がってる分フリッカーへの負担が大きいんだ!」
ユウスケの分析にソウが続ける。
「このまま続ければ、ライジングドラグナーは貴様の身体を蝕むぞ。それで愛機と呼べるのか?」
「ぐっ……!」
「コウには悪いが青龍のフリッカーは探し直しだな。次のターンでケリをつける」
ソウはさきほど場外して回収したマインを再セットしターン終了した。
(余裕があるとはいえ、なんでシュートしなかったんだろう?)
ユウスケは疑問に思いながらも、これでゲンジのターンだ。
「ぐっ、くそ……!確かにあいつのいう通りだ……!俺は、強くなったわけじゃねぇ、ちくしょう……!」
ズキズキ痛む腕を左手でギュッと強く握る。
「だけどっ!ライジングドラグナーは俺の愛機なんだ!!こんな、こんな痛み程度でそれを否定されてたまるかっっ!!!」
ギュゥゥ……!と握った手に力を込める。
「うおおおおおお!!!!!」
「なにやっとんのや!気でも狂ったんか?」
「まさか、別の痛みを加える事で、腕の痛みを誤魔化してるの……?でも、そんなの無茶だよ!」
「フッ、面白い」
「ライジングドラグナー……俺は絶対に強くなる!だから、このシュートで!!俺を相棒だと認めてくれええええ!!!!」
渾身の力を込めたシュートを放つ!
ライジングドラグナーは凄まじい衝撃波を纏ったままカイザーフェニックスへ激突し、そのままフィールド端まで追い込んでいく。
「むっ!」
バリケードも構えずに余裕を見せていたソウだったが、瞬時に表情が変わり素早く二つのバリケードを構えてこれを受け止めた。
ガガガガガ!!バキィィィ!!!!
ソウのバリケードが2枚とも破壊されたが、どうにか受け止めきれた。
「そ、な……決まらなかったなんて……!」
あれだけ気合を込めたのに、攻撃は不発。一気に力が抜けてしまった。
「……俺のバリケードを二枚破壊するとはな」
ソウは目を細め、集中力を高めた。
「そのシュートに敬意を評して、この技で仕留めてやろう。フリップスペル発動、ブレイズバレット!」
ブレイズバレット……宣言してから3秒以内に機体をシュートし、二つ以上のマインに接触してマインヒットしたら2ダメージ与えられる。
「ブレイズバレット?でも、マインは二つとも離れてるのに……」
ドラグナーとフェニックスは接しているものの、ゲンジのマインもソウのマインも距離がある。マインヒットはできてもブレイズバレットは難しいはずだ。
「ヴァリアブルエクスプロージョン!」
ソウはカイザーフェニックスのウィングを展開させ、大きく広げた翼であっさりと二つのマインに接触した。
これで2ダメージ。南雲ソウの完封勝利だ。
「な、なんちゅー強さや……!」
「これが、南雲ソウのバトル……!」
「……」
ソウはカイザーフェニックスを回収すると、茫然自失なゲンジへ声をかけた。
「それが敗北の悲しみだ。そして、強さを求める覚悟だと思え」
それだけ言うと、ソウは踵を返した。
「青龍は、しばらく貴様に預けておく」
背中を向けたままボソリとそう呟き、歩き出した。
ガッ!
ゲンジはフィールドへ両手をついて俯いた。
「ゲンジくん……」
「そ、そない落ち込まんでも!あの南雲ソウ相手にええバトルしとったで?」
ポタ、ポタッと滴が落ち、ドラグナーのヘッドパーツを濡らす。
「なぁ、ユウスケ……俺、知らなかった……本気で悔しいと、涙が出るんだな……こんなに、心が痛いんだな……!」
「……うん」
「勝ちたい……!俺、もっともっと強くなって、ライジングドラグナーと勝つんだ!!!」
つづく
CM