特別編第3章「神と悪魔」
ギリシャにある教会。
『サンペドロ教会』
ここでは、神父に向かって一人の男が懺悔をしていた。
「では、あなたの罪を全て告白なさい。神はきっとお許しになる事でしょう」
首を垂れている男に対して、神父は優しげに語りかける。
「私は数年前許されざる罪を犯しました。強大な力に敗れた事に恨みを抱き、その力の主へしつこく執着し、名誉を傷つける行為を繰り返していました……」
「神はきっとお許しになるでしょう。あなたの心の穢れが浄化される事を願って……アーメン」
「アーメン」
ラーメン
「どうですか?少しは心が晴れましたか?」
懺悔が終わり、神父が話しかけてくる。
「……いえ、まだ心の奥底では憎しみが渦巻いています」
「そうですか……」
「しかし、最初の頃と比べればかなり心が軽くなりました。これも神父様のおかげです」
「いえ、それはあなたが神の寛大なる御心を感じる事が出来たからこそですよ、フクベさん」
その時、教会の扉が開きバンとリサが遠慮がちに入ってきた。
「あ、あの、すみませーん」
「あなた方は?」
「あ、俺たち、その……!」
「遠山フリッカーズスクールからの遣いのものです。一つお尋ねしたいことがありまして」
交渉の勝手がわからずにしどろもどろになったバンに変わってリサが名刺を出しつつ用件を伝えた。
「遠山……?」
リサの言葉に、懺悔していた男が一瞬反応を示した。
「そうですか……分かりました。客室へ案内いたします、詳しい話はそこで。フクベさん、申し訳ありませんが少し席を外しますね」
「はい、私はその間神に祈りを捧げています」
男の言葉に神父は頷き、バン達を連れて客室へ移動した。
客室のソファに座り、神父はバン達の話を聞いた。
「フリップゴッド……ですか」
「はい、数年前に消息を絶った彼に会いたいんです。何か少しでも手掛かりになることがあれば教えていただけないでしょうか?」
「……懐かしい名ですね。数年前、そう名乗る男性がウチの教会へ懺悔に来たことがありました」
「ほ、ほんとですか!?」
「い、今どこにいるんだ!?」
食い気味なリサとバンに対して神父は落ち着いた口調で話す。
「今もそこにいるかはわかりませんが、教会を出た後の行く先なら……」
「構いません!ぜひ、教えてください!!」
「しかし、個人情報を第三者に伝えるというのも…」
「お願いします!悪用は絶対にしません!」
「俺たち、フリックス界のためにフリップゴッドに会わなくちゃいけないんだ!!」
「……分かりました。そこまで言うのでしたら。一つ、試させてください。あなた方の心が潔白であると言うことを」
「え?ど、どうやって……?」
「もちろん、これでですよ」
言って、神父は懐からフリックスを取り出した。
「あなた達にはこれが一番早いでしょう」
「おう!そういう事なら上等だぜ!!」
バン達は教会の庭に出てフィールドをセットした。
「いきますよ!」
「おう!!」
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
「いきなさい!ボーン・メイデン!!」
「ぶっ飛ばせ!ビートヴィクター!!」
バキィ!!!
さすがに並のフリックスでは新型機のビートヴィクターには敵わないのか、弾き出されてしまった。
「おっしゃあ!まずは一ダメージ!!」
「……なるほど、それがあなたの魂ですか。いいでしょう、合格です」
「うぇ!?まだアクティブシュートしかしてないじゃん!」
「十分ですよ。フリックスは己の経験、能力、魂を具現化したものです。それをぶつけ合うという事は魂をさらけ出すようなもの。一度シュートをぶつけ合えば、どのような魂の持ち主かは容易に分かります」
「な、なるほど…さすが神父……」
「それじゃあ次は私の番ですね」
必要はないがリサもテストを受ける事にした。
「えぇ、あなたにはこのスピン用の機体が合うでしょうか」
神父は左右非対称な機体を取り出した。
「「3.2.1.アクティブシュート!」」
「いきなさい!ランバージャック!!」
「プロミネンスウェイバー!!」
当然ながらリサも合格。
と言うわけでフリップゴッドの情報を教えてもらうことになった。
「フリップゴッドはあの日懺悔した後、啓示を受けトルコへ向かいました」
「トルコ?なんで??」
「トルコには、人類最古の遺跡であるギョべクリ・テペがあります。人類始まりの地で、またゼロからスタートしたいとそう仰っていました」
「過ちを犯した罪悪感を持った人間が向かう場所としてはピッタリなのかも……」
「なるほどな……おっしゃ!じゃあ早速トルコに行こうぜ!!」
「うん、急いで準備しよう!」
「待て!!!」
その時だった。懺悔していた男が物凄い形相でこちらへ向かってきた。
「フリップゴッドだとぉ……貴様らぁ!フリップゴッドの知り合いかぁ!!!」
「え、いや、そういうわけじゃねぇけど。俺たちフリップゴッドに会わなきゃいけねぇんだ!フリックスの未来のために!!」
「ふざけるな!!俺は、俺はあいつのせいで、あいつに味わわされた屈辱のせいで人生を狂わされたんだ!!」
「いけない!フクベさん!!憎しみにとらわれてはいけません!!」
神父が必死に呼びかけるもフクベは一切聞く耳を持たない。
「うるせぇ!!フリックスの未来なんかぶち壊してやる!!!」
そう言いながら、フクベはフリックスをバンに向けてシュートした。
「やれぇ!プロトデーモンEX!!」
「っ!ビートヴィクター!!」
バンはとっさにビートヴィクターをシュートして迎撃した。
ドサッ!
フィールドに着地する二台のフリックス。
「あぶねぇな!いきなり人に向けてシュートする奴があるか!!」
「バン!あの人普通じゃないよ!!気をつけて!!」
「へっ!普通じゃなかろうがフリックスバトルなら負けやしねぇぜ!いっけぇ!!」
バンは渾身の力でシュートするのだが、その攻撃はプロトデーモンEXの上をすり抜けてしまった。それでもどうにかマインヒットはできた。
「なに!?」
「あの形状はファントムレイダーと同じ!?受け流されちゃうんだ……!」
「喰らえええ!!!」
フクベの攻撃、プロトデーモンEXのフロントに仕込まれたバネの力でビートヴィクターが吹っ飛ばされ、マインヒットする。
「くっ!攻撃力もそこそこあるのか……!」
「バン、相手の受け流し性能は脅威だけど、ビートヴィクターも掬い上げに優れてる機体だから、しっかり狙えば攻撃は通じるはずだよ!!」
「わ、分かった……!」
バンはしっかりと相手の機体を見据える。
「ビートヴィクターは、シュート力に頼らなくてもかなりの攻撃力があるんだ。だったら、威力を出すことよりも攻撃を当てることに集中するんだ!」
バシュッ!!
「ビートインパクト!!」
狙いを定めたシュートが上手くプロトデーモンEXのボディを掬い上げた。
その瞬間、ビートヴィクターのフロントが伸びてプロトデーモンEXを吹っ飛ばした。
「おっしゃあ!俺の勝ち!!」
「まだまだぁ!!プロトルシフェル!!」
バシュッ!!
フクベは白いフリックスを取り出してヴィクターへ向けてシュートした。
「な、なに!?」
「プロミネンスウェイバー!!」
リサはとっさにプロミネンスウェイバーをシュートしてプロトルシフェルを弾いてヴィクターを守った。
「さ、サンキューリサ!卑怯だぞ!!二機目のフリックス出すなんて!!」
「まだまだ!お前ら絶対潰す!!!スティングレイ!レッドスラッグ!アイアン・アタッカー!キャプテンディフェンサー!ツインブロッカー!テンタクルブロッカー!!!全員でかかれぇ!!!」
フクベはどこに持っていたのか数多くのフリックスを取り出して一斉に襲いかからせた。
「なにぃ!?どこから取り出したんだ!?」
「い、いくら私達でもこの数はキツイかも…!」
多勢無勢、絶体絶命だ!
「喰らええ!!」
無数のフリックスが迫り来る!
「守れ!シュレッドサタン!!」
その時、一機のフリックスが前に出てきて、無数の攻撃から庇ってくれた。
「ゆうくん!?」
「くっ!」
バキィィ!!
しかし、さすがの防御型であるシュレッドサタンもこの連続攻撃には耐えきれずに破損してしまった。
「お久しぶりです、リサさん!」
「ど、どうしてここに……ううん、それよりごめんなさい、私達を庇ったばかりに」
「いえ、お役に立てて本望です」
突然の乱入者にフクベはさらに怒り狂い雄叫びを上げる。
「邪魔をするなぁぁぁ!!!」
「邪魔はてめぇだ、三下ァ」
今度はザキがダークネスディバウアをシュートする。
「ダークホールジェノサイド!!!」
バーーーーーン!!!
ザキの必殺技により、フクベのフリックスが全て場外。そしてその衝撃によりフクベは気絶してしまった。
「ザ、ザキ……!」
「けっ、この程度の相手に苦戦してんじゃねぇよ」
「う、うっせ!不意をつかれただけだよ!」
「で、でもあれだけの敵機を一気に弾き飛ばすなんて……!」
「へん、数がなんだってんだ!一対一だったら俺のビートヴィクターの方が強い!」
「言ってろ。今はそんなことはどうでもいい」
「あ、そうだ!あの男は……!」
見ると、気絶したフクベを神父が介抱していた。
「御心配なく、気絶しているだけです」
「でも、どうして急に襲いかかってきたんだろう?」
「……恐らく、フリップゴッドの話を聞いたからでしょう。彼は強い恨みを持っていましたから」
「フリップゴッドへの恨みって、まさか……!」
「この人が、本来の第一回大会の優勝者……」
フクベという名前にプロトデーモンと言う機体、確かに聞き覚えがある。
「だとしたら恨んでるのも当然なのかも……せっかく優勝したのに、名誉を奪われて黒歴史扱いされたんだから……」
「……」
しんみりとするバン達にザキが不機嫌そうに口を開く。
「けっ、くだらねぇ!そんなこともどうでもいいだろうが」
「え?」
「んなことより、お前らもここにきたって事はフリップゴッドの奴を狙ってるのか?」
「え、じゃあザキ達も!?」
「あぁ、ヨーロッパのフリッカーに話を聞いてな。フリックスの神となれば、倒す価値は十分にある」
「へん、フリップゴッドを倒すのはこの俺だぜ!!」
「バン?あくまで私達の目的はフリップゴッドに国際連盟設立の承諾を得る事だからね…?」
「どっちにしたって倒さなきゃならねぇ事には変わりねぇだろ!」
「事情はしらねぇが、目的は一緒みたいだな」
「だな!ここは一時休戦なんちゃらだ!抜け駆けなしでフリップゴッド捜索と行こうぜ」
「いいだろう」
ザキとバンが妙な連帯感を出している中、リサは神父に話しかけた。
「あの、本当に大丈夫ですか?」
「えぇ、彼の事は私に任せてください。あなた方はもう出発した方がいい」
下手にこの場に残っても再びケイを刺激するだけなのは明らかだ。
神父にお礼をして、バン達は出発する事にした。
「おっしゃあ行くぜ!目指せフリップゴッド!!」
つづく
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