弾突バトル!フリックス・アレイ 特別編第1章「バンキッシュドライバーを超えていけ」

Pocket

特別編第1章「バンキッシュドライバーを超えていけ」

 

 第一回グレートフリックスカップが終了してから一ヶ月後。
 遠山フリッカーズスクール、特別研究室。
 さまざまな研究機器がひしめく近未来的な部屋に伊江羅博士とバン&リサが対峙していた。

「ふっ、来たか」
「どう言うつもりだよ!こんなところに呼び出すなんて!大体お前、スクール追い出されたんじゃなかったのか?」
「……まずは一ヶ月遅れだが、グレートフリックスカップ優勝おめでとうと言っておこうか」
「そ、そんなことわざわざ言うために呼んだのかよ!?」
 伊江羅の祝辞に対してたじろいでいると、後ろから扉が開く音と老人の声が聞こえてきた。
「ふぉっふぉっふぉっ、そんなわけがなかろう」
 振り向くと、そこにいたのは…!
「お、お前は……!」
「お祖父様……!」
 遠山フリッカーズスクールの長、遠山段治郎が不敵な笑みで立っていた。
「て、てめぇ!今更俺たちに何の用があるんだ!!」
 敵対心を剥き出しにするバンに対して、段治郎は極めて穏やかな口調で話し始めた。
「リサ、久しぶりじゃな。しばらくみない間に少し大きくなったようじゃ」
「……」
 リサも警戒心を崩さない。
「段田バンよ、先月は良きバトルを見せてもらった。わしからも祝いの言葉を贈ろう」
「けっ、負け惜しみかよ!お前のとこの生徒は全部ぶっ倒してやったぜ!!ザマァみろってんだ!!」
 バンの言葉を聞き、段治郎は愉快そうに笑った。
「ふぁっふぁっふぁ!そうじゃな、実に見事なバトルじゃった。おかげでワシの計画が大きく進んだ。感謝するぞ」
「な、なに!?どう言う意味だ!!」
「順を追って話すとしよう。年寄りの話は長い、腰を掛けると良い」
 一先ず奥に設置してある四人用の席へ移動し、座って話をすることになった。

「そうじゃな……まず、ワシの真の目的について話すとするかの」
「真の目的?スクールでフリックス界を支配することじゃねぇのかよ!」
「ふぉっふぉっふぉっ!そんな無意味な事して何になる!独占は世界を矮小化し、衰退させてしまう……そうなれば、ワシも商売あがったりじゃ」
「な、なんだよそれ……!じゃあ、お前の目的は?」
 段治郎は一呼吸置いて続けた。
「フリックスアレイの国際競技連盟の設立。そして、世界大会の開催じゃ」

「「せ、世界大会!?」」

 バンとリサの声が重なった。

「お前さんたちにとっても悪い話ではなかろう?より大きな戦いを求めるのは全フリッカー達の願いのはずじゃからな」
「せ、世界……!世界のフリッカーと……!」
「お、お祖父様はそのために今まで……?」
「そうじゃ。フリッカー達を成長させるためにスクールを作り、スクールのやり方を好まんものと対立させる事でフリックス界全体の技術力を底上げした。文明の発展を促すには争いが最も効率的じゃからな。
ワシの狙い通り、今フリックス界は次のステップへ歩みを進めるための力を得たように思える」
「次の、ステップ……!って事は、世界のフリッカー達と戦えるのか!?世界大会はいつ開催するんだ!?」
「そう慌てるでない。まだ推定の段階にすぎん。それに、開催するために必要なピースが揃っておらん」
「なんだよ、ぬか喜びさせやがって」
「でも、私達を呼んだって事は、世界大会の準備に関わるんですか?」
「その通りじゃ。まずは、こいつを見てもらおうか」

 段治郎はタブレットを取り出し、その画面をバンとリサに見せた。
 そこには一台のフリックスが映し出されていた。
「これは、フリックス?」
「小型だけど、凄い洗練されたデザイン……」
「このフリックスの名は、バンキッシュドライバー。数年前、フリップゴッドが開発した最強最悪のフリックスじゃ」
「バンキッシュドライバー……」
「フリップゴッド……?」
 聞き覚えのない名前に、バンとリサは首をかしげる。
「聞き覚えがないのも無理はない。フリックス界は一度リセットされたのじゃからな」
「リ、リセット…?」
「不思議には思わんかったか?エキシビジョンマッチで第0回大会が数年前に開催されたと聞いて。何故、第0回から第1回までに空白があるのか……」
「っ!?」
「お主らが参加した大会は本来なら第2回……いや、それどころか第6、第7回大会となっていてもおかしくはなかったんじゃ。あの事件さえなければな」
「あの事件って?」
 バンが聞くと、今度は伊江羅が口を開いた。
「それを説明する前に、フリックスの歴史を解説する方が先だな。フリックスは元々、一個人である一人の青年が立ち上げた企画だったのだ。その男こそ、フリップゴッド。フリックスの創世神だ」
「その企画のスポンサーとして協賛したのがワシの会社じゃ。最初は小規模じゃったが、地道な広報活動を経てどうにかプレ大会が開けるくらいには競技人口を確保出来た」
「それが、寺宝カケタさんが優勝した第0回大会……!」
「そうじゃ。プレ大会の成功によって、フリックス界はさらに活性化。様々なバトルスタイルが生まれ、多様化が進み、正式に第1回大会が開ける規模にまで成長した……。
これを良しとしたフリップゴッドは、さらに起爆剤となるよう持てる技術の全てを注ぎ込んで一つのフリックスを作り上げた」
「それが、バンキッシュドライバー……?」
 リサが呟くと、段治郎は深く頷いた。
「でもさ、強いフリックス作ること自体は良いことじゃんか。何が最悪なんだ?」
「……第1回大会はプレ大会を遥かに上回るレベルで大成功を収めた。
そしてフリップゴッドは、エキシビジョンとしてバンキッシュドライバーを使って優勝者と戦ったんじゃ」
「エキシビジョン……」
「記録映像を見た方が早いじゃろうな」

 そう言って、段治郎はタブレットを操作して動画を再生した。
 数年前の映像なので若干画像が荒いが、そこには大会会場のフィールドが映し出されていた。

『さぁ、第1回グレートフリックスカップエキシビジョンマッチ!優勝者のフクベメグムくんの扱うプロトデーモンは扁平で受け流し性能に優れている!
果たして、フリップゴッドのバンキッシュドライバーは、このフリックスを打ち破る事ができるのか!?』

 カッ、バーーーーン!!!
 一瞬だった。
 防御性能に優れているとアナウンスされたばかりのプロトデーモンをバンキッシュドライバーはまるで木の葉のように吹き飛ばしてしまった。
 この結果に、場内は盛り上がるどころかまるでお通夜のように静まり返ってしまった。

 映像を見ているバンとリサも同じように唖然としていた。
「な、なんて、パワーだ……!」
「仮にも優勝機体なのに、あんなにあっさり倒すなんて」

 段治郎は映像を停止した。

「このバトル後の反応は二つ。圧倒的力の前に絶望し、フリッカーをやめるもの。
もう一つは、バンキッシュドライバーでなければ最強になれないと思い込み、同じような機体を求めるもの」
「人口が減った上に、残ったものは皆バトルスタイルが一極化してしまった……自然界と同様、多様性を失った先にあるのは衰退のみだ」
「そのことを気に病んだフリップゴッドは、日本でのフリックス運営権利をワシに譲渡し、姿をくらましてしまったんじゃ。
ワシは、この第一回大会を歴史の闇に葬り、一旦フリックスの展開を終了し、世間からバンキッシュドライバーの記憶が薄れるタイミングを見計らって新規ホビーとして復活させた。そして、今に至るというわけじゃ」
「……俺たちがフリックスを始める前に、そんな事があったなんて」
「もしかして、世界大会開催のための最後のピースに今の話が関係あるんですか?」
「その通りじゃ。日本での運営権を譲渡されたとはいえ、世界統一組織を立ち上げるとなると話が変わってくる。どうしても創始者の許可が必要になるんじゃ。現在、八方手を尽くして捜索しておるところなんじゃが……」
「あ、そうか分かったぞ!フリップゴッド探すのを俺たちにも手伝えってんだろ!?」
「もちろんそれもある。が、それだけでは足りん」
「へ?」
「フリップゴッドは自らが生み出した強大な力にフリックス界が屈してしまった事を憂いて姿を消した。つまり、今のフリックス界がバンキッシュドライバーに屈しない力を得たと証明出来ん限り、彼奴は首を縦に振らんじゃろう」
「つまり、フリップゴッドを探した後バトルして倒せって事か?」
「そういう事じゃ。そして、それがお主らに可能かどうかテストさせてもらいたい。GFC優勝者と準優勝者のお主らならフリックス界の代表名乗るにふさわしいからな。どうじゃ?」
「へっ、上等じゃねぇか!フリップゴッドだろうがなんだろうが!俺がダントツ一番だぜ!!」
「私も、やります!」
 バンとリサの返事を聞いて段治郎は満足気に頷いた。
「でもさ、テストって言っても何やるんだ?またフリップゴッドは見つかってないんだろ?」
「こいつを使う」
 伊江羅はそう言って懐からバンキッシュドライバーを取り出した。
「そいつはっ、バンキッシュドライバー!?」
「正確には、発掘したデータを基にして作り上げたレプリカじゃが、理論上性能の再現度は90%以上じゃ」
「私も、この一ヶ月でバンキッシュドライバーを使いこなすための訓練をしてきた。対フリップゴッド戦に向けてのテストには十分のバトルが出来るはずだ」
「へっ、おもしれぇ!まずは俺から行くぜ!久しぶりに勝負だ!伊江羅博士!!」
「いや……お前たち二人がかりでこい」

 そして、3人はバトルフィールドに機体をセットした。伊江羅博士へてバンとリサが並んで対峙する。

「フリップゴッドの最強の機体だろうが俺達二人がかりで戦えば楽勝だぜ!」
「油断しないでバン。相手は優勝者の機体もあっさり倒すほどのフリックスだよ」
「へっ、フリックス界はあの頃よりも成長してんだ!それを俺達で証明してやる!!
とにかく一気に二人の力をぶつけて、出鼻を挫いてやろうぜ!」
「う、うん…!」

「作戦は決まったか?そろそろ行くぞ」
「おう!」

「「「3.2.1.アクティブシュート!!!」」」

「いけっ、ブレイズウェイバー!!」
「カッ飛べ!ディフィートヴィクター!!!」
 ウェイバーとヴィクターの二機が同時に、向かってくるバンキッシュドライバーのフロントにぶつかる。
 その瞬間…!

 カッ!!

 瞬きする間もなく、ヴィクターとウェイバーは場外に落ちてしまった。
「え!?」
「な、にが起きたんだ…?」
 呆然とするバンとリサに伊江羅は淡々と説明する。
「バンキッシュドライバーは、相手を掬い上げつつ押し出す形状のフロントパーツ、そしてバネの力をチャージした状態でロックし負荷を受けた時に力を解放する蓄勢ギミック。その反動を受け止めダイレクトに相手に伝えるためのワンウェイブレーキシステム……ありとあらゆる機能が全て敵機をフリップアウトさせる事のみに特化させた究極の攻撃型フリックスだ!」
「バネの力って……それって、ディフィートヴィクターのフロントと同じ!?」
「ディフィートヴィクターのフロントギミックは元々バンキッシュドライバーを参考にしたものだ。だが、当時の俺の技術では強度と安定性を保ったまま強力なバネギミックを仕込む事は出来なかった。結果、バネの力を弱くし、強度を高めるためにFXシステムを開発した」
「なるほどな……究極の攻撃型か……ますます超えなきゃいけないみたいだぜ!」
「でもバン、単純な力比べじゃ勝ち目がないよ」
「悔しいけど、そうだな……でも、俺達は大会を勝ち抜いてダントツになったんだ!あの時みたいな力を発揮すれば、絶対に勝てる!!」
「あの時みたいな……そうだ!バン、耳貸して」
「え?」
 リサはバンに耳打ちする。

「ほう、もう活路を見出せたか」
「わかんねぇ!けど……!」
「バンと一緒なら絶対に出来る!」
「ふっ、いいだろう」

「「「3.2.1.アクティブシュート!!」」」

「「いっけえええ!!!」」

 再び、先ほどと同様に向かってくるバンキッシュドライバーのフロントへウェイバーとヴィクターが突っ込む。

「さっきと同じ動き……いや!」

 バンっ!!
 バンキッシュドライバーにぶつかる直前、ウェイバーとヴィクターが接触し、ウェイバーのサイドスプリングの反動で二機の軌道は二又に分かれ、バンキッシュドライバーはその間を通過し、フィールド端で停止した。

「やったぜ!」
「よかった、成功した!」

「ふっ、見事なコンビネーションだ。だが、先手はこちらだ。バンキッシュドライバーの攻撃に耐えきれるか?」
 伊江羅は横っ腹を晒しているブレイズウェイバーへ向けてシュートした。
 ポス…!
 ブレイズウェイバーは手応えなく軽く押されただけだった。バンキッシュ自慢のギミックも不発だ。
「なに!?」
 ブレイズウェイバーをよく見てみると、センターパーツが付いていなかった。
「パーツを外して軽量化したのか……!」
「さっきのヴィクターとの接触で外れるように調整したんだ。バネギミックは負荷を受ける事で発動するなら、重量を軽くしてサスペンションでショックを吸収すればギミックは発動出来ない!」
「なるほど、所詮再現度が90%以上でしかないという部分を突かれたな」
「いけっ!」
 リサはブレイズウェイバーをシュートし、バンキッシュドライバーの向きをヴィクターへ向けつつマインヒットした。
「バン、今だよ!!」
「おう!」
 バンは予めフィールドから離れて待機していた。
 そして、ヴィクターへ向かって駆け出す。
「うおおおおお!!ビッグバンインパクト!!!」
 ダッシュ力と全身のバネを使った最大奥義が放たれ、バンキッシュドライバーのフロントへ激突する。

 バーーーーン!!!
 バンキッシュドライバーは自らのバネの力でぶっ飛んでいく。
「ワンウェイブレーキで耐えろ!!」

 ガッ!!
 ワンウェイブレーキを下ろして踏ん張ろうとするものの、勢いには勝てず躓いて転倒しそのままフリップアウトしてしまった。

「ほぅ、やりおるわい」
「ふっ、見事だ」

「おっしゃあああ!!!」
「やったね、バン!!」
「ああ!俺たちの勝ちだ!!」

 喜びを分かち合う二人にパチパチとゆっくりとした拍手が送られた。
「よくやったぞ二人とも!見事、バンキッシュドライバーの泣き所を見抜き勝利を収めた!!」
「へっへーん!これでフリップゴッドが相手でも戦えるぜ!!」
「いや、まだだ」
「へ?」

「今のはあくまで、再現しきれなかった箇所を突かれたに過ぎない。本物に今のような隙は無い。それに、フリップゴッドもこの数年でさらに進歩している可能性もある。今のままではまだ不十分だ」
「なんだよせっかく勝ったのに文句ばっか言いやがって」
「だが見込みはある。バン、リサ、ディフィートヴィクターとブレイズウェイバーをバージョンアップさせるぞ。バンキッシュドライバーのデータを使ってな」
「え、バンキッシュドライバーのデータを使って…?」
「でも、そんなことしたら……!」
 あの事件は、フリッカー達がバンキッシュドライバーの力を求めたことによっても起こってしまった。
 二の舞になってしまうのでは無いか…!

「今のバトルで確信した。お前達ならバンキッシュドライバーの力を手に入れても、それに呑まれることはないだろう。
元々バンキッシュドライバーはフリックスのさらなる発展を願って開発されたものだ。バンキッシュドライバーの力を取り込み、乗り越えていく事こそフリップゴッドの真の悲願と言えるだろう」

「バンキッシュドライバーを……」
「乗り越える……」
「上等だ!バンキッシュドライバーを超えて、フリップゴッドもぶっ倒してやる!!」

  つづく!

 

 

CM

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

JPEG,PNG,GIF形式の画像を投稿できます(投稿時はコメント入力必須)