洗濯バサミ!フリックス・アレイ第5話

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第5話「新たなる力!洗濯バサミの可能性」

 夕暮れ時の町内広場にて。
 トオルからの挑戦を受けて見事敗北してしまったタクミ。
 しかも、そのバトルを見ていた謎の青年から「そのフリックスでは勝てない」とまで言われてしまいました。

「ど、どういう意味ですか!?僕とサミンじゃ勝てないって……!」
「あぁ、少し言い方がきつかったね。気に障ったならごめん」
 思わず食って掛かってしまったタクミに対して、青年は慌てて謝りました。
「あ、いえ。僕の方こそ、すみません……」
 謝る青年の姿に、冷静になったタクミ。
「ちょっと、見せてもらうよ」
 勢いがなくなったタクミの手から、青年はサミンを手に取りました。
「え、はい」
 青年は手に取ったサミンを隅々までチェックしています。
「なるほど、粗削りだが見事な仕上がりだ。ジャンプ性能を高めるためにあえて軽量素材を使い、少ない火力を洗濯バサミの弾力で補っている」
「……」
 あまりにも的確な分析に、タクミは思わずきょとんとした顔で青年の顔を見つめます。
「あ、あれ、どうしたんだい?」
「いえ……随分と詳しいなと思って」
「あぁ。昔、大分やりこんだからね……それにしても、またフリックスが流行ってるなんて思わなかったよ、最近復活したのかい?」
「そうだったんですか。でも、復活も何もフリックスはずっと流行って……」
 と、ここまで言いかけてタクミは口を噤みました。
(そういえばフリックスって、いつから始まったんだろう?ずっと今みたいに流行ってたのかな?
気付いたら流行ってたし、僕も何気なく始めたけど、詳しい事は何も知らないや。
知ってる事と言えば5年前に大会が開かれたって事を雑誌で読んだくらい……あっ!そういえば……!)

 タクミは思案しながら青年の顔を見て、あることを思いつきました。
「あ、あの……!昔フリックスやってたって、言ってましたけど、5年前の大会の事は……!」
「ん、あぁ、懐かしいなぁ。そういえばもうそのくらい経つのかぁ」
 そう目を細める青年の顔に、タクミの脳裏にある少年の顔がダブりました。
「ま、まさか、あなたは……あなたの、名前は……寺宝……!」
「え、どうして僕の名前を」
「あなたが伝説の第0回チャンピオン!寺宝カケタさん!?」
「あはは、まぁね。でもあの大会って第0回って呼ばれてたんだ。昔の事だからあまり覚えてなかったなぁ」
「す、すごい!伝説の人に会えるなんて!僕、あなたに会ってみたかったんです!!あ、僕仙葉タクミって言います!よろしくお願いします!!」
 ついさっき雑誌で知ったばかりとは言え、初代大会チャンプとなればフリッカーにとっては憧れの人です。
 タクミは目を輝かせながらカケタを見つめました。

「うん、よろしく、タクミ。でも、なんだか照れるなぁ。そんなに大したことじゃないよ」
「大した事ですよ!そっかぁ、だからサミンの事も見抜いたんですね。お願いします!もっとフリックスについて教えてください!僕、サミンをちゃんと使いこなせるようになりたいんです!!」
「僕も引退してかなり経つから感覚は鈍ってるかもしれないけど……それで構わないなら」
「やったぁ!!」

 こうして、二人は日が暮れるまで研究&特訓をする事にしました。

「まずは適当に、この空き缶をターゲットにしてサミンを撃ってみよう」
「はい!」
 グッ!
 タクミは力を込めて手首を横に傾けるサイドシュートでサミンを撃ちました。

 カキンッ!
 スピンしながら飛んで行ったサミンの横っ腹が空き缶にぶつかり、空き缶は倒れましたが場外させるほどの威力は出ていません。

「ど、どうでしょうか……?」
「う~ん……コントロールは悪くないね。サミン自体も、軽い素材を使っているにしてはなかなかの強度だ。フリッカーの能力も、フリックスの性能も悪くない」
「そ、そうです、か?でも、カケタさんはさっき……」
「うん。君たちは決して弱くない。けれど、相性が悪いんだ」
「相性?」
「サミンのスマッシュギミックは、フロントパーツを相手にぶつけないと発動しない。でも、タクミのシュートはサイドシュートだから、スピンしてしまってなかなかフロントを当てづらいんだ」
「サイドシュート……そっか、そういえば僕、ずっとこの撃ち方してる」
「手の甲を地面と水平にして撃つ、ストレートシュートが出来れば直進性が増してフロントギミックを発動させやすくなるんだけど。できそうかい?」
「や、やってみます!」

 言われるままに、タクミはストレートシュートしてみるのですが、なかなかうまくいきません。

「うぅ、ダメだぁ!」
「う~ん、シュート方法には向き不向きがあるからね。タクミはサイドシュート向きのフリッカーなのかもしれない」
「そんなぁ……で、でも初めてバトルした時はちゃんと発動したんですよ。それで、トオルにだって勝てたんだ」
「まぁ、相性が悪いからって100%発動しないわけじゃないよ。きっと、その時は絶対に負けられない想いにサミンが答えてくれたんだろうな」
「……」
「でも、フリッカーがフリックスに頼ってばかりじゃいけない。
自分とフリックスの相性を考えて、その最適解を突き詰めていく……それがフリッカーの仕事だ。気合いや魂はその後さ」
「僕とサミンの相性」
「見つめて見つめて、見つめ尽すんだ。そうすればきっと、答えが見えてくると思うよ」
「見つめて、見つめる……」
 タクミはカケタの言葉に感銘を受けて、サミンを見つめ直しました。

 その時、陽の沈みかけた空から一羽のカラスがカァカァと鳴きながら飛び立ちました。

「おっと!そろそろホテルのチェックインの時間だ!すまない、僕はもう」
「あ、はい!長い間付き合わせてごめんなさい!」
「いや、僕も楽しかったよ。問題解決できなくて悪かったね」
「いえ、そんな!凄く参考になりました!!本当にありがとうございます!!!」
 タクミは、地面にぶつけるくらいの勢いで頭を下げた。
「ははは、それならよかった。頑張れよ、少年!」

 カケタは右手を上げて、広場を小走りで出ていきました。
 そして路地を抜けて、ホテルに向かうバスに乗るために大通りを目指します。
 その途中でした。
「仙葉タクミ、か。僕も久しぶりにフリックス復帰してみようかな。あの機体、まだ実家に残ってたかなぁ」
 そんな風に呟いていると、後ろから声を掛けられました。
「寺宝カケタさん、ですね?」
 振り向くと、そこには黒服にサングラスをかけたいかにもな二人組の男が立っていました
「え、はい……あなたは?」
「いきなり失礼。我々はこういうものです」
 黒服二人は名刺をカケタへ差し出しました。
「……GFCメインスポンサー、遠山フリッカーズスクール……?」
「あなたの力を、ぜひとも借りたいのです。幻のチャンピオンとしての、あなたの力をね」
「僕の?」
「ご協力、願えますね?」
 果たして、遠山フリッカーズスクールは何を企んでいるのでしょうか?

 家に帰ったタクミは、自室でサミンの改良に取り掛かります。
「サミン、もうお前に頼りっぱなしにはならない。僕とお前、一緒に強くなろう!」
 サミンを分解したところまではいいものの、なかなかいい案が浮かばずに作業は停滞します。
「う~ん、とは言ったもののどうすればいいんだろう?僕のシュートがサイドシュートだから、フロントにスマッシュギミックを取り付けても効果が薄い。
サイドシュートでも効果的にギミックを発動させるためには……う~ん……」

 作業のためのヘラを鼻で挟み、脚を机に乗っけた状態でうんうん唸っていると。
 部屋の隅にあるケージからガシガシ音がしました。

「ぶひ!ぶひ!!」
 飼い兎のこころが、何かいら立ってるようにケージの壁を足で蹴っ飛ばしています。
 いわゆる足ダンと言う奴です。

「なんだよ、こころうるさいなぁ。エサならさっきやっただろぉ」
「ぶひ!ぶひぃぃ!!!」
「良い所なのにもう!」
 タクミはめんどくさそうに部屋の隅へ行き、ケージをのぞき込みます。
 そして、こころが回転しながら後ろ足でケージを蹴っているところを見て、ハッとしました。
「そ、そっか……!回転してる時は後ろ足で蹴るんだ……これがフリックスなら!!」

 こころを適当になだめた後にタクミは急いで机に戻り作業を開始。
「よし、これならどうだ!」
 洗濯バサミを、サミンの後ろサイドへ取り付けてみました。

 早速テストシュートしてみます。
「よし!これならスピンでも発動するぞ!!」
 しかし……。
「あ、ダメだぁ!!これじゃレギュオーバーしちゃう!!」

 フリックスのレギュレーションは横幅8.5cmまでです。
 両サイドに洗濯バサミを取り付けてしまっては、さすがにオーバーしてしまいます。

「よーし、だったら変形できるようにすればいいんだ!ついでに、いろんな位置に使えられるようにもして……!」

 そうして……!

「出来たぁぁぁ!!これが僕の新しいフリックス!バクタンセ・サミンMk.Ⅱだ!!!」

    つづく

次回!『借金1億万円!?トオルの転落ポイント!』




CM

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