思い出のヨーヨー

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超速スピナーの「ライバルがいるからこそ」と並び「思い出のヨーヨー」も名エピソードですね
先日「ライバルがいるからこそ」について語ったので、こちらも少し語ります

この話は北条院の幼少時代の話
まだ、母親が存命で、親子の仲が良かった頃
北条院は、親子三人+じいやで夏祭りに出掛けます
普段仕事で忙しい父に遊びに連れていってもらった事の無い北条院は大はしゃぎで駆け回ります
そこで初めてハイパーヨーヨーを見かけます
物珍しそうにヨーヨーを眺める北条院に父は
「ほぅ、ヨーヨーか……懐かしいな」
と、買ってあげます
「あ、旦那様、でしたら私が……」
と、じいやが財布を出そうとするのですが母に止められます
「ごめんなさいね、じいや。でも、こんな機会はもう滅多にないと思うから……」
この言葉は、自分達の悲しい未来を予言してるかのようでした
ヨーヨーを買ってもらった北条院は、毎日のように練習します
しかし、父はあの後からずっと仕事が忙しくてなかなか会えない日が続きます
ある日、ピアニストである母の演奏を聴いた後の会話
「やっぱり、お母様の演奏は素晴らしいです」
「聖斗もすぐにこれくらい弾けるようになるわよ」
「そうでしょうか……先生からはいつも『僕には才能が無い』と言われますけど……」
「聖斗、才能っていうのはね、自分の夢を信じる力の事をいうのよ」
この言葉は、北条院の心に強く響きました
そして、北条院は母にヨーヨーをプレイしてみせます
「もっと上手くなって、いつかお父さんに見せたいんだ!」
「じゃあ、お母さんもこっそり練習して、お父さんを驚かせちゃおうかな」
「それじゃあ僕が教えるよ!」
「ふふ、お願いします、先生」
二人の間に秘密の約束が出来ました
「お父さんに上手くなったプレイを観てもらいたい」
それが、北条院の夢になり、才能の力となった瞬間でした
しかし、その直後、悲しいことが起こります
元々病弱だった母がクモ膜下出血によって死去したのです
そのショックで、父はますます仕事にのめり込み、家庭を蔑ろにし、北条院は寂しい日々が続きます
それでも、「お父さんにプレイを観てもらいたい」という夢を信じてヨーヨーの練習に励みます

ある日の夜、やっと父が仕事から帰ってきました
やっとヨーヨーを見てもらえる!
と笑顔で駆け寄る北条院の頬に、平手打ちが飛びます
北条院は吹っ飛び、手に持っていたヨーヨーも転がります
父は、ずっとヨーヨーにかまけてピアノのレッスンをサボっていた北条院に怒り心頭でした
そして、目の前に転がってきたヨーヨーを無情にも踏み付けます
「どうして、こんな事するんですか……初めて買ってもらった、大切なものなのに!!」
泣き崩れる北条院を無視して、父は近くにいたメイドさん(りあんと同じ声優)に命じます
「このゴミを捨てておけ」
ひど過ぎます
グレても仕方ないレベルです
自室に閉じこもる北条院なんか気にせず、父は部屋で仕事の続きをします
そんな時、外から花火の音が……
「花火か、そういえばもう夏祭りの時期か……」
そこで、父は思い出します
自分が捨てさせたあのヨーヨーは、去年の夏祭りに初めて買ってあげたものだったと
雨が降りしきる中ゴミ置場に駆けていき、体が汚れる事も気にせず、ヨーヨーを探すためにゴミを漁ります
「美琴が死んでから、私はより一層仕事にのめり込んだ……そうする事で、美琴の死を忘れようとしていた
美琴を思い出させる、あのヨーヨーが許せなかった
だが、あのヨーヨーは、聖斗にとって……」
北条院が自室のベッドで俯せているところにドアが開きます
父が謝りに来たのだと思った北条院は
(今更何を言われたって……!)
と、無視しますが、父は何も言わず、コト……と何かを置いて静かに去ろうとしました
それが、捨てられたはずのヨーヨーだと知った北条院がびっくりして起き上がると、そこにはボロボロになった父の背中がありました
「お父様、これ……!」
父の真意を聞こうとする北条院に対し
「言っておくが、今度またピアノの練習をサボる事があったら、そのヨーヨーを捨ててしまうぞ」
とだけ言い残して、去っていきました
数年後、第一回JCCで、北条院は圧倒的実力で優勝します
その時の優勝者インタビューでは
「この喜びを誰に伝えたいですか?」
「お母様と……いえ、今はお母様だけです」
父はあくまで「息子との思い出」を守っただけで「ヨーヨーを認めた」わけではありませんでした
だから、北条院は父の言い付け通りピアノを続けつつ、秘密でヨーヨーをしています
全ては「お父様に上手くなった自分のプレイを見てもらう」という
母と交わした、自分の夢を叶えるために……

うろ覚えなんで、正確ではありませんが、大体こんな流れです
思い出しながら涙出てきましたよw
ほんとに橋口先生はリアルに良い話を描く漫画家です
こういう「ホビーに対する価値観の違いですれ違う親子」を描いたエピソードは、結構ありますね
レツゴの「ミニ四師匠豪!?秋祭りレース開催!!」とか
グランダーの「父ちゃんとの勝負」とか
グランダーの場合は、釣りを巡った大人のゴタゴタに武蔵を巻き込みたくないからって理由だから、少し違いますが
玩具って、どこまでいっても玩具でしかないんですよね
やらなきゃ生きていけないわけでも、何かの役に立つわけでもない
だからこそ、親からすると「ただのゴミ」と映ることもある
でも、子供にとっては真剣に打ち込める宝物なんですよね
それを親の価値観だけで蔑ろされたら、子供の心はそりゃあ深く傷つきますよ(経験有)

豪も言ってましたが
「なんでも役に立たなきゃいけないのかよ!隼人はミニ四駆がやりたいんだぞ!それが分かんねぇのか!?」
こういう名エピソードが生まれるのも
この頃のホビーものって「ホビーをやらない人達がリアルに描かれてるから」なんですよねー
ホビーをやってる人は、壮大な事やってて現実味が無いんですが
やらない人達、特に一般の大人達はリアルに会社員やってますから
ホビーなんか一切興味ありませんから
ホビーに対して「おもちゃ」って平気で言いますからね!
でもだからこそ、描けるリアルなエピソードが魅力的なんですよ!
なんでもかんでも壮大にすれば面白いってわけじゃないんですよー!
 

 




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