第19話「必殺!ブースターインパクト!!」
バンは猛特訓の末、ようやく必殺技のコツを会得した。
その翌日の放課後。
HRが終わり、児童達が帰り支度をする教室で、バンはオサムとマナブに声をかけた。
「オサム、マナブ!この後公園でバトルしようぜ!」
「ん、あぁ……。なんだよ、もう一人でやる事は良いのか?」
バンはここ最近、特訓するためにずっとオサム達の誘いを断ってきた。
そんなバンにいきなり誘われたものだから、オサムは意外そうな顔になる。
「ああ!もうばっちり!あとは、皆とのバトルで試したいんだ!!」
「そっか、そういう事なら僕たちは構わないよ」
「仕方ねぇな、付き合ってやるよ」
と、言いつつオサムもマナブも少しうれしそうだ。
ずっとバンがいなくて、バトルが盛り上がらなかったのだろう。
バンは家に帰り、リサを誘う。
「リサ、今から公園行こうぜ!」
「うん!」
リサは心底嬉しそうに頷いた。
そして、公園。
バン、リサ、オサム、マナブの四人でバトルを始めた。
「さて、どんな特訓してきたか知らないが、そんな簡単に負けねぇぜ!」
オサムが言う。
「へへへっ、見れば分かるって!この俺がダントツ一番だってな!」
と、いうわけでバトルスタート。
初手はバンからだ。
「おりゃ!」
バシュッ!
バンはとりあえず誰から攻撃を受けても大丈夫なようにフィールドの真ん中にドライブヴィクターをつけた。
リサのターン。
バシュッ!
リサも攻撃をする意味がないので、フリックスをフィールド真ん中につける。
「よし、行くぜ!」
オサムのターン。
バシュッ!ガンッ!
ドライブヴィクターにアタックを仕掛けるも、あっさり防御されてしまう。
「へへーん!きかねぇよ!」
「くぅ……!バンの奴、ガードも固くなってるぜ!」
「次は僕の番だね」
マナブのターン。
マナブはオサムと違い、積極的にフリップアウトは狙わないのでフィールド真ん中につけた。
そして、ようやくバンの攻撃が出来るターンだ。
「よっしゃ!待ってたぜ!!やっと攻撃が出来る!!」
一番目だとフィールドに相手がいないので物理的な攻撃が出来ない。
せっかく覚えた必殺技も試せないのだ。
「おっ、バンのとっておきのお披露目か!?」
オサムが囃し立てるように言う。
「ああ!見せてやるぜ!これが、俺の……!」
グッ……!とバンが必殺シュートの構えを取った。
「必殺……!」
その時だった。
ドガァ!!
突如誰かがやってきて、バン達がプレイしていたフィールドを蹴っ飛ばした。
「ああ!!」
フィールドは倒れ、その上に乗っていたフリックスもバラバラに落ちてしまう。
「ちょっ、何すんだよ!」
慌てて落ちたフリックスを拾い、フィールドを蹴った奴をにらみつける。
その、蹴った奴とは……。
「って、お前……!」
そいつは、第1話でバンに負け、第8話でバンに負けた少年、ゲンタだった。
「この間俺に負けて、さらにその前にも俺に負けた、ゲンタ!」
「負けた負けたうるせぇ!!」
「また、負けに来たのか!?」
「そんなわけあるかぁ!!今日はなぁ、今日という今日は、お前に今までの借りを返すために来たんだよ!」
ゲンタの目の色が変わる。
今まで負けてばっかだったが、気持ちは本物らしい。
「へっ、おもしれぇ!返り討ちにしてやるぜ!!」
チャキッとドライブヴィクターを構える。
「ふふふ……」
ゲンタも含み笑いをする。
何やら秘策があるようだ。、
「バン、気を付けて。勝ってるとはいえ、向こうは何か対策を考えてるかもしれない」
「そうだな。なんせあのスクールの奴だからな、どんな汚い事してくるか分からないぞ」
オサムとマナブがバンへ警告する。
「上等だぜ!俺だって前に戦った時よりずっとずっと強くなってんだ!」
バンは全く臆さない。それどころか、早く必殺技を試したくてウズウズしているようだ。
「その強気、いつまでもつかな……?」
そして、ゲンタが何かしらの動きを見せる。
(来るかっ!)
バンは身構えた。そして……。
「兄貴!やっちゃってください!!」
と、ゲンタは自分の後ろにいる人物に声をかけた。
その人物がノコノコと現れる。
「お前かぁ?!俺様の子分を可愛がってくれたって奴は!」
ゲンタよりも一回り大きい少年が現れた。子分と言っているので、本当の兄弟ではなく、兄貴分と弟分の関係のようだ。
「たっぷりお礼してやるぜぇ……!」
ゲンタの兄貴はポキポキと指を鳴らした。
「って、お前がやるんじゃないんかい!」
バンは思わずズッコケた。
「な、なめんじゃねぇ!兄貴はなぁ、スクールでも最高クラスに所属しているんだよ!」
「いや、別になめてるわけじゃないけど……なんだかなぁ……」
強気だったのは、助っ人を呼んだかららしい。
自分の力でリベンジしようとしないゲンタにはあきれてしまった。
「おい、いつまでくっちゃべってんだ?さっさとやるぞオラァ!」
この兄貴、ザキ並にガラが悪い。
「まっ、なんでもいいや。誰が相手だって、俺がダントツ一番だ!!」
バンはフィールドを直し、ドライブヴィクターを構えた。
「せっかくのバトルだったのに……」
いきなりバトルを中断されて、リサは不満げだ。
「まぁまぁ。この後にたっぷりやろうよ。とりあえずあの二人はなんとかしないと厄介そうだし」
マナブがリサを宥める。
「うん……」
リサはしぶしぶながら頷いた。
「それじゃ、二人とも準備して」
バンと兄貴がフィールドにつく。
マナブの合図によってバトルが始まった。
「あれがドライブヴィクターか。つぶしがいがありそうだな」
そして、兄貴のターン。フリックスをセットする。
(一体、どんなフリックスなんだ……?)
バンは一応警戒した。
「3.2.1.アクティブシュート!!」
「いけぇ!」
「はああああ!」
バシッ!
と、迫力の割りにはスタート位置からあまり弾いていない。
「み、見かけ倒しか?」
「さぁ、お前の先攻だぜ」
バンのターン。
「まっ、いいや。こんな奴、必殺技でとっとと……うっ!」
必殺技の構えを取ろうとしたバンだが、相手の位置を見てその構えを解いた。
「あ、あんなとこじゃ迂闊に強いシュートはうてねぇ……!」
そう、兄貴のフリックスが位置しているのはフィールドの角にかなり近いとこだ。
そんなとこへ必殺シュートを撃ってしまったら、ドライブヴィクターも一緒に場外してしまうだろう。
この戦術は、第1話のゲンタも取った奴だ。
「なるほど、さすがゲンタの兄貴分。戦法も同じって事か」
「はっはっは!お前の事は全部兄貴に伝えてあるんだ!!」
ゲンタが得意げに言う。
「さぁ、早く撃ってこいよ。そして勝手に自滅しな!」
兄貴も挑発してきた。
「……まぁ、必殺技は撃てないけど、普通に撃てばフリップアウトできるな」
バンは、余裕の表情で構えた。
「俺だって腕を上げてんだ。自滅しないように調整して撃つくらい出来るぜ!」
バシュッ!!
バンがある程度強いシュートを放った。
まっすぐ兄貴のフリックスへと向かう。
「いっけぇ!!」
ガキンッ!!
見事ヒットする。
が、兄貴のフリックスは全く動かず、逆にドライブヴィクターの方が大きく弾かれてしまった。
「なにっ!?」
相手の防御力の高さにバン達は驚愕した。
「バカなっ!力を抑えてるとはいえ、バンのシュートを受けて微動だにしないなんて……!」
オサムも驚きを隠せない。
「その程度か」
兄貴がバカにしたように鼻で笑う。
「今の、ハンマーギガ以上の防御力だった……こいつ、相当な使い手なのか!?」
バンが身構える。
「いや、でも何かおかしい……っ!」
マナブが、兄貴のフリックスがフィールドに若干めり込んでいるのを発見する。
「あ、あれはまさか……!そうか!あのフリックス、重さが尋常じゃないんだ!」
「え?」
「あの威圧感……多分、規定重量を大きく超えている」
「な、なにぃ!?」
「そんなのインチキじゃねぇか!」
バン達がゲンタ達に非難のブーイングをする。
「けっ、よく見抜いたな!だが、これは公式戦じゃねぇんだ!ようは相手をブッとばしゃいいんだよ!規定なんざクソ喰らえだ!」
兄貴は開き直ってしまった。
「さすが、兄貴!かっこいい!!」
ゲンタは、本当にもう小物だ。
「ひ、開き直りやがった……」
「さすがスクール生。人間性を疑うね」
「リサ、スクールにいる奴ってあんなのばっかなのか?」
「……うん」
リサは小さくうなずいた。
「やっぱ出て行って正解だな。ますますあんな奴らにリサは渡せねぇ。それに、このバトルも絶対に負けられないぜ!」
バンは改めてスクールに対する闘志を燃やした。
「うるせぇ!次は俺のターンだ、黙ってろ!!」
兄貴が怒声を浴びせ、シュートを構える。
「違反フリックスの超重量アタックでブッ飛ばしてやるぜ」
「兄貴!やっちゃえ~!!」
重ければ重いほど攻撃力が上がる。
つまり、違反フリックスの攻撃力は凄まじいものになるはずだ。
「バン!気を付けて!」
「規定重量違反のフリックスは攻撃力も尋常じゃないはずだよ!」
リサとマナブがバンへ警告を促す。
「分かってるって!」
バンは気合い入れて防御の態勢に入った。
「無駄無駄ぁ!!」
バシュッ!!
兄貴のシュート!
超重量級のアタックがドライブヴィクターに遅いかかる……はずだった。
が、兄貴の違反フリックスはアタックするどころかドライブヴィクターにあと数センチのところで届かずに止まってしまった。
「ありっ?」
身構えていただけに、バンは拍子抜けした。
「……」
兄貴は押し黙っている。
「あ、兄貴ぃ……」
ゲンタは不安そうに兄貴をすがるように見つめる。
「ぷっ、ぎゃーーっはっはっは!なんだよそのシュート!全然届いてねぇじゃん!!」
しばらくの沈黙が続いた後、バンの笑い声によってその沈黙は破られた。
「く、う、うるせぇ!ちょっと手が滑っただけだ!」
「なぁにが超重量級アタックだよ!!ぎゃっはっはっは!!」
バンの爆笑は止まらない。
「て、てめぇ!!ブッ殺す!!!」
完全に頭に血が上った兄貴は、バンへと殴りかかろうとする。
「あ、兄貴!さすがに暴力はまずいですって!!」
ゲンタが慌ててそれを止める。
「そ、それもそうだな……おいてめぇ!いつまでも笑ってねぇで、さっさと構えやがれ!そっちのターンだぞ!」
「お、おう……!」
バンはなんとか笑いを収めた。
「それにしても、なんでアタック出来なかったんだ?」
オサムが疑問を口にした。
「多分、あの重量せいだよ。重くしすぎてまともにシュートが出来ないんだ」
「重量があると機動力下がっちゃうもんね」
「なるほどなぁ。案外頭悪いんだな、あいつらって」
オサムがボソッと言うとそれが聞こえていたのか、兄貴がキッ!と睨み付けた。
「ひっ!いや、なんでもないです……!」
オサムはそれにビビッてとっさに誤魔化した。
「けっ!運よく俺様の攻撃を免れたようがなぁ!てめぇの攻撃だって、この俺には痛くもかゆくもねぇんだよ!!」
「そうだそうだ!お前なんかが兄貴に勝てるわけがねぇ!!」
ゲンタと兄貴はまだまだ強気だ。
(っていうか、重量違反してるからペナルティでHP-2になるから、一回マインヒットすれば勝ちなんだけどな)
このペナルティルールがあるため、必然的に規定違反フリックスは弱いのだ。
(まっ、でもそれじゃつまらねぇよな)
バンがニッと笑う。その笑みはさきほどの爆笑とは違った意味合いがあった。
「なんだ?ずいぶんと余裕じゃねぇか。なんか秘策でもあるってのかよ!」
「ああ、こういう奴を相手にするための必勝法がな!へへっ、正直違反してくれてありがたいぜ」
「なんだとぉ!?」
「その方が、こいつの効果がハッキリと分かりやすいからさ!」
言って、バンはあの必殺技の構えを取った。
前のめりになり腕を曲げる。
「行くぜ……!」
そして、兄貴のフリックス目掛けて、腕を伸ばしながらドライブヴィクターをシュートした。
「ブースターインパクトォォォ!!!!」
ズゴオオオオオオオオオオオオオ!!!!
ドライブヴィクターが衝撃波を発しながらブッ飛んでいく。
「な、なんだこのシュートは?!」
「そうか!腕を突き出しながら撃つことで、シュートの勢いを倍増させたのか!!」
マナブが正確に分析する。
「けっ!こんなもの、超重量級防御ではじき返してやるぜ!!」
ガッ!
ドライブヴィクターが重量級フリックスにヒットする。
「弾き返せ!!!」
必死に防御する兄貴。しかし、重量級フリックスはまるで木の葉のようにフィールド外へとフッ飛んでしまった。
「な、なにぃ!?」
「へへっ!」
そして、フリックスは先ほどのシュートの勢いとは打って変わって、ピタッとその場に止まっている。
「ぐっ、あれだけのシュートを撃ったのに、ぴったり止まってやがる……!」
「どうなってんだ!?」
「ビリヤードと同じ理屈だね。相手の重心に物体がぶつかれば、その運動エネルギーを全て相手に移す事が出来て、自分は止まるんだ」
またもマナブが分析する。本当に便利な奴だ。
「へへへ、どーだ!俺の勝ちだぜ!!」
バンがドライブヴィクターを掲げる。
それを見たゲンタは地団駄を踏んだ。
「くそっ、バンの奴いつの間にあんなに強くなってんだよ……」
「……」
「兄貴?」
「……」
悔しがるゲンタに対し、兄貴は放心状態になり、動かなくなった。
ドサッ!
そのまま、意識を失ったかのように倒れてしまう。
「うわぁ!兄貴、しっかりしてくれぇ!!」
ゲンタは慌てて抱きかかえた。
「くっ!お前ら!よくも兄貴をこんな目に合わせてくれたな!!」
「いや、別に俺はフリックスバトルで勝っただけだから」
バンのせいで放心状態になったわけではないだろう。
「るせぇ!今度会ったらギッタギッタにしてやるからな!覚えてろよ!!」
ますます小物なセリフを吐きながら、ゲンタは兄貴を抱えて去って行った。
「やったな、バン!」
「すごい必殺技だったよ!」
オサム達がバンの元へ駆け寄る。
「へへへ!見たか、俺の必殺シュート!」
バンは得意げにピースしてみせた。
「くぅぅ!しびれたぜ!あんなすげぇシュート初めて見た!」
「腕を突き出しながら撃つなんて、よくそんな事思いついたね」
「いやぁ、剛志に勝つために必死になってたら偶然できただけだぜ」
「ちぇっ、でもなんかますます差をつけられちまったなぁ」
「なっはっはっは!まっ、もう俺に敵はないぜ!はっはっはっは!!」
調子に乗って馬鹿笑いするバンに対し、リサは少し不安げな表情になる。
「バン……」
それには気づかず、バンの馬鹿笑いは止まらなかった。
「なっはっはっは!!」
遠山フリッカーズスクール校長室。
「くっくっく、ようやく準備が整ったぞ……」
校長が、何かのパンフレットを眺めながらほくそ笑んでいた。
そこに、一人の少年が校長室の扉をノックもせずに開けて入ってきた。
「一体何の用だよじいさん。いきなり呼び出しやがって」
校長に対しても言葉遣いの悪いこの少年は、ザキだ。
「ザキよ、よく来たな。もう今日の訓練は終了したのか?」
「あぁ、だから来てんじゃねぇか。相変わらず、つまらなかったぜ」
「ふぉっふぉっふぉ!あのプログラムをこの短時間で終了するとは、さすがじゃ!」
段治郎は嬉しそうに笑うが、ザキは不機嫌そうだ。
「どうでも良いんだよ!毎日毎日くだらねぇ奴らとばかりバトルさせやがって!いい加減もっとマシな事させろ!!」
「ふぉっふぉっふぉ!今呼び出したのはそのためじゃよ、ザキ」
「なにぃ……?」
ザキは怪訝な、それでいてちょっと期待するような表情になった。
「期は熟した。大いなる祭典のな」
「大いなる祭典?」
「あぁ、そこで存分にお前の力を発揮するがよい。ふぉっふぉっふぉっふぉ!!」
つづく
次回予告
炎のアタッカーユージンの競技玩具道場 フリックスの特別編
うっす、ユージンだ!
バンの会得した必殺シュート『ブースターインパクト』!こいつは、腕を突き出しながらフリックスを弾くという超強力な攻撃技だ!
実際のフリックスバトルでも使える技だから、ぜひ試してみてくれ!!
そんじゃ、今回はここまで!最後にこの言葉で締めくくろう!
本日の格言!
『特訓の成果は裏切らない!』
この言葉を胸に、皆もキープオンファイティンッ!また次回!!