オリジナルビーダマン物語 第64話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第64話「幸福の救済」




 マリアと別れた後、シュウ達は自分たちの席へ戻った。
「なぁ、タケル……マリアが言ってた、島の少年ってさ」
「間違いなく、恩田涼の事だろうな」
「だよな……あいつの死にそんな背景があったなんて」
 恩田涼とは一度戦った事がある。が、それをマリアに言ったところで信じてもらえるとは思えないし、余計に混乱させるだけだろうと思って黙っていた。
「シュウ君、決勝はメアシ君と戦うんだよね」
「うん。輝彦やマリアや、皆の仇は取らねぇと」
「勝ち負けよりも、ビーダマンを破壊されないように気を付けて。バスターブレイグは特殊なビーダマンだから、完全に破壊されたら簡単には治せないよ」
「あぁ、分かってる」
 シュウは気を引き締めている。
「大丈夫ですよぉ!シュウ先輩なら絶対勝てますって!」
 空気読めずにお気楽に言うのはリカだった。
「お前なぁ……」
 さすがに呆れるタケル。
 とはいえ、事情を知らないリカに空気を読めと言うのも無理な話だ。
「あたしここで精一杯応援してますからね!ファイトッ!シュウ先輩!」
 リカはいつの間にやらチアガールのコスプレをしていた。
「あはは……」
「あ~、彩音先輩!何ぼーっとしてるんですか!早くこれに着替えてください!」
「え、えぇ!?」
 彩音はリカに大きな紙袋を渡され、どこかへ追いやられてしまった。
 そして……。
「シュウ先輩!ファイトッ!フレー!フレー!」
 彩音もリカと一緒にチアガールの格好をさせられてしまった。
「なんで、私まで……」
 さきほどのシリアスな雰囲気をぶち壊されて、シュウは混乱しつつも応援に答えた。
「ま、まぁ、頑張るさ……」
 シュウ達の気持ちに構わず、大会は進んでいく。
『決まったぁ!Aブロックの決勝はタクマ君の勝利だ!これで、大原タクマ君は世界選手権出場決定だ!!』
 タクマとゴクブチのバトルは、当然ながらタクマの圧勝だった。
「やはり、タクマが勝ったか……。シュウの奴は大丈夫か?」
 タケルが心配そうにバトルフィールドを観る。シュウは既にスタンバっているようだ。
「フレー!フレー!シュウ先輩!!がんばれがんばれシュウ先輩!」
「しゅ、シュウ君、が、がんばれ~」
 ノリノリでチアリーディングするリカと、オドオドと応援する彩音。
「うるさいなぁ……」
 タケルはさすがにげんなりとした。
 
 その頃。バトルフィールドから控えへ戻る道のり。
「お主が大原タクマ……源氏の孫か」
 大会に勝利し、帰路についていたタクマに、智蔵が話しかけた。
「貴様は……!」
 タクマは智蔵の姿を確認すると、その表情に憎悪を浮かべた。
「倉田智蔵。源氏の元同僚じゃ」
「我が祖父様を殺した張本人……よくも我の前に姿を現せたものだな」
 その口調は冷静さを保っているものの、内に爆発しそうなほどの怒りが込められていた。
「……その件についてはすまんかったと思うとる。ワシがしっかり奴と和解しておれば、こんな事にはならんかった」
「今更貴様に謝られる筋合いはない!今ここで貴様の命を奪いたい所だが、それは容赦してやる。貴様には生きていてもらわねばな。
我は、貴様の作り上げたこの歪な世界を破壊する!そして、祖父様の理想郷を蘇らせるのだ!!その様子を貴様の目に焼き付けるまで、死なれては困る」
「……ビーダマンを奪い合い、傷つけあうのが理想郷か」
 智蔵は痛々しげに呟いた。
「貴様がどう思おうが関係ない。祖父様の掲げた世界は正しい。
戦いの厳しさを体感でき、本気でバトルが出来る。そして、ビーダマンの消費が激しいからこそ、経済も動く!それの何が間違っていると言うのだ!」
 タクマの言い分に、智蔵はゆっくりと首を振った。
「何も間違っとらんよ。源氏の掲げる理想。それもまた、正しい」
「ふん、ならば黙ってみているがいい。常識や正義が覆る瞬間を!」
 タクマは目を見開き、噛み付かんばかりの勢いで智蔵に宣言した。
「元より、口出しする気はない。確かにビーダマンはワシの子供のようなものじゃ。
じゃが、子はいずれ親離れするもの。既に独り立ちした今のビーダマン界に、ワシの意志が入り込む隙はもう無い。
どう成長するかは、今のビーダー達次第じゃ」
 智蔵は、力なくそう言うと踵を返して歩いて行った。
 その背中を眺めていたタクマは。
「老いぼれの戯言か」
 と悪態をついて別の方向へ歩き出した。
 智蔵は一人歩きながら思案していた。
「ワシはもう、老害にしかならんようじゃな……。もう、この身を晒す事は無いじゃろう。
修司、そしてワシの子供達よ、自分の信じた道を進むんじゃぞ」
 そう呟いて、智蔵はどこか誰もいない場所へ消え去ってしまった。
 場面は会場に戻る。
『さぁ、次のバトルはBブロックの決勝戦!このバトルの勝利者が3人目の日本代表になるぞ!その大事な一戦を戦うのは、シュウ君VSメアシ君だ!!
良いバトルを期待してるぞ!』
 バトルフィールドで、シュウとメアシは向かい合った。
「メアシ!もうビーダマンは破壊させないぜ!」
「安心なさい。あなたはもう解放しても良いのです。私に全てを委ねなさい」
「うるせぇ!解放も救済も必要ない!俺達ビーダーは、ずっとビーダマンと一緒にいるんだ!!」
「可哀相に……ここまで悪魔に心を支配されているとは。ですが、あなたの心は私が救います!」 
 
『それではそろそろバトルを始めるぞ!運命の一戦!レディ、ビー・ファイトォ!』
「いっけぇブレイグ!!」
 バトル開始早々、シュウはパワーショットを放った。
 バーーーン!!
 距離をものともせず、ボムにヒットする!
『いきなりシュウ君のパワーショットが炸裂!!この試合に賭ける気合いをビンビン感じるぞ!!』
 
「ビーダマンは悪なんかじゃねぇ!ブレイグは俺の友達だ!!」
「友が全て善とは限りません。ビーダマンは人を不幸にする。あなたもいずれ不幸になります」
 ドンッ!!
 負けじとメアシもルシファーで応戦する。
 バーーーーン!!!!
 シュウのボムにヒット。
「勝手に決めつけんじゃねぇ!!」
 シュウも反撃する。
 バーーーーン!!!
『やったらやり返す!二人のバトルは、抜きつ抜かれつの大接戦だ!決勝に相応しい激しい戦いだぞ!!』
 
「お前もいろいろあったみたいだけどな!そんなの俺には関係ねぇ!俺はビーダマンが楽しいんだよ!!そんな俺が、不幸に見えるのか!?」
「今不幸かどうかは問題ではありません。いずれ不幸になる」
「だから、決めつけんなっつってんだよ!!」
 ドーーーーン!!!
 怒りを込めてパワーショットを放つが、メアシはそれを撃ち止めた。
「なら、身近な話をしましょう」
「なに……?」
「例えば、あなたが所属しているクラブの元リーダー、佐倉ゆうじはビーダマンをしていたせいで死んだ」
「うっ……!」
 もし、ゆうじがビーダマンをしていなかったら、あるいはまだ生きていたかもしれないと言うのは事実だ。
「そして、その死が周りに及ぼした影響は大きいはず。それはあなた自身が一番よく分かっているのでは?」
「ぐぐ……!」
「更に、あなたが最もライバル視しているヒンメルも、不吉な都市伝説がある……」
「ヒンメル……!」
 ヒンメルの都市伝説、ビーダマンで都市を滅ぼしたとか言うあれだ。
「だ、だけどっ!」
「あなた自身もそうではないですか?」
「なに!?」
「ビーダマンをやっていて、楽しい事だらけだったわけではない。辛い事や悲しい事もたくさんあったはず。ビーダマンと関わらなければそんな思いはしなくてすんだものを」
「っ!?」
 シュウは、ストライクブレイグが破壊された時の事を思い出した。
 あの時の絶望感、悲しみ、辛さ……もう死んでしまいたいとおもえるほどだった。
 でも、ブレイグと出会っていなければそんな思いはしなくてすんだのでは?
「だ、けど……俺は!」
 バギュウウウウウ!!!!
 シュウはメタル弾をブレイグに込めて放った。
 バーーーーン!!!
 メタル弾の衝撃によってメアシのボムに大ダメージが与えられた。
「辛かったことも悲しかったことも、良かったと思ってる!」
「なに?」
「楽しい事しかないのが良いわけじゃない!ちょっとでも辛かったら全部ダメなわけじゃない!
楽しい事も嬉しい事も、辛い事も悲しい事も!全部ひっくるめて、俺はビーダマンが好きなんだ!」
「……」
「他の皆だってそうさ!あやねぇも、タケルも、ことねぇも、母ちゃんも!ビーダマンのせいで辛い事もあったけど、でも全部それを乗り越えようと必死で頑張ってんだ!
ビーダマンを悪だと決めつけたら、その頑張りが全部無駄になっちまうんだ!!」
 シュウは再びメタル弾を込めてショットを放った。
 メアシはシュウの言葉を聞いて突っ立っているためにあっさりとヒットする。
 
『メアシ君!強烈なメタル弾を二発も喰らってしまった!これで、残りHPは32!かなり差が開いてしまったぞ!!』
 
「お前なんかに、勝手に決めつけられてたまるかああああ!!!!」
 ドーーーーーン!!!
 強烈なパワーショットが再びメアシのボムにヒット。
 そして、その衝撃でブレイグのヘッドの刃が振動する。
「うおおおおおお!!!フェイタルストーーーーム!!!!」
 メタル弾を装填してのフェイタルストーム!
 今のシュウの最大威力のショットだ!
 スピードは遅いが、メアシは避ける気は無いようでそのままボムにヒットした。
 バーーーーーーン!!!
 メアシのボムはHPを失い、爆破してしまった。
 
『決まったぁ!メアシ君のボムを撃破し、シュウ君の勝利だ!よって、3人目の日本代表はシュウ君だ!!』
 ワーーーーー!歓声が上がった。
「やったな、シュウ」
「やりました!シュウ先輩!!」
「よかった、シュウ君……!」
 仲良しファイトクラブのメンバー達は観客側でホッとする。
 
「シュウ、やったね」
 救護室でヒロトに付き添っている琴音もモニターで観戦していた。
 そして、バトルに勝ったシュウはブレイグを掲げてガッツポーズを取った。
「やったぜ、ブレイグ!」
「なるほど、よく分かりました」
 メアシは何かを悟ったように頷いた。
 しかし……。
「ですが、これでもそう言えますか?」
 急に冷酷な表情になると、ルシファーの銃口をブレイグに向けてショットを放った。
「なにっ!?」
『なんとぉ!既に勝負は決したと言うのに、メアシ君は再びショットを放ったぁ!?』
 
 バキィ!!!
 咄嗟の事で反応できなかったシュウは、成す術なくブレイグにそのショットが当たってしまう。
「くっ!」
 ブレイグを落としてしまった。
 ズドドドド!!
 メアシは容赦なく、地に伏したブレイグに連射を浴びせた。
「あぁ!」
 バーーーーーン!!!
 それによって、ブレイグは砕けてしまった。
「バスター、ブレイグ……!」
 シュウは失意の表情でブレイグの欠片を拾う。
「どうですか?辛いでしょう?悲しいでしょう?それもすべてビーダマンと出会ったからなのですよ」
 シュウが顔を上げる。
「っ!」
 その表情を見て、メアシは驚愕した。
 シュウの表情にマイナスの感情はなく、真っ直ぐな力に満ちていたのだ。
「確かに、辛いし、滅茶苦茶腹立つぜ。でもな……」
「……?」
「俺は、ブレイグを信じてる!この程度じゃ、ブレイグは死なない!!だから、ビーダマンと出会った事も後悔しない!!」
 シュウはハッキリとそう言った。
 その言葉を聞いたメアシは、何かを悟り、静かにこう言った。
「なるほど、そうですか……」
 そう呟き、メアシは踵を返す。
「しばらく、あなたの戦いを見る事にします。悪か善かの判断はそれ次第です」
 そう言って、メアシは歩き始めた。
 その背中をしばらく眺めていたシュウは、手の中にあるブレイグを見た。
「……ごめんな、ブレイグ。でも、絶対にお前は蘇らせる。ちょっとの間待っててくれ」
 シュウはブレイグに語りかけた。
 以前のシュウだったら、泣き崩れてどうしようもなかったかもしれない。
 しかし、今のシュウは違う。数々のバトルを通じて成長したシュウは、このくらいでは屈しない。
 これもすべて、ビーダマンと出会ったおかげなのだ。
「サンキューな、ブレイグ。俺が強くなれたのは、お前のおかげだ」
 シュウは、バスターブレイグへ、最後のお礼を呟いた。
 
     つづく
 
 次回予告
 
「さぁ、世界選手権の出場資格も得たし、次はいよいよアジア予選だ!……っと、その前に壊れたブレイグを直さないとなぁ
って、あやねぇじゃ修理できない?唯一修理できるじいちゃんは、音信不通!?って、どうすんだよ~!!
 
 次回!『忘れえぬ想いを乗り越えて』
 
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」

 

 



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