ベイブレードバーストif第1話~ユージン的こうだったらいいのにな~

Pocket

ベイブレードバーストをユージン的に「こうだったら面白かったのになぁ」と言う願望を込めて
シナリオを再構築してみました
地の文とか、そこら辺の拙さはごめんなさい

第1話「行こうぜ!相棒(ヴァルキリー)」(ユージンバージョン)

 ベイブレードとは
 世界で最も楽しまれているバトル専用ゴマである。
 ランチャーから放たれるベイは、ブレーダーの熱い想いと共にスタジアムでぶつかり合うのだ!
 
 ベイブレードバーストとは、ベイに夢を託して戦う少年たちの物語である!
 
 
 とある大会会場。
 ごった返した観客の声援に包まれながら、中央のスタジアムでは二人の少年が対峙していた。
 
『OK!いよいよベイブレードバースト全国大会の決勝戦スタートだ!!』
 
 司会の兄ちゃんがマイクを手に叫ぶ。
 
『青コーナー!今大会初出場の元気ブレーダー、蒼井バルト!愛機はビクトリーヴァルキリー!!』
 
 司会の兄ちゃんがスタジアムの片側へ向かって腕を出すとそこに立つ少年へスポットライトが当てられた。
 蒼井バルトと呼ばれた少年は右腕をぐるぐる回しながら対峙する少年へ啖呵を切る。
 
「シュウ!いよいよお前とバトルが出来るんだな!すっげぇ楽しみだぜ!!」
 
『赤コーナー!奇跡の天才ブレーダー、紅シュウ!愛機はストームスプリガン!!』
 
 反対側に立つ、バルトよりも落ち着いた雰囲気の少年は髪をかき上げる。
 
「俺もこの時を楽しみにしていた。だが、勝つのは俺だ」
「俺だって負けねぇ!!」
 
『二人とも気合は十分だな!それでは、第一バトルスタートだ!レディ、セット!』
 
 司会の言葉を聞くと、バルトとシュウは神妙な面持ちでランチャーを構える。
 
『3.2.1.ゴーシューーーー!!!!』
 
 その合図とともに、ランチャーの紐を一気に引いた。
 
「行こうぜ、ヴァルキリー!!!」
 
 
 ……。
 ………。
 
「いこうぜ、ヴぁるきりー……」
 
 ここは、蒼井バルトの家が経営しているパン屋さんの工房。
 そこでバルトは、寝ぼけ眼でパン生地をランチャーのように引いていた。
 
「こらっ、バルト!!真面目にやんなさい!!!」
 
 そんなバルトへ、母が耳元で怒声を放った。
 
「おわぁ!!!」
 
 さすがのバルトもこれにはびっくりしてしりもちをつく。
 
「……っててて、なんだよ母ちゃん、いきなりびっくりするじゃんかぁ」
「なんだよ、じゃないでしょ!パン生地コネながら居眠りする子がありますか!」
「……へ、俺、眠ってたのか?」
 
 バルトはきょとんとしながら、自分の手に付いた生地をみながら、状況を把握する。
 
「はぁ……しっかりやんないと、お小遣いあげないわよ」
 
 そんなバルトへ、母は額に手を当てながらため息をついた。
 
「そ、そんなぁ!ちゃんとやるよ!!」
 
 お小遣いと言う単語を聞いて、バルトは慌てて飛び上がり、一生懸命パン生地をコネ始めた。
 
「うおおおお!!絶対、勝ぁーーーつ!!!」
 
 パンをコネるための気合の入れ方としては少々言葉が間違っているが。
 母は困ったような、微笑ましいような、そんな表情でバルトを見守る。
 
「まったく、まーたベイブレードの夢を見てたのね。ほんと好きなんだから」
 
 
 そして、無事に今日の分の手伝いを終え、バルトはお小遣いをゲットした。
 
 ウキウキ気分で2階の自室へ入り、もらった分のお金を貯金箱へ入れてみる。
 
「う~ん、そろそろかなぁ?」
 
 ずっしりと重くなった貯金箱を持ち、カシャカシャと鳴らしてみる。
 鈍い金属音が聞こえる。大分貯まっていそうだ。
 
「よしっ!」
 
 バルトは意を決して、貯金箱へ向かって手を振り下ろした。
 
「ゴー、シューッ!」
 
 バルトの手刀を受けて、貯金箱はあっけなく割られ、中からお札や硬貨がいくつか出てきた。
 それを見て、バルトは表情を綻ばせる。
 
「おぉ~、貯まってる貯まってる!母ちゃんの手伝い頑張ったもんなぁ!よーし、これだけあれば!!」
 
 バルトは散乱したお金をひとまとめにして拾い上げ、勢いよく部屋を飛び出した。
 転げ落ちるんじゃないかってくらいの勢いで1階降りると、目の前に小さな男の子と女の子の双子ちゃんが曲がり角から現れた。
 
「うわぁ!!」
「きゃああ!!!」
 
 バルトは間一髪で身をひるがえして二人を躱し、一息ついた。
 
「ふぅ……」
「もぉ、バル兄ぃ……」
「気を付けてよね」
 
 双子の弟妹はバルトを非難の目でにらんでくる。
 
「あはは、わりぃ、常夏、日夏」
「そんなに慌ててどうしちゃったの、バル兄ぃ?」
「待ち合わせに遅刻しそうとか?」
「違う違う!今からWBBAショップに行こうと思ってんだ!ほら、見てみろよ二人とも!!」
 
 バルトは自慢げな表情で貯めたお小遣いを二人に見せびらかした。
 
「うわぁ、すっごーい!」
「お小遣い貯まったんだぁ!」
「へへへ、まーな!って事で、いよいよベイブレードが買える!!」
「いいなー!」
「ねぇ、バル兄ぃ!僕たちも一緒に行っていい!?」
「おう、もちろん!!」
 
 こうして、バルト達3兄弟はWBBAショップへ向けて出発した。
 その道中の河川敷付近の歩道で、白髪で物静かだが精悍な顔つきをした少年がゆっくりと近づいてくるのが見えてきた。。
 
「あ、シュウくんだぁ!」
 
 その少年に真っ先に反応したのは日夏だ。
 心なしか頬が赤く染まっている。 
 
「おっ、ほんとだ!シュウ~!!」
 
 日夏に言われて気づいたバルトが大きく手を振ってシュウへと駆けて行った。
 
「バルト」
「へへ、奇遇だな!どっか行くのか?」
「ああ、これから地区大会会場で、大会前のエキシビジョンバトルに呼ばれたんだ」
「そっかー、シュウくんって去年の優勝者だもんね!」
「去年のシュウくん、かっこよかったなぁ……」
 
 常夏が思い出したように言うと、日夏はうっとりした表情でシュウを見つめている。
 
「すっげぇよなぁ、シュウは。ベイブレード始めてからすぐ強くなったもんな」
「別にすぐ強くなったわけじゃないさ。世界には俺よりも強い奴はたくさんいる。……それよりもバルト達はどこへ行くんだ?」
「おっ、そうだ!聞いてくれよシュウ!俺、これからWBBAショップに行くんだ!」
「またベイブレードを眺めるためにか?」
 
 バルトのはしゃぎようが面白かったのか、シュウは少し冗談交じりに言った。
 
「ち、ちげぇよ!やっとお小遣い貯まったんだ!ベイブレード買えるんだよ!!」
 
 シュウの冗談を真に受けたバルトは顔を真っ赤にして反論した。
 
「バル兄、ずっと手伝い頑張ってたんだよ」
「おお!今度の地区大会には間に合いそうだぜ!!すぐにシュウにも追いついてやるからな!待ってろよ!!」
「まぁ、期待しないで待ってるよ」
「おろっ……!なんだよ、ちょっとくらい期待しても良いだろ!!」
 
 ズッコケそうになるバルトを無視し、シュウは歩みを進めようとする。
 
「それじゃ、そろそろ時間だから」
「シュウくん!がんばってね!」
「ああ、ありがとう」
 
 日夏の声援に笑顔で答え、シュウは歩いて行った。
 
「ちぇ……今に見てろ、俺だってすぐ最強のブレーダーになってやる!」
「そのためにも、早くベイ買わなきゃ!」
「そうだな!よーし、ここからはダッシュだ!ゴー、シュウウウウ!!!!」
「あっ!」
「待ってよ~!!」
 
 駆けだすバルトとそれを追いかける双子ちゃん。
 シュウは少し歩いた先で歩みを止め、遠目からその後姿を眺めていた。
 
「……楽しみにしているぞ、バルト」
 
 ……。
 ………。
 
 WBBAショップ。
 商店街のど真ん中に大きく身構えるその店は、他の店にはない気品が漂っている。
 
「いよいよ、だな……!」
  
 圧倒的存在感の店構えに圧倒されたのか、バルトは緊張した面持ちでドアの前で立ち尽くしていた。
 
「兄ちゃん、入らなきゃ買えないよ?」
「わ、分かってる!分かってるよ!!」
 
 意を決して店内に入る。
 するとレジの方から30代後半くらいの男の人が元気よく声をかけてくる。
 
「いらっしゃーい。おっ、バルトくんか!よく来たね。今日もベイブレード眺めに来たのかい?」
   
 シュウと同じ事を言われてしまったバルト。ウィンドウショッピングの常連客として店員にもお馴染みだったようだ。
 
「ち、違うよ!ほら、これ見てよ!!」
 
 バルトは慌てて手に持ったお金を店員さんに見せた。
 
「おっ、随分貯めたねぇ!」
「だろぉ!今日こそベイブレードを買うんだ!!おじさん、ヴァルキリー!ヴァルキリー頂戴!!」
「あ、あー、それがね……ごめん、バルトくん。ヴァルキリーはもう売り切れちゃって、入荷は1ヶ月後に……」
「えぇ~!!!そんなぁ、それじゃ地区大会間に合わないじゃん!」
「あ、でも他のベイブレードはいっぱいあるよ!ケルベウスとかラグナルクとか……あ、デスサイザーなんかいいんじゃないかな?ヴァルキリーと同じ攻撃型だよ?ほら、ドライバーも同じアクセルだし!」
「でも俺、最初に使うのはヴァルキリーだって決めてたから……あれ?」
 
 ふと、棚の端に青い三枚刃のベイブレードが展示されていることに気付いた。
 
「これも、ヴァルキリー……?」
 
 形は若干違うが、まぎれもなくヴァルキリーだと、なんとなくそう感じた。
 
「え、あ、それは……」
「おじさん、これもヴァルキリーだよね!?これこれ!これ頂戴!」
「いや、ダメだよそれは、売り物じゃないから」
「いいじゃん!お金なら払うからさぁ!」
「そういう問題じゃなくて」
 
「まぁ、いいんじゃないかな、店長」
 
 と、言い合いをしていると後ろから白衣を着た男の人が話しかけてきた。
 
「し、しかし……」
「このベイブレードは、キミをブレーダーとして認めたようだ」
 
 そういいながら、白衣の男は棚からベイを取り出し、バルトへ手渡した。
 
「ビクトリーヴァルキリーだ。大事に使ってくれよ」
「あ、ありがと……」
 
 バルトは茫然としながらもそれを受け取り、お金を手渡した。
 
「……俺の、ベイブレード……ビクトリー、ヴァルキリー……!」
「やったね、バル兄ぃ!」
「初めてのベイブレードだ!」
「あ、あぁ……俺の……俺の、ベイブレードだ……やったーーー!!」
 
 感極まったバルトはビクトリーヴァルキリーを手に取ったまま店を飛び出していった。
 
「……いいんですか、マスターブレーダームラキ。あのベイブレードはまだ試作段階で、子供たちに使わせるのは早いっておっしゃってたじゃないですか」
「確かに、ヴァリアブルシステムは商品化するには早い。だが、それは僕たち大人の考えさ。ベイブレードを回すのは子供達なんだ」
 
 
 見事ビクトリーヴァルキリーを手に入れたバルトご一行は行く手も決めずに走っていた。
 
「やったぜ俺もブレーダーだ!早速バトルするぞ~!!」
「でも、バトルってどこに行ったら出来るのかな?」
「あ、確か学校の体育館が休みの日に開放しててベイブレードが出来たはずだよ!学校のブレーダーはそこに集まってるかも」
「そっか!よーし、学校目指すぜーー!!」
 
 バルト達の通う小学校、米駒学園。
 その体育館では中央に大きなスタジアムが設置しており、その周りに子供達が集まって大盛況だった。
 
「がんばれー!」
「やれやれー!!」
 
 ギャラリーの声援を受けながら、二人の少年がベイバトルをしている。
 
「い、いけー!!」
 
 中央を陣取っているオレンジ色のベイブレードへ、白いベイブレードがコツコツとアタックするものの、オレンジのベイは微動だにしない。
 
「無駄無駄ァ!その程度のアタックじゃ、このクミチョー様のライジングラグナルクは一歩たりとも動かないぜぇ!!」
 
 腹巻に何冊もの雑誌を差し込み、髪型はリーゼントと言う一昔の不良のような恰好をした少年が叫ぶ。
 そして、ついにオレンジ色のライジングラグナルクを小突いていた白いベイブレードの回転が尽きた。
 
「スピンフィニッシュ!勝者、黄山乱太郎!!」
 
「かっかっか!俺様に勝とうなんて100億万年早いぜぇ!さぁ、次はどいつだぁ?」
 
 クミチョーは次のバトルの相手を望むが、皆顔を見合わせるだけで名乗り出ようとしない
 
 そんな様子を、体育館に入ってきたバルト達が遠目で観ていた。
 
「うわぁ、凄い人だねぇ」
「あいつが、強いみたいだな。よーし!」
 
 バルトは人込みへ向かって駆けだした。
 
「なんだよなんだよ!皆俺様にビビっちまったのか?」
「オレオレ!俺がやるーー!!」
 
 人込みをかき分けながら、バルトがクミチョーの前へ顔を出した。
 
「おっ、やっと現れたか……って、お前、蒼井バルトか?」
「へ?あぁ、黄山、乱太郎……だっけ?ベイブレードやってたんだ」
 
 バルトとクミチョーは、進級した際のクラス替えで一緒になったのだが、クラスメイトになったばかりなので、顔を覚えてる程度でさほど交流が無かったのだ。(これで、クラスメイトなのに第1話まで二人が面識なかった事への説明がつく)
 
「そりゃ、こっちのセリフだぜ。お前ここに来たの初めてじゃんか」
「ああ!さっき買ってきたばかりなんだ!で、早速明日の地区大会のために練習に来たってわけ!」
「はんっ、素人かよ。まぁいい。デビュー戦でこのクミチョー様に挑むなんていい度胸じゃねぇか!」
「クミチョー?」
「俺様のあだ名よ、黄山乱太郎、略してクミチョー!」
「おお、かっこいい!!」
 
「どこをどう略したらクミチョーになるんだろう……?」
 
 そんな、ギャラリーからのひそかなツッコミは二人の耳には届かなかった。
 
「はじめてのバトルだ。やろうぜ、ヴァルキリー」
「お前のベイブレードはヴァルキリーか。アタックタイプだろうがなんだろうが、この俺様のライジングラグナロクがバラバラのボロボロ、バラボロにしてやるぜ!!」
 
 二人は、ベイをランチャーにセットし、構えた。
 審判役の少年が右手を挙げて合図をする。
 
「それでは、行きます!レディ、セット!321ゴーシュート!!」
 
「いっけー!!」
 
 ガッ、ギュワアアアアア!!!!
 ライジングラグナルクは、ランチャーから放たれた瞬間にスタジアム中央をゆっくり旋回しながら中央へ向かい、そしてぴたりと鎮座した。
 
「よしっ、ベストポジション取ったぁ!さぁ、どっからでもこいやぁ!!」
 
「ヴァルキリー!!」
 
 一方のヴァルキリーはスタジアムの外周を延々と周回していた。
 凄まじいスピードで。
 
「な、は、はえぇ……!」
 
 そのあまりのスピードにギャラリーが沸く。
 
「おい、あいつが使ってるのってヴァルキリーだよな?」
「確かにヴァルキリーはアタックタイプだけど、あんなに速かったっけ?」
 
「す、すっげぇ!すげぇぜヴァルキリー!そのまま駆け抜けろ!!!」
「けっ、確かにそのスピードはすげぇぜ、でもな……!」
 
 ギュワアアアアア!!
 ヴァルキリーのスピードは一切衰えない。
 そして、中央のラグナルクの回転力も一切衰えない。
 
「当たらなきゃ意味がねぇんだよ!!」
「ガーーーン!ヴァ、ヴァルキリー!ラグナルクに攻撃するんだ!!」
 
 しかし、一度シュートされたベイブレードが言う事を聞くはずもなく……。
 しかも何周も何周も猛スピードで周回して言ったせいで遠心力が増していき、ついにヴァルキリーは自分の力でスタジアムの外へ飛び出してしまった。
 
「ああああ!!!」
 
 飛び出したヴァルキリーへ、バルトは慌てて飛び出して空中でキャッチして背中から受け身を取って落ちた。
 
「オーバーフィニッシュ!勝者、黄山乱太郎!!」
 
「いってて……くそぉ」
「おいバルト、威勢がいいのは認めてやる。ベイもすげぇ。だがな、お前はまだまだ基本がなっちゃいねぇ!」
「き、基本……?」
「基本を身に付けなきゃ、地区大会に出るのは100億万光年早いぜ」
「なんだよ、基本って!どうすればいいんだ!?」
「そんくらい自分で考えろ」
「教えてくれたっていいじゃんか!俺達友達だろ?!」
「いつからそうなった!?……大会に出る以上は、俺とお前は敵同士だ!」
 
CM(笑)

 

 帰宅後、バルトは自室で一人、ランチャーを手に持って素振りをしていた。
 
「基本っ!基本っ!!素振りは、基本っ!!」
 
 しかし、さすがに何百回とこなしてると疲れてくるのか、バルトは息を切らして座り込んだ。
 
「はぁ、はぁ……どうすりゃいいんだ」
 
 倒れ込んでいると、部屋のドアがノックされ、双子ちゃんが入ってきた。
 
「バル兄ぃバル兄ぃ!」
「常夏、日夏……どうしたんだ?」
「シュウくんの試合始まっちゃうよ!」
「おっと、そういえばそうだった!!」
 
 常夏が用意してくれたタブレットで生放送動画を映す。
 三人は静かにその画面を見守った。
 
 画面の中で、シュウとゲストブレーダーとの激戦が繰り広げられており。
 シュウのスプリガンが見事なカウンターで勝利を飾った。
 
「はぁぁ~、やっぱりシュウくんってかっこいいねぇ……」
「うん、凄いね!ねぇ、バル兄……?」
 
 それぞれ感嘆している二人と違い、バルトはその画面を食い入るように見つめていた。
 
「基本……か」
 
 
 そして翌日。
 巨大なショッピングモール「ベイモール」の中で特設されたベイブレード大会用のステージの周りには
 大勢の人でごった返していた。
 
 
『OK!ブレーダーの諸君!wbba.主催米駒地区大会へようこそぉウェルカム!そろそろ受付の締め切りが迫っているぞ!』
 
 ブレーダー達は受付に並び、ベイロガーを使って選手登録している。
 
「な、なんか、みんな強そうだな……」
 
 その中にバルトも緊張の面持ちで並んでいた。
 
 そして、開会式も厳かに終わり、いよいよ試合開始となった。
 
 
『OK!ボーイズ&ガールズの皆ー!いよいよ記念すべき第1試合が始まるぞぉ!!選手はスタジアムの前に集まってくれ!!』
 
「くぅぅ、いよいよか、緊張してきたぁ……!」
 
 バルトはカチンコチンになりながら、まるでロボットのような動きでスタジアム前まで歩いていく。
 そんな様子にギャラリーは笑い出す人も現れる。
 
「あぁ、バル兄ぃ、緊張してる……」
「大丈夫かなぁ」
 
 双子ちゃんはそんなバルトを心配そうに見つめていた。 
 
「大丈夫だ……勝てる……勝てる……」
 
 ぶつぶつと自分に言い聞かせているバルトの頭上に、よく知った声が降ってきた。
 
「おっ、おめぇバルトじゃねぇか。なんだ一回戦の相手はおめぇかよ」
「へ?」
  
 見上げると、そこにはクミチョーの顔があった。
 
「く、クミチョー!」
「こりゃ、一回戦は楽勝だな」
 
『なんとー!第1試合からいきなり優勝候補の黄山乱太郎選手のバトルだー!!そして対戦相手は、今回初参加の蒼井バルト選手!!一体どんなバトルになるのか、楽しみだぞぉ!!』
 
「性懲りもなく参加してくるとはな。少しは基本を身に付けられたのか?」
「わ、分かんねえけど、やるだけやってやる!」
 
『それじゃ、ルール説明と行こう。バトルは2ポイント先取制!オーバーとスピンフィニッシュは1ポイント、バーストフィニッシュは2ポイント獲得だ!先に2ポイント先取した方が価値になるぜぃ!』
 
 クミチョーとバルトがランチャーを構える。
 そのバルトの構えは、無意識にシュウが生放送で見せたのと同じフォームだった。
 
「っ、あれは!」
 会場隅で観ていたシュウもそれに気付く。
 
「おっ、いっちょ前に」
 当然、クミチョーも気づいたようだ。
 
『レディ、セット!3.2.1.ゴーシュート!!』
 
「いっけぇ!!!」
「基本だけで勝てるほど俺は甘くねぇ!!」
  
 二つのベイが猛烈な回転力を得てスタジアムに着地した。
 
「やった!上手く行った!!」
 
 そして、ラグナルクは中央へ、ヴァルキリーはスタジアム端をぐるぐると円周する。
 
『さぁ、ついに始まった第1バトル!二つのベイブレードの軌道は、バラバラだ!スタミナタイプのラグナルクは中央に鎮座して悠々と回転!アタックタイプのヴァルキリーはスタジアムの外側を猛烈に駆け抜けている!!
しかし、これではいつまでたっても当たらない!このままでは……!』
 
「ヴァルキリー……頼む!」
 
 バルトの願いが通じたのか、ヴァルキリーが徐々に徐々にラグナルクの方へ近づいて行った。
 
「よし、もう少しで当たる!!」
「甘いぜ!」
 
 ガキンッ!
 スタジアム中央でヴァルキリーとラグナルクがぶつかり、ラグナルクが大きく飛ばされるが、どうか踏ん張る。
 
『ファーストコンタクト!ようやく二つのベイがぶつかりあった!!』
 
「やったぜヴァルキリー!」
「けっ、このくらい!リボルブドライバーとグラビティディスクで踏ん張ってやるぜ!!」

『ラグナルク、軸周りのフリー回転する円盤が特徴的なリボルブドライバーによって踏みとどまった!だが、ヴァルキリーの攻撃はまだまだ続くぞ!』

「このままどんどんいけー!!」
 
『あぁっと、しかし……!!』
 
 ヴァルキリーはあっけなく力尽きてしまった。
 
「あぁ、そんなぁ!」
 
『スピンフィニッシュ!ライジングラグナルク、1ポイント!!』
 
「かっかっか!俺様のラグナルクはスタミナタイプ!ぶつからない時間が長ければ長いほど圧倒的に有利なんだよ!」
「く、くそー!」
「(だが、あれだけ回転力尽きてたのに、なんて当たり強さだ……やっぱりあのヴァルキリーただもんじゃねぇ)」
 
 そして第二バトルも第一バトルとほぼ同様の試合内容となった。
 
『さぁ、続けて始まったセカンドバトルだが、先ほどと全く同じ軌道だ!ラグナルクは中央、ヴァルキリーは外側を駆ける!そして徐々にヴァルキリーが回転力を失って中央へ向かっているぞぉ!』
 
 その様は、まるでアリ地獄に誘われるアリのようだ。
 
「このまま2ポイントで俺様の勝ちだ!」
「くぅ、負けるなヴァルキリー!!」
 
 精一杯の気合を込めて叫ぶバルト。
 そして、ヴァルキリーとラグナルクが接触する。
  
 バチンッ!!
 
 その瞬間、二つのベイが勢いよくはじけ飛んだ。
 ヴァルキリーはスタジアムの壁にぶつかり、ラグナルクはたまたま壁がない方向へ飛ばされたので場外してしまった。
 
『オーバーフィニッシュ!ビクトリーヴァルキリーに1ポイント!なんとなんと!先ほどと同じ展開になるかと思われたが、まさかまさか土壇場で一矢を報いた!これだからベイは分からない!!』
 
 それを観ていたギャラリーたちも、意外な結果に沸いた。
「やったぁ!!」
「バル兄ぃすごい!!」
 
 シュウはこの結果を冷静に分析する。
「スタミナタイプは、防御力が低い。回転力が尽きかけていたとはいえ、アタックタイプの攻撃を受ければ、当たり所によっては大きく飛ばされる可能性はある。だが……」
 
 
「ちっ、当たり所が悪かったか。だがなバルト、今のお前の勝ちは運だけだ。次はこうはいかねぇぞ」
 
 そんな風に挑発するクミチョーだがバルトはヴァルキリーを見つめるだけで聞いちゃいなかった。
 
「ヴァルキリー……ありがとう、お前が俺の想いに答えてくれたんだな……」
 
 ギュッとヴァルキリーを抱きしめた後、立ち上がる。
 
「今度は、俺がお前の想いに答える番だ!」
 
 その顔は、今までのバルトとは思えなくらいに精悍だった。
 
「おっ、ブレーダーの顔になってきたじゃねぇか」
 
 
『それじゃ、サードバトルいくぜ!レディ、セット!3.2.1.ゴーシュート!!』
 
「これで決めるぜラグナルク!!」
「ヴァルキリー……行こうぜ!!!」
 
 先ほどまでとは比べ物にならないほどの気合がこもったシュート。
 スタジアムに着地した瞬間にヴァルキリーは猛加速してラグナルクへと迫る。
 
「な、なんだこいつ!シュート力がさっきの2倍、いや、3倍じゃねぇか!!」
注:数字は適当に言ってます

「いっけぇぇぇ!!!」
 
『ヴァルキリー加速!!まだ中央へとたどり着いていないラグナルクへ突進だぁぁぁ!!!』
 
 ガキンッ!!
 
『ファーストコンタクト!!先ほどまでとは違い、十分な回転力のままぶつかったぁ!!』
 
「ぐっ、耐えろ!ラグナルク!!!」
 
 大きく飛ばされるラグナルクだが、どうにかスタジアム端でとどまった。
 
「あっぶねぇ!よし、どうにか中央に行ってスタミナ勝負に」
「まだまだぁ!!」
 
 フラついているラグナルクは上手く動くことが出来ず、なかなか中央へと向かわない。
 
「くそ!当たりが強すぎて円盤がブレてやがる!!」
 
 会場隅のシュウ。
「スタミナタイプは一度バランスを崩されると脆い!そこを突けば……!」
 
「いっけぇ、ヴァルキリー!!!!」
 
 バキィィ!!!
 バランスを崩したところへ、加速十分のヴァルキリーのアタックがクリーンヒット。
 これにはたまらずラグナルクは場外してしまった。
 運でも何でもなく、文句なしに実力でオーバーフィニッシュだ。
 
 
『決まったァ!!オーバーフィニッシュでビクトリーヴァルキリーが2ポイントを先取!!よって第1回戦を制したのは蒼井バルト君だーーー!!!
大会初出場のバルト選手が優勝候補の乱太郎選手を下した!これはいきなり大番狂わせだ!!!』
 
 
「う、うそだろ……!この俺様が初心者に負けるなんて……なんでだ……!」
 
 地面に手を付き茫然自失となるクミチョー。
 そんな様子を見ながら、またも会場隅のシュウは分析する。
 
「いや、初心者だからだ。普通のブレーダーは、一度ベイブレードを手にしたら基礎訓練よりもベイバトルの練習を中心にしたがる。だがバルトは、ベイブレードを知ってから実際に手に入れるまでの期間が長かった。
その間に、基礎体力を十分身に着ける事が出来たんだ。それが基本的なフォームとベイの性能とが作用しあって、爆発的な攻撃力を得た……。
バルト、やっぱりお前は……」
 そう分析するシュウは、静かに嬉しそうな顔をした。
  
 ヴァルキリーを拾ったバルトは愛おしそうな顔で礼を言った。
「サンキューヴァルキリー、お前の勝ちたいって想いのおかげで、俺力が出せたぜ。これからもずっと戦っていこうな」
 
 そして、悔しそうに凹んでいるクミチョーへ視線を向けた。
 
「クミチョー……」
 心配そうに声を掛けようとすると、クミチョーはフーと息を吐いて立ち上がった。
 
「あーあ、負けちまったもんはしょーがねぇ。バルト、こうなったら次も頑張れよ。俺に勝ったんだから、負けたら承知しねぇぞ!」
「クミチョー!」
「あー、それとな。また、バトルしようぜ。おめぇのシュートフォームはまだ安定してねぇ。いろいろ教えてやんよ!」
「え、いいのか?だって、俺達……」
「試合は終わったんだ。もう俺達、友達だろ!」
 
 そう言って、クミチョーは二カッと笑って手を差し出した。
 
「おお!よろしくな、クミチョー!!」
 
 バルトはその手をがっしりと掴んだ。 
 
 
 
 
    つづく(?)
 
 
 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

JPEG,PNG,GIF形式の画像を投稿できます(投稿時はコメント入力必須)