爆砕ショット!ビースピリッツ!!
第38話「決別!さらば仲良しファイトクラブ」
琴音を取り戻すために源氏タワーへ潜入したシュウとタケルは、源氏派のボス、大原タクマと対戦した。
タクマの扱うビーダマン、コンフターティスドライグはパワー・コントロール・連射の全てを備えた究極の龍王だった。
更に、ブレイグと同じくエアリアルバイザーを発動させたドライグは、必殺技『ドラゴニックブレス』を放った。
「うわあああああ!!!」
ドラゴニックブレスがまっすぐシュウへ向かってくる。
「シュウ!!」
シュウにビー玉がぶつかる直前、タケルが突進してシュウをフッ飛ばし、身代りにドラゴニックブレスを受けた。
「ぐわあああ!!」
「タ、タケル!!」
タケルとレックスはドラゴニックブレスの衝撃に耐え切れず、地面に倒れた。
「く、なんて威力だ……!」
レックスは、修復可能とは言え今のショットで破損してしまった。これ以上のバトルは無理だろう。
「す、すまねぇタケル!」
「俺はいい!それよりも奴の必殺技に気を付けろ!並のショットじゃない!!」
「くっ!」
バシュウウウウ!!
再び白い空気の膜が一直線上に伸びてきてブレイグに当たった。
「次は逃がさん」
タクマは再びドラゴニックブレスを繰り出した。
空気のトンネル中を、ビー玉が一直線に進んでいく。
「このぉぉ!!」
ドンッ!!
シュウはそのショットに向かってパワーショットを放った。
ブワッ!!
しかし、シュウのショットは触れる前に逸らされてしまった。
「なにっ!」
「空気の膜がビー玉を守ってるのか!?」
「それじゃ、俺のフェイタルストームと同じ……?!」
バーーーン!!
間一髪で身を翻したためかすっただけで済んだが、それでも凄まじい衝撃を受けてしまった。
「ぐ……!」
「仕留め損ねたか。だが……!」
ガクガクガクガク!!!
ドライグのヘッドの振動はまだ終わっていない。
「あいつ、まだ撃てるのか!?」
再び空気のトンネルが射出され、ブレイグにぶつかる。
「くそっ!」
「シュウ、逃げろ!」
「え?」
「あの空気のトンネルは、言ってみればロングバレルのようなものだ。奴のビー玉はあの中に沿って飛ぶ!」
「って事は、空気のトンネルの避ければかわすことができるって事か!」
「ドラゴニックブレス!」
ドンッ!!
ドラゴニックブレスが放たれた。
「くっ!」
シュウは素早く動いて、空気のトンネルから離れた。
「どんな強いショットでもかわしちまえば問題ないぜ!」
「どうかな?」
クク……。
タクマはシュウの動きに合わせてドライグの向きを変える。
それに合わせるように空気のトンネルも動き、中を通るビー玉もそれに合わせて軌道を変えた。
「なにっ!?ビーダマンを動かす事で空気のトンネルを動かし、更にビー玉の軌道も変化させただと!?」
「め、滅茶苦茶だぜ……!」
「タケルと言ったか。ロングバレルのようなものとは言いえて妙だな。ならば、エアロチューブを動かせば中のビー玉も軌道を変えるのは道理であろう」
軌道を変えたショットは、そのままシュウのブレイグへと迫る。
「ぐっ!」
もう、避けられない!
バーーーーーーン!!!
「ぐわあああ!!」
ドラゴニックブレスが直撃し、シュウとブレイグはフッ飛んだ。
シュウは仰向けに倒れ、ブレイグを手放してしまう。
ブレイグは、多少破損してしまったものの、まだ戦えそうだ。
「これで終わりだ」
タクマは追い打ちをかけるように、地面に伏したブレイグへと照準を合わせた。
「くそ……!」
ブレイグを守ろうとするシュウだが、倒れてしまって上手く動けない。
「むっ」
トドメを刺そうとしたその時だった。
ピキピキピキ……とドライグのトリガーパーツにヒビが入った。
「くっ、さすがにドラゴニックブレスの連続使用に耐えるには強度が足りなかったか」
タクマは、大して悔しさも見せずにそう呟くと、ドライグを仕舞った。
「な、なんだよ……トドメを指さないのか?」
そんなタクマの様子に、シュウが怪訝な顔をする。
そして隙をついて、ブレイグを拾って立ち上がった。
「命拾いしたな。今回は引き分けという事にしてやろう」
シュウ達を追い詰めたものの、ドライグももう撃てないとなれば、決着はつけられない。
「……くそ、こんな決着納得いかねぇぜ」
実力で勝つ事も負ける事も出来なかった結果に対して、シュウはつまらなそうに吐き捨てた。
「慌てる事は無い。いずれ我ら源氏派がビーダマン世界の表舞台に君臨する。今は決着の時ではない」
タクマとは、また戦う事があると言うのか。
「決着の時……ってことは、お前もJBCの決勝大会に出るのか?」
近いうちに戦える大舞台と言えば、ジャパンビーダマンカップだろう。しかし、タクマは首を横に振った。
「いや、その大会はそもそも予選に参加していない。ドライグの開発に集中したかったからな」
「なんだよ。それじゃ……」
いつ、戦うんだ?そんな疑問に対し、タクマはそんなものは些末なものだとでも言いたげな顔をしている。
「我は、そのような規模の低い大会など眼中にない。もっと先のもっと上を見据えている。そうでなければ我らが悲願は達成されない」
タクマの言い分はイマイチ回りくどくて、意味が分からない。
「??まぁいいや。とにかく、バトルは引き分けちまったけど、俺達は引き下がらないぜ!ことねぇに会うまではな!!」
「ことねぇ……。あぁ、今日入ってきたというあの女か。別に我は構わない。そもそも、最初からそんなものに興味はない」
「な、なんだよ。だったら、妨害せずに会わせてくれればよかったのに」
「我々はただ、不法侵入者を排除しようとしたに過ぎない。そちらの目的もハッキリしなかったからな」
琴音に合わせる事に不利益はなくても、敵に侵入されたら目的に関係なく排除するのは当然だ。
タクマはゆっくりと歩みを進め、シュウ達に道を開けた。
「この奥に、お目当ての人物はいる。だが、行った所で得られるものは後悔しかないぞ」
タクマの忠告を受けてもシュウとタケルに躊躇はなかった。
「それでも、ことねぇに会わないわけにはいかないんだ」
「ああ、あいつは俺達の仲間だからな。放ってはおけない」
「そうか。ならば勝手にするがいい。それと一つ朗報だ、部下が表で派手に動いていたようだが、しばらくは大人しくしてやる。
お前達が派手に暴れてくれたからな。復旧作業が優先だ。最も、もう表で野良バトルする必要もないが」
それだけ言うと、タクマはシュウとタケルを奥にある扉へ促した。
扉を開くと、そこはさまざまな機器が設置されている研究室のような部屋が広がっていた。
源氏派の人間は皆出張っているのか、人の気配がしない。
「なんだ、誰もいないじゃねぇか」
室内はしずかなものである。
「あいつ、嘘ついたのか?」
「いや、シュウ。音が聞こえてきた」
タケルが言う。この部屋の奥の方から扉が開く音と一つの足音が聞こえてきた。
「全く、たかだか二人のビーダーの進行も止められないとは。源氏派ビーダーもだらしないな」
呆れながら現れたのは、ヒロトだった。
「ヒロトさん……!」
ヒロトはタケルの姿を確認すると、ニタリと笑った。
「久しぶりだな、タケル。あれからもう4年は経つか」
タケルもヒロトの姿を確認すると、悲しそうに口を開いた。
「あなたは本当に、源氏派のビーダーになってしまったんですね……」
タケルは、信じがたいような許せないような、そんな口調で言葉を紡いだ。
「あぁ。強くなるためには、仲良しファイトクラブにいるよりもよっぽど効率が良いからな」
「ぐ……!」
ヒロトの言葉に、タケルは悲しげに顔を歪めた。
「て、てめぇ!仲良しファイトクラブだと強くなれないってのかよ!?」
シュウとしては、その発言が許せなかったようだ。
「ああ。組織の中にいても、自分以外は全て敵。そして負ければすべてを失うという極限状態の中で揉まれてこそ、真の強さが得られる。違うか?」
「違う!全然違う!
ビーダマンバトルは、相手に勝つために全力でぶつかって、勝ったら嬉しくて、負けたら悔しくて、それでもバトルが終わったら仲良くなれて、滅茶苦茶楽しいんだ!
自分以外が全員敵なんて、全然面白くねぇ!!」
シュウはヒロトに自分の考えをぶつけた。しかし、ヒロトはすまし顔で答えた。
「なるほど。まぁ楽しみたいだけならそれで良いんじゃないのか」
シュウの言い分には興味が無いようだ。シュウもそれ以上はこの件について何も言わなかった。
「それより、お前まだシフトレックス使ってんのかよ」
「っ!?」
タケルがハッとする。
「進歩無いな。だからあそこじゃダメだっつってんだよ」
「ぐ……!」
「んな事より!ことねぇはどこにやった!?今すぐ会わせろ!!」
シュウが啖呵を切ると、ヒロトが少し口元を緩ませながら口を開いた。
「それは無理だ。今琴音は取り込み中でな。ここで開発した新型機のテストをしている最中だ」
「なっ、新型機……源氏派で作ったってのか?」
「そうだ。琴音は今、源氏派製の新しい愛機を使っている。これが何を意味するか、分かるだろう?」
源氏派で作った愛機を使う……。
自分の分身である愛機を、源氏派で作った。
もしそれが本当なら、身も心も源氏派に捧げたと言うには十分すぎる証拠になる。
「う、嘘だ……!」
「信じないと言うなら、それでも構わないが。とにかく、琴音に会う以外に用が無いなら大人しく帰ってもらうぞ」
ヒロトがヴェルディルを構えた。力ずくで追い出すつもりらしい。
その時だった。奥から扉が開く音が聞こえた。
「おっ、タイミングが良いな。丁度テストが終了したらしい」
「……」
「ラッキーだったな。本来ならこのまま引き取りを願う所だったが、特別だ。お前たちの要望を叶えてやる」
ヒロトはそう言って、奥にいる人物へ声を上げた。
「琴音、お友達がここまでたどり着いたぞ!一言挨拶するといい!」
ヒロトがそう叫ぶと、奥から琴音がゆっくりと現れた。
「……」
少しうつむき加減で、タケルとシュウの姿を確認すると、サッと目を逸らした。
「琴音!」
「ことねぇ!」
琴音は、うつむいたまま呟いた。
「どうして、来たのよ……」
その声は冷たかった。
「どうしてって、当たり前だろ!俺達、仲間なんだから!」
「そうだぜ!ことねぇ、源氏派に入ったなんて、嘘だよな?」
タケルとシュウの訴えに、琴音はぼそぼそと答える。
「嘘じゃない……。あたしはもう源氏派のビーダーだから……」
「本気で言ってんのか、琴音……!」
「な、なんでだよ!あ、そうか!こいつに……ヒロトに脅されたんだな!この卑怯者!!」
シュウはヒロトを指さして叫んだ。
「違う!ヒロ兄を悪く言わないで!!」
その瞬間、琴音はここで初めて声を荒げた。
「え……」
シュウとタケルはその態度に面食らってしまった。
「残念だが……」
それに代わってヒロトが言葉を発した。
「琴音は自分の意志で俺についてきたんだ。源氏派になった事は本意ではないだろうが、お前らではなく俺を選んだというのは間違いなく琴音の本意だ」
ヒロトの言葉に、シュウとタケルは目を見開いた。
「うそ、だろ……」
「琴音。ハッキリ言ってやれよ。あいつらよりも俺が良いってな」
ヒロトに言われ、琴音はソッとヒロトに寄り添った。
「ごめん、こう言う事だから。もう帰って」
琴音の態度がすべてを物語っていた。
もう、疑いようもない。
琴音は源氏派を……いや、仲良しファイトクラブよりもヒロトを選んだのだ。
「ぐぐ……」
悔しくて、悲しいのに、何も言い返せない。
シュウとタケルはグッと拳を握りしめる事しか出来なかった。
「さて、話は終わったかな」
しばらく沈黙が続いたのを確認したのちにヒロトが口を開いた。
「これで満足だろう?大人しく帰れ」
「……」
もう琴音は戻らない。だから、もうここには用は無い。
それから、どうなったかよく覚えていない。
目の前が真っ暗になって、そして気が付いたら、東京都タワー跡の敷地外にいた。
パネルフェンスに囲まれたでっかいタワーを見上げながら、二人はしばらく呆然としていた。
すると、敷地の外で待っていた彩音が二人を見つけるなり駆け寄ってきた。
「シュウ君、タケル君!大丈夫だった?」
「……ああ」
シュウとタケルは生気のない顔で彩音を見ると、小さく頷いた。
「こ、琴音ちゃんは……?」
彩音は少し息を乱しながら二人の傍まで来ると、躊躇いがちに問いかけた。
それに対し、僅かに沈黙したのち、タケルがゆっくりと口を開いた。
「琴音は、もう……戻ってこない」
タケルの声は微かに震えていた。シュウは歯を噛みしめて俯いている。
「……っ!」
その言葉を聞いた瞬間、彩音は息を呑んだ。
琴音はもう源氏派のビーダーになってしまった。どう足掻いても今ここで出来る事は無いのだ。
それ以上、三人は特に何もしゃべる事はなく。
まるでお通夜の帰りのような空気のまま帰路についた。
あれから一週間が経った。
琴音からは何の音沙汰もない
タケルもシュウも彩音も琴音の事を積極的に話題に出そうとはしなかった。
そして、仲良しファイトクラブの練習場は激しいバトルの音が響き渡っていた。
「「うおおおおおお!!!」」
タケルとシュウが練習用の台でブレイクボンバーをしていた。
カンッ!カンッ!!と鈍い音を立てながら黄色いブロックがはじけ飛んでいく。
「はあぁぁぁ!!」
バキィ!!
レックスが端っこ二つの赤ボムをぶち抜く。
「よし!」
「くそっ、負けるかっ!」
バキィ!!
シュウも負けじと端っこ二つの赤ボムをブチ抜いた。
「やるな、だがっ!」
ブレイグが端二つの赤ボムを抜いた隙にタケルは素早くリロードして真ん中の赤ボム目掛けて撃つ。
「俺の勝ちだ!!」
タケルのショットが真っ直ぐ赤ボム目掛けて進んでいく。
「させるかっ!」
バシュッ!!
わずかに遅れてシュウも赤ボム目掛けてショットを放った。
スタートが遅れたシュウだが、初速の速いブレイグのショットはどんどんレックスのショットに追いついていき、赤ボムに同時にヒットした。
二つのビー玉が弾かれる。
「くっ!」
しかしシュウのショットの方が威力があったのか、僅かに赤ボムがタケル側へと移動するのだが、抜くまでには至らなかった。
「決まらなかった……!」
「まだだ!」
「えっ!?」
キュルルルル!!
弾かれたはずのレックスのショットがフィールド上でうねりを上げている。
ドライブ回転がまだ生きていたのだ。
バッ!
フィールドを蹴ってレックスの放ったビー玉が再び加速を取り戻して赤ボム目掛けてブッ飛ぶ。
カンッ!!
しかし、さすがに威力がかなり落ちているので赤ボムの位置を初期位置に戻した程度で決め手にはならなかった。
「っぶねぇ……!」
冷や汗を拭うシュウ。しかし……。
「その程度で隙を見せるな!」
決め手にならない事は最初っから想定内だったのか、その隙にリロードしたタケルが素早くショットを放った。
「しまっ!」
ドライブショットに気を取られていたシュウは完全に出遅れてしまった。
慌ててパワーショットを放つがもう遅い。
ガキィ!!
レックスのショットが赤ボムをブチ抜き、そのあとにブレイグのショットが抜かれた後の赤ボムを弾き飛ばした。
「くそっ!油断してた……!」
「シュウ。バトルが完全に終了するまで一瞬でも隙を見せるな」
息絶え絶えなタケルに窘められ、同じように体力を消耗しているシュウは肩で息をするのと同時に返事をした。
「あぁ、サンキュ……もう一回やろうぜ!」
「一回と言わずに何度でもやるぞ!」
フィールド内にブレイクボンバーの準備が整えられる。
「「レディ、ビーファイトォ!!」」
再びフィールド内にビー玉の嵐が吹き荒れた。
二人とも、全身から汗を拭きだし、息も乱れきっているというのに、ペースを落とそうとはしない。
源氏タワーでの琴音救出失敗から、毎日のようにこんな激しい練習を繰り返していた。
もちろん、ただ自棄になって、何の考えも無しにこんな無茶な練習をしているわけではない。
(次にことねぇに会えるとしたら、ジャパンビーダマンカップの決勝トーナメントだ)
(今の俺達にとって、チャンスはそこしかない!言葉では説得できなかったが、バトルをすれば……!)
(ことねぇもビーダーなら、ビー魂をぶつけ合えば絶対分かってくれる!)
((何がなんでも、決勝トーナメントは負けるわけにはいかねぇ!!!))
言葉には出さないが、タケルとシュウの想いは一つだった。
つづく
次回予告
「いよいよJBCの決勝トーナメントの日が近づいてきた。
決勝は、二週間かけて全国各地で行われるという大規模なものだった!
次回!『決勝トーナメント開幕!巌流島の戦い!!』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」