第29話「GFCサマー開催!平等の支配者達」
どこかのご家庭のテレビモニターには、よくある特撮番組が映されていた。
全身黄色い姿をした巨大ヒーローが街を破壊する怪獣と取っ組み合いのプロレスをしている。
「レイドロー光線!」
黄色い巨人が叫ぶと、腕を十字にクロスしてそこから光線を放ち怪獣へ浴びせる。
バゴォォーーーン!!!
ヒーローの必殺技を受けた怪獣は瞬く間に大爆発してしまった。
「ジュワッ!」
怪獣の爆散を見届けたヒーローは一息付いたのちに大空へ飛び立っていった。
空を飛ぶヒーローをバックにナレーションが流れる。
『こうして、レイドロンの活躍によって今日も地球の平和は守られた。ありがとう、レイドロン!そして、ありがとう!』
ナレーションが終わると画面の右下に『つづく』と文字が出て画面は転換した。
『プレゼンテットバイ……セレスティア』
画面が変わると、今度はクールでスマートな雰囲気の画面と共に低くカッコつけたような男の声が聞こえる。
どうやらあるメーカーの新製品CMのようだ。
『ついに登場!君の本能を、刺激する!より、パワフルに!より、スマートに!もう、これ無しでは考えられない!』
抽象的な言葉、抽象的な映像。オシャレ感を意識したメーカーによくありがちなPVだ。
『フリックスが、変わる!イクヲリティーが、変える!』
最後に新製品の全容が映し出される。
それは、セレスティアフリッカー達が身に付けているガントレット、イクヲリティーそのものだった。
翌朝。
いつものように達斗は翔也と登校し、教室へ向かうまでの廊下を歩いていた。
「そういや観たかよタツ、昨日のCM!」
「……うん。イクヲリティー、ついに発売したんだね」
「やっぱGFCサマーに間に合わせてきたな。変な事にならなきゃいいけど」
「でも、何が来たって僕らは僕らの戦い方で勝つだけだよ!」
「そうだな」
そんな取り止めのない話をしながら教室の扉に手を掛けると、中からいきなり怒号が響いた。
「おまえらっ、ふっざけんなよ!!!!」
その迫力に達斗はビクッとする。
「え、なに?」
「シチベエの声だ!」
急いで扉を開くと、中ではシチベエを先頭に複数人のクラスメイト同士が対峙していた。
シチベエが対峙しているクラスメイトの手にはイクヲリティーがあった。
「っ、イクヲリティー……!」
達斗が思わず反応する。
「そんなもん買いやがって!お前らそれでもフリッカーかよ!!」
「なんだよ、俺らの勝手だろ!」
「売られてるもん買って何が悪いんだよ!」
「俺らはそいつを付けてるフリッカーに機体壊されたんだぞ!」
「だからなんだよ?関係ないだろ!」
白熱しているが、どうも話は平行線のようだ。
「なぁ、どうしたんだ?」
翔也が近くにいるガクシャへこそっと声をかけた。
「それが……さっきフリックスの話してたら、中居君達のグループに話しかけられてね」
「中居、ってフリックスやってたっけ?」
中居のグループはバスケ部に所属しているイケイケグループだ。
「いや……その、昨日イクヲリティーが発売しただろ?それでフリックスに興味持ったらしいんだけど……その事を知った途端、シチベエ君が……」
ガクシャが困ったようにまだ吠えているシチベエに目を向ける。
「なるほどね……」
それで大体の察しはついた。クラスメイトがイクヲリティーを買った事を知った瞬間、ブチキレたのだろう。短気なシチベエらしい反応だ。
「正直僕もシチベエ君の気持ちは分かるんだけどね」
「それは俺達だってそうさ」
「やっぱり、買ってる子はいるんだね……」
身近なクラスメイトにイクヲリティー購入者がいた事に、達斗と翔也はショックを受けた。
「シチベエちゃん、もうやめなよぉ〜。僕達クラスメイトなのにケンカは良くないよぉ〜!」
穏やかな性格のムォ〜ちゃんがシチベエと中居の仲裁に入る。
「けっ、こんな奴クラスメイトでもなんでもねぇや!」
「あぁ、俺もこんな奴クラスメイトとは思わないね」
そう吐き捨てて二人はそっぽを向いて離れていった。
「……クラスメイトでは、あるんじゃないかなぁ」
その様子を後ろからビクビクしながら眺めていたモブ太は、誰にも聞こえないような声で恐る恐るそう呟いた。
……。
…。
放課後、サマー大会も近いと言う事で達斗と翔也は段田ラボに赴き、シオンとクオンと四人でバーチャル空間でアクチュアルモードのバトルロイヤルの練習をしていた。
「頑張って!ロデオカストル!!」
「いけ!ボクサーポルックス!!」
アクチュアル空間なので、シオンとクオンは分離してそれぞれで機体を操っている。
「いっけぇ!フラッシングクエーサー!!」
「ブライテンオービット!!」
達斗と翔也は必殺技を繰り出してボクサーポルックスとロデオカストルを撃破した。
練習終了し、四人はバーチャル空間から出て一休みする事にした。
「ふぅ、フラッシングクエーサーの精度はかなり上がったなぁ。動体視力が付いてきた気がする」
「これも二人が調整に付き合ってくれたおかげだな」
「僕のボクサーポルックスと姉さんのロデオカストルで特訓してるんだ。当然だね」
「い、いえ、その、きょ、恐縮です……!」
アクチュアルを解除するとシオンとクオンはまた一つの身体に戻り、入れ替わりながら会話する。
「しっかし未だ慣れねぇな、それ」
バンやリサ、伊江羅博士もやって来た。
「お疲れ様。飲み物持って来たよ」
リサがジュースの入ったコップを乗せたお盆を机に置いた。
「「「ありがとうございます」」」
四人(三人)はお礼を言ってそれを受け取り、喉の渇きを潤した。
「いよいよサマー大会か……セレスティアの奴らが表に出てから初めての公式戦だ。イクヲリティーも発売しやがったし、何仕掛けてくるか分からねぇぞ」
「ウチのクラスでも結構買ってる子いましたね」
「それでちょっと、喧嘩みたいな事にもなっちゃって……」
「マジかぁ。実際どんだけ売れたんだろうな……」
「それは、大会でハッキリするだろうな」
大会前に発売した新製品。当然参加するフリッカーは装備して来るだろう。
「何にせよ、奴らの動きには十分注意しろよ!」
「「はい!」」
バンの忠告に、達斗と翔也が答えた。
「が、がんばってください!二人とも!」
「うん!……って、シオンはやっぱり大会には出ないの?」
「そりゃ、わざわざ身を危険に晒す事はないからね」
シオンに代わってクオンが答えた。
「そ、その代わり、私とクオンでしっかりサポートします!」
「サンキュー。正直ボクサーポルックスやロデオカストルはFUGBの練習にピッタリだからな。最近のGFCは動くターゲットも多くなったし」
「ターゲット扱いなのは引っ掛かるけど。役に立ってるなら幸いだよ」
またクオンに入れ替わる。忙しい。
「それにしても、電動で自在に動き回る機体、か……」
伊江羅博士がクオン(シオン)の持っている機体を眺めながら意味深に呟いた。
「どうしたんだ?」
「いや、赤壁ユース大会の時に見た5機のセレスティア機体とここ最近報告された5機……これらから、一つの設計思想が見えて来ると思ってな」
「設計思想?」
「バネギミックパーツの射撃、フライホイールによる押し出し、テコの原理を利用したピンチング、可動変形と毒針、サスペンションタイヤの機動性能……と、セレスティア機体のギミックはある共通点がある」
「共通点……?」
「あ、どれもシュートパワーがいらない……!」
翔也の気付きに伊江羅博士は頷いた。
「そうだ。フリッカーの身体能力による結果の振れ幅を減らし、イクヲリティーの指示で試合をコントロール出来るようなコンセプトになっている」
「言われてみれば……」
「だが、それでもまだ人力の範疇だった。しかし、ここ最近の5機は電動、遠隔操作、スクリューによる水中戦にクラインの壷を応用した貯水機能、そして自動変形……より一層フリッカーへの依存を減らしているように思う」
「つまり、コンセプトが進化したって感じか」
「やっぱり、元アイドルメンバーやそのファンクラブ会員が使うからかな?」
アイドルの女の子にその追っ掛け……どう考えてもアスリートのようなシュートパワーは望めない人選だ。となれば使わせる機体もそれに合わせた方がいい。
「でもよ、強いフリッカーチーム作るって時にそう言う連中をスカウトするか普通?」
バンが疑問を口にする。
「確かに」
「メイたんからいろいろ事情聞いてたから、サインスターズとフリックスは無関係ってわけじゃないのは分かるけど、それでもわざわざ組織の主力メンバーに選ぶのは変ですね……」
翔也の疑問に、伊江羅博士が答える。
「むしろ、だからだろうな。セレスティアの掲げている標榜をアピールするには、フリックスに向いていなければいないほど良い」
「なんでだよ?」
「奴らの目的は『全てのフリッカーが平等なパラダイスの実現』だ。となれば、一見フリックスに向いていない人選で高い成果を得られた方が外部へのアピールとして強い」
様々なタイプの少女がいるアイドルグループ、そして男の中でもホビーバトルとは無縁そうなアイドルの追っかけ……そんな彼らでも
ら平等な成果を得られるフリックス、それこそがセレスティア機体の設計思想なのかもしれない。
「なるほどな」
「まぁでも、向いてない子でもフリックスを楽しめるってのは、悪い事じゃないと思うけど」
「う、うん」
誰でもフリックスを楽しめる、それは一見すると理想だ。
「だがこのまま進めば、バンキッシュパンデミックなど比較にならない事態になるだろう」
「な、なんだよそれ?」
バンキッシュパンデミックとは、かつて最強の機体を市場流通してしまったせいで環境の多様性がなくなりフリックスというコンテンツそのものを衰退させてしまった事態だ。
運営上層にとって最も苦い歴史であるのだが、伊江羅はそれ以上の危惧をしている。
「奴らの思想が進んだ未来……それは、フリッカーが不要になる世界だ」
「っ!」
一同息を飲んだ。
「まさか、そんな」
「フリッカーが不要になるなんていくらなんでも」
「飛躍しすぎだろ」
「……そうだな。これはあくまで俺の陰謀論でしかない。だが、実際に奴らの機体がそれに近しい方向へ進化しているのは事実だ」
少し間を置いたのち、シオンがおずおずと口を開いた。
「な、なんとなく、分かる気がします……」
「え?」
「そ、そっか、シオンならセレスティアでどんな事をしてたのか分かるもんね」
「聞かせてもらえるか?」
シオンはゆっくりと話し始めた。
「わ、わたしがスカウトされたのは、他の皆よりも、少し後なんですけど……その、最初の1週間くらいは皆と普通に共同生活をするだけで、と、特別な事は何もしませんでした」
「共同生活……」
「特殊な訓練とかしなかったんだ」
「は、はい。それから、セレスティアの思想を学ぶための座学をやるようになって……あとは、身体測定や健康診断も、本格的な機械を使って徹底的にやりました」
「訓練はしないのに、測定だけはきっちりやるんだ……」
「そ、それから、アンケートもいっぱい書かされました。出身地とか、趣味とか、好きな食べ物、とか……」
「女子小学生の交換手帳か」
「あ、あはは、懐かしいですね。……それから、しばらくしてプロフェッサーFからロデオカストルとボクサーポルックスを渡されたんです」
「ふーん、なんか妙な組織だなぁ。てっきりもっとこう、過酷な訓練させたりとか、特殊な機械で身体強化とかしてるのかと思ったのに」
「昔の遠山フリッカーズスクールじゃないんだから……」
シオンの話を聞いてバンが呟くとリサが突っ込んだ。
「なるほど、これでハッキリしたな」
「何がだよ?」
「セレスティアはメンバーに一切手を加えず、完全にニュートラルな状態でフリッカーにしたと言う事だ。そのために普遍的な日常生活を送らせ、徹底した測定とアンケートでパーソナルデータをAIに学習させてそれぞれに向いている機体を開発した。努力を強いると平等ではなくなるからな」
「……て、徹底しすぎてて気色わりぃな」
バンがドン引きする。
「努力せずに、平等に……」
「なんか、おもしろくないですね、それ」
達斗と翔也も批判的な態度を示す。
「わ、わたしもっ!……わたしも、そう、思います……!」
シオンも強く声を上げた。
「シオン……」
「セレスティアからもらった機体ですけど、で、でも、私の力で、もっともっと強くなれるようにしたい!フリッカーが不要なんて、そんな事言われないくらいに!」
「あぁ、シオンの言う通りだぜ!努力もフリッカーも不要な世界なんて冗談じゃない!」
「うん!そのためにも、サマー大会は絶対にセレスティアに勝とう!!」
「おう!!」
達斗と翔也はますます闘志を燃やすのだった。
「でも忘れるなよ?今度の大会、敵はセレスティアだけじゃねぇって事」
バンが神妙な顔で忠告して来る。
「え、まだなにか?」
「新しい敵ですか?」
バンがゆっくりと口を開く。
「それは……」
「「それは?」」
「暑さだ!!!」
ドドンッ!
バンはドヤ顔で宣言した。
……。
…。
サマー大会当日。
「あーーーー、涼しいーーーー」
「生き返るなぁーーー!!!」
達斗と翔也は市川駅前にある高層ビル『アイリンクタウン市川』の冷房の風を一身に受けていた。
「サマー大会の会場が屋内で良かったよね」
「あぁ、今年の暑さで屋外開催は無理があるもんな」
ここにはバーチャルマシンを50台以上設置している大規模なゲームセンターがあり、そこが今回のサマー大会会場となるようだ。
「会場は全国10ヶ所の指定されたゲームセンター、バーチャルマシンでネットを介して同時にバトルするんだって」
パンフレットを広げてスケジュールのチェックをする。
「一つの会場のエントリー人数は50人だから、同時に500人でFUGBやるのかぁ。よくサーバー落ちないな」
「でも、複数会場で同時に戦えるなんてバーチャルならではだよね」
「だな。そろそろ時間だし、エントリー行こうぜ」
「うん」
達斗と翔也は受付でエントリーを済ませて、指定された番号のバーチャルマシンの中に入る。
最初のバーチャル空間は広大で殺風景なエントランスのような場所だった。
ここに多くのフリッカーたちがひしめいている。
「バーチャルとはいえ、500人も集まると圧巻だなぁ」
「うん、人多すぎて知ってるフリッカーも見つからないや」
「そうだな。でも」
翔也が少し険しい顔になる。その視線を追うと、理由が分かった。
参加者の中にはイクヲリティーを取り付けているものが何人かいた。
「……思ったよりいるな」
「うん」
セレスティアだけじゃない。イクヲリティーをつけた一般フリッカーにも注意を払わないといけない。
達斗と翔也は気を引き締めた。
『はぁーい!みなさーん!GFCサマー大会へようこそぉ〜!』
と、そろそろ開会時間になったのか実況者の声が響く。そしてその声には聞き覚えがあった。
「え!?」
「うそ……!」
『初めましてぇ!今回から実況を務めさせていただきます、アイドルフリッカーメイでぇーす!よろしね⭐︎』
バーチャル映像でメイが空中に現れた。
「め、メイたん!?」
「公式大会の実況になったんだ……!」
「そういえば、こないだの中華屋で言ってた大きなイベントってこの事だったのか……!」
『会場はバーチャルだけど、この真夏の太陽に負けない熱い熱いバトルを楽しみにしてますよぉ!!頑張ってくださいね!』
(メイたんの実況……真夏……太陽……サマー)
「プッ」
フイに、フリッカークルーズでの一幕が頭によぎり、達斗は小さく吹き出した。
「なんか変な事思い出してねぇか、タツ?」
「いやいや!なにも!!」
ジト目で見てくる翔也に対して、達斗は慌てて首と手を振った。
『それではサマー大会の説明をしまーす!バトルルールはお馴染みのFUBG!皆さんには、バーチャル世界に作られた無人島を舞台に一斉に戦ってもらいます!』
空中にモニターが表示され、そこに島の映像が映し出される。
『森あり草原あり湖ありのマルチフィールド!フリッカー達はこの島の上空から島に向かってパラシュートで落下!着地した瞬間にバトル開始です!』
「ってことは、スタート地点は皆バラバラになるのか……スカイダイビングの技術で有利な地点で着地出来れば良いけど、さすがにそこは運任せになるよな」
全容の分からない島の一番有利な地点へ落下するのはさすがに現実的では無いだろう。
『プラチナターゲットは島にある洞窟の奥地にあるので、スカイダイビングで直接攻める事はできません!それから、島の各所には[シャングリラ]と呼ばれるエリアがあって、そこではなんとシルバーターゲットが一定間隔で無限に湧き出てきます!無理にプラチナやゴールドを狙わなくても、狩場見つけて占拠すれば安全に得点を重ねる事も出来ますよぉ!』
シャングリラの映像が出る。
銀色のターゲットが倒されるたびに復活して、また倒されて……無限に得点が加算されていく様子が映される。
「シルバーターゲットかぁ」
「プラチナやゴールドと比べると得点は低いけど、無限に湧き出てくるってなると話は変わってくるな」
「プラチナを狙って高得点か、それとも安全な狩場を占拠するか……」
狩猟でデカい獲物を手に入れるか、安全に農耕するか……みたいなものか。
「状況によりけりだな。上手い事シャングリラが見つかればいいけど、そうじゃないなら場所が分かりやすいプラチナに向かって一発逆転を考えた方が良いし。どちらにしても他フリッカーとの陣取り勝負に勝たないとな」
「そうだね」
『大会スケジュールは、午前の部が10時〜12時まで、1時間休憩を挟んで13時から午後の部を行なって、その合計得点で勝敗を決定します!』
「二部構成かぁ」
「純粋なFUGBでのポイントだけで勝敗を決めるのは初めてだな」
『いつもと同じように、撃沈されても回復アイテムがあれば復帰出来ますが、今回はバーチャルなのでペナルティとして島の端まで転送されちゃいます!しかも一定時間のロスタイム付きで!いつも以上に撃沈には気をつけなきゃダメですよぉ!』
「って事はターゲット撃破やステージ攻略だけじゃなく、フリッカー同士のバトルも重要になってくるな」
「相手を撃破出来れば得点は高いけど、撃沈された時のロスも大きいのか……!」
『それでは、大会開始まで10分!しっかりと準備を整えておいてくださいね!!』
……。
…。
そして、サマー大会午前の部開始となる。
全フリッカー達は天高くに放り出される。
「うわ、バーチャルって分かってるけどちょっと怖いなぁ……!」
達斗は慣れないスカイダイビングに戸惑いながらもパラシュートを開いた。ある程度はプログラムで制御されているのでここで事故を起こす事はなさそうだ。
達斗はだだっ広い荒野エリアに着地した。
運がいいのか悪いのか、周りにはフリッカーがいなかった。
しかし、そこかしこにターゲットが点在している。
「よーし、とにかく得点を稼ぐぞ!いけ、スプリントヴァーテックス!!」
達斗はスプリントヴァーテックスをスケールアップさせて近くにあるターゲットを一気に吹っ飛ばした。
他のフリッカー達も各々のやり方で得点を稼いでいく。
「忍べ!ヴォルテックNINJA!!」
シュンッ!ドゴォォ!!!
翔也は黒頭巾に身を包んだ少年に奇襲を受けていた。
「うぉっと!」
間一髪で交わしたが、その威力は地面を抉るほどだった。
「すげぇ威力……シュートポイントからフロントまで一本のぶっといボルトで繋がってるからか……!」
「次ははずさん」
「それならこっちは!いけぇ!ローレンツオービット!!!」
翔也は得意の磁場を纏ったスピンシュートで相手のボルトの磁力を利用して変幻自在に翻弄した。
「な、捉えきれない……!!」
バーーーン!!!
あっけなくスピニングエイペックスがマインヒットを決めていく。
「くっ、ここは撤退が吉だ」
撃沈されてはたまらないと黒頭巾少年は素早く機体を回収して去っていった。
……。
「頑張れ!グランドパンツァー!!」
タダシは堅実に目の前のターゲットを撃破して得点を獲得していく。
……。
「インスタントフィールド展開!やれ!イソノ三式!!」
「フクダ弍式!!」
「イササカ壱式!!」
バシュウウウウウ!!!
「耐えろ!リベリオンポラリス!!」
寺宝タカシはテンセグリティバリアを更にパワーアップさせたリベリオンポラリスであらゆるフリッカー達の攻撃を完全にガードしている。
「なにぃ!?なんてガードだ……!!」
「テンセグリティバリアの素材をTPUにして正解だったなぁ」
……。
『サマー大会はまさに群雄割拠!皆それぞれのやり方でどんどん得点を加算していきます!でも、回復アイテムを獲得していない序盤で撃沈してしまうと復帰が難しいので気をつけてくださいね〜!』
機体のHPは回復アイテムがなくても時間経過で回復するが、撃沈した場合は回復アイテムのリザレクトジュエルを使わないと復帰出来ない。
各ジュエルは、華麗なプレイをしたり視聴者から得られるマニーで購入しないといけないがマニーが溜まっていない序盤に撃沈されてしまうとリタイアするしかなくなる。
そんなメイの実況を聞きながら、また別のエリアでは不動ガイと5人の少年達が対峙していた。
「ガ、ガイさん!いきなり逢えるなんて光栄です!自分達とガチで戦ってください!!」
5人はスプリング大会にも出てきたガイのファン『ゼニス軍団』だ。
「……良いのか?保険も無しに」
当然、まだマニーが貯まってないのでここで撃沈されればそのままリタイアになってしまう。しかし、ゼニス軍団の目に迷いはない。
「覚悟の上です!」
その覚悟を受け取り、ガイは頷いた。
「良いだろう。インスタントフィールド!」
フィールドを展開して場外判定が環境を整えたのち、ガイとゼニス軍団は機体を構える。
バシュッ!
そして、一斉にシュートした。
「「フォーメーションアタック!!!」」
5体のチープゼニスがV字に並んで突っ込んでる。
「ふん、軽いっ!ニュートロンプレッシャー!!!」
バゴォォォォ!!!!
それに対して、ガイは必殺技を繰り出してたった1体で5体全てのチープゼニスを一撃で吹っ飛ばし、全て場外へ叩き出した。しかもオーバーディスタンスで一撃KOだ。
「い、一撃で……!」
「悪くない隊列だ。相手が俺でなければな」
超重量で面で押し出すマッシブゼニスにとって、固まって突っ込むチームゼニス軍団はただのマトでしかないのだ。
「こ、これが、マッシブゼニス……」
「か、勝てる気がしない……!」
「「「くぅぅぅ!!最高ォォォ!!!」」」
ゼニス軍団はガイの新型機の強さをこの身に受けて撃沈した事で最高の幸福感を味わっていた。
「ふん」
ガイはそんなゼニス軍団は気にかけず次なる獲物を求めてその場を去る。フリップスペル『ミステリーウェイト』を所持しているせいでバリケードを使えないので機体を回収するしかない。
これでかなりの得点を得ただけでなく、マニーも貯まったので撃沈しても回復できるようにはなった。端末を操作してアイテムを購入しつつ、歩みを進める。
『さぁ、現在のトップは序盤からいきなり5人のフリッカーを撃沈させて高得点を獲得した不動ガイ君!さすが、新型のマッシブゼニスの力が炸裂です!!』
「ここは」
そして、ガイは他とは違う淡い光に包まれたエリアに辿り着いた。
そこでは、まるでモグラ叩きのように地面からシルバーターゲットが次々に生えてきている。
「なるほど、これは僥倖だ」
ガイがターゲットを撃破するためにゼニスを起動させようとしたその時だった。
バシュンッ!!
どこからか超自律兵器によるレーザー光線が飛んできた。
「っ!」
ガイは咄嗟にマッシブゼニスを起動してレーザー光線を受ける。
危なかった。機体を起動させていない状態で身体に攻撃を受けたら、ダイレクトヒットで一発撃沈だ。せっかく購入したリザレクトジュエルを無駄に消費してしまう事になる。
「ほぉ、さすが不動ガイ。大した反射神経だね」
「貴様……!」
攻撃が飛んで来た方を向くと、そこにはマイティバリオンを超自律兵器形態ビーストモードにしている宍戸レイナと、その周りにはセレスティアフリッカーのエリ、トウキ、クレア、サリア、マサノブがレイナを守るように立っていた。
「この狩場はあたい達のもの。大人しく消えてもらうよ」
「ふん、徒党を組まねば戦えない軽いものなど俺の敵ではない」
「戦いは数だよ。そんな基本的な事も分からないあんたこそ、軽いじゃないのかい?」
「ほざけ……インスタントフィールド!」
ウェイトタイムが経過したのでガイはインスタントフィールドを展開する。
(敵は6体……周りの奴らはあの女を守るように動くだろう)
ガイは赤壁ユース杯でスーパーノヴァトルネードが5体のフリックスを一度に吹き飛ばした事を思い出した。
(ふん、軽いな!)
達斗と翔也が5体吹き飛ばせるなら、自分は6体一気に飛ばすなど造作もない。
ガイは自信を持って必殺技シュートを放つ。
「ニュートロンプレッシャー!!!」
バシュウウウウウ!!!
力を込めた拳のシュートが凄まじい轟音を立てながら真っ直ぐにマイティバリオンへと向かっていく。
「エリ、マサノブ!」
レイナは動じる事なく、エリとマサノブへ指示を下した。
「はいはい」
「いけっ、シュラーフアリエス!」
エリは気だるげに、マサノブは小さく頷いてからそれぞれの機体をマイティバリオンを守るようにシュートする。
ガッ!!!!!
三体の激突で衝撃波は走った。しかし、十分な手応えがなかった。
それもそのはず、エリのフルードジャッグとマサノブのシュラーフアリエスの2体によってマッシブゼニスのシュートは完全に阻まれてしまっていたからだ。
「バ、バカな……たった2体で俺のシュートを受け止めただと……!」
「私のフルードジャッグは中に溜めた水がダンパーになるから防御力だけは自信あるのよね。それでもシュラーフアリエスがいなかったら厳しかったと思うけど」
水瓶座機体らしく液体を溜めた袋であるフルードジャッグと牡羊座らしく羊毛スポンジで全身を包んでいるシュラーフアリエス、防御に特化した2体によってマッシブゼニスのパワーは封殺されてしまったのだ。
「上出来だ、二人とも。さぁ、次はこちらの番だ」
そうこうしているうちに、マイティバリオンのウェイトタイムが経過してアクティブフェイズとなる。
マイティバリオンの口にエネルギーが溜まり、放出される。
バシューーン!!!
超自律兵器の強射撃をモロにくらい、マッシブゼニスはかなりのダメージを受ける。
「くっ!」
とは言え、それでも撃沈には程遠い。次のアクティブフェイズで反撃すれば……。
「マサノブ、角笛だ。奴を眠らせろ」
「はい」
重いゼニスはウェイトタイムが長い。先にアクティブフェイズとなったシュラーフアリエスはレイナの指示でボディ内部に格納された小さな笛のようなパーツを取り出す。
その先端にはクリップが付いており、それをマッシブゼニスのシュートポイントに取り付けた。
所謂毒針という奴だ。これで次からマッシブゼニスは取り付けられた敵機のパーツの位置をズラさないようにシュート準備をしなければいけなくなる。
つまり、実質シュート準備の向き変え変形ができなくなってしまう。いや、それでもゼニスはマイティバリオンの方にフロントを向けている。向き変えなどしなくても攻撃は可能だ。
「ブルルルル!!!」
今度は牛見トウキがランブルブルを走らせて、マッシブゼニスの向きを変えるように横を掠めた。
重たいゼニスだが、フライホイール内蔵のランブルブルのトルクなら向きを変えるくらいは出来るようだ。
これによって、ゼニスはバリオンとは違う方向を向かされてしまう。シュート前の変形向き変えが出来ない以上、ガイは攻撃手段を失ってしまった。
これでは、もうやられるのを見ているしかない。
「哀れだな、不動ガイ」
「ぐ……っ!」
バーーーーン!!!
身動きを封じられた状態で嬲られてマッシブゼニスは撃沈してしまった。
幸い、復帰のためのアイテムを買ったのでリタイアではないが。撃沈してしまったペナルティによってガイは島の端まで転送されて一定時間動けなくなる。このロスはデカすぎる。
『なんとぉ!この序盤であの不動ガイ君が宍戸レイナと彼女が率いるフリッカー軍団の連携によって撃沈されてしまいましたぁ!!リザレクトジュエルを獲得しているので復帰は可能ですが、これは大きなロスです!!挽回は出来るのでしょうか!?』
ガイの訃報(?)を聞き、達斗と翔也はそれぞれ別の場所で驚愕する。
ガイがやられた映像も上空に映し出される。
「え、ガイが……!?」
「多勢に無勢とは言え、あのガイを倒すなんて……やるな、宍戸レイナ」
そして、ガイがいなくなった事でレイナはイクヲリティーの通信機能を使って指示を出す。
「さぁ、機は熟したよ!これより全イクヲリティーフリッカーへ狩りの指示を出す!!あたいに従いな!!!」
さすが、芸能界にいただけあってその声は凛と張っておりカリスマ性に溢れていた。
その指示を聞き、各フリッカー達は一斉に動き出す。
「ワオ!いよいよデースね♪」
フレイヤは湖に潜り、水中のターゲットを撃破していく。
「けっ、ようやくかよ」
テルもターゲットを次々と射撃する。
そして、イクヲリティーを付けた一般フリッカーにもその指示は届いていた。
「よーし、この通りに動けばいいんだな。いっけぇ!グリーンアッパー!!」
「アタックチキン!!」
「ブラックカリバー!!」
それぞれ個性豊かな機体に個性あるやり方でターゲットを撃破していくのだが……にも関わらず何故か無個性な機械的な動きにも感じられて不気味だった。
『さぁ、不動ガイ君がまさかの撃沈によって一位から転落!代わりにトップへ踊り出たのは……え、えぇぇぇ!!!???』
実況するためにメイは各フリッカーの得点をチェックするが、そのあまりに歪な成績に素っ頓狂な声を上げてしまった。
『あ、そんな、うそでしょ!?え、えと……し、失礼しました!ガ、ガイ君の代わりにトップに出たフリッカーは……なんと、100人!!!100人のフリッカーが全く同じ点数で一位!!!横並びのまま、尚も得点を重ねて101位以下を圧倒しています!!』
メイが動揺するのも無理はない。
100人のフリッカーが同成績で1位。あまりにもありえない状況に、参加していたフリッカー達はただただ驚愕し、狼狽する。
「100人が1位!?」
「しかも、得点を続けてるって、どうなってんだよ!?」
この狙い通りな状況の中で堂々と仁王立ちするレイナは不敵な笑みを浮かべて豪語した。
「これこそが、平等の支配だよ!」
つづく














