flicker’s anthem shoot13「覚醒」
椎奈との戦いを制して、カードを10枚集めた千春。
まゆみとの決戦に向けて歩みを進めていた。
進むにつれて周りの景色は歪み、夢か現か分からない空間へと迷い込んでしまう。
それでも千春は歩みを止めない。まるで、この先に待つ展開を想定しているかのように。
そして、目の前にモヤが現れ徐々に少女の……綾川まゆみの形に変わる。
その姿を認識した千春は立ち止まり、カードを10枚見せた。
「やはりあなたが勝ったのね。待ってたよ」
まゆみは目を細め、心なしか嬉しそうに静かに言うと手を翳した。
すると、二人の間にフィールドが出現する。
二人はフィールドに機体をセットして構えた。
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
バシュッ!
フィールド中央に向かって放たれる二機。
リインバースは真っ直ぐに、ルナルチはスピンしながら突っ込む。
カッ!!
リインバースの掬い上げ刃と薄いボディによってルナルチはバランスを崩しながら乗り上げ、そのまま勢いよくフィールドの角へ向かって突き進む。
「ふふ、まずは自滅ね」
「ルナ=ルチリア!!」
ガッ、ガッ!!
ルナルチは空中で体勢を変え、若干角度をつけながら着地した。
すると、その角度はちょうど地面に対してバックスピンをする形になり、三日月が地面を蹴ってブレーキを掛け、いい感じの距離で停止した。
「っ!」
「先手は貰ったよ」
バシュッ!
千春はスピンシュートしてリインバースのリアへ攻撃、その反射でマインヒットを決めた。
「……この程度?」
「っ!」
まゆみのターン。
まゆみは先程とは比べ物にならないドス黒いオーラを纏った気合いでシュートを放った。
ガッ!ガガガ!!
リインバースはルナルチを掬い上げてそのままフィールド端へと運んでいく。
「っ、耐えて!」
千春は咄嗟にバリケードを構えてそれを支えようとするが……。
「無駄よ……ファールンパニッシュ!」
ルナルチをボディ上部まで掬い上げたリインバースは、そのフロント刃を直接バリケードへ突き刺す。
パキィィン!!
リインバースの鋼鉄の二本剣に直接突き刺されて千春のバリケードは割れてしまう。
「っ!」
リインバースはフロントを迫り出した状態で停止。
ズ、ズズ……!
バリケードがなくなり無防備になったところでルナルチがリインバースの斜面から滑り落ち、場外してしまった。
「強い……!」
「そんなものなの?それとも、贖罪のためにわざと私に負けようとしてくれてる?」
「そ、そんな事!」
まゆみの言葉へ言い返そうとした時。
「お願い……!」
もう一人のまゆみが現れ、祈るような顔で千春へ呼びかけた。
「お願い、私を、私を止めて……!」
涙ながらの懇願。千春はそれに力強く頷いた。
「分かってるよ。……これが、私の願いだから」
そして、両者仕切り直しアクティブの構えを取る。
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
「いっけぇ!ルナ=ルチリア!!」
千春は渾身のシュートで先手を取る。
「よし……!」
「ふふ、でも先手を取ったところであなたにフリップアウトを狙う力はない。マインヒットしたところで次のターンでトドメをさせる。あなたに勝ちはない」
「っ!」
まゆみの言う通り、このターンで決め切らなければ千春の負けは確定しているも同然だ。
千春は盤面を見て、活路を見出そうとする。
ルナルチの目の前にはマインがあり、その先にリインバースがいる。マインヒットは確実。たが、バリケードのない今の状態では次のターンでやれてしまう。
しかも、一か八かのフリップアウトも目の前のマインせいで完全に不可能だ。
だからと言って状況を立て直している余裕もない……。
(どうすれば……!)
何か、何か活路がないか思考を巡らせる。
“ファールンパニッシュ!!”
ふいに、あの時受けた必殺技を思い出した。
ルナルチを掬い上げてそのまま運び出したリインバース……。
「そうか!もしかして!!」
閃きを得た千春はルナルチを構える。
その構えは、いつものスピンではなくストレートの構えだった。
「……付け焼き刃の技で勝てるほど甘くないよ」
「ううん、勝つよ。私はルナ=ルチリアを信じてるから!」
バシュッ!!
真っ直ぐ打ち抜き、マインを弾き飛ばす。
そしてそのままリインバースへ接触、マインヒット。
リインバースの掬い上げボディによってルナルチは駆け上がり、そして頂上に達した瞬間急ブレーキが掛かり停止した。
「っ!」
「これでスタンだよ!!」
スタン……敵機のシャーシの真上に自機のシャーシがかぶさるように停止したら、敵機は次のターン行動ができなくなる。
つまり、千春は連続攻撃ができる。
「まさか、真上に止まるためにわざとスピンじゃなくストレートを……!」
「ここからならマインヒットは確実に狙える」
敵機の真上に乗った状態は、例えマインがフィールドのどこにあろうが関係なく狙える。
まゆみのHPは1。これは詰んだも同然だ。
「あ、いや、いや!やめて!!ちはちゃん!お願い、私を助けて……!!」
負ける事を理解したまゆみは先ほどの冷たい表情から一転して涙ながらに懇願し始めた。
それに対して千春は笑顔で応える。
「ごめんね、まゆちゃん。私、こう見えて……結構負けず嫌いなんだ」
バシュッ!
「いやああああああ!!!」
千春は笑顔でルナルチをシュートし、あっさりとマインヒットを決めた。
するとリインバースは撃沈、まゆみもそれに合わせて断末魔を上げながら消滅してしまった。
「……ごめんね、まゆちゃん」
消えていったまゆみへ小さく謝罪しながら、千春はルナルチを拾った。
「ちはちゃん、ありがとう。私を止めてくれて」
先程現れた綺麗な方のまゆみが千春へと近づき、礼を言う。
「……あなたが、本当のまゆちゃんの人格なの?」
千春のそんな疑問へまゆみはゆっくりと首を振った。
「ううん。あの子もれっきとした私。どんな事をしても助かりたいって言う願いが具現化した存在……でも私は、やっぱりあのやり方は……誰かを犠牲なんてしたくないよ……」
まゆみの瞳から涙が溢れる。
「ごめんね、まゆちゃん。結局私にはあなたを助ける事はできなかった……」
「ううん、ありがとう。これで、これで良かったの」
悲しげに微笑むとまゆみは消えようとする。
「待って!」
それを千春が呼び止めた。
「え?」
「確かに、私にはあなたを助ける事は出来ない。けど、意識体とは言えこうやって話したり出来るんだよね?だったら、もう一回友達になろうよ!」
「友達……?」
「うん!だって、私はバトルに勝ったんだから!叶えてもらいたい願いはそれなんだ。私はいろんなフリッカー達と友達に、ライバルになりたい!」
「ちはちゃん……うん!」
まゆみは満面の笑みで頷いた。
…。
……。
その頃、まゆみの病室。
寝たきりで指一本動かせないはずのまゆみの目尻から雫が溢れ、人差し指が微かに動いていた。
……。
…。
それから、月日は流れ。
千葉県某所の公園で、複数人の男女がフリックスで遊んでいた。
「それじゃ、準備はいい?いくよ!3.2.1.アクティブシュート!」
「いっけぇ!ステラ=ルチリア!!」
「へっ、遅いぜ!プチかませ!!ファランクスドール!!」
バキィ!!
夏樹とアリスのバトル。
接戦だったが、アリスの勝利だった。
「ぐあああ!!!設計は完璧だと思ったんだけどなぁ!」
「へっへっへ、潜ってきた修羅場が違うんだよ!」
悔しがる夏樹を千春が揶揄う。
「夏樹もまだまだだねぇ」
「うるさい!姉ちゃんに言われたくないね!」
「なにをぅ……!」
睨み合う姉弟、そんな千春の服をまゆみが控えめに引っ張る。
「ねぇ、ちはちゃん。次は私達でやろ?」
「あ、うん!そうだね!よーし、夏樹見てなさい!お姉ちゃんが手本ってものを見せてやるんだから!」
「言ってろ」
「じゃ、ドロシーお願い!」
「はいはい」
千春にレフェリーを頼まれ、椎奈はやれやれと言った顔でスタート合図をする。
「3.2.1.アクティブシュート!!」
「いけっ!キセノサイドエンジェル!!」
「負けないよ!ルナ=ルチリア!!」
……。
これは、望みの叶った未来の現実なのだろうか。
それとも、幸福を夢見て眠る少女の幻想か……。
どちらにせよ、少女達の瞳は輝きに満ちていた。
おわり